絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 09 【光呼び合い重なる手と手】 -B-

 …其処には、独りの男の背中があった。入って来た彼女たちに顔を向けることもせず、ただ自責と共に独白の声を上げた。

 

「……どうしても、俺は君たちと共に戦うことを選べなかった…。この力は、君たちを必ず傷付けるからだ…。

 信じる心を利用され、踏み躙られ…それでも戦わなくてはならない。…その苦痛を、背負わせたくないんだ…」

「…そういう事、だったんデスね…。星司おじさん」

「そうやって…ずっと私達を守ってくれてたんですね…。北斗さん」

 

 歩み寄りその男の右手を握る切歌。同じように左手を握る調。二人が其々見上げた顔は、紛れもなく北斗星司その人だった。

 

「…気付いて、いたのか…?」

「なんとなーく、デスけどね」

「出動した私と切ちゃんが危なくなった時、一番最初に来てくれたのはいつもウルトラマンエースだったもの」

「それに、本当に困った時はいつでも呼んでくれていいって言ってくれたのは星司おじさんデス」

「助けて欲しいと願った時は、どこからでも飛んで行く。そう言ってくれたのも、北斗さんだから」

 

 確証など何一つなかった。だが不思議なことに、調も切歌もそんな気がしていた。

 都合の良さだとか助けに来るタイミングだとか色々あるけど、それ以上にそう思える何かがあった。

 毎日のように顔を合わせ、話す時間は僅かだとしても、いつだってその無邪気な笑顔で心に寄り添っていてくれた北斗星司。

 ウルトラマンエースが現れた時に感じる輝きは、何処か星司のあの笑顔を思い出させてくれるものだったから。

 

「いつも元気で美味しいパンを食べさせてくれる星司おじさん…」

「時にはちゃんと叱ってくれて、いつだって親身になってくれる北斗さん…」

「アタシたち、そんな星司おじさんが大好きなのデスよ!だから――」

「大好きだから…北斗さんの事だって守護りたい。だから――」

「一緒に、戦わせてほしいんデス」「一緒に、戦いたいんです」

 

 自責の曇天に包まれている星を、太陽と月の笑顔が優しく照らしていく。二つの光の間に幻視した【黄昏】の輝きは、遠い情景に消えて尚も星を輝かせ続ける優しい笑顔に他ならなかった。

 その笑顔と共に在る決意。愛する者を守護りたいという、ただそれだけで固められた優しさ。今はもう遥か遠い日…自分と【彼女】が力を得て、何の為にヤプールと戦って来たのかを思い出した。

 あの時の想いは、今のこの子達と全く同じだ。ならばこそ、それに応えなければならない。

 

 何故ならば、それこそがウルトラマンエースなのだから。

 

 

 

 前を向き、握られた手を強く握り返す星司。その顔にもう、迷いは無かった。

 

「…調。…切歌。……ありがとう。…俺と一緒に、戦ってくれるか?」

「ハイッ!」

「もっちろんデェスッ!!」

 

 二人の決意に呼応するように、互いの指輪が光と共にその形を変える。アルファベットのAを象った特徴的な指輪…。ウルトラマンエースが自らと一体化した者に授ける、番いの光輪【ウルトラリング】。

 それは真の意味で、北斗星司が月読調と暁切歌を受け入れたことに相違無い。三人がそれを理解すると共に、星司の強い声が轟いた。

 

「よぉし…往くぞぉッ!!」

 

 まるで理解っていたかのように星司の前に立つ調と切歌。リングを付けていない互いの手を握り合い、肩が触れ合いそうな程に寄り添う。

 星司が両の手を前方で交差…それと同時に調の左手と切歌の右手が星司と同じように二人の間で交差する。

 そこから両の手を仰ぐ星司の動きに連動して、調は左へ、切歌は右へと伸ばし仰いだ。

 

「ウルトラッ!!」

「「タァーーッチッ!!!」」

 

 強い掛け声とともに握られた拳は、互いに光を呼び合い輝く二つのリングは、彼女たちの前で重なり合った。

 強烈な輝きと共に三人が光に溶け合い、強い力がエースの身体を駆け巡る。

 黄金の眼は光を取り戻し、カラータイマーも青い輝きに還る。勝ち誇るように身体の上に居るマーゴドンを力一杯に跳ね飛ばし、静かにウルトラマンエースが立ち上がり力強く構えた。

 

