絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 02 【重なり合う光と歌】 -B-

『翼さんの目の前に居る怪獣……アレから、ノイズとアルカノイズ、二つの特徴に合致する反応が検出されました……ッ!』

「――なん、だと……!?」

 

 本当は信じたくなど無かったが、エルフナインに言われてしまえば確信せざるを得ない。アレは正しく……

 

「……ノイズ怪獣、とでも言うべきかッ!」

『怪獣? 違うな。このヤプールが手掛けた新たなる超獣……ノイズ超獣と呼んでもらおうか!』

 

 咆哮するノイズ超獣と化したデガンジャ。だがそれに対し、一切怖気る様子も無くゼロが走り出す。

 

「ノイズだか超獣だか知らねぇが、ブッ倒すことに変わりはねぇ!!」

 

 速度を乗せた大振りの拳。先ほども通常のデガンジャに対し高い効果を得ていた一撃、だったのだが…。その手応えは非常に薄く、まるで殴っているという感覚が得られない。とても不可解な感覚だった。

 

「なっ、なんだコイツ……! ぐあぁっ!」

 

 一瞬の戸惑いが隙となり、その隙をついて体当たりで反撃するノイズデガンジャ。思わぬ反撃に尻餅をついてしまう。すぐに起き上がり、殴って効かないのならばと頭部のゼロスラッガーを外し構え、それで斬りかかった。斬撃ならばと思ったのだが、こちらも大きなダメージは得られない

 

「だったらコレだ!」

 

 効かないと分かるとすぐに距離を開け、額からエメリウムスラッシュを撃ち放つ。が、肉弾戦より攻撃効果は得られたようではあるものの、それも微々たる差のように感じられた。

 圧倒的優位を認識したのか、ノイズデガンジャの顔が歪み嗤う。

 

「クッソォ! どうなってんだよコイツ!!」

『フハハハハッ!! どうだウルトラマンゼロよ! これこそがノイズ超獣!貴様らを殺す為の新たなる力だッ!!』

 

 ヤプールの高笑いと共に猛然と攻め立てるノイズデガンジャ。反撃は通さず此方の打撃だけを通す一方的な戦いに、ゼロも苦戦を強いられていた。巨大な顎でその腕に噛みつかれた時、ゼロにこれまで受けてきた痛みとはやや異質の痛みが走った。喩えるならば、溶かし抉られているような。

 

「ぐ、うぁぁぁぁッ!!?」

「だ、大丈夫かッ!?」

 

 鮮血のような赤い粒子が舞い上がる。それと共に、彼の胸で青く輝くカラータイマーが赤く明滅を始めた。まるで危険信号だ。

 その状況を見ながら、タスクフォース指令室の中でエルフナインが必死に端末を操作、敵の解析に勤しんでいた。

 

「アレは間違いなく、アルカノイズの持つ物質分解能力が引き起こす分解現象……。ノイズとアルカノイズ、その両方の特性を備えているとなれば、攻撃が効かなかったのは位相差障壁による物理不干渉そのもの……!」

『エルフナイン、そちらのデータベースを見させて貰った。中々厄介な相手だな、ノイズと言う敵は……』

 

 忙しそうにしている彼女に語り掛けるエックス。言葉を交わしながら、エルフナインが欲しいと思うデータをすぐに検索、表示してくれているのはエックスのサポートによるものだ。

 

「ハイ……。でも本来ならば、ノイズは翼さんたちシンフォギア装者の敵ではありません。先史文明が遺した、ヒトを殺すだけの存在……それをこの世界で唯一確実に葬り去ることが出来るのが、皆さんの歌でありシンフォギアの力なのです。

 ですが、絶対的な超質量である怪獣にその刃は届かなかった。それに対抗してくれたウルトラマンの力も、ノイズの持つ力を与えられた怪獣には苦戦を強いられている……。

 これじゃ本当に、打つ手は無いようなものです……!」

 

