異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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カゾエドシ

「はぁ」

 

一晩外で寝泊まりした次の日、闘夜はトボトボとルイズと共に寝泊まりしているテントに戻ってきた。

 

結局胸を締め付けるようなモヤモヤは晴れなかったが、取り敢えず戻らなければそれはそれで問題だと思い、何とか気合いをいれてここまで戻って来た。だが、

 

「あれ?」

 

闘夜がテントに入ると、そこにルイズは居ない。何処に行ったんだろう。そう思い、鼻をスンスンと鳴らしつつ匂いを辿ると、意外とすぐ近くにルイズはいた。居たのだが、

 

「おや、使い魔君じゃないか」

「え?」

 

先に気づいたのは、ジュリオだった。それに続き、ルイズは振り替えって闘夜を見ると、ムスッと表情を変える。

 

「えぇと……」

「これから彼女と偵察に向かうところでね」

 

ジュリオはそう言って、隣のドラゴンを撫でてから飛び乗った。

 

「さ、こちらに」

「えぇ」

 

するとルイズもジュリオに手を伸ばし、後ろに乗るとそのまま腰に抱きつく。

 

「あ、あの!ルイズ様!」

「……なによ」

 

ズキン!と闘夜は胸に走る痛みと共に、広がっていくモヤモヤ感を感じつつも、

 

「て、偵察なら俺のゼロ戦でも良いですよね!」

 

何だったら小回りも早さも並みのドラゴンを越えているゼロ戦の方が、偵察向きの筈だ。しかしルイズは、

 

「ふん!折角偵察に行くならアンタみたいな子供とより顔がいいイケメンの大人と行く方がいいに決まってるでしょ!」

「なっ!」

 

ガツン!とショックのあまり、脳天をぶん殴られたような衝撃を感じた闘夜が唖然としていると、ルイズはそのままジュリオに言って飛び立っていってしまう。

 

その光景を闘夜はぼんやりと見送り、

 

「ぐすっ……」

「お、おい相棒?大丈夫か?」

 

ポロポロと闘夜の目から大粒の涙が溢れてきた。その光景に、流石のデルフリンガーもギョッとして声をかける。

 

「お、落ち着け相棒。な?」

「うん」

 

ゴシゴシと袖で涙を拭くが、涙が止まらずしゃっくり上げた。

 

「あぁ~。ほら相棒。一回テントに戻ろう。そんで少し寝ろ。な?昨日ほとんど寝てねぇじゃねぇか」

「うん……」

 

デルフリンガーに言われるまま、闘夜はトボトボとテントに戻って行く。

 

一方その頃ルイズは、

 

「ふぁ~」

「眠そうだね」

 

大きなあくびをしてしまい、ジュリオに突っ込まれると、ルイズはそっぽ向いてしまう。しかし、

 

「まぁあんな遅くまで出歩いてたら当たり前かな」

「っ!」

 

ギク!とルイズが表情を強ばらせる。

 

昨晩ルイズも殆ど寝ていない。闘夜が何処かへ走り去った後、どうせすぐ戻ってくるだろうと高を括っていたのだが、いつまでたっても戻ってこず、心配になって深夜まで探し回り、それでも見つからず夜通し寝ずに待っていた。だがそれでも帰ってこず、ゼロ戦は闘夜がいないと使えないため、足を探していたら、風竜(名前はアズーロと言うらしい)を世話していたジュリオを見つけ、頼んだのだ。

 

そんな時に闘夜が呑気に帰ってきて(ルイズにはそう見えた)、こっち夜通し心配してたと言うのにこっちの気も知らないでと苛ついた結果、あんな言い方をしてしまったが、少々言い過ぎだったかもしれないなと内心では思っていた。

 

しかし、何故遅くに出ていたのを知っているのだろう。そんなルイズの心を見透かしたようにジュリオは笑い、

 

「昨晩は指令部とちょっと遅くまで話し合っててね。あとあんまり少年の純情を弄んだらダメだよ。あれくらいの男の子ってのは、意外と繊細なんだ」

「アイツはそんなやつじゃないわ」

 

