異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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舞踏会

「ふむ……まさかミス・ロングビルがフーケだったとわのぉ……」

 

と、ため息を吐くのはオスマン学園長だ。

 

さて、破壊の杖を取り返しルイズ、キュルケ、タバサの三人はそれについて報告を行っていた。

 

「なぜ彼女を雇ったんですか?」

 

と、ルイズが聞くと、

 

「いやぁ、飲み屋で給仕をしておってな?美人だし尻をさわっても怒らんし魔法学院の学園長なんて素敵ですわ、何て言われるし何より魔法も使えたし……つい雇ってしもうたわ」

 

ワッハッハと笑う学園長に対して当たり前ながらルイズたちの冷たい視線が注がれた……さすがに形勢不利と判断しオスマン学園長は咳払いをすると、

 

「ま、まああれじゃ……今回の諸君の活躍を称えシュヴァリエと、ミス・タバサには精霊勲章の申請をしておいた」

 

そう言うとルイズとキュルケは嬉しそうな表情をした……特にルイズは誰かに称賛されると言うことが少なかった反動もあって喜びも一塩……と言う奴だった。だが同時にその興奮を抑える感情が湧いた……それは、

 

「あの……トーヤにはなにもないんですか?」

 

と、ルイズはオスマン学園長に問うた。今回の一件は闘夜抜きでは解決は無理だったと言っても差し支えがないだろう。それなのに闘夜にはなにもないのだろうか……そう思い聞くとオスマン学園長は首を横に振った……

 

「彼は……その……平民じゃからな……」

「………………」

 

ルイズは視線をおとした……そうだ、忘れていたが闘夜は周りからは平民扱いなのだ……ルイズは闘夜の正体を知っている。いや、それでも貴族ではないが勿論例え闘夜が純粋な平民だったとしても何かしらの褒賞はないのかと思っただろう……

 

それに対しルイズは……やはり納得がいかなかった。少なくとも自分の使い魔の功績が認められないのは不満であった……するとオスマン学園長は空気を変えるため言葉を出す。

 

「さて、今夜はフリッグの舞踏会じゃ、今回の活躍もあるし着飾ってきなさい。皆、称賛してくれるだろう」

 

そしてオスマン学園長はルイズを見た。

 

「勿論、君の使い魔君も呼んであげなさい。偶には豪華な食事も良いんじゃないかね?」

「は、はい!」

 

ルイズが返事をするとオスマン学園長は満足そうにうなずいたのだった……

 

 

 

因みにその頃闘夜はと言うと……

 

「ハグハグングングゴクゴクハフハフ!」

 

山盛りのシチューとパンを胃袋に納めていた……

 

「今回はまたよく食うなぁ剣よ……」

 

と、マルトー料理長ですら唖然としていた。まあ清々しいほどのその食いっプリには気分も良かったため不快感はないのだが……

 

「いやでっかい傀儡にぶん殴られたしタップリ食って治さねぇとって思いましてね」

 

普通の人間なら死ぬようなダメージも闘夜は平気だし傷の治りも早い……とは言え腹を満たしていたほうがより効果的なので闘夜はいつもの倍……いや、三倍は食べていた。

 

「おかわりはまだありますからね?」

「ありがとな、シエスタ」

 

と、シエスタに返事をしつつ闘夜はシチューを口に運ぶ。年上だと知った時こそ敬語じゃないのに違和感を感じたがそんなことはどうでもいい。食べたいだけ食べまくるだけだった。

 

それをシエスタはニコニコしながら見守る。それと共に闘夜は腹に食料を詰め込みつつもフーケとの戦いを食堂で教えていた。

 

巨大なゴーレムとの戦いの戦いの部分では皆興奮ぎみに聞いていた……しかし普通殴られたら死ぬだろとその部分だけは信じてもらえなかった……いや、冗談だと思われたらしい。まぁ……そう見えますよね。

 

というわけで、

 

「ご馳走さまでした」

ちゃんと挨拶してから闘夜はシエスタに使った食器を手渡す。もう腹一杯だ……

 

「ふぁあ~……」

 

それから大きな欠伸を一つして満腹感による眠気に襲われた。これは生理現象なのでしかたあるまい……と内心言い訳しておく。

 

そんなときに、ふと家族のことが脳裏にフラッシュバックした……

 