 エルフナインの口から思わず弱音が吐かれる。せっかくのゼロの救援も、エックスが力を貸してくれていても、自分がこれではどうしようもない。

 そんな無力さに打ち震える彼女に、エックスが話しかけた。慰めではなく、当然の事実を。

 

『難しく考える必要はないんじゃないか? 私達は怪獣を倒すことが、君たちはノイズを倒すことが出来る。ノイズ超獣……どう転んだところで、ヤツは【ノイズの特性を持った怪獣】に過ぎないと言う事だ。それぞれに弱点があるのなら、協力して弱点を叩けばいい』

「協力して、弱点を――」

 

 目の前が晴れたような感覚だった。そう、敵でないならば協力すればいい。そもそもにおいて、ウルトラマンたちも自分たちも、この世界を護りたい一心で戦っているのだ。

 そんな者が居てくれるのならば、この場に居ない立花響ならば迷わず言うだろう。『だったら、一緒に戦いましょう』と。

 

「…ありがとうございます、エックスさん。風鳴司令ッ!」

「聞こえていたな翼ァッ!! お前の歌で、ノイズ超獣とやらの化けの皮を引っぺがしてやれッ!!」

 

 

 通信機から聞こえる弦十郎の強い声。其れを耳にして翼は鼻で嗤いながら思う。まったく、この傷だらけの身体でまだ歌を歌えと言うのか、と。だが……

 

「借りは、返さなければならんからな……!」

 

 胸の奥から言魂が沸き上がる。高まるフォニックゲインに、身に纏う傷だらけのシンフォギアが呼応して音楽を奏でだした。流れる音楽に言魂を声と乗せ、歌は完成する。その歌はノイズデガンジャの噛み付きを引き剥がそうと踏ん張るゼロの耳にも届いていた。

 その言霊は静かに、そして高らかに鳴り渡った。《――罪を滅し、狂える地獄を断つは絶刀…。悪しき行い、即瞬にて殺すべし――》と。

 

「これは……歌?」

 

 ゼロが眼を聞こえる歌の方へを向けると、近くの建物の上で翼が刃を構え歌を歌っていた。

 

「お、お前なにを――」

「一撃だ。一撃でヤツが纏う鎧を破砕する。それに合わせろ」

 

 翼から告げられたその言葉だけで、ゼロは理解した。仔細はともかく、鎧が壊れると言うのならそれに合わせて一発ぶち込むだけだ。

 

「――ヘッ、負けん気の強い女だ。気に入ったぜ!」

「フッ……往くぞッ!!」

 

 飛び立つ翼。足のスラスターを合わせ用いてノイズデガンジャの頭上まで飛び上がる。

 

『デガンジャ! あの虫けらから叩き落とせ!!』

「させっかよォ! テメェはまだ俺の腕でもしゃぶってやがれッ!!」

 

 相手の動きを封じるため、わざと余計に噛みつかせるゼロ。好機を得る為に、ダメージなど気にしてはいられなかった。

 

「今だ!いけぇぇぇ!!!」

「おおおおおおぉぉぉぉッ!!!」

 

 剣であったこの身……誰かを傷付けるだけの我が身は獣と変わらぬのか。やがてこの身は錆びて朽ち、そして折れるのか。……しかし如何に迷い惑おうとも、存にて在す外道に向けるは哀を込めし唯一閃也――。

 翼の胸から流れ出ずる想いを奏でし歌。遺された僅かな力を奮わせ更なる力とする。

 アームドギアを自身の数倍もある巨大な諸刃の剣に変える【天ノ逆鱗】でノイズデガンジャの伸びた鼻へ急降下する翼。

 怪獣ならばその強固な筋肉に阻まれていたが、そこにノイズの特性が合わさっているのなら。この世界で唯一、ノイズを殺すことに特化した刃であるシンフォギアならば――

 天ノ逆鱗が触れた瞬間、周囲に張り巡らされていた歪みは瞬時に消失し、巨大な刃は鼻先へ深々と突き刺さる。阿鼻叫喚にも似た咆哮と共にゼロの腕から巨顎が離される。その瞬間。

