絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 22 【黄金の闇――祓いしは燦然たる力】 -B-

「――ああ、オレが作った錬金人形か……。今はエタルガーが糸を引き繰りているのか?

 あんなもの……中身を少し”作り直せば”どうとでもなると言うのに――」

 

 キャロルが虚ろに洩らした言葉の意味は、恐らくこの世の誰もが分かる事は無かったのだろう。ただ唯一、この場に居る彼女と全く同じ存在であるエルフナイン(錬金術師)を除いては。

 エルフナインの思考に電流が走る。”作り直す”。そうだ、たったそれだけ(・・・・・・・)で良いのだ。錬金術の基礎は【理解】と【分解】、そして【再構成】。電子プログラムと似通うそれを自在に操るなど、彼女の独壇場なのだ。

 ダウルダブラの力を合わせて生まれたソングキラーだが、コアとなっていたキャロルの作る動作システムには察しが付く。後は何をどうすれば逆転の一手になるのか、そんなものは思考を巡らせるよりも早く一本の線になって彼女に答案を導き出させていた。

 伊達に同じ知識を転写されていないのだとばかりに端末を細かく操作し、術式を構築するエルフナイン。ほんの少しで良い、隙を作り出すことが出来ればそれで。

 

 

 一方で大地とエックスも、この状況を如何に好転させるかを思考していた。エタルダークネス……アーマードダークネスを纏ったエタルガーは余りにも強大な相手。このまま自分たちだけではどうしようもないだろう。

 だが思い返す。強大な敵と戦ってきた時は、常に心強い仲間が傍に居たことを。そしてこのベータスパークアーマーには、その仲間たち全てに力を分け与える手段が残されていると言うことを。

 【サイバーウィング】。かつての戦いの時はその場に居たウルトラマンとウルトラマンティガが光となりそのエネルギーを受ける事で発動、他の世界のウルトラ戦士へと力を分けていった。その発動さえ為せればと考える二人だったが、打ち付けられる現実は余りにも厳しく二人を窮地に追い詰めていった。

 

「どんな足搔きも無駄だッ! ウルトラマンエックス! 大空大地! 我が復讐の幕は、貴様らの血を以って開けるものとしようかァッ!!」

 

 ダークネストライデントから発射される暗黒光線【レゾリューム光線】。エンペラ星人が生み出した”光の戦士(ウルトラマン)”を斃す為の暗黒の技が放たれ、邪悪な奔流がエクシードエックスに直撃する。

 例え身に纏っているのがエックスの持つ究極のアーマーだとしても、その力の源は”光の戦士(ウルトラマン)”に依るもの。それを滅ぼすことに特化したレゾリューム光線を受けては、闇の粒子となって崩れ落ちていくのも至極当然の事だった。

 

『ぐ、うああぁぁ……ッ!』

「どう、すれば……ッ!」

 

 赤い光が加速する中で悶え苦しむ大地とエックス。そこに、エルフナインの声が響き渡って来た。

 

『エックスさん! 大地さん! 大丈夫ですか!?』

「エル、フナイン……」

『今から構築した演算式を其方へ送ります! それをソングキラーへ打ち込んでくださいッ!』

『演算式……。一体、何の……?』

『説明している暇はありません……。ですが、ボクを信じてくれるなら……どうかッ!』

 

 一瞬言葉が澱む大地。自分には会って間もない彼女の言葉だ、エックスと共に在った者である以上決して悪しき考えなど持たないのは理解るのだが、確信を抱けないのもまた明白だった。だが……。

 

「わかった、エルフナイン。送ってくれ……!」

『エックス、大丈夫なのか……?』

「エルフナインの事だ。きっと、私たちの考えの及ばぬ方法で手を貸してくれる。

 彼女は大地と同じく私の大切なパートナーで、【錬金術の一番星(アルケミー・スター)】なんだからな……!」

 

 確信を持って答えるエックスに大地は頷き、エルフナインも彼の答えに顔をほころばせる。

 

(……ボクに出来る”戦い”は、もうこれしかないと思う。でもせめて、ボク自身の”大切なもの”を守護りたい。だから――ッ!)

