絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 21 【君と僕の名前】 -B-

 移動本部指令室にて観測された新たな時空振動。

 他次元から物体が転移することで発生するというそれは、正に東京上空で発生。小型のワームホールを作り出し、そこから一機の歪な飛行物体が飛び出してきた。

 誰しもが呆気に取られていた。あのような飛行物体は見たことが無かったからだ。先端はクワガタムシの顎のように大きく開いているものの、その形状はまるで空飛ぶ円盤だ。胴体部分にはワゴン車と思しきモノが接続されている。そんな摩訶不思議な……玩具のような設計をしたものが空を舞っているのだ。やや、不自由に。

 

 旋回する飛行物体、其処に乗る一人の男が凄惨な街の状況を確認する。彼自身が知っている地名ばかりではあったが、建物のいくつかは見知らぬ設計を為されている。そして見つけた、胸のランプを点灯させながら倒れ込む銀色の巨人と、其処に向けて力を溜める赤金の魔人。

 その時彼は一瞬で、自らがすべきことを決めていた。

 

「――みんな、ごめんッ! マスケッティイジェクトッ!!」

 

 ワゴン部分を残し排出される円盤。超加速した質量は、ソングキラーを目掛けて突進し、側頭部へと直撃した。

 

「なんだ、今のはッ!?」

「マスケッティ……まさか……」

 

 怒りを露わにするキャロルを尻目に、銀色のワゴン車が着陸と同時に停車する。奇しくもそこはエルフナインや慎次、彼に抱えられている響の眼前だった。

 急ぎ飛び降りてきたのは、プロテクターとヘルメットを装備し、その下には黒地に赤のラインが入った特殊部隊のモノと思われる隊員服を身に纏った若い男。周囲には一切目もくれず、真っ先に倒れ込む銀色の巨人、ウルトラマンエックスへとその眼を向けていた。

 そして黄金の縁取りが為された長方形のデバイスを片手に、力強く声をかけた。

 

「エックスッ!!」

「……大地、なのか……!? 何故、君が此処に――」

「俺もゆっくり話したいけど、そんな感じじゃなさそうだな。戻ってこいッ!」

 

 その青年……大空大地の言葉に従うように、エックスは自らを電子化し、今まで憑依していたエルフナインの端末から大地の持つマルチデバイス……【エクスデバイザー】へと帰還した。いつもの青く光るバストアップが表示され、其処にエックスがちゃんと存在していることを示していた。

 その一連の流れを見て、思わずエルフナインが大地の下に駆け寄りその手を押し下げてエクスデバイザーに宿るエックスを覗き込む。

 

「うぉわっと!? な、なに!?」

「エックスさんッ! 大丈夫なんですかッ!?」

『大丈夫、私は無事だエルフナイン。……だが、済まない。君との計画は結局……』

「今はそれよりも……エックスさんが無事だっただけで、それで……ッ!」

 

 ぽろぽろと涙を流しながら大地の手にしがみ付くエルフナイン。零れる涙は、エクスデバイザーの端末画面に落ちていった。

 それに何処か安堵したような顔を見せながら、大地は空いた左手でエルフナインの頭を優しく撫でる。そこでようやく、彼女が大地の存在をハッキリと認識した。

 

「あああああの、その、ご、ごめんなさい急に!」

「大丈夫だよ。君がエックスと一緒に居てくれたんだね。ありがとう。俺は大空大地。エックスのパートナーだ」

「あなたが、大空大地さん……。あの、ボクはエルフナインと言います! エックスさんからお話はかねがね! それで、その――」

 

 エルフナインが言葉を言い切る前に、爆裂音と共に瓦礫が降り注ぐ。ソングキラーが攻撃を再開したのだ。

 

「異次元からの者……。お前もオレの邪魔をするのかァァァッ!!」

 

 左手から放たれるエネルギー波。炸裂する地面に跳ね飛ばされながらも、大地の心は既に戦闘態勢に入っていた。

 

「エックス、アレは?」

『ソングキラー。錬金術師、キャロル・マールス・ディーンハイムが操る機械超人だ』

「機械か……。中に誰か乗っているのなら、なんとか無力化するしかないな」

『そう簡単にはいかないが、それは追々説明する。……それよりも、聴いて欲しいことがある』

 

 真剣なエックスの声に、大地もまた真っ直ぐと彼を見据える。幾度となく戦いの地を駆け抜けた相棒の言葉を何よりも傾聴する為に。

 

『黒幕は他に居る。超時空魔神エタルガーと言う者だ。

 ソングキラーを操るキャロルも、エルフナインも、いま世界で戦っている他の仲間たちも、エタルガーによって大きく傷付けられてしまった。私はヤツを、断じて許すことが出来ない。

 これはウルトラマンとして恥ずべき感情と行いであることは自覚している。だが、私の想いは揺るぎようのない程に固まってしまっている。誰よりも何よりも、今は彼女たちだけを守護りたいのだと……ッ!』

「エックス、お前……」

『身勝手なのは重々承知している。だが大地、如何な偶然か運命かは知らぬが君が今此処に居てくれている。

 だから、もう一度改めて頼む。私に……私の身勝手に、力を貸してくれッ!』

 

 吐露される余りにも不器用なエックスの気持ち。だが、大地にはそれだけで十分だった。

 

「なに言ってんだよエックス。俺は、今まで何度も君に助けてもらって来た。夢と向き合い進んでいけてるのも、エックスが居たからだ。

 そんなエックスからの頼みだ。俺の力で良ければ、いくらでも使ってくれッ!」

『――ありがとう、大地。やはり、君を選んで良かった』

 

 エックスからの感謝の言葉に笑顔で答える大地。そして二人は瓦礫の道を駆け抜けて、ソングキラーの前に立つ。慎次に抱えられる響は何処か虚ろな目で、エルフナインはその眼を涙で濡らしながら、その姿を見つめる全ての視線が、彼らに注がれていた。

