異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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生きてさえ……

『カンパーイ!』

 

遠くからそんな多数の声が聞こえた……この声は全て明日死にに行く者たちの声だ……

 

明日、アルビオンの王党派の総攻撃が行われるらしい……勿論、兵力差に天と地ほどの差がある王党派の総攻撃では勝敗など考えるまでもない……なのに楽しそうに飲んでいるのだ……

 

「これがその手紙だ」

 

そんな中別室でルイズと闘夜はウェールズから(くだん)の手紙を受け取っていた。ワルドはあくまでアルビオンに来るまでの護衛なのでここにはいない。宴会の席に出ているのだろう。闘夜は使い魔なので同行できたが……

 

まぁそれは良い。ルイズは手紙を恭しく受けとる……それから、

 

「あの……ウェールズ様、ひとつお伺いしてよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わないよ」

 

いきなりのルイズの行動に闘夜は首をかしげるがウェールズは何を聞きたいのか薄々わかっている顔だった。

 

「手紙の内容……本当にこの手紙の返却だったのですか?」

「え?」

 

ルイズの言葉に闘夜は益々分からなくなった。じゃあなんのためにここに来たのだ?と……だがルイズはそのまま続けた。

 

「本当は姫様は貴方に亡命を促したのではないのですか!」

「………………」

 

ルイズの言葉にウェールズは真っ直ぐとした視線を向けた。

 

「昔の話です……昔私は姫様の代わりに姫様の布団にもぐっていたことがあります。その間彼女は散歩だといっていましたが今思えばあのときの表情……それにこの手紙を出したときの姫様の様子……本当はお二人は恋仲だったのではありませんか!」

「っ!」

 

ルイズの問いかけに闘夜は仰天した……え?そう言う関係だったのか?と……とはいえ、その出来事がなかったとしてもルイズは薄々二人の関係は気付いていただろう。それに対しウェールズは、

 

「昔の話だ」

 

そう短く答えた。それにルイズはブチン……と何かが切れた。

 

「亡命なさいませ!ウェールズ様!姫様の願いを……聞き届ける訳には行かないのですか!」

 

そう言うルイズにウェールズは首を横に降り真剣な目付きになる。

 

「行かない……それが彼女のためだ」

「っ!」

 

グッとルイズは拳を握り……そして背を向けると部屋を出ていってしまう。その間、闘夜はなにも言えなかった。つかの間の沈黙……それを破ったのはウェールズだった。

 

「良い主人だ……彼女のような友人がいるなら僕は安心して逝けるよ」

「良いんですか?」

 

ウェールズの言葉に闘夜は口を開いた……

 

「本当にもう好きじゃないんですか?本当になんとも思ってないんですか?死んで良いんですか?」

「…………」

 

闘夜の問いにウェールズは再度沈黙を作った。

 

「生きてりゃ良いことだってあるでしょ……死ぬなんて馬鹿馬鹿しくないんですか!」

「あぁ……馬鹿馬鹿しいさ」

「っ!」

 

ウェールズの発した低い声音に思わず闘夜は固まった……

 

「今だって愛してるさ……彼女の事を愛さなかった時なんてないと断言できるくらいさ……彼女の事を抱き締めたい……彼女の唇と自分の唇を重ねたい……そう思ってる……だけどね、僕は王族だ。彼女も王族だ……自分の意思何てあってないようなものさ。何より僕がトリスティンに逃げれば貴族派がトリスティンに攻めいる理由を与える。今のトリスティンに自国を守れる国力はない。ゲルマニアとの婚姻を絶対に成功させるべきなんだ……」

 

そこまで言って息を整えるウェールズ……だが今の言葉は、まるで自分に言い聞かせているように聞こえた……

 

「でも……そしたら違う人と結婚するんですよ……」

 

闘夜は弱々しくそういった……それを見てウェールズは威圧するつもりはないんだといって笑う。

 

