絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 14 【軋む歯車が奏でるアタッカ】 -A-

 

 巨大化したバグバズンブルードと相対するウルトラマン80。恐怖と喧騒の声が上がる中、一先ず周辺とリディアンの無事を確認し、すぐに眼前の敵へと攻め込んでいく。

 持ち前の鋭い格闘術で敵を圧す80だったが、放つその攻撃が何処か軽く感じられる。その理由はすぐに分かった。

 

(やはり、私一人ではこの程度か…!)

 

 自らが力を分け与え一体化している少女、雪音クリス。その存在が、彼女の奏でる歌の無い事が自らの弱体化を招いている。そう結論付ける以外無かった。

 だが、だからどうしたと言うのだ。ウルトラマンとして、教師として…守護らなければならないものが其処にある。

 この心は、その為に燃やすのだ。今も、あの時と同じように。

 

 ウルトラアローショットで牽制しながら戦う80。動きのキレは変わらないように見えるものの、その一発の威力は普段より大きく劣る。戦いを見守るクリスたちには、それがすぐ理解できた。

 焦りの表情を隠そうとしないまま、クリスが自らの持つブライトスティックを取り出し祈るように念を80に送る。

 

(なにやってんだよセンセイ…! 返事してくれよ…ッ!!)

 

 何度も呼びかけてみるが、いつものような優しい返事は帰ってこない。それがクリスの心を更に焦らせていってしまう。

 そんな彼女の肩を、背後から強く引く者があった。

 若干の怯えにも似た驚きの顔が向いた先に有ったのは、先程まで見ていたランの姿だ。隣には翼も居並んでいる。

 

「向かうぞ、雪音!」

「む、向かうって…」

「先生のトコだ! 決まってんだろ!」

「此方の騒ぎは立花たちが対応してくれている! 迷うな!」

 

 翼の言葉に心を固め直し、二人に連れられるように車に乗り込むクリス。ランの荒々しい運転を誇示するように、車が勢いよく走り出した。

 

 一方ウルトラマン80は、巨大化したバグバズンブルードに対し優劣付けられずに苦戦を強いられていた。

 僅かな隙を突かれ体当たりから転倒させられ、一方的に踏み付けられてしまう。そこから鋭利な爪で切り裂かれようとしたその時、空から光の刃がバグバズンブルード目掛けて放たれた。

 光の一撃を受けてよろめき80の傍を離れるバグバズンブルード。そしてこの場に、赤と青の巨人が降り立った。

 

「あれは、ネクサス…!」

「マリアかッ!」

 

 すぐに立ち上がり、右腕に光を宿し大きく振りかぶる。そしてそれを天に突き上げ、フェーズシフトウェーブを発射。メタフィールドを展開していった。

 やがて光と共に、バグバズンブルードと80を伴いその場から消失するネクサス。少なくともこれで周辺地区や人々への被害は抑えられるはずだ。

 そう思い、すぐに翼が通信機を本部に繋げていった。

 

「司令!」

『翼か! そっちの状況は!?』

「此方は現在、雪音とランを伴い発生したメタフィールド付近にて待機中です!」

『学校の方は!?』

『師匠、響です! 学校内で意識不明の人を数名確認、すぐに救急へ連絡しました! でも、一体何が…!』

『マリアくんの話だと、こちらを欺く能力を持つビーストの仕業だそうだ…! クソッ、何処からリディアンに入り込んで来やがった…!!』

「出所はともかく、偶然にも矢的先生がそのビーストを発見したものと思われます。其処から人を助け、単身で変身して戦闘を開始したのだと…」

『ならまだ潜んでるかもしれませんね…。私は北斗さんたちにも連絡して、他にそういうのが居ないか調べてみます!』

『任せたぞ響くん!』

「それよりオッサン、フィールド内の映像をこっちにも寄越せよ!!」

『お、おう!』

 

 焦りを隠そうともせずに口を挟むクリスに少し気圧され、すぐにメタフィールド内の状況を見るモニターを彼女らの端末に繋げる。

 そこには力強く立つネクサスと、カラータイマーが点滅しているもフィールドの恩恵で力を取り戻しているように見える80が居た。

 逆に相対するバグバズンブルードは、充満する光の力に中てられたのかその動きはやや鈍っているように感じられる。

 ダメージの見える80を休ませるように手で静止させ、単身でバグバズンブルードへ突進するネクサス。輝く連撃がバグバズンブルードに撃ち込まれ、攻勢は一気に優位なものとなっていた。