 

「大地さんッ! エックスさんッ! 勝手なお願いですが、どうかキャロルを……ひとりぼっちの”私”を止めて下さいッ!!」

 

 涙ながらに託された想いに笑顔で答える大地。それはとても重い願いだったのかもしれない。だが、彼らはそれを意識することもなく、ただ”いつものように”、彼らのやるべき事をやる。それだけだった。

 

「行くぞ、エックスッ!」

『ああ、行こう大地ッ!』

 

「『ユナイトだッ!!!』」

 

 左手に握ったエクスデバイザー。その上方のスイッチを押すことでデバイザーを展開、Xモードへと変形させる。そのエクスデバイザーの中央から光が溢れ、エックスの本当の肉体であるオリジナルのスパークドールズが顕現。大地が力強く掴み取る。

 そしてデバイザーの下方にあるリードポイントに、スパークドールズの足底部に印されたライブサインを押し当て認識させる。デバイザーから認識音声が発せられると同時に、大地とエックスが一つに重なり合っていく。

 そして大地は、左手のエクスデバイザーを天に掲げ、雄々しき叫びを上げた。

 

 

《ウルトラマンエックスと、ユナイトします》

「エックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

「イィィィッッサァァァァァァッ!!!」

 

 

 電子の光を迸らせながら飛び立つエックス。地面を巻き上げながら出現する巨大な姿は、先程のリアライズ以上の力の高まりを見せていた。

 美しく輝くレッドラインを伴う銀色の身体に、X字のカラータイマーは青く清浄な輝きを湛えている。その威容を、見つめていた者たち全てが見惚れるように言葉を出せなかった。

 

 ――この世界において、一番最初にタスクフォースへとコンタクトを取って来た”ウルトラマン(異邦人)”。

 直接戦えぬ身となりながらも、その叡智で戦う者たちを助け、時に危機を救ってきた者。

 それが今、心身を預ける相棒を伴い本当の姿を以って、この世界の危機に対し一番最後に起ち上がったのだ。

 

《エックス、ユナイテッド》

 

 その名は、未知なる可能性を信ずる光の超人――ウルトラマンエックス。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 雄々しい声を上げながら走りだすエックス。ソングキラーに向けて再度空中からの拳を放とうと突撃する。

 

「一つ覚えが効くものかよッ!!」

 

 同じく左掌を突き出し受け止めようとするソングキラー。狙い通りにエックスの拳は其処へ吸い込まれた。だが、其処からだった。

 意図的に拳を下へ透かし、そのまましゃがみ込み水面蹴りを放つエックス。足元の攻撃に反応が遅れたのか、ソングキラーが一瞬バランスを崩してしまう。其処を捕まえ膝蹴りを二発打ち込み、最後は力強く蹴り出した。

 一瞬退がるソングキラーだったが、すぐに足を踏ん張り左手の鋭い爪を振り回し反撃。エックスはそれを一つ一つ受け止めていく。だが隙を突かれ右の拳を脇腹に貰ってしまうが、すぐに立ち上がってスライディングで再度足元を狙うエックス。読んでいたとばかりに跳ぶソングキラーだったが、エックスは立ち上がったと同時にXスラッシュで無防備な着地際を狙っていた。

 先程よりも遥かにキレの増した動き、放たれた一撃にソングキラーも地に膝を付いてしまっていた。

 

「強い……。本当の力を手にしたエックスさんは、こんなにも……」

「いいえ、恐らく単純な力だけではキャロルの方が上なのでしょう。でも、エックスさんと一体化……ユナイトしている彼の存在が、キャロルの予想と思惑を超えていた」

「緒川さん、それってどう言う……」

「あのソングキラーには、この世界で戦って来たウルトラマンと装者のデータが存在してあると言っていました。ですが、本当の力を引き出したウルトラマンエックスがこの世界で戦うのは、今日この日が初めて。つまり……」

「対応するデータが無い……そういう事なんですね」

 

 エルフナインの言葉に頷く慎次。彼の読みは見事に当たっており、大空大地とユナイトしたウルトラマンエックスの戦闘力はソングキラーに宿るキャロルの完璧な頭脳でさえも知ることが無かったイレギュラー……【切り札(JOKER)】として機能していたのだ。

 

「知らないからなんだというのだッ! このソングキラー、ウルトラマンの一人程度更なる力を以って力尽くで粉砕してくれるッ!!」

 

 天に手を掲げると、楔を打ち込んだ龍脈(レイライン)の最終点から四つのダークスパークが出現。ソングキラーに飲み込まれていった。

 

「貴様らが戦った闇の巨人や超獣の力ッ! それらも合わせ束ねて、貴様を蹂躙してくれるわッ!!」

「大地! こっちもアーマーだッ!」

『済まないエックス。ちょっと事情があって、ゴモラたちは連れて来れなかったんだ……!』

「何ィッ!?」

『でも大丈夫、もう一つの心強い仲間たちの力なら、俺たちの傍にあるッ!』

 

 そう言って大地がエックスの体内でカードを展開する。それらは全て、深く美しい青で統一された戦士の姿が記されているものだった。

 

「ウルトラマンたちのサイバーカードか……。そうだな、これならばッ!」

「なにをベラベラとォッ!!」

 

 駆けるソングキラーの腕からは、超低温を伴う白い刃が形成されていた。愛憎戦士カミーラの持つアイゾード。其処に加えて小日向未来が纏っていたシンフォギア、シェンショウジンの物と同一のビットミラーがソングキラーの周囲に出現した。

 アイゾードで連続で斬り付けられるエックス。それと同時にビットミラーから僅かな隙間や死角を突くように超低温の光線が放たれ、火花と共に身体が凍り付き始めていく。

 そのままアイゾードを伸ばしカミーラウィップへと変えてエックスを拘束、ビットミラーからの一斉攻撃を受けてその身を完全に凍て付かせてしまった。

 

