次いで前に出て来たのはエルフナイン。端末を繋げ、モニターの一部にエックスのバストアップを映し出した。
「それでは変わりまして、僕とエックスさんから新しい報告と提案です」
『みんな、先ずはこれを見てくれ』
そう言って映し出された映像は、Uキラーザウルス・ネオとウルトラマン達の戦い…その佳境、立花響が変身したウルトラマンガイアが、Uキラーザウルス・ネオの腹部とその中のノイズ製造機を貫き壊した場面だ。
「な、なんかこうやって、改めてまじまじ見られるのって少し恥ずかしいかも…」
「何言ってんだよバーカ。んで、コレがどうしたっての?」
「ハイ。この時のウルトラマンガイアの姿にご注目ください」
拡大表示と共に解像度を引き上げ、分かりやすくする。構え昂るガイアの姿は、身体から猛烈なフォニックゲインが溢れだしていた。
その溢れるフォニックゲインが見せる姿は、まるで…
「…ガングニールを、纏っている…のか…?」
翼の呟きに一同の目がそのガイアの姿へ注がれる。確かにその姿は、どことなく響が纏うシンフォギア、ガングニールにも見えるものだ。
「次に、この時の響さんとウルトラマンガイアとのユナイト数値をご覧ください」
モニターにもう一つの窓が開き、其処に響とガイアのシルエットと数字の入ったグラフが描かれていた。
その多少上下はしているものの、その数字の最高点はなんと200を叩き出していた。
「…この数字って何か凄いの、エルフナインちゃん?」
「他の皆さんと比較して見ても段違いです。この状態になる前の響さんとウルトラマンガイアのユナイト数値は大体80。それを鑑みても倍以上のユナイト…ウルトラマンとの一体化を為したと言えるのです。
ちなみにですが、他の皆さんの数値はこうなっています」
エルフナインの言葉と共に、響とガイアの者と同様に他の装者とウルトラマンのシルエットの入ったグラフが表示された。
数値の上で見ると、その高さの順は響とガイア、翼とゼロがほぼ同程度。その次がマリアとネクサス。クリスと80、調と切歌とエースはその下に付けていた。
「結構バラつきがあるのね。でも、私の数値が思ったより高かった…」
「…あんまり言いたかねーが、下に居るってのは良い気分じゃねーな」
「でも、やっぱり私達は一番下…」
「アタシたち二人は、まだまだ力不足ってことなのデスかね…」
数字と言う何よりも明確な順列を目の当たりにしたからか、少しばかり声を落とすクリスと調と切歌。
だがそれにはちゃんとした理由がある。その事を伝え出したのは、エックスだった。
『三人とも、そんなに気を落とすことじゃない。前にも翼に説明はしたが、過剰なユナイトは共に在る者へのバックファイアがより大きく起こりやすくなる。君たちへのダメージが更に上がるということだ。
きっとエースも80も、君たちへの負担を抑える為に敢えてユナイトを押し留めてくれているんだろう』
そう言われて納得した。この二人は、一緒に戦おうとしてくれている中でも自分たちの身を一番に考えてくれているのだと。
それに同意するようにクリスに向けて微笑む猛と、調と切歌の目から逃れるように顔を背ける星司。互いに反応は違えど、その想いは同じものだとそれぞれが気付き、少し嬉しそうに微笑んだ。
『特にウルトラマンエースはかなりの例外だからな…。二人を同時にユナイトさせて、二人のフォニックゲインをそれぞれ別に扱ったりそれを融合させて戦うのはかなり高度な技術のはずだ』
「やっぱり、北斗さんって凄いんだ…」
「…知らん。俺は元から、そうやって戦って来ただけだ」
「じゃあそれじゃあ、星司おじさんと一緒に戦ってた人が居たってことデスよね。どんな人だったんデスか?」
切歌の無邪気な質問に、ふと顔を固める星司。一瞬の迷いと共に出た言葉は、あまりにも簡素だった。
「……また、時間がある時に話そう。必ずだ」
そう言って笑った星司の顔は、ほんの少しだけ寂しそうにも見えた。
聞いてはいけなかったことだろうかと不安になる切歌だったが、そんな彼女の頭を星司が優しく撫でる。
言葉にせずとも一体化しているから分かる。星司は別に怒ってなどいないし聞かれたくない事でもない。ただ今は、この話をする場ではないと言っているようだった。
「んじゃあよ、先輩の数値がそれだけ高いのはどういう事なんだ?」
「元から翼さんとゼロさんの波長が似ているのではないかと言うことと、ある種の信頼関係が影響しているのではないかと思います」