そう返しつつルイズは、アズーロを見る。

 

「でもすごいわ。使い魔でもなく、訓練を受けたわけじゃないのに風竜がこんなになつくなんて」

「ふふ、少し僕は特別でね。他人より分かるんだよ。この子が何を考え、何をして欲しいのかをね。それにアズーロは優秀だ。僕が少し手綱を引いて導けば、全部理解してくれる」

 

とジュリオが言った瞬間、アズーロは急降下し、次の瞬間その場所を何がが飛んできた。

 

「な、なに!?」

「ここはもうアルビオン側だ。見張りくらいいるさ」

 

ジュリオは言いながら、手綱を引いて笑みを浮かべ、

 

「さぁミス・ヴァリエール。舌を噛まないように口は閉じておいてくれ!」

 

そう言いながら、ジュリオとアズーロは息を合わせ、空を駆け抜けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

さて、ルイズは無事偵察を終え、テントに戻ってきていた。

 

ジュリオの操作技術は素晴らしく、襲い掛かってくるアルビオンの兵士たちをアズーロで回避しつつ、時には迎撃して目的の町を見てくることに成功し、帰って来たのだが、

 

テントは重苦しい空気に満ちている。

 

「……」

「あ」

 

すると闘夜は立ち上がり、そのままテントを出ていってしまう。ルイズは何か言いたげだったが、闘夜はそのまま行ってしまった。そんな光景にデルフリンガーが口を開き、

 

「おめぇさんもひでぇ女だな」

「何よ」

 

そんな言葉に、ルイズは強くは反論しなかった。彼女も思うところはある。

 

「まぁ確かに嬢ちゃんの言うとおり、相棒は見た目も中身も子供だがよ。あんな完璧男と比べたらかわいそうだろ」

「うぅ」

「しかも好きだと言った相手に、ああ言われたら流石の相棒だって傷ついて泣いちまうよそりゃ」

 

泣いたという単語に、ルイズはピクッと反応した。

 

「そ、そんなに?」

「もうボロボロ泣いてたぜ?」

 

ルイズとしても、そこまでするつもりはなく、罪悪感が大きくなる。

 

「まぁ流石にあんな子供にはしんどいわな」

「こ、子供っていいけど、ゆって15才だし?そんなに幼くはないわ」

 

先程闘夜を子供扱いして泣かせたとは思えない発言に、デルフリンガーは人間だったら冷や汗の一つでも垂らしそうだったがその前に、

 

「なんだ嬢ちゃん知らねぇのかい?相棒15才じゃねぇぜ?」

「は?」

 

何をいってるんだ?とルイズがポカンとしていると、

 

「あ、言っとくけど相棒が嬢ちゃんを騙してた訳じゃねぇ。俺も最近相棒と話してて聞いたんだが、国が違うと色々風習が変わってくるんだよ。それが問題でな、嬢ちゃんは歳を数える時、0・1・2・3って数えてくだろ?」

「そうね」

「だけど相棒の国では、お腹にいるときを0才として数え、生まれてくると1才とするらしい。数え年って言うらしいけどな」

「……」

 

つまりだ。とルイズはグルグルと脳を回転させ意味を理解すると、

 

「闘夜は14才?こっちの考え方で行くと」

「そうだがそもそもな、嬢ちゃん一年って何日だ?」

「バカにしないで。384日よ。常識でしょ?」

「相棒の国は354日らしいぜ」

「……」

 

カシャカシャとルイズの座学は優秀な頭脳が凄まじい早さで暗算する。

 

厳密には閏月と言ったものもあるのだが、それは闘夜も詳しく説明していないため、デルフリンガーは言っていない。

 

(まってまって、カゾエドシ?ってやつで14になるなら、一年が354日しかなくて、354×14で4956日になる。ハルケギニアの一年で換算すると……12.9!?)

 

ざっと計算すると、こっちでは12、3才くらいだ。そう考えると、闘夜が子供っぽいのも分かる気がした。というか実際子供だった。それが分かると、ルイズはがっくりと膝を付いた。

 

(流石に私大人げなさすぎた?)

