絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 13 【夢の憧憬に揺れる秋桜】 -A-

 

 暗い闇の中、這いずりながら蠢く影。

 腕のように長く伸びた二本の触手と波打つ濃紫色の肉体は如何控えめに見てもグロテスクな影姿以外の何物でもない。

 これ程までに漆黒の暗夜が似合う異形生物は、今この時は何かに追われるように走っていた。

 鈍重な軟体生物の特性を持つ異形において”走る”とは如何なる表現かと思われるだろうが、時速30km以上の速度で蠢きながら移動されれば”走る”と言う他に状況を表す言葉は無いだろう。

 その異形を追う二つの人影があった。

 月光が照らし出したその姿は、薄桃色の柔らかな髪を靡かせる白銀の鎧を纏う者。そして濃青色の艶やかな髪をはためかせる青と白の戦装束を纏う者。

 走り抜ける両者が奏でる木々の騒めきと共に、人影からは歌声が流れていた。勇ましく雄々しき、防人の歌。

 

「逃がすものかッ!!」

 

 逃走する異形が月光の下に晒された瞬間、青の防人…風鳴翼が懐より小刀を引き抜き放つ。刃は異形の”影”に突き立ち、瞬間その異形は動きを止めた。

 数刻の間隙。その瞬く間に翼は一足で異形へと近寄り、擦れ違いざまにその手に握られた銀鉄の刃で横に切り裂いた。

 言い得も無い不快感を齎す濃色彩の体液を撒き散らしながら叫び悶える異形。だがそれに怯むことも無く、翼の声はもう一人の人影…マリア・カデンツァヴナ・イヴに向けられた。

 

「マリアッ!!」

「理解っているッ!!」

 

 マリアの右逆手に握られた短剣が、彼女の歌と意志に合わせてその形態を変える。幾重にも刃を重ね、その中央を貫くのは自在鞭。蛇腹剣と呼ばれる御し難くも彼女の愛用する剣は正しく蛇のようにしなり、異形の身体に巻き付き動きを更に封じていった。

 完全に動きを止めた異形に対し、マリアは手甲を身に付けた左腕に自らの内に得た力を高めていく。手甲の黒色部分に赤い弓状の紋様が浮かび上がり、それを中心に清浄な輝きが左腕を包んでいく。

 

「はあああああッ!!」

 

 掛け声と共に飛び掛かり、輝く左腕を異形に打ち込むマリア。同時にその光が異形の内部から全身に伝播し、数度の膨張と収縮を繰り返した結果、完全に霧散した。

 彼女と適能者として認め一体化したことで顕現した、異形…スペースビーストを討ち祓う輝きの力。対スペースビーストに特化したとも取れるそれを用いた一撃は、内部よりそのマイナスエネルギーを昇華することでビーストの存在そのものを否定。彼女自身が変身するウルトラマンと同じく、生体の全てを原子レベルで消滅させるまでの力を持っていた。

 その力で異形を斃したマリアに、翼が駆け寄ってくる。

 

「流石だな。ヤツらとの会敵を重ねる度に、マリアの技の練度が上がっているのを見ていても理解る」

「…そうね。自分でも、不思議なぐらい…」

 

 特訓の成果かは不明だが、マリア自身がこの力を認識、把握と共に使いこなすようになるまではさほど時間はかからなかった。

 光弾、光拳、光刃…多様な使い方を覚える度に、ビーストの情報が身体に染み渡って行くような感覚も覚えていた。

 今しがた斃したものもその一体。マリアがカナダのライブ会場で初めて遭遇したビーストである、【ペドレオン】と呼ばれるブロブ(不定形)タイプに属する個体であり、それがどんな特性を持っていて、何が弱点なのか…。ビーストに対する知識量では、既にエックスの持っていたデータベースを遥かに上回っていた。

 自分自身でも不思議に思うほど流れ来る知識の奔流に、表には出さずともマリアの胸中には僅かに不安感が募っていた。ダイナやコスモスではない、ウルティメイトイージスに秘められているもっと大きな意思は、私に何を語り掛けているのだろうかと…。

 

「…マリア、大丈夫か?」

「――えぇ、平気よ。ビーストの反応は消失した。帰投しましょう」

 

 翼の問いに、変わることなく笑顔で答えるマリア。目下のところ、ビーストに対する最大の有効手段はマリアの持つ”力”を得たアガートラームのみ。そしてビーストをいち早く発見できるのも、彼女の得た力に依るものだ。

 エックスとエルフナインがビーストの固有振動波を検知するシステムを早々に完成させており、現状でも非常に有用な活躍をしているのは確かだ。だが、本能による反射とも取れるマリアの力による探知力に及ぶことは無かった。

 その彼女から「反応が無い」と言われれば、それ以上詮索のしようも無い。後処理は別動隊に任せ、ギアを解除して早々に立ち去って行くのだった。

 

