「晴れて良かったですね」
姫様から密命を受けた次の日の朝……闘夜は背伸びをしながらルイズに言うが緊張に体と表情を固くしていた……おいおい、大丈夫なのだろうか……
ギーシュはこんなにリラックス……と言うかなにも考えてないだけかもしれない。
とまぁ、こんな感じだが結局一晩明けても闘夜に妖力は戻らなかった。さっさと戻ってもらわないと困るがこればかりは神のみぞ知ると言う奴だ。仕方ない。
するとギーシュが口を開いた。
「あぁ、そうだった。ルイズ、僕の使い魔もつれていって良いかな」
「あんたの使い魔?」
ルイズはそう聞き首をかしげた。そう言えばこのギーシュの使い魔を見たことがなかった……
「別に良いけどどこにいるのよ」
ルイズがそういうと闘夜も周りを見渡す……勿論使い魔と思わしき動物の影も形もない……すると、
「どこってここにいるじゃないか……おいで!ヴェルダンテ!」
そうギーシュが言った次の瞬間、彼の足元の土がモコモコと動いたかと思うと飛び出してきたのはでっかい土竜だった……
「も、土竜?」
「ジャイアントモールだ!全く……これだから……」
そうギーシュが訂正しつつヴェルダンテと言うデカイ土竜を撫でる。
「あぁヴェルダンテ……何てかわいいんだ……」
(趣味悪いなぁ……)
と、闘夜は苦笑いしつつ頭をかいた……しかしルイズは大きくため息をつく。
「ちょっとギーシュ……これから行くのはアルビオンよ?ジャイアントモールが行けるわけないじゃない」
「あ……」
ギーシュは、しまったと口をポカンとした……それを見て闘夜は首をかしげた。
「何でいけないんですか?」
「アルビオンは浮遊大陸よ?」
浮遊?つまり……飛んでいるのか!凄いな!と闘夜は素直に感心してしまった。そんなときである。
「モググ」
「ん?何よ」
ルイズの近くにヴェルダンテが寄った……次の瞬間!
「モググ!」
「キャア!」
突然ヴェルダンテはルイズに覆い被さった。
「ちょ!何すんのよ!」
ルイズは突然襲い掛かられもがくが大きさが違うため押し返せない。
「ど、どうしたんですか?」
闘夜がどうするべきか困惑しているとギーシュが、
「もしかしてルイズ、宝石かなにかを持ってないかい?」
「宝石?」
一瞬そんなものはない……と言いそうになったがそう言えばアンリエッタ姫から受け取った指輪があったのを思いだし懐から出す。
「もしかしてこれのこと?」
そうした次の瞬間である。突然ヴェルダンテがルイズの手に持っていた指輪に鼻をくっつけたのだ。それを見てルイズが飛び上がる。
「あぁ、言い忘れていたけどヴェルダンテは宝石とか好きでね」
ギーシュ曰く土系統のメイジである自分にとってこれ以上ない使い魔らしいが何とも嫌な使い魔だ。
何て闘夜はのんびり考えていた時……
『うわ!』
急な突風……それにより闘夜達は咄嗟に目をつむり更にヴェルダンテは風に乗ってそのまま星になった……
「ヴェルダンテェエエエエエエエエエエ!僕に使い魔に何をする……んだ……」
いきなりのことにギーシュは眼を引ん剥いて驚愕し風を起こした人物を睨み付けた……とたんに顔色が悪くなった。百面相かあんたは……
「すまない……君の使い魔だったのか……ただこっちも咄嗟だったもんでね……」
そう言って降りてきたのは見たことない空飛ぶ動物に乗った筋肉質の髭が似合う男……
「知ってるんですか?」
闘夜が相当とギーシュが驚いたような表情をした。
「知らないのか君は!あの人は王室でも直属のエリートのメイジしかなれないグリフォン隊の人だ!」
「ふむ、自己紹介が省けて助かる。じゃあ改めて、グリフォン隊・隊長のワルドだ。アンリエッタ姫殿下から命を受けて君達の護衛をさせてもらうよ」
