「ハグハグ!」
追い剥ぎの襲撃を受けた日の夜……闘夜たちは現在ラ・ロシュールと言う港町の宿にて休息兼食事をとっていた。先程キュルケたちの参戦もあって無事に追い剥ぎを撃退したものの偶然通っただけの自分達を襲っただけだろうと言うワルドの言葉で深追いはせず闘夜たちはそのままこの港町までやって来たのだが、交渉を行ったワルド曰く残念なことに今日、明日は出ないらしい。ルイズには焦りの表情が浮かんでいるが焦ってもしょうがないので闘夜は出された肉にかじりつく。
フォークを肉にぶっ刺しそのままかじりつくと言うテーブルマナー的には宜しいわけないのだがそれには触れない。と言うか腹が減ってて仕方ないのだ。恐らくガンダールヴの力を使った影響だと思われるがやはり人間の姿でガンダールヴの力は負担を掛けているらしい。一応妖力があるときとは比べ物にならないがそこそこタフさには自信があるのだが……
因みにギーシュは馬を走らせ続けたせいか死んでいる。ソッとしておこう。更にキュルケとタバサも食べているがこっちはキッチリとテーブルマナーが守られている。ルイズとワルドも同様だ。
そんなメンバーで行われた食事が終わるとワルドが懐から鍵束を出した。今晩の宿の部屋の鍵らしい。
「メンバーはキュルケとタバサにトーヤとギーシュ、そして僕とルイズだ」
「え!?」
ルイズはワルドの言葉にビックリ眼になった。
「ちょ、ちょっと待って!私達まだ結婚も……」
「二人きりで話したいことがあるんだ……」
ワルドの真面目な瞳にルイズは言葉がつまる。それからワルドは闘夜を見て……
「構わないだろう?」
一瞬闘夜は俺?みたいな感じになった。別に……いいんじゃない?
「積もる話もあるでしょうし良いんじゃないですか?許嫁なんでしょ?」
闘夜的には気を使ったつもりだがルイズにしてみれば何か違う!と言った感情が胸に去来した。勿論それを顔には出さないが……
「それではまた明日ね」
キュルケが鍵束を持ったのを皮切りに皆はそれぞれの部屋に向かったのだった……
「……………………」
食事を終え部屋に戻ったルイズは思案に耽っていた。ワルドの真面目な話とはなんだろうか……と言うか闘夜も何か他にあるだろう!っとか色々考えた。そんなときワルドがグラスに注いだワインをルイズに渡す……香りだけでも高級品なのがすぐに分かった。元来お酒はあまり嗜まないルイズだがそれを受けとるとワルドとグラスを軽くぶつける。
「二人の再会に乾杯」
ギザったらしいがワルドが言うと様になる言葉だった。そこは流石に年期が違う。ギーシュや闘夜ではこうはいかないだろう。まあ闘夜の場合こんな言葉を思い付きもしないだろうが……
「それでルイズ……姫殿下からの手紙はなくしていないかい?」
「ええ、ちゃんと持ってるわ」
自らの懐にソッと手を入れ確認するルイズ……しかし一体どんな手紙なんだろうか……いや、薄々だがアンリエッタとは幼い頃だけだが付き合いがあることだしウェールズとの関係は凡そだが予想がついていた。
だがそれを言葉にするのはあまりにも危険な物だった。故に考えないようにしておく。
「不安かい?」
「え?あ、そう言うわけじゃなくて……それより大切な話ってなんなの?」
ルイズは素早く話題をすり替える。それにワルドは合わせてくれた。無理には聞かないよと言うことだろう。
「あぁ、まずは君に謝らないといけない。長いこと君に会わなくてすまなかった」
「別に……忙しかったんでしょう?」
「言い訳をさせてもらうなら……その通りだ。魔法衛士隊は暇が殆どない。しかも隊長になると暇なんて皆無だ……だが君のことを忘れたことはない」
「ワルド様……」
更にワルドは続けた。
「そして君は素晴らしいメイジに成長していた。昔君を見て感じたオーラ……僕の眼は曇ってなかったことを確信したよ」
「え?」
その言葉にルイズは首をかしげた。自分が優秀とはお世辞にも……いや、寧ろゼロのルイズと言われる故に落ちこぼれだと思っている。そんな自分をどう贔屓目に見てもエリートの部類に入るであろうワルドは素晴らしいメイジだと言う?