そのエルフナインからの言葉と共に、全員が翼とゼロの姿を見合わせる。件の本人たちも、互いを見つめ合い、何方からともなく首を傾げた。
『…似てると思うか、翼?』
「さぁ…。ただ、お前にならばこの命を預けられるという信頼感ぐらいは持ってる心算だがな」
『ヘッ、仲間の命も守護れねぇでウルトラマンは務まらねぇからな』
「あぁ、それは此方もだ」
互いに互いとの会話で結論を出してしまう翼とゼロ。そんな二人を見ながら、やはり周囲も首を傾げてしまった。
「んん~~…似てるような…」
「似てないような…って事か」
これ以上言及するような事でもないと話を終える。となると、自ずと次の興味は、響とマリアへ向けられることになる。それが、この話の中核に踏み入れる題材でもあった。
「それでは最後に、響さんとマリアさんのユナイト数値についてです。
お二人の数値がある程度高いモノとなっているのは、ウルトラマンになった経緯、及び一体化した存在に依るものと考えています」
「経緯と存在、とは?」
翼からの問いに、先ずはマリアが話を始める。この経緯は、まだ誰にも話していなかったことだ。
「私と一体化したウルトラマン…ネクサスの力は、元来はウルトラマンゼロの所有していたウルティメイトイージス。それと共に存在していた二人のウルトラマン、ウルトラマンダイナとウルトラマンコスモスの力の片鱗なの」
『切っ掛けはシドニーでの戦いの時…。俺が地球に降り立った時だな。その時にイージスと二人の力は俺から離れ、マリアを
「えぇ、そういうこと。…そして私と共に在るこの光は、ゼロやエックス、北斗さんや矢的さんみたいな”個”を持たない、とても大きな意思だと言う事。
響の得た光も、そうでしょう?」
「…ハイ。私が託された光は、この地球そのもの…地球の命の一部だって、了子さんが言ってました」
「フィーネがッ!?」
とつい語気を荒げてしまうクリス。それに対し響は神妙に頷いた。
「了子さん、もう自分は輪廻することが無くなったから地球に還ったって言ってました。それでもこの危機に…災厄から地球を守護るために、この光をウルトラマンの力に変えて私に託してくれたんです」
「そうか…櫻井女史が…」
もう出会うことのない者へ向けた感傷…そこに浸る時間は僅かにしてもらうように、少しの間を空けてエックスが話を続けていった。
『…すまない、話を続けるよ。
響とマリア…二人に与えられた光はどちらも大いなる意思と言っても過言ではない。我々他のウルトラマンとは違い、個を持たぬ意思だからこそユナイトにも齟齬は生じにくい。それが、二人が高い数値を出している理屈だ』
「そして先程のエックスさんのお話の通り、高い数値を出す高位のユナイトは装者とウルトラマンとの一体化が深まり、運動性能や攻撃能力の向上というメリットと被ダメージ時における装者へのバックファイアの増大というデメリットに繋がります。
ですが、効果はそれだけに留まらなかった」
言いながら再度モニターに重ねられている窓を操作するエルフナイン。一番前に移したのは、フォニックゲインを纏ったウルトラマンガイアの写真だ。
「さっきも言ったように、この時の響さんとウルトラマンガイアとのユナイト数値は200。その過剰なユナイトと、それに伴うシンフォギアの共振で爆発的に増大したフォニックゲインが齎したもの。
…コレは、皆さんにとって新たな力になる奇跡です」
続いてエックスが一枚のグラフィックを展開した。それはウルトラマンガイアでありながら、その身体には多くの変化が見て取れた。
ライフゲージの両脇を覆うガイアブレスター、其処に付随するのは羽根のようなプロテクター。
両の下腿と前腕には、それぞれ特徴的な形の装甲を身に付けている。そして首には溢れるエネルギーを模しているような二股のマフラー。
誰もが目にした瞬間気付いた。コレは正しく…
「ガング、ニール…!?」
頷くエルフナイン。そしてそのまま言葉を続ける。
「巨大な驚異に対し発現した、光と歌の融合が齎す更なる力…」
『ウルトラマンがシンフォギアを纏う、二つの奇跡のユナイト。その力の名は…』
「『 ウルティメイト・フォニックギア・テクター 』」
ウルティメイト・フォニックギア・テクター。歌巫女と重なり合った光の巨人がその身に纏う聖鎧。
語るエルフナインとエックスだけが概要を知る其れを、他の者達が現実的なものであると認識するにはまだ時間が必要だった。
