絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 11 【安息の陰、蠢くは影】 -A-

 

 澄んだ空気と優しい光。堪え始めた肌寒さに反応してか、響の瞼が一度ギュッと締まってからゆっくりと開いた。

 寝惚け眼で周囲を見回すと、其処にはやや乱雑に、其々別の毛布に包まって眠っているクリスとエルフナイン、二人で一つの毛布でくっついて寝ている調と切歌の姿があった。

 

(…あぁ、そっか。昨日はみんなで騒いでたんだっけ…)

 

 分離した移動本部のミーティングルームを用いた小さな大宴会。みんなで飲んで喋っての大騒ぎで、これはその残滓だ。

 穏やかな四人の寝顔を見ていると思わず笑顔になってしまう。大きな戦いが終わったのだ、安らぎを求めても罰は当たらないだろう。

 そんな空気を読んだのか、お休み中の彼女らを起こすこともせず響は静かに部屋を出て行った。

 

 

 

 朝陽の明るい外。大きく背伸びをしながら胸に空気をいっぱいに取り込んで吐き出した。

 

「んん~~…っ…っはぁぁ~~…」

「起きたのか。おはよう、立花」

「早いのね」

「翼さん!マリアさん!おっはようございます!」

 

 朝の散歩から帰って来たのか、近くに歩み寄って来た翼とマリアに元気よく返事の挨拶をする響。

 日はまだ上り始めたばかりだが、顔を合わせた三人はみな晴れやかだった。

 

「翼さんが早起きなのは言うまでもなく分かるハナシですが、マリアさんも朝強いんですね」

「調や切歌、マムの世話をやったりしてるうちに癖付いちゃってね。そう言う事、私がやるしかなかったから」

 

 当然のように笑顔で話すマリア。フロンティア事変を引き起こす以前…恐らくは彼女が普通のアイドルとして活動するよりずっと前から、自然と行っていた事なのだろう。

 元々一人の妹を持つ身だったマリアだ。彼女にとって年下や必要とする者に対して、ついつい世話を焼いてしまうのは当然ともいえるようなことだった。他の装者たちには未だ発現しない”母性”と言うものだろうか。

 

「昨晩も大変だったのよ?みんなの宴会の後片付け」

「うえぇ!?あの片付けって、マリアさんがやってくれてたんですか!?」

「あぁ、見事な手並みだったぞ。スペースを作っては毛布に包めて寝かしつけたと思ったらどんどん片付けを済ませていくんだからな」

「…その片付けをどんどん散らかしていったのは何処の誰だったかしら」

 

 何故か誇らしげに語る翼だったが、其処にマリアが釘を刺す。意図した行動なのかはまったくもって不明だが、昨晩マリアの片付けのタイミングにどんどんモノを散らかしていったのは其処の防人だったのだ。

 

「あっ、アレはだな!マリアが片付けしているから私も手伝おうと思ってだな…!」

「心遣いはありがたいのだけど、それが何であんな風になるのか…本ッ気で理解に苦しむわ…」

「あはは~…翼さんの片付けられない癖、直る気配無いんですねぇ」

『さすがの俺もアレには軽く引いたぜ翼。ありゃないわー』

「ゼロッ!?お前までそう言うのか…ッ!!」

 

 自らと一体化している相方にも非難されてしまい、本気で歯軋りしてしまう翼。

 だがマリアからして見ても、ただでさえ姦しい年頃の子供たちが大騒ぎした跡地を片付けていっているはずがどんどん爆心地になっていくのはある意味恐怖だったのかもしれないが。

 

「手伝わせてしまって申し訳ないけど、北斗さんと矢的さんが居てくれて助かったわ…」

「そう言えば今朝は見ませんね。二人とも、もう行っちゃったんですか?」

『あぁ。エースはパン屋の仕込みが、80は教職を休む訳にはいかないからってな』

 

 ゼロからの返答を聞き、少しだけ響が残念そうな顔をした。それに気付いた翼が、彼女に声をかける。

 

「どうした、立花?」

「あぁいえ…矢的先生に、ちゃんとお礼を言えたのかなって…」

「…あの怪獣の事ね」

 

 あの怪獣とは、先日戦っていたゴモラⅡのこと。Uキラーザウルスとの戦いの後、飛び立った時に相談していたのだ。

 

 

 

 日本から離れ空を飛んでいる最中、ウルトラマンガイアこと立花響がウルトラマン80に話しかけた。

 

(…あの、矢的先生。少し良いですか?)