「エックスさんッ!! 大地さんッ!!」

「大丈夫だ、こんなもの……ッ! そうだろう、大地ッ!」

『ああ! 力を貸してくれ、ヒカルさんッ!』

 

 震える手でエクスデバイザーにカードを差し込む大地。カードに仕込まれたライブサインがロードされ、其処に秘められた力がエックスへと宿る。この状況に選んだカードは――

 

《ウルトラマンギンガ、ロードします》

 

 ロードと共にエックスの前腕部、下腿部、肩部、胸部に青いクリスタルが装着されていく。かつて大地とエックスが共に戦ったウルトラマンの一人、”未来”のウルトラマンであるウルトラマンギンガより授かった力を解放したのだ。

 カミーラウィップに縛られ凍結するエックスだったが、それに対抗するかのように装備されたクリスタルが、赤く燃えるように輝いていく。

 

「『うおおおおおおおおおッ!!』」

「なぁ――ッ!」

「『ギンガファイヤーボォールッ!!』」

 

 高ぶる灼熱で絶対零度とも取れる凍結を砕き、右腕を天に掲げ多数の火炎弾を召喚するエックス。拡げていた掌を強く握り締めると同時に、火炎弾はソングキラー目掛けて連続で撃ち込まれていった。

 拘束していたカミーラウィップとビットミラーの全てをギンガファイヤーボールがまとめて粉砕。爆炎の直撃を受けて、ソングキラーが引き下がった。

 

「ならば、コレでぇッ!!」

《キラートランス! ジャンボキング! レッグッ!!》

 

 腰下肢に顕現させるジャンボキングの下半身。まるで人馬のような姿となり、後方から破壊光線を放ちながらエックスへと突進していった。それに合わせて大地もすぐに、別のカードを取り出してロードしていた。

 

『ショウさんッ!』

《ウルトラマンビクトリー、ロードします》

 

 ロードの直後、大地の手元に現れたのは美しい青水晶の怪獣型スパークドールズ。その姿に、大地は自分に剣技を教えてくれた偉大なる先達の姿を思い出した。

 

「これは、ショウの言っていた彼の相棒の聖獣シェパードン……!」

 

 応えるように流れる彼の鳴き声は、まるで強い自信に満ち溢れているようだった。親友(とも)戦友(とも)もまた、我が友と認めるかのように。

 

『――お願いだ。俺たちに、力を貸してくれッ!』

 

 シェパードンの咆哮と共にそのライブサインをエクスデバイザーでリードする。眼前には巨大な下半身を以って重戦車のように此方に向かって走るソングキラー。ギンガのクリスタルを解除したエックスはおもむろに地面へと手を付け、その脈動を感じ取っていた。そして――

 

《ウルトランス! シェパードン! セイバーッ!!》

「おおおおおおおおッ!!!」

 

 大地を引き裂き、聖獣の鍔を持つ無骨な結晶の剣――絆の聖剣【シェパードンセイバー】がエックスの手に握られていた。横に構え刀身を持ち、ジャンボキングの脚部で突進するソングキラーを受け止めた。

 そのまま右に振り抜きソングキラーを斬り付けるエックス。一瞬怯み退がるソングキラーだが、またすぐに破壊光線を乱射してエックスを攻め立てていく。爆発に晒されながらもシェパードンセイバーを大きく振るいながら袈裟切り、払い、突きと不器用ながらも放っていった。

 怯んでもなお怒れる重戦車のように駆けるソングキラー。迫るそれを見て、エックスが力強く飛び立つ。天へ振り上げたシェパードンセイバーが、エックスと大地の想いに応えるように七色の輝きを放ち、回転しながらソングキラーの背後……ジャンボキングの後半身目掛けて大きく振り下ろした。

 

「ぐぅううううッ!!」

「『シェパードンセイバーフラッシュッ!!』」

 

 二人の叫びと共に跳ね上げられた剣がV字の軌跡を描きジャンボキングの後半身を切り裂き破壊する。爆発と同時にキラートランスが解除され、母体であるソングキラーが吹き飛ばされた。

 忌々しそうに地面を殴り付け、再度エックスへと向かって走り出す。手に握られていた武器は、大振りの剛槍――天羽奏のガングニールのアームドギアへと変わっていた。

 

「何故だッ! 何故邪魔をするッ!! 何も知らない貴様らが……無関係な者どもがァァッ!!!」

 

 喚き立てながら力任せに奮われる剛槍の連撃。激しく打ち付け合う攻防の中で、得物の長さと純粋な質量でソングキラーが勝ったのかシェパードンセイバーがエックスの手から離れてしまう。

 

「ぐうッ!」

「その隙ィッ!!」

 

 剛槍の刀身に稲妻を伴わせ、激しく回転。そのままそれを突き出し、ソングキラーがGENOTHUNDER∞METEORを発射した。

 黒き破壊の雷電旋風がエックスに向かって迫り来る。だが彼らもまた次の行動は済まされていた。

 

『頼む、ネクサスッ!』

《ウルトラマンネクサス、ロードします》

 

 次いでロードしたのは、この世界ではマリア・カデンツァヴナ・イヴが変身するウルトラマンであるネクサス。彼もまたエックスの世界にて、大地の所属する組織であるXioの副隊長、橘さゆりを適能者(デュナミスト)に選び僅かな一時だが力を与えていた。その時に大地とエックスへその力を分け与えていたのだ。

 ロードと共に装着されるのは、両腕の手甲アームドネクサス。両腕を縦に構え、放たれた力が【Xバリアウォール】を展開。ネクサスの力でさらに増した輝きがそれを更に強固なものとし、背後に居る者たちをただの一つも傷付けぬようその攻撃を受け切っていた。

 

「何故だ……何故だぁぁぁぁぁッ!!!」

『確かにっ……この世界に来たばかりの俺は君のことを何一つ知らない……。だけど、エックスが君を救いたいと言っているッ! エックスと一緒に精一杯戦った彼女たちが、君を止めてくれと願っているッ! だからッ!!』