「だからどうか、お願いします……ッ!!」

 

 端末の送信ボタンを、小さな指で祈りを込めて力強くタップする。データ送信画面に映り、数秒で送信完了の画面へと切り替わる。

 そのデータは、大地のエクスデバイザーへと確実に届いていた。画面に表示された文字らしきものの羅列は、大地には全く理解が出来ないものだ。だがそれと同化しているエックスにとっては、この世界での戦いの最中で幾度となく彼女と共に見て来たもの。その内容を、一目見ただけで解らぬはずがなかった。

 

「そういう、ことか……! 大地、エクスラッガーをソングキラーにッ!」

『あ、ああッ!』

 

 震える右手で頭部からエクスラッガーを外し、そのまま顔の横から背後のソングキラーへと虹の刃を突き立てる。無論それだけで怯むソングキラーではない。が、直後その刃を通してエルフナインの構築した演算式が侵入、ソングキラーの内部を侵蝕し出した。

 ソングキラーに培われている錬金術式を解明……【理解】し、複雑に編み込まれた糸のような式を素早く解きほぐすように【分解】し、新しい形へと【再構成】……例えるならばそれは、システムそのものを書き換える悪辣なコンピューターウィルスのようだ。

 

「なにッ、どうしたソングキラーッ!?」

 

 急に動きの衰えたソングキラーに驚きを見せるエタルダークネス。その姿を見て、エックスが思わす笑いと共に言葉を発していった。

 

「エタルガー、お前はキャロル・マールス・ディーンハイムと手を組んだ時に何も学ばなかったのか? 彼女の生み出すもの……錬金術とは、なんであるかを」

「何を言っている、貴様……ッ!」

「彼女をただのひとりぼっちの操り人形としか見ていなかったのならば、それは大きな過ちだ。彼女から繋がっていたものが、遺していたものが……そしてそれを受け取り積み上げてきたものが、こうして兆しとなって輝くのだからッ!」

 

 繰り糸代わりに操作していたマイナスエネルギーが千切れて霧散する。動きを止めたソングキラーからは、エタルダークネスにとっては考えられぬほどの光を放ち始めていた。その光がベータスパークアーマーに伝播し、光の力を取り戻していたのだ。

 

「何があった……。貴様、なにをやったッ!」

「私の親愛なるパートナーが、ちょっとね。だがまあ、貴様には決して理解らんことだッ!

 飛ぶぞ、大地ッ!」

『ああッ! 何がどうなっているのか、後で俺にも説明してくれよッ!』

 

 エタルダークネスを力強く押し蹴り距離を離すエクシードエックス。その背にソングキラーを抱えたままに起ち上がり飛び上がる。糸の切れた人形のようなソングキラーからは、今やマイナスエネルギーではなく正方向の光のエネルギーが放たれていた。

 エルフナインが構築した演算式。それは【操作系統のハッキング】と【マイナスエネルギーの正方向転化】の術式だった。

 前者は、かつてヤプールとの、Uキラーザウルスとの決戦時に四次元空間に囚われた仲間たちを救い出すべく世界各国の衛星をハッキングした時に用いたモノの応用で組み上げられたもの。そして後者は、ウルトラギアの研究と調整、中でも雪音クリスとウルトラマン80のデータにあったマイナスエネルギー変換現象の研究の末に得た式だ。飽くまで机上論として成立する、と言うだけの一切の実践を行っていない理論だったのだが。

 そんな不確定なものをエックスに託し、尚且つエックスはそれに応えてみせた。これはRealizeUXと同様の、しかし名も無い即興の対抗策。だがそれは間違いなく、”エルフナインとエックス”の軌跡が無ければ為し得ない”(ユナイト)”の結晶だった。

 

 飛び上がったエクシードエックスは空中でソングキラーを光と変え、自らのアーマーへ吸収させていく。ダウルダブラの魔弦鋼糸とマイナスエネルギーの集合体で生まれたソングキラー、鋼糸は傷付いたベータスパークアーマーの補修に宛がわれ、光へと転換されるマイナスエネルギーは彼に力を与えていた。胸のカラータイマーは、赤から青に戻っていた。

 それでもなお溢れる力を迷うことなく仲間たちに贈る。ソングキラーを純粋なエネルギー体に変換させ、黄金に輝く電子の翼を広げたエクシードエックスは先程まで使っていたウルトラマンたちのサイバーカードと共に高められた力を解放した。

 

「『みんな、受け取ってくれッ!!!』」

 

 拡げられた光の翼は世界の各地点――ロンドン、バルベルデ、クウェート、ロサンゼルス、そして東京を走る響の乗る車にも降り注いでいく。

 思わぬ輝きに視界を奪われ急ブレーキで車を止める慎次。隣を見ると、助手席の響の身体に強い光が流れ込んでいた。驚きと共に慎次とエルフナインへ顔を向ける響。確信めいたエルフナインの口から、託す想いを込めた言葉が放たれた。

 

「行ってください、響さんッ!」

「エルフナインちゃん……分かったッ!!」

 