「ヌゥンッ!!」

『馬鹿な!貴様の何処に、そんな力が残っていたというのだ!!』

「…俺一人の力ではない。みんなを守護るために…俺をも守護るために願い祈ってくれた者達が、俺と共に在るッ!!」

『もうこれ以上はやらせない…!三人で一緒に、みんなを守護ってみせるッ!』

『大好きなみんなを傷付けるお前を、許しておくワケには行かないのデスッ!』

『「『覚悟しろ、ヤプールッ!!!』」』

 

 

 

 EPISODE09

【光呼び合い重なる手と手】

 

 

 

 

「やったか…二人とも!」

「ヘッ…やるようになったじゃんか、後輩…!」

『グゥッ…!来い、ヤプールロプス!!バム星人どもも、さっさとメカギラスを出撃させろ!!』

 

 一瞬気を緩めてしまった翼とクリス。其処に響いたヤプールの声と共に再起動したヤプールロプスが二人を跳ね飛ばし、その標的をウルトラマンエースに向ける。

 全身に力を込めると、貫かれた胸部からノイズが一気に湧き出し融合と共に新たな身体を形成。ウルトラマンと同じサイズにまで一気に巨大化した。

 そして此処とは別の安全な四次元空間で事の顛末を傍観していたバム星人も、ヤプールの恫喝に恐れたのかすぐに改修したメカギラスを出撃させた。

 たった数刻でその構図は三対一。いくらなんでも不利が過ぎる状態だ。

 

『ぜ、全力で啖呵を切ったのにそりゃないデスよ!』

『どうしよう、北斗さん…!』

「…二人とも、少しぐらい辛いのは我慢できるな?」

 

 星司の言葉に一瞬不安が過ってしまうものの、決意して起ったのだ。多少の苦など乗り越えなければならないのは分かっていた。

 

『『…大丈夫!』デェス!』

「よく言ったッ!トォウッ!!」

 

 その場から真っ直ぐ飛び上がり、磔にされている80とゼロの前で静止するエース。胸の前で拳を合わせ、二人に向けて手を伸ばして光を放った。僅かではあるが、自らの生命力を二人に分け与えたのだ。

 

「ムゥゥゥン…!」

『くっ…ううぅ…!力が…!』

『ぐうぅっ…みんなに…分けるってコト、デスね…!』

 

 エースの…調と切歌も合わさった命の光によって二人のカラータイマーは緩やかな赤色を取り戻し、その眼の輝きも蘇っていった。

 

「――…ぅ…エース、兄さん…」

「…さすがだぜ…。エース、先輩…!」

 

 80とゼロの声を確認したと同時に、今度はその顔を翼とクリスへと向けて眼から光を放った。以前死に瀕した調と切歌を癒し助けたメディカルレイだ。

 僅か数秒その光を浴びただけで、翼とクリスの体調は充分戦えるほどにまで回復した。

 

「凄い…これほどとは…!」

「万全を望むのは贅沢だけど、これなら全然ヤれるじゃねぇか…!」

 

 二人顔を見合わせ頷く。この状態、この瞬間。二人の後輩と我らのエースが作り出した、奇跡の一瞬にすべきことは唯一つだ。

 

「ゼロッ!!貴様、何を腑抜けているかッ!!」

「…だ、誰が腑抜けてる、だってぇ…!?」

「言い返せるだけの力があるのなら、応えてみせろッ!奇跡を起こした者達にッ!!」

「…あぁ、ったりめぇだ!やってやるぜッ!!来い、翼ァッ!!!」

 

 

「センセイ!…あいつらがやったんだ!センセイのおかげで!!」

「…あぁ、理解るよ。だが、この奇跡を掴んだのは私の力ではない…。彼女たちだけでもなく…クリス達も、一所懸命を尽くしたからだ…」

「…まだだよ。まだ、これからだ!アイツらの願い、祈り…先輩のアタシが、手助けしてやんなきゃ!だから、センセイッ!!」

「…そうだな。あぁ、そうだとも…!共に往こう、クリスッ!!」

 

 互いにその身と、その想いと適合した巨人に語る翼とクリス。取り出したるは、ウルトラゼロアイとブライトスティック。

 翼はウルトラゼロアイを顔に押し当て、クリスはブライトスティックを天に掲げスイッチを押し込んだ。

 

「はあぁッ!!」

「エイティッ!!」

 

 掛け声とともに二人は光となり、翼はゼロへ、クリスは80へと吸い込まれていく。そして赤いカラータイマーは、その色を美しい青へと回復した。

 

「――ぉ…おおおっらああぁッ!!!」

「――…ッ!シュワッ!!」

 