 その状況に思わず安堵の溜め息を吐くクリス。1対1で、しかもメタフィールド内だ。この状況下でネクサスが負けるはずがない…そんな確信を抱いていた。

 それは戦っているネクサス…マリアと、その場に居た80にも同じ想いがあった。

 そう、”この状況”であれば。

 

 強い蹴撃を腹部に喰らい、よろめきながら後退するバグバズンブルード。その隙を見て、ネクサスが胸の前で両腕を伸ばしアームドネクサスを打ち付ける。必殺光線であるオーバーレイ・シュトロームを放つ溜めの動作だ。

 

「オオオオォォォ……ッ!!」

「――そこまでだ、ウルトラマン」

 

 何者かの声が、メタフィールド内に轟いた。

 思わず構えを解いて周囲を見回すネクサス。80も片膝を付いたまま辺りを確認してみるが、声の主と思しき者を確認することは出来なかった。

 

(誰…ッ!?)

「ふはははは…すぐに”思い出させて”やる。光を飲み込む、無限の闇の力でな…ッ!!」

 

 謎の声と共にメタフィールドの空間が鈍く輝く赤黒い光に、下から塗り潰されるように染まっていく。まるで泥濘がまとわりつき飲み込もうとしているような…歪な不気味さと恐怖を感じる状態だった。

 やがて完全に塗り潰されたメタフィールドは、神秘性より邪悪性の増大した空間へ変化。不浄な空気と汚染された大地へと変わっていた。

 状況が一変した瞬間、突如ネクサスの身体がよろめいた。自らの身体に酷い重圧がかかっていることを、マリアは即座に理解したのだ。元来はウルトラマンとしての自分の肉体を以て生み出した戦闘用不連続時空間であるにも拘らず、何かに侵食されて不自由を架せられてしまっていた。

 まだ十分に余力のあるはずのネクサスでこうなのだ、既にダメージの受けていた80は膝立ちになってしまい、俯きながら肩で大きく呼吸をするように動かしていた。

 

『マリアさん! 大丈夫ですか!? 一体何が!』

(エルフ、ナイン…。これは…【ダークフィールド】…!)

『ダーク、フィールド…?』

「そうだ、よく思い出したな」

「グアアッ!」

 

 空間から滲み出るように生まれた闇が80の身体を締め上げる。やがてその闇が姿を為し、そこにはある者の姿が立っていた。

 特徴的な二本の角、漆黒の眼とカラータイマー、交差するように配された赤と黒のツートンカラー。

 その姿はまるでウルトラマンのようでありながら、何処か道化師も連想させられる…それでありながら、誰の目にもこの存在への違和感が尋常では無かった。

 装者たちと共に戦うウルトラマンが陽とするならば、出現した漆黒の眼を持つ者は間違いなく陰に属する存在だ。そう直感できる何かがあった。

 締め上げられながらもそれを感じる80が、声を振り絞り問い掛けた。

 

「き、貴様…何者、だ…ッ!」

「…ダーク、ファウスト」

 

 

 

 

 EPISODE14

【軋む歯車が奏でるアタッカ】

 

 

 

 

「ファウストだと…!? 自らを”悪魔との契約者”と名乗るか…ッ!」

「ダークファウストと名乗る個体から、マイナスエネルギーに似た巨大なエネルギーを確認! おそらくはアイツが、メタフィールドを侵蝕しているものと思われます!!」

「マリアさんとウルトラマンネクサスとのユナイト係数低下! 危険域ではありませんが、状況は不利です!」

 

 指令室から上がる呻き声に、中の状況を見ながら通信を続けているクリスたちも歯痒そうに奥歯を噛み締める。

 指令室に向かって荒げ叩き付けた声は、何処か別の感情を覆い隠すように振り絞ったようにも聞こえた。

 

「エルフナインッ! なんとかアタシがフィールドの中に入ることは出来ないのかよッ!!」

『ご、ごめんなさい…。シンフォギアの歌の力を以ってしても、次元や位相差を越える技術は未だ試用にも至っていないのです…』

「じゃあこんなところで、黙って見てろって言うのかよッ!!」

「落ち着け雪音! エルフナインに当たっても詮無き事だろうがッ!」

「でも…だけどよ、先輩…ッ!」

 

