絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 05 【笑顔達を守護る力】 -B-

 クリスが80と一体化したのと同じくして、翼の発する歌と音楽に身体を委ね、ゼロも自らの宇宙拳法で再度ノイズドラゴリーとの戦闘を開始した。

 位相差障壁が無ければ、ノイズ超獣も所詮はただの再生怪獣。更にフォニックゲインを纏うウルトラマンの肉体は、シンフォギアとほぼ同質とまで言っても良い。つまりは、

 

「残念だったなヤプール!テメェのやったことは、もう俺達の前じゃ無駄だったってことだァッ!!」

 

 連続で打ち込まれるゼロの拳に、ノイズドラゴリーは為す術も無かった。自慢の怪力による攻撃も、翼の戦闘技能までも一体化しているからか荒々しいゼロの動きに流麗さを重ね合わさり、普段よりも躍動的に相手の動きを見切りいなしながらの反撃を繰り出していく。

 ゼロスラッガーを外し大型化させ、ゼロツインソードとは別の形態…二刀流へと姿を変え、更に一方的に斬り付けていくゼロ。斬り裂いた部分が黒く炭化して消えていく。

 

「決めるぜ、翼ッ!!」

『あぁッ!!』

 

 翼の歌に更なる力が籠められる。それと共にゼロが大きく跳躍し、空中で二振りの刃を再度合体させた。そこから柄の部分を押し込むように蹴り込んだ。

 ゼロが師より学んだウルトラゼロキックと、翼の得意技である天ノ逆鱗。まるで必然のように融合した二人の繰り出す必殺技…【零蹴逆鱗断】が、ノイズドラゴリーを一刀両断するのだった。

 

 

「よし、すぐにエースさんと80さんの加勢に向かうぞゼロ!装者の歌が無ければ、ノイズは…」

『…いや、私達なら大丈夫だ』

 翼の提案に、優しく拒否の意を示したのは、80だった。

「遠慮すんなよ先生。ノイズ超獣相手に正攻法は苦労するだけだぜ?」

『知っているさ。だから私も、自らを委ねられるパートナーを選ばせてもらっていた』

 

 80の声に続いて、別の声が聞こえてきた。翼にとって、聞き馴染みのある声が。

 

『センパイ!』

「その声…雪音かッ!?」

『あぁ。…ま、そういうこった』

「そうか…。雪音が自分で決めて彼と共に立っているのなら、私が口を挟むことは無いな。

 この場を拝借しての挨拶となって申し訳ありませんが、私は風鳴翼。雪音は素直じゃなく口も悪いが、私の可愛い後輩です。どうか、よろしくお願いします」

『こちらこそ。ゼロは負けん気ばかり強くてまだまだ礼儀の足りない不出来な若輩者ですが、どうかよしなに』

「『何の話してんだお前らはッ!!?』」

 

 この場においてもクソ礼儀正しくお願いする翼と、優しく返事をする80。何故か広がる卒業生と教師の和やかな談笑に、不良二人のツッコミが鋭く入り込む。これでは組み合わせ変えた方が相性良かったのではないかと錯覚してしまうほどにだ。

 

「…とりあえず先生が大丈夫なのは分かった。だがエースはどうなってるんだ?あいつも同じように、シンフォギアを使えるヤツを見つけてるのか?」

『…クリスと翼には悪いが、目星は付けさせて貰っていた。だが…』

「だが、とは…?」

 

 歯切れの悪い80の言葉に疑問を露わにする翼。未だ戦いの最中なのか、件のエースはこの念話の中に参加していない。ただ一人、80だけがその理由を知っていた。

 

『ンだよ、ハッキリ言ってくれよセンセイ』

『…エース兄さんは、彼女らの力を借りずに戦うつもりだ。無論、この場は私達の助けも』

 

 

 

 

 そのB地点では、エースがノイズキングクラブを相手取り、果敢に肉弾戦を挑んでいた。腕に高熱エネルギーが込められているチョップである【フラッシュハンド】を叩き込むが、やはり位相差障壁が邪魔をして攻撃がまともに通らない。

 一度後ろへ距離を取り、両手を額に構えそこにある小さな宝玉…ウルトラスターから【パンチレーザー】を発射。フラッシュハンドよりかはダメージになっているようだが、それでも微々たるものだ。

 

(…やはり、単純な攻撃では倒せないか…)

 

 そんなエースを尻目に、先ほど倒された逆襲と言わんばかりに襲い掛かるノイズキングクラブ。位相差障壁を越えて繰り出される暴力に、ただ防御を固める以外無かった。

 ダメージにならずともなんとか相手を突き飛ばし距離を取るエース。だがそれを見て、すぐにノイズキングクラブも口から溶解泡を吐き出した。アルカノイズの特性を前面に押し出したのか、深紅の泡だ。

