絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 06 【獄星の罠】 -B-

 

 数日後…

 季節は夏の暑さから徐々に秋の涼しさへ移っていき、生徒たちが衣替えをしたリディアンでも秋の風物詩である文化祭…秋桜祭の企画が始まりだしていった。

 まだ大それた動きは無かったが、教員から話が出たことでやはり生徒たちからは浮き立つような声も漏れてくるものだ。それは戦場に起つ使命を帯びていた装者たちも同じであり、共に帰宅するクリス、調、切歌もそれに違わず、帰路の話題はそれ一色となっていた。

 

「またあの美味いもの巡りが出来るんデスねぇ…」

「今度は任務じゃないから、ゆっくり楽しめるね」

「そうもいかねぇぞー。クラス其々でなにかやるんだし、そっちに駆り出されればゆっくりしてる暇はねぇかもな」

 

 楽しみに水を差すように注意するクリス。だが今回の調と切歌には、そんなクリスへの反撃手段をしっかりと用意していたのだ。

 

「確かに、クリスセンパイみたいに歌唱コンクールNo.1になってしまっては大変なのデス」

「前に流れた去年の紹介ビデオでも、先輩のシーン一番多かったしね」

「そっ、それを言うかお前らァッ!?」

 

 激しく赤面させたクリスが二人に怒声を上げる。

 二人が言っているのは、全校集会で新入生向けとして製作、放送された昨年の秋桜祭のダイジェストビデオだった。毎年恒例にもなっている生徒主催の歌唱コンクール。装者たちにとっては色々事案が重なったものの、結局昨年度の最優秀賞はクリスに贈られていたのだ。

 フロンティア事変収束後、学生としての本分に戻った時に同級生たちからしばらくその事でチヤホヤされたのは言うまでも無く、ついでに言うとそういう目立ち方がクリスにとって最も苦手としていたのも語るに及ばぬところだろう。

 調と切歌にとっては、可愛がってくれてると理解はしながらもいつも何かと下に見られるクリスへの可愛い反撃材料なのだ。その効果は、御覧の通り。

 

「つーか!お前らだって映ってただろアレに!」

「私達、表向きはあの乱入からの推薦入学ってカタチですし」

「紹介されたのはちょっとハズかしかったデスけど、おかげでクラスメイトや2年のセンパイ達とも仲良くなれたからいーんデェス♪」

「ぬぐぐぐ…この後輩ども、いつからこんな可愛くなくなった…!」

(私もすごく感動したよ、雪音さん。君の歌は本当に素晴らしかった。今度は生で聴きたいものだ)

「仕事しろよセンセイはさァッ!!!」

 

 脳裏へ伝わった猛の一言に更に赤面と激昂を増し、つい叫んでしまう。それ以上彼からの念話は無かったが、一体化し内包している80の光が穏やかな微笑みのような優しさをしていることは理解できた。それが余計に恥ずかしいのだ。

 

 因みに現在、ウルトラマン80こと矢的猛は雪音クリスと一体化を果たしておきながら、平時はキチンと教師の務めを果たしている。彼曰く、力の主導権をクリスに移しておき人間態を維持するための力と人格だけ外部に移しているとのこと。精神と肉体を分離して此方へやって来たウルトラマンエックスと同じようなことをやっているのだと言っていた。

 80への変身の際に、猛はその場から肉体を転移。クリスに渡したブライトスティックに宿り、80へと変身する仕組みなのだと言う。

 

 閑話休題。

 

 クリスが心の中で猛に向かって色々呟いたものの職務に戻ったのか返答は無く、彼に与えられた光が穏やかなままと言うところで彼の機嫌を判断。気を取り直し帰路に就くことにした。

 

「…しかし、もう1年か」

 

 ふと呟く。秋桜祭が来ると言うことは、この後輩たちと出会ってもうすぐ1年が経つと言うことだ。そして同時に見えてくる、卒業の二文字。まだ早いと心では思っていたものの、こんな形で実感をさせられてしまうとは…。思わず吐いた溜め息に込められた感情が何なのか、クリス本人は未だ理解できずにいた。