 翼の制止に思わず振り返るクリス。焦りに満ちた彼女の目頭に、小さく涙片が浮かんでいるのが見て取れた。

 心配なのだ。ただ心底より、彼の事が。

 後輩の痛いほどの想いを受け、一つの想いを固めて隣に立つ己がパートナーに目線を向ける。彼もまた、相方である翼が何を言いたいのかは即座に理解していた。

 

「…やれるか、ゼロ?」

「やってみなけりゃ分かんねぇ。…が、やれねぇって投げるのは俺の性にも合わねぇな」

 

 互いに見合わせ翼の真面目な顔に対し不敵な笑みを浮かべるラン…否、戦場を前にした今この時より普段の呼び方であるゼロと、自然に口にしていた。

 二人で決意を固めたその時、ダークフィールド内での戦況も変化を見せた。ダークファウストが動き出したのだ。

 

 首を捕まえていたウルトラマン80を地面に叩き付け、蹴り飛ばすダークファウスト。倒れ込んだところに暗黒の光弾を発射、甚振るように80を追い立てていく。

 

「グ、ウゥ…!」

(やめろ! お前の相手は私が――)

「いや、お前の相手はそっちだ」

 

 言うが早いか空いている手で自らの暗黒の力をバグバズンブルードに浴びせるダークファウスト。途端にバグバズンブルードがその身を更に強化した。

 身体はより硬質的なモノとなり、両手の爪も更に伸びて鋭利になっている。其処に加えて、両肩から巨大な二本の角が生えてきたのだ。

 先程よりも遥かに攻撃的なその姿でネクサスに突進攻撃を仕掛けるバグバズンブルード。思わず角を捕まえ動きを止めるが、ダークフィールドの影響である体力の減退と動きの不自由さが相まり辛うじて抑えるので精一杯だった。

 その姿を鼻で笑いながら、ダークファウストは再度80を甚振るような攻撃を再開する。

 顔面を潰そうと踏み付けていくが、寸でのところで80は転がって回避する。だがそんな彼の姿を嘲笑うかのように、何度も顔を狙ってその足を落としていった。

 数回それを行ったところで逆の足で80の腹部を蹴り上げるダークファウスト。一方的に転げさせられる80は、なんとか膝立ちの姿勢にまで戻すのでやっとだった。

 

「アイツ、なんでセンセイばっか…!」

(弱体化しているから頭数を減らそうと…? いや、それにしては執拗な気が…)

 

 外から見ている翼が一瞬思案するが、答えは何も出てこない。彼女のその一瞬の思案の間に、なんとか80が立ち上がっていった。

 

「…ほう、立つのか」

「あぁ…。私はあの子の…あの子たちの、ウルトラマンなのだから…ッ!」

 

 気力を振り絞り両腕を円運動から左腕を斜め上外方、右腕を水平へ伸ばし構え残された力を集束させる。

 そして勢いのままに両腕をL字に構え、右腕から鮮やかな虹色の必殺光線、サクシウム光線を発射した。

 だがそれを見たダークファウストもまた、両の拳の間で暗黒のエネルギーを迸らせて溜め込み、ぶつけ合わせ振りかぶった両手正拳を放つように真っ直ぐと突き出してエネルギー波を発射させた。

 闇の巨人であるダークファウストの必殺技である【ダークレイ・ジャビローム】である。

 中空でぶつかり合う二つの光線が火花を散らして競り合う。だが自らに優位性を齎すダークフィールドの恩恵を受けるダークファウストと、環境面、体力面の双方で不利な状況のまま僅かな力を振り絞り放った80。

 意志だけでこの圧倒的な差を埋めることは叶わず、サクシウム光線はダークレイ・ジャビロームに押し切られ80に直撃した。

 大きく吹き飛ばされて倒れ込む80。胸のカラータイマーはこれまで無い程に激しく明滅し、眼光も薄くなっていく。それでもなんとかと腕を動かすが、結局力を失いその輝きを失くしていってしまった。

 

「センセイ!! おいセンセイッ!!!」

 

 クリスの叫びが轟くが、80の眼に光は戻らない。完全に体力を奪われ、倒されてしまったのだ。

 

(矢的さん…! せめて、フィールドの外へ…ッ!)