『しかし、急に増えたなビーストの連中』

「…いいえ。これは以前から起きていて、ただ誰もそれに気付けなかっただけ…。みんながノイズとヤプールによる被害ばかりに目を向けていたから、裏に隠れてビーストによる捕食が少しずつ進行していたと言うだけのこと…。

 きっと、カナダで私が遭遇したのも、この力がビーストの行動を気付かぬうちに本能に教えてくれたからだと思う。…でも、私がもっと早く目覚めてさえいれば、犠牲者は減らせていた…」

「…致し方ないと割り切れる事ではないが、マリアが一人で気を病んで如何する事でもなかろう。責を負うのならば、それは私たち全員でだ」

『そういうことだぜ。俺たちは仲間じゃねぇか』

 

 強い笑みで返す翼と、彼女と一体化し共に戦っているウルトラマンゼロが言葉を返す。

 共に背と命を預け合い並び立つ仲間であるからこそ、届かなせられかった責は皆で分かち合うものだ。

 たとえ彼女が頑なに一人で背負い込もうとしていても…それでも傍に誰かが居ると言うことを、教え理解らせておきたかった。翼はそれを、何よりもよく理解っていたのだから。

 翼とゼロの言葉に少し間を置き、素直に「ありがとう」と述べるマリア。彼女自身も理解ってはいた。独りでなくなったこの身を預けられる仲間達の存在は、どれ程心強いものかと。

 だが、だからとて…それが自責を放棄する理由にも為り得ないのも、また事実だった。そして、責を負うならば一人でも多くビーストによる被害者を減らし、駆逐することが最良の行動だと言うことも理解る。この力は、その為のモノなのだと…。

 

「今は帰って休もう。何度言ってもマリアは無茶ばかりするからな」

「それ、翼が言えたクチかしら?」

『確かにそうだな。ビースト相手でも真っ先にブッた斬りに往く翼の無茶は清々しいぐらいだぜ』

「お前にだけは言われたくないものだがな、ゼロ。先陣の斬り込みはお前も得意としているところだろう」

 

 翼とゼロ、二人の気楽な会話が続いていく。本人たちはどう感じているかは知らないが、傍から見ればやはり何処か似たものを感じざるを得なかった。

 それを微笑ましく眺めるマリアの顔に、翼が気付き尋ねる。

 

「どうしたマリア?」

「いえ、仲が良いんだなと思ってね」

『そうか?普通だろこんぐらい』

 

 守護を目的としている友好的な存在とは言え、彼らウルトラマンもまた異星人である事に違いは無い。が、やはり…彼らの中でも特に、このゼロと言う男は軽い。

 決してそれが悪いように作用している訳ではないのだが、彼の軽さはあまりにも人間らしすぎて時折困惑するのだ。最早それに慣れ親しんでいる自分達も含めて。

 彼らに対する信は厚い。疑う部分など存在しない。それでも胸中に小さく渦巻くこの想いは――

 

(……愛しみ、惜しんでいる……?)

 

 始まったこの戦いは、平和と言う終着を見る為のものだ。

 その終着に辿り着いた時、彼らは如何するのか…。

 いや、その結果は理解っているはずだ。

 世界を守護りきった先にあるものは、この良き仲間達との別離。

 それを、マリアだけが皆に先んじて認識してしまったのは如何なる皮肉だろうか。

 そんな想いの所在を確かめることも無く、二人の装者は己が防人の任を終えて帰って行くのだった。

 

 

 

 

 EPISODE13

【夢の憧憬に揺れる秋桜】

 

 

 

 

 ヤプールとノイズの侵攻が収まった今、タスクフォースの任務は人知れずスペースビーストを狩ることへと移っていた。

 無論、学業に重きを置くリディアン在校生たちは出撃する機会はそう多くなく、翼とマリア、そしてタスクフォースと協力するように派遣された国連軍に任せているのが現状である。

 巨大な怪獣や超獣が出現することも無く、一般市民の間では表面上、平和な日々が戻って来たように認識されていた。

 それはリディアンでも同じ事であり、平和と安穏の空気に包まれ秋も深まるこの学校では、年に一度の一大イベントに向けての準備が着々と進められていた。

 生徒主催の文化祭…【秋桜祭】だ。

 

 主催と言うだけあり、軽食屋台から舞台発表、その演出なども全てがリディアン生徒たちに依るものであり、教職員は資金捻出や危機管理体制を保つだけとなっている。

 音楽系の学校とは言うが、芸能関係にも道を広げているのがリディアンの特徴の一つ。卒業生の中にはこの秋桜祭を経て、表舞台ではなく裏方仕事への趣きを目覚めさせその道へ進む者も少なからず居るほどだ。

 楽しみの中で生徒が様々な体験をしていき夢を広げて欲しいという、この秋桜祭を始めた者の想いが込められていると言える。そしてそれは、今なお受け継がれているところでもあった。

 

