(体が……軽い?)
闘夜は驚きながら鉄閃牙を振り上げた。ワルキューレの動きが遅く感じる……元々身体能力は人間の比じゃない……しかしそれを差し引いても体が軽かった……鉄閃牙の能力?いや、そうじゃない……だが闘夜は気付かないが左手のルーンが強い光を発していた……それが力を与えていた……
「クソ!」
ギーシュがワルキューレを突進させた……だが、
「オォ!」
ザン!っと横薙ぎ一閃……それだけでワルキューレは武器ごと断ち切られた……まるで豆腐でも斬るかのように抵抗なく……
ギーシュの顔が絶望と恐怖に歪んだ……ギーシュは恐ろしくなった……妖刀……いや、この世界風に言うなら魔剣なのだがどちらにせよギーシュにとって未知の存在だった……
元々闘夜の……いや、平民の鼻っ柱を折って土下座させれば良かった……それで満足だった……自分の小さなプライドを少しばかり満たせれば良かった……だからこそ運命を逆恨みした……何故こんな相手を出したのかと……
そんなことを考えている間に闘夜が距離を摘めてくる……だがギーシュには杖を降って迎撃することができなかった……恐怖で体がすくんでしまった……
「オォ!」
ザン!っと更にワルキューレを切り捨てる……防御しているのだ……だが防御してもその防御ごと斬られてしまうのだ。
「まだまだ!」
ゴウ!っと言う風を斬る音と共にワルキューレが切り伏せられる……回避すると言う思考はなかった……何がなんでも止めなければあのでかい剣で自分が斬られると言う恐怖が冷静な判断を削いでいた。
「ラァ!」
だが最後のワルキューレが斬られ闘夜がこっちに向かってくる……そして闘夜が飛び上がった……ギーシュの脳裏にはたった一文字……【死】という言葉が浮かぶ……
あんな剣で斬られればひとたまりもない……そんなのは言うまでもなかった……
「ひぃ!」
ギーシュは生物的な本能として眼をつむった……恐怖から逃げたかった……恥も外聞もなく後ろに向かって走り出さなかったのはそれだけでも大したものと言えた……
無論ギーシュはそんなのを気づかない……ギーシュの脳裏には走馬灯だった……生まれた日から……今までのいろんな人生……馬鹿やったりアホだったり女の子に声をかけたり……そして一番は先程ひっぱたかれたモンモランシーだった……闘夜の言う通り謝りにいけばこんなことにならなかったのだろうか……意味のない考えだった……過去は変えられない。変えられるのは未来だけだ……何時だって後悔したときには遅いのだ……
(謝っておきたかった……)
最後にそう思った……調子にのって……でもモンモランシーが一番なのはかわりなかった……思えばそれを言ってあげたことがあるのだろうか……そう言えばない……何時だって愛を囁いてはいたが……行動で示してあげれば良かったのだろうか……あぁ、後になればなるほど思い付く……
(ごめんよ……モンモランシー……)
ギーシュはそう言って自らの人生に別れを捧げ……
「おっらぁ!」
「ギャ!」
ようとしたがその前に額に走った衝撃と痛みにギーシュの目の前に星が飛んだ……
「え?」
フラフラと尻餅をつきへたりこんでしまう……それを闘夜は見ていた……
何をされた?そうか……頭突きを喰らったんだとギーシュはゆっくりと理解した……
「俺の勝ちだろ?」
ギーシュの目の前に立ちながら言うとギーシュは頷いた……全身から嫌な汗が出ていた……
「ほら、勝ちましたよ」
そう言って闘夜は鉄閃牙を鞘に戻しながらルイズたちに言う……だが、
「待ってくれ……」
「まだ文句あるんですか?」