 光を浴びながら車を出て走り出す響。確かに今、この身にはどんどん力が沸き上がってくるのを感じる。加速する呼吸と鼓動も、まったく疲労に繋がらない。その手に握られたエスプレンダーも徐々に赤と青の輝きが増していっている。

 漲る力は確信に代わり、確信は胸の歌を高鳴らせる。聖詠と共に再度ガングニールのシンフォギアを纏った響が、エックスと大地がエタルガーと戦っている場所に向かって大きく跳躍した。

 そんな彼女の前に一筋の青い光が、まるで導かれるようにそれをシンフォギアのマイクユニットに向かって吸い込まれていった。

 更に高まる力で強く想う。――最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に……地球の命と言う”最強の力”を信じ貫き掴み取ることを。

 

 

 

 ロンドン。マガ嵐の中で必死にマガバッサーに喰らいつきながらも振り落とされんとするゼロの下にもその光は現れた。

 嵐を包み込むように巻き起こる光。僅かな隙間を縫うようにゼロのカラータイマーへ光が収束していき、タイマーが青になったと同時に己がプロテクターも発光を始めていた。

 

『これは……強い、光の力……!』

「大地とエックス……いや、エルフナインもか。ヘッ、やるじゃねぇかッ!」

 

 光と共にその意気が上がっていくゼロ。それに引っ張られるように翼の顔にも力と余裕が生まれて来る。

 光に包まれる彼女にも一筋の青い光が流れ込んでいた。それはまるで見知った姿、今そこに居る彼に似た何かを感じていた。有望な血筋に生まれながらもまるで獅子の如く激動の道を歩んできた若き最強戦士……まるでその、自信に満ちた命の光のように。

 

(……何処までも共に在れと言うのか。ならば――ッ!)

 

 翼のマイクユニットに、天羽々斬のシンフォギアに融合する青い輝き。その瞬間、ゼロの力は最高潮を迎えていた。

 

「っしゃああああッ!! パワー全開だ、行ぃッくぜェェェェッ!!!」

『ああ、存分に舞うぞッ! ゼロッ!!!』

 

 

 バルベルデ。マガグランドキングの攻撃を躱しながら反撃を窺う80の下にもその光は届いた。

 爆ぜる大地から湧き上がるその光に包まれている中で、点滅していたカラータイマーが青に戻り身体に力も沸き上がってくる。

 

『光が……』

「力が、湧いてくる……。これが、エックスの――」

『いや、エルフナインも一緒だよ。アイツらの頑張りが、一所懸命がアタシらに力をくれたんだ』

 

 一所懸命。それは猛が何度も授業の中で語って来た言葉だ。それを今度はクリスが言う事で返し、何処か互いに笑顔に変わる。

 そんなクリスの眼前に流れて来る青い光。どこか無邪気さを感じる其れは、未来より来たりて尚、未来に広がる無限大の夢を追い求める者を連想させる。この光はきっと誰もの夢を信じ、それを応援するような……あの馬鹿(立花響)のような笑顔を見せるのだろうとクリスは不意に一笑した。

 イチイバルのマイクユニットに吸い込まれ吸収される光。全身に漲る力はウルトラマン80も同じであり、眼前に映るマガグランドキングに対してももう負ける気がしなかった。

 

『……行こうか、センセイッ!!』

「ああ、やるぞクリスッ!!」

 

 

 

 

 クウェート。その光は炎を切り裂くように降り注いできた。優しく強い光を一身に浴びて、エースのカラータイマーは赤から青に戻って行き一体化している調と切歌の力も回復していった。

 

「この光……まるで父や母、兄さんや仲間たちのくれる輝きのようだ……」

『どんどん力が湧いてくる……。LiNKERの追加無しでも、シュルシャガナが私に力を貸してくれてるみたい……』

『イガリマもデス! きっと、エルフナインとエックスさんたちがやってくれたんデスよッ!』

 

 はしゃぐ切歌に笑顔を向ける調。そこにまた一筋の青い光が現れた。二人の前をクルクルと回るそれは、何処か可愛らしく迷っているようにも見える。そして一拍の間を置いて、光は二つに分裂。調と切歌の眼前にて光り輝いた。

 其処から感じられたものは、溢れる力強さ。訪れた運命に何度倒れても決して負けず、諦めず、仲間との絆と共に勝利と掴んだ者の凛々しい笑顔だった。

 その光が調と切歌のマイクユニット、それぞれのシンフォギアと一体化する。更なる力はエースにも伝播し、最大まで回復したことでその身に溢れる輝きは自信に満ち溢れていた。

 

「これならば、いける……ッ! 往くぞォ、二人ともッ!!」

『ハイッ!!』

『デェスッ!!』

 

 

 ロサンゼルス。硫黄色の濃霧が立ち込める、死に近しい摩天楼となった都市部にもその光は差し込まれた。向かう先は赤と青に彩られた巨人、ウルトラマンネクサス。マリア・カデンツァヴナ・イヴだ。

 点滅していたコアゲージは元の青色に戻り、その下にあるエナジーコアにも深い拍動のように光が伝播し、満ち溢れていく。

 

(これがエックスの……いいえ。これはきっと、エックスとエルフナインの絆がユナイトした結果。

 満ちていく……。力が……光が……ッ!)