 この日はその秋桜祭前日。

 陽は落ちたことで辺りがだいぶ暗くなっているが、リディアンの教室は未だ照明の光が明るく輝いていた。この祭りを成功させようと、ギリギリまで頑張っているのだろうと言うことは一目瞭然だ。

 そんな賑やかさを保った校舎内を、猛がゆっくりと歩いていた。一つ一つ、頑張っている生徒達がひしめく教室を覗いては激励と「遅くなり過ぎないように」との注意喚起をしながら。

 中には作業を終えて、明日を待ちきれんと言わんばかりの笑顔で帰宅の挨拶をする生徒たちも居た。

 やがて校舎の中からは次々と準備完了の声が上がっていく。その喜びの声は、教員と言う立場である猛の心にもワクワクとした期待と胸の昂ぶりを感じていた。

 

 

「矢的せんせー、さよーならー。また明日、楽しみにしててねー!」

「さようなら。みんなの一所懸命、楽しませてもらうよ。帰り道には気を付けるんだよ」

 

 最後の生徒たちを見送って、最後の戸締り確認をしようと振り返る猛。その目線の先に、よく見知った姿があった。

 

「雪音さん、まだ残ってたんだね」

「やる事は終わったんだけど、ボンヤリ過ごしてたらこんな時間になっちまってね」

 

 学校内では下手に関係を勘繰られるのを避けるべく、猛は公の場では『雪音さん』と以前の呼び方をしていた。

 そんな彼に対して、普段通りにぶっきらぼうに言うクリス。猛は別段怒る訳でもなく、いつもの穏やかな微笑みでクリスの方へ歩み寄った。

 

「楽しみだね、明日」

「…まぁ、だな。アタシらは、これが最後だから」

「だったら余計に、精一杯楽しまないとね。思い出は、大切なものだから」

「知ってる。…理解ってる」

 

 見上げ言い張ったクリスの顔は優しい笑みを浮かべていた。

 沈んだ太陽に代わり昇り始めた月の淡い光を受け、校舎から漏れる灯りを逆光として映し出した彼女の笑顔は、美しさの中に何処か儚さを感じさせるようなものだった。

 

「――楽しんでやるさ。せっかく手に入れたんだ、最後まで…」

 

 そこまで言った途端、クリスは自身の目頭が熱くなり鼻腔の奥に何かが詰まるのを感じた。

 気付いた途端に俯くことで眼前の相手にそれを報せまいとするクリス。すぐにポケットからハンカチを取り出し、「…っくしゅ!」と何処か嘘くさいクシャミとして吐き出した。

 

「大丈夫かい?」

「んっ…あぁ、平気さ。ちょっと冷えたかな」

「もう秋も深まったからね。朝晩はだいぶ冷えるようになった」

「…そういやさ、センセイの故郷はこういう季節の変化ってあるのか?」

「いや、光の国にそう言ったものは無かったな。常に優しく暖かな光が降り注いでいる星さ」

「なんだ、過ごしやすそうなこって」

「だがそれは、所詮は行き過ぎた科学文明が齎した仮初めの楽園さ。あの輝きの影響で、我々はヒトではいられなくなったのだから。

 …私達ウルトラマンがこの地球に惹かれ、そこに生きる者を守護りたいと思うのは、もしかしたら私達の手には届かなくなった”在りし日の世界”をこの地球に見ているのかも知れないね」

 

 遠く懐かしむように語る猛。それは彼の仮説であるのだが、クリスにはその考えがとても彼らしいものだと感じていた。

 夢と希望を語る優しい教師でありながら、その一方ではリアリストな面も覗かせている。だがそれに甘んじる事無く、夢と希望を塞ごうとする現実と戦い続けている。

 まるでそれは、クリス自身にとっての最も古き記憶と重なるものだ。其処に気付いた時、少しだけ、クリスは何故彼が自分を選んだのか理解ったような気がした。

 

「…あんま変わんねぇんだな。こっちも、そっちも」

「そうだね。だが、変わらないと言われたものを変えようと努力したことは、決して無駄にはならない。

 …だからきっと、私達は”人間”が好きなんだろうな。特に、君達のような人間は」

 

 いつもの笑顔だった。

 優しく、暖かく、そして強い。何よりも信を置ける…置かせてくれる笑顔。

 そんな些細なことを再認識出来ただけで、彼女にとっては十分だった。

 

「ありがとセンセイ。んじゃ、アタシもいい加減帰るよ」

「送って行こうか?」

「じょーれーってヤツが許してくれねぇんじゃねえの?」

 

 思わぬ返答に少し困惑する猛。その少しばかり崩れた顔を見てクリスは満足げに笑い、言葉を重ねた。

 

「平気だよ。いつでも、見守っててくれてんだろ?」

 

 胸に自分の手を当てて言う。それだけ聞いて、猛は納得したように頷いて微笑み返した。

 

「分かった。それじゃ、気を付けて帰るんだよ」

「あいよ。『道を歩く時は車に気を付けること』、だっけね」

 

