絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 22 【黄金の闇――祓いしは燦然たる力】 -A-

 

 青かった空は黒く染まり、風は唸りを上げて吹き荒ぶ。大地は絶えず地響きを起こし、水は命を寄せ付けぬように禍々しくなり、炎は薄くとも確実に地球を覆い天より炙る。

 世界各国の異常気象が報告される中、移動本部指令室の巨大モニターにはエクシードエックスと相対する黄金の禍々しきヒト型の存在を確認していた。

 

「あれが、エタルガーなのか……!」

「とんでもないってレベルじゃないですよ……! 計器が示す数字が全部、キャロルのソングキラーを上回ってやがる……ッ!」

「各国の魔王獣も、出現時より更にパワーを増しているようですッ! 逆にウルトラマンたちはもうカラータイマーが……ッ!」

「ここまで周到に、計画されていたというのか……ッ!!」

 

 コンソールを殴り付けながら呻く弦十郎。画面の向こうでは、黄金の魔神と黒銀の巨人が睨み合いを続けていた。

 

「この地球(ほし)の、マイナスエネルギーだと……!?」

「その通りだ、ウルトラマンエックス。俺も貴様らウルトラマンに敗北し、学んだのだよ。貴様らを圧倒する力を得る為に、何が必要なのかを……」

 

 語りを続けるエタルガー。悠然としたその態度は今の自らの力に絶対の自信を抱いている者の為す態度に他ならなかった。

 

「かつてはエタルダミーで人間やウルトラマンの最も恐れる存在を作り出したが、どいつもこいつもそれらを乗り越えて来た。それは、この世界でも同じだった」

『当たり前だッ! 人は誰でも恐怖を抱く。だからこそ、それを乗り越えるために限界以上の力を出すんだッ!』

「そうだな。そして俺はそれに……貴様らの言う絆の力に負けた。敗北の先で俺は考えた……。一体俺は、何処を間違えたのだろうかとな。

 仮説はあった。ヒトとウルトラマンが絆を結ばなかった世界……其処ならば。だがそれもすぐに棄却した。影法師が選んだ”ウルトラマンと言う存在が空想の産物”である世界。カイザーベリアル率いる銀河帝国の侵略を受けたアナザースペース。バット星人が地球人類を餌として捕らえ究極のハイパーゼットンを生み出したフューチャーアース。どれもウルトラマンどもを追い詰めるものの、斃すまでには至らなかったことを知った。

 だが俺はもう一つの可能性も識った。マイナスエネルギー……ただ自らの力の源であり宇宙にも耐えず流れているそれは、ある器の中で強く大きく高められているのだと」

『器の、中で……!?』

「ヤプールに出会ったのはその時だ。ヤツの打倒ウルトラマンに賭ける憎悪を利用し、我らは手を組んだ。互いにマイナスエネルギーを主とする存在……そこから黒い影法師を配下に置く事も容易い事だった。

 そしてウルトラマンたちを斃すべく舞台として、”この世界のこの地球”を選んだ」

 

 エタルガーの言葉に、聞き入っていた者たちが戦慄する。だがそれと同時に疑問が沸き起こった。何故、”この世界のこの地球”なのかと。

 

「知れたこと。月の巨大遺跡……バラルの呪詛にて相互理解を奪われた人類は超古代より絶えず争いを続けてきた。それもただの争いじゃない。ノイズ……ヒトがヒトを殺す為だけの存在を生み出し、それに対し神代の兵装である聖遺物を持ち出して……この地球(ほし)の歴史は、破壊に彩られた殺戮遊戯だ。

 そして今世もまた、永遠の名を持つ巫女が己が妄執の為に呪詛を撃ち砕き世界を一つにする為に如何程の地球(ほし)の生命を犠牲にしようと厭わなかった。

 英雄に焦がれた俗物もまた同じく、自らの下賤な欲望の為にヒトの身でありながら地球(ほし)の生命を削り取り支配しようとした。

 世界に裏切られ炎へと()べられた錬金術師の遺児は、奇跡を憎みながらも愛を求めるが故に世界に対する復讐を行っていった。

 そして此度、地球に新たなる脅威が出現する……。異次元人ヤプールが率いる、大超獣による地球の蹂躙だ」

 