(父さんや母さんたち元気かな……)

 

ここに来てそこそこの月日がたった……そうなるとやはり自分の安否を心配させてるんじゃないか……そう思うと心が痛い。

 

とは言えだ……どうやって帰ればいいんだろう。歩いて帰れるような場所ではないだろう……

 

「トーヤさん?どうしたした?」

「あ、なんでもないよ」

 

少しばかりセンチになっていたところにシエスタが心配そうにこっちを見てきたので闘夜は大丈夫だと言った。

 

なぁに、なんとかなるさ……と言った感じだ。すると、

 

「ん?ルイズ様が呼んでる」

『はい?』

 

厨房の皆は闘夜の言葉に首をかしげた。無論皆に聞こえるはずはないが闘夜の聴覚は鋭敏だ。鼻も効くが耳も良い……その耳が外で闘夜を探しているルイズの声を聞き付けたのだ。

 

「んじゃ、主人が呼んでるのでここで失礼しますね」

 

そう言って闘夜は厨房を出ていった……それを見ながらマルトー料理長は、

 

「声なんか……聞こえたか?」

『全然……』

 

と、マルトー料理長の質問に全員が首を横に振ったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあった日の夜である……闘夜はその後ルイズと合流し、この舞踏会に出るように言われてきたのでバルコニーに出て適当に食事を摘まんでいた。

 

若いので時間さえおけば闘夜は幾らだって食える。昼間あんなに食ったって変わらず食えるのだから大したものである。

 

「よっく食うなぁ……相棒」

「まぁな」

 

と、ついでに話し相手の代わりに部屋から持ってきたデルフリンガーを鉄閃牙と並べて立て掛けておきながら闘夜は豪華な飯をかっ食らう……マジうまいなこれ……

 

「それにしても……」

「ん?どうしたんだ相棒」

「いや、フーケとかと戦ったときに体が軽くなったり破壊の杖を触ったときに使い方が頭に流れ込んできた感覚がしたんだ……なんだったのかなぁってさ」

 

闘夜は何気なくそういった。するとデルフリンガーが、

 

「そりゃおめぇ……ガンダールヴの力だよ」

「がんだー……るぶ?」

「そうさ。あらゆる武器を使いこなす力だよ。武器を持ったときはそれを使いこなさせるように力が働く。それが結果として体が軽くなったりするのさ」

 

武器を使いこなす……そういったときどこか納得した。そうか、そういうことか……

 

「そうか……だけどそれでも鉄閃牙は使いこなせないのね……俺って」

 

と、また錆び刀のままの鉄閃牙に闘夜は苦笑いしながら言った……それを聞いたデルフリンガーは少し思案すると……

 

「こいつは……まるでおめぇを見定めてるって感じだぜ」

「え?」

 

デルフリンガーの言葉に闘夜は首をかしげた。

 

「いや、何となく通じるもんがあってよ……こいつはお前さんが自分の力を使うのに相応しいのか……いや、器があるのかを見定めてる感じだ。おめぇなら自分の力を振るわせても大丈夫だと……認めるまでは自分の力を自由には使わせてやらねぇって感じたぜ?」

 

そういや刀々斎さんにも似たようなことを言われたような気がした。

 

「つまり鉄閃牙は俺をまだ認めてねぇってことか?」

「認めてねぇ訳じゃねぇさ。ただ信じきってるわけでもねぇ……そんな微妙な感じだな」

 

そう言うことか……と思っていると、

 

「はぁい、ダーリン」

「あ、キュルケさん」

 

バルコニーに出てきたのは胸元を大きく開いた服装をしたキュルケだった。そのキュルケはこっちに来ると、

 

「ほら、ダーリンもこっちに来なさいよ」

 

「あ、ちょっと」

 

されるがまま引っ張られていくと中にいたのはタバサだ。タバサも小柄で体の凹凸は少ないものの顔立ちは気品溢れる上品な美人の卵である。そんな彼女は服装のせいかいくぶん大人びて見えた……

 

「どお?私が選んだの」

「え、あ、はい……すごく二人ともお似合いです……」

 

こういうのに慣れていない闘夜ではこの辺が限界である。それでもキュルケを満足させるには充分だったようだ。

 

 

 

その後キュルケにダンスの申し込みが殺到し闘夜は足早にその場を去っていた……

 