「どうしたんだい、響?」

(私がさっき戦ってた怪獣のこと、なんですが…)

 

 そうして響から、他のウルトラマンと装者に対して経緯の説明をする。その際にネクサスとして変身し共に戦っていたマリアも響の側に加わり、一緒になってゴモラⅡの事を尋ねていった。

 

『地球生まれだからって怪獣も助ける、か…。どこまでスクリューボールだよ、お前は』

『でも、響センパイの考えはステキなことだと思うのデス』

『マリアもそう思ったから、響さんの力になったんだよね?』

(そうね…。綺麗事だけど、真に為せるならばそれは、何よりも理想的だもの)

『だが、綺麗事とは往々にして艱難辛苦の棘道…。それを理解らぬ立花ではないと思うが、最悪の覚悟も構えて然るべきだ』

(…大丈夫です。きっと、上手くいく。私がそう信じたいだけかもしれないですが、此処に居るのは私たちだけじゃありませんから)

 

 そう言って左右を見回す響。ウルトラマンガイアの目を介して見えた姿は、他の四人のウルトラマンだ。

 この身一つではないし、小さな奇跡を纏っただけの少女ばかりだけでもない。奇跡を体現する大きな存在が、こんなにも居るのだ。だからこそ、無茶な願いも信じたくなったのだ。

 

「責任重大だな、80」

「頼むぜ先生。コスモスの力はマリアに貸してる最中だから、自由に使えないしな」

「可愛い生徒の頼みだ、やってみせるさ」

 

 力強く語り、そのまま全員でマリアの展開したメタフィールドに入り込んだ。

 

 

 メタフィールド内の荒野で座り込んでいるゴモラⅡを見て、ガイアと80が優しく近付いていく。

 見慣れぬ存在に警戒の色と共に唸り声を上げるゴモラⅡだったが、80がなだめるとすぐに落ち着いたようだ。

 

『…手慣れてんなぁ、センセイ…』

「兄弟の中では、無害な怪獣の保護は私が受け持っているところだからね」とクリスに答えながらその眼を輝かせ、透視光線でゴモラⅡの身体を隅々まで調べていく。

 ヤプールに改造、侵食されていたところはいくつかあったが、ゴモラⅡそのものを斃さねばならないほどでもない。それが80の出した診断だった。

 

「ジッとしているんだよ」と優しくゴモラⅡに言葉をかけ、相手もまた了承するように首肯する。

 そして80がその身体に力を込め、両手を額に構えて黄金の眼から光線を発射した。

 赤い光線はゴモラⅡの両手に植え付けられたミサイル発射機から体内を侵蝕する超獣改造の痕跡を破壊し、次いで両手を伸ばして放たれた光がその傷を全て癒していく。

 熱線でのピンポイント攻撃とマイナスエネルギーを浄化させる還元光線と言う二つの効果がある【ウルトラアイスポット】と、あらゆる傷を癒す【メディカルパワー】。

 80の持つ二つの優しき技が、ゴモラⅡをヤプールの呪縛から解放した。

 

「…よし、これでもう大丈夫だ」

(本当ですか!?やったぁ!!)

 

 自らを蝕むマイナスエネルギーから解き放たれたのが嬉しかったのか、ゴモラⅡも喜ぶように鳴きながらガイアと80にじゃれつくように飛び掛かった。

 思わぬ一撃に二人して倒れてしまうが、それは何処か楽しげな、平和な光景だった。

 

(あはははは!君も嬉しいんだね!)