 ルナアタック、フロンティア事変、魔法少女事変、そして此度の怪獣侵略。遡れば超古代のありとあらゆる戦争行為、バラルの呪詛やノイズ、聖遺物までも関与しているとエタルガーは語る。

 

「理解るだろう? 本当に悲鳴を上げていたのは誰か。幾度となく蹂躙され、凌辱され、それでもなお言葉にすることなく耐え続けてきた【器】。

 怒り、哀しみ、憎しみ、痛み……その全てを受け止めていた存在を」

「――それが、地球……ッ!?」

 

 エックスの言葉に栓を切ったように嗤い出すエタルガー。

 彼の言葉が正しければ、この地球にはどれ程のマイナスエネルギーが溜め込まれていたのかなど想像も出来ない。

 

「地球が……そんな……!」

 

 慎次が運転する車の中、疲れから大きく息をしながらエスプレンダーを見つめる響。未だ光を湛えている青い結晶を眺め見る彼女には、エタルガーの言葉を信じることが出来なかった。

 それは各魔王獣の口から発せられた言葉を聞いていた装者とウルトラマンたちにも言えたことで、誰の思考にも戦慄が走っていた。

 

『全て、思惑通りだったというのか……!?』

『フィーネのやろうとしてた、痛みで世界を一つにするってコトも……』

『ドクターやマムがやろうとしてた、フロンティアの力で月の落下から世界を守護ることも……』

『キャロルが世界に対して燃やした、破壊と復讐の炎による世界の分解も……』

『ヤプールが超獣を以って、この地球を侵略に現れたのも……』

「そうだ。そしてそれは、ヤプールが初めてこの地球に現れ侵略を開始した時に証明された。

 オーストラリアの地にヤプールの放った怨念より生まれし風魔神デガンジャ……。アレこそが、この地球に存在するマイナスエネルギーの一端だったのだ」

 

 驚きを隠せない一同。中でも翼とマリアは特にだ。この世界で最初に現れた交戦した”怪獣”。それが、地球の暗部であるマイナスエネルギーの一端であるなど想像だにしていなかったのだ。

 

「ヤプールの能力で、地球はその秘めたマイナスエネルギーに力を与えることで具現化することは理解った。

 そしてこの俺の力……生物の記憶から恐怖を引きずり出し具現化するこの能力で、地球に根差した忌まわしき”記憶”を吸い上げ影法師へと移植したのだ。Dr.ウェルと、キャロル・マールス・ディーンハイムをな」

「キャロルが……!?」

 

 思わず眠ったままの彼女の姿を凝視するエルフナイン。完璧以上の完全なるホムンクルスであるが故にヒトと同等の温もりを湛える彼女が、影法師と同じくマイナスエネルギーの塊であるとエタルガーは言ったのだ。

 何かに祈るようにキャロルの手を握り眼を閉じるエルフナインの姿は、エタルガーの放った心無い言葉を拒絶しているようにも見える。そんな姿を見て、黙っていられる響ではなかった。

 

「……緒川さん、下ろしてください!」

「響さん!? まさか戦いに行くつもりじゃないでしょうね!」

 

 響は答えない。だがその表情は何よりの肯定を示していた。

 

「キャロルとの戦いのダメージを推してイグナイトモジュールの三段階開放、エックスさんたちにエネルギーを送ったばかりで体力なんか残っていないはずです!今行けば死にに行くようなものですよ!」

「それでも、私は……」

「遺される者たちの――未来さんやご家族のことを考えて下さいッ!!」

 

 珍しい慎次の強い叱咤に、響の眼が眩む。同時に浮かんでくる親友や両親の笑顔が響の無謀な決意を崩し、涙を溢れさせた。

 咽び泣く彼女は今、何よりも無力だった。届かせたくて届かなかったものに今度こそ其処に届かせることが出来たと言うのに、助けられたというのに真の危機に対しては戦場に起つ事すら許されぬ状態に陥ってしまっていたのだ。

 後部座席で彼女の無念さをただ眺めるしかないエルフナインは、眠るキャロルの手と共に自らの端末を握らせてただ祈りを送る。邪悪と相対する、光の巨人たちに。

 

