ルイズ様の奇行?
ルイズ様の様子が変だ……
そう闘夜は内心呟いた。何故かって?まあ何故か説明する前にまずは朝からの彼女の奇行を紹介しよう。取り合えず日付はわからないが取り合えずアルビオンから帰ってきた次の日だ。もしくは全員フラフラになるほど疲労を溜め込みながらも体に鞭を打ちつつ自室に戻ってきた次の日と言っても良い。
そんな日の朝なのだが闘夜もまだ寝ていたい誘惑と言うある意味ワルドより手強い敵に何とか打ち勝ち起き上がるとルイズが起きてタンスをごそごそしていたのだが……
「何してるんですか?」
「っ!」
ギクッと体を震わせるとパンツを片手にルイズが振り返る。
「き、着替えているだけよ」
「あ、すいません」
やべ……寝過ごしたかと闘夜は取り合えず謝り着替えを手伝おうとする。しかしなんだってこの人は自分を起こさなかったんだ?と思う。寝坊なんかしたら鞭で叩き起こしてくるような人なのに……
まあ良いとルイズの手にあったパンツを取ろうと手を伸ばすと……
「だ、だめ!」
ルイズはそう言って手に持っていたパンツごと自分の手を背後に隠す。突然のルイズの奇行に闘夜はただ困惑するしかない。
「な、何があったんですか?」
そう思い闘夜は問う。よく見ると前髪が少し濡れていた。もしかして洗顔とかも済ませたのか? いつもこれも自分に手伝わせていたのに? と、闘夜は更に困惑する。だが、
「き、着替えるの!」
「で、ですよね?じゃあほら、何時もみたいに手伝いますから……」
何が言いたいんだこの人……と闘夜が眉を寄せつつ聞くとルイズは吠えた。
「だから!後ろ向いてなさい!って言うことよ!」
「は、はいぃ!」
グルンと勢いよく回れ右をした闘夜……いや、何で俺怒られたんだ?と困惑の加速がとどまることを知らない。
そもそもアルビオンに行く前はこの人は自分に着替えを手伝わせていたはずだ。なのに何故ここまで拒否するのか?
つうか着替えを手伝わせていたときは自分にこれは手伝ってるだけだと言い訳していたが背後でルイズが着替えていると言うのはどうしようもなく気まずい……
スルスルと肌と布が擦れる衣擦れの音が何とも艶かしい……ルイズは性格はキツいものの並みを遥かに越える美少女なのはそういったのに疎い闘夜でもわかる。
なので言い訳ができない今の状況ではひたすらに背後で美少女が着替えると言う状況に耐え続けなければならないのだ。これがどんな苦行だかそれは推して知るべし……
「終わったわよ」
「あ、はい……」
そう声を聞いた闘夜は振り替える。ちゃんと着替えを完了したルイズがそこにはいた。そして、
「ほら、朝食を食べに行きましょう」
「あ、はい……」
何なんだ一体……と、闘夜はますます困惑してしまう。と言うかなんか耳赤くね?
そんな朝であった……しかしルイズの奇行はそれだけに留まらない。
朝食を食べに行くと、
「やっぱり思ったんだけどあんたが地べたで食べてるのは見た目が悪いわね」
そう言って席に座らせルイズたち貴族の食べてるのと同じものをくれたりもした。更に……
「これから私の下着を洗ったり着替えを手伝わなくて良いわ」
である。最初は使い魔解雇通知かと思い焦ったもののそう言うわけではないらしい。ただ、何となくそう思ったとの事……
やっぱりワルドの魔法で吹っ飛ばされたときに何処かぶつけちゃいけない所にぶつけたのかもしれない。医者に見せるべきかと本気で思った……
だが極めつけに何と、その日の夜と言うか時間を戻したと言うべきか……そんな時間だ。その時である。
「いつまでも床じゃ流石に可愛そうね……今日からベットで寝なさい」
「………………はい?」
たっぷり時間をかけてルイズの言葉を闘夜は理解した。え?何言ってんのこの人……
いや、確かにこのベットは広いよ?でかすぎて圧迫感が凄いよ?