 

 その眼に光を取り戻し、マガジャッパの前に起ち上がるネクサス。その中、一体化しているマリアへと向かって一筋の青い光が走って行った。優しく掌の上に乗せるように添えるマリア。その光を見て感じ取ったのは、歴代の適能者(デュナミスト)たちの姿だった。

 数多くの適能者(デュナミスト)たち。誰もがマリアに対して何かを伝えている。その答えを、彼女は既に持っていた。

 

(――ありがとう。大丈夫、私は諦めないッ!!)

 

 自らの胸のマイクユニット、自分と家族、そして大切な仲間たちとを繋ぐ絆の聖遺物にその光を預けることでネクサスは更に輝きを増していく。

 

 ベータスパークアーマーを纏ったウルトラマンエックスと、彼とユナイトする大空大地。そしてエックスと絆を紡いできた少女エルフナイン。

 かつて出来損ないと、戦場にも立てぬ者と揶揄された者たちの結束が、世界で戦う仲間たちの窮地を救い復活を為し遂げると言う大金星を挙げた瞬間だった。

 

 

 

 

 マガ嵐の中、マガバッサーの首を絞めながら旋回を続けるゼロと翼。その身に滾る力を以って、この戦いに終止符を打たんとする。

 

『制空の主導は、我らにこそ――ッ!!』

「ぬううおおおおおおりゃあああああッ!!!」

 

 力尽くで、だが竜巻の回転には逆らわずに加速飛行を仕掛けることで逆にマガバッサーを引っ張り回す形になる。しかもただの回転ではない。マガバッサーがその翼で風に乗らぬよう縦や横、捻りを加えつつまるで球を作るように引き摺り回し飛んだのだ。

 やがて眼を回したマガバッサーは、力尽きたかのように空中でゆっくりと滞空しているので精一杯になるまで疲弊させられていた。一方でゼロは、既にマガバッサーより遥か天空へ位置していた。

 ゼロスラッガーを外し、眼前で合体させてゼロツインソードと化す。それを天に掲げると回転と共に赤と青の轟炎が巻き起こり、ゼロがその炎刃を携えて突進して来た。

 思わず羽根を閉じて防御姿勢に入るマガバッサー。剣刃殺し(ソードブレイカー)がある以上、剣での攻撃は通用しない――。

 

「ンなこたぁ理解ってんだよッ!!」

『そしてこの身が、如何に其れを砕いたかも忘失れているはずが無かろうがッ!!』

「こぉいつでぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 廻る炎刃を投げ放つゼロ。巨大な火輪と化した刃に伴い、その柄の部分に向かって全力のウルトラゼロキックを打ち放つ。

 全身に纏う炎、回転する刃、超速を以って標的に向かい奔るその姿は、まさに――

 

「『遥かなる宇宙(そら)を流れ切り裂き飛ぶ星をッ!! 小難しい哲学風情で砕けると思うんじゃねえええええええッッ!!!!』」

 

 【羅刹逆鱗蹴 流零星】――流星と化したゼロと翼がマガバッサーを通り抜けた瞬間、術式の描かれた蒼翼は砕かれ腹部には巨大な孔が貫かれていた。そして額の赤いマガクリスタルか砕け散ると共に、風ノ魔王獣は縦へ真っ直ぐと両断され、暗い空の中で一際明るく爆発四散した。

 

『我らより高く疾く飛ぼうなど――』

「――二万年、早いぜッ!!」

 

 勝利を確信したと同時に飛び立つゼロ。向かう場所は、たった一つだった。

 

 

 

 

 黒鐵から輝き放たれる光の雨が80を襲う。だが体力を最大以上にまで回復させた彼の素早い動きは、その雨にただの一つも掠めることは無かった。

 側転からバック転、捻りを加えたジャンプから後頭部へ急降下蹴りを仕掛ける80に、鈍重なマガグランドキングは徐々に対応しきれなくなっていく。その上隙あらば突き刺さるウルトラアローショットの連続発射。折り紙付きのクリスの操作制度は敵の死角を狙い確実に突き刺さっていった。