「理解ったかね、ウルトラマンどもよ。シンフォギア装者どもよ。如何に貴様らが心を繋ぎ、例え70億の絶唱を束ねたとしてもこの地球のマイナスエネルギーを祓うには至らんのだ。

 ――絶望しろ。そしてこの地球(ほし)と共に、滅び去るがいいッ!」

 

 嗤いながら勝利を宣言するかの如く吼えるエタルガー。誰もがその言葉に、心挫かれもたげようとしていた。

 だがそれに、一切の絶望を感じさせない声を返すものが居た。高らかに、放たれた。

 

「――ゴチャゴチャと、うるッせぇんだよッ!!!」

「……その声、ウルトラマンゼロ」

「何が絶望だ、地球に溜め込まれたマイナスエネルギーだ。そんなもんで俺たちウルトラマンがビビるとでも思ってやがったかッ!?

 だとしたら相当見くびられたもんだ。アレだけ派手にやられておいて、俺たちになんで負けたかまるで理解ってねぇんだからなッ!!」

『ゼロ……』

「世界を守護る。人を、星に生きる生命を守護る。俺たちは俺たちウルトラマンが当たり前にやって来たことを今回もやり遂げる。テメェがどれだけ強くなろうが関係ねぇ。俺たちは常にその上を往き、守護るべきものを守護り抜くッ!! ただそれだけだッ!!」

 

 ゼロの力強い啖呵を聴き、エースと80がその顔を上げて構えを作る。彼に当てられて、その闘志が戻って来たようだった。

 

「ゼロの言う通りだ……。俺たちは今度もこの地球(ほし)を守護る。遠く輝く星である俺たちに、力無き願いは今もなお届いているんだ。邪悪を討ち、正義を為してくれとッ!!」

『おじさん……』

『星司、おじさん……』

 

「私たちは”ウルトラマン”なのだ……。神のように全てを修める万能の力は持たないが、守護り抜く愛と立ち向かう勇気に応えるだけの力なら持っているッ!!」

『センセイ……』

 

 二人の声を受け、今度はネクサスとエックスが顔を上げる。移動本部に向かう車の中でも、響の涙は既に止まっていた。

 

(――そうよ。この世界を守護りたいのは、私たちだって一緒なの。闇が怖くて、アイツが怖くてどうする……足踏みしているだけじゃ、何処へも進めないッ! 何も守護れないッ!!)

 

『……此処に来る前に、誰かに言われたんだ。【もし今、とある世界が滅び未来が無くなろうとしているとき……君は、誰かを守護り助ける勇気と力を持っていられるかね?】と……。

 その意味が今この場にあると言うのなら、俺は迷わず『持っていられる』と返す。エックス、それは君が教えてくれたことだからッ!!』

「私もだ、大地。君が居る、心を繋げたみんなが居る――その奇跡と勇気こそが、立ち向かう力をくれるのだからッ!!」

 

「力任せの邪悪な願いなんかに、大切なものを何一つ傷付けさせやしない……。最後の力が枯れるまで、此処から一歩も退がらない。

 たとえ今は戦えなくても、どうにもこうにもならなくても……きっと掴み取れる……ッ!!」

 

 世界に流れる風が僅かに変わったのが理解った。声援、応援、小さくとも確実に届いてくる声に、ウルトラマンたちは確実に力を感じていたのだ。この想いが陰ることは無い。故に起つ。起って戦う。かけがえのないこの地球(ほし)を、守護るために。

 

 何方からともなく上げられる力強い咆哮と共に、ウルトラマンたちは魔王獣と、そして全ての元凶であるエタルガーとの戦いを開始した。

 

 

 

 

 

EPISODE22

【黄金の闇――祓いしは燦然たる力】

 

 

 

 

 ロンドンにて。

 眩がる空に舞うマガバッサー。擦れ違いざまにぶつけられる巨大な鵬翼と、急旋回と共に放たれるマガ衝撃波がゼロと翼を追い立てる。遺憾ながら、今の状態では空中戦においてこの魔王獣と渡り合う事は圧倒的に不利だと悟っていた。

