異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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赤目の怪物

「うわ。凄い数だ」

 

ルイズをジュリオに託し、丘の上から下を見下ろしていた闘夜は呟く。

 

「そりゃ7万だからな」

 

一面見渡す限り人人人。と言うか人じゃないのも多数居た。

 

「さて、何時までもここで見てても仕方ないし、さっさと行きますか」

「あぁ!」

 

足に力を込め、鉄閃牙とデルフリンガーを握り締めると、

 

「オォオオオオオオオオ!」

 

一気に走り出す。

 

「隊長!何か来ます!」

「なに?何人だ!?」

「えぇと……一人です!」

「はぁ?」

 

闘夜の存在を視界に捉えた兵士が、隊長に報告する。しかし一人?と隊長が首をかしげた瞬間。

 

「風の傷!」

 

隊長達を、衝撃の波が飲み込んだのだった。

 

一方その頃、

 

「ん……」

 

ルイズは目を覚まし、体を起こすと自身がベットに寝かされていることの気づいた。

 

「起きたみたいだね」

「ジュリオ……?」

 

ぼんやりとした頭でルイズは体を起こすが、直ぐに自分のおかれた状況の違和感に気づく。

 

「アルビオン軍は!?何で私がここに居るの!?」

「君は使い魔君に気絶させられてね。僕が代わりに船まで連れてきたんだ。避難は無事完了したよ」

 

そう、とルイズが安心したのもつかの間で、

 

「ちょっと待って。私が止めてないのに何で間に合ったの!?それにとトーヤは!?」

 

嫌な予感がした。背中をじっとりと汗ばみ、鼓動がうるさいほど脈動する。

 

「アルビオン軍はその使い魔君が止めに行ったよ」

「っ!」

 

ルイズは跳び跳ねるようの起き上がると、部屋を飛び出そうとするが、ジュリオに腕を掴まれた。

 

「離して!」

「今さら行っても遅いよ。ここは空の上だぜ?落ちて死んじまうだけさ」

 

それじゃ彼が浮かばれない。そうジュリオは言うが、

 

「なんで……なんでよぉ!」

 

ルイズは膝から崩れ落ち、床を殴る。何度も殴り、叫んだ。なんで自分の代わりに向かったんだと。それの様子を見ていたジュリオは、

 

「これを言うのは、君を追い詰める行為だと思う」

「え?」

「だがこのまま知らずと言うのは、彼が可愛そうだ。だから教えておくよ」

 

君の事が好きだからさ。ジュリオはそう告げた。

 

「例え自分の想いが君に迷惑をかけていたんだとしても、彼は君が好きだった。だから君の代わりに死地に向かったんだ」

 

ジュリオの言葉に、ルイズは言葉を絞り出す。

 

「迷惑なんて、思って」

「無かっただろうね。だが彼は良くも悪くも素直で単純だ。言われた言葉をそのまま受けとる」

 

ズキン。とルイズは闘夜にいった言葉が脳裏によぎる。

 

「違う、私。トーヤ」

 

首を横に降り、違うと何度も口にする。しかしその言葉は勿論闘夜に届くはずはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風の傷!」

 

初手で風の傷を放った闘夜は、そのまま駆け出すと鉄閃牙とデルフリンガーで敵を薙ぎ倒す。

 

「な、なん……」

 

驚きから困惑し、固まった相手を真っ二つにする。

 

「何者だきさ……」

「はぁ!」

 

ザン!と切り捨て、闘夜はそのまま飛び上がると、

 

「風の傷!」

 

再び風の傷で凪ぎ払う。

 

「相棒!大丈夫か!」

「……気持ち悪い」

 

人を斬る感触も、命を奪うのも気持ち悪かった。だが、

 

「でもここで迷えば、後ろのルイズ様やシエスタ達が危ない」

 

そこに巨大な火の玉が飛んで来る。

 

「俺は全部どっちも大事になんて出来ない。だから、俺は俺の守りたい方だけでも守る!」

 

闘夜はそう叫ぶと、鉄閃牙を握り直し、

 