 

『遅ェ遅ェッ! チンタラ攻めてんじゃねぇぞウスノロがッ!!』

「クリス、言葉が汚い。回復と共に優位を取るのは良いが、あの頑強さをどうにかしなければまた同じことの繰り返しだ」

『その為に挑発してんだよ。こっちだって、いい加減終わらせてぇんだッ!』

 

 意気揚々と吼えるクリス。猛はどこかやれやれと言った気持ちになりながらも、これ以上の長期戦が望ましくないことぐらい分かっていた。

 勝利への糸口は既に見つけてある。足りない体力も復活した。ならばあとは、それを為すタイミングだけだ。その為にも、マガグランドキングには小手先の技はもう通用しないと思わせなければならない。故に80とクリスは、あえてその立ち回りを派手にしつつ攻撃を躱していったのだ。

 そしてマガグランドキングの前に立つ80。二人に向けて遂に、胸の結晶体へエネルギー蓄え始めていった。

 

「――来るぞ、クリスッ!」

『しくじらねぇよッ! このタイミングでぇッ!!』

 

 大きく吼えながら大量のエネルギーをマガ穿孔へと変えて解き放つマガグランドキング。万物を貫く赤黒の閃光が、80に向かって発射された。

 直撃は死に繋がるその一瞬、80は胸の前で腕を交差して【ウルトラVバリヤー】を作り、同時に組み重ねた腕から【リバウンド光線】を発生させて光の壁を形成。その光の壁にイチイバルの機能の一つである光学兵器反射リフレクタービットを瞬時に展開させて完全なる”鏡”を作り出した。

 受け止められるマガ穿孔。あらぬ方向へ反射する閃光の一撃を力尽くで制御し、結果マガグランドキングの胴体へと真っ直ぐ反射させ自らの頑強な黒鐵の装甲を貫いた。

 

『どうだッ! 力押しだけじゃキマんねぇんだよッ!!』

「止めだ、いくぞクリスッ!!」

 

「『夢の第一歩……この地を守護るのは、私たちだぁぁぁぁッ!!!』」

 

 ウルトラVバリヤーを解除すると共に左手を上に、右手を真横に伸ばしいつもの力を高めるポーズを作る。そして両の掌を頭の上で重ね、下腹部のバックル部分を挟むように構えた。

 放たれるバックルビームはクリスのCUT IN CUT OUTのように連続発射される誘導小型ミサイルの如く光の尾を引きマガグランドキングの内部へ打ち込まれていく。その発射の直後、今度は腕をL字に構えBILLION SUCCIUMを連続で発射。内部破壊を続けるマガグランドキングを、表面からも粉砕していった。

 そして額にある赤いマガクリスタルが粉々に砕かれた瞬間、土ノ魔王獣は身体を軋ませる音だけを鳴らして大爆発した。

 自らの勝利を得たと同時に飛び立つ80。彼も見据える場所は、ただ一つだった。

 

 

 

 

 巻き起こる炎の中、それを突っ切る形で猛進しマガパンドンとウルトラマンエースが激突。激しく組み合いを始めていた。

 滾る力任せの拳の連撃を放ち、胴体部分へ重たい膝蹴りからミドルキック、ドロップキックと連続で重撃を叩き込むエース。

 激しく怯み後退するマガパンドンだったが、すぐにマガ火球と灼熱のカーボンロッドの連続発射で反撃を試みる。だがエースは、即座にウルトラネオバリヤーを展開し攻撃の全てを防いでいった。

 

『この身に滾り溢れるこの力……ッ!』

『そいつの前でこんなものが効いてたまるかデェスッ!!』

 

 エースバリヤーに次いでの連戦。失われた体力は相当のものだったはずだが、サイバーウィングの力でその体力は完全に復活しており二人のユニゾンによるフォニックゲインも激しく高まっていた。

 しかしマガパンドンの身体は頑強だ。自らの肉体をマグマのように循環させることで切断技を受けてもすぐに傷口を融合し元に戻してしまう。肉弾戦ではダメージになるものの、如何せん二人では響のように爆発力に長ける格闘は出来なかった。力比べで負ける気は無くなっても、これでは勝ち筋が見えないままだ。

 

「力があるうちに決めたいところだが、さぁどうするか……」

『そんなの決まってるデスよッ! アタシたちにやれる事は、たった一つだけデスッ!』

『切って、伐って、とにかく斬り刻む。直す暇も与えずに、アイツの核ごと全部バラバラにするッ!』

 