 漲る力で十字架ごとぶち壊すゼロと、巧みにその身を縛る鎖から抜けた80。エースと共に地上へ降り立ち、三人で顔を合わせた。

 

『翼先輩…!』

『クリスセンパイ!』

『ありがとう、二人とも。よくやってくれた』

『ホント、大金星だぜ』

 

 翼とクリスの称賛に、素直に顔を綻ばせる調と切歌。エースの力で彼女らに力を分け与えた為に疲れはあるが、共に戦うには十分だった。

 

「へっ…良いじゃねぇか、こういうの」

「あぁ…。だが、私達のすべき事はまだ終わってはいない」

「ここからが勝負だ…。必ず勝って、地球を守護るぞッ!!」

 

 エースの言葉に其々が強く返事をし、80とゼロが敵の方へ身体を向け構える。

 相対するは冷凍怪獣マーゴドン、異次元超兵ヤプールロプス、四次元ロボ獣メカギラス。蘇ったウルトラ戦士を倒すべく…この戦いを終わらせ地球へ戻るべく、吹雪吹き荒れるゴルゴダ星にて三対三の戦いが始まった。

 ゼロは自らを模したヤプールロプス、80はメカギラス、そしてエースはマーゴドン。それぞれが一斉に組み合い、格闘戦を仕掛けていく。

 攻勢はウルトラマン達に傾いているように見えたが、三人それぞれは僅かな体力を分け合ったに過ぎない。地形や状況としては未だ圧倒的に不利な状態なのは間違いなく、すぐに跳ね飛ばされてしまった。

 

「だあぁクッソァ!」

「まだ、足りないのか…!」

「弱音を吐くな!再起したこのチャンス、逃してはならん!」

 

 力を振り絞り立ち上がる三人。だが戦えるようになっただけで、状況はさほど変わらない…それは共に一体化している装者たちにとっても理解しているところだった。

 

『動けるだけマシかもしれねぇが、良いように弄られるってのもガラじゃあねぇよなぁ…!』

『響さんも言ってました…。出来ることを、精一杯やろうって…。だから、私達も…!』

『デスね…!せっかくこうやってみんなで戦えるんデス…。アタシたちが精一杯出来る事…!』

『……それはやはり、歌うことしか有り得ぬだろうな…!』

 

 意志を固める翼から、そのシンフォギアである天羽々斬から、彼女の魂に応えるように音楽を流し始めた。

 それはこの場に居る装者たちにとって、何処か想い入れ深い曲だった。

 

『翼センパイ、この曲って…』

『重奏により引き出される力は、我らは皆知るところだ。なれば我ら四人…四重奏として奏で歌えば、この場を覆すことも出来よう…!』

『それで、この歌を…』

『あぁ。…よく覚えているとも。月読、暁…二人が初めて私達の前で、ありのままの想いで歌った曲なのだからな』

 

 翼の想いが選んだ曲に、調と切歌が自然と笑顔になっていった。まるでそれは、悲痛の中でも諦めずに願いと祈りを込めて叫んだ二人を唄ったようにも連想される。

 

『…私もこの曲を歌うのは久方ぶりだ。雪音、かつての片翼の代わり、務めてくれるな?』

『…ハンッ、ただの代打と思ってるようなら、先輩を追い越して飛んでっちまうぞ?』

『フッ、よく言った!』

 

 翼に引かれ、他の装者たちからも同じ曲が流れ始めた。それはかつて…風鳴翼がツヴァイウィングとして活動していた時に出した一曲。

 そして奇しくも、月読調と暁切歌が翼やクリス達の前で歌った一曲…【ORBITAL BEAT】。

 かつてと違うのは、天羽奏のパートをクリスが担当し、調と切歌も翼とクリスに合わせるように重ね歌っていく。

 四重奏からなるフォニックゲインの高まりは其々が一体化しているウルトラマンの力へと転化され、構える姿も更に力がこもっていた。

 

「――ヘヘッ…スゲェもんだな、歌ってヤツはよ!」

『何故だ…この凍て付く闇の世界で、それほどまでの力を、どうやって…!』

「言ったはずだ、ヤプール。我々は、独りで戦っているのではない」

「共に守護り合う者達が居る限り…俺達は、決して負けはしないッ!」

 

 再度突進し組み合う三者。その力は間違いなく、先程よりも高く強く燃えていた。

 

『そのようなもの…!奪い取れ、マーゴドン!!』

 