「爆流波!」

 

爆流波で火の玉を返し、そのまま返っていった爆流波は撃ち手に返り、周りの人間ごと吹き飛ばした。

 

「オォオオオオオオオオ!」

 

闘夜は爆流波で混乱している相手達に、鉄閃牙とデルフリンガーを投げて敵に刺し、地面に落ちていた銃を拾う。

 

フリントロック式の銃は弾が一発しかでない上に、精度は悪い。だがガンダールヴの闘夜が持てば、それは百発百中の武器になる。

 

「っ!」

 

バン!と空気を弾く音と共に、眉間を撃ち抜かれたアルビオン兵が後ろに倒れ、闘夜は続けてドンドン銃を拾って撃っては捨て、拾って撃って捨てるを繰り返した。

 

「散魂鉄爪!」

 

銃がなくなれば、近くの敵を爪で切り裂き、

 

「ハァアアア!」

 

デルフリンガーを敵から引き抜くと、飛んで来た矢をそれで弾いた。何本か体に刺さるが、闘夜はそれを無理矢理体から抜き、更に落ちていた弓を拾い上げ、連続で発射。

 

闘夜の正確無比な矢は次々と眉間を撃ち抜き、

 

「な、なんだあいつ!」

「どけ!おれがやる!」

 

そこに巨体で突っ込んできたのはオーク。巨体のオークの身の丈程の斧を闘夜に振り下ろす。だが、

 

「がぁ!」

 

オークが悲鳴をあげると同時に、腕が切断され、落とした斧を闘夜はデルフリンガーを口に加えてから両手で持ち上げ、軽々振り回し、周りの敵をなぎ倒していく。

 

すると兵士達が距離を取り、盾を手に、メイジの前の集まると矢を防ごうとする。しかし、

 

「しっ!」

 

闘夜は斧を捨て、構え直した弓から放った矢は、盾と盾の間の絶妙な隙間を縫うように撃たれ、その矢はメイジの眉間に命中。隣にいた他のメイジが、その光景に思わず腰を抜かして尻餅をつくと、闘夜も地面に転がり、足元の隙間から撃ち抜いた。

 

「くそっ!」

 

それを見た別のメイジは、背を向けて走り出す。だが、

 

「はぁ!」

 

闘夜は少し狙いを外して矢を撃つと、矢が曲がってそのまま逃げ出したメイジに直撃し、そのまま地面に倒れた。

 

「う、うわぁあああああああ!」

 

そして遂に誰かが恐怖に負け、突っ込んでくる。誰かがそうなれば、恐怖や混乱は伝染し、皆が突っ込んできた。

 

「こい!鉄閃牙!」

 

それに闘夜は鉄閃牙を呼び戻し、振り上げると、

 

「風の傷!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったい何が起きているんだ!」

 

男は叫ぶ。

 

彼の名はボーウッド。先日、タルブ侵略の際にも指揮を執っていた男で、謎の光により撤退を余儀なくされたが、今回の戦いでも指揮を任されていた。しかし、突如行軍が止まり、何事かと思った瞬間全線で爆発。そのまま前の方が混乱し、現在報告を聞いているのだが、未知の怪物・エルフ・謎のメイジにまだ年端のいかない少年と言う報告まである。

 

どちらにせよ、情報が錯綜しすぎていて、何が正しいのかわからない。それどころか数もはっきりしない。

 

だが一つ分かっているのは、長い軍人としての人生の中で、味わった事のない出来事が起ていることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風の傷!」

 

最早数えきれないほど風の傷を放ち、

 

「オォオオオオオオオオ!」

 

人を斬って突いて殴り、爪で引き裂いた。

 

噎せ返るほどの血の臭い。身体中が返り血と汗でベタベタする。

 

だが不思議と体は軽い。元々武器を持っているときはガンダールヴの力の関係で体が軽いのだが、今までとは比べ物にならない。

 

体の奥底から力が湧いてくる感覚。

 

そして感じる。

 

「相棒!後ろだ!」

「っ!」

 