 

「ヌゥッ!」

 

 周辺被害…特に後ろで気を失っている調と切歌にこんなものを当てるわけにはいかない。そう直感したのか、両手を上で重ね、そのまま下へ長方形を描くように動かして光の壁を発生させた。【ウルトラネオバリア】だ。

 その壁で紅い溶解泡を防いでいくが、バリアを維持する隙を突き、ノイズキングクラブの強烈な尾撃が背後からエースを襲撃。締め上げられてしまった。

 

「グウゥ…!!」

 

 締め上げた尾からアルカノイズの持つ物質分解能力を発動させ、エースの身体を溶かそうとするノイズキングクラブ。倒された恨みを晴らさんとするように、嗤い声にも似た鳴き声をあげる。

 確かに80やゼロの選択が最も正しいのだろう。装者と共に、彼女らの歌の力を借りてノイズの力を得たヤプールを倒す…。合理的だし、彼女らも目的が一緒ならば構うことなど何もない。

 だがエースは…北斗星司は、月読調と暁切歌に対しそんな風には取れなかった。ただ、守りたかったのだ。孫のように離れた歳の娘を…寄り添って生きる事しか許されず、ようやく訪れた優しい世界に喜ぶ二人のことを。

 この選択はきっと、80に諌められゼロには茶化されるだろう。だが…

 

(だが…俺は…!)

 

 全身にフラッシュハンドの要領で高熱を昂らせる【ボディスパーク】を放ち、ノイズキングクラブの尻尾を弾き飛ばす。驚いてエースから距離を取るも、膝をついたその姿と胸で点滅するカラータイマーを見て気を良くしたのかすぐに近寄りその腕で後頭部へ一撃、そして倒れ込んだところを蹴り飛ばした。

 

 宙に浮きながら思い出す。今この場で傷だらけで横たわる彼女らを…いつも笑顔で来店する、調と切歌の姿を。

 願われたのだ。誰一人…自分たちが守りたかったものを全て、死なせないでほしいと。

 約束したのだ。心底から願えば、どこからでも飛んで行く、助けに駆けつけると。

 戦う理由などそれで十分だ。二人の願いがある限り…

 

(――俺は、負けんッ!!)

 

 空中で回転し、体勢を立て直して着地するエース。点滅するカラータイマーと肩で息をするように上下しているところからそのダメージは推して知るべきだろうが、その意志は強く燃え上がっていた。

 相対するに最も厄介なのは、ノイズの特性である柔軟にして強固なる鎧の位相差障壁。次元を操作し、『存在』を不明確なものとすることで直接的な攻撃に対して圧倒的な防御力を誇っている。

 シンフォギア装者が奏でる歌は、そのフォニックゲインがチューナーの役割を果たし位相差障壁と調律、ノイズの『存在』を此方の次元へ強制的に固定することで直接的な攻撃を可能にしている。つまり障害しているのは次元の壁。エースにとってそれは、幾度となく繰り広げられたヤプールとの戦いで、何度となく相手取ってきたものでもあった。

 

 胸の前で拳を突き合わせ、そのまま両手を斜め上へ、仰ぐように広げる。直後全身から、ノイズキングクラブに向かって光が放たれた。その光と共に、揺らぎと共に体表の蛍光色が光を失った純色へと変化していった。エースの持つ【異次元開放能力】が、ノイズ超獣の位相差障壁を打ち消したのだ。

 

(これでもう、守られる壁も無くなったなッ!)

「ヌウゥゥゥンッ!!!」

 

 状況の変化に戸惑うノイズキングクラブに、再度フラッシュハンドで容赦なく殴りかかるエース。高熱を帯びた一撃は、今度は確実に効いていた。だがエースのカラータイマーも、更に加速度的に点滅する。何度も受けた傷と異次元開放能力を用いたことで、エネルギーが底をつきかけていたのだ。

 それを察してか、怯みながらも額から火炎を発射するノイズキングクラブ。バリアを張ることも無く受け続けるエースだったが、最後の力で火炎を吹き飛ばし、頭部の穴…エネルギーホールに残った力を集め込んだ。

 

「ウルトラギロチンッ!!」

 

 声と共に両手を天へ掲げエネルギーホールに溜め込まれた力を右手へ収束、ノイズキングクラブに向けて発射した。

 撃ち放たれた光弾は光速回転と共に鋸状へ変形し、三つに分かれ多角的にノイズキングクラブへ襲い掛かる。そして甲高い音と共に、ノイズキングクラブの首と両腕の接続を瞬時に断ち切った。

