絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 10 【正義の歌、束ね紡ぎ纏いて】 -A-

 

 日本を覆おうとする、これまで以上の巨大な暗雲。すぐにニュースが報道を始め、日本のみならず世界に向けて配信を開始していた。

 私立リディアン女学院学生寮、立花響と小日向未来の共用部屋でも、未来が独りでその報道をジッと眺めていた。

 そんなニュースキャスターの声だけがする室内に、突如呼び鈴の音が鳴り響く。独りぼっちと言うことにほんの少し不安を抱きながら、ドアのチェーンをかけたままにそっと扉を開ける。其処に立っていたのは…

 

「やっほー未来!」

「やはり、思った通りお一人でしたね小日向さん」

「弓美ちゃん、詩織ちゃん、創世ちゃん…」

 

 板場弓美、寺島詩織、安藤創世。リディアン入学時から親睦を深めた三人組だった。見慣れた笑顔に安堵しながらチェーンロックを外す未来。そして三人を部屋に迎え入れながら声をかけた。

 

「みんな、どうして?」

「ほら、いま外が大変なことになってんじゃん?ビッキーが人助けに走ってるなら、ヒナは独りでいるのかなーって思ってさ」

「こういう時はお一人で居るより、誰かが一緒に居た方が心強いと思いまして。それで僭越ながら、私達がお邪魔しに来たという訳です」

「…ありがとう、みんな。でも、私は大丈夫だよ?」

 

 普段通りの笑顔で返答する未来。だったが、彼女の手を弓美がグッと握り締めた。

 

「そっちが大丈夫でも、こっちが大丈夫じゃないの。ただでさえアニメみたいなヤバい状況なのに、大切な友達を一人ぼっちにさせておくなんて出来っこないわ」

 

 しっかりと手を握られたまま、力強く弓美が言った。彼女の勢いに少しばかり圧倒されながら詩織と創世の顔を見回すと、二人も弓美と同じ考えだと言わんばかりの笑顔で未来を見つめている。

 立花響の人助け、お節介…それがこんな形で外へ伝播していたのだと思うと、未来の顔が思わず綻んだ。

 

「あー!今笑ったわね!?せっかくキメたのに、笑われちゃったらキマんないじゃない!」

「ご、ごめんごめん…!その、別に可笑しかったんじゃないの。

 ……本当は、少し不安だったの。そこにわざわざ来てくれたのが、嬉しかったから。だから…ありがとう」

 

 今度こそ本心で、強がらずに感謝を告げる未来。彼女の優しい笑顔に釣られ、弓美たちも改めて笑い合った。

 

「ビッキー、大丈夫だよね。キネクリ先輩や、きりしらちゃん達も…」

「信じましょう、きっと大丈夫だと。強くてみんなを守ってくれる、私達の大事なお友達の事を」

「そうよそうよ!ヤプールだかなんだか知らないけど、こっちにはウルトラマンだって居るんだもの!正義は我らに在りッ!!ってね!」

 

 誰一人として響の、装者たちの勝利と無事を信じて疑わなかった。一年其処らの短い付き合いかも知れない。だが彼女たちは、その時間以上に多くの事を目にしてきたのだ。少女たちが、世界を救うその様を。

 だから信じられる。彼女たちならば、きっとこの窮地も笑顔で覆してくれるのだろうと。

 

(――みんな…響…頑張って…!)

 

 想いを固め、祈りを送る。それしか出来なくても、それがきっと彼女たちの力になると信じているのだから。

 

 

 

 

 

 暗黒の曇天。空間を引き裂き、地球に現れたヤプールの切札…究極超獣Uキラーザウルス。

 天地万物を破壊せしめんとする暴虐の存在が、唸り声を上げて地球…二人のウルトラマンの居る市街地に降り立った。

 

「グギュァアアアアアアアッッ!!!」

(コイツ…!なんてプレッシャーを…!)

(だけど、負けない…ッ!)

