「何と言うことだ」
ロサイスに設置された司令部では、司令官の男が頭を抱えていた。
突如として自軍の大半が裏切り、そして現在アルビオンの軍勢がこのロサイスに向かっていると言う。その数は4万。いや、裏切った者達も含めれば、7万にも及ぶ。
まともに戦っても勝てるわけはなかった。故に撤退する。しかし、最初撤退許可が降りなかった。そりゃそうだろう。つい先日まで怒濤の快進撃だったこちらが、突如味方の裏切りもあって7万の敵を相手しなければならなくなった何て言っても、何かの冗談だと思われても可笑しくなかった。だがそれでも必死に本国を床伏せ、許可が出たのはつい先程。だが今度は撤退するための時間が足りなかった。
何とかして時間を稼ぐ必要がある。その時、ふと思い至る。
「そうだ。こちらには切り札があるじゃないか」
「ルイズちゃん遅いわねぇ」
ロサイスの避難船に乗るため、闘夜達は列に並んで順番待ちをしていた。
しかし、途中でやって来た兵士に連れていかれ、大分経つのだが戻ってくる気配がない。
その為スカロンが心配していたのだが、
「ちょっと探してきます」
闘夜も落ち着いていられず、列から抜けて探しに行った。
「んー」
鼻をフンフンと鳴らしながら歩く。すると、フワリと嗅ぎ慣れた匂いを見つけ、その方に向かうと、
「ルイズ様?」
「っ!と、トーヤ」
影の方でしゃがみ込み、俯いているルイズがいた。
「なにしてんですか。皆待ってますしいきますよ。ただでさえ七万の軍勢が迫ってるんですから」
と言うと、ルイズは立ち上がり、船がある方とは別の方に向かおうとする。
「ちょ、ちょっとルイズ様!?どこ行くんですか?」
「私は船にのらない」
「はぁ!?何言ってんですか!死にますよ!?」
闘夜が慌ててルイズの手を掴んで止めると、ルイズは無言で一枚の紙を突き付けてきた。だが、
「な、何て書いてあるんですか?」
そう、闘夜はこの世界の文字が読めない。なにやら文字が書いてあるのは分かるのだが、それが何を意味してるのかが分からないのだ。するとデルフリンガーが、
「ふむ。虚無の力でアルビオン軍の進軍を止めろってあるな。成程、撤退及び降伏は許さずか」
「はぁ!?そんなの死ねって言ってるようなもんじゃんか!」
「まぁそう言うことだろうな」
デルフリンガーに怒ってもしょうがない。と闘夜は判断し、
「そんな命令聞く必要なんてありません!逃げますよ!」
「出来るわけないじゃない!ここで逃げたら他の人達はどうなるの!?このままだと確実に7万の兵士に追い付かれるの!誰かが止めきゃいけないのよ!」
フゥー!フゥー!と息を吐きながら、ルイズは言うと、闘夜は何も言えなくなる。
「まぁ丁度良かったわ。あんたは今この瞬間使い魔をクビよ!もうどこにでもいきなさい!アンタの世界でもどこにもね!」
「クビ?」
「えぇそうよ!これで清々するわ!私の言うこと聞かないし生意気で子供で少し優しくしてあげたら好き好き言ってきて鬱陶しいったらありゃしなかったからね!」
こんなの本心じゃない。だがこれだけ言えば、闘夜の自分への好意を断ち切る事が出来るだろう。いや、それは正しくない。闘夜何て言い訳だ。こうでも言わないと、ルイズ自身が未練で死にたくなくなってしまうと思った。最後の最後まで自分の気持ちを否定し続けなければ、このまま逃げ出したくなってしまう。そう思った。
「だからもうさっさとどっか行ってちょうだい。ほんと、もっといい使い魔が来てくれればよかったのに!」
背を向け、目に浮かぶ涙を堪えながら、ルイズは捲し立てる。さっさと何処かに行ってくれと願った。これ以上酷いことを言わせないでくれと心の中で叫んだ。すると、
「ルイズ様」
「っ!」
いきなり肩を掴まれ振り向かされる。ルイズは体を強張らせながらも、咄嗟に顔を伏せて隠そうとしたが、次の瞬間腹部に衝撃と激痛が走り、
「げほっ!とー……や?」
咳き込みながら、ルイズはゆっくりと倒れていくが、闘夜はそれをキャッチし、優しく抱き上げた。
「まさか相棒。まじで無理矢理でも連れていく気か?」
「いや、ルイズ様だけいかせる」
そう闘夜が言うと、ルイズをそっと抱き上げる。すると、
「どういうつもりだい?」
「あんたは……」
闘夜に背後から声を掛けたのは、ジュリオだ。しかし、闘夜は名前を覚えていなかったため首を傾げると、
「ジュリオだ。それでどういうつもりなんだい?」
そう聞いてくるジュリオに、闘夜は抱き上げたルイズを差し出す。
「ルイズ様をお願いします。俺はこれからアルビオンの軍を止めにいくので」
「正気かい?」
えぇ、と闘夜はルイズを渡すと背を向けた。
「相手の数は七万だ。なにか作戦は?」
「いやそんなのは全く」
でも……と闘夜は笑みを浮かべながら、ジュリオを見る。
「俺、ずっと大切な人が生きててくれればそれで良いって気持ちがわからなかったんです。だって一緒に居た方が絶対楽しいのにって」
そういう闘夜の脳裏に浮かぶのは、ウェールズの言葉だ。
「でも今ルイズ様が死ぬって思ったら凄い嫌で、だったら俺が行こうって思っただけです」
ニヘラ、と闘夜は笑った。
「だって俺、やっぱりルイズ様が好きなんですもん。ルイズ様には迷惑だったみたいですが、それでも俺はルイズ様が好きです。だから俺が戦います。あ、ルイズ様に目が覚めたらごめんなさいって言っておいてください」
と闘夜は言い残し、地面を蹴ると走り出す。あっという間に小さくなっていく。
その背中を見送りながらジュリオは呟いた。
「全く健気だねぇ。ガンダールヴ」
何時も読んでいただきありがとうございます。
お姉さんルイズが結構好評で嬉しい限りです。と言うか、結構どころかかなり反響を頂きました。評価の方でもコメントにして残していく方もいらっしゃり、確かに主人公が同い年or年上が多い(個人的な感じ方)ゼロ使二次では少し異色なのかもしれません。
まぁ実は元々はこういう流れではなく、少し年下位にしておくつもりだったのですが、後々想像以上に年の差が出来てしまい、気づけばショタコンルイズが爆誕してました。これからも倫理と本能の間を揺れ動くルイズをお楽しみください。