 だが、ただ不利なだけで諦めるつもりは毛頭ない。ゼロと翼はマガバッサーを追いながら再度エメリウムスラッシュを発射する。しかし光の刃は剣刃殺し(ソードブレイカー)を宿したマガバッサーには通用しない。だがそれも、二人の計算の内だった。

 

『一時でも、脚を止めればッ!』

 

 エメリウムスラッシュを消し飛ばしたことで僅かに動きを止めたマガバッサー。その猛禽の如き足をゼロの手が強く握り締めた。

 

「捕まえたぜ、鳥野郎ォォッ!!」

 

 マガバッサーに引っ張られる体制ではあるが、そのまま脚部を殴り付けていくゼロ。対するマガバッサーも強靭な脚の片方で踏み付けるようにゼロの頭部を蹴り付けていく。最早拳法だのそんな恰好の良いものではない、泥臭いケンカだ。

 傷だらけになりながらも何度か殴り付けると共に羽根を毟るように捕まえては上り、またそれを繰り替えす。鳥獣系の姿が仇となったのか、ゼロの必死の行動はやがて完全にマガバッサーの背を捉えていた。

 

『魔王だか何だか知らぬが、頸を取られて何処まで戦えるものかッ!!』

「斬るのが駄目なら、絞め潰してやるまでよッ!!」

 

 マガバッサーの首に腕を食い込ませ、チョークスリーパーの要領で首を絞めつけた。気道を塞がれたマガバッサーは甲高い鳴き声を上げながらゼロを振り落とそうと翼を更にはためかせる。そのまま回転を開始し、その場に巨大な竜巻――【マガ嵐】を発生させた。

 

「んなろおおおおおッ!!!」

『させるものか……我らが舞い飛ぶこの空で、これ以上は断じてぇッ!!!』

 

 

 

 

 バルベルデにて。

 マガグランドキングの激しい咆哮と共に黄金が驟雨の如く乱れ撃たれる。それを横に受け身で転がりながら避け、ウルトラダブルアローを放ち相殺するウルトラマン80。同時に走り寄り勢いよく殴り付けた。

 強固な黒鐵は80の攻撃ではビクともしないが、それでも連続で拳を打ち付けて空中二段蹴りで一度距離を離す。格闘のキレは、今までで一番冴え渡っていた。

 

『やらせっかよ! ここまで来てぇッ!!』

 

 だがマガグランドキングも、両の腕部……左の鍵爪と右の大鋏に破壊の力を溜め込み80に向かって強く振るう。即座に防御するものの重さを含む強烈な一撃は容易く80の身体を吹き飛ばした。

 其処へ迫るマガグランドキングだったが、その胸を足で押し蹴って離れる80。後転の後に起ち上がり、両腕を胸の前で構え天に伸ばし、紅蓮の槍を作り出した。これまで何匹の超獣やスペースビーストを相手に用いて来たかも知れぬ得意技、ZEPPELIN LAYRANCEだ。

 投げると共に小型のクラスター弾へと変わり敵へ襲いかかるこの一撃。しかしマガグランドキングは全身からエネルギーを発する【マガ一閃】で迫るクラスター弾を全て爆散させた。

 

「これも防ぐか……ッ!」

 

 80の呻きに間髪入れず、胸部からマガ穿孔を発射するマガグランドキング。回避が間に合わないと踏んだ80が即座に十字受けの構えを取り、局所的なバリヤーを展開して強力な貫通力を持った攻撃を迎える姿勢を取る。

 そして直撃の瞬間、赤黒く輝くレーザー光線であるマガ穿孔が有らぬ方向へと反射した。

 

『こいつは……センセイッ!?』

「どうやらこれが、反撃の糸口ってことだな……。守護ろうクリス、君のご両親の夢が眠る地をッ!!」

 

 

 

 

 

 クウェートにて。

 マガパンドンに向けて重厚な蹴りを叩き込み、両手のフラッシュハンドで斬り付けていくエース。だがマガパンドンの身体がマグマのようなもので、多少の切断面ならすぐに肉体を融解、再結合と共に襲い掛かってくる。

