絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 07 【響く大地に輝き立つ花】 -B-

 

 澱んだ意識の中、響が最後に耳にしたのは調が自分の名を呼んだ声。そこでようやく、自分が倒れてしまったことに気が付いた。

 

(…私、駄目だったんだ…。

 ギリギリまで頑張って…ギリギリまで、踏ん張って…。それでも、どうにもならなかった…。

 …これじゃあみんなに顔向けできないや…。師匠はちゃんと無理するなって言ってくれたのに…。未来だって、私の無茶をいっつも心配してくれてるのに…)

 

 思い返すは多くの人がかけてくれた言葉。自分の精一杯を測り違えたのか…自分には本当に綺麗事を貫く力があったのか…。

 思考の中で出て来た答えはNO。自分は小さな奇跡を纏う事を許されただけの人間に過ぎず、人智を超えた超人などではない。

 しかしそれならば、その超人の力があれば綺麗事を為し遂げることが出来たのだろうか。怯え逃げ惑う人々に手を伸ばし、悪しき手により染められた命を救い、理不尽に傷付く地球を守護ることが…。

 …きっとそれも十全ではない。だが、この手が繋いだ仲間がいる。友達がいる。みんなとならば、きっと守護れる。だから…。

 

 

 

『――力が、欲しい?』

 

 

 聞こえてきた声は、どこか懐かしかった。その声を覚えている。間違えようがない。何も分からなかった自分に、たった一つ大切なことを教えてくれた人なのだから。

 

(――……了子、さん…?)

 

 黄金の髪と瞳。荘厳にして遥か古風な巫女服を着た女性が、見下ろすように揺らぎ現れた。終わりの名を持つ永遠の巫女フィーネ…そして立花響にとって忘れられぬ存在、櫻井了子だった。

 

『…久しぶりね、響ちゃん。まさかこんな形でまた会っちゃうなんて、思いも寄らなかったわ』

(なんで…どうして…。…まさか、私が次の…?)

『んもぅ、そんなハズないじゃないの。…色々あってね、私はもう世界を輪廻することは無くなったの。”フィーネの魂”は、この地球に還ったのよ』

(地球、に…)

『そう。でも今、この地球が酷く傷付けられる事態が発生したわ。それはもう、分かってるわよね』

(ヤプール…)

『その通り。そして他の世界からウルトラマンが現れた…。でも、来てくれたウルトラマン達だけじゃ守り切れない事態にも拡がりつつあるわ。…やがて近いうちに、地球を覆い砕く災厄となる。

 そこで地球は、自らの命の一部を力に変えた。幸いお手本は、他所から来てくれてたしね』

 

 了子の背後に、巨大な赤い光がおぼろげな輪郭を作り出していた。その形を見間違える事など無い。それは正しく…

 

(…ウルトラ、マン…?)

 

 響の言葉に笑顔で応える了子。揺らぐままに響の隣に立ち、彼女に告げた。

 

『…これは祝福かも知れないし、呪詛かも知れない。ただ一つ確実なことは、響ちゃん。貴方が地球に選ばれたってこと』

(私が…なんで…?)

 

 虚ろな声ではあったが、響の返答は強い困惑と否定に満ち溢れていた。

 

(私は…そんな、選ばれるような立派な人間じゃないです…。強くもないし…みんなの力が無きゃ、誰かを守ることも出来やしない…。そんな資格、私には――)

『でも、貴方は優しいわ』

(…自分勝手な優しさで未来を…親友を追い詰め傷付けたこともありました…。優しさを忘れて、自分のお父さんを信じられなくなったことだってありました…。だから、駄目なんです…。私なんかが、そんな力を持ったら…。

 そういうのはもっと…強くて優しくて、みんなを守ってくれる、ヒーローみたいな人に…)

『響ちゃんは、ヒーローじゃないの?強くて、優しくて、みんなを守る人…。貴方のガングニールは、胸の歌は、そう在りたいが為じゃないの?』

 

 言葉が止まった。自分の理想と決意が生み出す胸の歌。それは紛うこと無き、響自身が思い描いた英雄像だ。

 反論のしようなど無かった。どれだけ自分は英雄でないと、心底より自身が英雄としての器足らざるかを唄おうと、何処かで英雄を理想として求めていたのだ。自分自身が、なりたかった姿を。

 それを自覚した瞬間、虚ろな眼から涙が零れ落ちた。

 

(…了子さん…)

『なぁに?』

(……私は、英雄なんかじゃありません。なれっこないです。

 …だけど、まもりたい…。家族を…友達を…私の手が届くみんなを…。まもるために、強くなりたい…。もっと…もっと…!)

