異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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第八章 ヴァリエール家
恐姉


「これでよし……と」

 

コト……と羽ペンをおき、ルイズは肩を回しながら背筋を伸ばす。

 

さて、つい先日まで魅惑の妖精亭で給仕をしていた彼女だが、アンリエッタより任務の終了と、新たな任務の連絡を受け、学園に店の皆から惜しまれながらも退職して戻ってきていた。

 

そして学園の机に向かって今まで書いていたのは手紙だ。しかも親しい相手に向けた砕けたものではなく、実家への手紙である。

 

いや、普通に考えれば実家への手紙だって多少砕けたって良いと思うかもしれないがそんなわけにいかない。

 

ルイズの実家は礼儀作法に非常に厳しい。歩き方や食べ方話し方にとどまらず服装、字の書き方……頭の先から足の爪の先まで厳しく見られ、実家を離れて暮らすとき、それがなくなると言うことだけは良かったとルイズですら思うほどで、勿論それは使用人にすら適用される。

 

その業界では、ヴァリエール家の使用人を勤めたと言うのだけで、ある種のステータスになるほどだとか……まあとにかくだ。そんな厳しい家に書く手紙なのだから真面目に書かない訳にいかない。特に今回は内容が内容だ。

 

それは、アルビオンとの戦である。これは元々情報収集の任務が終わると同時に任命された次の任務に関係しており、なんとアルビオンとの戦で、ルイズは切り札として召集されることになった。

 

とは言え勝手に、はいわかりましたと行くわけにはいかない。きちんと親に話を通し許可を貰う……それが筋と言うものだ。

 

だが実家の家族はまだ自分をゼロのルイズだと思っている。だからといって説明するわけにいかないのだが、無事貰えるのだろうか……いや!貴族として国のために働けるなら許してくれるはず!と思っていると……

 

「しっかしほんとに頭から生えてるのねぇ……」

「ん……」

 

ピキッ……とルイズは自分の体がひきつった。それでもなんとか後ろを振り替えると自分のベットに座る闘夜とそれを囲うキュルケとタバサ……その二人は闘夜のバンダナをとってクイクイ引っ張っている。

 

「なに……してんのよ……?」

「だってぇ。ラグドリアン湖の一件の終わったあとバタバタしてて見れなかったんだもの」

 

と、闘夜の耳を弄りながらキュルケは言った。

 

あのとき確かにバンダナが飛んだ。ただそんなのを気にしてられる場合じゃなかったため、その場では聞かれなかったものの先程この部屋にキュルケとタバサの二人がやって来て強引にバンダナを取って確認、更にそこからこうやって弄り出したのだ。

 

その間闘夜はルイズに勿論助けを求めたものの、何かに集中し出すと周りの音が一才耳に入らなくなる素晴らしい集中力のルイズである。一才こちらに気づく事はなく、闘夜は諦め混じりに好きにさせていた。

 

「もうルイズったらこんな良いものを隠しとくなんてひどいわ」

 

等と言いつつキュルケは触り続ける。タバサも珍しく眼を若干輝かせながら弄っていた。

 

しかしルイズもよく触ってくるがそんなに楽しいのだろうか?自分で触ってみたときは特になにも感じなかったが……まさか自分の耳はルイズたちメイジを虜にする力が……なんてふざけたことを考えていると、

 

「ええい!あんたたち離れなさい!」

 

とルイズがキレる 。タバサをまず引き剥がし、キュルケを突き飛ばす。更にそこから二人を強引に引っ張って部屋から追い出す。

 

「出ていきなさい!見世物じゃないのよ!あとこれは他言無用だからね!」

 

と廊下に放り出した二人にルイズは一気に捲し立てながらそう言うと、乱暴に扉を閉め鍵をかけ、そして今度は闘夜を睨み付けた。

 

「トーヤ!あんたもなに普通に受け入れてんのよ!」

「いや抵抗はしたんですけど……」

 

あまり乱暴に払えば怪我をさせかねない。と闘夜が言うとルイズは確かにそうだけど……とムッとしながら言う。

 

何故だろうか……闘夜が自分以外の女に触られたと言うのが無性に腹が立って仕方がない。

 

そして同時に思い出すのは先日のアンリエッタの護衛を闘夜が行った際のキス騒動……あの後うやむやになったが忘れてはいない。

 

自分にはなにもしないくせにアンリエッタとはキスをするとは……やはり胸か!

