あれから、アルゴと共に街に戻ってきていた。
「…………」
正直に言って、呀の力は恐ろしく強い。アインクラッドの100層へ到達するためのいくつもの、ボスを倒すための強力な力となり得ることら間違いないだろう。
「…………ぃ」
ただ、それだけでヘイト管理ができない化け物を取り扱っていけるかどうかも疑問に残る。
正直、『暗黒騎士のペンダント』を見たときはもっと良いものだと思っていたが、扱いが難しい。
敵に出くわせば、必ず追われるという属性が付与されるのだ。HPが少ない状態であれば命取りになりかねない。
「あーい、コウガ?」
「おわっ!?」
気がつくとアルゴが下から覗き込んでいた。
それに驚いて、慌てて顔を上にあげる。
「どうしたんダ、コウガ?」
「うん、まあな」
声をかけてくれていたんだろう。正直に気がつかなかったとは、言いづらいので適当な相づちでアルゴに返す。
「聞いてなかったんだロ?」
「ごめん……」
「いいヨ、いろいろと考えたいって気持ちはわかるからナ」
「そうだな………」
呀のこと。キリトのこと。家族のこと。これからのこと。SAOのこと。攻略のこと。リアルの体のこと。
そして、茅場晶彦のこと。
考えなければならない問題はいくつもある。
「コウガ、そんな暗い顔するナ。とりあえず、飯にしよーゼ」
「そうするか……」
現在の時刻は20時を超えているが、幸いなことにSAOではNPCが運営する店は大抵どの店も24時間営業しているので対して困りはしない。
とぼとぼと歩きながら、商店街を見て回る。心なしか昼間よりは騒ぎは収まっているように見えた。
「とりあえず、酒場かな?」
「それでいいゼ」
商店街の奥にあるこじんまりとした酒場に入ろうと、手をかけて思い止まる。
「アルゴ、フード被るか?」
「いいヨ。何かあったら守ってくれるんだロ?」
アルゴがこちらを向いてニカッと笑う。
魅力があるというかなんというか、珍しくあざとさの欠片もないくらい純粋な笑顔にドキッとする。
「…………行くぞ」
気恥ずかしさから顔をそっぽへと向けて、酒場の扉を開いて中へ入る。
後ろをニコニコと笑顔で着いてくるアルゴに、内心ではドキドキしているのがバレないように、辺りを見回す。
普段……リアルではあり得ない時間にあり得ないお店に入っていることに内心、罪悪感を覚える。
夕飯時を過ぎた酒場は、予想以上に多い人数で埋め尽くされていた。
だいたい大人の男性が大半を占めていて、中には女性の姿をちらほら見ることもできた。
「おーい、コウガじゃねえか!」
「ん?誰だ、コウガ?」
不意に遠くの方から声をかけられたので声のする方向を見るとクラインがこちらに近寄ってきていた。と、同時に背中に抱きつくような形でアルゴが身を隠す。
「ああ、今日会ったばかりだが仲良くなったクラインだ。大丈夫、悪い奴じゃないから……」
「そっカ……」
リアルのキャラだと緊張してしまうのか、アルゴは背中に隠れながらそっと近寄ってくるクラインの方を見る。
キリト曰く、センスの無いバンダナだがそんなことはないと思う。ただ、ゲームで最初会った時よりも実際の顔の方がクラインらしいと感じてしまう部分が多くあった。
まだ、出会ったばかりで何を知っているのかとも思うが、なんとなく察せてしまえそうなクラインの人柄はどこか一緒にいて落ち着くものがあった。
「よう、コウガ。夕方ぶりだな」
「クラインこそ。仲間とは無事に合流できたみたいだな」
先ほどまでクラインの座っていた座席を見ると何やら6人ほどで飲みながら話していたらしく、顔を寄せながらヒソヒソと話し合っていた。
「ああ、本当にな」
心底安心したように、クラインは笑顔を向けてくれた。
「ところで、コウガ。後ろのお嬢さんは何者だ?」
「ああ、こちらは……」
