「まて!」
木の間を猛スピードで駆け抜け、枝から枝へ飛び移りながら、タバサと竜を追う。
「お姉様!あいつ等凄い速度で追ってくるのね!全速力出すのね!」
「まだダメ」
上空から闘夜を見下ろしながら、タバサは誰かと話す。
「誰か他にいるのか?」
「え?」
背中のアンリエッタが驚くと、
「他の声がするので」
「全然聞こえませんわ」
とにかく、まずはあの竜からルイズを離させねば。と闘夜は鉄閃牙の鯉口を切るが、下からだとどう切ってもルイズを巻き込みかねない。そもそもあの高さだと、飛び上がって追い付くのも大変だ。その時、
「っ!」
開けた所から人形達が現れ、闘夜に襲い掛かる。
「ちぃ!」
闘夜は鉄閃牙を引き抜き、斬り捨てながらドンドン進む。
「私も!」
そこにアンリエッタも宝杖を振ると、水が槍を形成し、人形を貫いた。
「このまま一気に抜けます!」
「分かりました」
全員相手にしている暇はなく、人形は無視して、向かう先にいるのだけ倒す。
「このままだと追いつかれる」
「だから全速力出す許可がほしいのねー!」
「ちょっと!離しなさいよー!ってかさっきから竜が喋ってない!?」
ルイズはジタバタ暴れつつ、杖を引き抜くが、タバサは杖を振って小さな氷の礫を作ると、手にぶつけて杖を落とさせる。
「暴れないで」
「暴れるわー!」
ギャースカ叫び、ルイズはまた暴れたその時、
「っ!」
パン!っと空気を弾く音と共に、
「キュイー!」
タバサの竜が悲鳴を上げて、落下し始める。
「なに?」
杖を振って、自分とルイズの落下速度を落として着地。音の方向を確認。遠くに、木の上から狙撃してきた姿を確認した。
(あの距離から撃たれた!?)
タバサは目を細めるその遙か先、木の上から撃ったのは、アニエスだ。
「ふむ。東方からの輸入品という話だが、中々精度がいいじゃないか」
アニエスが持っていたのは、最近流れてきた銃。
火縄銃に似た長銃を担ぎ、アニエスは木から降りて走り出す。
「全く。訓練を終えて、新しく手に入れたこれを何処かで試してみるかと思ってたらミス・ヴァリエールが捕まってるから何事かと思ったが、取り敢えず撃っても問題はないよな」
まさか闘夜とアンリエッタもあの場にいるとは思っていないアニエスだったが、とにかく走る。
「弾込めにいつもの銃以上に時間が掛かるし、長距離を打とうと思ったら慣れがいるが、数を揃えればかなりの戦力にはなるな。ただやはり弾道がブレるな。弾の形状を考えればもっと長距離も……」
いつもの短銃は、かなり近づかなければ適正距離にならないが、これは多少離れていても使えそうだ。
そう思いながら竜が落ちた所に行くと、
「何だトーヤと陛下もいたのか……って陛下!?」
「ど、どうもアニエス」
最初は一瞥したアニエスが、ギョッとしながら振り返った。
「な、何故ここに」
「色々ありまして」
アニエスはクラクラしそうだったが、とにかく今はこっちだとタバサを見る。
「それで、何故コイツがミス・ヴァリエールを連れて読んでいこうとしてたんだ?」
「分からないんですけど、多分学園に現れた奴と繋がってます」
闘夜は鉄閃牙とデルフリンガーを抜き、タバサを睨む。
「ルイズ様を返せ」
「断る」
タバサの返事を聞くが早いか、闘夜は一気に踏み込んで、タバサと間合いを詰める。だがタバサは杖を一振りし、氷の矢を作って射出。
闘夜はそれを薙ぎ払いながら、
「おらぁ!」
鉄閃牙を振り下ろす。それをタバサは体を捻って避け、更に氷の矢を射出。闘夜の体を貫くが、闘夜は止まらずタバサを蹴り飛ばした。
「かはっ!」
タバサは咄嗟に杖でガードしたが、威力を殺せずそのまま後方に吹っ飛ぶ。
「大丈夫か?」
「この程度なら」
フフーンと言う闘夜にアニエスは、
「なら良いか」
「あだっ!」
ボカッと拳骨を落とした。
「なにするんすか!」
「あれほど不用意に突っ込むなと言っただろうが!攻撃を喰らう前提の動きは辞めろと言っただろう!」
「でも魔法使いと戦うなら一気に決めろって」
「それは相手を殺す気でやるならだ!それをしないなら別の手を使え!」
闘夜はタバサを殺す気はない。鉄閃牙の振り下ろしは速度が乗ってなかった。つまり、避けられる速度で振っていたのだ。そして避けたタバサを蹴り飛ばす。まぁ闘夜の脚力で蹴り飛ばしたら、どちらにせよ危ないのだが……
「思いっきり吹っ飛んだから、気は失ったかな?」
闘夜は様子を伺いながら、タバサに近づくと、
「っ!」
タバサは一気に闘夜の懐に転がり込み、杖の先に作った氷の刃を闘夜に突き立てた。
「いっで!」
闘夜が思わず悲鳴を上げ、タバサが離れると、横からタバサの竜が闘夜に体当たり。
「がはっ!」
「トーヤ!」
竜が咆哮を上げる中、タバサは闘夜を見つめ、
「動かないで」
「っ!」
竜の手には、ルイズがおり、タバサはルイズに氷の刃を突きつける。
「動けば殺す」
タバサは、闘夜達を見渡しながらいると、
「ルイズ様をさらってどうする気だ」
「知らない。攫えという依頼を受けただけ」
「依頼ですって?」
闘夜の問いに、アンリエッタは眉を寄せ、
「貴女は、ガリアからの留学生だったはず。つまり、此度の一件はガリアが引いていると?」
「私は依頼を受けただけ」
肯定はしないが、否定もしない。すると、
「取り敢えずまずは全員武器捨てて」
タバサの指示があり、闘夜達は武器を捨てる。
「……」
それでも闘夜は、タバサから目を離さず隙を伺っていると、
「主は大切?」
タバサからの質問に、闘夜は頷こうとしたが少し止まると、
「大切なんてもんじゃない」
まっすぐタバサを見て、その上で言葉を発する。
「何にも変えられない。掛け替えのない大切な人。俺の愛する人だ」
「トーヤ」
思わずルイズは頬を赤らめ、アニエスとアンリエッタも思わず目を逸らす。だが闘夜は気にせず、
「だから傷一つでもつけてみろ」
俺は絶対許さない。闘夜は牙を見せながら、タバサを睨みつけた。すると、
「……分かった」
『え?』
するとタバサが、竜に目配せしてあっさりルイズを解放したのだ。
「あ、え?」
ルイズも思わずポカンとしているが、軽くタバサの杖で突かれて前に出されると、
「飛べる?」
キュイと撃たれた部分がふさがり始めた所を竜が見せると、タバサは竜に乗って、
「ま、待て!」
「なに?」
「なんで」
態々何故ルイズを開放したのか分からないと闘夜がタバサを見ると、
「貴方を私と同じにするわけには行かない。ただそれだけ」
「はぁ?」
訳が分からない言葉を残し、タバサは飛び去ってしまう。
「何だったんだ……?」
訳が分からない。ただ、謎の気持ち悪さだけが残り、闘夜は困惑するのだった。