 

「おおおッらあああああッ!!!」

 

 ゼロ距離から赤熱した右足で、ノイズデガンジャの腹部を全力で蹴り飛ばした。天ノ逆鱗により消失した位相差障壁は防御の役には立たず、大きなダメージと共に吹き飛ばされていった。

 

「っしゃあ! ザマぁ見やがれってんだ!!」

「だが……まだ、倒れてはいないようだ……!」

 

 目をやると、体液をまき散らしながらもノイズデガンジャがなんとか立ち上がる。周辺の歪みから位相差障壁は復活しているものと見て取れた。

 

「……倒すまで、やるしかないか……!」

 

 翼が絞り出した声はどう聴いても体力の限界を物語っており、さっきの一撃で回復していた分の体力を全て振り絞ったのは目に見えて明らかだ。

 だがしかし、あのノイズの特性を備え合わせた超獣を討ち倒すには彼女の……その歌の力が必要不可欠なこともゼロは理解している。

 それらを併せ鑑みて、この状況で行えるベストの選択……その唯一の手段を、彼は持っていた。彼にとってはいささか窮屈なことでもあるが、まぁ些細な問題だ。

 

「ふぅ……なぁアンタ、名前は?」

「……そういえば、名乗ってなかったか。私は翼。風鳴、翼だ」

「そっか。なぁ翼、俺と合体してくれねぇか?」

 

 急に言われたゼロの言葉、【合体】。その言葉を頭で反芻しながら意味を探り出す……と、途端に彼女の思考回路がショートしてしまった。

 

「――な、お、お前、何を急に! が、が、合体など……そんな、こんな時に言う事か破廉恥なッ!!」

「………は? え、いや、ハレンチって何が?お前何考えてんの?」

「乙女の口から其れを言わせるか貴様ッ!!!」

「ちょ、ちょっと待て待て! お前絶対何か勘違いしてるだろ! 何がハレンチなのかよく分かんねーけど、ちゃんと話を聞けって!!」

 

 ゼロの言葉に疑いを込めた責めるような目を向ける翼。それには深く気にせずに、話の仔細を語り始めた。

 

「いいか、アイツをぶちのめすには俺の力と翼の歌の力が必要だ。だけど、お前はもう戦えそうな身体じゃない。だろ?」

「……確かに、お前の言う通りだ。この身はもう…真っ当に戦えるだけの力は持ち合わせていない……」

 

 口惜しそうにそう返す翼。さっきのような連撃などそう何度も出来るほどの力は無いに等しい。

 

「だからだ。俺と翼が合体……一体化すれば、その歌の力と俺の力を合わせて戦えるってことだ。翼は俺の中で歌い、俺の身体で俺と共に戦う。難しい話じゃないだろ?」

 

 難しいどころか、眼前の脅威を退けるのにこれ以上とない手段である。が、それは翼にとってあまりにも突拍子もない提案だ。

 思わず目を大きく見開きながらゼロに尋ねていくのも必然だった。

 

「だが、そんな事は可能なのか!?」

「俺たちウルトラ戦士は、これまでにも多くの人間と一体化して悪と戦ってきた。俺もそうだ。俺とお前……想いが合わされば、どこまでだって行ける。どんな敵でも倒せる。俺はそう思っている。

 それに、翼の事を気に入ったのも事実だ。あんな奴らとの戦いで、お前を死なせたくねぇんだよ」

 

 言葉に熱を込めるわけでもなく、されど自分の中の強い確信と思いを翼にぶつけるゼロ。そんなあまりにも真っ直ぐすぎる言葉の数々に、翼は不思議な気持ちになっていた。かつて自分の手を引いてくれた強く儚い彼女のような、今の自分の背を押してくれる後輩たちのような……。

 ただそれは決して嫌悪などではなく、むしろ愛好の意だと理解していった。故にその口元は、何処か歓喜を帯びながら持ち上がって行ったのだ。

 

