絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 26 【銀河に煌めく金色の華】 -A-

 破滅の爆炎は確かに希望を乗せた船を飲み込み、奇跡へ手を伸ばす者たちを砕いたはずだった。だが、あの瞬間……。

 

「ポッド展開ッ! 出動態勢ッ!」

「シュルシャガナで盾にッ!」

「イガリマでみんなを繋いでェッ!」

「天羽々斬で翼を為しッ!」

「イチイバルでブッ飛ばすッ!」

「絶対に届かせるッ! ガぁングニィィィィィルッ!!」

 

 即興で作り出した五つのアームドギアの合体した飛翔形態。爆散するポッドを貫いたそれは、ほんの僅かな――遠目だと視認すら不可能なほどのか細い光の線となり渦の中に消えていった。

 伸びる闇の手を振り払った先に見えた目標地点……一枚のヘキサゴンウォールに守護られながら、バラージの盾は淡い白銀の光を湛えながら其処に鎮座していた。最早形振りなど構わず必死に手を伸ばす。ただ伸ばす。すぐそこに在る親愛なるものたちの手を掴み取る為に。

 そうして伸ばした手はやがて、一斉にバラージの盾に触れていく。振れた掌から石の盾へ、脈打つように光が沁み渡って往く。そして――

 

(みんな、必ず来てくれると信じてた……ッ!!)

 

 覚えのある声に反応して目を開くと、水のように流れる光の中に、絆を繋ぎし救世の英雄――マリア・カデンツァヴナ・イヴが佇んでいた。

 

「マリアッ!!」

「マリアぁぁッ!!」

 

 真っ先に飛び出した調と切歌と抱き締めるマリア。その優しい笑顔は何ら変わることが無くその身の無事を示しているようだ。響たちもすぐに駆け寄り空いた手を握り締めていく。

 

「マリアさんッ!! よかった……ッ!」

「思ったよりも、元気そうじゃねぇか」

「息災ならば何よりだ。……まったく、私にあんな重責を託すなど」

「ゴメンね翼。でも、あんな事を託せるのは貴女しか居なかったから。……それに、今の状況を無事と言うには、ちょっと厳しいわね」

 

 マリアの言葉と共に光の中に映像が映し出される。其処には闇に侵食されて上半身だけが露出している状態のウルトラマンたちが居た。

 

「エックスッ! みんなも……ッ!!」

「みんな闇の侵蝕を受けてしまったわ……。私はこのバラージの盾とフィーネの力で、辛うじて”私”と言う確固たる意識を保てているだけに過ぎない。それも他のウルトラマンたちと繋ぎながらだから、私自身いつ闇に侵食されてもおかしくは無いわ」

「だったら一刻も早く、みなさんを取り戻さないといけませんねッ! もちろんマリアさんも一緒にッ!」

 

 響の言葉に全員が頷く。此処に居る者は皆、その為に此処まで来たのだから。届かせたのだから。そんな彼女らの力強さを確かめると共に小さく微笑むマリア。そして想う。これもまた、みんなが居たからこそ起こせた”安い奇跡”なのだろうと。

 

「みんな、私の手を握って。そして強く想うの。みんなと共に在った、ウルトラマン(大切な仲間)の事を。そうすれば光は、絆は必ず繋がれるッ!

 ――いいえ、私が繋ぐッ!!」

 

 マリアの言葉を受け、全員が首肯と共に彼女の手を握っていく。そして目を閉じ、自分たちと絆を繋いだウルトラマンを想った。強く……ただひたすらに強く。

 マリアを含む装者たち全員の胸のマイクユニットが青い輝きを放っていく。それは先ほど大地が説明した、シンフォギアに宿ったウルトラマンたちのサイバーカードだった。

 マリアの顔に、いや全身に血脈のように赤いラインが浮かび上がり、その胸部には変身した己が身と同じエナジーコアが輝き鼓動している。その鼓動が響に、翼に、クリスに、調に、切歌に、そして大地に流れ交わり繋がっていく。

 閉じた目の中に赤い光が流れ込むと、それぞれの意識は己が心を繋いだ者の下へと飛んで行った。

 

 

 

 見開いた眼の先に、彼は居た。

 運命的な出会いを果たし、青年とユナイトを果たした未知なる超人。幾多の苦難を共に乗り越え、青年は現実に打ちのめされること無く夢への道を歩んでいる。それは全て、彼との出会いと共に歩んだ道のりがあったからだった。

 

「エックスッ! お前の言ってくれた通り、俺は彼女たちと力をユナイトして此処まで来ることが出来たッ! みんなが俺を、仲間と認めてくれたんだッ!!

 そんな世界、守護らなきゃいけないよなッ! お前の無事を想って待ってる、エルフナインちゃんの為にもッ!!」

「大、地……。エル、フ……ナイン……」

「俺はエックスに何度も助けて貰ったッ! だからエックスのピンチには絶対に駆けつけるッ! 何度でも助け出し、力を貸すッ!

 だから、また一緒にユナイトしようッ!! エックスがこの世界で得た、本当に大切なものを守護る為にッ!!!」

 

 ジオデバイザーをエックスに向けて突き出す大地。その中に秘されたエクスラッガーのデータが起動を始め、大地とエックスを繋ぐ虹となってカラータイマーへと吸い込まれていく。その光が彼の身体を駆け巡ると、やがてその全身に光が戻りゆく。そして闇に奪われたと思われていた二つの光……ウルトラマンとウルトラマンティガのサイバーカードが自らを縛る闇をX字に斬り裂き弾き飛ばした。

 そして闇の中で輝きながら佇むエックス。彼は大地に目を向け、強く感謝の言葉を贈った。

 

「……ありがとう大地。君は、私の最高のパートナーだッ!」

「ああッ!」

 

 最高の笑顔で返す大地。その手に握られていたジオデバイザーは銀色から以前の金色に戻り、エックスとの繋がりを示すエクスデバイザーへと再度変化されていた。

 

 

 

 見開いた眼の先に、彼は居た。

 初めてこの地球に降り立った光の巨人。口が達者で、自信と不遜に溢れておりながらも仲間を何処までも信じ貫く強さと優しさを持つ者。互いに弱い自分を見せあった彼とは、友と呼べる者の中でも一線を画しているだろう。

 そんな彼に向けて放つ言葉は、自分でも不思議なぐらい気安いものだった。まるで、あの日散った片翼に向けるかのように。

 

「……ゼロ、来たぞ。お前になんでも出来ると唆されて、本当に身に余る事を成してまで此処まで来た。まったく、私の友はみんな私に無茶ばかり強いて来る。奏も、マリアも、……そしてお前もだ。

 だが、こんなところで止まってなどいられないだろう? お前はそういうヤツだ。どんな暗黒に囚われようとも、自らの力でその運命を切り開いていけるッ!」

 

 彼は答えない。それほどまでに深く侵食されたのかもしれない。だが心配は無い。出来る筈がない。何故ならば、彼がこの身に『なんでも出来る』と信じて無茶を振ったように、彼女もまた彼ならば『なんでも出来る』と信じているからだ。

 だからこそその呼びかけも、彼を焚きつけるようなものになるのも必然だった。

 

「ゼロ、お前と共に飛んだ空が、お前と共に在る事で見出した新たな未来(そら)が奪われようとしているんだ。そんなこと、捨て置けるはずが無いだろうッ!