 顔を見合わせて笑い合う。

 そして軽い挨拶と共に、クリスは装飾の施された校門の方へ、猛は校舎へ向かってそれぞれ歩き出した。

 さっきより少し冷くなった風が吹き、クリスの制服を僅かになびかせる。

 だが、そこを意に介する者はいなかった。

 

 

 

 

 …そして日は跨ぎ、秋桜祭の当日がやって来た。

 

 

 普段の厳かな学校とは一線を画した、華やかで賑やかな…それでいて手作り感の溢れる学園祭特有の空間がそこに在った。

 装飾された校門の先には、簡易テントと共に搬入されたレンタル厨房機材が綺麗に収まっている。

 早朝から登校してきた生徒たちが和気藹々と進めた準備が、今まさに完成と言う名の花となり開かせているところだ。

 そんなリディアンの校門前に、黒塗りの車が一台停車する。其処から一人ずつ、ゆっくりと降りてくる影があった。

 一人はどこか清涼感のある青と白が基調の服を纏い、長く伸びる青髪と特徴的に鋭く跳ね上げたサイドテールがその場に居る人の目を引く。

 否、衆目を浴びる理由はそれだけではない。それはこの者が、このリディアンにおける生ける伝説のような扱いを受けているからである。

 

「…1年、か。たったそれだけなのに、随分久し振りに感じるものね」

 

 青水晶の輝く銀のブレスレットを付けた腕で風に靡く髪をかき上げて、私立リディアン音学院卒業生にして今や世界にまで羽撃きを魅せる日本の歌姫、風鳴翼が其処に居た。

 だが騒めきはそれだけでは終わらなかった。彼女の隣にさも当然のように立つ偉丈夫の姿が在ったからだ。

 翼より頭一つ分は大きなその男からは、着崩したスーツと黒いサングラス、乱雑な髪型も合わさってやけに物々しい空気を醸し出していた。傍から見ても”その筋”の人間なのではないかと。

 そんな男が校門の前からリディアンの校舎を覗き、口角を釣り上げながら呟いた。

 

「なるほど、盛大にやってるじゃねぇか」

「…本当に大丈夫なんだろうな、ゼロ?」

「大丈夫だって! マネージャー代行とは言うが、言ってみりゃ翼の御守りみてぇなもんだろ?」

「御守りを御守る必要が出て来てしまうと互いに動き難くなるだけだろう…。やはり立花か雪音、矢的先生に頼むべきだったか…」

 

 珍しく呆れたような溜め息を吐く翼。隣に立つ男は、人間態のウルトラマンゼロだったのだ。

 普段は公私に置いて翼にとって最も頼れる人間であり実兄のような存在でもある緒川慎次がマネージャーとして付いているのだが、この日は別件の仕事…翼の芸能界でのマネジメント業務が飛び込んできたことで、其方に懸かる事となってしまった。

 一方で翼には、卒業生の中でも広く名の知れた彼女を代表として秋桜祭に参加して欲しいとのオファーが以前より入っており、後輩の為にと事前に参加を決めてスケジュールも組んでいた。

 両者の業務内容を確認し、結果こうして互いに違いの場所でやるべき事をやると決めたのだった。

 だがそこで問題が起きる。一体誰が、日本のトップアーティストの一人である翼の周辺を警護するのかと言う事だ。

 お忍びならば問題は無い。翼ならそんちょそこらの暴漢程度容易くいなし押さえるだろう。そこに黒服を忍ばせておけば口封じまでバッチリだ。

 だが今回はある程度公にされている訪問、それをマネージャー無しで訪れたとなれば周囲も危惧するだろうと言うことは、火を見るよりも明らかだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが、先日の特訓で人間態を明かしたゼロだった。

 彼ならば実力は折り紙付きだし、もし翼以外の誰かの身に危険が及んだ時でも迷わず助けに往くだろう。そんな彼への戦闘力及び道義的判断力の信頼感から、慎次と弦十郎から直々にゼロへ依頼された。

 …それが、今こうして翼の隣に立つ事になった経緯である。

 

 一抹の不安を感じる翼を尻目に、ゼロはそのサングラスの奥で瞳を輝かせていた。こうして”人間”の視線で異文化に触れることが、彼にとっては珍しい事だったのだ。

 何処か無邪気さを感じさせる彼に笑みを向け、自身の気持ちを防人からアーティストの其れに変えるべく一度大きく深呼吸をした後に彼の大きな肩を叩いた。

 

「何時までも此処で立って見ている訳にはいかないでしょう。行くわよ、ゼロ…いえ、ラン」

 

 彼自身の名前ではなく、借りている姿の持ち主の名で彼を呼ぶ翼。それにゼロ…”ラン”が、軽快に「おうッ!」と返事をした。

 そのまま二人は、リディアン在校生の衆目を一身に集めながら祭の会場を練り歩いていった。

 