だがその存在を明かした事で気分が盛り上がったのか、前に立つ二人がどんどん話を進めていった。
「コレは簡単に言いますと、その名と見た目の通りにウルトラマンが各適合者と高位のユナイトを引き出した時に発するフォニックゲインにて聖遺物を再励起。
それと共にシンフォギア…FG式回天特機装束を外部へと再展開。ウルトラマンのサイズに合わせての巨大変形を行い、コンバインすることで完成するウルトラマン専用強化外装です」
『外装の組成については私の経験とそれに基づくデータが参考になった。私が自らの世界の地球で戦っていた時に、そこの防衛隊が与えてくれたモンスアーマーと言う技術でな。
電子化された怪獣、そのデータが私と結合することで多面的に効果を発揮する強化外殻となってくれたんだ。
それを応用してシンフォギア・システムをウルトラマンと適合。君たちにとっての更なる力となるんだ』
「従来のシンフォギア・システムと同様に、装者とウルトラマンの相互適性に合わせて形態をある程度変形させることが可能で、それは専用武装であるアームドギアも適応します。
高位のユナイトが必要になるのはギア変形の際に思考の齟齬が発生しないようにする為でもあると言うことですね」
…などと、エルフナインとエックスから言葉がまるでイチイバルのような爆裂乱射として降り注いでくる。
流石に付いて行けなくなったのか、それを聞くほとんどの顔が緩やかに歪んできた。響と切歌に至っては机に顔を突っ伏してしまっている状態で、クリスは勿論のこと比較的落ち着いていた翼やマリア、調だけでなく弦十郎や慎次、星司と猛の大人組ですら困り顔に変わってしまっていた。
「―――………という訳で、すぐにこのウルティメイト・フォニックギア・テクターの実用化と安定化を為すべくギアの再調整とシステムのアップデートを行おうと思います。
皆さん、またお手数をおかけしますがよろしくお願いします!」
ペコリと大きく礼をするエルフナインと共にエックスが何処から出したのか拍手のサウンドエフェクトをかき鳴らした。
それを聞いてようやく全員の意識が彼女の方に向き、釣られるように小さく拍手を行った。此処までの所要時間、約60分。
『いや話長すぎんだろッ!!』
「あとなんなんだよその拍手はッ!!」
キレのあるツッコミを入れるはクリスとゼロの不良コンビ。互いにパートナーではないものの、こういう時の一致具合は恐ろしい程に咬み合っていた。
そんな二人のツッコミは小動物のようなエルフナインにとっては叱咤と言うより恫喝のように聞こえたのか、思わずその小さな身体を強張らせて涙目になりながら謝ってしまった。
「はうぅっ!?ご、ごべんなざぁいぃ…!」
「あー、クリスちゃんがエルフナインちゃんなーかせたー」
「なっ…お、お前なぁッ!?つーか途中で寝てたヤツにンなこと言われたくねぇ!!」
「ゼロもだ。折角エルフナインが懇切丁寧に説明してくれたと言うのにそれは無いだろう」
『えっ、俺が悪いの?』
罪の所在を明らかにするつもりは毛頭ないが、泣かれてしまうと形勢的には圧倒的に不利だと言うのがよく分かる。
なによりエルフナインはボケとかそういう心算は一切無く、ただ真面目に真剣に語ってくれただけなのだ。ちょっと熱が入り過ぎたぐらいで。
そんな少しこんがらがった空間を解きほぐすべく、軽く手を叩きながら猛が前に出て来た。まるで本職さながらの仕切り方だ。
「はいはいみんな落ち着いて。こんなことで言い争うんじゃないよ」
「センセイ!でもよぉ…!」
クリスの反論を言わせないように、優しい笑顔のまま差し止めるように掌を開き突き出す猛。そうされてしまっては、不思議とクリスも今はこれ以上何も言えなかった。
「エルフナイン、私達の新しい力について詳細によく話してくれた。ありがとう。だが、今度話すときは要点を纏めて皆に分かりやすく話してあげて欲しい。
みんなの事をそこまで考えられる君ならば、そういう事も必ず出来る」
「…はい、分かりました!」
「クリスとゼロ、他人の足りないところをハッキリ指摘できるのは良いところだ。だがそれは、言葉一つで関係を瓦解させかねないことでもある。
一長一短。君らならこの意味を理解してくれるね?」
猛の優しい言葉にクリスは少し複雑な顔で首肯。ゼロは毎度の通り何処か気楽に聞き流すような態度をとっていた。
彼の師がこんな不敬な姿を見ていれば紅蓮の鉄拳が飛んでくることは必須。だが決してそういう事をしないのが、80の方針だった。それに何より、ゼロ自身もこれまでの経験でそういう面もちゃんと理解していた。