闘夜がブスッとした顔で聞くと首をよこにギーシュは振った……
「何故そのでかい魔剣で斬らなかったんだ?」
実際ギーシュは冷静になれば殺傷性の武器を出すなどどうかしていた……だがそれだからこそ闘夜に斬られたとしても文句言えなかった……だがそしてそれを聞いた闘夜は答える。
「だって斬ったら死ぬじゃないですか」
闘夜は見返せれば良かった……だから別に殺す気はなかった……それを聞いたギーシュは、そうかと頷いた……闘夜はそれを見た後ルイズの前に立つ……
「どうです?平民もけっこうやるでしょ?」
ニカっと笑う闘夜……ルイズやシエスタは肩の力が抜けてしまった……さっきまでの不気味な雰囲気はどこへ行ったのやらだ……
「はぁ……とりあえず闘夜……」
「はい」
もし尻尾があったらブンブン降っていそうな表情だった……しかしルイズは闘夜の髪を掴むと……
「さぁ……部屋に戻るわよ、いろいろ聞きたいし……」
ジロッとルイズに睨まれた……ですよねぇ…
「アッハイ……」
闘夜に逆らうと言う選択肢はなかった……何せルイズの発してた紅蓮のオーラが怖くて怖くて……
「それじゃあメイド、失礼するわ」
「は、はい……」
シエスタに声をかけてルイズは闘夜を引っ張っていく……その光景を見つめるものがいた。
「中々面白いわね……」
「……………………」
見ていたのは今朝方会ったキュルケ……そして眼鏡をかけた小柄な少女だった。
「珍しいわねタバサ、あなたが本を読まないで観戦するなんて」
「変わった剣……」
「そうよねぇ……鞘から抜くと姿を変える魔剣かぁ……そんな魔剣聞いたことある?」
キュルケの問いに眼鏡の少女……タバサは首をよこに振る。
「うふふ……良いかもしれないわね……」
タバサはまた悪い癖が発動したと言わんばかりに本を読み始めた……だが同時に闘夜のことを考えていた……彼女の第六感が警鐘をならしていた……
そもそもあんな巨大な剣を軽々と振り回すだけで可笑しいのだ。それに加え爪やあの動き……明らかに人間じゃない。メイジだったとギーシュは言ったがタバサは違うと思っていた……あれは【化け物】である……オークやエルフとも違う何か……それを持っている何かだと……
「アレはやめた方がいい」
「え?」
そう呟いてタバサは本に眼を落とした……キュルケが……いや、友人が言ったくらいでとなるはずがないことはタバサが一番わかっていた……どちらにせよまだ危険人物だと決まったわけではなかった。
少なくとも喧嘩の発端はルイズを馬鹿にしたことだった。少なくともルイズを主人と呼ぶ辺り主従関係は築けているのだろう。無闇な暴れ方はしないはずだ……ただ、
(少し気を付ける……)
闘夜は自分が気づかないうちに恐らくこの学園の学生で強い順に並べていった場合、上の順位に当たる人物から危険視されていたのだった……
「で?どう言うことよ?」
部屋に着くなり闘夜は正座させられルイズににらまれていた……
「どう言うって……なんですか?」
「決まってんでしょ!あんたのその剣……魔剣だったのね!そもそもあんな馬鹿でかい剣をよく振り回せたわね⁉」
「魔剣じゃなくて妖刀ですよ……俺の妖力に反応するんですけど今回はじめて変化してくれましたよ……」
そう言って闘夜は鉄閃牙に視線を落とした……だがルイズは妖力とはなんぞや?という顔だった。
「妖力って言うのは……まぁ妖怪が持つ力みたいなもんですよ……」
「溶解?」
「ええとですね……要は人間じゃないやつが持つ力です……」
闘夜の言葉にルイズはますます分からなくなった……人間じゃないやつが持つ力?じゃあ闘夜はなんだというのだ?