 調と切歌から言われた、余りにもシンプルすぎる案。力尽くなど策と言えるのか甚だ疑問ではあるが、そういう単純明快さは星司の琴線にも強く触れるものだった。

 

「よぉし、だったら特大のをお見舞いしてやるかッ!」

『そうこなくっちゃデスッ!』

『やろう切ちゃん! 星司おじさん!』

 

 両手を天へ仰ぎ、二人のフォニックゲインがエースのウルトラホールに一気に収束を始める。ウルトラホールを介して赤と緑の二色が混ざり合い、輝く光輪が両手の上で激しく唸りを上げて超光速の回転をする。

 勢いよく右手から真っ直ぐ撃ち放たれた光輪と、外へ薙ぎ払うように放たれた左手の光輪の双撃。二人のフォニックゲインとエースの力が合わさった必殺技の鏖獄光刃(おうごくこうじん) ギRぉ血nnエクLィプssSS(ギロチンエクリプス)

 緋色に輝く刃は自らを今度は八つに分裂。放ったエースの意志に従うかのように変則的な動きと共にマガパンドンの四肢、双首、その根本、胴体にまで入り込み、動きを封じるかのようにその場で超回転する。

 そして薙ぐように放ったもう一つの光輪は、巨大なX字を描く翠光の刃へと形を変え、両断の意志と勢威を以て真っ直ぐにマガパンドンへ突進していった。

 緋色の鋸刃は無限の回転で傷口を融合させる間も無く、正に絶え間なく伐り刻み断裂していく。超速で迫る翠色の鎌刃は胸に突き刺さり溶解する肉体で受け止めようとするが、刃は徐々に進んでいった。

 痛苦による叫び声を上げるマガパンドンだったが、エースは既に両腕を伸ばし左へと上体を捻って力を高めていた。

 

「『『まだ、コイツもだぁぁぁぁぁッ!!!!』』」

 

 一気に振り抜きL字を組み上げ、放たれるは必殺のメタリウム光線。重ねられるように放たれた光は真っ直ぐマガパンドンに直撃し、その身体を砕いていく。それに合わせるようにヒビが入るマガクリスタル。光の奔流に耐え切れず破砕した瞬間、鋸刃は(つんざ)き翠刃は断ち切り光線は火ノ魔王獣の肉体を一片遺さず爆散させた。

 達すると共に頷き消化フォッグを撒いて周囲を鎮火させるエース。それを終えると一つの場所を目指して飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 硫黄色の濃霧が広がる中で氷塊を伴うマガ水流に押されるネクサス。だが力を完全に取り戻した彼女にもまた、言い得も無い昂ぶりが宿っていた。

 

(これ程の力が、私に……。今ならば、きっと――)

 

 夢想する。命の危機に追いやられているみんなを救い、眼前の邪悪を祓う方法を。其れを同時にやれる手段を。

 そんな彼女に、内に宿る光が声をかけた。初めて変身して以来聞いた、二人の男の声だった。

 

(ああ、今のお前なら俺たちの力も十分使いこなせるはずだ。ゼロのヤツみたいにな)

(恐れることは無いよ。僕たちはずっと、君と一緒に戦って来たんだから)

(――貴方たちが、ウルトラマンダイナ……ウルトラマンコスモス……!)

 

 明確な姿となって表れる二人の男――ウルトラマンダイナことアスカ・シンと、ウルトラマンコスモスこと春野ムサシ。二人から差し出された手をおもむろに握り返すと、二つの光がマリアの中で一つに重なった。

 確信する。この力は、自らの為したい理想を為せる力であることを。

 

「オオオォォォォォ……ッ!! デェヤアァァッ!!!」

 

 マガ水流を押し返しながら近寄り、マガジャッパの首を捉えて一気に背負い投げで背中から叩き付けるネクサス。次の瞬間胸の前でアームドネクサスをぶつけ合わせると、青と銀の光が放たれアームドネクサスをその色に変えた。

 月のように優しき奇跡を呼び起こす【守り抜く力】。そのまま両手を天に掲げると、メタフィールドへと誘うフェーズシフトウェーブのように青い光が立ち昇っていく。だがそれと違うのは、位相差に移動するのではなく死の淵にある街の全てを浄化する神聖なる輝きであったことだ。

 まるでルナミラクルゼロと同様の力を持つ浄化の技、【ルナミラクルウェーブ】が硫黄色の殺意の霧を全て消し飛ばし、それに侵された人々の命も全て取り戻していった。

 

(これでもう、誰も死なせはしないッ!)