『破壊し尽くせ、Uキラーザウルス!手始めにあのウルトラマンどもを、血祭りにあげろォッ!!』

 

 ヤプールの声と共に、地面を抉りながらガイアとネクサスに対して突進するUキラーザウルス。力強く振り下ろした巨大な爪を、ガイアがその両腕で受け止める。

 同時にネクサスは空中へ飛び立ち、パーティクルフェザーの連続発射でUキラーザウルスの巨大な身体を狙い撃った。

 火花を散らし命中はしているものの、敵の強固な装甲は光弾を大したダメージにはさせなかった。

 そして空を舞うネクサスに狙いを定め、背部から生える四本の触手を伸ばす。甲殻に覆われた触手の先端には、左右に外開きする顎のような鋭利な爪があり、捕まってしまえばどうなるかは想像に容易かった。

 

(クッ…!)

 

 空中を自在に移動しながら触手を撹乱しようとするネクサス。だが四方から攻め立てられれて逆に撹乱されてしまい、敢え無く捕縛。そのまま地面に叩き付けられた。

 

(マリアさんッ!こぉのおおおおおッ!!)

 

 ガイアが受け止めていたUキラーザウルスの腕を力任せに弾き飛ばし、空いたボディに左右の拳を打ち付ける。だがそれも大したダメージになっていないのか、敵も反対の腕を薙ぎ払いガイアを派手に吹き飛ばした。

 なんとか起き上がるガイアとネクサスだったが、そこにUキラーザウルスの額の発光体から白熱光が放たれ、足元のアスファルトが爆裂した。

 

(くぅっ…だがッ!!)

(まだ、まだぁッ!!)

 

 白熱光に一瞬怯むも、すぐに反撃に出る二人。空中から襲い掛かるネクサスの蹴りと、猛ダッシュから繰り出されるガイアの拳。常に全力を込めて放たれる一撃一撃だが、Uキラーザウルスは呻き声一つ上げずにすべて受け止めていた。

 

(これなら!)

 

 右のアームドネクサスから、光の剣シュトローム・ソードを出現させて斬り付ける。だがそれも甲殻の表面を削るだけで大したダメージには至っていない。

 反撃とばかりにUキラーザウルスの右爪がネクサスに襲い掛かるが、それを察知したガイアが割って入り右爪をその身体で捕まえた。

 

(響ッ!)

(ぬ、うぅ、りゃああああああッ!!)

 

 全身の力を全開にして力を振り絞るガイア。そのまま半ば無理矢理に、捕まえた巨体を市街地の外を目掛けて投げ放った。

 

(マリアさん、今ッ!)

(えぇッ!)

 

 投げ付けることによって生じた隙を目掛け、すぐに構えを取るガイアとネクサス。

 ガイアは両腕を上下に構え、円運動と共に光を集め固めるように両手を胸元へ。凝縮され青き光の球体となった力を、胸の前で溜め込んでいく。

 同時にネクサスも腰溜めで両の掌同士での空間を作り、両手とアームドネクサスの間で破壊のエネルギーを迸らせていく。そして、

 

「デヤァァァァッ!!」

「シュワァァァッ!!」

 

 両の拳を真っ直ぐ突き出して撃つガイアのリキデイターと、腕を十字に交差させて放つネクサスの【クロスレイ・シュトローム】。

 青い光弾と黄金に輝く光線が合わせ重なり螺旋を描き、触手を使って器用に受け身を取ったUキラーザウルスへと伸びていく。二人の同時攻撃がUキラーザウルスの胸部に直撃し、爆発と共にその巨体を更に後ずらせた。

 一瞬俯いたもののすぐに上体を起こし睨みつけるUキラーザウルス。その装甲の一部が抉れ、中の身が露わになっていた。だがすぐに周囲から肉体が蠢き、外殻を再形成する。この動きには覚えがあった。

 

(受けた傍から、ノイズで修復…ッ!)

『左様…。貴様らを相手に位相差障壁は効かぬが、肉壁としては実に優秀な存在だからな。貴様らだけでこの全てを消せるものならやってみるがいい!』

(もう一度よ!今度は最大攻撃でッ!)

(了解です、マリアさんッ!)