その謎に答えるため闘夜は頭に巻いているバンダナに手をかけた……本当なら見せずに済ませたかった……だが何れバレる可能性があったことだ……隠しているのも何れ限界が来る。そう思うことにして闘夜はバンダナを頭から外した……
「へ?」
次の瞬間ルイズは眼を点にした……ポカーンと口もなっている……だが仕方ないことだろう。何故ならば闘夜の頭……そこには白髪だけじゃなかった……そこからピコピコと動く物体……その名は犬耳……真っ白な犬耳が闘夜の頭から生えていたのだ。普通の人間なら見ることはない器官が闘夜にはあったのだ……
「こう言うことです。俺は人間じゃないんです。妖怪と人間の間に生まれた半妖……と人間の間に生まれたんです」
「つまりクォーターって言うわけね」
というルイズ……マジマジと闘夜をみる。珍しいものにルイズは眼を奪われた……そして……
「………………気持ちいいですか?」
「……………………っ!」
モミモミと耳を弄くり指摘されると慌てて離れた……よくわからない何かがルイズを動かしていた。
「ど、どうかしらね……」
例えるならパイ生地を固く練ってそれを薄く伸ばしたものを五枚ほど重ねたような感触だった……中々面白い感触である。
「そうですか」
そう言って闘夜は頭をさわった……自分ではそんなに触っても面白くない気がするが……つうか触られるとくすぐったいというか……なんかこうぞわぞわするのだ。するとルイズはなにかを思い付いた表情になる。
「そう言えばあんたってようは平民ではないってこと?」
「そもそも人間じゃないですしね……」
闘夜が言うとルイズはそう言えばそうだったと頭を抱えた……もしかしなくても自分は下手すると平民より厄介な存在を召喚したのかもしれない……まぁ……とりあえずその辺は後々考えよう……それより、
「ねぇトーヤ」
「はい?」
ルイズが闘夜を見つめる……何事かと闘夜がドキマギすると……
「その耳……もう一回さわらせなさい」
今度は闘夜が眼を点にしてずっこけたのは言うまでもない……
「ふむ……あの平民の勝ちか……」
「やはりあれが伝説の使い魔……ガンダールヴでしょう!」
と、オスマン学園長にコルベールは興奮ぎみに言う……
「これは王宮に報告を……」
「それはならん」
コルベールの言葉をオスマン学園長は首を横に振って否定した。
「退屈しておる馬鹿共に戦争の口実を与える気か?」
「確かに……」
コルベールも同意するとオスマン学園長は更に続けた……
「それに……ガンダールヴはあらゆる武器を使い千の軍隊でも相手にならなかったと言われておる……じゃが最初あの男は素手じゃった……しかもパンチ一発でワルキューレを壊しおった……幾らドットのワルキューレとは言え普通では無理じゃ」
「それに途中で抜いたあの腰の剣……鞘に入っていたときはまるで木の枝でしたが抜いた瞬間……」
二人にも記憶にない魔剣……という印象だった……無論世間で言われる魔剣は全てじゃない。未だに伝説上……下手すれば話にも上がらない未知の魔剣も多数ある。その一振りかもしれない……だがオスマン学園長はホッホッホと笑う
「じゃが危険人物ではなかろうて……自分の主人を貶されて本気で怒っていた……いい使い魔じゃ。それに……」
それに?とコルベールが首をかしげると、
「優しい眼をしておるよ。彼は……長く生きとるからの、眼をみればそやつが優しいかどうかくらいは何となくわかるというものじゃ」
と言うオスマン学園長の言葉にコルベールは笑みを返した……
だがこのときは彼らも知らない……今耳をモミモミとルイズにされる闘夜も知らない……闘夜の耳をモミモミとするルイズも知らない……一方的にタバサに話しかけるキュルケも……それを本を読んでいて全く聞いていないタバサも……闘夜の戦いをマルトー達に教えるシエスタもそれを聞いて喝采をあげるマルトー達も……モンモランシーに詫びを入れに行って今度は反対側の頬をひっぱたかれたギーシュとひっぱたいたモンモランシーも知らない……
これは序章だと……いや、序章にもならない始まりだと……伝説の使い魔とその主が織り成す異世界譚の幕開けだったのだと……
それがわかるのは……まだ少し先の話である……
犬夜叉を野犬、殺生丸を孤高の一匹狼とした場合は闘夜は忠犬・ハチ公といった感じですかね……
と言うわけで一章はこれにて終了です。次からは二章ですが更新はゆっくりになります、一応一章は書き終えてからの投稿でしたので次からは一日一話いけばいいかなって言う感じになりますね