 ならば為すべき事は一つ……ただ一つのはずだッ!!」

(――そうだ。俺は……俺は、まだ……ッ!)

 

 天羽々斬から放たれる蒼い輝きがゼロのカラータイマーへと繋がっていく。其処から響いてくるのは、絶望の雨の中でこの背を推してくれた、異世界の仲間たちの励ましの声だった。

 

(進めッ!) (進めッ!) (進めッ!) (進めッ!)

「私と共に――」

(――お前と、一緒に……ッ!!)

 

 

  進めッ! ウルトラマンゼロッ!!

 

 

 赤と青の身体に光が漲り、その身に纏わりつく闇を弾き飛ばして、ウルトラマンゼロが風鳴翼の前に膝を付き座る。それはまるで、初めて会ったあの日のように。

 

「あの日お前は言ったな。私とお前、想いが合わさればどこまでだって行ける。どんな敵でも倒せる、と」

「――ヘッ、今でもそう思っているさ」

「フッ……ならば最後の戦場、共に飛ぶぞッ! ウルトラマンゼロッ!!」

「応よォッ!!!」

 

 闇の中で光が強く高まり出す。翼の左腕に嵌められていた石化したブレスレットは砕け、その輝きを取り戻していた。

 

 

 

 

 見開いた眼の先に、彼は居た。

 暖かな笑みで、ずっと傍で見守っていてくれた人。余りにも不器用なこの身にさえも、傍にある光として時に守護り、時に背を押してくれた人。誰もが何処か忘れかけている、愛と勇気を教えてくれた遠くの星から来た男。

 クリスは悩んだ。一体彼に向けて、何を呼び掛ければ良いのかと。何を伝えれば彼を闇から取り戻せられるのかと。僅かな時間が何十倍にも感じられる悩みの中で、彼女は一つの答えに到達する。それは、矢的猛と言う”教師”を心より信頼しているからこそ出せた答えだった。

 

「……センセイ、教えてくれよ。今まで一緒に戦ってきて、本当にアタシなんかでセンセイの役に立てれてたのかい? アタシの歌が、本当にみんなの笑顔を守護る力になれてたのかな……?

 センセイと一緒に戦ってきて、色んな事を教わって、センセイの古い話も聴かせてもらって、アタシも腹の内を曝け出して……」

(クリ、ス……)

「センセイは何度もアタシを選んで良かったと言ってくれたッ! アタシの馬鹿な未来(ゆめ)を真正面から受け止めてくれて、その為にどう進めばいいのか一緒に考えてくれたッ! ……アタシはその言葉を信じてる。センセイを信じてるッ! だから応えてくれよッ!

 ウルトラマン80……アタシの、ウルトラマン……ッ! 矢的先生ェェェェェェッ!!!」

 

 クリスの叫びと共に胸のマイクユニットから蒼い光が放たれ、80のカラータイマーに繋がっていく。そして彼を蝕む闇の中……矢的猛の前に一人の青年が現れた。

 

「君は……」

『俺は礼堂ヒカル。ウルトラマンギンガと一緒に戦っているんだ。

 アンタの事はタロウから教えてもらってた。誰かを教え導く教師であり、大切なものを守護り抜くウルトラマンでもある、誇るべき義弟(おとうと)なんだってな。

 アンタとあの娘を見てると思い出すんだ。俺にも大切な想い出の詰まった学校があって、それを愛する人たちがたくさん居て……。悪い想いに心を囚われてた人もいたけど、みんなあの学校に戻った時、未来(ゆめ)を思い出してまた前に進んでいった。それは、俺も同じだった』

「――ああ、私もそうだった。想い出と向き合う事で、私はまた一歩前に進めた。そしてそれは、きっとあの娘も同じ事を想うようになっていくんだろう」

 

 猛の言葉を聞いて、嬉しそうに己が拳を突き出すヒカル。明るい笑顔ではにかみながら、言葉を放っていった。

 

『応えてやろうぜ、アンタの大切な生徒にさ。俺がお世話になった大事な先生も、愛と勇気でスッゲェ奇跡を起こしたんだ。だからアンタもきっと――』

 

 ヒカルの言葉を聞き終える前に、猛が彼の拳に自分の拳を軽く打ち付ける。そして強く、言葉を返していった。

 

「無論だ。何故なら私は、ウルトラマン先生なのだからッ!」

 

 

 青い光がカラータイマーに吸い込まれ、脈動のように80の全身へ広がっていく。そしてその身体が七色に強く輝いた瞬間、囚われていた彼の姿が消え去っていた。

 一瞬戸惑い、左右を見回すクリス。そんな彼女の頭を、正面から優しく撫でる者がいた。見上げた先には、もう何度も目にして来たあの優しい笑顔が其処に在った。

 

「矢的、先生……」

「クリス、知っていたかい? 私がいつもこうして微笑んで居られるのは、一番傍で大好きなクリスの歌を聴いていられたからなんだよ」

「――ッ!? バッ、こんな時に何言ってんだよォッ!!」

 

 不意打ちで放たれた猛からの”答え”に、思わず赤面して顔を背けるクリス。だが頭は撫でられたままなのは、本気の拒絶ではないからだろう。その証拠と言わんばかりに、石化していたクリスの持つブライトスティックが光と共に元の姿を取り戻していったのだから。

 

『……二人とも、良い顔してるぜッ!』

 

 

 

 

 見開いた眼の先に、彼は居た。

 時に厳しく時に優しく、時に大人らしく時に子供っぽく……無垢な心を守護る為に己が存在を捨ててまで戦い抜いた男。無鉄砲で、頑固で、意地っ張りで……それでもいつだって明るさを振りまいていた男が。

 

「星司おじさん……」

 

 心配そうに声をかける調。無理もない。ウルトラマンエースは、北斗星司は今、光を失いその身体のほとんどを闇に飲み込まれていたのだから。

 間近でその姿を見てしまったからかその顔は不安に染まり、その手は小さく震えていた。そんな彼女の手を、隣にいる切歌が強く握り締める。

 