それを見ながらルイズは驚いたような顔をした。そして呟く……
「ワルド様……」
「久しぶりだねルイズ」
そう言ってワルドはルイズの手を取って立たせた。
「知り合いなんですか?」
闘夜が聞くとルイズよりも前にワルドが答えた。
「ルイズと僕は婚約者同士なんだ」
『え?』
闘夜とギーシュは一瞬固まる……それを聞いてルイズは慌てた。
「で、でも……」
昔の話よ……と言おうとしたがその前に闘夜が口を開いた。
「いやぁ~、ルイズ様許嫁居たんですね。今まで聞いたことなかったから知りませんでしたよ。祝言あげないんですか?」
「あ、ううん……」
あまりにもあっけらかんと言う闘夜にルイズはムカッとした……じゃあなんと思われれば満足なのか……それはまだ彼女には理解できなかったのだった……しかし、
(なんだろ……何か気に入らん……)
と、闘夜も心中は穏やかじゃなかったのだが……それは余談だろう。
その後、闘夜たち四人は空中都市アルビオンに向けて出発したのだが……
「なんだって僕は男と相乗りせねばならないんだ……」
「俺馬に乗れないんですもん」
と、馬に二人乗りするギーシュと闘夜の先を飛ぶワルドとルイズ……
「ちょっと待って!二人を置いてくつもり⁉」
「ここでついてこれないなら足手まといになる」
「ダメよ!」
ルイズは自分でも驚くほど口調が強くなった。ワルドも若干面を食らった顔だ。そして、
「もしかしてどちらか君のボーイフレンドだったのかい?」
「そ、そんなわけ!ギーシュは同級生でトーヤはそもそも使い魔ですわ!」
ルイズは突然の問いに逆に面を喰らう番だった。しかしそれを聞いたワルドは笑う。
「いやぁ、よかったよかった。婚約者に好きな人ができたなんてショック死してしまうよ」
そういわれたときルイズの胸には疑問が生じる……昔はワルドが好きだったと思う。だが最後に会ったのも大分昔だしなにより憧れの方が強かったと思う。じゃあ今好きな人がいるのか?そう言われると分からない……しかし、
(何でここでトーヤが出てくんのよ)
脳裏に浮かんだ映像を振り払いルイズは思考を回転させる……取り合えず今は密命だ。とにかく今は懐にしまった手紙をアルビオン皇太子……ウェールズに渡さなければならない。
そう思ったときである。突然下の方を走っていた闘夜たちの馬がけたたましく鳴いたのだ。
「なに!?」
ルイズとワルドが下を見ると二人を囲むように追い剥ぎが現れたのだ。
「うひゃああああ!」
ギーシュは腰を抜かすが闘夜は鉄閃牙に手を掛け……
(やべ、今の俺は人間だから使えねぇんだった)
そう思い至りそのまま背中のデルフリンガーを抜いた。
「お?よう相棒!俺っち寂しくて死んじまうかと思ったよ」
「わり、緊急事態だ」
「みたいだな」
左手のルーンを輝かせながら闘夜は追い剥ぎを見渡す。ガンダールヴの力は人間でも有効らしい。
そのうちの一人が来た。
「ちぃ!」
「なに!」
だがそれより速く闘夜は駆け出すとそのまま飛び蹴り……身体能力はこれでも大分高くなっている。並みの相手なら十分だろう……しかし……如何せん数が多い。
(くそ……妖力が戻ってればこれくらいなら……)
もう慣れっこだがやはり人間の弱い体ではスタミナがもたない……それを闘夜は身をもって知っている。妖力があるときはできたことも人間ではできない。
「くらえ!」
「っ!」
今度は後ろから来た……しかしそれはワルドの魔法で弾き飛ばされる。このままだと面倒だなぁ……そう思った次の瞬間、突然氷と爆炎が追い剥ぎを吹き飛ばした。なにごと!?っと闘夜は魔法が飛んできた方向を見るとそこには……
「はぁい、ダーリン」
「……………………」
手を振るキュルケと大きな杖を持つタバサがタバサの使い魔の背に乗って立っていたのだった……