ソードアート・オンライン〜暗黒騎士鎧伝〜   作:白鷺燕

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Sword art online
第一話 誕生


「おい、光呀!お前、いつまで家にいるんだよ……」

 

 

「ソードアート・オンラインの正式サービスが始まる10分前まで」

 

和人の言葉に適当に返して、和人の机の上に置いてあるゲーム情報誌を持ち上げて読み始める。

 

「いや、それはいいんだけどな。俺、お前とはパーティー組まないからな?」

 

「そりゃ、なんで?」

 

不満そうに言う和人の言葉に、半目で答える。

正直、今までのオンラインゲームを含めて、ソードアート・オンラインのβ版の時も一緒にプレイしていた。だからこそ、和人の言葉に疑問を覚える。

 

「なんでって……光呀お前、フレンド多くてパティーメンバー増やすじゃないか」

 

「和人はもっと俺以外の人ともコミュニケーションをとらないとさ、いい加減人間が腐っていくぞ」

 

「腐っていくは余計だ。まったく、光呀はいつも、自分勝手すぎだろ……」

 

和人にため息をついて、半目で睨まれる。

そこで、和人の部屋のドアがノックされ、開かれた。

 

「お兄ちゃん、部活行ってくるねーって、光呀さん来てたんですか?」

 

「お、直葉ちゃん、お邪魔してるよー」

 

「お兄ちゃん、光呀さんをゲームの世界に引きずり込まないでね」

 

なぜか、直葉に和人が睨まれていた。

 

「スグ、それは俺のせいじゃ……』

 

「光呀さんは全中連で優勝する実力者なのに、最近はお兄ちゃんとゲームしてばっかりで……」

 

普段、直葉と一緒に剣道場に行ったり、一緒に練習したりしていたが最近は和人とゲームばかりで剣道をおろそかにしすぎているのかもしれない。

直葉の剣道の実力は相当なもので同級生などでは相手にならないことが多い。

そのため、同じレベルもしくは自分より強い相手と模擬戦ができることが少なかった。

 

「まあまあ、直葉ちゃん。俺は和人の引きこもりを直そうとしてだな……」

 

「誰が引きこもりだ、誰が!」

 

「もう、じゃあ私はそろそろ行かないと……」

 

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 

「行ってらっしゃい、スグ」

 

「行ってきます!」

 

直葉ちゃんはそう言うと部屋から出て行った。

やっぱり直葉ちゃんは元気だな……和人と違って。

 

「直葉ちゃんが出てくってことは、もうすぐ13時になる頃か」

 

時間を確認する。現在12時50分。

 

「じゃあ、和人。俺もそろそろ家に戻るよ」

 

「おう、光呀じゃあ始まりの街でな」

 

「ああ、今度こそお前を倒してみせるよ」

 

「行ってろ、俺は負けない」

 

和人と話して、和人の部屋を出て、隣の自分の家に戻る。

 

今日、この日をどれだけ楽しみにしていたか。

 

ベットの上に寝そべって、ナーヴギアを装着する。時間を確認。

 

13:00。

 

ソードアート・オンライン正式サービス開始――――。

 

 

――――――――――――

 

sword art onlin

 

~暗黒騎士鎧伝~

 

――――――――――――

 

 

「リンク・スタート!」

 

瞬間、頭の中に映像が流れ込んでくる。ナーヴギアを通して、夢にまで見たソードアート・オンラインの世界に戻ってきた。

 

βテストの時に使用していたデータを引き続き利用する。

 

視界が開けて、はじまりの街にたどり着く。

全身を動かす。肩から腕、指の稼働。股関節から足の付け根の先端まで体全部が正確に動くことを確認する。

 

「よっしゃ、戻ってきたぜ!」

 

体が正常に動くことを確認してから、この世界に戻ってこれたことへの充実感を口にする。

黒く短めの上に、細身で長身、なおかつ現実世界と同じ赤目につり目。勇者というよりもザ・魔王といったようないでたちだ。

 

「戻ってきた、この世界に」

 

隣で同じようなことをつぶやいた青年がいる。勇者のようないでたち。βテストの時と同じ格好だ。

 

「キリト、10分ぶりだな」

 

「おう、コウガ……で、いいのか?」

 

今回、βテストの時と同じデータを作っているので、初心者だった時につけた名前がそのままになっていた。

 

「ああ、βの時と同じだからな」

 

「じゃあ、早速行くか!」

 

和人の言葉とともに一気に商店街を駆け抜ける。街のあちこちでプレーヤー同士が買い物をしたり、パーティーを作るためにコミュニケーションをとっている。

 

それを横目に見ながら、キリトと二人街を一気に進む。一歩、一歩と進むうちに目的地に近づく高揚感が心地よい。

早く、戦いたいという衝動に駆られる。

 

「おーい!そこの兄ちゃんたち!」

 

商店街から外に出るため、脇道に入った瞬間、後ろから声が聞こえ立ち止まる。

後ろから追ってきていた人物は悪趣味なバンダナを巻いて顎鬚を伸ばした青年だった。青年と行ってもゲームだからか、本当の姿がわからないため、本来の意味で青年かどうかは疑問が残るが。