 強靭な腕や脚の攻撃はエースの其れよりも遥かに重く、激しい連撃にすぐに倒されてしまう。なんとか追い打ちを避けるべく立ち上がるエースだったが、マガパンドンの二つの口から放たれる高温の炎……【マガ火球】が襲い掛かって来た。

 

『こんな、ものでぇぇぇぇッ!!』

 

 左手に調のフォニックゲインを込めた光の鋸を作り出し、振り抜き放つエース。分裂して多角的に襲う緋色の廻転光刃である星A式・八裂輪がマガ火球を切り裂き相殺。爆炎の中から今度は灼熱のカーボンロッドが連続して射出されエースを貫こうと襲い掛かる。一方のエースも、既に右手を下に構え切歌のフォニックゲインを高めていた。

 

『やられてたまるかデェェェスッ!!』

 

 下から斜め上へ跳ね上げるように放たれた右腕。其処から放たれる翠色の巨大光刃である鋭迅(えいじん)刃aaぁ血狩Rゥ(バーチカル)でカーボンロッドを粉々に粉砕していく。

 威力の衰えぬ光の刃はそのままマガパンドンの腹部に深々と突き刺さるが、両断することは出来ぬまま砕き折られてしまった。鋭利に切られたところはまたも融解と再結合され、その様相はまるで不死身だった。

 

『倒れない……。どれだけやっても……!』

『伐っても切ってもくっついてくるんじゃ、手の打ちようがないデスよ……!』

「弱音を吐くなッ! ヤツとて傷口を無理矢理に塞いでるだけだ、塞ぎ切る前に木っ端微塵にすれば勝てるッ!

 ――いいや勝つんだッ! お前たち二人と、俺とでッ!!」

 

 

 

 

 ロサンゼルスにて。

 セービングビュートで透明化したマガジャッパの身体を押さえ付けるネクサス。だがマガジャッパは力尽くで相手を引き寄せ、両腕で叩き付けた後に体当たりで吹き飛ばす。倒れたネクサスに飛び乗りマウントポジションを取ったマガジャッパは、そのまま口から【マガ臭気】を吐き出しネクサスを更に苦しめた。

 激烈な悪臭に悶えるネクサス。しかし彼女の光はその臭気の中にある僅かな変化に気付いていた。気付いてしまっていた。

 

(これは、毒素……ッ! コイツ、本気でこの地に死を齎そうとしているのかッ!!)

 

 下劣な殺意に怒りを覚えたのか、マガ臭気を抑えるべく開かれた口を下から無理矢理に押し閉じる。右手でマガジャッパの口を抑えつけ、腹部を殴りつけ腕部から伸ばしたシュトロームソードで斬りかかった。

 叫びを上げ怯むマガジャッパに対し、零距離からクロスレイ・シュトロームを放ち一気に押し返すネクサス。その思わぬ反撃に激昂し、目を血走らせて氷塊を伴う【マガ水流】を放つマガジャッパ。クロスレイ・シュトロームの直後だったからか防御も間に合わず直撃を喰らってしまうネクサスだったが、膝を付いても倒れることは無かった。

 しかし動きを止めてしまったことは事実。マガジャッパは再度毒素を生成したマガ臭気を天空目掛けて吐き出した。

 

(広範囲に降り注いで、弄り殺すつもりかッ!? 何処までも、性根が腐った真似をォォォッ!!)

 

 両腕のアームドネクサスを胸の下で打ち付け、広げることで間でスパークさせて力を高めていくネクサス。必殺のオーバーレイ・シュトロームで一気に斃し切ろうとした。

 だったが、両腕を天に伸ばした瞬間その力が抜けて消失してしまう。マガジャッパの吐き出していた毒素が、徐々にネクサスの身体をも蝕んでいたのだ。

 苦悶の声を洩らしながら膝を付くネクサス。胸のコアゲージは激しく点滅しているものの、その眼は未だ輝きを湛えていた。

 

(絶対にみんなを守護ってみせる……。それがどんな無茶な奇跡だろうと、必ず手繰り寄せて見せる……!

 だから見ていて、マム……セレナ……みんな……ッ!!)