『あ、アタシまで巻き込むなよ!!アタシは別に、何も…』

『良いではないか雪音。怪獣にじゃれつかれるなんてことは、生涯幾度あるやも知れぬ貴重な経験だぞ?』

「翼の言う通りだよクリス。それに、こうして見ると可愛いじゃないか」

『サイズがもうヒトの身に余り過ぎてんだよッ!!……可愛いのは、まぁちょっとは認めるけどさ』

 

 素直じゃないクリスの言葉にみんなが笑い合う。その中で次に声を上げたのはマリアだった。

 

(それで、その子は何処に帰せばいいのかしら)

「S.O.N.Gで飼うとかどうよ。名前付けてさ」

『ち、ちょっと面白そうな提案デスね…!』

『お世話、しっかりしなきゃ…!』

 

 思わず目を輝かせる調と切歌だったが、そんな無茶が通るはずもないと、エースが真っ先にゼロを諌めた。

 

「ふざけるんじゃないゼロ、この子達にも悪影響だ。人の寄り付かぬ無人島があればいいが…そんなところはあるか?」

「大丈夫、目星は付けてあります」

 

 80が返答と共に全員に向かってある座標をテレパシーで送信する。そこは南太平洋沖、名も無き熱帯の無人島だった。

 

「此処なら彼が外に出ないように出来ると思う。あとの情報操作は、この世界の人間がする事だけどね」

(理解ったわ、後で風鳴司令にも報告しておく)

(ありがとうございます、矢的先生!!)

 

 

 …そうして無人島にゴモラⅡを運び、其処の自然へ彼を返した。願わくば、彼にもうこんな不幸な事態には遭わないことを祈りながら。

 五つの光は、その地球の反対側から不時着した移動本部へと飛んで帰って来た…と言うのが、ゴモラⅡに関する顛末だ。

 この一連の出来事から、矢的猛は響にとっても恩人として認識されることとなり、お礼に拘ってしまうのもそうしたところからだった。

 そんな少し自信無さげな顔のままの響に対し、翼が優しく彼女の肩を叩く。

 

「案ずるな。立花のその気持ち、矢的先生にもきっと伝わっているさ。それでもまだ感謝を述べ足りないと言うのなら、また機を伺って言えば良いだけの話ではないか」

「翼さん…。そうですね…!」

 

 昇る朝日を背景に、響の笑顔がいつもの明るいものに戻る。その事に安堵しながら、三人は肩を並べて移動本部の方に戻って行くのだった。

 

 

 

「そういえば立花、今日も学校ではないのか?」

「はうッ!!せっかく忘れてたのになんてことを翼さぁんッ!?」

「あら、大変じゃない。此処からリディアンだと、どれぐらいかかるのかしら…。リニアに乗らなきゃ間に合わないんじゃないかしら?」

「確かリディアンの始業が9:00~で今が7:00前か…。急がねばならんな」

「そうね。私はすぐみんなの朝ごはんを用意するから、翼はクリスと調と切歌を起こして、司令か緒川さんに言って出来るだけ速い足を用意してあげてちょうだい」

「承知した。往くぞ立花、今日も一日頑張ろうではないかッ!」

 

 物凄いペースで話が進む翼とマリアに圧された響、乾いた笑いを浮かべながら生返事を返すしかなかった。

 

「……このまま休めれば良かったんだけど、やぁっぱ甘かったかぁ……」

 

 大きな溜め息が一つ。それで気持ちを切り替えて、二人の背中を追って彼女も駆け出した。

 

 

 

 なおこの朝食時に、調と切歌からも休みたいコールが鳴り響き、それに対してマリアから割と真面目な説教があり結局遅刻してしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 そうしてリディアンでは日中の授業が終わり、時間はやがて放課後の昼過ぎとなる。

 生徒達がそれぞれ帰路に着く中で、響、未来、クリス、調、切歌が当然のように集合していた。

 

「センパーイ!お疲れさまデェス!」

「お待たせしました、皆さん」

「切歌ちゃん調ちゃんおっつかれぇー!大丈夫?授業中寝たりしなかった?」

「うっ、えへへへへぇ…」

 

 バツが悪そうに笑う切歌。それだけで把握できるのだから彼女は分かりやすい。

 

「何度も寝ちゃって何度も注意されてたね、切ちゃん。私が起こしても起きないんだもの」

「ご、ごめんデスよぉ調ぇ…」

「ドンマイ切歌ちゃん!大丈夫だって少しぐらいなら!」

「響は少しどころじゃなかったものねー」

 