 

「どーしたんデスか、クリスセンパイ?」

「もしかして、怒ってます…?」

 

 無邪気に寄ってくる調と切歌。此方の気持ちを知ろうが知るまいが慕ってくるこの二人を嬉しく思いながら出来るだけ元気に返事をする。

 

「ばーか、一々気ィ使うんじゃねーよ」

 

 返すその笑顔は、昼の太陽にも負けず明るく見えた。

 

 

 

 その時、三人の持つ携帯端末に緊急連絡が入った。これは…

 

「ノイズか!オッサン!」

『工業地帯と市街地で振動波を確認した!響くんには既に市街地の方へ行ってもらっている!彼女のバックアップには、調くん。君に行ってもらう!』

「…ッ!了解しました!」

『クリスくんと切歌くんは工業地帯を頼む!周りには十分気を付けてくれ!』

「了解デェス!」

「花火の時期はもう終わりだもんな。分かったぜ!」

 

 別の方向に行くべく向かい合う調と、切歌とクリス。こうして分かれて行動することはこの一か月でも数回ほどだったが、勝手自体は分かっている。

 

「頑張るデスよ、調」

「大丈夫、響さんも一緒だから。切ちゃんこそ無茶はしないでね」

「それこそ要らぬ心配デェス!なんたってこっちには、ウルトラマン先生がついててくれるんデスから♪」

「言うようになったじゃねぇか。背中預けるにはまだ足りてないがな」

 

 僅かな談笑だけを済ませ、どちらからともなく手をタッチし合う調と切歌。話も其処までにし、すぐに指示のあった場所へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 クリスと切歌が工業地帯に到着した時には、既に周囲に人影は無かった。風に乗って流れる黒い粒子は、存在のリミットを越えて消滅したノイズの残骸か、それとも逃げ遅れた人のそれか…。

 理解と把握よりも先に、眼前の敵を殲滅せねばならない。二人とも、考えることは同じだった。

 

(…センセイ、行けるかい?)

(大丈夫だ。もし超獣が現れても、すぐに変身できる)

「上等だ…。往くぜ後輩ッ!」

「デェス!」

 

 クリスと切歌、二人の聖詠が唄い流れる。光と共にイチイバルとイガリマを纏った二人が、眼前のノイズ達へと突進した。

 

「前へ斬り抜けろッ!ゴミ掃除はアタシがやってやるッ!」

「了解、デェェスッ!!」

 

 切歌の振るうイガリマの翠刃がノイズ達を容易く両断していく。その中に潜む武芸達者なアルカノイズとその刃を合わせるが、動きが止まった瞬間その頭部にイチイバルの矢が突き刺さり霧散する。

 突撃する切歌をクリスがカバーすると言う形になってはいたが、このコンビネーションはどちらにとってもやり易くあった。

 オイルタンクやコンビナートの上にも出現しているノイズには、クリスの一瞥と共に引かれた引鉄がその中心に直撃、撃ち払う。その隙を狙おうものなら切歌の刃がクリスの死角を補うかのように振るわれる。

 そうやってノイズを蹴散らしながら、徐々に奥へを進んでいく二人。最後の獲物を捉え、地面ごとイガリマの刃が突き立て倒しきったところで周囲を確認する。

 

「一丁上がり、かな。オッサン、こっちは片付いたぞ」

 

 すぐに弦十郎へ通信を行うクリス。だが、端末から聞こえてきたのは不快な雑音だった。

 

「…?オッサン、聞こえねぇのか!?オイ、オイ!!」

「センパイ、どうかしたんデスか?」

「参った…端末壊しちまったかもしれねぇ。そっちので指令室に繋いでくれ」

「分かったデス。司令サン、こっちのノイズは片付いたデスよ?…司令サーン?」

 

 今度は切歌が通信を試みるも、やはり通信は届かない。流れてくるのはクリスの端末と同じ、雑音だった。

 

「あっ、あれ、あれ!?わ、ワタシのも壊れちゃったデスか!?」

「じょっ、冗談じゃねーぞ!?そんなに激しい戦闘でもなかったはずなのに、なんで…!」

「と、とにかく帰るデスよ!ただの圏外かもしれないデスし!」

 