 

 GENOTHUNDER∞METEORを弾き飛ばしたエックスが、胸の下で両腕のアームドネクサスを強く打ち付ける。両腕を前に構えるその動きは、腕の間で奔流となり高まるエネルギーは眼にする者にとって覚えのあるモノだった。

 

『だから俺は、それを信じて戦うんだッ!!』

「『オーバーレイッ! シュトロォームッ!!!』」

 

 L字を作り放たれたのは、清流のように美しき中に邪悪を粉砕する力を秘めた破壊光線。ウルトラマンネクサスの必殺技でもあるオーバーレイ・シュトロームだった。光の一撃はソングキラーの手に握られた剛槍へ直撃し、やがてそれを粒子レベルへと分解消滅させた。

 弾け飛び怯んだソングキラーだったが、今度は両腕から三角形を連ねた紫水晶の鞭……ネフシュタンの鎧に存在する刃鞭を生み出し伸ばす。エックスのアームドネクサスに絡み付いたそれは、強く引き絞ることでアームドネクサスを破壊。仰向けに倒れ込むエックスに向かって、天空から巨大なモノクロのスパークを伴う雷球が振り落とさせる。

 それだけでなく巨大な雷球から小さなエネルギー弾が驟雨の如く流れ落ちていった。ネフシュタンを纏ったダークファウストが放ったDARK NIRVANA CLUSTERである。

 

「何も知らない貴様らがッ! 愛してくれる者の居ない痛みも冷たさも理解らぬ貴様らがァァァッ!!」

「そんな事は無いッ! エルフナインも、装者のみんなも、誰もが君を救う為に戦ったはずだッ!! 手を差し伸べたはずだッ!! 愛していることを知り、愛されていることを知ったからこそッ!!

 誰もが自分だけの世界から牙を剥き、誰かを抑えつける事だけが全てだなんてことはないと言うことをッ!!」

 

《ウルティメイトゼロ、ロードします》

 

 空中に飛び立つエックス。其処に弓を模した白銀の鎧が装着されていく。次元を超えるウルティメイトイージスを纏ったウルトラマンゼロの戦闘データを分析したXio化学班の長、グルマン博士生み出した自称最高傑作だ。

 

《ウルティメイトゼロアーマー、アクティブ》

 

 電子音声が装着完了を継げた直後、アーマーを装備したエックスが更なる超加速で空を舞う。緩やかに落下する巨大な雷球から分かれるように降り注ぐ光弾を全て切り裂いていく。真逆の方向へ落ちる光弾を目にすると、眼前にワープホールを作り出しそこを通過。光弾の進行起動上にワープアウトし破壊していった。

 超高速飛行連続の短距離ワープを駆使して全ての光弾を破壊し終えると、巨大な雷球の落下する真下へとワープアウト。右腕の刃に力を込めていく。だがそれと同時に、ソングキラーもまた雷球の上でマイナスエネルギーを激しく高ぶらせていた。

 形成されるのは地球に打ち込んだ楔と似た形状の、だがより禍々しく大口を開けている槍。ダークルギエルより模したダークスパークランスに、暴食のネフィリムを重ね合わせた兆熱の餓顎となる代物だった。

 

「諸共に喰らい果てろおおおおおおッ!!!」

 

 投げ放たれる槍は荒れ狂う暴食の獣の様相を呈し、巨大な雷球に齧り付く。その力を喰らいながら、更なる力に変えて標的を破壊せしめる心算なのだろう。一方でウルティメイトゼロアーマーの右腕の刃を構えたエックスは、雷球を受け止めるように右の刃で貫く。

 足が地面にめり込むほどの衝撃を受けながら、大地は次なるウルトラマンの力を呼び出した。

 

『――頼む、マックスゥゥゥッ!!』

《ウルトラマンマックス、ロードします》

 

 銀の刃で雷球を受け止めながら、空いた左腕を天に掲げる。かつて大地とエックスの窮地を救った最強最速のウルトラ戦士、ウルトラマンマックスより授かったもの――信じ貫く気持ちこそが、本当の力になるのだと託された力だ。

 掲げられた腕から放たれた淡い虹色の光が、遥か天空より次元を超えて黄金の翼を召喚した。マックスギャラクシー……ウルトラマンマックスから与えられた更なる力。ウルティメイトゼロアーマーの右腕の剣に同化する形で合体し、その力を更に拡大させていく。

 高まる力に合わせるようにウルティメイトゼロアーマーが分離し、マックスギャラクシーを中心に右腕の刃へと集まる形で弓状に姿を変える。そして二つの力が最大まで高まった時、究極の一撃が放たれた。

 

「『ウルティメイトギャラクシィィィィ……カノォォンッ!!!』」

 

 あまりの反動にエックス自身が後ろへ吹き飛ばされるも、マックスギャラクシーを核とし大型の弓と化たウルティメイトゼロアーマーは巨大な雷球を切り裂き、猛然と喰らおうとするネフィリムの力を荒れ狂わせるダークスパークランスをも砕いた。そしてその光の一撃は、ソングキラーに確実に到達したのだった。

 

 倒れたソングキラーは火花を上げながら眼の色を落としていた。その中ではキャロルが、呆然とした顔で手足を小さく動かしていた。ソングキラーからの応答は大きく帰って来ず、さっきの一撃で機能の大半を落とされたらしい。

 その中に居るキャロルを救い出すために、エックスがゆっくりと近寄っていく。煙を上げるソングキラーは、完全に沈黙していた。

 

「そんな、馬鹿な……。奇跡を鏖す、このソングキラーが……」

 

 呆然と呟くキャロル。力を高め、万全で臨んだはずの世界分解が、ただの一人の……彼女にとって歯牙にもかけなかった”未知なる超人(ウルトラマンエックス)”に止められてしまったのだ。