 

 

 

 

 そして東京にて。

 エクスラッガーを再度構えたエクシードエックスが、エタルガー目掛けて駆け出していく。白色の水晶の刀身を虹色に輝かせながら斬り下ろすが、エタルガーの左手で受け止められてしまう。そして空いた胸部に痛烈な拳の一撃を叩き込まれてしまった。

 吹き飛ばされ倒れるエクシードエックス。すぐに立ち上がるものの、どれ程のダメージを負ったかは目に見えて明らかだった。

 

「グ、グウゥ……!」

『なんて、力だ……ッ!』

「なるほど、これが貴様の力……。確かに強い、グア軍団を討ち滅ぼした力は伊達ではないと言うことか。だが――ッ!」

 

 エタルガーが力を込めると、全身より光弾が連続で発射されエクシードエックス諸共に周囲を破壊していく。爆炎に飲まれもがくエクシードエックスに、その場を離れる響やエルフナインたちはただ声を送る事しか出来なかった。

 

「エックスさんッ! 大地さんッ!」

「起って……! 頑張ってくださいッ!」

 

 月並みな言葉と言うのは理解っている。それでもそれ以上の言葉が出てこない。せめて自分が戦えればと思う響だったが、気持ちを込めても胸の歌は聞こえない。精神ですら肉体を動かせなくなるほどに疲れ切った時に起きる、ヒトの身体にあるリミッターが作用していたのだ。

 祈るようにエスプレンダーを握ってはみるも、其処にいつもの輝きは見られなかった。何処か弱々しく、変身者である響同様に力が足りなくなっているように感じられていた。

 

「せめて、私が戦えれば……!」

「そう思うならば、今は少しでも安静にして体力を戻してください。あったかいものはちょっとお出しできませんが、ダッシュボードに携帯食料、在りますから」

「……はい!」

 

 慎次に言われ、せめて力を取り戻すように携帯食料を貪りパウチの栄養ドリンクを無理矢理口にする。お腹の減った時に考えを巡らせてもロクな答えが出せない――よく世話になっているお好み焼き屋のおばちゃんの言葉を反芻させつつ、戦えないならせめて胃と心を満たそうと思い至ったのだ。

 

 そうしている間にもエクシードエックスは再度立ち上がり、エタルガーに接近戦を挑んでいく。強烈なエタルガーの攻撃を受け止めつつ膝蹴りや回し蹴り、エクスラッガーの斬撃で切り返していくエクシードエックス。だがエタルガーの強固な体表には大きな傷はつけられないままで、致命打と言うには程遠かった。

 一方でエタルガーの攻撃はエクシードに強化されたエックスの身体を容易くめり込ませ、攻撃の全てを圧倒していく。硬い拳はエックスを跳ね飛ばし、重い脚は追い打ちをするように腹部へとめり込み吹き飛ばす。

 胸のカラータイマーが鳴る中で、エクスラッガーを振るい本来腕から発射する光弾【Xスラッシュ】にエクスラッガーの力を乗せて放つ。だがそれもエタルガーの放つ電撃で相殺されてしまい、それどころか一方的に反撃を受けてしまう。

 

『……だったら、これでッ!』

 

 エクスラッガーのタッチパネルを下から上へ一度スライドさせてトリガーを引く大地。力を発揮したと共に、大地とエックスが共にその技の名を叫ぶ。

 

「『エクシードスラァッシュッ!!』」

 

 瞬間的にエタルガーの前に立ち、虹色に輝きながらエクスラッガーを連続で振るっていく必殺剣技。だがエタルガーはその剣の高速乱舞にも対応し、受け止めては捕まえ、捌いては躱していく。そして最後の一撃にカウンターを合わせるように強く拳を当てていった。

 

「ぐぅああぁッ!!」

 

 激しく吹き飛ばされるエックス。なんとかゆっくりと顔を上げると、其処には余裕の佇まいを見せるエタルガーが嘲り嗤っていた。

 

「クックック……諦めろッ! 力無き貴様らでは、この俺を斃すことなど出来んッ! 破壊と殺戮を続ける魔王獣にも、力の失いかけたウルトラマンと小娘では相手にならんだろうよッ!」

『誰が、諦めるもんか……ッ!』

「守護ると決めたのだ……誓ったのだ……ッ!! たとえ別の地球(ほし)であろうとも、心を繋いだ者たちの為に私は戦うのだとッ!!」

 