 

 不利な状態ながらもバグバズンブルードを相手にしつつ、マリアが自らの力で80をフィールドの外へ転移させる。

 闇に侵食された戦闘用異世界であるダークフィールドとは言え、その構成物質はネクサスの力に依る物だ。再度メタフィールドとして塗り替えることは出来なくても、認識できるモノを外にやるぐらいはなんとか可能だと理解していた。

 彼女の力で光の粒子と化した80は、位相差を越えて元の空間へと排出される。再度構成された肉体は、汚れと傷に塗れた矢的猛の姿だった。

 

「センセイッ!!」

 

 すぐに彼の下へ駆け寄るクリスたち。なんとか目を開けた猛の眼に映り込んできたのは、不安と焦燥で顔を歪めたクリスの顔だった。

 

「…クリス…」

「なんで…なんでアタシを呼んでくれなかったんだよ! 一緒に戦ってんだろ…!? 信じてくれてんだろ…ッ!!?」

 

 悲痛にもとれる言葉を投げかけるクリス。猛はそれに対して、少し申し訳なさそうな笑顔を作り返答した。

 

「だって…今日は、秋桜祭じゃ、ないか…。みんなの…一番の思い出を、作る日だ…。

 ……守護り、たかったんだ…。……生徒らの…調や、切歌、響らの……そして、クリスの…居て良い、場所を……」

 

 力の無いはずなのに、それを示すように切れ切れの言葉なのに、いつものような力強く優しい笑顔で猛は語る。

 クリスには、それ以上彼を責めることなど出来なかった。

 楽しく現を抜かす自分に苦言を呈することなんか一切無く、それどころかこの想いを何よりも尊重し、守護ろうとしてくれていたのだ。

 ――まるでそれは、夢を成し誰かを守護る為に理不尽と暴力の前に立って散った両親のようであり…。

 

「…ばか。センセイのばか…。…そんなこと言われちゃ…アタシ、なんにも言えねぇよ…」

 

 堰を切ったかのように、クリスの眼から涙が零れ落ちた。嗚咽交じりの声が、人気の無い空間に小さく響き渡る。

 それを慰めようとしたのか、猛は力無い手をゆっくりと動かしクリスの肩に置いてほんの僅かにでも優しく撫でていった。

 

 二人の姿を見て、心に炎を滾らせる者が居た。風鳴翼とウルトラマンゼロ。両者の魂は正に、何よりも静かに激昂していた。

 故にその行動は必然であり、申し合わせなど不要なほどの一致を見せる。

 人間態であった己が身を光の粒子へと変えて翼のブレスレットに帰還するゼロ。宝玉から回転しながら出現したウルトラゼロアイを、翼が外へ弾くように捕まえた。

 

「――雪音、矢的先生」

『お前らの分まで、俺たちがアイツをブチのめしてやるぜ』

「『往くぞッ!!!』」

 

 掛け声と共に着眼されるウルトラゼロアイ。赤と青の光が翼の周囲を駆け巡りその身をウルトラマンゼロの其れへと変えていく。

 そのままダークフィールドが展開している場所に手を伸ばし、意識を集中させる。

 今のこの世界の人類には未だ不可能な領域である位相差空間への侵入だが、この身がウルトラマンであればその程度の神秘は安いもの。

 その考えは正しく、現在がダークフィールドに汚染されているからか幾らかの抵抗はあったが、やがて吸い込まれるように光と化したゼロがフィールドへめり込みながら溶けて消えていった。

 

 

 

 ダークフィールドの中では、ネクサスがダークファウストとバグバズンブルードの二体に挟まれ両方からの攻撃を受けていた。

 ダークファウストに羽交い絞めにされ、其処へバグバズンブルードが肩に生えた鋭利な角を立てる突進で襲い掛かってくる。

 それをなんとか両足で止め、蹴り上げながら首に足を掛ける。力尽くで身体を捻り、バグバズンブルードとダークファウストの両者を一緒に転がした。

 解放と共にすぐさまその場を離れパーティクルフェザーを撃ち放つが、同じく体勢を戻したダークファウストに弾き飛ばされる。

 そのまま追い打ちをかけようと暗黒の光弾を発射したダークファウストだったが、ネクサスの眼前に現れた者によって受け止められ、握り潰された。

 黒い爆煙から浮かび上がる黄金の眼。やや俯き加減のその眼は、怒りを隠そうともしないようにも見える。

 ダークフィールドに入り込み敵の前に強く立つ一つにして二人の想いを宿す者…翼が変身したウルトラマンゼロが、其処に居た。

 

「お前も来たか、ウルトラマンゼロ」

「…あぁ来てやったぜ。仲間を甚振ってくれたテメェらに、その分をたっぷりと返してやらねぇといけねぇからな…!」

『覚悟するがいい…。雪音の涙と矢的先生の傷、その身一つで拭い切れると思わぬ事だ!』

「ククク…来てみろ」

 