 世界中どこにでも繋がる国連ご用達の特殊通信端末に限って圏外なんて事は無いと思いながらも、突き進んできた道を逆に進むクリスと切歌。

 しばらく歩いて落ち着いたのか、周囲を見渡すと自分たちが今居る場所に強い違和感を覚えた。

 

「…ね、ねぇセンパイ…」

「ぁんだよ…」

「…今日、お天気よかったデスよね?それにノイズと戦い始めた時も、まだ夕方になってなかった気がするんデスが…空、もうこんな暗くなる時期デスっけ…?」

 

 クリスもそれには気付いていた。午後に始めた戦闘からそう時間も経ってないはずなのに、周囲は真夜中のように暗い。何故今まで気付かなかったのかと、妙な疑問を覚えるほどにだ。

 切歌の問いに答えぬまま歩みを進めていると、開けた場所に出て来た。そこには先ほど、切歌が最後のノイズに止めを刺した時に砕けた地面の跡が何一つ変わらず残っていた。

 

「センパイ!あれ、ワタシがやった…!」

「…嘘だろ…ッ!?」

 

 道を曲がった覚えはない。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ進んできたはずだ。ならば此処に戻ってくることは有り得ない。有ってはならない事だ。

 しかし眼前の現実は違う。有ってはならない事が今、起きている。

 すぐにクリスはブライトスティックを取り出し、そこに向かって声を上げた。

 

「センセイ!どうなってんだよコレはッ!?」

『すまないクリス、切歌。私も先程からゼロやエース兄さんに連絡を取ろうとしていたのだが、届かないんだ』

「ど、どういうことなんデスかッ!?」

『恐らく…私達は異次元空間に囚われてしまったんだ。私にも気付かせることなく、巧妙に。…このやり方には、覚えがある…!』

 

 猛の言葉が終るや否や、クリスと切歌の前に数人の男が現れた。警察官、タクシードライバー、現場労働者…一見すると普通の一般人男性だ。

 

「先生、センパイ!あの人たちも囚われた人かもしれないデス!話を聴きに行くデスよ!」

『待て切歌!あれは、違う!』

「チッ、この馬鹿!」

 

 無邪気に駆け出す切歌を止めようとする猛だったが、声だけでは止まってはくれない。後を追って走り出すクリスだったが、切歌は一足先に男たちの元へ辿り着いていた。

 

「あの、すいませんデス。みなさんはどうしてココに…」

 

 切歌の問いに対し、警察官が怪しく微笑む。その瞬間相対する男達の顔が歪み、人間の其れとは全く別の顔になっていた。

 

「―――え、え…?」

「馬鹿!伏せろ!!」

 

 振り上げられた異形のヒト型の拳に先だって、クリスの分厚い靴底が相手の顔面に叩き込まれた。

 倒れ込む相手に対し、クリスはすぐに切歌を抱えるように庇いながら右手で拳銃型のアームドギアを迷わず向けた。互いに、そこから動くことは無かった。起き上がった相手の顔を見た時、それに反応したのは猛だった。

 

「…テメェら、一体…」

『やはり…!バム星人、お前たちの仕業か!』

「フハハハハ…久しぶりだな、ウルトラマン80…!」

「バム、星人…?知ってんのかセンセイ!?」

『あぁ…私が地球に来て初めて戦った宇宙人だ。四次元宇宙人の名の通り、四次元空間を自在に操る技術を持っている。だが、私との戦いで地球から手を引いたはずだったが…!』

 

 猛の声に不敵な笑い声で返すバム星人たち。濃緑の肌に白く光る目がなんとも不気味さを加速させている。

 

「簡単なことだ、ウルトラマン80。ヤプールは我々を取り込み、戦力として加えた。そしてこの地球を侵略するために、我々を送り込んだのだ!」

「我々が受けた命令は、ウルトラマンと一体化した装者を共に捕らえ分断すること。貴様らはもう、この空間からは逃げられん!」

 