 口惜しさに歯噛みする。だがその時、暗天から深い声が響き渡って来た。エタルガーだ。

 

『諦めてはいけないよキャロル。君はまだ立てる。ソングキラーはまだ戦える。シャトーもいまだ健在で、君の奏でた破滅の歌は私にしっかりと届いている。

 そこで、私が君にもう一度力を与えよう。君自身を形作るマイナスエネルギーを……君自身の”存在”を暴走させ、全てを破壊してやるんだよ』

「エタルガー……お前、何を……!」

 

 キャロルの言葉を待たずに天空から黒い雷撃をソングキラーに向けて放つエタルガー。それを受けたソングキラーが、跳ね上がるように痙攣し始めた。

 

「がうあああああああああああッ!!!!」

『そうだ、思い出せッ! 最愛の父を焼かれた日の事をッ! 寄る辺など無く、這いつくばりのた打ち回りながらも独りで生き永らえた日の事をッ! 幾百年にも渡る世界への憎しみをッ! 憎悪だけを支えに心を殺し進んだ歩みをッ! それでもなお心の底に刻まれた、愛する父の温もりを求める欲望をッ!!』

「あああああ……ぱ、ぱぁぁぁぁぁ……パァパあああああああああああッ!!!」

『そうだ、その想い出を燃やせッ! そしてマイナスエネルギーを更に燃焼させろッ!! それこそが奇跡を鏖すただ一つの方法……大好きなパパに会う為の方法なんだよキャロルゥッ!!!』

 

 エタルガーの言葉と共に再起動するソングキラー。背部に装備されたダウルダブラのファウストローブユニットは大きく展開し、微振動を続けている。

 顔を上げ、何処か血涙のように赤い光を放つ目が狙いを定めた時エックスに向かって最大級の破壊のフォニックゲインが撃ち放たれた。

 

『ぐああああああッ!!』

「ぐぅぅぅ……ッ! 大丈夫か、大地ッ!」

『なんとか……。でも、とんでもない力だ……!』

「キャロルはその身一つで絶唱と同程度かそれ以上の出力のフォニックゲインを放つことが出来るからな……。まともなやり合いじゃ私たちでも勝ち目はない……!」

『絶唱とかフォニックゲインとか俺にはまだ理解らないけど、ヤバいってことは分かるよ。でも……』

 

 一拍置いて大地が語る。少ない情報量、託された意志、そして相対した彼女に向けられていた言葉を合わせ、彼が出した答えを。

 

『……親を失って、誰にも助けてもらえなくて、誰かに愛されることもなくて……本当にどうしようもなくなって泣くしか出来なくなった子供が、其処に居る。そうなんだな、エックス』

「――ああ。愛に逸れ、愛を憎み、それでもなお愛を求めている少女が、其処に居る」

『だったら助けるしかないじゃないか。今も別の場所で戦っている彼女たちが、戦えずに見守る彼女たちが、そして”俺たち”が、それを信じ願っているんだからッ!!』

「そうだ大地……! これまでもずっと、私は君と共にそうしてきたッ!」

 

「『何度倒れようとも、絶対に諦めないとッ!!』」

《ウルトラマンエックス、パワーアップ》

 

 大地の手の中にエックスに酷似した別のスパークドールズが出現。それをエクスデバイザーでリードすることにより強化を告げる電子音声が奏でられ、同時に彼の手に青い短剣が顕現する。

 それはかつて、ダークサンダーエナジーと呼ばれる未知の超エネルギーによってその身を蝕まれエックスがその身を砕けさせてしまった時。彼を救うべく大地が電脳空間へとダイブした時に見た”虹”の根本から見つけ出した【大切なもの】。

 大地とエックス、そして仲間たちと彼の家族までもを時空を超えて繋いだもの。その出自は、言うなれば彼の世界での”完全聖遺物”に相違ない。彼らはその名を、【エクスラッガー】と呼んでいた。

 

 刀身横に在る虹色のタッチパネルを下から上へスライドさせ、柄に仕込まれたトリガーを引くと共に乳白色の結晶体である刀身が下から青、紫、赤、黄色に輝き、そのグラデーションがまさに虹を思わせる光を放つ。そして大地とエックスの二人が更なるユナイトと共に存在を一つに重ね、エクスラッガーをX字に強く振るい新たなる力を呼ぶその名を叫んだ。

 

「『エクシードッ!! エェェーックスッ!!!』」

 

 エックスの身体に虹色の電光が駆け巡り、肉体を銀と黒のベースカラーに青、紫、赤、黄色のラインが走る姿へと変える。そして頭部にはエクスラッガーが出現、装着されることで大空大地とウルトラマンエックスの更なる深きユナイトの姿が完成した。

 

「――虹色の、巨人……」

「ヌゥンッ!!」

 

 キャロルの奏でる破滅の歌を、それを力に変えて放つソングキラーの一撃を切り裂いて輝き立つウルトラマンエックスのその新たなる姿を、エルフナインはおもむろにそう形容した。

 

「そんな虚仮脅しでぇッ!!!」

「おおおおおッ!!!」

 

 キャロルのマイナスエネルギーを伴う破壊のフォニックゲインを、エクスラッガーが放つ虹色の防壁で抑え込みながら防ぐ。だがその奔流はさすがのエクシードエックスであっても容易く防げるものではなく、敢え無く吹き飛ばされてしまう。

 エクスラッガーを地面に突き立てブレーキとして止まるエックスだったが、その常軌を逸した威力には只々感嘆するのみだった。

 

「なんて威力だ……。単純な破壊力ならグリーザやグア・スペクターより上かもしれん……!」

『何発受け切れるか、ってところか……!』

「燃えろ……憎悪と怨嗟を重ねた思い出など共に燃えてしまえ……ッ! それがパパのところに行くための手段……それだけがぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 再度放たれる破壊の奔流。もう一度それを受け止めるが、その中でエクシードエックスのカラータイマーが赤く点滅を開始する。このままでは状況が悪化の一途を辿るばかりであることは大地もエックスも理解っていた。