 

 マリアの指示と共に再度動く二人。ネクサスはオーバーレイ・シュトロームの、ガイアはフォトンエッジの其々の溜め動作を行う。が、その発射を防ぐべくUキラーザウルスが飛び出した。

 背部からバーニアのように爆風を放ち、咆哮を上げながら100m越えの超巨体が急突進する。その威容に戦慄し動きを止めた瞬間、その左右の爪が二人に直撃した。

 巨獣の起こした予想外の速度と体重の全てを乗せた重い一撃に吹き飛ばされ、建物を粉砕させながら倒れ込むガイアとネクサス。図らずも甚大な周辺被害を起こしてしまうが、人々が周囲のシェルターへの避難が完了しているのが唯一の救いだった。

 なんとか立ち上がろうと上体を起こすも、受けたダメージにガイアのライフゲージとネクサスのエナジーコアのどちらもが点滅を始めた。体力の消耗による活動限界が近付いてきた証だ。

 それに追い打ちをかけるように、Uキラーザウルスがその硬質的な触手で二人を捕らえ、そのまま上空へ持ち上げた。

 

『ククククク…この究極超獣の力を以ってすれば、光も歌も大したものではないわァッ!!ハーッハッハッハッハッ!!』

 

 ヤプールの高笑いと共に触手から放たれる電撃。身動きの取れぬガイアとネクサスは為す術もなくその電撃を浴びせられ、胸の光はその明滅速度を上げていった。

 

(ぐぅうううううッ!)

(うわあああぁぁぁッ!)

 

 

 

「響さん!マリアさぁん!!」

 

 指令室で二人の戦闘を見ている中で、エルフナインが思わず声を上げてしまう。弦十郎は勿論、藤尭もあおいもエックスも、皆が声は出さずとも歯軋りするように響とマリアの危機を見つめていた。

 

「くっ…!藤尭!時空振動に変化は!!」

「あのデカブツが表れた影響以外、何も起きちゃいませんよ!」

「友里!翼とクリスくん、他のウルトラマン達の反応は!!」

「ありません!各国の衛星ともリンクして検索していますが、何処にも…!」

「くっそォ…!俺達じゃ如何することも出来ないって言うのかよ…ッ!!」

 

 思わず眼前の操作画面を殴り付ける弦十郎。他に何か手は無いものか、誰もが必死で探っていた。

 

『あおい、衛星通信回線を私と繋げてくれ!私がゼロ達に交信を試みる!』

「分かりました、お願いします!」

「ボクも手伝います、エックスさん!」

『あぁ、頼む!』

 

 エックスと共にエルフナインが自らの操作画面を細かく動かし、各衛星の送受信範囲を計算。可能な限り広範囲を設定し、エックスに託す。

 それを受け取ったエックスは、すぐに先程割り出したゴルゴダ星の座標を中心にして危機を報せる念波を送信した。

 

(ゼロ、エース、80…誰でもいい、届いてくれ…!!)

 

 祈るように念波を送り込むエックスだったが、返す反応は何処からも得られなかった。だがそれでも諦めない。共に今の自分が出来る戦いをしようと、友と誓い合ったのだ。この程度で諦めるわけにはいかないのだ。

 それは弦十郎たちも同じ事を思っており、これ以上手をこまねいている訳にもいかなかった。

 

「…詮方ない!本部起動、敵超獣への攻撃を敢行するッ!!」

「正気ですか司令ッ!?攻撃って言ってもなにでやる気です!結局お偉方からは、まともな軍事用ミサイルの一発もくれなかったじゃないですか!!」

「まさか司令、自分が直接行こうだなんて思ってませんよね!?」

「ノイズが絡んでなけりゃ最初からそうしているッ!!とにかく今は、響くんとマリアくんの援護をするのが最優先だ!装者出動用射出ポッドを、直接あのデカブツにぶつけてやれッ!!」

「りょ、了解!!」

 

 弦十郎の指示に従い、移動本部を動かしながらミサイルとシャトルの相の子のような飛行艇を発射状態に持っていく。その間も弦十郎は次の声を通信機に向かって発していた。相手は調のカバーに現れた緒川慎次だ。

 

「緒川!そっちはどうなっている!」

『シェルターの避難者一同を2ブロック先まで誘導したところです!ここならウルトラマン達の戦いで、避難者に被害は出ないと思われます!』

「そうか!そっちからウルトラマン達を援護出来ることは無いかッ!?』

『そうですね、半壊した車で神風特攻することぐらいでしょうか!」

 

