「スレイプニィルの舞踏会?」
訓練後、部屋に戻った闘夜、ルイズ、シエスタだったが、突然の単語に闘夜は首を傾げる。
「そ、今度あるのよ。学園主催でね。そんで、学園長から闘夜も是非って」
「なんで自分まで?」
「そりゃ英雄様も来たほうが盛り上がるからでしょ」
ルイズの言葉に、闘夜は渋い顔をする。
どこに行ってもそれだ。しかしルイズは闘夜の頭をなで、
「まぁまぁ。そのうち飽きるわよ。今は楽しんでてもね。飽きられるまで楽しんでおきなさい」
「そうですよ。こう言うのは盛り上がるのは最初だけで、すぐ別の噂で消えていきますから」
シエスタが淹れたお茶を飲み、闘夜はうーんと呻きつつ、
「でも俺踊れないですよ?」
「平気よ。元々スレイプニィルの舞踏会は、新入生の歓迎会も兼ねてるからね。食べ物とお酒を手に談笑するくらいよ。それに相手の顔もわからないし」
「どゆことです?」
「スレイプニィルの舞踏会ではね、魔法道具で姿を変えるのよ。だから相手の顔も分からない。あ、魔法道具で変身するから、別に魔法が使えないあなたでもできるから安心しなさい」
ルイズの説明を聞き、それは面白そうだなぁ。と闘夜は素直に思った。
「じゃあ出てみようかなぁ。ルイズ様は出るんですか?」
「そりゃ出るわよ。姿は変えるけど」
「じゃあ一緒にいかないとルイズ様だって分からなくなりそうですね」
闘夜の言葉に、キュピーン!っとルイズは閃き、
「折角だから、別々に行きましょうよ」
「別々に?」
「そ、お互い姿変えて探し合うの。そしたら会場出ちゃいましょ」
ふたりきりで、と暗に言ってくるルイズに闘夜はゴクリと唾を飲む。すると、
「あーお茶が美味しいなぁ!」
『あ』
すっかり忘れられていたシエスタが、お茶をグビグビ飲んでいた。
「やっぱお茶は濃い目に限りますねぇ!」
「あ、えぇとお土産持ってくるので」
「そ、そうね!ていうかシエスタも来る?」
行きませんと言うか行けません!とプリプリ怒るシエスタを宥めるのに、二人が苦労したのは、まだ余談である。
「ふぅ」
一方その頃、書類に判子を押し終えたアンリエッタは、目頭を軽く揉む。
朝から晩まで書類の山に囲まれ、判子を押す日々。流石に疲労が溜まってきていた。
「お疲れのようですな」
「枢機卿」
鳥の骨と揶揄される彼の言葉に、アンリエッタはまた仕事かと思っていると、
「今度トリステイン魔法学園でスレイプニィルの舞踏会が行われます。学園長より、それの出席をお願いしたいと言う打診があったのですが、以下がしますか?」
「ふむ」
正直疲れているのだが、トリステイン魔法学校となれば、ルイズや闘夜がいる。顔を見るチャンスかもしれない。
「分かりました、行きましょう」
「一応言っておきますが、学園に顔を出している間も仕事は溜まります」
「分かってますよ」
考えないようにしてたのに、と出ていく枢機卿の背後に呪詛を送りながら、引き出しを開ける。
そこにあったのは、ウェールズの指輪を手に持ち、
「虚無はまだいる」
闘夜の言葉を思い出す。
虚無は元々、始祖・ブリミルが使っていたもの。そして、始祖・ブリミルは3人の子供と一人の弟子に力を分け与えたと言われている。
それぞれが国を興し、それが今のハルキゲニアに存在する国。
トリステインもまたその一つだ。そしてルイズは、王家を先祖に持つヴァリエール家。つまり、始祖・ブリミルの子孫とも言える。
ティファニアもそう。彼女もウェールズの親戚に当たるので同じだ。
じゃあ残りの2つは?そう考えた時、残るは、ガリアとロマリア。この二つ。
この2つのうちどちらかが、先日刺客を送ったのだ。
許せない。アンリエッタの中で、何かが蠢く。
「もう誰も……私から奪わせない」
アンリエッタの決意は、一人静かに行われ、誰かの耳に届くことはないのだった。