 挑発するような仕草を取るダークファウストと、それに乗るように勢いよく走り寄るゼロ。振りかぶった右腕は赤熱を纏い、まるで怒りを体現しているかのようにダークファウストの顔面目掛けて撃ち抜かれた。

 控えめに見ても必殺を予感させる一撃を思わず回避するダークファウスト。だがゼロの猛攻はそれで止まりはしなかった。

 流れるように連続回し蹴りを繰り出すが、回避と共に両腕で受けて弾き、蹴撃でゼロに反撃した。

 

「ぐぅ、やぁっろぉッ!!」

「いいぞ…良い怒りだ」

『なにが、怒りと是とほざきたてるかッ!!』

 

 ダークフィールドによる下降修正をその身に受けながらも、それを物ともしないようにダークファウストと戦うゼロと翼。

 だがダークファウストの動きは、その道化師のような風貌の通りにひらひらと踊るように動きながら翻弄していき、同時に攻撃を仕掛けていく。

 見え見えの一撃から不意を打った一撃まで…まるで何処か嘲笑うようでもあった。

 一方でネクサスは、強化されたバグバズンブルードと組み合いながら戦いを繰り広げていた。

 鋭利な爪の一撃をアームドネクサスで受け止め、光を纏った拳で反撃していく。だが先程まで受けていたダメージによってか、バグバズンブルードに対し大きなダメージに至ってるようには見えなかった。

 軽い一撃と認識したのか、嗤うように顔を歪めるバグバズンブルード。両肩の角で貫かんと突進し、それを受け止められたと思えば身体を振ってネクサスの防御を弾き飛ばす。

 そして無防備になった身体へ、その鋭利な爪を振り下ろした。

 

「グアアァァァッ!!」

『マリアッ!!』

 

 倒れ込むネクサス。胸のエナジーコアの中央上方に存在するカラータイマーに酷似したコアゲージが赤く点滅を始めた。

 メタフィールド…現在はダークフィールドとなってるが、その礎となっているのは彼女自身の存在だ。その体力の低下により、外界と隔てる戦闘用不連続時空間を維持出来なくなってきたことを示しているのだ。

 元々は開けた場所であったがそれでも市街地に近い場所、此処で解放されてしまっては市街地への被害が起きてしまう。最悪リディアンにもだ。

 ネクサスに駆け寄りながらそれをすぐに理解したゼロと翼。立ち上がったその姿は、何か意を決しているようにも感じられた。

 

「…やるしかねぇな、翼!」

『あぁ…。多少の無理を通してでも、この場を打ち開く!』

 

 一息を吐いて互いに互いを想う。

 彼は我であり、我はまた彼。躰を重ね、心を重ね、真なるユナイトを為さんとする。

 それは感覚に過ぎないものの、翼もゼロも、想い合う互いは今一つになっていると感じていた。

 それこそが証明。それを想いながら、翼は胸の、シンフォギアの核たる大型展開しているマイクユニットを手に取った。

 

「往くぜ翼ッ!!」『往くぞゼロッ!!』

 

 鋭利に尖ったユニットの横突起を三度連続で押し込む。展開のプロセスは、イグナイトモジュールの其れと全く同じだ。

 内に秘めし魔剣の枷をすべて外し、天に掲げる二人の声が重ね轟いた。

 

「『ウルトラギアッ!!コンバインッ!!!』」

 

 

 

 

 

 ウルトラマン80とウルトラマンネクサスがダークフィールドで戦いを繰り広げている、その一方…。リディアン音楽院の校舎内でも小さな騒ぎは起きていた。

 バグバズンブルードによって意識を奪われた人たちは、到着した救急救命士の見立てによると命に別状はないとのことだった。だがすぐに精密検査すべきだとの判断により、そのまま救急車で病院に搬送されていった。

 その一部始終を遠巻きと一緒に確認した響が未来、調、切歌、星司と合流。簡易的ではあるが次の行動について話し合う。

 

「響、あの人たちは…」

「うん、大丈夫みたい。でも他にも潜んでるかもしれないから、私は学校を一通り探ってみようと思う」

「よし、俺も手伝おう。調と切歌は…」

「言わずもがな」

「とーぜん手伝うデス!」

「だと思ったよ…。なら、何かあっても絶対に一人で対処しようと思うなよ。響、それはお前もだ」

 