そろそろ食うのも飽きたし帰ろっかなぁ、何て考えていると、

 

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様の……おな~り~!」

 

ルイズ様?と闘夜は思いながら声のした方を向く……そしてその先にあった光景に闘夜は息を呑んだ……

 

白い肌……薄いピンクの唇……あげられた輝く髪……どれをとっても文句の言いようがない美人がいた……無論ルイズである。

 

「おう、おかえり相棒」

「あ、ああ……」

 

闘夜は慌ててバルコニーに出た……と言うか逃げた。なんだあの美人……

 

そもそもルイズは性格はともかく美人である。それが化粧をし、着飾るとあそこまでとは……

 

普段ゼロだとバカにする男たちもお近づきになりたいのか声をかけているしその破壊力が如何程か分かるだろう。

 

「女は化けるって……本当のことだったんだな……」

「どうしたんだ急に」

 

闘夜の呟きにデルフリンガーは質問した……それに対し闘夜は、

 

「知り合いの不良法師に……ちょっとな」

 

と、大体の悪いことを教えてくれた人を思い出しつついると、

 

「なぁに黄昏てんのよ」

「あ……る、ルイズ様……」

 

突然声をかけられ振り替えるとそこにはルイズがいた……闘夜はよく分からない緊張をしてきていたものの何とか平静を装う。

 

「いやぁ……美味しいものがたくさんあって面白いですねぇ……」

 

そう言うとルイズは若干ひきつった笑みを浮かべた。

 

「あんたね……他になんかないわけ?」

「え?あぁ……みなさん楽しそうですね?」

「あとは?」

「????」

 

闘夜は首をかしげた。ルイズが何か望んだ答えがあるのは察したがそれが何かとは判断できない。すると痺れを切らしたルイズが、

 

「このドレスはいかが?ジェントルマン」

「ああ、そっちですか……イッデェ!」

 

ポンッと手を叩いて納得すると踵で足を踏まれた……なにげに高いヒールなので闘夜は痛みで飛び上がった……

 

「安心しなよ嬢ちゃん、相棒のやつお前さんが出てきた途端余りの綺麗さに驚いてこっちに逃げてきたくらいなんだからよ」

「…………そうなの?」

 

ルイズはデルフリンガーの言葉を聞いて闘夜を見た。それを涙目の闘夜が見返した。

 

「え?あ、はい……綺麗だなぁって……女は化けるってほんとだなぁとは思いましたけど……」

 

そう言うとルイズは少し照れ臭そうな表情をした……それを見ると闘夜も少し照れ臭い。微妙な空気がその場を支配した……するとそこに音楽が聞こえてくる……それと共に中では男女が手を取り合い踊り始めた。それを見たルイズは、

 

「ね、ねぇトーヤ……い、一緒に……踊ってあげても……よ、よよよよくってよ?」

「え?あいや……俺盆踊りくらいしか……」

 

闘夜もその誘いがルイズの後ろの方で行われているダンスだと言うことくらいは感づいた……だからこそ踊れないと言う。しかしルイズは関係ないとばかりに闘夜の手をとった。

 

「大丈夫よ、私に合わせれば良いわ」

 

そう言ってルイズの動きに固いながらもとりあえずついていく闘夜……それを見てルイズは満足そうな顔をした。

 

「上手いもんじゃない」

「そうですかね……」

 

そんな会話を交わす……すると、

 

「ありがとね……」

「え?」

 

突然の礼に闘夜は驚く。しかしルイズはそのまま続けた。

 

「ゴーレムから助けてくれた……ギーシュの時もそう……トーヤはいつでも私の味方で居てくれた……だからありがとうよ」

「ルイズ様……」

 

闘夜もそれを聞いて笑う。

 

「だって俺ルイズ様の使い魔ですし……」

「トーヤ……」

「故郷に戻りたい気持ちもあります……でも同時にルイズ様を守りたいとも思ってます。俺は使い魔だし……でもそれとは別に本心からルイズ様と一緒にいたいって思ってます。これからも何があっても守ります……守りたいです」

 

ニッと笑う闘夜……それを見てルイズは真っ赤になった……そしてそっぽを向きつつ、

 

「と、当然よ」

 

と言った……

 

そんな二人はいつまでもいつまでも……音楽がやむまで二人で踊っていたのだった……

 


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