 

 

 

「あ、居た居た! つぅばっささぁーん!!」

 

 時刻は昼前。懐かしさを覚える校舎を歩きながら教室毎の展示物を眺めている翼の元に、聴き慣れた明るい声が響いてきた。

 声の方へ顔を向けると、立花響と小日向未来の二人が笑顔で手を振りながら歩み寄って来た。

 

「立花、小日向。今日はまた一段と楽しそうね」

「そりゃあまぁ、やっぱり秋桜祭ですもの! 厳しくも激しい特訓を乗り越えた後のご褒美みたいなモノですよ! 翼さんも今日はオフモードですもんねー」

「茶化さないのっ」

 

 響の額を軽く手刀で叩く翼。額を抑えながら小さく舌を出し悪戯っぽく笑う響に、未来もまた軽くではあるが響に注意を重ねる。

 二人が再度翼に目を向けると、何処か違和感があるのが分かった。服装や髪型云々ではなく、それは…

 

「…翼さん、今日はお一人で来られたんですか?」

 

 未来の何気ない一言と共に翼も後ろを振り返る。そこに在るべき者の姿は忽然と消え、存在しなかった。

 それにようやく気付いたと言う自分の迂闊さと、相方の粗忽さに思わず右手で顔を覆ってしまう翼。吐き出す息は、響たちもほとんど見た覚えがない大きな溜め息だ。

 

「……あぁもう、アイツは…!」

「あれ、緒川さんじゃないんですか今日は」

「えぇ、緒川さんは別の仕事に行っているの。だから今日は、ランに緒川さんの代わりを願い出したんだけど…」

「ラン…? 翼さん、それって…」

「その、もしかしなくてもスキャンダラスでフライデーな事態が私達の知らぬ間に進行していたと言うことですかッ!?」

「――あぁ、済まない。ランと言うのは、ゼロの人間態の渾名よ。まさかこんなところで正体を明かしては、それこそ立花の言う以上のスキャンダルになってしまうからね」

 

 二人して妙に盛り上がる響と未来に、翼は変に声を荒げることもせずに努めて冷静に返していった。

 確かにこうして人の生きる中でウルトラマンがその正体を明かしては、シンフォギア装者として明かすことと同じかそれ以上の衝撃になるのは間違いない。

 何の為にウルトラマンエースが北斗星司として、ウルトラマン80が矢的猛として人の中で生きてきたのか分からなくなるほどだ。翼はただ彼らを尊敬し共に戦う仲間として、そういった配慮を欠かすべきではないと言うことを、相対する二人に話していく。

 その淡々と語る彼女の姿に、響と未来はこの偉大なる先輩にはまだまだ色付いた風は吹き込んで来ないのだろうなと思い、二人して小さく溜め息を吐くのだった。

 

 

 その一方、乱雑に頭を掻きながら校舎の中を歩く一人の男の姿があった。マネージャー代行の任を帯びながら御守りとはぐれると言う大失態を犯したランだ。

 場違いな空気を漂わせながら歩を進める彼の腰には、黒のスーツには全くマッチしない可愛らしい手作りの人形が幾つもぶら下がっている。教室内での展示物や生徒の自主製作品を見つける度に買っていたのが丸分かりだ。その代わりに翼の存在を失念してしまって今に至る訳だが。

 気の向くままに歩いてたらコレだ、流石にしくじったと反省するラン。だがこの場の空気は余りにも平和だ。危険は感じないし危険に対処出来る人員も揃っている。だからこそ、少しばかり気を緩めてしまったのも仕方ない事だった。

 一息吐き直し、いい加減翼を探して合流するかと思った矢先、一人の見知った姿を見つけた。小さめの背格好にフワフワとした雪のようであり後ろで二股に長く伸びた髪を持つ少女と言えば…

 

「おーい、クリスじゃねぇか!」

「…? ――……ッ!?」

 

 突如名前を呼ばれて振り向くは雪音クリス。彼女の目が見たものは、厳つい黒服サングラス男が可愛らしい人形やキーホルダーをジャラジャラ揺らしながら爽やかな笑顔で駆け寄ってくる姿だった。

 あらぬ姿を直視してしまい理解を拒否した思考でこの男が誰かを考えるも、マトモな答えが出るはずもない。一瞬司令の弦十郎かとも思ったが、声からしてそれは有り得ないとも直感した。

 思わず嫌悪と警戒心を全開にして、構えながら声をかけてきた男と向かい合うクリス。着崩してはいるがその黒のスーツとサングラスは、自分たちが所属するS.O.N.Gのエージェントにも似ているような気もする。

 

「…誰だ、テメェは?」

「おいおいなんだよ気付かねぇのかよ、俺だよ俺」

「――あ。あぁ、なんだアンタかよ」

 