「切ちゃん……」

「……大丈夫、アタシも凄く震えてるデス。せっかくここまで来たのに、星司おじさんやみんなを助けられなかったら、って思うと迷っちゃって……。

 こんなんじゃ駄目だってのは理解ってるんデスけどね。こんな想いじゃ、大好きな人たちも守護れない……」

「うん……。でも、こうして手を取り合えば迷いは少しでも拭えるよね。それに、私たちは守りたい誰かも護りたい何かも理解ってる。一人じゃ難しい事でも――」

「――アタシたち二人が手を重ねれば、届かせることが出来る。遠く輝く、夜空の星にだって」

 

 いつしか震えは止まり、二人顔を見合わせて笑顔で首肯する。そして闇に蝕まれ光を失った彼に向けて大きく声を放っていった。

 

「星司おじさん、あの時約束したよねッ! 今は私たち二人が、星司おじさんを支えるんだってッ!!」

「だからココまで来れたデスッ! 星司おじさんを助ける為に……支える為にッ!!」

「だって私たちはおじさんが大好きだからッ! おじさんには、本当に感謝しているからッ!!」

「おじさんからは大切なことをたっくさん教えてもらったデスッ!! まるで、本当の【お父さん】のようなあったかさをくれたデスッ!! ……だからッ!!」

「「――(アタシ)たちは最後まで、星司おじさんと一緒にみんなの未来(えがお)を守護りぬくんです(デス)ッ!!!

 だから起きて……ウルトラマンエースゥゥゥゥッ!!!」」

 

 調と切歌の言葉と共に、二人のマイクユニットから小さな青い光が放たれる。光はエースのカラータイマーに向かう最中で交錯し、一つの光となって飲み込まれた。そして星司の前に、一人の男の姿となって表れた。その男を、星司は知っていた。

 

「お前はショウ……ビクトリー」

『ウルトラマンエース、俺も貴方と一緒に戦わせてもらったから分かります。貴方の強さと優しさを。

 かけがえのない仲間の存在……守護るべきものの存在。それが俺を強くしてくれた。ビクトリアンと言うただの種族の肩書ではなく、同じ地球(ほし)に生きる生命として本当に大切なものがなんなのかを、俺は知ることが出来た』

「……あの娘たちもそうだな。本当に大事なものを見出したからこそ、俺を支えられるまでに強くなった。

 俺が教えられたことなんて本当に些細なことでしかない。それを自分たちの手で掴み取ったからこそ、俺と共に立つ為に此処まで来れたんだろう」

 

 何処か感慨深そうに話す星司に、ショウは微笑みながらその手をそっと突き出した。

 

『片鱗ではありますが、俺の力を使ってください。そして、この世界を守護る為に――立てッ! 撃てッ! ()れッ! 貴方はウルトラマンエース……この宇宙のエースなのだからッ!!』

「――おう、任せておけッ!!」

 

 ガッシリとショウの手を掴む星司。するとエースの身体に光が走り、纏わりつく闇がVの字に斬り裂かれ光と共にウルトラマンエースは北斗星司へと姿を変えた。その姿を見た瞬間、感極まったのか調と切歌が勢いよく星司に抱き付いてきた。

 

「……二人とも、スマンな。心配かけてしまっ――」

「心配なんか、全ッ然してなかったデスよッ!」

「だって、星司おじさんは私たちのウルトラマンだから。絶対に無事だって、信じてたから」

 

 星司を見上げた二人の顔は、満面の笑顔だった。眼尻に涙を浮かべながらも、その笑顔を崩そうとはしなかった。『笑顔が齎す力を忘れるな』と言った、自分の言葉を体現するかのように。

 

「調……切歌……」

「それよりおじさん、アタシたちお腹が減ったデスッ!」

「なにいッ!? ちゃんと飯食ってなかったのかお前らッ!?」

「一応食べたんだけど……おじさんのパンが食べたくて、少し量を減らして我慢してたの」

「――まったくお前らときたら……。

 よぉっしッ! それじゃこんな戦いはさっさと終わらせてやるかッ! 調の好きなチョココロネも切歌の好きなメロンパンも、あとで腹一杯食わせてやるからなッ!!」

 

 言いながら星司もまた力を込めて二人を抱き締める。その光景はまるで、本当の”親子”であるかのように――。

 

『……ご武運を』

 

 少女らに付けられていた番いの指輪は、小さな青い光が触れた瞬間その光を取り戻し輝き始めていた。

 

 

 

 見開いた眼の先に、彼は居た。

 この身を選び、この身に宿った地球そのものの生命の光。それが生み出した、地球のウルトラマン。我が身から離れた光は永遠の名を持つ巫女と共にこの地球(ほし)自身を守護る為に飛び立っていき、今は闇にその身を縛られていた。

 響は今一度思う。ヒーローとは、英雄とは一体なんであるのかを。その信念、行動、結果……その何れが示す名なのかと。自分の胸の内に秘めた歌から読み取られた願望……誰かを助け守護れるものでありたいという想い。”シンフォギア”という存在、そして”ウルトラマン”という存在は、それを為し遂げる為の力だと響は思っていた。

 故に英雄(ヒーロー)という肩書きは、”立花響”ではなく”ウルトラマンガイア”に向けられるべきものだと考えていた。だが……。

 

『迷っているのか。自分自身が英雄(ヒーロー)となることに』

「あなたは……?」

 

 自らのマイクユニットから出て来た青い光が具現化する。現れたのは一人の青年だった。厳しい顔付きが崩れることは無いが、その内に優しさを秘めていることも理解できる。何処かそんな風に思えていた。

 

『私はウルトラマンマックス。この姿はかつて私と共に戦い、自らの力で未来を掴み取った青年の姿を借りている』

「ウルトラマン、マックス……さん」

『この世界の未来は閉ざされようとしている。だが君は、君たちは決して諦めてはいない。だからこそ辿り着いた場所がある。

 決して投げ出さなかったからこそ、君のその手は希望を掴み取って来たんだ』

 

 彼に言われ、己が掌を見る響。その手で掴んできたものは、ある一人の少女を発端として本当に多くのものを掴んで来たと思う。親友、憧れの人、敵だった相手、助けを求めていた者、涙を流していた者、そして家族……。だがそれは、同時に多くのモノを取りこぼして来たとも言える。どれだけ必死に手を伸ばしても届かなかったものもある。人の身であっても、ウルトラマンであっても。

 ただ自分で理解っていることはただ一つ。たとえ何度取りこぼしてしまっても、その度に涙を流してしまおうとも……其れさえも強さに変えて、掴み取るべき未来(あした)をいま精一杯目指すのだということ。

 揺るぎは無い。その想いを込めて拳を握る。そして向き合うガイアに、その奥底に居るフィーネ――櫻井了子に向かって呼び掛けた。

 

「了子さん、ありがとうございますッ!! 了子さんたちが現在(いま)を守護ってくれたおかげで、私たちは此処まで辿り着くことが出来ましたッ!!」

(響、ちゃん……)

「了子さんとマリアさんが時間を稼いでくれている間、色んなことが起きました。私たちを助けてくれた別の世界の人たち、みんなの居場所を守護ろうとしてくれた怪獣、翼さんの呼び掛けで希望を奏でてくれた人たち……。みんなが、私たちの力になってくれました。それで私、思ったんです。未来(あした)の為に現在(いま)を生きることを諦めないみんなこそが、本当の英雄(ヒーロー)なんじゃないかなって……。

 みんな、本当に大切なものと一緒にいる未来(あした)を生きていたい。私も、みんなが手を取り合えるような幸せな未来(あした)が欲しいッ!