 ヤプールの声と共にマーゴドンがウルトラマン達の熱を奪おうと冷気を放出する。だが近くで戦っているゼロや80は勿論、直接組み合っているエースですらそれを無効化していた。

 

『歌は、アタシたちの胸の内からこみ上げて来るものなんデスッ!』

『それを失ったりすることなど、有り得ないッ!』

 

 歌に合わせてエースの大振りな拳の一撃がマーゴドンの胸に直撃、大きく後ずらせる。これまでとは違う、確実な一撃となっていた。

 その隣では、80もメカギラスに対し素早い動きで翻弄しながらの格闘とクリスとの一体化で強化されたウルトラアローショットで絶え間なく攻め立てている。

 連続して放たれる赤光の鏃がメカギラスに突き刺さり、爆発を起こしていく。ダメージにより生じた隙を突いて頭を捕まえ、高速で回転飛行した。

 

「ヤプールの技術力で強化されたようだが、私達とて過去のままだと思うな!」

 

 頸部の360度回転を可能とする機構を持つメカギラスだが、それも所詮制限のある機械的な動きに過ぎない。抵抗に固まるそのままで無理な回転をかけることで、頸部のパーツが損壊。鈍い音を立ててメカギラスから煙が昇ってきたところで、急制動から一気に投げ付けた。

 巨岩に投げ叩き付けられ、その電子回路が警告信号を出したのかメカギラスの目が混乱するように点滅していった。

 

『キメようぜ、センセイッ!』

「あぁッ!」

 

 倒れ悶えるメカギラスに向かって、80はいつもの必殺の構えを作る。そして放たれたBILLION SUCCIUMで、メカギラスの鋼鉄の身体を木っ端微塵に粉砕した。

 

 

 

 80と同時にゼロも、ヤプールロプスを相手にゼロツインソードで多様な相手の攻撃を防ぎ反撃していった。

 

「モノマネ野郎のモノマネとは、芸が無さ過ぎんだよッ!!」

『真の芸達者とは、芸の中で更なる一芸に目覚めるものだと知るがいいッ!!』

 

 ツインソードの両刃一刀流からそれを分離しての二刀流で攻めながら、蹴り飛ばした直後に両手の刃を放り投げる。ブーメランのように飛び交う刃を操りながらエメリウムスラッシュを放つゼロ。光線は回転する刃に反射され、まるで背後から薙ぎ払うかのように撃ち込まれゴルゴダ星の大地を爆ぜさせていった。

 その合間を縫ってヤプールロプスに向かってゼロが突進、帰って来た両刃を通常のゼロスラッガーに変形させ、突進の速度を乗せたままにヤプールロプスを斬り付ける。そのまま地面に手を付け、勢いのまま逆立ちの姿勢をとった。

 脚を大きく開き、そのまま回転し蹴撃を浴びせるゼロ。それはノイズ戦など多対一の局面時に翼が多く使う技の一つである逆羅刹の形ではあるが、ゼロの回転は更に速度を増していき、やがて竜巻を発生させるに至った。

 その竜巻と共にヤプールロプスを蹴り上げ、遥か上空へと吹き飛ばした。この一連の技、名付けて、【羅刹零旋風】。

 

「コイツでッ!」

『止めだッ!』

 

 吹き飛ばしたヤプールロプスに目標を定め、ゼロスラッガーをカラータイマーの左右に装着する。そしてエネルギーを其処に集中させ、一気に解き放った。

 

「『ゼロツインシュートォッ!!!』」

 

 胸部から放たれたゼロツインシュートが無防備なヤプールロプスに直撃。そのまま耐えることも敵わず、爆裂した。

 

 

 

 そしてマーゴドンと組み合うウルトラマンエース。フラッシュハンドによるチョップ攻撃で果敢に攻めるが、ここでも装者と一体化した影響が見えていた。

 右手に宿るは切歌のフォニックゲイン。纏うエネルギーは翠色となり、手刀はまるで鎌のように敵に食い込み、切り落とす。

 そして左手に宿るは調のフォニックゲイン。紅のエネルギーはまるで鋸のように回転し、敵の肉体を抉るように伐り付ける。

 正しく一人の身体に二つの刃を携えたエースの姿は、彼女たちの持つシンフォギアの由来たる戦神を連想させられた。

 魂の歌が尽きぬ炎となり、マーゴドンの熱吸収能力を凌駕。調と切歌、そしてエース自身も共鳴していき、絶えぬ炎はマーゴドンを圧倒していく。

 牙を叩き切られ、盛る熱エネルギーは白い体毛を焼き焦がし、ゼロと80をも苦しめてきたマーゴドンは完全に追い詰められていた。

 なんとか反撃にと冷気を噴出するが、すぐさま展開したウルトラネオバリアーはその攻撃を許さない。そして治まったところでエースのドロップキックがマーゴドンに直撃。大きく吹き飛ばした。