 サングラスを外したランの顔を見て、ようやく相対する人物が誰かを理解した。途端に氷解する警戒心。簡単に安心してしまったと思うが、この男なら大丈夫だろうとも思えていたのは、クリスの中でも彼はちゃんと仲間と認識出来ていたからだろうか。

 

「一人で何してんだ。センパイは?」

「あぁ、翼とはぐれちまってなぁ。別に居場所ぐらいはすぐ見つけられるけど、せっかくだからこのまま少し見て回ろうと思ってな」

「いいのかよソレで…センパイ怒るぞ?」

「それが怖くてウルトラマンはやれねーよ、っと…」

 

 迂闊な返答に己が口を押えるラン。悪戯っぽく笑うその姿は外見不相応だと思うが、不思議と嫌味を感じなかった。

 

「はぁ…んで、どーすんだよ」

「そうだな、どうせだし付き合ってくれるか? どこの何を見りゃいいのかよく分からねぇんだよ」

「ったくしゃーねぇーなぁ…わぁったよ」

 

 頭を掻きながら肯定の意を示すクリスに、周りが少しばかり騒がしくなる。黄色い声やざわつきで煩くなる空間は、女学院の体を為すリディアンだからこそ起こる特殊なものだ。

 校内で知名度の高い、歌唱力に定評のある可愛い上級生であるクリスがスジ者にも見える長身イケメンと『付き合う』と言ったのだ。

 異性の色が乏しいこの学校にとって、それはどういう形であれ騒ぎになるネタである。そんな好奇の目に気付いたクリス、思わず顔を赤らめてランから顔を逸らし早足で歩き出していった。

 

「お、おいクリス!」

「っせぇ、ボヤボヤしてたら置いてくぞ!」

「…なに怒ってんだアイツ…?」

 

 彼女の感情の機微に一切気付かないまま、ランがクリスの後を付いていく。傍から…それも思春期の女の子が見ればどう映るのか。

 彼はまだまだ、地球の文化について余りにも疎かった。

 

 

 

 お昼時。それぞれの合流は思った以上に早かった。

 大きな賑わいが出来ていた最下級生が学ぶ教室の一つを見つけた響と未来と翼。興味を惹かれてその教室に入ると、明るい声が響き渡って来た。

 

「いらっしゃいませデース!! って、響センパイたちじゃないデスか!」

「切歌ちゃん!? うわぁ~なにその可愛い服!」

「うちのクラスの出し物なのデス! 名付けて動物メイド喫茶! お客さんもいっぱい来てくれて売り上げが鯉登りなのデスよ!」

 

 それを言うならば『うなぎ登り』だろうか。というツッコミをする事もなく、皆一様に切歌のコスチュームに目を奪われていた。

 三人が感嘆の想いを込めながら見る彼女の姿は、可愛らしく活動的な短めのスカートのメイド服に、明るい茶色の犬耳と、同じ色で短くカールしたふわふわの尻尾を装備していた。

 切歌の持ち前の明るさと相まって、非常に可愛らしくまとまっている。言うなればコーギーだ。

 そんな一番の仲とも言える先輩たちの来店に喜ぶ切歌の背後に、スッと調もやって来た。

 

「…切ちゃん、無駄話してないで先輩たちを席にご案内しないと」

「ぅえぇ調ぇッ!? わ、分かってるから音も無く忍び寄らないでほしいのデス!」

「もぅ…。いらっしゃいませ、先輩」

「えぇ、出迎えありがとう。月読は黒猫なのね、良く似合っている」

「…そ、そう、ですか…?」

「うんっ。ちょっとマリアさんみたい。可愛いよ」

 

 褒められたことは喜びつつも、未だ素直に表情を作れないまま赤面しながら付けた猫耳をいじる調。切歌と同じメイド服に身を包んでいるにも拘らず、こうも相反するイメージでまとまっているのも驚きだ。

 そこに加えていじらしい彼女の姿は、まるで本当の黒猫のようでとても愛らしい。

 

「はぅぁ~…未来、私調ちゃんと切歌ちゃんをお持ち帰りしたいッ!!」

「なに言ってるの響、駄目に決まってるじゃない。…まぁ、少しはその気持ちも分かるけど」

「あははー…。なんでしたら撮影ブースもあるので、そこで記念撮影も出来るんデスよ」

「耳と尻尾ぐらいならコスプレグッズとして貸し出しもしてますし、良ければどうぞ」

「本当!? それじゃあ後でやってみようかなぁ~…♪」

 

 響が少しくぐもったような、まるで何かを企むような顔で笑っているのを見ていると、また来店のチャイムが鳴りわたる。

 入口の方を見ると、そこに立っていたのは背の高さがあまりにもアンバランスな男女二人組だった。

 異様な雰囲気に一瞬ざわつく教室内だったが、それを知ってか知らずか翼がいの一番に声を上げた。

 

「ラン! お前今まで何処に行ってたんだ!」

「ん、おう翼。いやなんとなく面白そうな方に歩いて行ったら見失っちまってな。いや、済まねぇ」

 