 

 自らの策謀を崩され狂乱するマガジャッパ。暴れ襲い掛かるそれに対し、ネクサスは再度胸の前でアームドネクサスをぶつけ合わせる。今度は赤と金の光が放たれ、また同様にアームドネクサスをその色へ変化させた。

 太陽のように力強く照らしながら【前に進む力】。黄金に輝く炎を纏うネクサスの左拳が、マガジャッパの顔面を捉え撃ち抜いた。そのよろめきを逃さぬように左右の拳を一発ずつ、重く撃ち貫くように叩き込んでいく。

 ストロングコロナゼロと同じく爆発的な力を秘めた必殺拳、【ストロングコロナフィスト】の前には、マガジャッパの持つ黄金の鱗も耐えようがなかった。

 

(だあああああああッ!!!)

 

 爆裂する左拳に吹き飛ぶマガジャッパ。その隙を突いて、ネクサスが今度は胸の下で腕を伸ばしアームドネクサスをぶつけ合わせる。両腕のアームドネクサスには赤と青の光が激しい輝きを見せていた。

 【守り抜く力】。【前に進む力】。二人の戦士より託された力が【勇気の光】によって束ねられ黄金の円環が重ね合う腕に生まれる。それに沿うように右腕を上へ、左腕を下へ……そして右足を上げて片足立ちになると同時に、左腕は胸の前へ、右腕は顔の隣で輝きを更に高め上げた。

 

「オオオオオ……デェヤアァァァァァッ!!!」

 

 持ち上げた右足を踏み込むと同時に、右腕の底部……肘に左の拳を重ね合わせてL字を組み上げて眩い黄金の光線を発射したネクサス。ダイナとコスモスの、そして自分自身の力を合わせた必殺光線【エクリプスフラッシュレイ・シュトローム】がマガジャッパへと直撃。

 圧倒的な輝きはその全身を黄金の粒子へと分解し、マガクリスタルを諸共に水ノ魔王獣を完全に撃破したのだった。

 肩で息をするように上下させながら未だ暗い空を見るネクサス。彼女もまた掛け声と共に空へと飛ぶ。皆と同じく、向かう先は――

 

 

 

 

 ――東京。

 ソングキラーを取り込みつつのサイバーウィングの展開を終えたエクシードエックスは、急降下と共にベータスパークソードをエタルダークネスに向かって振り下ろした。

 それをダークネストライデントで受け止めるエタルダークネス。発せられた声には、怒りと焦りが入り混じったようなものがあった。

 

「貴様ァァァッ!!」

「言っただろう! 貴様には、決して理解の出来ぬ事だとッ!!」

 

 力のままにダークネストライデントを押し込むことで体勢を崩し、その隙に合わせての突き、外への払い斬りと連続で放つエクシードエックス。深く斬り付けた一撃はエタルダークネスの暗黒の鎧から火花を走らせ、大きく怯ませるに至った。

 

「まだだ……。まだ俺にはコイツがあるッ!

 甦れッ!! 唸りを上げる憎悪と怨嗟を滾らせて、光の戦士への復讐を為し遂げろッ! 巨大ヤプールッ!!!

 そして出でよッ!! 全ての因子を重ね合わせた最強のスペースビーストッ! イズマエルゥッ!!!」

 

 甲高い声と共に時空が裂け、其処から出現する禍々しき異形の怪物。この世界で、そしてまた他の世界にも存在する数多のスペースビーストの因子が一つとなって具現化したフィンディッシュタイプビーストの最終合体形態。それがこの、イズマエルだった。

 エタルガーに操られる形で人々に、装者とウルトラマンに牙を剥いてきたスペースビースト。その首魁とも言える文字通り最強のビーストだ。

 それと同時に出現する紅く滾るマイナスエネルギーの塊。エタルガーの手によって砕かれたヤプールの僅かな破片がマイナスエネルギーと結合し、その本来の巨大な姿を顕現。エタルダークネスの隣に立ち唸りを上げた。

 

『増援ッ!?』

「クッ、気を付けろ大地! 並の相手じゃない」

「死ねええええええッ!!!」

 

 エタルダークネスがレゾリューム光線を放つと同時に、イズマエルと巨大ヤプールもそれぞれ強力な暗黒光線を発射。エクシードエックスへと襲い掛かる。

 だがその命中の瞬間、大地が爆裂するように巻き上がりその光線の全てを遮断した。

 

「なにィッ!?」

(……やらせない。もうこれ以上、誰も傷付けさせるものかッ!!)