そんな教師としての力で空気を解した猛が、そのまま先程のエルフナインの話を総括していく。
「私達の新たなる力、ウルティメイト・フォニックギア・テクター。
要点を抜粋すると、発動には装者と私達とが高位のユナイト…数値にして150以上のものを為さなければならないと言う事。
そのためにイグナイトモジュールを併用。モジュールの三段階開放にて外装を形成する為の高出力フォニックゲインと引き出すと同時に、装者が受ける魔剣の侵蝕を私達ウルトラマンも共有することで出力とユナイト数値を人為的に上昇させる、という仕組みだね」
「は、はい!その通りです!」
「うん。それじゃあみんなから、なにか質問は有るかな?もし細かい構造に関することであれば、後で個人的にエルフナインに聞くことを勧めるけども」
完全に教師状態の猛の言葉に、何処となく周囲が静まり返る。その中でまず、そっと響が手を上げた。
「はい、響」
「あのぉ~…これはその、別に質問と言うほどのモノじゃないんですが…」
「大丈夫、言ってみなさい」
優しい猛の言葉に、響は不安の顔を消して立ち上がる。発した言葉は質問ではなく提案に近いもので、その内容も別段重要なものでもなく…詰まる所どうでもいいモノではあった。
「その…せっかく名前を付けてくれたエルフナインちゃんやエックスさんには悪いと思うんだけど……長くない、その名前?」
ウルティメイト・フォニックギア・テクター。その名を全員が反芻し、言葉を刻んでいく。其処から得られた感想は様々なものだった。
「…私は特に気にはならないな。イグナイトモジュールも似たようなものだろう?」
「長いと言われればそうかも知れないし、さりとて気にし過ぎるほどのモノでもないような…」
と反対意見を述べたのは翼とマリアの年上組。しかし思考を重ねていく中で、響に同調する声も上がって来た。
「まぁ正直なところ、アタシも長いと思うかな」
「別段難しい言葉ってワケじゃないんだけど…」
「なーんか舌噛みそうな気がするんデスよねー」
装者たちの意見は2対4。大人たちは別段どちらでも良かったことなので、ここは当事者である彼女らに任せる方針だった。
「それじゃあ簡略化した名称案を考えてみましょう。ですが、どんな名前が良いんでしょうか…」
と真面目に考え込むエルフナイン。彼女からしたら元々のその名前で行くつもりだったのか、名称簡略化など考えるようなものではなかったのだ。
同様に頭を悩ませる装者たち。なかなかどうしてこういう案と言うものは浮かび辛いものだ。そんな中で、響がポツリと呟いた。
「……ウルトラマンがシンフォギアを纏うんだから、【ウルトラギア】……とか?」
静寂のまま全員の目が響に向けられる。誰もが感じたことは、彼女がなんとなしに呟いたその単語、それがスーッと染み渡って行くような感覚だった。
「ウルトラギア…分かりやすくて良いと思いますデス!」
「それなら舌噛みそうな事も無いしね」
「そ、それは言わないで欲しいのデェス…!」
先だって肯定を声を上げる調と切歌。他の装者…翼、クリス、マリアからも特別異論や対案が出た訳でもなく、納得するように笑顔で首肯する。
「立花らしい、明快で良い呼び方だな」
「存外馬鹿っぽい感じにならなさそうで何よりだよ」
「いやぁ~クリスちゃんは手厳しい!我ながら中々の名案だと思ったんだけど、もーちょっと褒めてくれても良いんじゃないかなぁ?」
「ちょーしに乗んな」
と相槌を打ちながら響の額に軽くチョップをぶつけるクリス。そのツッコミの優しさが、彼女なりの礼讃の態度でもあった。
響にとってはそれも理解っていた事なのか、ツッコミに対して責めるような言葉は出さずにただ嬉しそうに笑っていた。
「それじゃあ、今からこの強化システムはウルトラギアと呼称することにする。…で、良いわねみんな」
締めるように話すマリアに、その場の全員が肯定を示す。
ウルティメイト・フォニックギア・テクター…略してウルトラギア。一先ずは名前と言う形で、全員の心に刻まれる運びとなった。
「よし、じゃあ話が一つまとまったところで次に行こう。他になにか、質問事項はあるかな?」
再度みんなを纏めるように話す猛。しばらく待っても何処からも手が上がらずにいたので、これで終わりだろうと思ったその時。おずおずと、今度は調が手を上げた。
「はい、調。どんな質問かな?」