 思ったより真面目に謝られてしまったからか、あまり激しく怒れなくなってしまう翼。後輩らの前でもあるし、一応この身は卒業生でありアーティストでもあるのだ。

 時々注意されていた客観的なイメージと言うものが、今はとても重く感じてしまう。

 そんな二人を尻目に、一人足早に席に着くクリス。すぐに上体を机に預け、ぐったりと倒れるように突っ伏した。

 その異様な姿を心配して、すぐに響たちも駆け寄った。

 

「く、クリスちゃん大丈夫!?」

「…あーーしんどっ…。先輩もよくあんなんと一緒にやれてるよなぁ…。あ、ミルクティーくれ」

「わ、わかりました先輩…!」

「す、すぐに持って来るデスよ!」

 

 注文を済ませた後にもう一度溜め息一つ。見かねて響と未来も同じテーブルの席に座っていく。

 

「クリス、なにがあったの…?」

「…アイツに校内を引き摺り回された」

「……えーっと、それだけ?」

「それだけだけどそんなんじゃねぇんだって…。やれアレは何だコレは何だの質問攻め、なんにでも首ツッコんでははしゃぎやがって…ガキかよアイツ」

「まーそう言うなって。ありがとよクリス、中々楽しかったぜ」

「だぁぁ! そういうの止めやがれってんだよッ!!」

 

 突っ伏しながらボヤくクリスに苦笑いを浮かべる響と未来。そこに自然とランが入り込み、クリスの頭をワシワシと無骨に撫でまわしながら感謝の言葉を述べた。

 しかしその手を怒りと共に跳ね除けるクリス。からかいと言う風に取ったのか、照れ隠しには見えなかった。

 

 翼とランも同じテーブル席に座り込み、切歌が先んじて持ってきたミルクティーをクリスに手渡しながら、一緒に居た調に注文をしていく。

 とは言え所詮は学園祭程度の喫茶店。飲み物はコーヒーと紅茶といくつかのソフトドリンクだけで、食事もそう気合の入ったモノは扱っていない。

 ただ来店者のほとんどが絶賛していたのが、軽食として出されているパンだった。彼女ら動物メイドウェイトレスの存在だけではなかったのだ。

 

「へぇ、そんなに評判だったのね」

「弓美ちゃんたちも可愛いのと美味しいのが一緒になってアニメみたいだーって喜んでました!」

「噂をすればなんとやらか。来たみたいだぜ」

 

 ランの言葉に目線を変えると、そこには大きな盆を持って此方へ進む調と切歌のたどたどしい姿が在った。

 盆の上には全員分の飲み物と噂のパンが盛られていた。

 

「お待たせしましたデース!」

「名物パンのご到着。皆さんごゆっくりどうぞ」

「待ってましたー! いっただっきまーす!!」

 

 響の嬉しそうな声に続いて、他の者たちもラップ包装を剥いて口に運んで行った。

 数回の租借の後に、嚥下。一息吐いた後にその場に居る少女たちが、口を揃えて声を上げた。

 

「んん~~! これは美味しいッ!!」

「本当。それに、何処か懐かしい感じのする味だね」

「こりゃ評判になるのも理解るぜ。なぁ、先輩」

「えぇ、これ程とはね…。小日向の言う通り、何処か安心感のある味が心まで豊かにしてくれるようだ」

「ふーん、これがそんなもんかねぇ」

 

 一人、ランだけが少し不思議そうにパンを頬張っていく。玄妙なこの味の構成要素を紐解こうとするが、中々理解しきれない。

 難しい顔で首を傾げる彼の背後から、何者かの声が響いた。先にその存在に気付いた少女たちの驚きの顔にも気付くことも無く。

 

「口に合わなかったか、兄ちゃん」

「いや、そうじゃねぇんだが…」

「じゃあどういう事だい?」

「んー…みんなが美味いって言うし、俺も別に食って嫌な感じはしないから、多分この食い物は美味いってのは理解るんだ。でも、どうやってこんな味になってるんだろうなって思って…」

「…そいつはお前が、まだこの地球の事をなぁんにも知らないからだ馬鹿野郎ッ!」

「いぃっってぇぇ!!? てっめぇ!何しやが、る――」

 

 言葉と共に力強くその肩をブッ叩かれるラン。思わず反射的に立ち上がって振り返るが、其処に居たのはその場の皆がよく見知った老齢の男の明るく元気な笑顔だった。

 

「ようみんな! いらっしゃい!」

「え、エース…じゃなかった、北斗先輩!? な、なんでこんなところに居るんだよッ!!」

「ふっふっふー、アタシたちがお願いしたんデスよ!」

「お客さんの胃袋をキャッチするには、星司おじさんの作るパンが一番だと思って」

「なるほどなぁ。どっかで食ったことあると思ったが、あのサ店のヤツか」

「確かに…二人の見立て通り、このパンならば人気が出るのは必定…。美味であります」

「ありがとうな、翼。日本のトップアーティスト様にそう言ってもらえりゃ、頑張って作った甲斐があったってもんだ。な、二人とも」

 