 

 零れる涙が、小さな輝きに変わる。了子はただ、優しく励ますように言葉をかけた。

 

『それでいいのよ。誰かの為に強くなる…。何があっても、歯を食いしばりながら思い切り守り抜く。何十回何百回転んでも、何度でも立ち上がる。

 【英雄の資格】なんて、たったそれだけでいいの。知ってるでしょう、傷だらけで泥塗れになりながらでも立ち上がり、世界を守り抜くために人の歌を紡いだ…弱くて脆い、ただ優しいだけの英雄の姿を』

 

 響の脳裏に浮かんだのは、世界で歌い戦っているマリアの姿だった。魔法少女事変の折、戦いへの嫌悪から歌えなくなってしまった時に彼女が言ってくれた言葉…叱りつけてくれた、想いを。

 

(…自分の力から、目を背けるな…)

『そう。シンフォギアだけじゃない、誰かを助けたいと奔る優しさも、行動力も、意志も…全部が響ちゃんの力。誰かを守護る為に手を差し伸べ、繋ぎ束ねる…そんな力で星の歌にまでアクセスした響ちゃんだから、【私達】は貴方を選んだの』

 

 赤い巨人の姿は、やがて小さな一粒の光へと収束した。その光は了子の掌の上で、優しく光り輝いていた。

 

『もう一度問うわ。…響ちゃん、力が欲しい?響ちゃんが守護りたいと思っている多くを守護れるだけの強さを』

(……私、欲しいです。みんなを…私が守護りたい全てを守護れるだけの、強さを…!)

 

『…そんなボロボロの身体で、まだ歌える?』

(…はい…!)

 

『頑張れる?』

(…はい!!)

 

『――戦える?』

「はいッ!!!」

 

 

 本当の”声”が出せたと同時に、響のその眼に輝きが舞い戻って来た。そうだ、何度も見てきたのは、この真っ直ぐな輝きなのだ。だからこの妄執も、僅かにでも想いを正すことが出来たのだから。

 いつかの日のように、嬉しそうな笑顔で了子は響にある物を手渡した。やや三角形に似たカタチの中央に、大きな五角形の結晶が埋め込まれている。拳鍔に似た丸い持ち手を握ると、まるでガングニールを纏った時のような親和性が掌に感じられた。

 そう思った矢先に、了子の掌に浮いていた赤い光が響の手に握られた装具中央の結晶部分に吸い込まれていった。

 

「了子さん、これは…?」

『【光解き放ちしもの<Esplender>】。響ちゃんがこの力を使うのに、必要になるものよ』

「エス、プレンダー…」

 

 了子から与えられた装具…エスプレンダーを握り締めながらその名を反芻する。少し間をおいて、了子が指で響の胸を優しく叩いた。其処は立花響にとって全ての始まり…天羽奏のガングニールの破片が貫いた、響の運命を一変させた忘れれ得ぬ傷痕。響に唯一遺された、櫻井了子との思い出を残している場所。

 まるで初めて出会った時のように…今生の別れをした時のように、そっと指を当てながら、了子は笑顔で響に言った。

 

『あと私が言ってあげられることは一つだけ。――胸の歌を、信じなさい』

 

 その言葉に何度希望を貰っただろうか。父から貰った負けない為の言葉ではない。何よりも強い、自分を信じる為の言葉だ。

 渡し伝えたことで役目を終えたのか、了子の身体が揺らぎ消え始めてきた。

 

「了子さん!?」

『帰る時間よ、響ちゃん。…貴方が望んだヒーローを、貴方自身がやっちゃう為にね』

「…やっぱり私、了子さんの言ってる事、全然分かりません。でも、私にやれる事、やりたい事…精一杯やってきます」

 

 響のその言葉を聞いて、了子は満足げな笑顔で微笑み返した。だんだんと彼女の存在が掠れていく中、消え往く前に響が再度声をかけた。

 

「あ…あの、その…最後に一つだけ、良いですか?」

『んもぅ、一つだけよ?』

「……さっき了子さん、英雄の喩えにマリアさんを出したじゃないですか。だったらなんで、この力をマリアさんには…」

『簡単よ。彼女は、”既に選ばれていた”。この地球より、もっとずっと…遥か遠く大きく……まるで、あのお方のような存在に――』

 

 それを最後に、全てが流れるように消え去って行った。最後に聞いた了子の声は、何処か羨望と嫉妬の混じったような声だった。

 

 

 

 