 焦りを含みながら、無理と言い放つように慎次が返す。彼自身普通の人よりも高い身体能力を備えてはいる。瞬歩と忍術紛いの攻撃は、風鳴弦十郎とは別の意味で人外的とも言えた。

 だが彼は巨石を放り投げることも出来なければアスファルトを震脚でめくり上げることも出来ない。直接的な力が無い自身ではどんな援護が出来るものだろうか。その冷静な思考が不可能と分析していた。

 冷静故に口惜しく思う。この事態に対し自分の出来る事が余りにも無さ過ぎて、だ。思わず口を噤み、会話の終えた通信機を握り締める。そこに、どこか聞き覚えのある声が彼に向けて発せられた。

 

「お兄さん、だよね?」

「…えっと、君は…」

 

 声の聞こえた下の方へ顔を向けると、そこには一人の少女が居た。非常時であるこの状況において、不思議と落ち着き払った少女。彼女の姿には、見覚えがあった。

 

「…そうだ、確か旧リディアンの地下に非難していた、あの…」

「そうだよ!えと、あの時は、お世話になりました!」

 

 明るい声でお辞儀をされたので、つられて慎次もお辞儀で返す。そんな少女の傍に、母親が駆け寄って来た。

 

「こらっ、駄目じゃないの…勝手に何処かへ行ったら…!申し訳ございません、うちの子がご迷惑を――」

 

 少女を叱りつけたすぐに頭を下げようと慎次の方へ向く母親。そこで、彼女も相手が誰なのかを察した。

 

「貴方は…!」

「お久しぶりです。娘さん共々、お元気そうで何よりです」

 

 そう、彼女ら母娘はこの風鳴翼のマネージャーにしてタスクフォースの懐刀、緒川慎次と面識があった。かつてのルナアタック時、フィーネとの決戦の場となった旧リディアン女学院敷地…その校舎内シェルターで出会っていたのだ。

 この少女に至っては、遡ると立花響が初めてガングニールを身に纏った際に彼女に保護されていた…そんな奇縁を持つ少女だった。

 

「しかし驚きました。皆さんもこちらに越していたのですね」

「えぇ…。でも、またこんな事になるなんて…」

 

 薄暗いシェルターの天井を見上げて憂鬱な顔をする母親。今なお外で暴れている超獣を気にかけているのだろうと言うことはすぐに分かる。だが其処に、少女が明るい声で声をかけた。

 

「大丈夫だよお母さん!ウルトラマンさんが頑張ってるし、きっとあのカッコいいお姉ちゃんも頑張ってるよ!そうだよね、お兄さん!」

「…えぇ、勿論です」

 

 ”カッコいいお姉ちゃん”。それは彼女を助ける為にシンフォギアを纏った立花響のことだった。そして今、外でヤプールと戦いを繰り広げているウルトラマン…ガイアの変身者も、同じく立花響。

 彼女はそれを知らずとも、奇跡を纏う少女と光の巨人の勝利を信じ生きることを諦めない意志を小さな身体にもしっかりと息衝かせていた。

 影からとは言えその姿を近くで見てきた慎次も、それは自分の事のように嬉しく感じられた。だから自分も、何も出来ないと燻っている訳にもいかないのだ。

 

「それでは僕も、みんなの為に出来ることをやってきます。君はここで、お母さんたちと一緒に頑張ってる人達を応援してください。

  君たちが応援してくれてるってこと、お姉ちゃんたちにも伝えてきますから」

「うん、わかった!」

 

 少女と笑顔で約束を交わし、母親に会釈して走りだす慎次。言ってしまった手前だ、本当にそこらの車を使って特攻する以外ないかと思考を巡らせていきながら司令に報告の通信を入れる。

 

「司令、緒川です。そちらの状況は?」

『出来るだけ近海に寄せている。既にこっちの射程圏内だ』

「了解です。こっちからも、ぶつけられる物ぐらいはぶつけてみます!」

『分かった!死ぬなよ、緒川!』

「無論ですとも!」

 

 通信を終えて、走りながら周辺地図を確認する。この際使えそうなものならば何でもいい。仲間を…必死で頑張っている少女たちの手助けが出来るのであれば、それで。

 

 

 

 

 人の気が無くなり、スケールの違う戦闘によって多くの建物が破壊された市街地。

 Uキラーザウルスは、その触手でウルトラマンガイアとウルトラマンネクサスを捕まえたまま、何処か嗤うように顔を歪めていた。

 

『貴様らはこれで終わりだ。その光は全て、我がヤプールの手によって暗黒へと葬り去ってくれる!』

(…まだ…諦めるもんか…!)