 だから私は何度でも歌いますッ! 頑張りますッ! 戦いますッ! そしてあの、ひとりぼっちの赤い靴の女の子から託された願いを叶える為に――”人助け”を、する為にッ!!

 もう一度私に、みんなと一緒に未来(あした)を守護れる力をくださいッ!! 了子さぁぁんッ!!!」

 

 響の叫びに応えるように、マックスがその身を再度青いエネルギー体と化しガイアのライフゲージへと飛び込んでいった。そして闇の中に佇むフィーネと、彼は相対する。

 

『聞こえただろう、アレが彼女の出した答えだ』

「……本当に馬鹿な娘。なんであんなにも簡単に言ってのけられるのかしら」

『【信じる】ことを何よりも信じている。単純にそれだけだ。

 永遠の刹那を生きた君ならば理解るだろう。昔も今でも変わらない、純粋なる心の祈り……誰かの為、自分の為にその生命(いのち)の限りを生きる時にこみ上げてくる力を。進むときに見えて来る光を』

「そう……ええ、そうかもね……」

 

 マックスの言葉を肯定すると同時に、ガイアの肉体へ光が迸っていく。まるで太陽のように爆ぜた闇の中から赤い光が響の中に吸い込まれた。熱く燃えるような脈動はまるでマグマの如く、その暖かく大いなる力を響は己が心で感じていた。

 彼女の眼前には、巫女装束を纏ったフィーネが佇んでいた。

 

「了子さん……」

「……ありがとう、響ちゃん。みんなの未来(あした)はあなたたちに託すわ。……【あの子】のこと、助けてあげてね」

「――ハイッ!!」

 

 響の力強い返事と共に消え往くフィーネ。決意を込めた響の手中には、輝きを取り戻したエスプレンダーが握られていた。

 

 

 

 

 見開いた眼の先に、彼女たちは居た。

 五人のシンフォギア装者と、一人の他次元の地球防衛隊員。そして実体化している三人のウルトラマン。マリアの目に映る先には、奇跡を纏いし少女らと光の巨人と言う大切な仲間たちの姿が其処に在った。

 

「みんな……!」

 

 それ以上の言葉は無く、ただ首肯で全てが理解る。皆が無事に帰って来たと言うことを。だが同時に、バラージの盾から見える外の状況は悪化の一途を辿っていた。

 要石のような存在であったウルトラマンたちが離れたことで破滅位相……異形の海の侵蝕は一気に進み、地球との融合を加速度的に押し進めていた。炎を吐きながら空を舞うシラリー、海を禍々しながら進むコダラー、陸地を地獄のように融かしながら歩むザイゴーグ。喪失までのカウントダウンは一気に進んでいた。

 爆裂と暴虐と劫火に包まれる世界。それを目にし、マリアの心に悲哀が沸き起こる。救いたいと願いながらも、蹂躙される世界を見ているしか出来ないのだから。まるで、この光に触れた最初の日のように――。

 

 そう思った瞬間、マリアの思考の中に声が聞こえてきた。たった一つの声が、あの時よりもハッキリと。

 

 【諦めるな】

 

 その言葉が示すものは、自らに向かって小さくとも集まり往く光の粒……世界中の人々が奏でている希望の欠片。”70億の絶唱”だった。

 

「――聞こえる。世界(みんな)の、歌が……」

「はいッ! 翼さんの言葉に応えてくれた世界(みんな)ですッ!」

 

 希望の欠片が集まっていくと共に、全員が集う盾の内部が輝きに満たされていく。強く、更に強く。輝きと共に自らの力が高まっていくのが理解る。与えられた記憶から識っていた。『バラージの盾とは、すべての人々の心の中にある輝きである』のだと。それこそが、未来(きぼう)の光なのだと。

 沸き上がる光。高まる力。奇跡は今此処に為し得たのだと確信する。そして皆が目を合わせ、絶望に侵蝕される世界に向けて……否、絶望の最中でも諦めず希望を抱え奏で唄う世界に向けて、彼女ら自身の胸の歌を歌い出した。

 

 

 聖詠が希望の欠片と繋がり合い、大きな光へと変わっていく。その光の中、高まる力と共に少女らが纏うシンフォギアも更なるものへと変えていく。

 同時に皆が、それぞれ光の戦士より託されたものを構え、強く高らかに叫び上げた。

 

「ゼロォォォォォォォッ!!!」

「エイッティィィィィィッ!!!」

「「ウルトラァァァッ!! タァァァァァッチッ!!!」」

「ネクサァァァァァスッ!!!」

「ガァイアアアアァァァァッ!!!」

「エックスゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

 一つの大きな光は六つに分かれ、大地へと立ち並んだ。

 その光の中にあったのは、世界中が待ち望んでいた六人の巨大なる勇姿。

 世界中が信じ貫いた、赤と銀の身体を持つ光の戦士。

 

 世界が絶望に飲まれかけた瞬間、その光は歌と共に帰って来た。

 その声は何処から出たのかは理解らない。だが誰かが叫んでいた。やがて誰もが叫んでいた。この絶望を、破滅を討ち払う唯一絶対の希望の象徴――『ウルトラマン』という名を。

 

 

 

EPISODE26

【銀河に煌めく金色の華】

 

 

 

「みんなァ、待たせたなァッ!!!」

 

 高らかに叫ぶウルトラマンゼロ。たったその一言で世界中から歓声が沸く。ウルトラマンの中では異例とも言えるほど、多くの人と近い距離で言葉を交わしてきたゼロだからこそ、この一言には途轍もない効果があった。

 

「装者六人と大空大地隊員の反応を確認ッ!! 再一体化に成功した模様ですッ!!」

「ユナイト係数は――ウルトラギアのコンバイン無しで200越えッ!? でも心象同化は見られないなんて……ッ!!」

「各装者のフォニックゲイン量、通常の数百倍……。エクスドライブと同等かそれ以上の――ッ!!」

 