アルゴを紹介しようと場所を移動しようとしたが、それよりも先にアルゴがクラインの前に出て声をかけた。
「情報屋のアルゴダ。よろしくナ」
「クラインだ、こちらこそよろしく。で、コウガ。用事ってそういうことだったのか?」
「そういうことって、どういうことだよ!」
突然、目を見開いて突っかかってくるクラインに驚きながら、ツッコミを返す。
「いいよなーお前は……このデスゲームの世界で彼女もいて、幼馴染もいるんだ、羨ましいぜ……」
右腕で涙を拭う真似をするクラインと横で顔を真っ赤にさせながら俯いているアルゴ。
「いや……か「彼女じゃないヨ」」
彼女じゃないといいかけたところで、アルゴがポーカーフェイスで割って話す。
「いや、だってよぉ。デスゲームが始まって、用事がぁ「彼女じゃないヨ」」
クラインの言葉をも遮って、アルゴは続けた。
「オレっちは情報屋で、コウガはオレっちのボディーガードダ。いいナ」
「おい、アルゴ。誰が、ボディーガードだ、誰が」
言い争いになるかと思った瞬間、アルゴが顔を上にあげ小さい声で耳元につぶやいた。
(頼む、ここはオレっちに話を合わせてくれ)
(まあ、わかった)
耳打ちで聞いた言葉に了承をして、とりあえず話を合わせることにした。
「コウガが手に入れたアイテムがβテストの時には情報もなかった代物だったんで、俺っちなら知ってるかもというわけで情報を提供する代わりにボーディーガードを依頼したんダ」
「そういうことだったのか……ごめん、俺は飛んだ勘違いをしていたようだ」
こうしてアルゴの即興の嘘にまんまとクラインは騙されることとなった。
「じゃあ、とりあえず一緒にメシでもどうだ?」
「いいのカ?」
もうお腹が限界なのか、それともクラインにおごってもらえると思っているのかクラインの一言に人見知りをしていたアルゴが唐突に食いついた。
「ああ、クラインとキリトには世話になったからな」
「とりあえず、エール二つ」
「お酒はダメだゾ、コウガ」
このVRMMOには味覚再生エンジンが搭載されているため、ゲームの世界でもお酒を飲むことも可能だが、まだ成人していないことを知るアルゴに止められた。
「じゃあ、コークで」
「オレっちも同じものを」
「おう、わかったぜ」
メニューから飲み物を選択して、注文をしようとしたが、どうやらクラインがまとめて注文してくれるみたいだった。
「とりあえず、俺の仲間を紹介するぜ」
メンバーの自己紹介が終わり、クラインがコウガとアルゴを仲間に紹介する。
「へぇー、二人ともβテスターなんだ」
「ええ、まあ、その頃から仲良くしてもらってます」
「コウガ、そのケーキとってクレ」
「はいはい」
「あ、すみません。エール4つと、この料理追加で、それとケーキも」
クラインの仲間と話しながら、アルゴの要求にも答え、目の前の料理や飲み物が無くなりそうになればNPCに注文を行っていく。
予想以上に、クラインの仲間と仲良くなり、βテスト時の情報交換などを行っていた。
「結局、このゲームだとソードスキルが鍵を握ってるんですよね。ソードスキルを自在に発動できない状態でレベリングを行うのはかなり危険だと思います」
「なるほどね。結局、ソードスキルによって相手のモンスターのHPを削らなければいけないということか……」
「そうだナ。ソードスキルなしでも倒せないことはないが、ソードスキルで倒すよりも時間が掛かる上にメリットがないゾ」
コウガの言葉をアルゴが引き継ぎ、クラインの仲間へ答える。
「でも、街中だと戦闘できねえ訳だろ?ソードスキルはどうやって磨けばいいんだよ?」
「それは簡単だ。クラインには言ってなかったが、街の中に演習場があるからな。そこで、藁人形相手にソードスキルの実践ができるようになっている」
「オレっちも情報屋として攻略には力を貸すつもりダ」
