「いでで!」
「我慢しなさいよ、男でしょ」
そう言ってルイズは水で湿らせた布を闘夜の焼け爛れた腕に当てる。これは前回突然自分達を襲ってきたフードの男の魔法を受けたときにやられた傷だ。
最初、闘夜は隠していたものの痛みに耐える表情をしていたのを怪しんだルイズが半ば強引に腕をみて発覚したのだ。そのためルイズにたっぷり叱られた後現在のようにしないよりはマシな応急処置を受けている。
さて、そんな感じで闘夜たちはアルビオンに向けて空を飛ぶ船に乗っていた。実はこの船を飛ばすのにも色々あったのだがそれは割愛させていただこう。しかしマジで腕が痛い……
何てやり取りを二人でしているとワルドが戻ってきた。
「二人とも、アルビオンが見えてきたぞ」
そう言われ二人は立ち上がると外に出る……すると目の前には巨大な大陸が本当に空を飛んでいてそれが視界一杯に広がった。。
「スッゲェ……」
闘夜は素直に驚いた。妖怪などが蔓延る世界に生きていても普通に驚く光景だ。腕の痛みも忘れ闘夜は興奮している。それを見てルイズはやれやれと肩を竦めた。本当に子供みたいに逐一驚くやつである……と、
「あれがアルビオンよ。国土はトリスティンとほとんど同じくらい」
「だからあんなにでかいんですねぇ」
ルイズの説明に闘夜は感心する。そんなときだった。
「おい!あれはなんだ!」
誰かがそういいその方向を見た……すると雲の中から船が出てきたのだ。
そしてその船は備え付けられていた大砲をこちらに向け……え?
『っ!』
ドン!っと空気が振動した……腹の底にまで響くその音量に闘夜たちは顔をしかめた。
「停船命令か……」
「え?」
ワルドの呟きに闘夜は顔を向けた。
「恐らくあれは空賊だな……面倒なことになったかもしれない」
ワルドがそんな話をしていると船が止まる……そしてそれに合わせ空賊も乗り込んできた……
闘夜は腕が怪我をしているしワルドも今は魔法を使えない状況らしい……勿論船の乗組員達に戦闘能力はない……
その結果、抵抗何てできないまま闘夜たちは空賊に捕まったのだった……
「こんなんで密命達成できるんですかねぇ……」
と、デルフリンガーも鉄閃牙も没収された闘夜は言う。
現在闘夜たちは空賊に捕まり牢屋のような場所に閉じ込められていた。ワルドやルイズも杖はとられたらしい。手紙と指輪はどうにかうまく隠したようだが……
「それでもこの手紙を届けないと……」
と、ルイズは言い、ワルドも頷いた。闘夜もそれはわかってはいるが、かといって現時点ではどうしようもない。妖力があればこの腕の傷も気にせずに済むのだが未だに戻る傾向がない……今回は少し長いのか?
そんなことを考えていると空賊の一人と思われる男が入ってきた……手にはスープと思われる液体が入った皿がある。
「おら、飯だ」
そう言われ闘夜が手を伸ばそうとするとサッと離される。
「だがその前にこっち質問に答えてもらうぜ?テメェら何しに来やがった?まさか今内政が不安定なアルビオンに旅行と言うわけじゃあるまい?」
そういうわけか……と闘夜は眉を寄せた。どうする?まさか姫様の特使です何て言えるわけがない。なので、
「旅行よ」
と、ルイズが短く答えた。すると、スープを持ってきた男がケタケタ笑う。
「おいおい!本気で言ってんのか?こんな時期にトリステインの貴族が旅行?冗談も休み休みいえよ」
そう言いながらも男はスープを置くと部屋を出ていく……まあ、食っておかないと身が持たないし食べておくか……
そう思い闘夜はスープを取るとルイズとワルドにも渡し自分も啜る……まあ材料が悪いのか作った人達の腕が悪いのかそれともその両方か……まあいくら考えても分からないがとにかく学園で飲んでいたスープと比べ不味い液体を胃に流し込み闘夜は息を吐く。
コレからどうするか……まずここからどうにかして脱出し更に武器も取り返さないといけない……妖力さえ戻ればこの程度の壁なんか素手でぶち壊せるが人間の状態でしかも両手を負傷しているこの状態ではどうしようもない……さてどうするか……
そう思ったときだ。また扉が開かれて入ってきたのは先程スープを届けてくれた男とその男を後ろに従え、汚れたシャツとズボンに髭を生やした一人の男の二人だった。
「おめぇら……まさかアルビオンの貴族派じゃねえだろうな?」