 藤尭、あおい、エルフナインがそれぞれ歓喜と驚愕に包まれながらみんなの状態を読み上げていく。奇跡の体現を目にし、世界中が希望の光を更に輝かせたことが理由だろうが、机上論を遥かに超えて来る事態にやや戸惑う部分もあった。

 だがそれ故に確信できる。勝利という名の終結を。

 

 またその一方で、輝かしい状況を眺めつつ自ら端に立っていたメフィラス星人が不意に小さく呟きだす。それを耳にしたのは、偶然隣に居た未来だった。彼女も慌ただしくなったブリッジで居場所を失くし、自身を端に追いやっていたのだ。

 

「……資格、か」

「……どうか、したんですか?」

「キャロル・マールス・ディーンハイムに言われた言葉……『この世界を手中に収める”資格”』と言うモノがなんであるか、少しばかり考えていた。

 それこそが私がとある一人の同胞から聞いた、そして立花響が口にし、世界中より集め束ねた【本当に大事なもの】であるのかも知れん、と」

「【本当に、大事なもの】……?」

「そうだ。思えば私がこの地球に、その中でも立花響と小日向未来……君たちに固執していたのも、不揃いでありながらも常に寄り添うように生きている君たちならば、それがなんであるか知っていたからなのではないかと考えた。そしてそれは、地球を我が手に収めれば私にも理解できるモノなのだろうともね。

 だから私は、それを知るであろう君たちに地球の譲渡を持ちかけた。結果は予想した通りだったが、だからこそ私は挑戦のし甲斐があると思ったのかも知れん。

 嗤ってくれたまえ。私は地球人よりも遥かに優れた叡智と科学と力を持ち、幾度も観察を重ねながらもなお、地球人にとって【本当に大事なもの】とは何かすら理解らぬまま此処に居るのだ」

 

 滑稽たる我が身を嗤うメフィラス星人。だがそれを聴いていた未来は決して笑おうとせず、逆に優しい微笑みを彼へ向けていた。哀れみではなく、同情でもなく……どちらかと言うならば、友人たちに向けるそれに近いものだった。

 

「……それにハッキリと気付いてる人や、それをちゃんと理解している人なんて、とても少ないと思います。私自身、それが何なのか上手く言葉で言い表せられません。でも、ただ漠然とだけど……きっと多くの人が、貴方の言う【本当に大事なもの】を持っているんだとも思います。

 少なくとも響は、みんなが持っているそれを守護る為に拳を握っています。響が正しいと思って握った、世界で一番優しい拳を」

「……君と戦った時も、そうであったな。それが立花響の出した回答だった。彼女自身が想う【本当に大事なもの】を守護る為に、彼女はその拳を握り締め、君とぶつかり合ったのだから。

 まぁそれは、君自身もそうだろうけどね、小日向未来」

 

 思い出すことで思わず微笑みを残しながら俯く未来。確かにフロンティア事変の時も今回の時も、未来自身は響と相対した時に強い想いを抱き握り締めていた。それでも結果的に響に想いを正されたのは、恐らく握っているものの大きさが自分よりはるかに大きかったんだろうと未来は思う。

 たった一人の為だけを想って握った力が弱いなどとは言わない。だが相対する相手は、たった一人の為を想いつつも、尚且つそこから広がる過去や未来、横の繋がりの全てをも想い握ったのだ。その握った想いの差が非常に大きいものか、はたまたほんの僅かなものかは測り知ることは出来ない。だがその差こそが、”戦い”と言う場に置いて明暗を分けたものなのかも知れない。そんな風に考え、未来は不意に己を鼻で嗤った。

 自らの抱えた想いが隣に立つ異星人と何処かが通じたのか、未来もまたメフィラス星人に対しおもむろに口を開いた。

 

「……メフィラスさん、提案があります」

「ほう、君からとは珍しい。どう言った提案かね?」

「貴方が理解らずにいると言った【本当に大事なもの】……それを知る切っ掛けに、なるかもしれないことです」

「――ほう、言ってみたまえ」

「それは――」

 

 互いに数回の呟きだけで交えられる口約束。それを言い終えた後、未来はただ微笑みながら光の戦士と歌巫女たちの戦いに注視する。一方でメフィラス星人は何かを思案するかのように口と思しき部分を黄色く発行させていった。まるで、未来の投げかけた提案を噛み締め納得していくかのように。

 

 

 

 

 異形の海の侵蝕が進んだ大地は、位相同士が揺らぎ合ってまるで蜃気楼のようにおぼろげだった。

 そこに立ち並ぶゼロ、80、エース、ネクサス、ガイア、エックス。六人の前にはザイゴーグが咆哮を上げ、それに共鳴するかのように海からはコダラー、空からはシラリーが舞い降り三方向を囲うように陣取った。

 だがそれだけではない。ザイゴーグの背中に伸びた棘が一斉に発射され、空を埋め尽くすドビシたちと結合。巨大な異形である【破滅閻魔虫ゴーグカイザードビシ】となって、コダラーとシラリー、ザイゴーグの前に軍団の如く並び立っていった。

 

『数が一気に……ッ!』

『イナゴが集まって怪獣軍団のお出ましデスッ!』

『ザイゴーグの召喚した分身閻魔獣だッ! ドビシと合体してこんな数を呼び出して来たかッ!』

『ハッ、雁首揃えただけで今更塗り潰せると思ってるのかよッ!』

『我らとて今まで以上の力が溢れているッ! 止めさせてやる道理はないッ!!』

(私たちの歌をすべて世界中にくれてあげるッ! 振り返らない、全力疾走だッ! ついてこれる奴だけついてこいッ!!)

(行こうみんなッ!! 全力全開、限界を超えてアイツらに世界のみんなの生きる証を刻むんだッ!!)

 

 咆哮を合図に攻め込みだすゴーグカイザードビシの群れ。ある者は鋭利な鎌状の腕を振り上げ、またある者は頭部と両膝にある眼球から光弾を発射していった。爆炎と同時に、それを物ともせずに襲い来るゴーグカイザードビシに向かって走り出す光の巨人たち。地響きを鳴り渡らせながら、”破滅”との最後の戦いが幕を上げた。

 

 

 ゴーグカイザードビシの鎌を防ぎ、上へ跳ね上げ胴体への拳を打ち付け一瞬の怯みに合わせて左脚が胴体側部へ打ち込むネクサス。脇から襲い来る別のゴーグカイザードビシには、すぐに後転からのパーティクルフェザーで反撃し、EMPRESS†REBERIIONのように長く伸ばしたシュトローム・ソードで捕まえ、一気に斬り裂いた。

 

(やれる……。基底状態(アンファンス)なのに、こんなにもの力を出せるッ!!)