 生物としての急所を奪われたノイズキングクラブは、切断された部分からすぐに赤黒い粒子となって消えていった。

 エネルギーの限界か、また膝をついてしまうエース。その眼の先に見えたのは、未だ目を覚まさぬ調と切歌。

 その小さな身体にどれだけの苦痛を背負いながら戦っていたのか…。そんな事を想いながら、その両の眼に残された僅かばかりの力を集め、二人に向けて眼光として放つ。傷付いたものを癒し治す【メディカルレイ】だ。

 光が収まると二人の瞼が動き出し、ゆっくりと目を開けた。

 

「んぅ…調、起きるデスよ…」

「切…ちゃん…?私達…」

 

 二人して状況を解せずにいたが、辺りを見回したところで傍に居た巨人にようやく気が付いた。

 

「デッ、デッ、デッ、デェェェェェェスッ!!?」

「おっ、落ち着いて切ちゃん落ち着いて!!」

 

 明らかに取り乱す切歌と、落ち着いてるように見えて混乱を垣間見せる調。そんな二人の何処か可愛らしい姿を見て、エースはゆっくり立ち上がる。その顔が変わることは無かったが、内心では微笑んでいた。

 

「あのあのアレってその、怪獣だか超獣だかそういうのじゃないんデスよね!?」

「うっ、うん、たぶんそう。あおいさんから聞いてた、ウルトラマン、だと思う…」

 

 調と切歌、二人でエースの顔を見つめ眺める。痛みの消えた身体、何処にも見えない交戦対象、先ほどより明らかに増加している瓦礫。いくら混乱しているとはいえ、此処までの状況証拠を見れば何が起きたのかは流石に理解できた。

 

「もしかして…」

「…ワタシ達を、助けてくれたんデスか…?」

 

 調と切歌の問いかけに、小さく首肯で返すエース。そして言葉は何一つ交わすことも無く、エースは天空へ向かって飛んで行った。暗く波の音だけが戻った静寂の港にて、二人はただ遠く輝く夜空の星を見つめていた。

 

「……願い、通じたね…」

「……デェス…」

 

 呆然と空を見上げるだけの二人の耳に、ヘリのプロペラ音が聞こえてきた。それが近付くよりも早く、二人の前に落ちてきた…いや、降りてきた一人の姿。己がシンフォギアを纏った立花響だった。

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!大丈夫ッ!?」

「響、さん…?」

「えーっと…多分、大丈夫デス?」

 

 何処か現実味の無い返答。だがそれでも、二人は”大丈夫”と答えてくれた。感極まった響が、思わず調と切歌を一緒に抱き締めた。

 

「あの、響さん!?」

「ど、どーしたんデスかぁ!?」

「よかった…よかったよぉ…二人とも無事で…」

 

 辺りを憚らず鼻声で喜びを訴える響に、調と切歌も思わず安堵した。こんなにも心配してくれる人が居て、駆けつけてくれて…それは、とても幸せなことなのだと。二人顔を見合わせて微笑み合った。

 

「…あのウルトラマンに、感謝しないとね」

「デスね。来てくれなかったら、ワタシ達、今頃…」

 

 それ以上は言わせないように、切歌の右手に調の左手がそっと握られた。

 感謝しないといけない人はたくさんいる。こうして来てくれた響にもだし、そういう指示を出してくれた司令、助けに来てくれたであろう翼にもだ。そして…

 

「…このお守りが無かったら、諦めちゃってたかもね」

「そうデスね…。星司おじさんにも、いっぱいいっぱい感謝デス」

 

 笑顔で重ね合わされた二人の手。その指に嵌められた小さな指輪は、今もなお優しい輝きを抱いていた。

 

 

 

 

 装者が其々集い始める中で、タスクフォース指令室にもまた安堵の時間が訪れていた。

 

「…状況の終了を確認。時空振動、正常値に戻りました」

「装者たちの状態は?」

「バイタルは皆さん正常です。本当に、良かったです…」

「そうだな…」

 

 言葉を返す弦十郎の顔は何処か険しいままだ。時間差を交えての三地点同時強襲、ウルトラマンの加勢が無ければ装者全滅の可能性だって大いに在り得た事態だ。

 彼の心に残ったものは、後悔以外の何物でもない。最善の手は無かったのか、本当に出来ることを全て行ったのか…そんな思考の堂々巡りに陥ってしまっていた。

 そんな時は思考を切り替えるに限る。後ろを見て悔やむ暇があるなら、前を見て歩みを進めろ…とは何処で聴いた言葉だったか。

 