 意識が身体に戻った瞬間、響は眼前の光景が理解出来ずにいた。

 眼に映っていたのは、ゴモラⅡの巨大な足。それと自分の身体の間に広がった、薄くとも強固な万物を遮る輝くヘキサゴンウォール。

 思い出した。それはいつかの時、フィーネの力を行使した櫻井了子が使っていたものだと。

 それと同時に、右手に握られていた装具にも気付いた。エスプレンダー…【光解き放ちしもの】。

 やがて効力が切れたのか、爆発するように光の壁が破れる。その反動でゴモラⅡは数歩ばかり後退りした。きっとこれは了子のおかげだと、そう思いながら僅かに残された力を振り絞って立ち上がる。

 

 多大なダメージに全身が傷んでいる。その身を鎧うシンフォギアも、外殻部分は既に消失しインナーのみとなっている。だがそれ以上に、響の心は穏やかながらも強く脈打っていた。

 フラフラになりながら、それでも立ち上がった。相対するゴモラⅡがまたも此方に狙いを定めている。万策尽きて倒れたはずなのに、この手には今希望が握られていた。それだけで、十分だった。

 

(…ありがとうございます、了子さん。私…行きますッ!)

 

 エスプレンダーを握った右手を左の肩の前へやる。

 高鳴るは鼓動…立花響の、ガングニールの、この地球の。

 胸の歌が教えてくれる。光を解き放つ、ただの一節にも満たない聖句を。

 残されたすべての力を込めて、貫く信念を込めて…突き出す右手と共に、その一言を解き放った。

 

 

「 ガぁイアアアああぁぁぁぁッッ!!!! 」

 

 

 立ち昇り開く真紅の輝き。一瞬ではあるが、その輝きはまるで花が開いたようにも見えた。

 その輝きが収束した瞬間、天から赤き巨人が舞い降りてきた。

 轟音を響かせ、砂塵を巻き上げ、まるで爆裂するかのように現れたその威容…。

 それは紛れもなく、ウルトラマンだった。

 

 

 

 EPISODE07

【響く大地に輝き立つ花】

 

 

 

「し、市街地にウルトラマン出現…!!ゼロ、エース、80…そのどれとも一致しませんが、あの容姿は間違いなく…」

「新しい、ウルトラマンだと…ッ!?」

 

 誰もが予想だにしなかった事態に驚きと困惑が広がっている。その中で一人、エックスが80とゼロより齎されたデータを検索、その結果をモニターの一部に表示させた。

 

『…ゼロから少し聞いたことがあった。ゼロ達の居た世界とも、私の居た世界とも違う世界に存在するウルトラマンの事を…。

 ゼロからのデータに照らし合わせると、あのウルトラマンと合致するものがあった。彼の名はウルトラマンガイア…。地球が生み出した、光の巨人だ』

「地球が生んだ、ウルトラマン…ガイア…」

 

 その名を確かめたすぐ、あおいがガイアから発せられるすべてのデータを整理、照合をさせる。結果はすぐに、装者のバイタルとユナイト数値として表示された。

 

「…出ました!あの赤いウルトラマン…ウルトラマンガイアは、響ちゃんです!」

「……そうか、響くんか…」

 

 呟く弦十郎の顔は、なにかを察したのか少しばかり険しさを残していた。

 

 

 

 光を解き放ちウルトラマンガイアとして顕現した響。ゴモラⅡを前にし、自らの身体の変化を理解していく。

 漲り溢れる力。今までの自分とは何十倍も違う感覚に、少しばかりの戸惑いがあった。

 

(…これが地球の…ウルトラマンの力…)

 

 軽く握り締めただけで感じる恐ろしいまでの力。扱い方を違えればどんなモノでも壊せる力であると直感する。

 そんな超常的な力に、響は少し戦慄した。しかし、恐れを抱くからこそ分かる事もある。

 

(…了子さんは、私を信じてこの力をくれたんだ。その想いに応える為にも、私はこの力でみんなを守護ってみせる…!!)

 

 決意を固め構える響…いや、ウルトラマンガイア。その戦意を目の当たりにしたからか、反応するように突進するゴモラⅡ。市街地の真ん中で、二つの巨体が力強く組み合った。

 身体を押し付け合い鍔迫り合いをするかのように力比べをする両者。ジリジリとしたそれに勝利し跳ね飛ばしたのは、ガイアだった。

 

「デャアァッ!!」

 

 掛け声とともに握り固めた拳をゴモラⅡの顔面に打ち付けるガイア。そこから流れるように胸部へ叩き込まれる双拳戟、側頭部への上段回し蹴り、一足飛びからの正拳突き。放たれる攻撃のどれもが、響の愛用する風鳴弦十郎直伝のトンデモ格闘術なのは彼女を知る者ならば一目で見て分かるものだ。