『マリアッ!』

「余所見してんじゃねぇぜッ!!」

 

 背後から迫っていたまら別のゴーグカイザードビシに対し、ウルトラゼロキックを叩き込み吹き飛ばすゼロ。吹き飛ばされた個体はそのまま群れにまで押し戻され、まるでボウリングみたいに連続で倒されていく。

 そうしてネクサスの背後に立ったゼロは、既にゼロスラッガーを両手に構え継戦準備を整えていた。

 

(悪いわね翼、ゼロッ!)

『悪いと思うならば首級で返してみせるんだなッ!』

「俺たちより多くあいつらブッ倒してみろよッ! 出来るもんならなァッ!!」

 

 言葉のままに勢いよくゴーグカイザードビシの群れに飛び掛かるゼロ。両の逆手に握られたゼロスラッガーで外殻ごと斬り付けていく。そのままの流れでゼロスラッガーを投げ放ち、即座に地面に手を付いて逆羅刹の要領で連続蹴りを放つゼロ。その回転はやがて光る竜巻……羅刹零旋風となり、多くのゴーグカイザードビシを吹き飛ばしていく。それらを空中で斬り刻みながら帰還したゼロスラッガーを胸に装着し、滾る輝きを一気に解き放った。

 

「『ゼロツインシュートォォォッ!!!』」

 

 空中で爆裂するゴーグカイザードビシの群れ。それを見ながら皆が更に意気を高めていく。

 

(さすがですね翼さん、ゼロさんッ! でも、私だってェッ!!)

 

 まるでノイズの群れを相手するかのように、響の得意技である弦十郎直伝の拳法――ウルトラマンの大きさになっている状態での其れ――が、数匹ものゴーグカイザードビシを同時に相手取っていた。

 振り下ろされる鎌状の腕を捌き、肘打ちから回し蹴り。次いで放たれる連続での重拳は、とどめにバンカーナックルにも似た零距離からの赤い光波を直接叩き込んでいった。

吹き飛ばされては微塵に帰るゴーグカイザードビシたち。だが背後から迫る一体が、腹部から伸ばしたインナーマウスでガイアの腕を捕まえる。それを見で他のゴーグカイザードビシたちも同様のインナーマウスでガイアの四肢を絡め取って動きを封じた。振り払おうともがくものの力強く締め上げられてはどうにも出来ない。其処を狙ってまた他のゴーグカイザードビシが、ガイアに向けて頭部と両膝部の眼から光弾を発射しようとした、その時。

 

「シュワァッ!!」

 

 大きくムーンサルトしながら跳ぶ80が空中からウルトラダブルアローを連続発射。追尾誘導能力の上がった赤い弓状光線がガイアを縛る触手と光弾を放とうとする三つの眼を全て同時に破壊した。

 

「大丈夫か、響ッ!」

(ありがとうクリスちゃん、先生ッ!)

『ったく、油断してんなよな馬鹿ッ!!』

 

 着地と同時に目の前の、眼球が破壊されたゴーグカイザードビシに向かって接近戦を仕掛ける80。拳の連撃からジャンプキックに繋げ、再度跳躍と同時にゴーグカイザードビシを踏みつけて更に高く飛ぶ80。眼下に広がるゴーグカイザードビシの群れに向かって、両腕をカラータイマーに向け、真上に伸ばし赤い槍を生み出した。最早使い慣れた二人の合体技であるZEPPELIN RAYLANCEである。

 投げ放たれた赤い光の槍は小型のクラスター弾へと分離し、驟雨の如く降り注ぎ襲い掛かる。ゴーグカイザードビシに突き立てられた鋭利な光の弾丸は、そのまま間髪入れずに爆発。周囲と誘爆する形で広がっていった。

 

『無暗矢鱈に数が多いんだ、一気に潰したほうが効率的だろ?』

「クリスの言う通りだな、我々も一気に行くぞ大地ッ!」

『ああッ! だったらあの技だなッ!!』

 

 大地とエックス、互いに心を重ね合わせゴーグカイザードビシに突進する。迎え撃つゴーグカイザードビシの群れから一斉に放たれる光弾。それを掻い潜るようにスライディングで群れの中心に向かい、戸惑うゴーグカイザードビシたちの中で大きく一度回転し空へと飛んだ。

 空中で身体を丸め力を高めるエックス。数匹のゴーグカイザードビシがエックスに向かって飛び掛かるが、それももう遅い。

 

「『アタッカァーッ!! エェーーックスッ!!!』」

 

 叫びと同時にエックスが自身の身体をX字に大きく広げ、溜め込まれたエネルギーを解放する。エネルギーは炎と化し飛び掛かるものを諸共に、集まっていたゴーグカイザードビシたちを押し潰す可能ように撃ち込み焼き払う。地上に描かれたその跡は、巨大なXが遺されていた。

 

「俺たちも負けちゃいられんなッ! 調ッ! 切歌ッ!」

『ハイッ!』 『デスッ!』

 

 ゴーグカイザードビシに重撃を叩き込んでいくエース。一体一体を確実に、捕まえては蹴り飛ばし殴り倒していく。其処に華美さは無いが、エースの力強さが何よりも如実に表れているようだった。

 同時に攻め立てられた時は、右のフラッシュハンドからは翠色のブーメラン型の光刃、左からは緋色の円盤型の光輪を撃ち放ち先手を打って切り裂いていく。だがゴーグカイザードビシたちも無能ではないのか、エースの戦いが単騎に集中していると思い込み多勢で攻め込んで来た。それこそが、彼らの狙いだったのだが。

 

「ムゥゥゥンッ!!」

 

 両手をカラータイマーに向けて力を集め、前に突き出すと同時に大きく外へ広げるエース。瞬間、普段の倍の大きさに広がったホリゾンタルギロチンが発射。続けて腕を胸の前で交差させ、力を溜めると一気に上下へと振り抜いた。先程のホリゾンタルギロチンと同様、巨大化したバーチカルギロチンが発射され、群れで襲い掛かって来たゴーグカイザードビシたちを尽く両断せしめていった。

 

 

 爆炎と共に暗黒が飛散する中、巨大暗黒卿が再度その姿を見せ、無感情でありながら威圧的な声を放っていく。

 

『無駄だ……ドビシは何度でも蘇る……。……だが、これ以上良いようにもさせぬ……』

「拙い、アイツらッ!」

 

 巨大な腕を上げたと同時に、群れの内数体のゴーグカイザードビシが戦列を離れる。向かった場所は片や東京都庁、片やタスクフォース移動本部。それは皆の勇姿を世界に流す簡易的な映像配信設備でありその発信起点だ。其処を襲撃、そして万が一破壊されてしまえば束ねられた希望の欠片が激減するだろうことは想像に容易い。

 だがその追走などさせぬかのように他のゴーグカイザードビシがウルトラマンたちに襲い掛かる。此方の手を止めさせないために。

 

(くうッ……そおぉぉッ!!)