「……了承した。共に戦ってくれるな? ウルトラマン、ゼロ」

「ヘッ、そうこなくっちゃな!」

 

 翼の背後に立つゼロ。その赤く明滅するカラータイマーから光が放たれ翼の身体を包んでいく。やがて光となった翼の身体は、そのままゼロの中へと吸い込まれていった。

 

 

『……これは……』

 

 優しい光にそっと目を開ける翼。そこで見たものは、眼前で息を荒げるノイズデガンジャの姿。心なしか、先ほどまで自分で見ていた時より巨大感は無い。否、ふと足元を見下ろすとその感覚は間違っていた。眼下に見えたのは先ほどまで自分が立っていた建物が小さく見下ろしている。つまりは。

 

『これが、ゼロの眼と言う事か……』

 

 意識を変えて自分の姿を見直す。機械的なギアは撤廃され、身体に纏うのはインナースーツのみ。だが胸のマイクユニットは普段以上に大きく展開していた。まるで、歌を普段以上に大きく響かせんとするように。

 

「どうだ、気分はよ?」

『不思議な感覚だ……。私は私としてちゃんとここに居るのに、お前と一体になっていることも理解る』

「そうか。だが、悪いがその感覚に慣らしてる時間はねぇぜ!」

 

 ゼロの言葉で顔を上げる。その目に映り込んできたのは、猛進してくるノイズデガンジャの荒々しい姿だ。

 翼はそれに対し、一瞬の反射としていなすことを決定した。相手の側頭を取り、その頭を逸らして向きを変え、バランスを崩す瞬間に足を掛けて倒す――。いつもの体捌きをいつものように自然と行った。そこに大した意識は存在せず、気が付いたらノイズデガンジャの巨体が自分の横に転がっていた。そこで彼女は真に理解した。これが、一体化なのであると。

 

『――いや、この一瞬で十分だッ! 往くぞゼロッ!!』

「あぁ! 反撃開始だッ!!」

 

 聖遺物が導く音楽に言魂を込めて歌いながら、名実ともにゼロと共に駆ける翼。何故だか理解できるゼロの動き、癖、特徴。その全てを自分に当て嵌めながら、尚且つ自分自身の思い描く動きもゼロへと連動されていく。

 歌が輝きを放ちながら位相差障壁を中和し、それに乗せて繰り出される鉄拳襲脚がノイズデガンジャに対し最も有効な攻撃と化していた。

 たまらず距離を置いて両の爪から雷電光を放つが、それに合わせるようにエメリウムスラッシュで相殺。一挙手一投足の全てに一つの隙も無かった。

 

 

「スゴい……スゴいです、翼さん!」

 

 戦闘の光景をモニターしながら、感嘆の言葉を漏らすエルフナイン。彼女だけでなく、その場の誰もが一体化して戦う翼とゼロの姿に衝撃を覚えていた。

 

『ウルトラマンとシンフォギア装者の一体化……。なるほど、つまりは光と歌のユナイトか』

「ユナイト……?」

『人間とウルトラマンの一体化……。ゼロのいた次元ではそう呼ぶことは無かったそうだが、私はずっとそう呼んできた』

 

 声だけではあるが何処かはにかむような口調のエックスに釣られ、エルフナインも笑顔になる。

 これは最早確信だ。あの何よりも力強い存在が、少女の歌を纏う光の巨人が、負けるはずはないのだと。

 

 

「俺の動きに合わせられるとは、やるな翼ッ!」

『徒手空拳も出来ずして、防人などとは言えぬからなッ!』

「でもよ、本当はそんなもんじゃねぇんだろ?」

『そうだな……我欲を通すであれば、あとは剣があればいい。天地万物を両断せしめんとする、無双の剣刃が――』

「だったらお誂え向きなモノがあるぜ!」

 