 見たことも無い…おそらく形状からして銃火器と思われるモノや棍棒のような鈍器を構え襲い来るバム星人たち。思わず切歌を突き飛ばし、クリスが一人で応戦姿勢を取った。

 

「せ、センパイ!」

「下がってろ!」

 

 バム星人らの攻撃を躱しながら無理矢理気味に蹴り飛ばし銃把で殴っていく。猛に言われた体術という”宿題”を怠っていたことを、今だけは後悔した。だが相手は待ってくれないし、生半可なやり方じゃこっちがやられてしまうのも目に見えている。

 アームドギアを細かく操作し、搭載されている弾丸を殺傷性の高い対ノイズ用の物から対人鎮圧用の模擬スタンショック弾へ変化させ、迷わず引金を引く。的確に胸部へ撃ち込まれる弾丸は着弾と共に軽い電撃を発生させ、バム星人たちを倒していった。

 

(アイツに、殺しの経験なんかさせてやるかよ…!)

 

 後ろに下げた切歌を想いながら応戦するクリス。だが、不思議なことに中々敵の数が減らない。倒れては起き上がっていると言うより、何処からともなく湧いてくるような感覚だ。

 

「しゃらくせぇ!センセイ、変身して蹴散らすぜッ!」

『ま、待てクリス!』

「エイティッ!!」

 

 猛の言葉よりも早く腰部アーマーに収納してあったブライトスティックを取り出し、天に掲げスイッチを押すクリス。だが、肝心のブライトスティックから輝きは発生しなかった。

 

「………ええぇっ!!?なっ、なんでだよセンセイ!!」

『バム星人の作り出す四次元空間では、力が遮断されて変身出来ないんだ…!恐らく他のウルトラマンでも同じだろう…!』

「じゃあどうやって倒したんだよこんなヤツら!!」

『この空間の何処かに、バム星人の四次元空間を維持する為の空間コントロール装置がある。それを破壊すれば…』

「ハハハハハ!我々を甘く見るなよウルトラマン80!この空間にコントロール装置は存在しない!過去の失態を繰り返すほど、我らは愚かではないわ!!」

 

 高笑いしながら返すバム星人。強く歯軋りしながら、アームドギアをガトリングガンに変形させたクリスがその銃口をバム星人へ真っ直ぐ向けた。

 

「…だったらテメェらの命と引き換えにするしかねぇな…!これ以上は手加減しねぇぞ。アタシは、殺しの撃鉄だって躊躇いなく引けるんだ…ッ!」

 

 怒りの形相に決意と覚悟を詰め、弾丸を再度、いつもの殺傷力を高めた物に変化させる。バム星人はそれを、変わらずにやけた顔で見つめていた。

 

「そうだな、貴様ならば本気で撃てば我々を殺すことは出来るだろう。…だが、あっちはどうかな?」

 

 その言葉で背後へ目をやるクリス。そこで見たのは、アームドギアを解除され意識も失いかけながらバム星人に担がれている切歌の姿だった。

 

「…クリス、センパイ…ごめん、なさいデス…!」

 

 苦痛と共に吐き出される謝罪の声を聞き、クリスの眼光が更に怒りで覆い尽くされる。この場で手持ちのガトリングガンを、全弾まとめて撃ち放ちたい程にだ。だがそれを抑えたのは、バム星人の卑劣な言葉だった。

 

「手を出すな。出したらあの小娘の命は無いぞ」

「テメェら、アイツに何を…ッ!!」

「光線銃を浴びせただけだ。シンフォギアとかいうものが邪魔だったが、丁度よいダメージになったようだな。さて、この場はどうするか…理解は出来るな?」

 

 バム星人の投げかけた言葉が、忌むべき過去に聞き覚えのある汚らしい脅迫である事は即座に理解した。渋々と、心底悔しそうに奥歯を噛み締めながら、クリスがゆっくりと銃口を下す。それは敗北を認める彼女の姿勢だった。

 

「それでいい。だが念には念を、だ」

 