「名前は確かトーヤ君だったかな?今いくつだい?」

「15になりました」

 

そうか……とウェールズは言う。

 

「何時か……君にもわかる。誰かを本気で好きになれば……分かる。一緒にいられなくなっても良い……自分に向けられていたはずの笑みが違うものに向いても良い……自分とは違う男に抱かれ子を成しても良い……ただ、生きてほしい……生きていてほしい……自分なんか忘れても……生きてさえいてくれれば良い……そう思うときがね」

「…………」

 

闘夜は黙って聞くしかなかった……なにも言えなかった。何も……答えられなかった。だが誰かを本気で好きになったことのない自分では……きっとこの人を説得できないだろう……それだけは理解できた。

 

「さ、君もパーティーに参加してきなさい。最後の客人だ。歓迎させてくれ……あ、そうそう。今の話は内密にね」

「……はい」

 

闘夜はそれだけ答え……静かに部屋をあとにしたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

部屋をあとにした闘夜は広い廊下を歩いていた……するとそこにワルドが来た。

 

「ウェールズ皇太子は?」

「そこを曲がった部屋にいます」

「そうか……」

「何か用が?」

 

そう言うとワルドは首を縦に振り……

 

「明日、僕とルイズは結婚式をあげようと思ってね。その際には是非ウェールズ様にも祝っていただきたいのだよ」

「え?」

 

結婚?明日?またずいぶん急にと闘夜はポカンとした……

 

「君も参加したいなら好きにしたまえ」

 

そう言ってワルドはその部屋に向かう……それを見送りながら結婚かぁ……ルイズ様がなぁ……何て事を考えつつ闘夜はぼんやりと歩きだす。

 

その間考えるのはウェールズとのやり取りだ。

 

「一緒にいられなくなっても良い……か……」

 

ほんとに良いのかよ、それで……と闘夜は考える。だがいくら考えたところで考えなど纏まるわけがなかった……そんなときである。

 

「あれ?」

 

廊下の端の方に先程まで見ていた人物がしゃがみこんでいた。

 

「ルイズ様?」

 

闘夜がそう声をかけるとルイズは振り替える……その眼は涙で赤く腫れていた……

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

闘夜はそれを見て慌てて駆け寄るとドンッと自分の体に衝撃が走った……

 

「なんで……なんで……」

 

鼻を啜りながらルイズは言う……

 

「姫様が逃げてほしいって言ってるのに……何でよ……」

 

肩を震わせるルイズに闘夜はなにも言えずソッと肩を抱く。どうすれば良いのか分からないが……取り合えず泣かせておくと言う選択を闘夜はとった。

 

そして幾ばくか泣くと一旦ルイズは息を整えた。

 

「ごめん……あんたに言ってもどうしようもないのに……」

「いえ……」

 

顔を離しつつルイズが言うと闘夜は首を横に振る。それから二人は外をみた。

 

「本当に……もう昔の話なのかしら……」

「俺にもわかんないです……でも……大切に思ってるのは本当だと思います……」

 

もう何が何やら……であった。でも……ウェールズの覚悟だけは感じた……それが納得できるのかは別としてだが……

 

『………………』

 

そんな言葉を交わした二人の間を沈黙が支配する……

 

「あ……」

「え?」

 

そんな沈黙を闘夜が壊し体をルイズに向きなおす。

 

「ご結婚おめでとうございます」

「……は?」

 

いきなり何?みたいな顔にルイズはなった。それを見てあれ?みたいな顔に闘夜はなる。

 

「明日……ワルド様と式を挙げるんですよね?」

「……誰が?」

「いやルイズ様が……」

「………………え?」

 

そんな話聞いてないよとルイズは肩を落とす……そんな時だ……ふと闘夜に聞いてみたいことが出来た……

 

「ねぇ……あんたはどうなの?」

「どうとは?」

「ワルド様との結婚よ……」

 