 

そして同時に、今までの自分の行動を振り替える。

 

自分が闘夜に何をした?同じベットで寝るならまだセーフかもしれないが、そのあと一緒にくっついてたり、キス(未遂も含む)をしたり、ドキドキしたり。

 

「犯罪だわ……」

「ま、まぁ相棒は年の割には早熟だけどな」

 

これは妖怪の血が影響してるのかもしれない。闘夜はクォーターだが、比較的妖怪の血が濃く出ている。

 

そして妖怪は大体2種類の成長の仕方をし、幼い頃から成長が遅いタイプと、一定の年齢に値する容姿までの成長が他と比べて早く、その容姿に達すると一気に老化速度が遅くなるタイプだ。

 

闘夜は恐らく後者である。

 

だから闘夜は童顔だし幼い印象をもたれガチだが、年齢の割には成長している方なのだ。

 

「んでよ嬢ちゃん。ちゃんと相棒に謝った方がいいんじゃねぇの?」

「う……」

 

そしてデルフリンガーに本題を突きつけられ、ルイズは言葉につまった。

 

「で、でもトーヤだって私を無視したりしてきたし……」

「無視?」

「昨日」

 

そう言われ、デルフリンガーは成程と頷く(首はないが)。

 

「あれはお前さんがキスされて困惑してたからだよ」

「キス?されてないわよ?」

「手の甲にされてたじゃねぇか」

 

あんなのキスに入らないわよ!とルイズは怒るが、デルフリンガーはため息を吐きつつ、

 

「良いか嬢ちゃん。相棒は誰かを好きになるのはお前さんが初めてなんだよ。初恋だ初恋。だけどお前さんにこっぴどくフラレ、それでもまだ好きだからお前さんに着いてきたんだ。なのに傍目から見てもイケメンに手の甲とはいえキスされたら相棒だって嫉妬する。でも相棒にとっては、その嫉妬という感情すら初めてなんだ。どう処理すればいいのかすらわからない。何もかもが初体験なんだ」

「ふ、フったわけじゃないし」

「じゃあ好きなのか?」

「そうも言ってないわ」

 

めんどくせぇ……デルフリンガーは内心そう思ったものの、それを口にしたら溶かされそうなので、それは言わないようにしていると、

 

「で、でもまぁ謝罪は必要よね。うん」

 

そうルイズは頷く。だが、

 

(何て謝罪しよう……)

 

今度はそっちで悩み始めた。まぁルイズの性格を鑑みれば、いきなり素直に謝るのも、難しいのだろう。そう考えたデルフリンガーは、

 

「まぁそうだな……こんなのはどうだ?」

 

とそのまま助言を与える。するとその助言を聞いたルイズは顔を真っ赤にし、

 

「は、はぁ!?そんなこと言えるわけないじゃない!」

「じゃあ仲直りできないけどいいのかい?」

 

デルフリンガーにそう言われ、ルイズは言葉が詰まり、深呼吸をする。そして、

 

「ま、まあ取り敢えずやってみるだけならね」

 

とルイズは言い訳をしながら姿見の前に立つと、

 

「トーヤ!さっきがごめんね!お詫びにお姉ちゃんがたっぷり甘えさせてあ・げ・る。きゃぴ!……いやこれはないわ」

 

一応最後まではやる辺りはルイズらしい。のだがルイズは恥ずかしさが一周したのか寧ろ真顔になり、別の手で行くべく振り返った。すると、

 

「え?」

『……』

 

入り口には、目を点にしてルイズを見る闘夜となぜかシエスタ、そして、

 

「ぶふぉ!」

「あらかわいいじゃなーい」

 

思いっきり吹き出したジェシカとスカロン店長まで居た。そして勿論、

 

「にゃあああああああああああああ!」

 

ルイズの意味不明の絶叫が響いたのは、言うまでもない。




前にコメントで戦国時代って数え年だよね?みたいなコメントをもらい、いつかそれをネタにしようと考えていたのですが、そういえばハルケギニアって一年の日数も違うよね?と思い計算したところ闘夜は13才前後に……閏月込みでもそれくらいでした。

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