開口一番、髭を生やした方の男が聞いてきた。貴族派?なんじゃそりゃ……
「お前たちになにか関係があるのか?」
そう聞いたのはワルドだ。その問いかけに髭の男は笑いながら答える。
「いんや、だとしたら悪かったと思ってな。俺たちは貴族派の方々と取引をしてるお陰で飯食って生きていられるのさ。感謝してもしきれないとはこの事だ。だから貴族派の人間なら港まで無事お届けしなきゃならん」
そういわれ闘夜は貴族派と言う言葉は分からないがここで貴族派と言えばアルビオンに行けると言うことか……と理解した。なので、
「ルイズ様……ここは貴族派って言っときましょうよ」
と、ルイズにソッと耳打ちする……だが次の瞬間、
「はぁ!?何で私が裏切り者たちの貴族派を名乗らなきゃならないのよ!」
部屋がビリビリ言うほどの大声でルイズは言った……この小さな体からよく出てくるなと思うほどの大きな声にワルドや闘夜だけではなく空賊の二人までビックリするほどだ。
「…………あ……」
静まりかえった場の空気にルイズはふと我に返る……
「成程……つまりおめぇらは王党派ってことか……」
っと、髭の男が言うとルイズは肩を震わせ、
「そ、そうよ!私達はトリスティンからの大使よ!」
ルイズの必殺技・《開き直り》の炸裂である。こうなったら堂々と胸を張り言ってやるとルイズは立ち上がる。張るほど無いが……
それを見て一瞬髭の男はキョトンとしたが次の瞬間笑い出した。
「な、何がおかしいのよ!」
「いやおめえさん大したもんだな。こっちは貴族派の味方だって言ってるのに態々敵である王党派のものだって言うのかよ……気に入ったぜ」
そう言って髭の男は笑うのをやめ、変わりに不適な笑みを浮かべるだけにした。
「おい、もう先のねぇ王党派何か捨てて貴族派にその大使様の情報を流しな……」
『っ!』
ルイズだけじゃない。闘夜もワルドもピクリと体を震わせた。
「なぁに、貴族派の連中も金を出し惜しまねえさ。身の安全も保証してやる。どうだ?」
そう言う髭の男にルイズは唇をキュっと結び……そして!
「お断りよ!」
キッと睨み上げながらルイズはハッキリと言い切った。
まぁ……ルイズの性格を考えればこうなるだろう。そう思いながら闘夜は髭の男にいつでも飛びかかれるように準備をする。こうなりゃ自棄である。髭の男はリーダー格っぽいのでこいつを人質にとればなんとかなるか……?そう考えたときである。
「ふぅ……君のような貴族がいれば今のような状況にならなかっただろうね……」
「え?」
先程までの粗暴な声音とは違う……優しげな声。気品を感じるその声音にルイズは唖然とする。
「おっと、名乗り直さないといけないようだね」
そう言って髭の男は自分の髭を……と言うか付け髭をベリベリと剥がし頭に巻いたバンダナを外す……さらに顔についた泥を拭うとそこに現れたのは非常に整った顔立ちをした一人の男……
しかしどこか威厳を感じさせるそのオーラを持つその男は柔和な笑みを浮かべる。
「初めまして、僕はアルビオン皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
『え?』
ルイズと闘夜はポカンと間の抜けた声を漏らした……それを見て髭の男……いや、ウェールズはクスリと笑う。
「ほ、本当ですか?」
ルイズがやっと口を開いた。するとウェールズは懐から一つの指輪を出した。
「アンリエッタから指輪を受け取っていないかい?」
「あ、はい」
そう言ってルイズが指輪を出して互いの指輪を近づけると……
「あ……」
「おぉ……」
すると互いの指輪につけられた宝石がキラキラと輝きその二つを繋ぐように虹が生まれたのだ。
「トリスティンとアルビオンの友好の証だ。これで信用してもらえたかい?」
ルイズは黙ってうなずくと今度は手紙を出した。アンリエッタからいただいた手紙だろう。
それをウェールズは受けとると開封し読む。
「ほぅ……アンリエッタは結婚するのか……ふふ、こんな状況じゃなかったら祝いでも送らなきゃならなかったね」
そう言いながら読み終えたウェールズは手紙を畳むと、
「分かった。手紙を返そう……ただ、生憎ここにはなくてね……申し訳ないがニューカッスルまでご同行願えるかな?」
「にゅーかっする?」
闘夜が首をかしげると、
「我が城さ」
そう、何処か皮肉った感じにウェールズは言ったのだった……