 

『案ずるなッ!! 此処は俺たちが――』

『絶対に、守護り抜いて見せますッ!!』

 

 装者たちの耳に届く声。それは彼女らが最も頼りにしている大人たちの声だった。

 

《ウルトラマンの力を、チャージします》

「貸してもらいます、大空さんッ!!」

 

 都庁の屋上でウルトライザーを構える慎次。チャージの後に発射された光線はゴーグカイザードビシの腹部の口に正確に直撃し、大きく怯ませる。そのまま大きく跳躍しながら、彼の手に握られていたのは手榴弾が三つ。同時にピンを抜き、全て先程光線を浴びせたゴーグカイザードビシの腹部の口へと投げつけた。

 爆発が巻き起こりゴーグカイザードビシが倒れ込む。その爆発痕へ、何処から取り出したのか長ドスを持って体重と落下衝撃を重ね合わせた一撃を突き立てた。的確に急所を貫いた慎次の刃に、ゴーグカイザードビシが黒い煙となって消えていく。

 彼の存在を脅威と見た他のゴーグカイザードビシが慎次へと襲い掛かる。だが、この破滅の尖兵は単純な思考回路であるが故に最も愚かな選択を取ってしまった。”この世界最強の男”から目を逸らせてしまった事である。

 

「うおおおおッらあぁッ!!!」

 

 その男が纏っていたものは、紳士服売り場で売っているようなワインレッドのワイシャツと、その胸ポケットに半分仕舞われた桜色のネクタイ。グレーのスラックスと少し高めの革靴を履き、握る手にはグラブすら付けぬ裸の拳と、おおよそ戦いには不向きとしか思えぬ服装。怪獣からしてみれば紙切れ同然の防御力しか持たぬものであろう。

 だが、そんな道理を無理で押し通すのが彼、風鳴弦十郎という男である。

 

 重低音と共にゴーグカイザードビシの側頭部の甲殻がめり込んだ。否、その中心部分は甲殻ごと肉を貫き内部に超振動を与えていた。為したのは彼の、ただの裸の拳である。だがそれがただの拳と思う事勿れ。大人の男が意地を込めて握りしめた意固地な拳が、清濁併せた泥沼を駆け抜けてきたその脚が、破滅の尖兵に後れを取ろうなど有り得る事では無いのだから。

 拳を引き抜くとすぐに震脚で飛び上がり、頭部甲殻の間隙に向かって踵落としを叩き込み、その反動すら用いて連続で放った空中後ろ回し蹴りでゴーグカイザードビシを蹴り倒す弦十郎。その常識外れの戦闘力に、さすがのウルトラマンたちも唖然としていたようである。中でもこの世界に来て浅い、大空大地隊員は特に。

 

『……エックス、なにアレ』

「……私も実際目にするのは初めてだが、アレが風鳴司令たちの真の実力らしい。司令曰く、『飯食って映画見て寝る』ことが男の鍛錬だと言って、それを実行していたらしいのだが……」

『いやゴメンちょっと本気で理解が追い付かない』

 

 当然である。たぶん彼を最も身近で見て来た装者たちですら、あの大人たちがそこまでやるとは思わなかっただろう。

 そんな常軌を逸した光景に気を取られていると、移動本部からの緊急通信が入った。

 

『本部に接近する敵影ッ! 数5ッ!!』

『迎撃手段は無いわよッ!? どうするのッ!!』

『最悪ブリッジを切り離して脱出するしかないか……ッ!』

(――ッ! すぐそっちへ向かいますッ!!)

 

 藤尭とあおいの言葉に反応して飛び上がろうとする響ことガイア。あそこにはエルフナインたち大切な仲間が、キャロルが、そして何よりも未来が居る。故に、其処は絶対に手を出させてはならない場所だ。

 焦る響だったがその脚にゴーグカイザードビシのインナーマウスが絡み付き飛翔を封じてしまう。更に焦りを募らせながらゴーグカイザードビシの頭部を蹴り付けるものの、絡まったインナーマウスはそう簡単に外れはしなかった。

 

(くぅ……ッ!! 未来ッ! みんなァッ! 逃げてェッ!!!)

 

 思わず叫ぶ響。既に藤尭がブリッジの強制排出準備を整えていたが、5体のゴーグカイザードビシは最早目前に迫っていた。

 

(未来ゥゥゥゥゥッ!!!)

「――大丈夫」

 

 未来の口から洩れた小さな呟き。その直後、襲い掛かろうと突進していたゴーグカイザードビシたちが一瞬で動きを止める。ブリッジのメインモニター……彼らの眼前には、巨大な漆黒の姿が片手を伸ばして佇んでいた。それは――

 

(――メフィラス、さん……?)

「おぉいどういう事だァ!? テメェ、ンなとこで何してやがるッ!」

「分からんかねウルトラマンゼロ。この蟲どもの相手は、私がすると言うことだ」

 

 その言葉と同時に左手を添えて右手を握り締める。漆黒の拳から放たれた電撃光線――【グリップビーム】が動きを止めた中央のゴーグカイザードビシに直撃し、爆散させた。

 瞬間、眼前のメフィラス星人を敵として認めるゴーグカイザードビシたち。一方でメフィラス星人は余裕綽々と言った感じで手招きするように挑発した。それを見て一斉に襲い掛かるゴーグカイザードビシ。だがメフィラス星人はそれを上回る飛行速度で飛び回り、太い腕から強烈な拳を打ち付けては両足でドロップキックの要領で蹴り飛ばしながら縦横無尽に空を舞う。

 そして両手から放たれた念力は二体のゴーグカイザードビシの動きを止め、そのまま両手を合わせることで互いを叩き付け押し潰した。そしてもう一体をその剛腕で殴り潰すように打ち倒し、最後の一体も念力で動きを封じてからのグリップビームで完全に破壊した。

 爆炎と共に消える黒い瘴気を見届けたメフィラス星人は、そのまま腕を腰に回し移動本部の甲板に降り立つ。そして念話で自らが味方する者たちに自身の言葉を届けていった。

 

「これが私の選択だ。理解って貰えたかな?」

「俺たちに協力するというのか……?」

「まぁそう取ってもらって構わんよ。私はただ彼女の提案に乗り、相互に利用し合う契約を結んだに過ぎないのだがな」

(彼女って……もしかして――)

 

 メフィラス星人は響のその言葉には答えず、小さく鼻で笑うだけに止めた。理由など、タネは最後に明かす方が面白いからだとかそんな程度のものだ。それより今は、破滅の闇を押し返す奇跡の光を最後まで見届けたかった。その邪魔をされたくなかった。本当に、光はこの絶望的状況を覆すことが出来るのかと思いながら。

 その想いと共に天へと右手を掲げるメフィラス星人。放たれた波動は黒い天空で電光を伴う闇球となり、その場で停滞する。すると其処に向かって、天を覆うドビシ達が吸い寄せられるように集まって行った。