 

「これで決めるぞ!調ッ!切歌ッ!」

『ハイッ!』

『了解デェスッ!』

 

 両手を天へ仰ぎ、二人其々のフォニックゲインをエースの頭部、ウルトラホールに収束させる。そして赤と緑の二色が混ざり輝く光輪が、エースの両手で唸りを上げて超光速回転を始めていた。

 

『これで、伐り刻むッ!!』『切り刻んで、やるデェェスッ!!』

「トォゥアァァァァッ!!!」

 

 勢いよく右手から真っ直ぐ撃ち放たれた光輪と、外へ薙ぎ払うように放たれた左手の光輪。

 前者は回転と共に赤い鋸状のまま五つに分裂。エースの意志に従うかのように変則的な動きを見せ、マーゴドンの四肢と首に入り込み、動きを封じるかのようにその場で回転する。

 そして後から放ったもう一つの光輪は万物を切り裂く巨大なX字を描く緑光の刃へと形を変え、ただ両断すると言わんばかりの勢いを以てマーゴドンに向かって行った。

 切断技を最も得意とするウルトラマンエースと、戦神ザババの携える二つの刃の聖遺物…それを共鳴し合った装者である月読調と暁切歌。完璧な咬み合わせにより実現した文字通りの必殺技…【鏖獄光刃(おうごくこうじん) ギRぉ血nnエクLィプssSS(ギロチンエクリプス)】である。

 緑の鎌刃がマーゴドンの胴体を貫通した際に甲高い音が連続で鳴り渡り、赤の鋸刃が四肢と首を捻じ伐るように繋がりを断った。

 見るも無残なまでに解体されたマーゴドンは、そのまま爆発を以て灰燼と帰するのだった。

 

 

 

 

 ヤプールロプス、メカギラス、マーゴドン。三体の敵の爆発は奇しくも時を同じくした。四人の装者が其々光と共に、その胸に響き奏でるままに強く戦い、そしてこの闇を越えて――。

 勝利の歌を唄い切った獄星に立っていたのは、三人のウルトラ戦士たちだった。

 

「どうだヤプール!テメェの仕掛けた罠も策も、全部残らず叩き潰してやったぜッ!!」

「さぁどうする…。姿を見せて戦うか、尻尾を巻いて此処から逃げるかッ!」

 

 ゼロとエースの言葉に、ヤプールは一言も反応しなかった。ただ一時の静寂の後、暗黒の中から乾いた嗤い声が聞こえてきた。

 

『――ク……クハハハハ……!…忌まわしい…。忌まわしいぞ、憎きウルトラマン…!

 どこまでも我の邪魔をし、打ち砕き…今もなお慮外にて異様の者まで現れるなどと…!!』

 

 ヤプールのくぐもった怨み言を聞いていると、何処か危険な空気が流れているのが分かる。このままで終わるはずがない…そんな直感が誰の脳裏にも走っていた。

 

『…ただ単に絶望してくれてりゃ、楽なんだろうけどなぁ…!』

「そうではなさそうだ…。ゴルゴダ星のマイナスエネルギーが、常軌を逸した上がり方をしている…!」

『それってつまり、どういう事なんデスか!?』

「知っての通り、ヤプールはマイナスエネルギーを餌にしている…。だが…ヤツの悪魔たる所以は、自分自身や生み出した超獣の怨念までも喰らって力に変えることが出来ることなんだ…!」

『それじゃあ、倒してもキリが無いってことじゃ…!』

「蘇るには相応の時間と高いマイナスエネルギーが要るから、無駄にはならねぇ…。だが問題は、俺達はまだヤプールの本体を倒しちゃいねぇって事だ…!」

『…つまりヤツは今、自らの配下と自身の怨嗟をその身で循環させていると言うことか…!』

『そうだ、その通りだともッ!ウルトラ戦士、シンフォギア装者…貴様らへの怒りと恨みで、我が計画は最終段階に入ったッ!!フハハハハハッ!!!』

 

 高笑いと共にその身を暗黒の球体と化し、ゴルゴダ星に墜下するヤプール。星の深き奥底…中央のコア部分に辿り着いた時、ゴルゴダ星が大きく揺れ鳴動した。

 

『こっ、これは!?』

「ヤプールの野郎、何しやがったッ!!」

『ククク…まだ分からんのか。このゴルゴダ星が…そのコアこそが、地球を蹂躙し恐怖と絶望に染める最強の手段だったのだッ!!