 切歌をフォローする響だったが、その言葉が今度は未来の逆鱗に触れてしまったようだ。いつぞや程の重圧と共に、激しさの無いが真綿で首を絞められるような、グチグチとした説教が始まってしまった。

 その光景に呆れ顔を浮かべつつ、調と切歌はクリスの方へ向く。

 

「クリスセンパイは眠くならなかったデス?」

「アタシを誰だと思ってんだ。そんなモンに負ける訳ねぇだろ」

「おおー、さすがは先輩」

 

 二人の賛辞に鼻を高くするクリス。得意気になっている彼女の脳裏に、呟くような猛の声が聞こえてきた。

 

(その代わり、休み時間はゆっくりだったね)

(や、休み時間だから良いんだよ別に…!)

 

 猛の指摘にやや顔を赤面させながらも、落ち着いて念話で返す。そう何度も大声で突っ込んではいられないのだ。

 

 

 話が落ち着いたところで歩き出す一行。この後はまた移動本部に戻ってミーティングだ。

 

「せっかく戦いが終わったのに…みんな、大変だね」と声を出したのは未来。

「後始末なんかもあるだろうし、仕方ないよ。それに…」

 

 返事をしながら胸に手を当てる響。まるで自分の中に眠る赤い光から、何かを感じ取ろうとしているようだった。

 

「…それに?」

「うん…。分からないんだけど…なんとなく、まだ何かありそうな気がするんだ…」

 

 それは地球の光を受け取った時、了子から言われた言葉。『やがて地球を覆い砕く災厄となる』というものだ。

 ヤプールとUキラーザウルスは確かに強敵だった。もしも敗北していれば、そのまま地球は砕かれていたのかもしれない。

 だが、響が感じている違和感はヤプールからのものではなかった。それが何なのかは分からないが、どうにも不吉な予感が付き纏ってしまっていた。

 

「…大丈夫だよ。へいき、へっちゃら」

 

 少し表情が硬いままの響が胸に当てている手を、未来が優しく包み込むように両手で握りながら響自身の口癖を言う。

 思わず顔を上げて見た未来の表情は、優しい笑顔だった。

 

「みんなが居る。それに今はウルトラマン達も居る。だから、何かあっても絶対に大丈夫。私はそう、信じてるよ」

「未来…ありがとう。未来やみんなが応援してくれるなら、私達は何が相手でも絶対に負けやしないよ」

 

 親友からの信頼に応えるように、強い笑顔で返す響。不安はあって当然でも、それを払拭できるものはこの手が繋いでくれている。

 だからコレを、この手が繋ぎ奏でる歌を信じよう…。響は改めて…迷う度に何度でも、そう思い返してきた。そしてそれは、この瞬間も同じだった。

 

 

「それじゃあ行ってくるね。また帰る時に連絡するよ」

「うん、気を付けてね。勿論みんなも」

 

 その場の装者全員にそうやって声をかけ、それぞれから明るい返事が帰ってくる。それを聴き終えてから、未来は変わらぬ優しい声で、「いってらっしゃい」といつものように送り出した。

 離れていく距離。不安は無いと言えば嘘になる。だが親友だから…彼女らが背負っているモノを識っているからこそ、信じ貫かなくてはならないのだ。

 お気楽に、小さくなっても何時までも元気に手を振る彼女たちを見送り、未来もまた己が帰路に着く。

 

 

 ――一瞬吹き抜ける風に、思わず空を見上げる未来。だがその眼には明るい晴天の空しか見えなかった。

 …その姿を、小さな暗い人影が見据え、やがて風の中へ消えていった事に気付く由もなく…。

 

 

 

 EPISODE11

【安息の陰、蠢くは影】

 

 

 

 タスクフォース移動本部。昨晩の騒ぎもなにするものぞといった感じに綺麗に片付き本来の任を為すべしとの様相を取り戻していた会議室。

 制服姿の響、クリス、調、切歌と翼やマリア、エルフナイン達タスクフォースの面々が出迎えた。

 