デルフリンガーの声より先に闘夜の体は動き、鉄閃牙で後ろから襲いかかってきた兵士の剣を止め、振り返り様にデルフリンガーで首を切り落とす。

 

「相棒。お前さん後ろに目でもついてんのか?」

「いや……」

 

感じたのだ。

 

後ろから来る音を耳が捉えた。だけじゃない。流れる空気の感覚。そしてそれに乗って来る臭い。

 

闘夜は目を閉じ、その感じる臭いに集中した。

 

「俺の右斜め後ろの男は腰を抜かしてる。左斜め後ろのは剣を構えたまま動かない。右側の敵は俺の隙をうかかがってる。左側のは興奮してる。怒ってるんだ」

「相棒?」

 

ゆっくりと闘夜は目を開き、鉄閃牙とデルフリンガーを握る力を強める。

 

『っ!』

 

ゾクッと周りにいた兵士たちは背筋に悪寒が走ると同時に、闘夜が地面を蹴り、前にいた相手を闘夜が蹴っ飛ばし、鉄閃牙とデルフリンガーでその周りの敵を凪ぎ払う。

 

襲い掛かってくる敵の攻撃を避け、そのまま切り捨てていく。

 

飛んで来る矢も、突き出される槍も、振り下ろされる剣も、闘夜は避けて逆に斬る。

 

元々の妖怪の力とガンダールヴの力もあって闘夜は速いが、今までとは比べ物にならない。

 

「くそ……くそ!」

 

そんな中、誰かが銃を撃った。しかしそれは闘夜に避けられ、別の人間に当たる。

 

「うわああああああ!」

 

それを皮切りに、その場の人間達が次々と銃や弓矢を発射し、剣や槍を振り回し始める。

 

それを闘夜は次々と避け、その拍子に同士討ちに発展した。

 

恐怖は伝染する。一部の混乱は更に混乱を呼ぶ。

 

敵味方が入り乱れた乱戦に発展し、収集が着かなくなっていった。それはそうだろう。元々このアルビオン軍は傭兵も多く、正規の軍も国への忠誠と言うよりは、利益のためにレコンキスタ側に着いた者達が多い。今のアルビオンに心から忠誠を誓っているものの方が少ないのだ。

 

そんな混成軍である今のアルビオンは、ちょっとした混乱がちょっとしたものでは済まなくなる。

 

「相棒!あそこだ!」

「あぁ!」

 

そして闘夜は隊長格の男を斬る。

 

本来であればこの混乱を抑える筈の者が死に、混乱を止める事が出来なくなり更に加速していく。

 

「ば、バカ!やたらめったら武器を振るな!」

「おい!どこに向かって撃ってやがる!」

 

その混乱は何時しか闘夜ではなく、隣の仲間だった筈の者達同士の争いに変わっていき、誰かが叫んだ。

 

「こ、こんなのやってられるか!」

 

傭兵の誰かが言って逃げ出す。そして誰かが逃げ出すと、

 

「ま、待てよ俺も!」

 

と周りが続いて逃げ出し始めた。それが連鎖のごとく続き、武器を捨ていってしまう。

 

「お、おいどこにいく!」

 

勿論それを止めようとするものもいるが、

 

「はぁ!」

「っ!」

 

そうこうしている間に走ってきた闘夜に切り捨てられた。

 

「うわああああああ!」

 

恐怖に耐え、闘夜に襲い掛かるものもいる。だが闘夜に瞬時に切り返される。

 

「何なんだよぉ……」

 

腰を抜かし、闘夜を見つめる兵士は呟く。

 

兵士の目には闘夜が写っていた。

 

()()()をし、()()()()()()()()()()()()()が頬にある、()()()()()()()()()をもった、闘夜が写っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤目の怪物だと?」

 

続々と逃げ出す兵士に苛立っていたボーウッドは連絡を聞き眉を寄せた。

 

様々な情報がこれまで寄せられたが、その中でももっとも多かったのがこの情報だ。

 