「ウルトラギアの展開について…。…魔剣の侵蝕をウルトラマンも共有するとありましたが、それは本当に必要なことなんでしょうか」
「と、言うと?」
「ダインスレイフを埋め込んだイグナイトモジュールは、私達の心の闇を増大させて力に変えるモノ…。それは言うなれば、ブーストされたマイナスエネルギーそのものです。
みなさんに…特に矢的先生にとって、それは忌避すべきものではないのでしょうか」
言われて他の装者全員がハッとした。イグナイトモジュールはただ単純な、便利な短期決戦用ブースターではない。暴走による精神汚染を是とした上で成り立つ破壊の力なのだ。
慣れのせいだろうか、誰もがそれを失念してしまっていた。
「それに、私は切ちゃんと一緒に二人で北斗さんと一体化しています。もし私達がそれを使うとなると…」
「二人分の侵蝕を、星司おじさんが一人で受けちゃうってことデスか…」
言葉にした途端、切歌の顔も不安で曇りだす。その身を貫く魔剣の楔…己に対応した一つだけでも酷い苦痛と衝動に晒されたのだ。
それを二人分受け止めなくてはならないと言うのは、如何に星司であろうとも…。そんな不安を想った瞬間、二人の頭を大きな手が圧し掛かるようにポンと乗せられた。
優しく温かい、いつもの星司の掌だった。
「余計な心配はしなくていいぞ、二人とも。君らの心の闇ぐらい、いくらでも受け止めてやるさ。
魔剣だか何だか知らんが、そんなもんには負けんッ!……ってな」
ニカッと笑いながら胸を張って言う星司。だったが、周囲の空気はゴルゴダ星ばりに寒い。
「…おじさぁん、オヤジギャグばっかりやってたら本当にオヤジになっちゃうデスよ…?」
「――なんだとォこの小娘がッ!?」
溜め息を吐く切歌。その頭の上に乗せていた星司の手が、力を込めて握り締めた。俗に言うアイアンクロー状態である。
ギリギリと音がするような締め付けに、思わず切歌が喚きだした。
「痛い痛いデェェース!!ぼーりょくー!ふじょぼーこー!ドメスティックなバイオレンスデース!!」
「なぁにが婦女だお子様め!そういうのはマリアみたいに大きくなってから言うもんだ!!」
「あー!今度はセクハラデース!!せーんせぇー!!」
まるで父娘のじゃれ合いのような光景を眺め、つい周囲に笑顔が溢れだす。それは闇などものともしないと言わんばかりの、眩しい姿だった。
「フフ…杞憂、だったかな」
「かもね。続き現れる敵と、新たなる力…。それでもこの世界を守護るためならば、私達は共に戦っていける」
確信を呟くマリアに、皆が一堂に強い肯定の目を向けていた。
それは不退の決意。各々が大切に思うものを必ず守護るという想いであり、迫る脅威にも決して負けぬと固めた意志でもあった。
そんな姿を目にした事に喜びを覚えたのか、猛が優しく笑顔で語り出した。
「…確かに私は、マイナスエネルギーを研究、根絶する為に戦ってきたことがある。だが、戦いの中で多くを経験した時に知ったんだ。時にマイナスエネルギーは、正しき力を引き出す為の糧にもなるものだと。
エルフナインが作り上げ、君たち装者が乗り越え掴んだイグナイトモジュールの力。それは正しく、プラスに転化したマイナスエネルギーの象徴に他ならない。
私たちはそんな力を得た君たちを信じている。だから君たちの掴んだその力も共に信じ、この地球を守護るために最後まで一緒に戦いたいと思うんだ」
臆面も無く語る猛の姿に、誰の心にも暖かい何かが沸き上がってくるのを感じていた。
本当に、聖人さながらのこの男には他者を絆す大きな力があるのではないかと考えてしまうほどにだ。
そうして互いに想いを固めたところに、現状と言う指摘を加えるエックス。それは次へ進むために必要なことであり、決して彼が空気を読めないとかそういう事ではない。
『だがこの力はまだ未知数だ。検証も必要だし、最初から上手く発動できるとも限らない』
『だったら、やる事は一つしかねぇな』
続いたゼロの言葉に疑問の目が注がれる。
だが、一部の人間…一体化している翼や、同様の状況に何度も接してきた響、彼女の師である弦十郎なんかは既に彼の思惑を察していた。
戦わざるを得ない強敵がいて、守護るべき大切なものがあり、その手には不完全な力が握られている。
戦うため…守護るためにはその力が必要になってくる。それがいざと言う時に扱えないのでは話にならない。
ならば如何するか。その答えはたった一つ。
『――そう、特訓だぁッ!!!』
EPISODE11 end...