 シェルターの入口前で緒川と合流し様子を見ていた調も、それは理解できた。

 

「響さん…」

 

 調が分かっていることはあの赤いウルトラマンが立花響であろうとこと、そしてその力を手に入れようとも彼女は自ら決めたとおりにゴモラⅡをも助ける為に戦っているであろうことだ。

 その決意を込めた…ある意味では普段通りの響の攻撃がただ単純に巨大化しただけなのだが、それ故に一撃の威力を推し量るのも容易。ただの数撃で、ゴモラⅡは目に見えてたじろぎ後退する。

 このまま倒されるワケにはいかないと思ったのか、距離を取ったゴモラⅡが両手を上げてミサイルを発射。ガイアに射撃戦を仕掛けてきた。

 

(こんなもの、効くかァッ!!)

 

 身体に気合を入れるように引き締め、強固な肉体でゴモラⅡが放ったミサイルの全てを受け止める。

 直後に角から数発放たれた三日月型の光弾も全て天空へ弾き飛ばし、真っ直ぐ放たれた破壊光線もガイアの広げた手から発生したプリズム状の光壁、【ウルトラバリヤー】ですべて遮った。

 それに慄くゴモラⅡに向かって一気に駆け寄り、大地を蹴って跳び上がった。

 

「ダアアァァッ!!」

 

 強く力を込めた手刀を、ゴモラⅡの左前腕…ミサイル発射口に向けて振り下ろした。小さな爆発と火花を上げてその機能が奪われるミサイル発射口。すぐに右に狙いを定め、今度は鉄拳を叩き込んで左同様に右の発射口を殴り潰す。

 思わず上がったゴモラⅡの叫び声は痛みによるものだろうか…。それを少しでも受け止める為か、ガイアはゴモラⅡの肩を掴み暴れないように力を入れて抑えた。

 

(ごめん…。でも、これ以上暴れないで…!)

 

 願うように想いを込めて、一度突き飛ばし距離を取るガイア。そこから両腕を天へ伸ばし、そこから外へ大きく広げその力を溜め込む。そして胸の前で両腕を交差させ、その腕から虹色の優しい光線を発射した。地球の輝きが齎す、浴びせた者に安寧を与え獰猛な心を落ち着かせる【ガイアヒーリング】だ。

 その輝きを浴び、やがてゴモラⅡはゆっくりと腕の力を抜き下に下ろした。元来は地球の古代生物だったからか、ガイアヒーリングに安らぎを覚えたのだろう。今はただゆっくりと、見慣れぬ周囲の世界を見回していた。

 そんなゴモラⅡの元に歩み寄るガイア。もう大丈夫だと言わんばかりに、優しくその肩を叩いた。

 

(良かった…。これでもう…)

『何をしているゴモラⅡ!!貴様の使命は、この地球の蹂躙だと言ったはずだッ!!』

 

 突如空から重苦の如く響き渡るヤプールの声。その声を聞き、思わずガイアも戦闘態勢を取った。

 

(やめてッ!なんで、そんな事を…!!)

『新たなるウルトラマン…。貴様の出現は我の予想に無かったことだ。だが、貴様のような怪獣まで守ろうとする腑抜けた輩には何もさせんわぁ!!』

 

 声と同時に空から降り注がれる黒いエネルギーの奔流。ヤプールから送られた、怨念のマイナスエネルギーだ。

 まるで泥濘のような闇のエネルギーをその身に受け、再度凶暴な鳴き声を上げるゴモラⅡ。獰猛に戻った目をガイアに向け、そのまま再生された腕のミサイルを発射した。

 

「グアアァァッ!!」

 

 奇襲攻撃をもろに喰らい、吹き飛び倒れ込むガイア。なんとか立ち上がろうとしたところに向かって、ゴモラⅡがその強靭な尻尾で横薙ぎに叩き付けた。

 再度吹き飛び倒れるガイア。其処へ角からの三日月光弾と破壊光線を連続で発射。ガイアを追い詰めていく。

 

(ぐうぅ…!もう一度、あの技を使って…!)