獣とか怪物だとかエルフだとか言うのはあったが、その中でも共通してあったのが、赤い目をしていて、獣の髭を表したような隈取りと人間とは思えないほど鋭い牙を持っていたと言うことだった。

 

「一体何が……っ!」

 

そこに、目の前の兵士が斬り飛ばされ、一人の少年が降り立つ。

 

ボーウッドは一瞬困惑した。年端もいかない……見た目だけなら自分の半分も行っていないだろう。だが分かっていた。コイツこそ件の赤目の怪物だと。

 

信じられないことに、七万の軍勢を正面から突っ切り、ここまでやって来たのだ。

 

「敵だ!」

 

ボーウッドが叫ぶと、周りの残っていた兵士達が襲い掛かるが、四方八方から襲いかかるが、飛び上がって避けると地面に向かって、

 

「風の傷!」

 

風の傷で吹き飛ばし、凄まじい速度で走り出し、四方の残った敵を次々と斬り捨てていく。

 

「こちらへ!」

 

するとその隙をつき、部下の一人がボーウッドを馬に乗って引っ張りあげると、そのまま走り出す。

 

「何者だあの少年は」

「分かりません。ですが一度体勢を……」

 

そう言いながら振り返ったとき、部下の男は驚愕する。

 

「なっ!」

 

ボーウッドもそれを見て驚愕した。何故ならこちらは馬を全速力で跳ばしているのに、闘夜はそれを自力で追い掛け、そのまま間合いを詰めると上から鉄閃牙を振り下ろし、馬ごと部下の男を斬った。

 

「くっ!」

 

ボーウッドは、それをギリギリで馬から飛び降りて避けながら、腰から剣を引き抜き、闘夜に斬りかかるが、鉄閃牙の横凪ぎであっさり折られてしまう。

 

「くっ!」

 

しかしボーウッドは気にせず、折れた剣で闘夜の腹を貫く。

 

「らぁ!」

 

とは言え闘夜は気にせずボーウッドに頭突きを叩き込むと、そのまま鉄閃牙で袈裟斬り、続けてデルフリンガーで×になるように反対からの袈裟斬りで沈めた。

 

「そ、そんな……ボーウッド様が」

 

周りの兵士たちは、一番上の者が倒されたことで、二の足を踏む中闘夜はゆっくりと周りを見回し、

 

「オォオオオオオオオオ!」

 

平原に響き渡るほどの咆哮と共に、闘夜は再度走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ」

 

闘夜は地面に大の字になって寝転がっていた。

 

全身が返り血で真っ赤になり、ベトベトするが、既に周りにアルビオンの兵士はいなくなっていた。

 

元々混乱していたが、ボーウッドが倒されたことで完全に収拾がつかなくなり、傭兵は逃亡。残ったのは一部の正規軍と自我を失い、アルビオンに着いたものたちだったが、それも闘夜にやられ行くにつれ正規軍は逃げ出し、裏切り者達は指示を出すものがいなくなったのもあって烏合の衆所か殆ど案山子状態になってしまい、闘夜に斬られて、朝日が上る頃には闘夜だけが立っていた。

 

その闘夜も疲れ果てて、気付けば倒れ込んでいる。

 

「相棒。生きてるか」

「あぁ。全身いてぇけど」

 

あちこち矢が刺さったり、槍で突かれたり、斬られたりもした。

 

「全身ベタベタで気持ち悪いし腹も減ったなぁ……」

 

といっている間に、闘夜はうとうとし始め、そのまま眠りについてしまう。

 

一晩中暴れてたのだから、当然かもしれない。

 

「しゃあねぇか」

 

すると闘夜は寝たまま動きだし、そのまま森に向かって走り出す。

 

「あそこで寝させるわけにも行かねぇし、森の方ならどっかに体洗えるだろ」

 

デルフリンガーがそう呟きながら、ため息をつく。

 

「しかし、何だって吸い込んだ魔法の分持ち主の体を動かせるなんて能力があんのかねぇ」




正直殺すかどうかは凄く悩みました。でもこの話の流れならこっちの方がいいかな……って感じです。

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