なんでこいつにそんなこと聞いてるんだろう……ルイズはそう思いながらも言葉にした……顔が熱い、胸がキュっとするような感覚……

 

だが闘夜の返答は彼女の思いを結果的にかもしれないが裏切るものだった。

 

「良いんじゃないですかね」

「っ!」

「いやぁ、あの人顔立ちは良いし貴族ってやつでしょう?魔法も使えますし良いんじゃないですかね?」

 

そう闘夜は言う……

 

「そう……ね……」

 

ルイズは言葉を絞り出すと歩き出す。

 

「あれ?ルイズ様?」

「………………な」

「え?」

 

ルイズの声がよく聞こえなかったので闘夜は聞き返す……

 

「その顔もう二度と見せんなって言ったのよ!あんたはもう何処へでも行っちゃいなさい!私はワルド様と結婚するから!」

「っ!」

 

そう叫んでからルイズは自室にあてがわれた部屋にいってしまう……

 

逆に闘夜は呆然とその場を動けなかった……

 

「俺……なんか悪いこと言ったのか?」

 

勿論……闘夜のその呟きに答えるものはいるはずがなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りが行われた次の日……ルイズは式場にワルドと共に行った……

 

勿論もう顔を見せるなと言われてしまった闘夜は最後の避難船に乗り込むため、船着き場に向かっていた。

 

「そう落ち込むなよ相棒」

 

そう言って声をかけてきたのは昨晩は鉄閃牙と一緒に部屋で留守番をしていたデルフリンガーである。

 

「なぁに、娘っ子に捨てられたってお前さんのガンダールヴの力さえあれば並の相手にゃ遅れはとらんよ。それにそのうち妖力ってやつも戻るんだろ?そうなりゃ百人力さね」

「あ……うん……」

 

ぼんやりとデルフリンガーの言葉に相槌を打つ闘夜……なぜ自分が怒られたのか未だに分からないのだ……まあ理不尽に怒られるのは何時もの事だがあそこまで言われるほどの事は言ったのだろうか……

 

恐らくもう会うことはなくなったがそれでも気になりはする……そんなことを考えたときだった。

 

「っ!」

 

急に片方の目の視界が歪みだし闘夜は驚く……だが闘夜の驚きを無視してその視界の歪みは落ち着くと何か此処とは違う風景を写し出した。

 

「どうした?相棒」

「何か……変なんだ……違う景色が見えてるって言うか……」

 

デルフリンガーの方を向きながら闘夜が言うと鍔の辺りをカチカチとならしながらデルフリンガーが聞いてくる。

 

「今何が見えてる?」

「何か……キラキラした窓と……ウェールズ様?あと、ワルド様も……」

「やっぱりな……今お前さんはあの娘っ子の視界を見ているんだよ」

「ルイズ様の?」

 

闘夜は首をかしげた。それにデルフリンガーは答える。

 

「あぁ、使い魔ってのは主人の眼となり耳となる力を持つ……多分だが、娘っ子の身に危機が迫ろうとしてんのかもな」

「っ!」

 

そう聞くが早いか闘夜は踵を返し走り出す。

 

「お、おい相棒!どこ行くんだよ!」

「ルイズ様を助けにだよ!このまま行ったら目覚めわりぃ!」

 

そう闘夜が言うとデルフリンガーはやれやれと言った。

 

「お前さんもお人好しだねぇ~。ま、それは良いんだが相棒」

「なんだよ!」

 

闘夜がウッサイなぁと言わんばかりに答えると、

 

「おめぇさん……道わかんのかい?」

「あ……」

 

そう言えばそうだ……闘夜はこの世界の字が読めない……すると、

 

「全く……ほら、相棒。そこを右だ」

「わかんのか?」

「だてに長生きしてねぇ。字ぐらい読めるさ」

「成程ね」

 

そう言って闘夜は人間の体で出せる限界速度を出した。

 

(頼むから……無事でいてくれ!)


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