 

『メフィラス星人……貴様……』

「これはこれは暗黒卿。私めはただ蟲たちに餌を与えただけでありますよ。世界の全てへ通信をすべく、電波や光波の発信源をこの場に生み出したに過ぎない。

 ――ただ、超重力空間の中心点にでは、ありますが」

 

 メフィラス星人の生み出した超重力球体に向けて見る見るうちにドビシたちが吸い寄せられていき、その超重力空間でへしゃげ潰されていく。元々個体としての強度は低く、超絶的な物量こそが脅威であった破滅魔虫。それをたった一つの行動で封殺してしまったのだ。

 

『……だが無意味だ。ドビシは無限に蘇る……マイナスエネルギーがある限り……』

「左様、卿の仰られる通りであります。ですがこの状況はどうですかな? 今やマイナスエネルギーは無尽蔵とまでは行きますまい。人は人の紡ぐ言の葉により希望を取り戻し、それが集まり歌となり、果てにはウルトラマンを蘇らせた。

 そしてその御身の内に幾兆もの蟲を呼び出すほどのマイナスエネルギーが溜め込まれていようとも――現れた蟲の全てを私めが吸い寄せ潰し砕いて御覧に入れましょうぞ」

『……小癪な、ことを……』

 

 無感情に重苦しく言葉を発す暗黒卿ではあったが、その姿を目にしていた全員がその異変を感じていた。揺らめく暗黒卿の姿は、まるで憤怒に滾っているようであったのだ。

 それに呼応するように鳴き声を上げるコダラー、シラリー、ザイゴーグ。周りのゴーグカイザードビシたちを薙ぎ払い吹き飛ばす三大破滅魔獣の姿は、何処までも足掻く生命に対しての怒りを吼えているようでもある。

 戦場に起っているものはそこで気付いた。彼奴は神のような超越的なものにほど近く、破滅と言う概念的な存在にも近しいものでありながら、マイナスエネルギーを中核とした暗黒卿もまた”滑稽な真理”に基づく【生命あるもの】に相違ないのだと。

 それを己が身を以て世界に知らしめたメフィラス星人が、昂る愉悦と共に声を上げていた。

 

「さぁ存分に戦え光の戦士たちよッ! 生命の唄を奏で歌う戦姫たちよッ! その愛する世界を、守護る為にッ!!」

 

 

 

「……なんか、随分楽しそうだなアイツ」

『此度の奇跡、あの奇人をも昂らせるほどの状況と言うことだ』

『つっても、向こうも大物のお出ましだぜ』

「大丈夫、今の私たちならば」

「ああ、決して負けはしないッ!」

『みんなから貰った、負けない力……』

『今こそその全部を、ぶつけてやる時デスッ!』

(限定解除されたウルトラギア……恐らくはエルフナインでも未知数の力を引き出せるはずッ!)

(行こうッ! これで、終わりにする為にッ!!)

 

 装者たちが一斉に胸のマイクユニットへと手を伸ばす。最早エクスドライブモードと同程度のフォニックゲインが巨人の肉体に集束する今、其れを外装として開放すると言うことは如何なることか、誰の目にも明らかなことだった。

 皆のその意気に合わせ、エックスと大地もまた自分に持てる最大の力を再度解放しようとしていた。

 

「大地ッ! 私たちもベータスパークアーマーでッ!!」

『ああッ!!』

(待てよエックス、大地ッ!)

(僕たちの力も一緒に使うんだッ!)

『貴方、たちは……?』

 

 思わぬ闖入者の声に驚く大地。彼の周りを飛び回る二つの光がエクスデバイザーに宿った時、その光がサイバーカードとなって顕現する。そのカードは……

 

『ウルトラマンダイナ……ッ! それに、ウルトラマンコスモス……ッ!』

「だが良いのか? 君たちはマリアがウルトラマンである事を維持する力になっていたはずだが……」

(あのお嬢ちゃんならもう大丈夫だ。いや、あの光の意味を知った時から既に俺たちの力なんかなくても十分戦えてた)

(彼女はもう彼女だけの光で歌い戦える。だけど、この世界を守護りたいって想いは僕たちも同じだ。それに君になら、更なる力を貸してあげられる)

『更なる、力……?』

 

 戸惑う大地の握るエクスデバイザーに、先ずウルトラマンとウルトラマンティガのサイバーカードがリードされる。それと同時に生まれるエクスベータカプセルとエクスパークレンス。それが漂う中で、今度はウルティメイトゼロ、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンコスモスのサイバーカードが融合し、一枚の新しいウルトラマンのサイバーカードと化した。

 

「これが、そうだと言うのか……ッ!」

『……やるぞ、エックスッ!!』

「よし……行くぞッ!!」

 

 

 

 『ウルトラギアッ!!! エクスコンバイィィィィィンッ!!!!』

 

 

 《ウルトラマンサーガ、ロードします》

 『ウルティメイトサーガアーマーッ!! アクティブッ!!!』

 

 

 

 黄金、白銀、蒼穹、紅蓮、緋赤、翠緑。そこに純白を掛け合わせた猛烈な輝きが歌姫と適合した五人のウルトラマンたちを包みこむ。やがて光が止んだ其処には、白が基調と為りながらそれぞれのシンフォギアに合わせた色彩を輝かせる戦衣装攻に巨大な翼を持つ姿が在った。其れは正しくシンフォギアの限定解除形態(エクスドライブモード)に他ならず、同等の原理で外部展開しているウルトラギアもまた限定解除(エクスドライブ)の名を冠す究極戦闘形態へと変移していったのだ。

 またその五人の隣で、その身体から虹の輝きを絶えず発しているウルトラマンの姿もあった。下半身は赤く、上半身は青を基調としたグラデーションとなるその姿。弾けたような胸部にはエックスのカラータイマーが顔を覗かせ、側頭部には短いながらも片側4本ずつ角が伸び、その中央にはエクシードエックス同様エクスラッガーが装着されている。【ウルティメイトサーガアーマー】……かつて並行世界フューチャーアースを救った奇跡のウルトラマンを模した、大地とエックスにとって奇跡と言う他ない”更なる力”の発現だった。

 

 こうして地球(ほし)に生きる者たちの希望を束ねて歌にして生まれた奇跡の姿を形にしたガイア、ネクサス、ゼロ、80、エース。そしてそれと共に戦い抜いてきた彼女らからの繋がりが齎した更なる力を身に纏ったエックス。

 言葉は無くとも皆が一斉にコダラー、シラリー、ザイゴーグの三大破滅魔獣との決戦を開始していった。今だ漆黒の闇が支配する空へ、【始まりの(バベル)】を奏で響かせながら。

 


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