「皆さん、おかえりなさい!」

「たっだいまー!もう準備万端って感じだね!」

「あぁ、此方はいつでも大丈夫だ」

「北斗さんと矢的さんは如何かしら?」

 

 マリアの言葉にクリスは鞄に仕舞ってあったブライトスティックに、調と切歌は互いの中指に通されたウルトラリングに其々話しかけるように念を送る。そして数秒の間をおいて、三人が笑顔で首を縦に振った。

 

「センセイ」

「北斗さん」「出て来て下さいデス!」

 

 声と共にそれぞれから光が放たれ、それぞれの姿を形成していく。すぐに肉体が顕現し、クリスの隣には矢的猛が、調と切歌の間に北斗星司が姿を現した。

 

「よう、みんな!」

「お待たせしました」

「お二人とも、改めて先日は…いや、かねてよりのご協力、ありがとうございます」

 

 二人の顕現と共に、真っ先に弦十郎が歩み寄り、タスクフォース司令として一礼と共に感謝を述べた。

 

「いいえ。私達も、何度も彼女たちに助けてもらってきました」

「ヤプールを退けることが出来たのは、全部この娘たちのおかげだ。こっちこそ、感謝しているよ」

 

 星司が弦十郎の手を取り握手し、その握られた手の上に猛がそっと添えた。

 二人の、自分よりも年端を重ねた大人達の言葉が弦十郎の胸に響いていく。この娘らに力を貸してくれる者達が、彼らのような人物で本当に良かったと。

 大人としての自分の役割が無くなった訳ではないし、手を離すつもりも毛頭無い。だが彼もまた一人の人間。近い目線で彼女らを見てくれる者が傍に居てくれること、自分の手が届かぬ時に手を伸ばしてくれる者が居ることが純粋に心強かった。

 そんな大きな想いを込めて、今度は一人の男・風鳴弦十郎として、星司と猛に対し深く頭を下げた。

 

「――…ありがとう、ございます…!」

 

 彼のその想いを受け取ったのか、星司は笑顔のまま空いた左手で弦十郎の肩を叩き、猛もまた隣で優しく微笑んでいた。

 

 

 大人たちの話も終わり、改めてミーティングが開始された。

 今度は前回とは違い、ウルトラマンエースこと北斗星司の同席と、立花響とマリア・カデンツァヴナ・イヴが新たにウルトラマンとしての力を得たと言う状況に移り変わっている。

 

「…という訳で、折角だ。先ずは自己紹介をしていただこう!」

 

 先程とは一変して明るい笑顔で話す弦十郎。自己紹介とは誰の事だという表情がチラホラ見られたが、二人の少女はそれが誰の事かハッキリと理解っていた。

 

「星司おじさん、出番デスよ!」

「お、俺の事だったのか今の!?」

「うん。こうしてみんな一緒になるの、初めてだから」

「いや、だが、既に昨日顔を合わせているじゃないか…」

「星司兄さん、こういうのは皆との関係を円滑にする為のもの…社交辞令ですよ。私は勿論、ゼロとエックスもやっているのです」

『なんなら代わりに俺がやってやろうか?ウルトラマンエースはこんなシャイな一面もあるってな』

「ゼロ、無礼で余計な口を挟むんじゃない」と呆れ顔ながらすぐさま彼を諌めブレスレットを叩く翼。何時の間にやら、随分慣れたものである。

「大丈夫デスよ!ね、星司おじさん?」

 

 期待に満ちた調と切歌の眼が星司に突き刺さる。歳を重ねたせいか、人の前に立って注目の的にされるのは少しばかり抵抗が彼の心中にはあった。

 だが彼女らの期待には応えたいし、何より自己紹介なんかで嘗められたくなどない。この場では自分が、一番の年長者なのだから。

 

「…よぉし、往くか…!」

 

 意気を高めて席を立ち、全員の前に出る星司。思えば過去、自らが所属していた防衛隊での初顔合わせでもこんな感じだっただろうかと、懐かしむように周囲の顔を眺める。

 変わったのは自分の齢と、眺める先にいる者達の若さだろうか。だがこうなっては、後はもう勢いだ。

 