 貴様らの純粋なエネルギーも、感情から生まれた僅かなマイナスエネルギーでさえも、この星は全て吸い上げていたのだ…。無論、この場で貴様らを始末できれば言う事は無かったが、結果的には十分な力が得られた!』

「クッ…どこまで周到に…!」

『でもまだ、今なら――』

『無駄だッ!コアは孵化し、そのまま空間を破り地球へ往く!そしてその際にゴルゴダ星は爆発し、貴様らはみな粉微塵になるのだッ!!貴様らには最早、如何することも出来んわぁッ!!』

 

 ヤプールの声と共に激しく鳴動するゴルゴダ星。甲高い魔獣の如く啼き声が響き、その場の危機を現していた。

 

『これってとっても、ヤバいヤツなんじゃないデスか!?』

『北斗さん!!』

「チィッ…!みんな、脱出だ!!」

 

 すぐさま飛び上がる三人だったが、僅かに遅れて起こった超爆発がウルトラマン達を飲み込んでいった。

 それを一瞥し、ヤプールと共にゴルゴダ星のコアから生まれたモノが、空間をこじ開けて赤黒いヤプールの異次元へと入り込む…。

 

 

 

 

 

 そして、舞台は地球へと収束する。

 暗雲に包まれた市街地。立花響ことウルトラマンガイアと、マリア・カデンツァヴナ・イヴことウルトラマンネクサスが天を見上げ構えていた。

 鳴り響いた巨大な咆哮は、それだけで多くのマイナスエネルギーに満ち満ちていることが分かる。

 それと共に、ヤプールの声もこの場に響いてきた。

 

『…忌まわしきウルトラマン…。ウルトラ兄弟でなき者でさえも、そうまでして我が前に立ちはだかるか…!』

(ヤプール…!)

『だが手遅れだ。ゴルゴダ星の連中は最早死んだも同然!あとは貴様らを八つ裂きにし、地球を絶望で染め上げてくれるわァッ!!』

 

 ヤプールの叫びと共に暗雲の渦が大きく広がり、今までの超獣出現時よりも遥かに大きな穴となっていた。

 赤黒く拡がるヤプールの異次元空間。そこから四本の、甲殻を纏った触手が伸びて黒雲に突き刺さる。それに次いで黄金の巨大な爪が、同様に現れ空間を掴んだ。まるで掴んだ空間を壁のように、そこから自らの身体を押し開きながら抜けるように力を込める。

 

(…とんでもないのが、来るわね…)

(マリアさん、みんながやられたなんて…)

(狼狽えるな!私達が今出来るのは、みんなの無事を信じてアイツの侵攻を止める事だけよ…ッ!)

 

 バリバリという空間が裂ける音を聞きながら響に強い声をかけるマリア。心配しないワケがない。だが、眼前の脅威に対して今戦えるのは自分たちだけなのだ。

 裂けた空から覗いた顔は、圧倒的な強さを体現したかのような…何処か凛々しさすら覚えてしまう顔付きだった。腕と同じく刺々しい黄金の顔に青く輝く双眸。顔の中央には細長い紅蓮の宝玉が埋め込まれ、脈動の如くゆっくりと明滅していた。

 やがて空間が轟音と共に引き裂かれ、そこから巨大な超獣が姿を現した。

 

 

「推定体長…100m!?これまで出現したどの超獣よりも巨大です!!」

「なんて、サイズだ…!」

『これが!我がヤプールが生み出した、ウルトラマンどもを滅ぼし世界を恐怖と絶望に塗り替える力ッ!!究極超獣Uキラーザウルスだッ!!!』

 

 巨体から放たれる、空気を劈くが如く強い力を持った咆哮。その衝撃波だけで後ろに押されてしまうほどの強烈なプレッシャーを感じてしまう。

 だが、それに負けてなどいられなかった。マリアの言った通り、今この世界を守護れるのは此処に立っている二人のウルトラマン…ガイアとネクサスだけなのだから。

 

(響、行くわよ!)

(分かりました、マリアさんッ!)

 

 人を、世界を守護るという意志を固めてUキラーザウルスに飛び掛かる二人のウルトラマン。

 その意識の片隅で、仲間達の無事と帰還を心待ちにしているのも確かだった…。

 

 

 

 EPISODE09 end...


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