 決意を強く固める大地とエックス。彼らの眼前に、大地のデバイザーから赤と青の二つの光が出現し、カードに変化した。

 

「ウルトラマン……! ウルトラマンティガ……!」

『そうだ……。大切なものを守護るための力は、まだ残っているんだッ!』

 

 デバイザーを突き出す事でその二つのカードをロード。ウルトラマンのサイバーカードが赤く、ウルトラマンティガのサイバーカードが青く輝きを放ちその姿を変える。

 【エクスベータカプセル】と【エクスパークレンス】。大地の両手に握られたそれは、紛う事無き彼らの切り札だった。二つの奇跡のアイテムを結合させることで光が広がり、エックスの身体を覆っていく。

 左半身に宿りしは超古代の闇より世界を救った伝説の光の巨人ウルトラマンティガ。

 右半身に宿りしは数多の星々を救い宇宙の調和を保つ始まりの超人ウルトラマン。

 その二つの力を鎧と化し、エックスは更なる力と光を生み出していった。

 

「『俺たちの持つ全力で行くッ!! ベータスパークソードッ!!!』」

 

 エクスベータカプセルとエクスパークレンス。二つが合体し一つとなる事で生まれる希望の光が生み出した輝きの剣、【ベータスパークソード】。それと共に誕生するエックスの究極の姿こそが……

 

「『ベータスパークアーマーッ!!!』」

 

 二人の光の巨人の力を得た左右非対称の黄金銀鉄の鎧を身に纏い、長剣を携えて再度エクシードエックスが攻めかかった。青き電子の輝きを纏うベータスパークソードを大きく振り抜くと、思わずそれを防御したエタルガーに火花が走り確実なダメージを与えていた。

 

「ぬうぅッ!! まさか、そんなモノまで持っているとはな……ッ!!」

「切り札は最後まで取っておくものだ。この力でエタルガー、貴様を――」

 

 言った途端エックスに怖気が走り、攻め込む足を止めてしまう。ダメージに苦しむエタルガーは、俯いたままくぐもった嗤いを浮かべていた。

 

『エックス!?』

「なにか、妙だ……。地球のマイナスエネルギーをその身に秘めて強くなったのは理解る。だが、私やウルトラマン80などが居る中で、エタルガーがただ無策にマイナスエネルギーを溜めることに専念するだろうか……」

『ヤツにはまだ、何かがあるってことか……ッ!?』

「フッフッフ……ご明察だな。さっき貴様自身で言っただろう? 切り札は、最後まで取っておくものだとッ!」

 

 両手を天に掲げるエタルガー。その身体にマイナスエネルギーを高め上げ、地に穿たれた東京の龍脈交錯点(レイポイント)へと発射した。

 

「恐れろ地球よッ! その身に内包されたマイナスエネルギーを以って、宇宙に君臨する究極の闇の力を目覚めさせよッ!」

 

 漆黒の波動が地球を駆け巡り、再度地球の龍脈交錯点(レイポイント)へ帰還。波動はチフォージュ・シャトーの痕に生まれた時空の裂け目を貫き外宇宙へと放たれた。そしてそれに引き寄せられるように、暗黒の塊が地球へと降り注いでいく。

 

「そして我が下に来たれッ! この身を鎧い、纏い、蝕み、絆の全てを蹂躙する力と化せッ!

 業臨せよッ! 暗黒魔鎧装、アーマードダークネスッ!!!」

 

 時空の穴から吐き出された暗黒の光にエタルガーが飲まれていく。伴われるその衝撃に思わずベータスパークソードで防御するエクシードエックス。強固なる光は闇を通すことは無かったが、黒い衝撃波が過ぎ去った其処に起っていたのは、暗黒の鎧を身に纏ったエタルガーの新たなる姿だった。

 

『あの姿は……ッ!?』

「禍々しき漆黒の鎧……。アーマードダークネスだと……ッ!?」

「――そうだ。かつて暗黒宇宙皇帝エンペラ星人が光の国の戦士どもとの決戦に際して纏うべく生み出した邪悪な意思を持つ鎧。全宇宙に因子を遺すレイブラッド星人や邪悪に堕ちたウルトラマンであるベリアルもその身に用いた闇の装具だ。