『姑息なことを考えているようだが、そうはさせんぞ!』

 

 ヤプールの声と共に晴天の空が暗雲に包まれ、太陽の光が遮断される。光が弱くなった瞬間、暗雲からポツポツと雨が降り出し、やがて視界を覆うほどの強さにまでの雨量となった。

 

 

 突如として起こった局所的な雨。それが齎す異変に気付いたのも指令室だった。画面に映しているモニターが、突如雑音が混じりまともに映し出せなくなっていたのだ。

 

「緒川ァ!何が起こっている!!」

『雨……!突ぜ……が!……!!』

「チィッ…通信もままならないのかよッ!!エルフナインくん!!」

「成分の解析が出ました!市街地に降り注いでいる雨には特殊な放射能が含まれていて、それが通信機器の妨げになっています!…また、この雨にはアンチリンカーの成分も含まれています!」

「な…!アンチリンカーもだとォッ!!?」

 

 

 シェルターの入口付近でもその雨は降り注ぎ、異変を察した緒川の指示で調がシュルシャガナを使って自分と彼をガードする。だがその歌声は徐々に落ち込み、身体を支える脚の力も緩み膝を崩してしまった。

 

「くぅ…っ」

「調さん!大丈夫ですか!?」

「…はい、まだ…。でも、長くは…!」

 

 調にはこの雨にアンチリンカーと同じ成分が含まれているのではと察しがついていた。かつて自分も同様の物を使われた事があったからだろうか。

 膝を付きながらも回転鋸の合間から外の状況を見る。力を込めて立ち上がり構えたウルトラマンガイアの姿を見て、胸のライフゲージが赤く点滅しているのが分かった。

 だが雨の中心にいたガイアはすぐに力を失ったように構えが解けてしまう。変身している響が、アンチリンカーの影響でその歌に悪影響を及ぼしているのは明々白々だった。

 

(まだ…こんなもので…!)

『足掻いても無駄だ!さぁお前も加勢しろ!殺し屋超獣バラバッ!!』

 

 甲高い鳴き声と共に、ガイアの背後から現れるもう一体の超獣。全身には棘が多く、牛型悪魔のような形相は放射能の雨も相まって目にする者を恐怖に陥れる力がある。

 何より特徴的なのは右腕の鎌と左腕の楔付き鉄球。頭部には刃がギラ付いており、正しく殺意の権化と言わんばかりの超獣だった。

 一切の慈悲や躊躇いの存在しないバラバの鎌の一撃がガイアの背部を大きく斬りつける。前のめりに倒れ込んだところへ、今度はゴモラⅡの破壊光線が放たれ直撃。前後を陣取られ、あまりにも一方的に痛め付けられた。

 

(…あの時に、比べれば…こんなの……へいき、へっちゃら…!)

 

 為されるがままに陥り、私刑の如きこの状況を過去の傷痕と被らせてしまったのか、つい負けない口癖を唱えてしまった。

 父から貰った魔法の言葉…。だがそれが、今は過去をフラッシュバックさせる一因にもなってしまう。

 無論、数多の危機を乗り越えて成長した響にとって、今更忌むべき過去に囚われる事は最早無いと言える。だが、一度揺れてしまった心は簡単に持ち直すことなど出来やしない。

 力の残る限り耐え忍ぶ…今の彼女には、それ以外に出来ることは何もなかった。希望の光も、今は見えぬまま…。

 

「どうしよう…響さんが…!」

「…ッ!司令!聞こえませんか!?司令ッ!!」

 

 疲れも見える調の悲痛な声に、為されるがままにされ続けるガイアの姿に、緒川もつい焦りの混じった荒声を通信機にぶつけた。

 

(切ちゃん…!……声が、聴きたいよ……!そうすれば私、まだ――)

 

 思わず自らの半身である切歌を想い念じる調。その想いに反応したのか、左手中指に付けたリングが一瞬小さく輝きを放つ。だがそれでも結果は変わらない。漏れる雑音は激しさを増し、繋がりを断とうとするヤプールの賢しさにも思えてしまう。

 どこまでも巧妙に、確実に世界を絶望へ塗り潰していく敵の策略。その連続に誰もが強い心を折りかけた。

 

 最早誰に祈りを捧げればいいのか、誰に願いを託せばいいのかさえも分からなかった。

 立花響がウルトラマンガイアになった時のような、都合の良い奇跡などは起きるはずもないのだから――。

 

 

 

 

 

 瞬間、暗雲を切り裂き白銀の光がガイアの元に差し込まれた。

 

 それはまるで、【彼女】を守護ろうとするように包み込む。

 

 それはまるで、シドニーでの光臨時のように…絶望の暗雲を、斬り裂いて――。

 

 

 

 EPISODE07 end...




:注釈:
立花響が変身したウルトラマンガイアはヴァージョン2、俗に言う【ウルトラマンガイア(V2)】です。
また、スプリームヴァージョンのヴァージョンアップは存在しない超8兄弟仕様です。
ご了承ください。

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