(そうだ…。みんなも、まだ…!)

『無駄だと言っただろう。ゴルゴダ星の自爆により、他のウルトラマン達も爆炎の中に消え去った。そう、終わりなのだッ!』

 

 ヤプールから突き付けられる言葉に、次第に心がもたげていく響とマリア。胸の光が明滅を繰り返しているところからも、心身ともにその限界が近くなっていることは二人も理解っていた。

 抗い切れぬ現実の前に抵抗の力も幾許かに弱まり、失いかけたその時だった。

 

「二人とも諦めるんじゃないッ!!」

 

 二人の耳に届いたのは、彼女らの司令である風鳴弦十郎の怒號だった。そこに続くように、緒川慎次からも激励の声が届く。

 

「司令の言う通りです!翼さんは…みんなは必ず帰って来ます!だから、それまでは僕たちが手助けしますッ!」

 

 乗り捨てた車を突進させて、Uキラーザウルスの足元を狙う慎次。だがその程度では小石を当てられた程度。その場を押し潰すように踏み付け、巻き上がる瓦礫で慎次を吹き飛ばした。

 なんとか防御しながら受け身を取るものの、さすがの彼と言えども無傷とは言い難かったようだ。

 

(緒川さん、無茶です…!)

「大丈夫、元々無茶をするのは僕らの役割ですし。…それに、”カッコいいお姉ちゃん”の勝利を信じる声も聴いてしまいましたからね」

 

 優しく微笑みながら響に告げる慎次。その言葉だけで察することが出来た。あの娘が…響が初めてシンフォギアで守護った少女が、そこに居たのだと。あの時と変わらずに、自分を応援してくれているのだと…。

 

『フハハハハ…!人間が…貴様にあるのは”無茶”ではない!何も為せずに息絶える、”無駄”だけだッ!!』

「無駄だのなんだの…そんな戯言を聞いてやるほど、俺達は諦めが良くなくてなッ!!藤尭ァッ!!」

「出動用射出ポッド、全機発射ぁッ!!」

 

 近海に寄っていた移動本部。海面から出た僅かな部分から、飛行艇が弦十郎の叫びと共にUキラーザウルス目掛けて発射された。

 勿論中は無人であり、言うなればこれは爆発のしない鉄塊のようなモノだ。だがそれでも、ヤプールの気を引くには十分な代物だった。

 

『人間風情が!そのようなものでッ!!』

 

 Uキラーザウルスの甲高い咆哮と共に肩部の突起…無数の生体ミサイルを連続で発射した。それにより無残に撃ち落とされていく飛行艇。

 だがその爆炎の中から、それを突き破るように更なる数発の弾丸が突進してきた。

 

『時間差ッ!?』

「意趣晴らしというヤツだッ!俺達の出来る、最大限の全力をッ!!」

 

 それは移動本部に搭載されたもので、唯一武装と言っていい装備。主に緊急時にのみ使用される、広範囲障害物破壊用特殊貫通型誘導飛翔爆弾…バンカーバスターミサイル。装者出動用の射出ポッドを目眩ましに、たった一つにしてありったけの破壊力を解き放ったのだ。

 

『そんなもの、撃ち落として――』

 

 そう思った途端、Uキラーザウルスの右足元がほんの一瞬…時間にして1秒ほどだが動きを止めた。そのたった1秒がヤプールに困惑を生み、直後に足元が爆発。道路が沈み込んだ事でその巨体がバランスを崩してしまった。

 

「――人間風情が行う”無駄”を、甘く見ない事です…!」

 

 壊れた道路とバランスを崩したUキラーザウルスを眺め、慎次がそっと呟く。彼の手に握られていたのは、何処から押収したのかも知れぬハンドマシンガンだ。その銃口からは小さく煙が昇っており、発射後を表していた。