 それをただ見守っていた、エルフナインと響と慎次。響は慎次に肩を借りている状態だったが、なんとかもう立つ事が出来ていた。さすがに変身する体力は残されていなかったが。

 それでも立ち上がったのは、自分たちに何か出来ることが無いかと模索する為でもあった。彼女を、ただ感情のままに泣いている少女キャロルを助けたいのは響にとっても強く想うところではあるし、同じ記憶を抱えたエルフナインもまた今のキャロルの想いは理解出来ているのだから。

 

「……私たちにも、きっと何か……。キャロルちゃんに手を差し伸べる為に、何かを……ッ!」

「エックスさん……大地さん……!」

 

 祈りながら目を落とすエルフナイン。ふとその目に映ったのは自らの……つい先程までずっとエックスと共に居た専用の通信端末。RealizeUXのプログラム自体は未だ起動しており、演算式が走り回っている。

 そこで閃いたことがあった。かつて魔法少女事変の折にキャロルが燃やした復讐の炎を食い止めたのは、キャロルから放たれたフォニックゲインを装者たちが制御、調律することで六人の装者が束ね高め合わせたフォニックゲインだ。フォニックゲインは装者とシンフォギアが生み出すエネルギー。彼女らの歌が強ければ強いほど、想いが高ければ高いほどに高出力のエネルギーとなり生み出される性質がある。

 即座に思考を回転させるエルフナイン。ウルトラマンエックスのリアライズ自体は消滅したが、この場には未だ微量のエーテルが散布され続けている。フォニックゲインを放つ装者たちは未だ全員が健在。そして今この手の中には、”錬金術”を起動させるサーキットが握られている。

 ”大空大地”というイレギュラーな存在。それによって完全に復活し更なる強化態を見せたウルトラマンエックス。そこから見出せたもう一つ先の策。賭けではない、これは確信に近いなにかだった。

 

「――見つけた。キャロルに届かせるために、出来る事……!」

「本当、エルフナインちゃん!?」

 

 響の言葉に首肯で答え、すぐに通信端末へ向けて声を出す。

 

「みなさん聞いてくださいッ! キャロルを止める為に、みなさんのフォニックゲインをお借りしたいのですッ!」

『それは、構ないのだけれど――』

『こちとらみんなが地球の端々デスよッ!』

『ウルトラマンの力でも地球全体に歌を響かせるなんて出来ねぇぞッ!? どうすんだッ!』

「大丈夫です。みなさんの傍に通っている龍脈(レイライン)、これを利用しますッ!」

龍脈(レイライン)を……? まさか!』

『キャロルが破壊の歌を流しているように、私たちの歌を龍脈(レイライン)に流せば――』

「はい、正方向に流れるフォニックゲインはやがてこの終点に、東京に帰結します。そのエネルギーをRealizeUXの要領でエックスさんへのエネルギーへと変換、射出することでキャロルのフォニックゲインを打ち破りますッ!!」

『だがあの時は、キャロルのフォニックゲインを利用する形で反撃を為した。だが此度はそれを期待も出来ないのだろう。如何にする算段だッ!?』

「ウルトラマンさんたちの皆さんの力もお借りします! みなさんの力を合わせれば、きっとッ!」

『確かに超出力は出せるやもしれん。だがそんな不確定なもので――』

『思い付きを数字で語れるものではないッ!!』

 

 思わず現実的な回答をしようとする弦十郎。だが其処へ声を返したのは、以外にもエックスだった。

 

『……すまない風鳴司令。だけど信じてくれ。私を、大地を、エルフナインを。共に戦う、みんなの事をッ!!』

「お願いします、司令ッ!」

 

 エルフナインとエックスの懇願を受け、現状を確認する中で大きく溜め息を吐いた後に豪放な笑みを浮かべ吼えた。

 

『――まぁったく、宇宙人にもこっちのクセが移っちまうなんてなッ!!

 理屈は理解った、こっちでも可能な限りのサポートはする。だがエルフナインくん、エネルギーを東京に帰結させてからはどうするつもりだッ!?』

「それは――」

「そこからは、私の出番ってことだよね」

 

 エルフナインの代わりに返事をしたのは響だった。優しくも力強い笑顔で見つめている彼女は、エルフナインの作戦における自分の立場をよく理解っていたのだ。

 

「此処に集まったフォニックゲイン、私が全部束ねて発射しますッ!」

『無茶を言うなッ! S2CAは元々多人数での運用が前提のコンビネーションだぞ! 力の尽きかけた響くん独りで――』

「独りじゃありませんッ! みんなの歌があって、了子さんから貰った光があって、ウルトラマンさんたちも居て、エルフナインちゃんや緒川さん、師匠たちも助けてくれる。

 だから、出来ないなんてことは有りませんッ!有り得ませんッ!!」

 

 強く言い切る響。その言葉に、聞いていた装者の各々が小さく微笑みを交わしていった。

 根拠などたった一つ、「立花響がそう言うから」。それで十分だった。

 

「っしゃあ乗ってやらぁッ! しくじんじゃねぇぞ、響ッ!」

「俺たちの力も重ね合わせるッ! お前なら、お前たちなら大丈夫だッ!」

「みんなの想いを大地とエックスに、そしてキャロルへと届けるんだッ!」

 

 其々が相対する魔王獣を力尽くで押し出し、地面へと倒し込む。そして光の溢れる龍脈(レイライン)の上に立ち胸の前で光を集めた。

 シンフォギア装者のフォニックゲインとウルトラマンの光の力。その二つを高め上げ、皆が同時にカラータイマーから純粋なエネルギー光線を発射した。

 

