【済】IS 零を冠する翼   作:灯火011

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織斑千冬と模擬戦を行った小鳥遊彩羽は、焼き肉叙々苑へと繰り出していた。

彼女たちは各々、美味しい焼き肉を食べながら、舌鼓を、打つ。


舌鼓を打つ

 焼き肉・叙々苑。1976年の六本木に誕生した焼き肉のチェーン店である。高級焼き肉店の代名詞として有名な焼肉店だ。通常の焼肉チェーン店の3倍から4倍の値段がする肉は、油の乗りがよいだけではなく、油がさらりとしていて、しつこくない。そして筋も少なく、柔らかで美味な「和牛」を頂けるのである。

 

 そんな叙々苑では、女三名、男一名という一団が美味しい和牛に舌鼓を打っていた。

 

 まず一人目、それは世界最強の女性とされる「織斑千冬」である。彼女は次々に肉を網に載せては、他の人々へと肉を配り続けていた。その手際の良さも、世界最強といったところか。もちろん、自分の皿へも肉の配給を忘れない。そして合間を見て肉を頬張り、笑みを浮かべて白米をかっこむ。最高の組み合わせである。

 

 問題児二人目、それは世界最高の頭脳を持ち、天災と呼ばれる「篠ノ之束」である。普段のうさみみ姿ではなく、普通のパンツスーツを纏う束は、織斑千冬から配給される焼き加減バッチリの肉を次々頬張りながら、実に幸せそうな笑みを浮かべている。片手に箸を。片手には白米を。という無駄のない焼き肉体制だ。

 

 胡散臭い三人目は、三菱重工IS部門のチーフである。この四人の中で唯一の男性である彼も、満遍なく千冬から肉を配給されている。ただし、千冬の気遣いか、他のメンバーよりもカルビが多い。そして、肉を頬張りながらビールを煽っていた。まさに、仕事終わりのサラリーマンのおっさん。である。

 

 そして割と純真であり、空飛ぶ非常識である四人目「小鳥遊彩羽」は、他の人を構うこと無く、肉を頬張り続ける。白米、肉、肉、白米、肉、肉、キムチ、白米。と言った具合で箸がとまらない。旧日本軍の彼からすれば、旨い肉と米は、まさにこの世の春。贅沢の極み、死んでも・・・よくはないが、それに等しい幸福を得ているのだ。

 

 ・・・そして、表向きは、楽しく焼き肉を囲んでいる彼らであるが、その腹には少しづつ、抱えているものがあるようだ。それを少しだけ、覗いていこう。

 

 

 

 肉を焼きながら、織斑千冬は小鳥遊彩羽へと少しだけ視線を向ける。彩羽は千冬の視線など全く気にならないようで、肉を笑顔で頬張り続けていた。

 

(・・・美味しそうに食べるものだな。この姿だけ見ていれば、歳相応の女学生、なんだがな。私の本気の速度にすらついてくるその能力と経験は、いったいどこで覚えたのやら。・・・やはり、零戦のパイロットという経験が生きているのか?・・・まさか負けるとは・・・)

 

 そう、今回叙々苑で肉を食べていることから判るように、織斑千冬は模擬戦で「小鳥遊彩羽」に負けてしまったのだ。どれだけ攻めても彩羽には刃が届かず、逆に彩羽が投げたペイントボールの直撃を貰ってしまったのだ。

 

(上には上がいるのだな。世界最強などと、私が自惚れていた。明日からは身を引き締めて、より一層訓練を積まなくては、な。)

 

彼女は数カ月後に行われる第二回モンドグロッソにむけて、新たな決意を胸に、苦笑を浮かべながらも、舌鼓を打つ。

 

 

 肉を頬張りながら、篠ノ之束は小鳥遊彩羽へと視線を向ける。彩羽は束の視線など全く気にならないようで、肉を笑顔で頬張り続けていた。

 

(うーん・・・たっちゃんがちーちゃんに勝っちゃうなんて。データ上だけじゃなくて、実技でもたっちゃんはイレギュラーなんだね・・・。それに稼働データも異常だった。展開装甲、ほとんど使いこなしてるじゃん。まったくもう、たっちゃんは束さんの予想の上をいっちゃったなぁ。

 それに、暮桜と零式からはスペック以上の数値が出たし・・・・うん。やっぱりたっちゃんとちーちゃんを戦わせて良かった、かな。)

 

 彩羽から視線を外した束は、少し赤みが残るカルビを頬張る。さらっとした肉の油と、溢れ出る肉汁が束の舌に襲いかかった。

 

(・・・うん!美味しい!ま、今はたっちゃんの異常性とか、データよりも、目の前のお肉を楽しもう!ちーちゃんのおごりだし!・・・それにしても、ちーちゃんと、たっちゃんは、本当、どこまで飛んでくれるのかなぁ・・・。) 

 

彼女は「千冬」と「彩羽」という翼の行先を考え、満足気な笑みを浮かべながら、舌鼓を打つ。

 

 

 マイペースで肉を頬張るチーフは、この中で最も年上である。それ故に、誰かを見つめるということはせずに、全体を俯瞰に近い視点から、眺めていた。

 