 この魔神……【エタルダークネス】に相応しき神々しさだろう?」

 

 見せ付けるように歩みを進めるエタルガー……もといエタルダークネス。漆黒のマイナスエネルギーをオーラのように洩らし漂わせるその姿が、大地とエックスを強く戦慄させていた。

 

「地球のマイナスエネルギーを使ってまで狙っていたことが、この鎧の召喚だったのか……ッ!」

『でも、やるしかない……! 行くぞエックスッ!!』

「ああッ!!」

 

 大地の声に合わせ掛け声を上げながらベータスパークソードを振りかぶるエクシードエックス。だが上段から大きく振り下ろした青い刃は漆黒の三又槍……【ダークネストライデント】によって防がれていた。

 跳ね上げられ姿勢を崩されたエクシードエックスの胸に、エタルダークネスの握る槍が強く突き放たれる。其処から上段からの一撃、薙ぎ払いと続けざまに浴びせられる攻撃に、ベータスパークアーマーでさえも大きな傷が付いてしまう。

 だがエックスたちも負けてはおらず、起き上がりを狙って伸びて来たダークネストライデントの長い柄を掴み、引き寄せると同時にベータスパークソードで払い切る。束ねられた光の刃は暗黒の鎧にも効果を示しており、エタルダークネスの肉体を大きく傷付けた。

 だが、周囲に溢れるマイナスエネルギーがすぐに傷を修繕。まるで無傷と言える状態にまで戻していた。

 

「無駄なことを。恐怖を呼び起こす俺の力とマイナスエネルギーを糧とするアーマードダークネスによる無限の連環、崩せるはずがあるまい」

「だが、貴様に光の力でダメージが通ることは理解った。ならば……ッ!」

「どうにかなると? 本当にそう思っているのかぁッ!」

 

 右手を突き出すエタルダークネス。その瞬間、エクシードエックスが羽交い絞めにされてしまった。思わず振り向いた其処には、繰り手(キャロル)を失い動きを止めていたソングキラーが再度その眼を赤く輝かせエクシードエックスの動きを封じ込んでいたのだ。

 

『こいつ、まだ……ッ!』

「大地ッ! 来るぞッ!」

 

 エックスの警告も虚しく、ダークネストライデントで切り付けられるエクシードエックス。殴られ、切られ、払われ、突かれ……一方的な攻撃の連続に、ベータスパークアーマーで覆われたカラータイマーの点滅が激しさを増す。

 

「エックスさんッ! 大地さんッ!」

 

 端末に向けて悲痛な叫びを上げるエルフナイン。この最悪の状況でも最早任せておくしかないとは理解っているが、それでも声を送らずにはいられなかった。勝利を信じるにはあまりにも分が悪すぎる。諦めないという意志だけでどうにかできる状態ではなかったのだ。

 エルフナインは再度全力で思考を回転させる。自分にはそれしか出来ないから。それだけが自分に与えられた一番の”武器”なのだから。

 だが時間が足りない。一体エックスはあとどれだけ戦えるのか。他の装者とウルトラマンの状況も心許ないし、響もまだ回復していない。予断を許さぬ状況で懸命に、涙を滲ませながら思考するエルフナイン。

 握るその手には自然と力が込められており、行き過ぎた力は痛みと化して伝播した。彼女が握っていたもの――キャロルの手に。

 

「つ、う……」

「キャロ、ル……? 眼が……」

「……また泣いているのか、エルフナイン。お前はいつも、そんな顔でいたな……」

「――ごめん、キャロル……。ゆっくり話がしたいけど、そんな時間は無いんだ……。ソングキラーがまた動き出して、エックスさんと大地さんを……」

「ソング、キラー……」

 

 おぼろげな眼を漂わせ、エルフナインの言葉に反応していくキャロル。想い出の償却は何処まで為された状態なのかは、傍から見ている分にはよく理解らなかった。

 

「――ああ、オレが作った錬金人形か……。今はエタルガーが糸を引き繰りているのか?

 あんなもの……中身を少し”作り直せば”どうとでもなると言うのに――」

 

 


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