 兎にも角にも今は、彼女らを死の危機に追いやってしまった後ろめたさのまま留まるよりちゃんと顔を合わせて話がしたいというのが彼の想いに相違なかった。デカい椅子に座った老人どもの苦言など、仲間の命に比べれば安いものだ。

 

「藤尭、針路を日本に取るぞ。すぐにみんなを迎えに行く」

「了解です。上にはなんと言いましょう?」

「命を懸けて戦った大事な部下たちを労いに行く、とだけ言ってやればいいさ。エルフナインくんも、今は自室に戻って休んでいてくれ」

「えっ、でも…」

 

 あおいが不在の間の管制を任されていただけに、素直にハイと言えないエルフナイン。彼女に離れるよう促したのは、小さな端末に映り込むエックスだった。

 

『行こう、エルフナイン。君にも休息は必要だ。…無論、司令達にもな』

「……わかりました」

 

 そう言ってお辞儀と共に指令室を去るエルフナインとエックス。自動扉が閉まったところでようやく、弦十郎は胸のネクタイを緩め、大きな溜め息を吐いた。

 

「…ったく、大人の俺が一番シッカリしなきゃいけないと言うのに…」

「やめて下さいよ司令、らしくない愚痴は。そういうの、俺の役目でしょ?」

 

 モニターに向かいながら淡々と返す藤尭。ぶっきらぼうな言い方ではあるが、彼なりの風鳴弦十郎に対する評価であり、信頼でもあった。彼に未練も後悔も全て抱え込んで進む力があるからこそ、誰も彼の下を離れることをしないのだから。

 そんな藤尭の言葉を飲み込み、改めて前を向く弦十郎。高速艇としての機能がある移動本部は、安全圏内での最高速度で日本へと向かって行った。

 

 

 

 その一方、自室に戻ったエルフナインはベッドに腰掛けてエックスの宿った端末を見つめていた。やがてポツリと、絞り出すように言葉を出した。

 

「…やっぱりボクは、役立たずの不良品なんでしょうか…」

『どうして、そう思うんだ?』

「だって…皆さんが戦っている最中、ボクは何も出来ませんでした…。管制とはいうものの、ほとんどは司令さんや藤尭さんにお任せしっぱなしでしたし…ボクがやったことなんか、何も…」

『…それを言うなら私もだ、エルフナイン。身体が無い上に、私の不完全なデータバンクはヤプールや超獣の生態すら把握しきれていない。力の無さが彼女らシンフォギア装者たちを危機に追いやったと言うのなら、それは私も同罪だ』

「そんな!エックスさんは――」

 

 違う、そんなことはない。そう言いたかったはずなのに、言葉に詰まってしまった。

 事実を事実として受け入れ、そこから次へ繋げるのが科学者の性。それは錬金術師も同じであり、その叡智を植え付けられたエルフナインもまたそうした思考回路を持っている。

 哀しくもそれが、半端なフォローをも飲み込んでしまったのだ。

 

『ありがとうエルフナイン。下手に慰められるより、ハッキリ言ってくれた方が私は嬉しい。その方が、前向きな考えが出来るからな』

「エックスさん…」

『さぁ、それじゃあ前向きな意見交換会と行こうか。戦う力の持たない私達が、どうやって彼女らをサポートしていくか』

 

 そうだ、課題は山積みだ。超獣の持つ力と各シンフォギア及び当該装者が通常時に引き出せる性能限界との対比。現状戦力となるウルトラマンの存在を加味し、世界の何処に出現するかまで…幾億幾兆と存在するはずの状況を想定し、その万事に対して策を講じられるようになるのだ。

 それだけが、今日のような苦しみを回避する最善の手段なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、日本へと向かうタスクフォース移動本部指令室の一室…強固な最奥に用意されている救命室。

 呼吸マスクを被せられ、点滴を打たれながら、何処か安らかな顔で眠っていた女性…。

 シドニーでの戦いで瀕死の重傷を負っていたが、ウルトラマンゼロが降臨した際に『奇跡的に』全快したものの意識を戻せずにいた、救世の英雄にして白銀のシンフォギア装者、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 薄く、ゆっくりと…その瞼を開け、薄暗いながらも外部の光を取り込む。

 時間にして60時間弱の昏睡。弛緩し衰えた筋肉を総動員しながらその左手を天へ伸ばした。

 その眼は何を映していたのか。

 その手は何処へ目指していたのか。

 それは彼女しか理解らない。

 ただ一言、彼女は小さく呟いた。

 

 

「――マ、ム……セレ、ナ…」

 

 

 力を失ったのか、再度腕を落とし瞼を閉じるマリア。

 その左手には、小さな赤い欠片が握られていた…。

 

 

 EPISODE05 end...


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