 言いながら大型の光線銃の引金を引くバム星人。赤い怪光線が無防備なクリスに向けて放たれ、直撃と共に電撃に酷似した痛みが彼女を襲った。

 

「ぐぁ――がああああああッ!!」

『クリスッ!!』

 

 猛の声にも応える間もなく、アームドギアを解除させられながら倒れ込むクリス。その意識を奪ったことを確認したバム星人の一人が彼女を担ぎ上げた。

 

『二人に何をする気だ!これ以上傷付けると言うのなら――』

「変身も出来ないくせに粋がるな、ウルトラマン80。…なに、そう簡単に殺しはしないさ。元より本来の標的は、貴様らウルトラマンなのだからな…!」

 

 高笑いを響かせながら四次元の街の奥へ消えるバム星人たち。身動きどころか連絡を送ることも出来ず、猛は只々憤りを内に秘め込んでいた。

 

 

 

 

 工業地帯での戦いと時を同じくして、移動本部からほど近い場所に大型の時空振動を検知。超獣出現の予報を聞き、翼が単身でその地点に急行していた。

 

「友里、超獣出現予測地点の避難状況は?」

「急な警報だったため、報告に上がっている分でまだ6割と言ったところです」

「藤尭、響くんたちとクリスくんたちの交戦地点ではどうなっている?」

「両地点での時空振動は未だ平穏な数値を維持しています。あっちノイズによる襲撃だけのようです」

「警戒は怠るな。…しかし、何故この地点に…?」

「この移動本部を狙って来たとかですかね」

 

 藤尭の言葉に顎鬚を撫でながら思考する弦十郎。ヤプールのような相手であれば、この移動本部の存在を知っていても可笑しくない。だが、ここにそこまでの戦闘力が無いことも理解っているはずだ。

 中の人員を殲滅するだけならばノイズを送り込めば済む。此方の世界にて人類最強とまで謳われる風鳴弦十郎ですら、ノイズの生物炭化能力の前には為す術も無いのだ。

 否、それを理解しているからこそ捨て置いているのだろうか。ヤプールにとっていつでも殺せる人間よりも先に打倒するべき相手が居る。それは――

 

(――…ウルトラマン…?)

「超獣、出現します!」

「考えている暇は無いか!翼ッ!」

 

 

「了解です!直ちに急行します!」

 

 バイクのアクセルを更に回し加速する翼。数分もすると、街に現れた鋼鉄色の巨獣の姿が目に入った。一見して分かることは、容姿は肉食恐竜や怪獣に近しいものではあるが、今まで出現した超獣よりも遥かに機械的だと言うことだ。

 

「随分毛色の違う相手だな…」

『翼さん、あの超獣に該当データがありました!』

「口頭で簡略に頼む!」

『はいっ!目標の名前は【メカギラス】、四次元ロボ獣の別名を持っています。武装は破壊光線と上顎から発射されるミサイルです!』

『ヤツのミサイルは1分間に2000発という常識外れの連射性能を持っている。狙われたら一溜りも無いぞ!』

「了解した!ゼロ、往くぞッ!」

『応ッ!!』

 

 エルフナインとエックスからの情報に了承を応えながら、左手を離し前へ突き出す。ブレスレットから出現したミラクルゼロアイを右手で受け取りながらシートの上に登り、開いた左でヘルメットを外した。

 バイクの加速を合わせながらメカギラスに向かって跳躍。空中で天羽々斬を起動する聖詠を唄い、その終わりに合わせてミラクルゼロアイを顔に押し当てた。

 シンフォギア起動の輝きとゼロの力である赤と青の光を重ね纏い、巨大化しながらメカギラスの前へ着地した。

 

「四次元だか何だか知らねぇが、テメェはこの俺が相手になってやるぜ!」

 

 構えるゼロに機械的な鳴き声を上げるメカギラス。目から破壊光線が放たれるが、察したゼロはすぐに回避した。地面に直撃した破壊光線によりアスファルトが爆裂し、めくれ上がる。

 

『ゼロ、市民の避難がまだ完全ではない!敵の攻撃は空へ誘導するか、可能な限り受け止めるぞ!』

「あいよ!それかもう一つ、これ以上撃たれる前に叩き潰すッ!!」

 