アルゴはそう言っていつ作ったのか、一冊の本をクラインに手渡す。
「これがあれば楽にとはいかないガ、通常よりも早い速度で次の街へ行けル。明日か、明後日には街のNPCの商店街でも配布しようと思っていたものダ、有効に活用してくれよナ」
「ありがたくいただくぜ、アルゴ姉さん」
いつの間にかすっかり仲良くなったアルゴとクラインは何かが通じ合ったかのように、ぐっと親指を立てていた。
「後な、クライン。こんなことを頼むのは筋違いかも、しれないができるだけ多くのプレーヤーを導いてあげてほしい」
そういって、メニューウインドウを開き現在手持ちであるお金のうちの大半である100000コルをクラインへと送金する。
「コウガ、こんなに貰えねえよ」
送られた金額に目を見開いて、クラインは慌ててキャンセルボタンを押そうとするがコウガの手がそれを阻止する。
「受け取ってくれ、その金はクラインにあげたものだ。仲間のためでもいい、好きに使ってくれ。多くの人間がこのデスゲームを生き残るためにな」
「コウガ……」
「じゃあ、時間も時間だしそろそろ宿屋へ行くか……」
「ああ、そうだナ」
クラインに背を向けて、アルゴとともに酒場を出るために歩き出す。飲食代の会計分も先ほどの金額からしたら微々たるものだろう。
「コウガ、ありがとな。じゃあな!」
「ああ、じゃあなクライン」
クラインは阿保な部分もあるがバカではない。先ほどの会話からコウガたちがすぐに街を出ることには気がついただろう。おそらく、クラインであれば初心者の育成にも手を回してくれるだろう。
クラインに手を振って、酒場の独特の重い扉を開け放って外に出る。
「よかったのカ?さっき、モンスター倒しててに入れたコルとβテストの特典のコル、全部渡したんだロ?」
「よくわかったな」
「クラインさんもバカではなさそうだからネ。多分、初期値の何倍ものコルをもらったんだと想像したんだヨ」
さすが情報屋、洞察力に優れてる。
「それは、そうと宿屋いくか……」
――――――――――――――
――――――――――――――
Sword Art Online
~暗黒騎士鎧伝~
第二話
儀式-Ceremony-
――――――――――――――
――――――――――――――
「宿屋がいっぱい?」
「申し訳ございません。只今、多くのお客様にご利用いただいておりまして残り一部屋なっております」
NPCに言われて、がっくりと肩を落とす。
現在はアルゴと二人っきりで、宿屋に来ていたが残念なことに空き部屋が一つしかない。
「しかたねーナ。一緒に寝るカ?」
冗談めかして笑うアルゴに、コウガは肩を落としながら半目で睨む。
「出来るわけないだろ……」
VRMMOの中で、なおかつβテスト時からの知り合いだからって、この状況で同じ部屋で寝るわけにも行かず、コウガは頭を抱えていた。
システム的には二人で泊まることももちろん可能なのだが、どうにも理性的に難しい。
「野宿は……」
「却下ダ。死んだらどうすル?」
ずいっとアルゴに凄まれて、後ずさる。
「いやいや……わかってるよ、アルゴ……」
さすがにゲームで死んだら現実でも死ぬのだから、いつモンスターに襲われるかわからない外で寝るなんて愚の骨頂としか言いようがない。
「ここまで来ていないか……」
現在は商店街よりもかなり遠い宿屋だ。
もう何件かはわからない宿屋に来て、ようやく泊まれる宿屋を見つけたが一人分しか空いていないときた。
始まりの街がいくら広大だからといって、宿屋が一万人も収容できるわけでもなく、精々7000人程度だろう。
「アルゴはここに泊まれ、俺は他を探すから」
「行かないでくレ」
外へ体を向けて歩きだそうとした瞬間、アルゴに服の裾を捕まれる。
「一人は嫌ダ……」
「…………」