「ロンドン、ロサンゼルス、クウェート、バルベルデ、各地点のウルトラマンより高出力のフォニックゲインがレイラインに向けて発射ッ!!」

「進路良好ッ!東京都庁地点へと到達まで、60秒ッ!!」

 

「大地ッ! 聞こえたなッ!」

『ああ……ッ! みんなを信じて耐えてやるさ、60秒ぐらいッ!!』

 

 虹色のバリヤーに亀裂を生じさせながらもなんとか耐え凌ぐエクシードエックス。その後では響が丹田呼吸で心身を整え、シンフォギアを再度身に纏い準備を整えていた。両手のガントレットを重ね合わせ、回転する槍状のプロテクターへと変化させる。

 ”Superb Song Combination Arts”。立花響を中心とした他の装者のフォニックゲインを集束、調律し爆発的な力を得ることを目的とした決戦用コンビネーションの一つ。此度の戦いではウルトラマンの存在と装者の局所集合がままならなかった部分から使われることは無かったが、これもまた彼女らの持つ奥の手の一つだった。

 出し惜しみなどしない。出来る手段は全てを利用する。そんな決意が響にも、エルフナインにも、誰の胸の内にもその想いがある。それを歌に乗せ、光に乗せて僅かな時を彼女は構えて待つ。

 そして、その時は来た。

 

「フォニックゲイン、来ますッ! 響さんッ!!」

「イグナイトモジュールッ!! オールセーフティリリィィィィスッ!!」

 

 掛け声と共に胸に秘められた短期決戦用ブースターであるイグナイトモジュールを全開放。変形したガントレットの先に装着されたエスプレンダーからも光が放たれ、龍脈(レイライン)より流れてくる全員の力を束ね受け止めるだけの力を生み出すよう備えを為す。

 

「S2CAレイラインヴァージョンッ!! 私の想いと歌も、エックスさんたちにッ!!」

 

 右の拳を天に掲げ、”誰かと手を繋ぐ”為に生まれた徒手のアームドギアがその力を発揮する。

 円形のタービン状のガントレットは超加速を開始し、それぞれの光を伴うフォニックゲインを束ね合わせていった。固定するために地面に打ち付けたバンカーが軋み、爆発的なエネルギーの波が響一人の身に圧し掛かる。

 

「――絶対に……今度こそ、絶対に届かせるんだッ! 私たちみんなの……エルフナインちゃんの、想いをォォォォッ!!!」

「アルケミックサーキット・フルドライブッ!! Ἑρμῆς(ヘルメス)ッ! Τρισμέγιστος(トリスメギストス)ッ!!」

「受ぅけ取って、くぅださあああああああいッッ!!!!」

 

 エルフナインの叫びと共に、端末より瞬時に展開された錬金術が齎す紋章の障壁。それは地面を抉りながらも立ち続けるエクシードエックスに向かい連なっている。其処へ向かって響が、超回転するガントレットから吐き出されるように発射された。

 虹色に輝く竜巻は紋章の障壁を打ち破りながらその組成を純粋なエネルギーへと変化させる。光の渦はエクシードエックスの背中に直撃し、黒銀の肉体に膨大なエネルギーが流れ込んで来た。

 

『な、なんてパワーだ……ッ!!』

「これが、みんなの想い……。キャロルを想う、みんなの光と歌……ッ!!」

『凄い……。こんな強い想いを受け取ったんなら、俺たちが膝を付くわけにはいかないよな……ッ!!』

「ああ、そうだとも……ッ! 私たちも全力で行くぞ、大地ッ!!」

『理解ってるさッ! この想い……この力……全てを乗せて、あの子の下へッ!!』

 

 大地の手に握られたエクスラッガー、その虹色のタッチパネルを下から上へ三度スライドタッチさせる。そしてエクスラッガーを逆手に持ち替え、柄の底にあるブーストスイッチを叩き押すことでエクスラッガーはその真の力を発揮する。

 ソングキラーの放つ破壊の奔流を消し飛ばし、左の逆手に構えたエクスラッガーを地面に突き立てることで、フォニックゲインと他のウルトラマンの力を乗せて更に輝く虹色の空間をソングキラーとの間に作り出した。

 

「な、なんだ、これは――ッ!?」

「キャロル・マールス・ディーンハイム……。これは君を愛している者たちの、愛そうとしている者たちの想いの光だ。君に向けて奏で送られる想いの歌だ。

 それを今みんなに代わって……もう一人の君自身に代わって、私たちが君に届けるッ!!」

『みんなの想いに応えてくれ、エクスラッガーッ!!』

 

「『エクシードッ!! エクスラァッシュッ!!!』」

 

 エクスラッガーを前に構え真っ直ぐと飛翔するエクシードエックス。身動きの取れぬソングキラーに通り抜け様の一太刀を浴びせると、其処から黒い瘴気が大量に溢れ出してきた。

 元来は怪獣を狂暴化させるダークサンダーエナジーから怪獣を解放するために生まれた浄化の技。故にエタルガーにより過度に増幅されたマイナスエネルギーに対しても効果はあった。だがそれ以上に、”彼女”の浄化を為したのは其処に込められた数多の想いに他ならない。

 それこそが、エクスラッガーの”真の力”なのだから。

 

 往復するようにもう一度背後から飛翔するエクシードエックス。その手は右手のエクスラッガーではなく、左手の開いた徒手が伸ばされていた。

 虹色の輝きの中でキャロルの眼が迫るその姿を呆然と見つめている。奇跡を体現する巨人(ウルトラマン)、その中に重なるシンフォギア装者たちの姿。一切の諦めを知らず先の戦いでも最後の最後まで手を伸ばした立花響の、自分自身の同位存在であるエルフナインの、皆が伸ばした掌だった。

 

「――いやだ……。わたしはずっと、ぱぱといっしょに……。ぱぱだけが、わたしをうらぎらないから……」

 

 キャロルの口から洩れる否定の言葉、虹の輝きは優しく、彼女の背を抱き締める。その温もりは、紛う事無き――

 