「…んんっ…。…こうして顔を合わせるのは、昨晩振りだろう。だが、折角風鳴司令に言われたんだ。改めて自己紹介させてもらう。

 俺は北斗星司。またの名を、ウルトラマンエースだ。今は装者…月読調と、暁切歌の二人と同時に一体化している。改めて、よろしく頼む!」

 

 少しばかり語気は強かったが、最後に出て来たいつもの笑顔が誰の目にも印象的だった。

 何処からか、さも当然のように鳴り渡る拍手にどうにも照れてしまいながら早足で席に戻って行く星司。ドカッと座ったところで隣の調と切歌から無邪気に労いの言葉をかけられるも、つい鼻であしらうような素気ない返しをしてしまった。

 だが無骨な赤面顔でそんな事をされても、ただ可愛いと思われるという事は理解らなかったようである。

 

 

 星司の自己紹介の後に、入れ替わるように前に出たのは弦十郎。星司に一言感謝を述べた後。その顔を少し引き締めてその場の全員に向けた。

 

「さて、此処からは真面目なミーティングだ。

 既にウルトラマンたちから聞いていたと思うが、先日の戦いでヤプールは退けたと言って良いとの事だ。…だが、事態はそう簡単な話ではなかった」

 

 弦十郎の言葉に次いで星司と猛が立ち上がり、翼のブレスレットからもゼロがホログラムとして出現した。そして先ず声を出したのは、星司だった。

 

「…先ず、俺達はヤプールを追い、その侵攻を阻止する為にこの世界にやって来た。だが、追っていた敵はヤプールだけでは無かった」

「ヤプールと共謀し…いや、恐らくはその力を利用して自らの悲願を為し遂げようとする者…」

「それは、一体…!?」

『――…そいつの名は、超時空魔神エタルガー』

 

 ゼロから発せられた言葉に異様な重さを感じ、その場が凍るような感触を覚える。それに呑まれないようにする為か、響が少し明るい声で率直な感想を述べた。

 

「ち、超時空魔神とは…こりゃあ中々に大層な名前ですな…あはは…」

『実際のところ大分厄介な奴だ。俺も以前アイツとやり合ったが、ウルティメイトイージスの力と渡り合うぐらいだったからな』

「…相当なものね」と返すはマリア。

 

 今現在ウルティメイトイージスは彼女がウルトラマンネクサスへと変身する為に一体化している状態であり、それがどんな力を持っているかは彼女の身体がよく理解っていた。

 其処から漏れた呟きは、エタルガーがどれ程の者かを推し量るのに十分でもあった。

 

「そいつがヤプールと一緒に攻め込んで来たってのか。だが奴さんはカゲもカタチも見えなかったぜ?」

『あぁ。元々エタルガー自体は、俺と別の宇宙の仲間たちでブッ倒してやったんだ。だがヤツの魂は怪獣墓場に流れ着き、そこでヤプールと出会って侵略を計画した…もんだと思う』

「魂だけの存在…。それが、ヤプールと一緒にこの世界へ…」

「そのままお墓で大人しくしてれば良いのに、マムとは大違いで傍メーワクなヤツなのデス」

 

 切歌の溜め息ももっともだ。幽霊や霊魂の類は此方の世界にも逸話として幾らでも存在しているものの、それがこうやって現実を…地球規模で侵蝕してくるなどオカルト以上のなにかだ。

 

「エタルガー…いや、便宜上ここはエタルガーソウルと呼ぶべきか。それの目的はヤプールと同じく、マイナスエネルギーの収集だと思われている。自らの復活の為に、その力を使うのだろうね」

『アイツが本来の力を取り戻せば、マイナスエネルギーなんざ集め放題だからな…』

「そ、そんなに大変な力を持ってるんですか…!?」

『あぁ。なんたってアイツの能力は、【相手が最も恐れを示す存在の幻覚を見せたり、実体として召喚する】なんて代物だ』

 

 ゼロの言葉に一同の顔が嫌悪で歪む。それが事実なら、とんでもなく厄介で非常に厭らしい能力だ。

 