 

 巻い落ちる瓦礫の中に佇んでいたのは赤い光を湛える地球の命の象徴、ウルトラマンガイア……立花響だった。

 

「響ッ!」

(ありがとうございます、エックスさん! エックスさんとエルフナインちゃんのおかげで、フルパワー充電完了ですッ!!)

「おいおい、俺たちも忘れんじゃねぇぜッ!!」

 

 天空から響き渡る声。暗い空を見上げると、まるで吸い寄せられるように四つの流れる光がガイアとエクシードエックスの立つ東京の地に集い降臨した。

 ウルトラマンゼロ、ウルトラマン80、ウルトラマンエース、ウルトラマンネクサス。世界各国で魔王獣を撃破した四人のウルトラマンが帰還し、今此処にこの世界を守護るために現れた”六人の”ウルトラマンが肩を並べ揃ったのだ。

 

「助かったぜエックス、大地!」

「君たちの力が無ければ、私たちは大切な人たちを傷付けてしまっていただろう……」

 

 少し悔やむように胸に手を当てる80。彼にとってそれは一体化している雪音クリスのことであり、彼女の友である装者たち全員のことだとは想像に容易かった。その想いはエースとゼロも同じであり、間接的にでもそれらを守護ってくれたエックスと大地にエースは力強く握手をした。

 

「――ありがとう。ウルトラマンエックスッ!」

「光栄です。ですが、これは私だけの力ではない。ユナイトしている大地とだけでも引き出せなかった。全ては――」

 

 エックスの目線が下に向けられる。其処には再度走り往く車内から窓を全開にし、身を乗り出しながら此方に目を向ける小さな小さな金髪の少女の姿。またもクシャクシャに泣きそうになりながら、それでも精一杯の喜びの笑顔を向けていた。

 

(……そうね。エルフナインの力が無ければ、私たちは此処に起っていなかったかもしれない)

(エルフナインちゃんとエックスさん……。それに他のみんなとウルトラマンも、マリアさんも私も……ヒトとウルトラマンが絆を結ぶことが出来たから、今こうしてみんなで一緒に居られるんですよねッ!)

 

 響の言葉に全員が頷く。その光景に、エックスとユナイトしている大地も嬉しそうな笑顔のまま声を出した。

 

『エックス、俺の知らない間にこんなに凄い仲間たちと一緒に居たんだな』

「ああ、みんな私の誇れる仲間たちだ。今は大地を紹介する暇は無いのが惜しいぐらいにな」

『色んな事を後回しにしてるからな。終わった後が楽しみだよ』

 

 そんな二人の軽口を聴きながらも装者たちそれぞれも彼の事をなんとか認識していった。

 

『貴方がエックスのパートナー、大空大地殿か……』

『写真では見せてもらってたけど……』

『なんか、やっぱりフツーのおにーさんデス』

『つーかフツーすぎて、なんでこんなに戦えてるのかよくわかんねぇぞ……?』

『……なんか、思ったより酷い言われようだなぁ』

(ごめんなさい、みんなの無礼を謝るわ。でもそうは言っているけれど、みんな貴方を頼れる仲間であると思っていることに間違いは無いから)

(そうですよッ! ピンチに駆けつけてくれた大地さん、カッコ良かったですしッ!)

『あ、あの時はなんか無我夢中で……』

 

 不意に始まった閑話を遮るように、エタルダークネス、イズマエル、巨大ヤプールから光線の同時攻撃が放たれた。

 突如包まれる破壊と爆炎。隙を見せたのが悪いとばかりに無言で嗤うエタルダークネスだったが、それぞれのウルトラマンが同時に展開したバリヤーが周囲に巨大な光壁を作り、その攻撃全てを防いでいた。ウルトラマンが立ち並んだからこそ出来た芸当でもある。

 その光景に激を昂らせ、エタルダークネスが吼えた。

 

「何処までも俺の邪魔をするのか、ウルトラマン……人間どもッ!!」

(往こうみんなッ! こんな戦い、終わりにするんだッ!!)

 

 響の声に皆が肯定で応え、其れと共にウルトラマンと一体化している装者たちが胸のマイクユニットをその手に掴み取り外す。

 ユニットの突起部分を連続で三回押し込むことで全てのセーフティーを解除。持てる力の最大にして総全を呼び起こす起動令句を、皆が一斉に吼え叫んだ。

 

 

 野望と共に生命(いのち)地球(ほし)を蹂躙する悪しき侵略者との戦いを、終わらせるために。

 

 

 

『――ウルトラギアッ!!! コンッバイイイイイイインッッ!!!!』

 

 

 

 六人の戦姫の叫びと共に、五人の巨人から燦然たる力が解き放たれた――。

 

 

 

 

 

EPISODE22 end…


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