「――ぱぱ……?」

(……大丈夫だよキャロル。彼女たちを、”自分自身”を信じるんだ。恐れる心を乗り越えて、みんなの手を取って一緒に明日を歩くんだよ。

 哀憎の連鎖を否定する福音……キャロルとエルフナイン(パパの愛する娘たち)が手を取り合えば、それがどんな険しい道程でもきっと掴める。命題を叶えられる。

 悲しみのない未来……それが、絆で一つになる世界なのだから)

「ぱぱ……ぱぱぁ……!!」

(長い間独りにしてしまってごめんよキャロル。でも、パパはいつでもキャロルの傍に居るから――)

 

 

「パパああああああああああああッッ!!!!」

 

 

 キャロルの叫びと共にソングキラーを貫くようにエクシードエックスが通り抜ける。着地した直後、虹色の光がエルフナインや響たちの下に降り注ぎ、そこには蹲りながら涙を流し眠るキャロルの姿が在った。

 その姿を見た途端、眼に大粒の涙を浮かべて抱き締めるエルフナイン。その上から二人を覆うように響も抱き付いた。

 

「キャロルッ!!」

「キャロルちゃんッ!!」

「司令ッ! キャロル・マールス・ディーンハイムの保護を完了しましたッ! すぐにこの場を離れますッ!!」

『――そうか……そうかッ! わかった、急げよ緒川ッ!!』

 

 慎次の指示のもとすぐに車に乗って走り出す。それを見送ったエクシードエックスは再度立ち上がり、携えたエクスラッガーを頭部へと再度装着し直した。

 眼前に映るは繰り手を失い力を失くしたソングキラー。そして未だ明滅を続けるチフォージュ・シャトーの威容のみ。最早遮るものは無くなったのだ。

 

「あとはアイツだ。みんなから受け取った力、この一撃に込めるッ!」

『ああ、やろうエックスッ!』

 

 輝く額の刃に右手を添え、左手を跳ねるように上げ根元で添える。同時に大地がエクスラッガーのタッチパネルを上下逆に……上から下へスライドし、トリガーを引く。結晶の刀身が上から順に黄色、赤、紫、青に輝きを放ち、エクスラッガーに高められた力を一気に放出させる必殺光線である。

 

「『エクスラッガーショットッ!!』」

『デェェェェェッヤァァァァァッッ!!!』

 

 四色の光が互いに螺旋を組み合う事で虹の光と化し、戦友(とも)たちより託された光と歌をも重ね合わせ放たれた一撃は怪しく明滅するチフォージュ・シャトーへと伸び、ぶつかり合う。

 周囲を纏うマイナスエネルギーが防壁となっているが、束ねられた輝きはやがてその防壁を砕きシャトー本体を貫通。光と共にその巨大な建造物を爆発四散させた。

 それと共に龍脈(レイライン)に流れる、破壊の歌から齎されるフォニックゲインは静止。光が収まると同時に魔王獣たちもその動きを止めるに至った。

 

「各国の魔王獣、活動を停止ッ!」

「各装者とウルトラマン、健在を確認ッ!」

「……これで、終わったのか」

 

 状況報告に思わず声を洩らす弦十郎。他の地点でもウルトラマンたちは構えを解き、張り詰めた緊張の糸を僅かに緩めていた。

 声が響いたのは、その時だった。

 

『――いいや、此処からだ……ッ!』

「なにッ!?」

『まさかッ!』

 

 破壊されたチフォージュ・シャトー。その痕跡が生んだ時空の穴より、幾つもの光弾が乱れ撃つように放たれエクシードエックスを襲う。おもむろに防御をすることで攻撃を凌ぐが、周囲の地面は爆炎と共に抉れ瓦礫に飛散していく。その穴の向こうには、肉体の全てを復元させたエタルガーが其処に佇んでいた。

 

『エタルガーッ!』

『ククク……フハハハハハッ!!』

 

 時空の穴から悠然と出で来るエタルガー。その黄金の肉体に欠けている部分など無く、正に完璧な状態で地面へと静かに降り立った。

 

『時は満ちた……復活の時だ。我が波動により、もう一度その力を目覚めさせろ! 魔王獣どもよッ!!』

 

 東京の龍脈交錯点(レイポイント)に暗黒光線を放つエタルガー。瞬間大地は鳴動し、龍脈(レイライン)からは先ほどとは違う暗黒のエネルギーが噴出。動きを止めていた魔王獣たちもその存在を象徴する結晶を更に赤黒く輝かせ、高らかに吠え上げた。

 

『魔王獣たちを復活させたのかッ!?』

「なんて力だ……。これ程までに力を溜め込んでいたのかッ!」

「ああ、そうだな……確かに溜め込ませては貰った。

 ヤプールの地獄の怨念、貴様らに遣わした影法師の得た様々な昏い想い、Dr.ウェルの欲望、キャロル・マールス・ディーンハイムの憎悪と悲哀……全てが呼び水となったのだ」

「呼び水……!?」

「そうとも……! この俺の復活に求めていたものは、ただのマイナスエネルギーじゃない……。

 何よりも強く、大きく……ヒトの数百年其処らを遥かに凌駕する膨大にして極上なマイナスエネルギーを生み出す素質を秘めたもの……。

 我が身を完璧以上に完璧な姿へと生まれ変わらせる悪しき力の源泉……。それこそッ!!」

 

 天を仰ぐように拡げるエタルガー。噴出する漆黒のエネルギーは天を覆い、陽の光を隠していく。

 魔王獣は主の降臨を賛美するかのように吠え叫び、黄金の魔神はただ嗤う。

 そして彼は、自らの”獲物”を遂に明かしたのだ。

 

「――そう、それこそがッ!! この【”地球(ほし)”のマイナスエネルギー】なのだッ!!!

 ハァーッハッハッハッハッハァッ!!!!」

 

 

 

 

EPISODE21 end…


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