更に言えばルイズは小柄で闘夜もそこまでずば抜けた体躯を持っているわけではない……ふたりで寝ようと思えば寝れないわけではないのだが……
「ほら、さっさときなさいよ」
「は、はぁ……」
ルイズに促され隅っこの方に寝転がる。ズムズムとベットに体が沈んでいく感触はなんともはや気持ちがいい。確かに床で寝るより寝心地は良さそうだが……
等と思っているとルイズの手が闘夜の頭に伸びシュルリとバンダナが取られそのまま頭にある半化けのいぬ耳をクイクイと引っ張って来る。
「楽しいですか?」
「結構ね」
そんな短いやり取りをした後ふとルイズはそのまま闘夜の髪に指を通す。思わず嫉妬しそうなほどサラサラだった。指が全く引っ掛からない。思えば櫛を通すところも何かしらで手入れをしているところもみたことがない。なのに月明かりに照らされ反射するこの髪は白髪……と言うよりは銀色に近い。
こうしてみると……明らかに人間のものでは無い気がしてくる。
「ムカつくわね……」
「え?」
いきなりそんなことを言われ闘夜は困惑した。
「腹が立つくらい綺麗だわ……この髪……」
「この髪ですか……父親って言うか祖父譲りと言うか……まあ顔立ちもけっこう父親似らしいですけどね。母親にも似てますけど」
まあ母はきれいな黒髪だった。叔父の殺生丸も含め父方の血の影響が強いのだろう。人間化しているときは黒いが……
「…………ねぇトーヤ」
「はい?」
話しかけられ闘夜は返事をする。
「ねぇ……貴方はやっぱり家族の所に帰りたいの?」
「そりゃあ……帰りたいですよ」
ズキン……とルイズの胸に鋭い痛みが走った。だが闘夜はしるべしもなく。
「急にこんなところに出ちゃいましたし……どうすれば帰れるのか知りませんけど帰りたいですよ?」
闘夜は思ったことを口にした……その間もルイズの胸に走る痛みは大きくはなれど治まることはない……
「ダメ……」
「はい?」
突然ダメ……とはなにかと闘夜はルイズをみる。だがルイズ自身も自分が何を言ったのか一瞬理解できず固まったが……
「ほ、ほら!あんたは私の使い魔でしょ!なら勝手にどっか行っちゃダメよ!」
「あぁ~」
咄嗟にルイズはそう言うと、闘夜も成程ねと納得する。
「まぁ……その辺もちゃんと……考えないと……」
ふぁぁあああ……と闘夜は大きな欠伸をひとつすると、
「すぅ~……」
と、そのまま闘夜はストンと眠りに落ちていった。ルイズの豹変に振り回され精神的に疲れていたのだろう。だが、
「トーヤ?」
ルイズは声をかける……しかし帰ってくるのは寝息だけだ。それをみてムッとルイズは眉を寄せて口をヘの字にする。
「寝てるし……」
仮にも……一緒のベットで寝てるのだ。何かあってもよいのではないか?なのにこいつと来たらグースカピースカと……
「って……」
ルイズは待て待てと首を振る。何を自分は考えているのだ?というか期待しているのだ?
「どうかしてるわ……私」
こんなどこをどう考えても子供、もしくはガキンチョに。男はやはり包容力のあって頼りがいのある年上に限る……と思っている筈なのだが。
「……熱いわ」
頬が熱い、とルイズは自分の頬をさわって思う。なんだってこんな年下の男にドキドキせねばならんのだと……だがふと我に返る。そういえば闘夜は15だ。つまりタバサと同い年と言うことになる。他にも新入生なんかだとそれくらい……いや、確か今年15になったとなにかで言ってた気がするので下手するとタバサや新入生より下?いや、タバサも今年で15なのか分からないが下手すると真面目にそれらよりも年下の可能性が?
「やばいわそれ……」
完全に犯罪臭しかしない……社交界デビューもまだしないような年頃の男……いや、男の子といっても差し支えない奴にドキドキしていると?
「……だから──っ!」
チガウチガウチガウ!とルイズはブンブン頭を振るう。こいつは使い魔だ!そんなわけがない!自分の好みとも違う!
そう自分を納得させ落ち着けるとルイズはゴシゴシと枕に顔を擦り付ける。そんなわけがない。絶対にあり得ない……これは使い魔に対する感情だ。いや、もしくはペットに対する感情だ。そうにちがいないのだ……
そうルイズは自分に言い聞かせつつ……眠りの世界へと落ちていったのだった……