 バンカーバスターミサイルを迎撃しようとするUキラーザウルスに対し、その巨体の影にハンドマシンガンを斉射…翼にも伝授した忍術と呼ばれる超技術である拘束技の【影縫い】を放つことでほんの僅かながらも確実な隙を作りだしたのだ。

 またそれよりも前に、移動本部からの飛行艇吶喊攻撃と合わせる形で彼がUキラーザウルスの足元に爆弾を仕掛けていたのだ。廃車同然の中破した自動車や、タンクローリーと言う名の移動爆弾。

 そして飛行艇と同時に一発だけ、其処を狙い放たれていたバンカーバスターミサイルが動きを止めた右足元に突き刺さり、周囲の車を巻き添えにして大爆発を起こしたのである。

 そうして体勢を崩されたところへ吶喊される残りのバンカーバスターミサイル。その鋭い先端部分は、鋼鉄をも貫く威力を以て吸い込まれるようにUキラーザウルスの右眼から半身にかけて突き刺さり、爆裂した。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

『おのれ…おのれ人間ッ!!ここいら一帯、貴様ら諸共に全てを滅ぼしてくれるわぁッ!!!』

 

 激痛を思わせる叫び声を上げ、荒れ狂う中でガイアとネクサスを投げ放ったUキラーザウルス。激怒と共に全ての生体ミサイルを一斉に発射し、四本の触手も蠢きながら電撃を放ち街々を破壊し尽くしていく。

 

(師匠!緒川さん!)

(みんな、危ないッ!)

「司令!こっちに攻撃が!!」

「ブリッジ射出!緊急退避だッ!!」

 

 響とマリアの声が届いたのか、寸でのところで人員を乗せた主要部分だけを切り離し、推進部分だけを犠牲にして退避する移動本部。慎次もまた置いてあった車で走り抜け、爆発する街から外に向けて疾走していった。

 僅かな力で慎次の乗る車や点在しているシェルターの入口を、身体を張ってミサイルから守護るガイアとネクサス。電流と爆発が容赦なく二人を襲い、ダメージと衝撃により足を崩し膝を付く形になってしまった。

 

『…チッ、余計な手間をかけさせる。何処の世界でも、人間どもは無様な足掻きで噛み付いてくるから厄介なものだ。だが…!』

 

 忌々しげなヤプールの声と共に、またもノイズがUキラーザウルスの負傷部分に集合、肉体と化し更には失った生体ミサイルも補充させてしまう。

 弦十郎と慎次の…人間たちの人間としての抵抗すらも無にされ、響とマリアはただ口惜しさと共に拳を握り締める以外無かった。

 

(くぅっ…そぉ…!)

(…それでも、まだ…!)

『無駄だ無駄だァッ!!貴様らとも…光との因果も終わりにしてくれる!死ねィッ!ウルトラマンッ!!!』

 

 ヤプールの怒號と共に、Uキラーザウルスが補充された生体ミサイルの全てを二人のウルトラマンに向けて発射する。一つ一つが破壊と殺意の塊であり、今の二人はそれを防ぐことも躱すことも叶わない。

 それでも、この窮地においても二人の胸中には同じ想いが固められていた。

 シェルターに避難してそこで見ていた人たちも、現場から離れた場所で見ていた仲間や友人たちも、固めた想いは変わらなかった。

 

 ただ一つ…『――諦めない』、と。

 

 

 

 

 全弾着弾、そして爆発。その光景を見ていた誰もがウルトラマンの敗北を思っただろう。

 …しかし、光は其処にあった。

 人々の全てが…いや、相対するヤプールや、ガイアとネクサスでさえも、眼前の存在するモノがなんであるか理解出来なかった。

 ただ分かった事は、赤と青と銀に輝く、巨大な壁状物体。喩えるならば――

 

 

『盾ッ!!?』

 

 

 否。

 

 

『「―――…剣だッ!!!」』

 

 

 そう、帰ってきたのだ。

 轟く叫びを耳にして、遥か彼方の暗闇から。

 この地球を守護る為に…光の国からの戦士たちと、奇跡を纏い歌う戦姫たちが。

 


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