今にも泣き出してしまいそうなアルゴの頭に手をおいて、どうしたものかと考える。
すると突然アルゴに腕を捕まれ、そのまま引きずられる。
「一泊、二名ダ」
「はい、畏まりました」
NPCにすぐに料金を支払って、部屋がある二階まであっと言う間に引きずられていった。
「ちょっと、アルゴっ!」
こちらの言葉を一切無視して前だけを見て、アルゴは歩いていた。
とうとう、部屋の前にまで連れてこられてしまった。
「オ、オレっちが良いって言ってるんダ……」
「わかった、わかりました。降参だ」
両手を上にあげてまいったのポーズをして見せる。正直、ここまでされるとは思っていなかった。
「にゃハハハ。オレっちの勝ちだナ」
アルゴがそういって部屋へと続く扉を開ける。不覚にも今日何度目かになる意外なアルゴの一面にドキッとさせられてばかりだった。そして、アルゴのことだから、からかわれて終わりだと思っていたのでさすがに一緒の部屋に入って同じベッドに腰掛けているとなんだかそわそわしてくる。
というより落ち着かない。
「なあ、アルゴ……なんで、ベッドが一つでサイズがクイーンなんだよ……」
「にゃハハハ……ごめン」
おまけに言った通り、二人で一つの大きいベッドが割り当てられている。
VRMMOとはいえ、ゲームはゲーム。二人部屋にすれば、無理のない範囲で部屋の内装が変わる。一人部屋であればそれ相応の広さで一部屋、二人部屋であれば一人部屋よりもさらに大きい大きさでツインかダブルorクイーンで選ぶことができる。
さっき、アルゴは急ぎでボタンを押してたのでツインとクイーンを押し間違えてしまったのだろう。
「さて……」
時間見る。現在は23時を回っていた。
「とりあえず、ラウンジにでも行ってくるよ」
「オレっちも行くゼ」
結局、アルゴと二人で気まずい雰囲気をどうにかするためラウンジへと歩いていく。
階段を降りて、ホールへと向かう。お世辞にもお洒落とは言えないが綺麗に整頓されている。
まあ、バーチャルだから埃とかが積もるわけではないのだが……印象の問題だ。
「それはそうとコウガ、異常はないのカ?」
「うーん、まあ得には……ないかな」
恐らく呀へ変身したことだろう。通称が暗黒騎士なのだから当然といえば当然だ、代償なしの変身など、有り得るのだろうか?
現在は体に異常などは出ていないが、これから出てくる可能性もある。
一応、体調には気をつけないと。
「そうカ、なら大丈夫ダ」
そういってアルゴはラウンジの椅子へと腰を下ろした。
「心配してくれて、ありがとう」
コウガもアルゴと同じように腰をかける。
「コウガは明日からどうするんダ?」
「昼間についてはレベリングかな……夜は呀のステータス把握をしようと思ってる」
「そうカ、オレっちは情報収集がてらコウガのレベリングに付き合うゼ」
「ありがとう。ちなみに、アルゴは今レベルはどれくらい?」
「オレっちは4レベルだナ。コウガが相当モンスターを倒してくれたからいい感じでレベルが上がってるヨ」
「そうか、俺のレベルは6だな。やっぱり経験値は均等割りじゃないか」
少しずつだが、ソードアート・オンラインのシステムを把握しつつあった。
恐らくだが、倒したプレーヤーが100%の経験値をもらえるならば、パーティーメンバーら80%の経験値をもらえる仕組みなのだろう。
ただし、経験値も変動制であるため同じモンスターを倒し続けても少しずつレベルが上がりづらくなっている。
「そこの二人、ちょっといいか?」
「ん?」
不意に後ろから声をかけられたので振り替える。まわりに人が いないことからコウガとアルゴに話しかけているのだろう。
「おわっ!?」
そして、驚いた。
巨体の黒人がそこに立っていた。
「そう驚くなよ、俺はエギルだ」
「ああ、俺はコウガ。よろしくエギル」