 ノイズデガンジャを蹴り飛ばし、頭部のゼロスラッガーを解き放つ。二本の刃は回転しながら眼前で合体し、巨大化。弓のような形をした輝く双刃大剣が完成した。

 

「ゼロツインソードッ!! どうだ、コイツじゃ満足できねぇか?」

『いや……いいや、防人の剣に此れ以上の不足は無いッ!!』

 

 中央の持ち手穴に手を通し握り締める。そこから感じる剣の感触は、天羽々斬のアームドギアを握った時と同じような親和性があった。其れを扱う術などは、躰が既に理解しているのだ。

 勢いよく跳びかかり、ゼロツインソードで激しく斬りつけていく。位相差障壁ごと斬り裂く斬撃は火花を散らしながら痛手を与え続け、ノイズデガンジャはもう真っ当に動くことも出来なかった。

 

「さぁ、こいつで終わりだッ!」

『我らの刃、受けて散れッ!』

 

 突進と共に高速で回転するゼロツインソード。その刃からは其々赤と青の炎が溢れ、二色の炎が織りなす炎輪と化した。それと共に翼の歌が更なる強さを増していった。

 それは一番聴いて欲しかった声。今は亡き者に、あの日喪った者に向かって叫び唄う。天地を越えて、我が命を唄う響きが届くようにと。その命が為すは唯一つ…夢を防人ることであると。

 

『「征ィィィ也ァァァァァッ!!!」』

 

 擦れ違いざまに放たれる赤き炎の上段袈裟切りと青き炎の下段斬り上げの二連撃。美しく舞い散る炎に相手は間違いなく両断される。此れぞ風鳴翼の得意とする技の一つ、それをウルトラマンの身体で行使することで必殺の精度を高めた一撃と化した新技、【風輪火斬 零太刀】である。

 ツインソードを元のゼロスラッガーに戻し、頭部に再装着。瞬間、背後でノイズデガンジャが爆発消滅した。黒き灰となって消えゆく様は、正しくノイズのそれだった。

 

「へへっ……。どうだヤプール!!」

 

 誇らしげに暗雲へ叫ぶゼロ。だが暗雲より一部始終を見ていたヤプールからは不敵な笑い声が帰って来た。

 

『フッ……フハハハハハ! 一つ倒した程度でいい気になるなよウルトラマンゼロ!』

「ハッ、負け惜しみもその辺にしとけよ!」

『負け惜しみ? 違うな。まだ我らの侵略は始まったばかりなのだ!』

『ただの尖兵だったと吐かすか…!』

『怯え竦め地球人どもよ!! この世界にノイズは蘇った!! そして我がヤプールが生み出す超獣もまたこの世界の脅威となってやろう!! 精々絶望に呻き苦しむ様を見せるがいいッ!! ハーッハッハッハ!!!』

 

 高笑いと共に消える暗雲。陽も沈み星が輝く夜の虚空へ、ゼロと翼が共に睨み付けた。

 

「――ッざけんなよヤプール! テメェらの好きには絶対やらせねぇからな!! この俺が……」

「――いや、私達がッ! 貴様らを斬り伏せる剣となろうッ! 世界を守護る盾となろうッ!!」

 

 

「ウルトラマンを――」『防人の歌を――』

『「嘗めるなよッ!!!」』

 

 

 ヤプールに対する抵抗意志を叫び上げるゼロと翼。高笑いまでが消え去った後、ゼロの身体が光へと還っていった。光が消えたその場には、ギアも解除されライブ衣装に戻った風鳴翼が立っていた。その左手には、ゼロが装備していた物と同じウルティメイトブレスレットが付けられていた。

 

「これは……」

『俺と一体化したって証だ。別の世界で動くなら、こうした方が手っ取り早いしな』

「……あぁ、確かに感じるな。お前が私と共に在るということが」

 

 軽く念じるとブレスレットの宝玉が輝きだす。力強く前向きな輝き。やはりそれは、何処かの誰かと被らせてしまう。不思議な相手だ。

 