 

と、どうにもムカムカして落ち着かない。ならばとルイズはベットに座ると隣に座れと言うようにポンポンと叩いた。

 

「あ、はい」

 

これは流石に理解した闘夜は大人しく座るとそのまま耳を触る。うん、少し落ち着いてきた。

 

時には軽く引っ張り、時には指の腹を擦るようにする。ゆっくり優しく丹念に……先程のキュルケたちの分を上書きするように……

 

そしてそのまま髪に指を通す。相変わらず腹が立つほど綺麗な髪だ。自分も母や下の姉と同じこの桃色の髪は自慢だが、それだけに手入れを怠ったことはない。

 

それにたいして前にも言ったが闘夜は一才手入れを行っている様子がなく、この間なんて桶に張った水に頭を突っ込んで濯ぐとタオルでガシガシと乱暴に拭いているのを見たことがある。

 

そんな雑な扱いをしていると言うのに、タオルを外せばあら不思議、キラキラと太陽光を反射する美しい白髪のご登場である。

 

納得がいかない……自分の髪の手入れに相当の労力を割いているのに、ロクな手入れもせずにこれである。だがふと、もしかしたらもっとちゃんと手入れをしてやれば更に光るのではないだろうか……と思い至った。

 

元は良いのだ。身だしなみに気を使わせればと思いつつも、こいつにそれを言っても聞くまいとルイズは一人結論付けた。まあ大体あっているのだが……

 

「動くんじゃないわよ」

 

と、ルイズは闘夜に言って化粧品等をおいている棚から瓶をひとつ持ってきた。

 

それを少し手に垂らし、髪に馴染ませていく。ゆっくりゆっくり……髪の毛一本一本に染み込ませるように丁寧に。

 

だがそんな中闘夜は顔をしかめる。

 

「あの……なんすか?これ……変な臭いしますけど……」

「香油よ。あんた髪を雑に扱いすぎだからね。ちょっとくらいケアしときなさい」

 

と、ルイズは返しつつ少し少なかったか……と香油を手にまた少し垂らしながら闘夜の髪に馴染ませる。

 

うん、やはり元々異様に綺麗な髪だったが、こうしたほうがきれいだ。とルイズは満足する。確かに先程より一層綺麗となり、一本一本に生命が宿ったかのようで、太陽の光をより強く反射する。だが、

 

(やっぱりくせぇ……)

 

と、闘夜には不評な様子だ。まぁルイズに背中を向けてるので彼女は気づいちゃいないが……

 

結局何処の世界も、飼い主の気遣いや愛情がペットに理解されるかは……まぁ別の問題なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあそんな出来事から三日……今日は半日しか授業がないため、昼食を済ませたルイズと闘夜は部屋に戻り、ルイズは闘夜の髪のケアに勤しんでいた。

 

やはり毎日のケアは良いらしく、三日目で既に今までよりずっと闘夜の髪は髪の毛がサラサラになっていた。いや元々人間離れ(まあ純粋な人間じゃないのだが)髪の綺麗さを誇っていたものの、それに磨きがかかったと言う方が正しいか……

 

とは言え闘夜は今だにこの臭いに慣れず顔をしかめる。だがルイズに髪をいじられると言う行為自体は嫌ではない。寧ろなんと言うかドキドキして胸がキューっとなる感覚は心地よく、ずっとこの時間が続けば良いと思うほどだ。

 

だがそれは、世間ではフラグと言う。

 

『ん?』

 

そこに突然響いたドアのノック音……最初はキュルケかと二人は顔を見合わせたが、明らかにただ事ではないノックの仕方だ。すると、

 

「ルイズ!いるんでしょ!出てきなさい!」

「っ!」

 

知り合いが来たのか?そう思い闘夜はルイズを見た。するとそこには顔面を真っ青にし、ガタガタと体を震わせるルイズの姿……

 

「あの……どうしました?」

「い、良いから静かに……」

「十数える間に出ないと扉を吹っ飛ばすわよ!」

 

ピキキッと体をこわばらせるルイズに闘夜はますます首をかしげた。いつもの堂々とした彼女にはあまりにも似合わない……

 

なんて思っているとルイズは静かにベットを降り、クローゼットを開けるとその中に入った。

 

「私は居ない……いいわね?」

 

そう言い残しクローゼットの扉を閉めて息を潜めてしまう。それとほぼ同時に扉が開け放たれ、闘夜は慌ててそっちの方を見た。

 

そこにいたのは金髪の眼鏡をかけたキツそうな女性……ルイズのキツい部分を抽出したようなかなりの美人である。

 

だがそんな女性にギロリと睨まれただけで闘夜は蛇に睨まれたカエルの気持ちを瞬時に理解。

 

それと同時に素早く立ち上がり、気を付けの姿勢をとった。何故こんなことをしたのか闘夜自身理解できなかった。体が勝手に動いたように感じた……

 

だが闘夜の本能は気づいたのだ。下手すると殺される……と。

 

「あなた……だれ?」

「あ、はい!ルイズ様の使い魔の闘夜と言います!」

 

ビシッと闘夜は自分の知る限り最大級の礼儀をもって答えた。だが彼女の反応はすこぶる悪い。

 

「はぁ!?どっからどう見ても人間と言うか服装から見るに平民よね!?それが使い魔ですって!?適当抜かすんじゃないわよ!」

「ほ、ほんとうです!」

 

左手のルーンを見せながら言うが既に彼女は闘夜に眼中はなく部屋を見渡し、それから闘夜を見た。

 

「で?ルイズはどこ?」

「あ、あの……そのまえにどちら様で」

 