「オレっちはアルゴダ。よろしくナ」
エギルと言われた黒人男性との挨拶を済ませて、エギルはコウガとアルゴの前に腰を下ろす。
「それで、何の用事だった?」
「ああ、二人ともフィールドへ出たのかと思ってな」
「出たよ」
「街で待っていた方が安全なのに何故だ?」
「決まってル。ここに留まっていても、助けが来る保障がないからダ。だったら、レベルを上げて死ぬ確率を下げた方が断然いいだロ?」
アルゴの言葉にコウガも頷く。アルゴの言う通りここは茅場晶彦の作った仮想世界であり恐らく全システムにアクセスできる権限を持っているのは茅場本人だけだろう。
だとすると、もはや茅場以外に強制ログアウトの権限を持つものはいないだろう。なら、茅場の思惑通り100層をクリアする方が早い。
システムの強制終了なども出来ないだろう。それこそ、10000人の人間の脳みそがレンジでチンされかねない。
「なるほど。確かにその方が建設的みたいだな」
「それに助けがくるまでじっとしていたら、自分が自分じゃなくなる気がする」
「自分が自分でなくならないために戦うか……だが、やはり危険だぞ?」
「それでも行かないと、この街で待つと決めた人のためにもさ。誰かがやらないといけないんだよ」
「その言葉、聞けてよかった。こうして話せたのも何かの縁だ、よかったらフレンド登録しないか?」
「ああ、こちらこそ何か助けになれそうなことがあれば言ってくれ」
「じゃあ、オレっちからはこいつを渡しておくヨ」
アルゴはクラインに渡したのと同じ攻略本をエギルにも手渡した。
「いいのか?」
「どうせ、明後日には配布する予定ダ」
「基本動作から、応用。ソードスキルのディレイまで詳しく載ってるから、実際に練習してから出た方がいい」
先程、クラインに渡したあとコウガも攻略本をもらっていて一読したので内容は知っていた。
「じゃあ、ありがたくいただくぜ」
「じゃあな、エギル」
「またナ」
「おう、コウガ、アルゴ、死ぬなよ」
エギルの言葉にコウガとアルゴは手を上げて返事をしながら与えられている部屋に戻ることにした。
「ようやく決心がついたカ?」
にゃハハハと笑いながらアルゴがこちらを向く。
階段を上りながらなんのことかと首を傾げる。
「何の決心だ?攻略の決心ならもうついてるぞ」
「そっちじゃないヨ。一緒に寝る決心だヨ」
アルゴに言われて、階段から足を踏み外しかけた。
「あっ…………」
忘れてた。完全に、忘れてた。
やってしまった。寝るために、部屋に戻ると言うことは、アルゴと一緒に寝ると言うことだ。
「ちょっと、用事思い出した……」
逃げようと階段を下りようと身を引き返すと、アルゴが急に後ろから抱きついてきた。
「ちょ、ちょっとアルゴ…………」
「コウガ、逃がさないヨ」
抱きつかれているが、逃げようと思えば逃げられる。ただし、逃げるためにアルゴを振りほどけばアルゴに対してノックバックが起きる。
現在敏捷極振りのアルゴと現在力極振りのコウガでは振りほどいた時の衝撃が起こる。
恐らくステータス的に30ほど力と防御に差が出てるとなると、スタンガン程度の威力ではあるだろうがそもそも、女子に手をあげたくはない。
「降参します」
どこかでやったようなやり取りをもう一度することになるとはと思いつつ両手を上げて降参のポーズを取る。
「にゃハハハ、またオレっちの勝ちだな」
どこか意地悪な笑顔を浮かべてアルゴが背中に抱きつくのをやめて、腕に抱きつかれる。
「参ったな……アルゴには負けてばっかりだ」
「お姉さんに勝とうなんて100年早いんだヨ」
結局連れだって部屋に戻ってくることとなった。
部屋に入ってようやくアルゴから腕が解放される。
「でもさ、アルゴ。どうやって寝るんだ?」
「当然、ベッドで眠るゾ?」