 星司の念押しに三人が真剣な表情で首肯する。

 一人で対処した猛が単身で戦わざるを得ない状態になったのだ、同じ轍を踏む訳にはいかない。

 そうして動き出そうとした時、キッと固めた顔で声を上げたのは未来だった。

 

「私も、手伝います」

「未来…!?」

「大丈夫。人通りの多いところにするし、もし遭ってもすぐに呼ぶから。それに、ノイズじゃないんなら触ってすぐに炭化しちゃうことも無いんでしょ?」

「それは、そうだけど…」

「…断っても手伝うって顔だな。だが、君は一番戦う力が無いってことを忘れないでくれよ」

「はい!」

「響も、大事な親友なんだから、ちゃんと守らなきゃな」

「勿論です! 未来はなにがあっても私が守りますッ!」

「未来さんに何かあったら、こっちもすぐに向かいます」

「大船に乗ったつもりで任せて欲しいのデス!」

「みんな、ありがとう。頼りにしてるね」

「うぅ~やっぱり仲間がいるって心強いなぁ…!」

 

 響の言葉に内心で強く同意する星司。多くの仲間や義兄弟に支えられ、同時に支えてきた彼だからこそ、その言葉にただただ共感していた。

 

「さぁ、みんな往くぞ!」

「ハイッ!」

 

 星司への返事と共に散り散りとなって走り出す。可能な限り、リディアンの敷地の隅々をだ。

 時々連絡を交わしながら、徐々にその探索範囲を狭めていく響たち。幸い今のところはそれらしき不審者は発見できておらず、誰もが僅かに安堵していた。

 

 そうした中で、最後の探索場所にしようと図書館の裏地に足を踏み入れる未来。

 本来は人も疎らに居るような場所だが、他の生徒や一般客の姿は今そこには無かった。一時出現した後に消失したウルトラマンと怪獣、意識不明の人たちや救急活動に気を奪われ散ったものと思われる。

 そんな閑散とした場所を眺め見回る未来。幸いその眼には、不審な影は何も見られなかった。

「大丈夫、かな」と独り言ちて一息吐く。そうやって吐き出した息は、どんな形であれ張られた緊張の糸を緩める力を持っている。それは誰であろうと同じだ。

 警戒を怠ったつもりは無かった。だがさっきまで大丈夫だったからという想いから、其処に油断があったことも否定できない。

 問題は無いと結論付けて、念の為にと細かいところに目を運ばせていく。それらを確認し終え、元居た場所に戻ろうと振り返った、その時だった。

 未来の眼の先…およそ10mも無いぐらいだろうか。

 視認した。顔を一切見せようとしないようにフードを被るモノを。

 血の気が引いた。ノイズじゃないから大丈夫、なんて口にした事をすぐにでも取り消したかった。

 協力者であり非戦闘員という未来の立場であるからこそ察するものがある。ノイズが”死”を象徴としている存在であるならば、眼前のアレは”悪”を象ったモノであると本能的に理解してしまった。

 炭化に依る即死を生易しいと考えてしまったのは、不思議とアレのやり口を察してしまったからだ。

 

 静止状態で相対する中で、息を止めながら思考を回転させる。だが混乱の中ではどれだけ考えても思考の先にあるのはたった一つしかなかった。

 幸いだったのは、その想い縋る存在がどれだけ信を置き頼りになる存在であるかを知っていたことだ。

 

(響…響を、呼ばなきゃ…! 響…!!)

 

 恐怖から振り絞るようにその手を動かす。なんとかポケットに入れてあった通信機に手を添えることが出来た。

 緊急連絡用の発信スイッチ、それさえ押せれば響が来る。ただその一心で震える手に力を込める。

 だが気配の違いに気付いたのか、相対するモノも動き出してきた。狙いを定めるように、獲物を逃がさぬように擦り寄ってくる。

 その恐怖に抑えられなくなった未来が、握り締めるように通信機のスイッチを押し込む。同時に相対するモノが、彼女に向かって襲い掛かるように飛び込んで来た。

 

「――ッきゃああああああ!!!」

 




:特記:
【アタッカ】…音楽用語(伊)
多楽章の楽曲または組曲形式の楽曲において、楽章/各曲の境目を切れ目なく演奏することをいう。
前の楽章の終わりと次の楽章の始まりが一致し、間に休みを置くことなく連続して演奏される。(Wikipediaより参照)

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