教師の仕事
随分スカスカになったわね……そうキュルケは授業中に静かに思った。
アルビオンとの戦争が決まり、男性教諭処か男子生徒まで皆戦争の兵士として参加してしまった。そのため学校はすっかり静かになってしまい、閑散としている。
いや、全員と言うのは正しくないだろう。恐らく学園長であるオスマンを除けばこの学園で唯一の男。
「と言うわけで炎は高温になるほど透明になり……」
そう、コルベールである。彼だけは平常運転で、変わらず授業を続けている。
こんな戦争が起きてると言うのにと思うが、彼いわく「こんな状況だからこそ」らしい。こんな状況だからこそ学び、戦いの愚かさを悟らねばならないと言う。
自分に言わせればこの男はただ単に戦いが怖い臆病者なだけだろうと思うが……
等と思っていると、突然教室のドアが開かれドタドタと鎧を着た女性の兵士たちが乱入してきた。
「な、なんだね君たちは!」
「女王陛下の銃士隊だ。これより陛下の命令により軍事訓練を行う。全員正装して中庭に整列せよ」
そう言ったのは、コルベール達は知らないがアニエスである。彼女は数名の舞台を引き連れやって来たのだが、そんな言葉におとなしく従うわけがない。
「申し訳ないがまだ授業は終わってない。戦争ごっこならその後にして貰おうか」
「ほぅ?」
だが、そう言った瞬間アニエスは腰の剣を瞬時に抜くと切っ先をコルベールに突きつける。
「本職相手に戦争ごっことは大層だな。メイジだからといってこちらをあまり舐めない方がいい」
「べ、別に舐めてる訳では……」
そう言いながらコルベールは後ずさるとそのまま壁に背中をつけ尻餅をついてしまう。
「とにかく私の任務の邪魔だけはしないでもらう」
そう言ったアニエスは生徒を引き連れ中庭に向かい、それをなにもできず、見送りながらコルベールは両手で顔を覆い、大きなため息をついたのだった。
日も沈み、人の気配も消え去った闇夜の中からその男は数人の部下を連れて現れた。
「隊長。トリステイン魔法学園が見えてきました」
「そうか」
隊長と呼ばれた男は、目元が暗闇で見えないががっしりとした体格と、メイス型の杖……そして何よりその男が放つ獲物を見据えたときの蛇のような威圧感が明らかに只者でないことを証明している。
「さぁお前ら」
そう言って男はニタァっと井生笑みを浮かべて命令を発した。
「チャチな魔法をポコポコ撃って喜んでいる貴族のガキ達に大人の怖さを教えてやろう。ただし極力殺しはするな。交渉の貴重なカードだ」
極力……と言う部分を強調して伝えた意図を部下達は察して頷く。つまりは抵抗されて面倒なら殺しもやむ無しと言うことだろう。
それから最後に、
「さぁ、狩りの時間だ」
そう告げたのだった。
一方その頃、
「えぇと、地図的にはこっちにいけばもうすぐ着きますね」
「ほんとに大丈夫なの?そう言ってオークの巣に突っ込んだり橋がなかったじゃない」
「そう言っても私は地図にかいてあるようにしか進んでないので……」
「スヤァ……」
「なにねとんじゃぁあああああ!」
「いでぇえええ!」
と、地図を片手にウンウン唸るシエスタと平和そうに寝ている闘夜に腹を立てたルイズと寝ていた闘夜が断末魔を響かせる姿があったのだが……まあこれは余談だろう。