「君はまだ自分の力に気づいていないだけだよ。例えば君の召喚した使い魔」
「トーヤのこと?」
ルイズが確認をとるとワルドは力強く頷いた。
「彼の左手のルーン……あれは始祖・ブリミルの使い魔にしてあらゆる武器の使い手であるガンダールヴの証だ」
「ガンダールヴ……?」
ルイズは一瞬信じられなかったが確かに闘夜が体が軽くなるときがあるといっていた気がする……
「誰もが持てるわけじゃない。君だけの力さ」
「そんな……」
そもそも闘夜は人間じゃない……今は人間だが暫くすれば戻るらしい。それに加えガンダールヴ?いろんな情報があるため理解が遅れてしまう。
「きっと君は将来トリステイン……いや、ハルケギニアに名を残すメイジとなるに違いないだろう……だからルイズ」
そう言って一拍おいたワルドは言葉を続けた。
「この任務が終わったら僕と結婚しよう」
「………………へ?」
ルイズは突然のプロポーズに固まった……だが慌てて正気に返ると、
「ま、待って!私はまだ子供よ?」
「そんなことはない……もう16だ。自分のことは自分で決められる。お父様だって僕なら認めてくれるさ」
ルイズは呆然としていた。結婚?あまりにも自分には関係ないと思っていた世界だ。それが今目の前に来ている……しかし、
「ごめんなさい……まだ結婚とかは考えられない……」
何か脳裏に情けない声でクゥンと鳴く闘夜がちらつくのを弾き飛ばしながらルイズは答えた。ぶっちゃけ今はアンリエッタの任務もあるし急すぎて全く実感がわかなかった。
それに対しワルドは優しく首を横に振る。
「良いよ。のんびり待つさ」
ルイズはホッとしたのだが……それがなぜなのかに首をかしげた。
仮にも昔好きだったと思う相手だ。しかも顔はよく性格もこれだし貴族でエリート街道まっしぐら……これ以上無い好物件と言う奴だろう。しかし……この男じゃないと何かが叫んでいる。その声の正体は……まだルイズにはわからなかった。
「やぁ!とぉ!」
次の日……闘夜は朝からデルフリンガーを振っていた。昨日襲われたときに分かったがガンダールヴの力は人間時でも使える。今までなら人間時は戦うすべがなかったが今はあると言うことだ。
と言うわけで訓練の真似事をしたのだが何故かガンダールヴの力が本調子じゃないしそもそも剣術何て習ったことがない闘夜には無意味だと事実を知っただけだった。
「なぁ……なんかガンダールヴの力がうまくでないんだ……昨日はもっとちゃんとでたのに何でだか分からないか?」
と、振っていたデルフリンガーに聞くと、カチカチと鍔をならしながら答えてくれた。
「そりゃおめえさんの心が震えてねぇのさ。ガンダールヴは元々主人を守るための力だ。逆に言えば守りたいと思えば思うほど力を増す。その逆もまた然りってやつさ」
「でも俺ルイズ様のこと守りてぇよ?」
と、闘夜は言う。しかし、
「別にそういってるわけじゃねぇさ。ただ今のお前さんには迷いがあるんだよ。それが影響してんだ」
迷い……確かに何か胸の中がモヤモヤすると言うか……ムカムカすると言うか……そんな感じだ。
それにしてもルイズとワルドは昨晩どう過ごしたんだろう。なんだろう、一緒に一晩過ごしたと言う事実を思ったら、なぜか余計にムカムカしてきた。なんだこの感情……よくわかんねぇ。そんなときである。
「やあ、おはよう」
「あ、ども……」
突然後ろから話しかけられ驚きつつ後ろを向くとワルドがたっていた。噂をすればなんとやらってやつである。
「どうしたんですか?」
急に現れたワルドに闘夜は若干困惑しつつ聞くと、
「ここではね……もう遥か昔のことだが貴族の決闘場だったんだよ」
「へぇ~」
そうだったのか……妙に広場っぽくなってると思ったがそう言う一面があったわけね……しかしなぜ急にその話を?と闘夜が聞くと、
「どうだいトーヤ君……いや、ガンダールヴ。僕と戦ってみないかい?」
「っ!……なぜそれを……」
闘夜は自分でも最近知ったばかりのこの力の名前急に出てきたことに驚きを隠せなかった。
「僕はそういった伝承なんかが好きでね……それに捕まったフーケから聞いたんだ。君の戦いっぷりをね。そこから推測するのは難しいことじゃない」
そんなもんなのか……と闘夜は唖然とした。案外ちょっと調べれば自分の力は調べられる程度には有名らしい。そんなことを思っているとそこに、
「ちょっと!二人とも何してるの!?」
「ルイズ様!?」
やって来たのはルイズだ。闘夜はその登場にまた驚く。
「立会人がいると思ってね」
そう言ってワルドはレイピア型の杖を抜く。それを見てルイズはまた叫んだ。
「二人ともやめて!怪我するわ!」
「悪いがルイズ!貴族とは難儀なものでね……自分とどっちが強いか……それをはっきりさせたくなる生き物なのさ」
完全にワルドはやる気だ……もう引けないと闘夜もデルフリンガーを構える……丁度良い……何かイライラしてたし気を紛らわせるには十分だ。そう思って剣を握ると左手のルーンが輝く……力がわいてきた。
「行くぞ!」
闘夜はダン!っと地面を踏むと一気にワルドとの間合いを詰める。これだけで並みの相手なら十分だろう。そう、並みの……ならである。
「早いが……単純だ!」
そう言って回避したワルドは杖で闘夜に突きを放つ。それをなんとか回避するがそのまま連続の突き……これもなんとか回避……しかし、
「魔法衛士隊は詠唱と共にこう言った攻撃も行うのだよ。そうすることで隙を押さえられる……こんな風にね!」
そういった瞬間空気の塊みたいなものが闘夜の腹をぶっ叩いた……
「ごほっ……」
胃から逆流してくるなにかを感じながら闘夜は後方に吹っ飛び近くにあった樽の山に突っ込んだ。
「ごほっ!……」
闘夜は咳き込みながら樽の中から立ち上がった……なんだこの人……マジで強い。
「ふむ……根性はあるようだが……」
だがその間にワルドは間合いを詰めると杖を闘夜の鼻先に突きつけた……
「まだまだだね。君ではルイズは守れそうにないな」
「っ!」
闘夜はその言葉に歯を噛み締めることしかできなかった……