βテスト時の記憶が正しければ、この世界に寝間着と言うものなど存在していない。いや、正確には存在していたとしても今の現状で持っていないのだ。
そして、防具をつけたままベッドで寝ても感覚的に気持ち悪い。私服も同様だ。
快適に寝るためには下着のみがベストとなる。
「いやそうじゃなくてさ、寝るときって下着だろ?」
「…………」
コウガが言った瞬間、みるみるとアルゴの顔が真っ赤に染まっていく。
どうやら、素で忘れてたみたいだ。
「いヤ、だけど、これは……その……えっと……私は……その、いやオレっちは……」
もうしどろもどろ過ぎて何を言いたいのかさっぱりわからん。というか、もう一人称すら定まってない。
「いいよ、他の寝床探してくるから」
さすがにネットゲームの中とはいえ女の子と一緒に寝るのは気恥ずかしすぎる。
一緒に寝たくないわけではない。ないのだが、正直今までただのネットゲーム仲間だった女の子とある日突然一緒に寝るのは、何か違う気がする。
「いい……コウガ、いいよ。コウガだったら」
「いや、でもな……」
「良いっていってるの!」
アルゴはそういいながらコウガの腕を引っ張ってベッドに引き寄せる。
「うわっ!お」
アルゴを下敷きにしないように空いている手をベッドについて反動でアルゴの隣に着地する。
体がベッドに着地した時の衝撃でベッドからドスンという大きい音が漏れる。
「…………」
「…………」
衝撃で二人とも目を見開いて見つめ合い、そしてどちらからともなく笑い出した。
「ぷっ……アハハハ」
「にゃハハハ」
「アルゴ、引っ張るなよな」
「ごめン。でも、良いってるのに部屋から出ていこうとするコウガだって悪いんだヨ」
「それはごめん」
「いいヨ、わかってくれたみたいだしナ」
そう言ってアルゴはメニューウインドウを操作して防具と服を解除した。
アルゴが着ていたのは薄黄色の下着姿だ、所々にフリルがあしらわれていて可愛らしいデザインのものだった。女性らしい膨らみに目がいってしまう。それに気がついたのか、はたまたやはり恥ずかしいのか、手で胸などを隠している。
「えっち……」
「ごめん……」
気が付かれていた。健全な男子中学生としては、当然の反応だと思う……思うがそれでも理性では見てはいけないという気持ちもある。
結局布団を被って体を見えないようにすることにした。
仕方ないとはいえ、やはり残念な気持ちは隠しきれない。
「コウガでも、そういう反応するんだネ」
「健全な男だからな……」
「コウガはゲームばっかりでそう言うのに興味ないと思ってたヨ」
「そんなことないよ、アルゴの下着姿を見ればドキドキするし、もう少し見たいとも思う。普通の男だって」
「もう遅いし、寝ようカ」
「そうだな………」
緊張からかお互いに視線を会わせないようにそっぽを向いている。
結局、電気を消して就寝することにした。
暫く時間がたったが、いろいろありすぎたせいで中々眠れない。いや、寝付けなかった。
隣のアルゴを見るために体を動かすとアルゴは熟睡しているようですやすやと気持ち良さそうに眠っている。
「…………ふぁ」
ゴロンと寝返りを打ってアルゴがこちらへ向く。
その目には涙が浮かんでいる。飄々としているが、どこかでやはり孤独に耐えているようにも思える。
「アルゴ……」
頭の上に手をのせて少しのあいだ、アルゴの頭を撫でる。
「んっ……」
少し気持ち良さそうに喉を鳴らす。しかし、どう見ても起きる気配はない。
ベッドから起き上がり、装備を整える。
アルゴには言っていなかったが、どうしても確認しなければいけないことがあった。
「ごめんな……」
そう言ってコウガは部屋を出た。もちろん、アルゴから預かっていた鍵で部屋に鍵をかける。
