「ん?」
月も空のてっぺんに登り、暗闇が世界を包む中、キュルケは突然自室のベットから体を起こすと、すぐさま服を着替え始める。
ホンの僅かだが……彼女の本能がこの学園に似合わない殺気を感じ取ったのだ。理由はないが、こう言うときの自分の直感は悲しいほど良く当たる。なにもなければ良いがそうはいかないのが世の中だ。
等と思いつつ杖を取ると、ドアの前に誰かが来ているのに気づく。一瞬まさか殺気の正体か?と勘繰ったが、それとは違うようだ。だが誰だ?等と考えてしまうが、何時までもジッとしてるわけに行かない。
ならもういっそ開けて確かめた方がいい。悪い感じはしないが万が一を考え杖を構えつつソッと扉を開けると、
「なんだ、タバサじゃない」
そう、目の前にいたのは青い髪の小柄な自分の親友のタバサである。
キュルケは一息つき杖を下ろしながらタバサを見て、彼女も既に臨戦態勢を整えているのを確認。
「気づいた?」
「当然」
キュルケの問いに短くタバサが答えると、なら一度体勢を整えましょうかと言いタバサがうなずくのをぃてから二人は行動を開始したのだった。
「して……君たちの目的は何かね?」
キュルケとタバサが場所を移している頃、食堂には今口を開いたオスマンと、女子生徒たちが縄で縛られて集められていた。
そんな彼らの目の前には白髪の大男が部下を連れてたっている。
「なぁに、俺は傭兵。メンヌヴィルって言うんだ。白炎のメンヌヴィルって言えば結構とおってるんだがね。今俺はアルビオンに雇われてる。なら大体わかるんじゃないか?」
成程……とオスマンは一人呟いた。この学園には貴族の子供が多数いる。
人質としては十分すぎるだろう。多少無茶な要求でも通れば御の字、通らなくても全員皆殺しにすればそれだけで国の中枢を担う貴族の子供を見捨てたとなればこの国を揺らがせることができる。
全く、男性教諭すらでばっている今来るとは間が悪いと言うか……まあそれも狙いだったのかもしれないが。
「さぁて、お次は……」
と、メンヌヴィルが呟いた次の瞬間、
「賊よ!我らは陛下の銃士隊だ!大人しく投降しろ!」
と、外からの声だ。声から察するにアニエスだろう。だがそれにたいしてメンヌヴィルは声だけでかえす。
「ほぅ、ならばまずはアンリエッタを呼んでこい!話はそれからだ!」
「何だと!?」
相手の顔は見えずともアニエスが動揺したのはわかる。それにたいしてメンヌヴィルは畳み掛けるように言葉を続けた。
「うちの依頼主が伝えたいことがあるらしくてな。俺が代わりに伝えるだけだ!返答が5分以内になければ生徒を一人殺す!更に五分でまた一人だ!以上!」
ちっ!とアニエスは舌打ちする。アルビオンとの戦争が控えている今これとは……いや、だからこそか?するとこいつらは手際のよさから考えてもただの賊じゃない可能性がある。アルビオンの関係者か?
だとすれば面倒だ。しかも今回の人質は貴族の子供だ。傷でもつければアンリエッタに対する不満が爆発しないとも限らない。いや、するだろう。元々貴族からの風当たりも厳しいアンリエッタだ。ここぞとばかりに爆発しかねない。
と考えていると、
「いったいこれはなんの騒ぎですか?」
「貴様は……」
声をかけられ振り返ると、そこにいたのはコルベールであった。
「賊が入り込んで生徒たちを人質にして陛下を呼べといっている」
彼にそう簡単に状況説明をするとコルベールは眉を寄せる。
「成程……それは危険だ」
「だがなぜお前はあいつらから逃れられたのだ?」
とアニエスは目を向けるとコルベールは答えた。
「私が寝泊まりしている研究室は学園から少し離れたところにあるからね」
「生徒が危ない目に遭ってるってのに呑気なものね」
するとそこに更に声が掛けられ、アニエスとコルベールが声の方を見るとそこにはキュルケとタバサが紙袋を手に歩いてきた。
「なんだ?その袋は」
「このままじゃ埒があかないわ。だからね」
とキュルケが静かに作戦を話す。が、
「危険すぎる。相手は戦闘のプロだ!そんな手が通じるとは思えない」
と、コルベールが言うとキュルケは侮蔑の表情を向けた。
「私は
と、キュルケがアニエスを見る。アニエスはその視線を受けながら考え、
「分かった。やってみよう」
「返答はなし……さて、
ちょっとトイレ位のノリで杖を手に立ち上がるメンヌヴィル。
すると部下の一人が天井をみて呟いた。
「なんだあの袋……っ!?」
その次の瞬間空気を叩いたような音が食堂に響くと同時に強い閃光と煙が発せられる。
「今!」
その音と共に杖を手に飛び込んできたのはキュルケとタバサだった。
(混乱してる……これなら!)
そうキュルケは内心で呟き呪文を唱えようとした。が、
「え?」
先程の紙袋で出した音とは比べ物にならない音と光なんて生易しいものではない爆炎にキュルケとタバサは吹っ飛ばされ床を転がる。
「残念だったな。俺がもし普通の目を持っていたら今ので混乱したよ。だが俺は昔ある男に目を焼かれてね。目が見えない。代わりに周りの温度がわかる。それが目の代わりさ」
そう言ってメンヌヴィルはキュルケの前にたつ。
「さて……とんだ邪魔が入ったがちょうど良い。まずはお前からといこうか」
といいながらメンヌヴィルに杖を向けられ、それが何を意味した言葉か理解する。このままでは殺されると……
「待ちたまえ」
だがそこに響いた声にメンヌヴィルは動きを止めるとその声の主に顔を向け、驚きと感激の混じった声を出す。
「まさかこの温度は……隊長か?」
「久し振りだな。メンヌヴィル君。まさかまた会うことになるとは思わなかったよ」
そう言葉を発したコルベールの声音は普段の彼からは考えられないほど冷酷で、炎蛇の二つ名とは裏腹の冷たさを感じるものだった。