「最も恐れるもの…一体何が、出て来るんだろう…」

「黒くて速くて飛んでくるアイツが怪獣サイズにドデカくなって現れたりでもしたら、とても正気じゃいられんデス…」

「あー、分かる分かる…。嫌だよねーアレ…」

 

 嫌悪感全快の切歌の言葉に笑いながら肯定する響。なおアレがなんであるかは、ここでは敢えて言及しないものとする。

 そんな少し柔らかく…言葉を変えると浮ついた空気を引き締めるように、今度は星司が言葉を発した。

 

「恐怖は乗り越えられる。だが、誰しもが乗り越えられるだけの力を持つとは限らない。特に、自分自身が最も恐れているモノともなればな。

 過去の傷は、どれだけ傷口を塞ごうとも心の奥底に遺っているもの。エタルガーの力はその深い傷痕に入り込み穿り拡げるものだ。時間が埋めていたはずの傷が、時を越えて自分自身に襲い掛かってくる。

 そしてそこから発生する恐怖と絶望は、最も効率よく高め集められるマイナスエネルギーとなり、ヤツへと還元していくのだろう」

 

 真面目に語る星司の顔は、ヤプールと相対している時と同じような…何処か怒気を孕んだ険しい顔になっていた。ヤプールと同種のこの存在を決して許してはおけぬと言う心の内を、一体化している調と切歌にも伝わって来た。

 

「…だが、ゼロの言葉の通りならば、魂だけのエタルガーの力は全盛より遥かに劣ると言うことではないのか?」

『翼の言う通りだ。今のアイツに出来るのは、ごくごく小範囲に恐れの幻覚を見せる程度のモンだろうな』

「ですが、そんなのが相手だとより一層気を引き締めなければいけませんね…」

 

 慎次の言葉に一同が首肯する。相手の心に侵蝕するものならば此方が如何に直接的な防護を固めても効果は薄いだろう。

 文字通り精神を鍛え引き締めることが、今出来るエタルガーソウルへの唯一の対策なのかもしれない。

 

「…だが、脅威はエタルガーだけじゃない…」

 

 そう口に出したのはマリア。前に出て、自らの持つ通信端末を繋げて数日前の情報を開ける。

 そこに映し出されていたのは、マリアが変身する切っ掛けとなった脅威…”バケモノ”の姿だった。

 本能的に直視を拒みたくなるそのフォルムに、その場の全員が再度嫌悪で顔を歪めた。

 

「ま、マリア…なんなんデスかそのドギツくキモいのは…」

「…私がウルトラマンに適合した時に対峙した敵よ。…コイツは人を喰らい、ノイズをも、喰った」

「ノイズも…!?そんなことって…」

「私だって目を疑ったわ。でも、それは夢でもなんでもなかった。…これが、そう教えてくれたから」

 

 言いながら取り出したエボルトラスターを握り見つめる。彼女に宿ったこの光は、それがなんであるかを何よりもよく識っていたのだ。

 

『スペースビーストか…。まさか、こんなヤツまで現れるなんてな…』

「エックスさんもご存じなのですか?」

『あぁ、私の居た世界の地球でも出現したことがある。その本能は”攻撃”と”捕食”のみ。生物ならばどんなものにでも本来在るべき”同胞への愛”や”種の保存”と言った本能すら持たない、危険極まりない相手だ。

 そういったところは、こっちの世界のノイズと似たようなものかも知れんな』

 

 確かに、人類の相互不理解から生み出された人を殺す為の存在であるノイズもスペースビーストと似たような存在なのかもしれない。

 だが確実に違う点は、ノイズの殺意は単純かつ機械的なものに対して、ビーストのそれはもっと深い…深淵の闇のように蠢き沸き上がるものだ。対峙したマリアだけが、それを感覚で理解していた。

 

「このバケモノ…スペースビーストへの対処はどうするべきだ、エックス?」

『細胞の一片も残さずに殲滅させる…と言うのが最適解だ。種族の違いはあるだろうが、ビーストは再生能力が高く、細胞が分散したぐらいでは再度結合、近くの生物を捕食することで復活することもあると聞く。