そして、フィールドへ向かった。時刻は午前4時。さすがに夜型のプレーヤーだとしてもさすがにこの時間にはいないだろうと思うが。
やはり見渡す限りプレーヤーはいない。
「呀…………」
ペンダントを取り出して息を吹き掛けて、空中に円を描く。
一つの円は三重になり、鎧が召喚される。
全身が黒い鎧に覆われ、十字傷のついた狼の顔が現れる。
黒炎剣をその手に掴む。
そして、夜に見たイノシシ型のモンスターがこちらに気がつき突進をしてきた。
「ああ……」
――やっぱり思った通りだ……。
――――美味しそう……――――
黒炎剣をストレージへとしまい、ポールアックス状の武装、
暗黒斬を突進してきたモンスターに対して避けると同時に叩きつける。
黒炎剣で切り裂いたときと同様に真っ二つになって消えるが、黒炎剣で切った時と違いモンスターは手のひら代の鍵状のアイテムを落とす。
そして、モンスターが落としたアイテムを自分の胸に突き刺す。
一切の痛みなどはなく、鍵状のアイテムからモンスターの力が入ってくる。
すべて絞り尽くすと同時に鍵状のアイテムは霧散し消えた。
「やっぱりか……」
敵を倒すことでも上がらなかった経験値はモンスターを食べることで得られていた。
ただ自分を満たすためだけに暫くのあいだモンスターを切り裂き、殺して力を吸収し続けていた。
そして、気がついた。
ヘイト管理ができないのではない。
呀はモンスターを喰らうことで強くなる。ということは、モンスターにとって呀は外敵以外の何者でもなく、モンスターは自分が生き残るためにこちらへと攻撃をしてきていたのだ。
なるほど、と理解した。
いくら考えても出てこなかった答えがようやく出てきたような感じがする。
「お前らの力、俺が根こそぎ吸収してやる……」
コウガはその眼に憎悪の炎を燃やしながら、暗黒斬でひたすら切り殺し続けていた。
何体倒した?
1体目は上下に真っ二つ。2体目はスライス。3体目は四分割。4、5、6、7体目からはもはや覚えていない。倒したモンスターは消滅エフェクトがかかり消えてしまうため、屍を数えることはできない。
呀のレベルが10を超えたため100体くらいは喰らったのだろうか。
もう数などわからない。
コウガ本人のレベルは13を超えているが、やはりこの辺りのモンスターでは、物足りなくなってきてしまった。
斬って殺して喰らって、斬って殺して喰らって、斬って殺して喰らってを繰り返す。喰らうたびに強くなる。
ただただ、強くなるため。たったそれだけのために殺し尽くした。
もう、周りを見るとポップするモンスターもいない。
自分の体を見ると一切の汚れなどないが、返り血を浴びたような感覚に陥る。
――――ああ、洗わないと……
酷く自分が醜く見える。
確かに、このモンスターを喰らう姿をみれば『暗黒騎士』の名に相応しい狂いっぷりだ。
「ハハハ……」
乾いた笑いが辺りに木霊する。
とんでもないアイテムを手に入れてしまったみたいだ。
これからも、この『儀式』を行わないといけないのだ。
早く、この罪悪感にも慣れてしまわないと……。
そう思いつつ、変身を解いて町へと向かう。
次回『仲間』
二話を読んでいただいてありがとうございます。
白鷺です。
今回はアルゴをだいぶデレさせてみました。
個人的な設定として一つ、普段飄々としているアルゴですが実はリアルでは結構、女の子してるのではと思い慌ててしまったときなどはリアルの一人称がでてしまうのではっ!と思っております。
次回の更新も一週間以内を予定しておりますので、これからもどうぞご贔屓に。
評価や感想お待ちしております。
特に良い感想など頂けると、更新の速度が上がるかもしれません(笑)
※気を付けてはおりますが、誤字脱字などがあれば感想欄にお願いいたします。確認ができしだい、すぐに修正いたします。
では、また次回。