 地面を蹴ってメカギラスに突進するゼロ。速度を乗せた拳が胸部に打ち込まれ、胸部装甲に拳痕がハッキリ遺る。そのまま肩を掴み、少しでも開けた場所にメカギラスを押し出してその四角い下顎へアッパーを叩き込んだ。

 

「まだまだぁッ!!」

 

 怯み下がったメカギラスに対し、更に追撃をするべく肉薄するゼロ。連続攻撃を重ねていると、やがてメカギラスの眼が輝きだす。瞬間、その手と機械の尾を駆使しゼロの身体を締め固めた。

 

『クッ、身動きが…!』

「んなろぉ!放しやがれ、ってんだよォ…!!」

 

 悶えるように身体を動かし解放を試みるゼロ。だが強固な機械の身体はそれを許さず、顔面に目標を定めたメカギラスは自慢の連装ミサイルを発射した。

 1分間に2000発と謳われるミサイルの嵐、たった数十秒でも何百発にまで上る破壊の連撃を顔面に浴びせられてしまい、ゼロの顔が爆炎に包み込まれてしまう。さすがに一溜りも無かったのか、彼の眼の光が何処か弱まっていた。胸のカラータイマーも危険信号の点滅と警告音が鳴り、体力の著しい低下が認められた。

 

「ぐぅぅぅ…ッ!」

『大丈夫かゼロ…!』

「ヘッ…師匠の特訓に比べりゃ、この程度なんてこたぁねぇぜ…!」

『だったら速やかに、ヤツに返礼をしなければな…!』

 

 苦しい中でも減らず口で返すゼロに、翼は少しだけ安堵した。彼にその気が有るのなら、あとはただ形勢を覆すだけだ。それを行える最も簡単で効果的な一撃は、何度となく使ったゼロの得意技。

 

「『エメリウムスラッシュッ!!』」

 

 意趣返しと言わんばかりに、同じく零距離で額のエネルギーランプから光の刃を撃ち放つ。ミサイル発射口ごと上顎を焼き、そのまま爆発した。

 すぐにそこから脱出しようとする算段のゼロだったが、予想に反してメカギラスの手と尾が力を弱めない。否、むしろ圧力が強くなっているようにも感じられる。そう感じた直後、メカギラスから機械的な音声が流れてきた。

 

『四次元爆発プログラム、起動』

『爆発…自爆するのかッ!?』

「くっそぉ…!!放し、やがれぇぇぇ…ッ!!!」

 

 振り放そうとするゼロだったが、メカギラスの固めが強く動くことが出来ない。やがてカウントダウンが進み…

 

『5…4…3…2…1…爆発』

 

 無機質な機械音声が終わりを告げた瞬間、メカギラスの身体が爆発した。

 

 

「翼さん!!」

『ゼロ!!』

「…大丈夫、二人は無事よ!」

 

 指令室にエルフナインとエックスの声が響き渡る。すぐにあおいが翼のバイタルとユナイト係数を確認。数字の上では、ダメージはあっても致命的ではなかった。だがもう一つ、別の問題に気付いたのは時空振動を計測していた藤尭だった。

 

「なんだ、こりゃあ…!?」

「どうした藤尭ッ!」

「時空振動数値、マイナス方向で急激に上昇しています!!」

「マイナス、だとォ!?どういうことだッ!何が起きるというんだッ!!」

「超獣が此方に出現する時はプラス方向で数値が上昇…。その逆、マイナス方向での上昇と言うことは…まさか…!!」

『翼!ゼロ!すぐにそこから離れろ!!異次元空間に引き込まれるぞッ!!』

 

 エックスの叫ぶような指示が響き渡る。時空が出現時とは逆方向の力場が発生したと言うことは、周辺を吸い込む時空の穴となる。それを瞬時で理解したエックスだったが、ゼロ達がそれを察し動くには遅かった。

 

「ぬ、ぐ、おおぉぉぉぉ…!!」

『踏ん、張れる、か…!!』

 