 敵を斃す方法として見れば物理攻撃で相手を破壊するのは勿論有効だ。だがそれだけでなく焼却処分までする必要まであるだろうな』

「予想以上に厄介この上ねーな…」

『そうだな…。そんな相手だ、ウルトラマンであれば細胞レベルで破壊できる技を持つネクサスが、君ら装者であればネクサスと適合したマリアか武装の都合上でクリスでの対処が必要になってくるだろう』

 

 エックスの話につい溜め息を吐いてしまう。殴り合いや斬り合いが通じるとは言え、下手に放置すれば蘇り再度人を襲うかもしれない。これではまだノイズの方が対処しやすいのではないか…そう考えるのも致し方なかった。

 そんな連続する敵の情報に空気が重くなってきたところで、耐えかねたのかつい響がまた軽口を差し込んだ。

 

「でも、ノイズみたいに触れた相手を炭化する能力とか無いなら師匠や緒川さんでも戦えちゃいますね」

「あまり俺達をアテにするなよ?助けに行ける状況ならば迷わず向かうが、そうでない場合も多いからな」

「分かってますよー。師匠が無断で出動したら国連の方から緊急警報が入る事も知ってますし」

「あの警報はスゴいうるさいんで勘弁してほしいのデス」

 

 などと何処か和気藹々に話すタスクフォースの一同に、ウルトラマン達は少し困惑していた。

 

『…なぁ翼。お前らのボスって何者だ?』

「ふむ…一言で言い現すならば、この世界における【地上最強の生物】だな」

『……よくよく考えるととんでもない組織だなココは』

 

 思わず呆れ声で返すゼロ。エックスも動きは無いものの小さな溜め息は肯定を示していた。

 ただ星司と猛だけは、ゼロに対してこっそりと『そっちも似たようなものだろう』と思ったりしていたとか。

 

 

 

「話を戻そう。エタルガーソウルとスペースビーストに対する対抗手段は把握出来ただろうが、未だこの世界を狙う敵が裏で跋扈しているのは明白だ。各自気を引き締めて、入念に対処してほしい」

 

 弦十郎の言葉に全員が肯定の返事を返す。

 

「しかしまぁ、ヤプールといいエタルガーやらビーストやら…一体誰がこっちの世界へ手引きしやがったんだ?」

 

 クリスの出した疑問に答えを放ったのは猛だった。

 

「黒い影法師。…私達はそう呼んでいる」

「黒い、影法師…?」

「負の感情の塊…意思を持ったマイナスエネルギーそのものがヒトの形を為したものと言われている。私達は過去に後輩…ウルトラマンメビウスが平行世界で影法師と戦っていたのを聞いていた。

 影法師は邪悪な宇宙人や凶悪な怪獣を密かに招き寄せ、すべての世界を制圧、破滅へと導くことが目的と言われている」

「それがアタシ達の世界をロックオンしちゃったってワケデスか…」

「偶然なんだろうが、君たち装者とシンフォギアが奏でた歌が…世界を守護った輝きが、黒い影法師に目を付けられてしまったんだな。

 そこからヤツはヤプールを…そして復活を画策するエタルガーを呼び込んだのだろう」

「しかしヤプールの断末魔…ヤツが自身を”呼び水”と言ったことが気になります」

「あぁ…。だが、何にせよこれでやる事がハッキリした」

 

 星司の言葉に全員の気持ちが硬くなる。敵の全貌と目的がある程度鮮明になった以上、こんな戦いを終わらせる手段だって見えてきたようなものなのだ。

 

「改めて宣誓する。俺達ウルトラマンは、この地球と其処に生きる者達を守護る為に全ての力を以って戦う。そしてどうか…君達の力を俺達に貸し、共に戦って欲しい」

 

 ゆっくりと頭を下げる星司と、一緒になって礼をする猛。ゼロとエックスは特に動くことは無かったが、彼らもまた二人と想いを同じくしていたのは誰の目にも理解っていた。

 信じた正義を込めて握った拳、そこに種族の差などは無い。この場の誰もが、地球を守護るために全力を尽くす…。決して揺れることのない、何よりも強い想いだった。

 


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