(千冬殿も、束博士も先程から彩羽さんをちらちらと見過ぎですね。ま、確かに千冬殿に勝ち、束博士も考えつかないようなデータを叩きだしてしまっては、致し方ないのでしょうが。)

 

 彼は肉を頬張り、ビールを煽りながら、思考を続ける。

 

(うん、旨いですね。あぁ、新しい、みたこともないデータが取れたこんな日は、実にビールが旨い。

 束博士が提示したスペック以上の数値を叩きだした暮桜に零式、そして何やら、千冬殿と彩羽さんが戦っていた時は、コアネットワークの反応が激増したと束博士は言っていましたし。今回の模擬戦、束博士も知らない、新たなISの可能性を見つけ出すきっかけになるかもしれませんね。あぁ、明日からのデータ解析が、実に、実に楽しみだ!・・・そうだ、次はH2で宇宙に登ったりしてはくれないもんですかねぇ・・・?)

 

彼は、「千冬」と「彩羽」が見せたISの新たな可能性に宇宙への希望を見出しながら、舌鼓を打つ。

 

 

 私は前世でも、今世でも、牛肉はそこそこ食べていた。アメリカの赤身肉も好きだし、オーストラリア牛の赤身だけれど柔らかい肉も好きだ。

 だが、目の前にある肉は一体なんだろうか。「和牛」とは聞いていたが、これがほんとに牛なのか。

 

 生肉の状態でもほぼ食べれるようななめらかな赤身に、脂肪のサシが均等に入っている。店内のライトに照らされたそれは、正に赤いルビーである。

 そして、焼き肉の花である「七輪」とでも言うべき所の網の下では、備長炭の炭火が煌々と輝き、肉の登場を今か今かと待っているようであった。

 

 赤いルビーが、千冬の手によって、備長炭の炎が待つ網の上へと、今乗った。

 

 あぁ、この音だ。この音。空腹の今の私には凶悪な音である。熱された網に牛肉が乗り騒ぎ立てる様は、祭りのお神輿のようである。次々とそのお神輿は増え、気づけば網いっぱいに祭り囃子が広がっていた。

 

 それと同時に、私も肉を食べる準備を行う。まずはタレだ。・・ふむ、特製ダレか。うん、やっぱりまずは、そのお店の基本を味わうべきであろう。他にも種類はあるもののとりあえずは置いておこう。皿を準備しタレを入れ、割り箸を割れば、私の準備は完了である。

 

 ・・・そして眼光鋭い千冬が、網の上で騒ぎ立てる肉達を見極め、最高潮の時に皆の皿に静かに乗せていった。その様、正に世界最強の焼き肉奉行といったところであろうか。

 

(あぁ・・・なんて光沢の素晴しい、お肉なのか)

 

 皿に乗せられた肉は、芸術品と行って良いものだ。千冬の手によって焼かれたそれは、焦げなく、ほんのりと赤身が残り、なにもしないでも肉の脂が肉の表面を河のように流れ続けていた。どれだけ良い肉なのか。

 

(いやいや、とりあえずは眺めるだけではもったいない!)

 

 割り箸を手に持ち、肉を挟む。その瞬間、更に肉汁が溢れ出る。このまま口に運びたいが、まずはタレを付けなくては。落ち着いてタレをつける。

 

 黒く光るタレと、肉汁が混ざり合ったそれを、私は一息で口に放り込んだ。

 

(・・・・・!)

 

 舌に載せた瞬間に、旨味が弾けた。濃厚でありながらもサラッとした肉汁と脂の味。そして、一口、二口と肉を噛みしめると、赤身の肉の旨味が引き出され、更にそれが肉汁と絡み合い実に、実に・・・!

 

「うまっ!」

 

 ・・・思わず声に出てしまった。だが、それほどに旨いのだ!そして、手元には、これまた絶対肉に合う、「白米」が・・・・。

 

 彼女は、取り巻く環境もなんのその。目の前の焼き肉の美味しさに、無邪気な笑みを浮かべながら、舌鼓を、打つ。

 

 

「本当に旨そうに食うな。彩羽は。」

 

「だって美味しいですもん!」

 

「はは。そうかそうか。ま、私に勝ったんだ。好きなだけ食え!」

 

「はい!」

 

 今日の財務省である織斑千冬からお許しも頂いたことだし、思う存分喰ってやる!カルビ!白米!キムチ!そして霜降り!

 

 ・・・そしてこれは、第二回モンドグロッソ開催の数カ月前の出来事である。まさかこの時、千冬がモンドグロッソの決勝戦を棄権してしまうなどとは、誰が思っていたであろうか。




妄想捗りました。

千冬「世界最強にアグラをかいていたな。身を引き締めて精進せねば」
束 「たっちゃんとちーちゃんはやっぱ最高だ!」
チーフ「次はH2にでも乗って宇宙へ上がってデータ取りでも・・・」

小鳥遊彩羽「焼き肉めっちゃ美味しいんですけどー!」

温度差はこんな感じです。


次回からは一気に時が進み、IS学園へと彩羽は向かいます。
あいも変わらず、空を楽しむ彼女は、学園で一体どんな騒動を引き起こすのか。
それとも、引き起こさないのか。

のんびりとお待ち頂ければ、幸いです。

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