 空間が湾曲し、小型のワームホールとなってゼロを吸い寄せる。なんとか抵抗を試みるものの、消耗した体力ではそれもままならず、やがてその巨体はワームホールの中へと吸い込まれ消えていった。

 

 

「…つ、翼さん及びウルトラマンゼロ、反応消失…!」

「バイタルサインも同時に消失しました…!まさか…」

『大丈夫だみんな!異次元に転移させられただけなら、まだ絶望することは無い!』

 

 エックスの言葉に、指令室に広がる重い空気が幾分か緩和される。理解を越えた状態ではあるが、彼の言葉には相応の説得力がある。そう感じるのは、彼もまたウルトラマンだからだろうか。

 

「二人はまだ、大丈夫だと…?」

『だと思います。ですが、ワームホールの先で敵と戦っていることも考えられる。救援手段を考える為にも、すぐに確認しなければなりません。

 エルフナイン、手伝ってくれ。今のマイナス時空振動を探知して、2人が何処へ跳ばされたのか調べる!』

「は、はい!!」

 

 すぐさまエルフナインがエックスの居る端末を指令室に直結させ、彼と共にメカギラス爆発の状況を隅々まで調べ始めた。

 こうなると其方は二人に任せた方が良い。そう確信した弦十郎はすぐさま次の指示を出した。

 

「クリスくんに連絡を繋げ!ウルトラマン80の力も借りて、翼とウルトラマンゼロの救援を算段するッ!」

「了解!クリスちゃん、聞こえる!?」

 

 すぐさま通信機に繋げたあおい。だが、耳に聞こえるのはただの雑音だけ。周波数設定をいくつか変えながら通信を試みるものの、一向に繋がらない。それは今回コンビを組んでいる切歌の通信機も同じだった。

 

「クリスちゃん!?切歌ちゃん!?」

「どうしたッ!」

「二人と通信が繋がりません!反応は…消失している…ッ!?」

 

 あおいの報告に指令室が騒然となる。確実に見ていたはずの二人の反応が一瞬で消え去っていたのだ。それにクリスと80も、急な状況であれば変身もするだろう。そうなるとユナイト係数の変化だって即座に出現される。

 だがそれすら無く、正に気付かれる間も無く消え去ったのだ。

 

「そんな馬鹿な!翼さんたちみたいに、どこかへ跳ばされたとでも言うのかよッ!」

「…いや、その可能性が高いだろうな…」

 

 険しい顔で呟く弦十郎。この一か月の間でヤプールが此方の戦力を確かめながら侵攻していたというのなら、既に気付いていたはずだ。ウルトラマンゼロとウルトラマン80、それぞれと一体化した装者の存在に。

 

「…市街地の方はどうだ?」

「響ちゃん、調ちゃん共に健在。バイタルも何ら問題はありません」

「あっちの時空振動は落ち着いたもんですよ…。クソッ…!」

 

 予想は徐々に確信へと繋がっていく。風鳴翼とウルトラマンゼロ、雪音クリスとウルトラマン80…主力となる装者と一体化したウルトラマンを封じられたと言うことだ。

 頼みの綱は、唯一装者との一体化を為していないウルトラマンエース…。

 

 

 

 

 一方で市街地。弦十郎からの重苦しい報告を聞いた響と調が、顔を歪めながら天空を見上げていた。

 不安はある。だが今は、エックスとエルフナインの分析を待つ以外出来ることは無い。

 響はただ、調の手を優しく握り締めるだけだった。大丈夫、みんな無事だと言い聞かせるように。調もそれを信じ、ただ固唾を呑んで待っていた。

 そんな彼女らの思いを嘲笑うかのように、ヤプールの哂い声と共に晴天の中へ暗雲が立ち込め始める。やがて暗雲が開き、異空間が映し出される。そこで響と調が…そして避難した民衆が見たものは、傷だらけのまま十字架に磔にされたウルトラマンゼロとウルトラマン80の無残な姿だった。

 

「ゼロさん!!」

「矢的先生まで…!」

 