『ヤプールのヤツらがどう動いてくるか分からない以上気は抜けねぇが、お前となら大丈夫そうだ。よろしくな、翼!』

「あぁ、此方こそよろしく頼む、ゼロ」

 

 互いに存在を確認しながら、改めて挨拶を交わす。ヤプールの手から世界を守護る、これはその為の契約だ。それを心で受け止めながら、翼はまた街の方へ歩いていく。少しすると緒川の運転する車が迎えに来てくれたのが、内心嬉しかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 タスクフォース本部指令室。全員が改めて腰を落ち着かせ、事態の収束に一息吐いていた。

 

「とりあえず、終わったようだな」

 

 流石の風鳴弦十郎も、この一連の事態には大きく溜め息をついてしまう。そのまますぐに通信機を日本のクリスへと繋げた。

 

「……クリスくんか?」

『他に誰がいんだよ。……で、そっちは?』

「あぁ、無事に収束した。色々聞かなきゃならないことはあるがな。それでだ、一度装者全員を招集してミーティングする必要が出て来た。翼と緒川を回収した後日本に向かうから、そこで行おう」

『了解。ったく、コイツらみんなそっちに行くんだーって大騒ぎで大変だったんだぜ?』

「だろうな。ありがとうクリスくん、よくみんなを抑えてくれた」

 

 弦十郎の素直な労いの言葉につい顔を綻ばせてしまうクリス。

 

『ま、まー上級生として当然のことだし? センパイにも頼まれたからな』

「そうだな。……じゃあ、また日本に到着したら連絡する」

『あいよ。海で襲われないように気を付けるこった』

 

 クリスの軽口で通信を終える。あとは翼と緒川の帰還を待って、事後処理を済ませた後すぐに出航だ。先に控えた仕事を思い、小さく溜め息を吐く弦十郎。そこに語り掛けてきたのは、エックスだった。

 

『お疲れ様です、風鳴司令』

「あぁ、此方こそ……協力に感謝する。だが、これからやる事は山積みだ」

 

 怪獣を送り込んでくる謎の侵略者ヤプールと、それと戦う光の巨人ウルトラマン。復活を果たしたノイズと、そこに併せ出て来るアルカノイズ。傷付き倒れ未だ目覚めぬ救世の英雄マリアと、ゼロと名乗るウルトラマンと一体となり共に戦う歌姫風鳴翼。たった一晩で、この世界を取り巻く状況が一変してしまったのだ。

 

『ヤプールは言いました。侵略は始まったばかりなのだと。ですが、この世界には私が居た世界のような対怪獣防衛組織は存在しない。だから……』

「俺たちがどうにかしなきゃいけないな。……あの子達に、また戦いを強いてしまうのは不本意だが……」

『……ゼロが帰還したら、増援を要請出来ないか相談します。場合によっては一度私が元の世界に戻り、信頼できる仲間を連れて来ましょう』

「そんなことが出来るのか?」

『ゼロの持つ力……ウルティメイトイージスは次元を超える力を持っています。此方の世界へもそれを用いてやってきましたので』

「なるほど、それなら信用できるな。あとは俺が、この世界の偉いサン達になんていうか、ってところか」

 

 部隊を率いる者として、そして大人としての責務を果たすべく気合を入れ直す。

 全てはこの場所へ、風鳴翼とウルトラマンゼロの両名が戻ってきてからの事である……。

 

 

 

 

 

『……ゼロはそれを選んだか。80、お前はどう思う?』

『あの強化された怪獣を討つのであれば、ゼロの選択は最良だと思います。ですが、私達が見込んだ彼女らは、本当に共に戦ってくれるのか……。

 ……いや、私達自身が、彼女らと共に戦えるのかどうか……』

『……俺たちも見極めねばならない。この星の人々を……星の歌に選ばれた、彼女たちの事を』

『そうですね、エース兄さん……。全てはまだ、始まったばかりなのだから……』

 

 

 

 

 

 EPISODE02 end...


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