とまあそんな感じでまあ当然のことを聞こうとした闘夜だったが、彼女の眉がそれはもうビキーン!っと言う効果音が付きそうな程勢いよく上がる。

「私はルイズの場所を聞いたのよ!貴方に質問をする権利はない!さっさと答えなさい!」

「ひゃ、ひゃい!」

 

ブルブルと闘夜は自分の体が震えているのを感じだ。

 

なんて理不尽。だがそれを反論することを許さぬ圧倒的なまでの圧を感じる……なんなんだこの人は。

 

「る、ルイズ様は……」

 

だがそれでも闘夜は自分の主に忠義を尽くす男だった。いや、寧ろこんなおっかない相手だからこそ闘夜はルイズを守ろうとしたのかもしれない。

 

「そ、外に行ったまま帰ってきてません……」

 

と、闘夜は口にした。彼女の圧を前にして嘘を言えるのは大したものである。だが……一つこれには穴があった。今闘夜の状態を纏めると、眼は泳ぎまくり文字で見るとすんなり言ったように見えるかもしれないが声は上擦り捲ってるし、手をモジモジ弄っていた。

 

つまりそう……完全な挙動不審だ。

 

闘夜は余りにも嘘をつくのが下手すぎたのである。そして勿論ここまであからさまなのを見逃す彼女ではなく。確実にこの部屋にいるのを察するのは容易なことである。

 

「ふぅん?そぅ……」

 

彼女は部屋を軽く見ると、クローゼットの方にツカツカと歩いていく。

 

「あ!そこは!」

「貴方はそこに立ってなさい!」

 

思わずビシッと効果音が付きそうなくらいの勢いで闘夜は気を付けの姿勢となり、それを横目に彼女はクローゼットの扉を開いた。

 

「あらルイズ。元気そうね?」

「アバババババババババ!」

 

小動物の如く全身を震わせるルイズをニッコリ笑って彼女は見ると手を伸ばし……

 

「こんなとこに入って隠れたつもりかしら!?チビルイズ!!!!」

 

いきなりぎゅう!っとルイズの頬をつねりあげる。

 

そしてそのままクローゼットから力付くで引っ張り出し、顔を近づけながらルイズに怒声を発した。

 

「あんた戦争にいきたいんですってぇ?なに考えてるのかしらこのチビは!」

いたたたたたた!(いふぁふぁふぁふぁふぁふぁ!)痛いです!(いふぁいふぇふ!)

 

もう完全にルイズは涙目である。しかしいつもの彼女ならもっと抵抗するはずだ。しかし今の彼女は完全に借りてきた猫でされるがままだ。

 

そして流石にこの状況を黙ってみている闘夜ではなく……

 

「や、やめてください!」

 

ドン!っとルイズと彼女の間に割って入った。

 

「くっ!邪魔よ!今妹に大事な話をしてる最中なの!退きなさい!」

「例え妹でも頬を引っ張りながらじゃくたって話せ……え?妹?」

「……そうよ」

 

引っ張られて赤くなった頬を撫でながらルイズは闘夜に隠れながら囁くように言う。

 

「この人はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール・二人いる私の姉のうち上の姉よ……」

 

な、成程……通りでルイズに似ているわけである。そしてキレると周りの言葉が届かなかったり傍若無人となるのはルイズもだが、それは姉もらしい……と言うか上の姉と言うことは下の姉もいると言うこと……もしかしなくても怖いのか?

 

と闘夜は考えつつ、

 

「そ、それでお姉さまはどういったごよ「貴方に姉と呼ばれる筋合いはない!」はいそうですねすみません!」

 

先程の言葉に追加を加えよう。怒ったときは似てても恐ろしさは三倍以上だ。

 

「ふん!全くルイズ!あなたなに考えてるの!戦争に行きたいと言ったり……しかも男を昼間から連れ込んで!」

「い、いえこいつは使い魔で……」

「おだまり!ちゃんとお父様にしかってもらうわ!」

 

と、ムンズとエレオノールはルイズの後ろ首を掴みドカドカと歩きだし、闘夜がアワアワしているとエレオノールはギロリと闘夜を見て、

 

「あんたもついてきなさい!」

「は、はい!」

 

と剣を手行こうとすると、

 

「服を何着か持ってきなさい!気が利かないわね!」

「す、すみません!」

 

慌ててクローゼットから服をつかんで胸に抱いてからさて出発……

 

「そのまま持ってってどうするの!トランクかなにかに詰めなさい!」

「は、はい!」

 

する前にクルッとUターン。急いでトランクを引っ張り出すと服を丸めて詰めて……

 

「服をそんな風に丸めたらシワになるでしょ!」

 

る最中にエレオノールは服を闘夜から奪ってガミガミ言いながら服を畳み、トランクに詰めると闘夜に押し付ける。

 

「さ!行くわよ!」

「か、畏まりました!」

 

こうして、エレオノールはルイズを、闘夜はトランクを持って部屋から出ていったのだった……


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