 映し出された空間を驚愕の表情で覗き見る響と調。そんな二人の前に一つの巨大な光が溢れ、輝きと共にウルトラマンエースが現れた。

 

『やはり現れたな、ウルトラマンエース』

「ヤプール…貴様…ッ!」

『この二人を、そしてこの小娘どもを助けたいか?』

 

 まるで見せつけるように映像を切り替えるヤプール。其処には力なく倒れ込んだ翼、クリス、切歌の姿があった。

 

「翼さん!クリスちゃん!!」

「切ちゃん…切ちゃぁぁん!!」

 

 敬愛する先輩と自らの半身ともいえる者の無残な姿に、思わず取り乱し叫ぶ調。飛び出そうとする調を抑える響だったが、彼女自身もその気持ちは穏やかではなかった。

 

『フハハハハ…!ウルトラマンエースよ!こいつらを助けたくば、新たなるゴルゴダ星まで来るんだな。猶予は与えんぞ!ハハハハハ!!』

 

 高笑いと共に姿を消すヤプール。青に戻った虚空を眺め、エースはその手を強く握り締めている。

 理解っていた。これは罠だ。仲間を捕らえ、痛めつけ、その者達の命と引き換えに守護るべき星を空けなければならぬ卑劣で下劣な策。

 怒りに震えながら、エースはこの選択を悩んでいた。仲間の命と地球に住む人々の命、天秤にかけられるはずがない。自分がこの場を離れたら、間違いなくヤプールは地球に超獣を送り込んでくる。その時誰がこの地球を守護ると言うのか。

 だが此処に留まれば、ヤツの凶刃は翼、クリス、切歌に向けられる。聖遺物に適合した戦乙女だとしても、彼女らは年端も行かぬ少女なのだ。ヤプールの手にかけられるなど、有ってはならない。

 択一すべき二者に挟まれ拳を握り固めているエースに向かって、少女の声が聞こえてきた。近くのビルの屋上に上って来た、響と調だ。小さく息を吸って、少し大きな声で二人が呼びかけた。

 

「行ってください!みんなを助けに!!」

「私達じゃどうしようもできないけど、貴方なら…切ちゃんと私を救ってくれた、エースさんなら…!!」

 

 響と調の声に其方へ目をやるも、またすぐに顔を逸らしてしまうエース。迷ってくれているのだと、二人にも分かっていた。だから、そんな時に言える言葉はこれだけだった。

 

「――大丈夫、へいきへっちゃらですッ!!」

 

 響の強い声に、エースが再度彼女らの方を向いた。彼の眼に映っていたのは、響と調の強い顔だった。

 

「ここには私達が居ます。今は少し離れてるけど、マリアさんだって居ます。ウルトラマンの皆さんが帰ってくるまでの時間稼ぎぐらい、やってみせます!

 そりゃ、皆さんに比べれば小さくて弱い私達ですが…信じてください。守りたいって想いは、一緒ですからッ!!」

「私達は、エースさんの事を信じてます。だからお願いします。切ちゃんを…先輩たちを、助けて…!」

 

 響と調の顔を見つめるエース。やがて決意を固めたように、小さく首を縦に振る。

 輝く瞳は晴天のその先へ向け、大きな身体は大地を蹴って強く飛び立った。

 

 天へ向かい一直線に空を飛ぶ彼に、エックスからの念話が呼びかけられる。

 

「ウルトラマンエース、マイナス時空振動の分析と逆探知が完了しました。…次元を超えたこの座標が、ヤプールの言っていた新たなるゴルゴダ星になります」

「そうか、ありがとうエックス」

「…すみません。私も、ウルトラマンの一人だと言うのに…」

「気にするな。みんなを守るのは俺の役目だ。仲間も地球も、俺が守る!」

 

 力強くそう告げ、その身を光へと変えていくエース。やがて光は時空を歪め、歪みの中に吸い込まれていった。

 責任感と使命感。ただそれを強く抱きながらエースはゴルゴダ星へと向かい、響と調は残ったこの地を全力で守るべく気持ちを固めるのだった…。

 

 

 EPISODE06 end...


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