 少しばかり誇らしげに、嬉しそうに調と切歌の肩を軽く叩く星司。二人は少し照れるように顔を赤らめながら、それでも真っ直ぐ笑い合いながら手を合わせ合った。

 

「二人も手伝ったんだ、パン作り」

「はい。この日の為の特別限定品も作りたくって」

「なんで学校終わってから、おじさんのカフェでお手伝いしながら色々教えて貰ってたんデス。実は今朝もスゴく早くに行って作ってたもんで、実はちょっと眠たいデス…」

「なに言ってんだ切歌、元気だけが取り柄のお前がそんなことでどうする」

「むー、元気だけってなんデスかぁー! この頑固オヤジ!」

「なんだとぉ? この脳天気ピーカン娘が!」

「切ちゃんも星司おじさんもその辺にして…! もう、そろそろ時間だから行くよ切ちゃん」

「そーだったデス! こうしちゃいられないのデス!」

「なんかあんのか?」

 

 何となしに尋ねたランだったが、彼の問いに調と切歌の二人がニヤリと微笑み返した。

 

「…それは見てからのお楽しみなのデス」

「ゼロ…いえ、ランさんもみんなと一緒に音楽堂に来てください。それと、クリス先輩」

「あん?」

 

 名指しで呼ばれ素っ頓狂な声で返すクリス。それに対し二人の後輩は、自信を以てハッキリと言い放った。

 

「――今度は、負けません」「デェス!」

「……ハッ、上等だ!」

 

 露骨なまでに売り言葉と買い言葉。だがその後輩の言葉の意味を先輩であるクリスはすぐに察し、強く真っ直ぐと…受けて立つように返した。

 

「おじさんもちゃんと来るんデスよ!」

「星司おじさんにも、ちゃんと見て欲しいから」

「分かった分かった、見ててやるからさっさと行って来い」

「むー…絶対にギャフンと言わせてやるデス…! 調、始まる前に少しでも練習するデスよ!」

「ちょ、ちょっと切ちゃん!?」

 

 ぞんざいな星司の言葉が彼女の反骨心に触れたのか、彼に向かってべーっと舌を出したまま調の手を引いて連れて行く切歌。

 一方連れて行かれる調は少し申し訳なさそうに頭を下げ、すぐに切歌と歩調を合わせて走って行った。

 そんな二人を溜め息交じりの呆れ笑顔で見送る星司だったが、すぐにテーブルの方に向いてみんなに謝った。

 

「済まんなみんな、見苦しいものを見せて」

「いいえ。響とクリスの言い争いもあんな感じですし」

「確かにそうだな。あのような接し方も、北斗さんと暁、月読との仲の良さの裏返しだと思っています」

「そうかい? だったらありがたいけどな」

「うぅ~、なんかまた未来と翼さんに馬鹿にされた気がする…。クリスちゃんどう思う!?」

「おめーが馬鹿なのは周知の事実だろ。アタシを巻き込むな」

「ひどぉい!! なぁんでぇ~!!?」

 

 ショックに驚く響を残し笑い合う一同。激しい戦いを潜り抜けた者たちとは思えぬ、和気藹々とした空気だった。

 その穏やかな空気を感じながら、ラン…ゼロも不意に想いを馳せる。思考の先にあったのは、今はアナザースペースで、自分抜きで宇宙を駆け巡りながら平和に仇為す悪党を斃しているはずの仲間たち、ウルティメイトフォースゼロの面々だった。

 陽気で豪快な炎の男グレンファイヤー、正義を秘めたクールな戦士ミラーナイト、堅物な鋼鉄の従騎士ジャンボット、その弟分であり心を学んだ鉄人ジャンナイン…。そんな仲間たちと過ごす何でもない日々を、今の状況と重ねていた。

 気に入っている、楽しい時間だ。と、ゼロは密かにその胸中で思っていた。

 

「ラン、どうした?」

 

 かけられた言葉は今の相棒である翼の声。表情が空虚になっていたのだろうか、向かい合った彼女が向けていた顔は、少し不思議そうだった。

 一体化してる以上ある程度の心の共有はあるはずだ。だが翼は今のゼロの想いには気付いていないようだった。

 ならば別に、全てを明かす必要もない。些細なことだと一蹴し、自然と表情を笑顔に戻し返答した。

 

「なんでもねーよ。それよか、この後何かあるのか?」

「あぁ、秋桜祭のメインイベントでもある行事…勝ち抜き歌謡大会だ」

 

 翼の返答に皆が一様に笑顔で頷く。それだけで楽しみなイベント事の一つなのだと理解できた。

 だがランにはいまいち理解の及ばないところがあった。

 歌謡において”勝ち抜き”とは一体、どういう事かと。

 


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