 

「俺?」

 

隣でキリトが自分を指差しながら頭に疑問符を浮かべている。

青年は息を切らせて肩で呼吸をしながら、キリトへと詰め寄る。

 

「その迷いのない動きっぷり、あんたたちβテスト経験者だろ!」

 

「まあ……」

 

青年の勢いに飲まれて、キリトが後ずさる。

 

「俺、今日が初めてでさ。序盤のコツ、ちょいとレクチャーしてくれよ」

 

青年の言葉にキリトは困惑気味な表情を浮かべて、目で助けろと合図をしてくる。

これも、コミュニケーションの勉強だと思って頑張れキリト。なにかあったら助けるからと内心で思う。

 

「頼むよ、俺クライン。よろしくな!」

 

「俺はキリトだ」

 

クラインと名乗った青年に対してキリトも自己紹介で返す。

自己紹介の時だけ、やたらドヤ顔なところが妙に笑えてしまう。

 

 

「それで、そっちが……」

 

「ああ、俺はコウガだ。よろしくな、クライン」

 

「コウガにキリトか、よろしく頼むぜ」

 

「じゃあ、早速戦闘にでも行きますか!」

 

コウガの合図とともに三人で始まりの草原に向かって歩き出す。

 

「ところで、お二人さんはβテストの時に知り合ったのか?」

 

「いや、リア友だよ。キリトとは幼馴染でさ」

 

「すげーな、二人ともβテストに当選するなんて」

 

クラインが驚愕に目を見開いて話す。確かに、βテストに当選して手に入れている人間なんて中々いない。それも家が隣同士の幼馴染がといえばなおさらだ。

 

「まあ、今回は運が良かっただけだ」

 

「さて、そろそろ草原かー」

 

雑談をしていると、目的の狩場にようやくたどり着いた。

 

「俺は教えるの苦手だから、頼んだ。俺はすぐ近くで狩りをしてるよ」

 

「おう、じゃあ後でなー!」

 

「ああ、って言っても二人からも見える位置にいるから大丈夫だよ!」

 

クラインに返事を返して、キリトとはアイコンタクトで済ませる。正直、小さい頃から一緒にいるため、この程度の意思疎通はアイコンタクトでなんとでもなってしまう。

 

二人がソードスキルの練習をしている中。イノシシ型のモンスターを目の前に見据えて武器を構える。

本来なら、刀を選びたかったが初期装備では刀の武装はないため細身の直剣を選んだ。

 

「さて、やりますか!」

 

舌舐めずりをしてイノシシ型のモンスターに投擲スキルで石を投げる。体当たりをしてきたモンスターに対して真正面からソードスキルをぶっ放してとりあえず一匹目を倒す。

 

続いて、二匹目、三匹目、四匹目と徐々に撃破数を稼いでいく。細身の直剣と言うことで攻撃力ではキリトの片手剣やクラインの曲剣には劣るがその分速度が速い。

 

連続で十匹を倒し終えて、小高い丘の上に腰を落とした。

 

「あー、クラインがぶっ飛ばされてる」

 

先ほどまで倒していたイノシシ型のモンスターにクラインが吹き飛ばされていた。

 

「まあ、そのうち覚えるでしょ」

 

クラインの動きを見て大丈夫だと確信して地面に寝転がる。ちょうど木の陰になっており、日差しが入らず気持ちがいい風が吹いている。

 

ふと、木の根の部分に黒い石が見える。一瞬、小石かとも思ったがどちらかというと人工物のような感じが出ている。

 

「なんだ……これ?」

 

黒い石に近づく。黒い鏡面素材でできた人工物の石を見る。

 

――――――マッテイタ――――――

 

突如、頭の中へ声が響く。低く濁った、地獄のそこから聞こえるような声。まるで地の底まで引きづり込まれてしまうのではないかと錯覚するような声。

 

何かと思い墓石に似た黒い石に触れてみる。

 

瞬間、頭の中にノイズが走る。黒い鎧を着た騎士。狼のような顔をした禍々しい黒い騎士。

 

それと合わせて入り込んで来る憎しみのイメージ。

 

父親が母親を殺し、父親はホラーに殺された。ホラー?ホラーってなんだ?

 

『暗黒騎士呀<キバ>』という言葉が頭の中に入ってくる。

 

対峙するのは、金色の鎧を纏った騎士。憎しみで多い尽くされそうになった瞬間、不意に現実世界に引き戻される。

 

「なんだ、これ?」

 

『暗黒騎士のペンダント』というアイテムが知らない間に、自身のアイテムストレージに入っていた。

 

説明文を読んでみる。

 

――――暗黒騎士呀<キバ>へ変身するためのペンダント。

 

そこに書いてあったのは簡単すぎる説明文だった。すでに墓石のような黒い石も消えていた。

こんなことがありえるのか?

まあいいか、後で使ってみることにしよう。

 

「おーい、キリト!クライン!調子はどうだー」

 

「おう、コウガ!こいつははまるぜ」

 

二人の元に近づくと笑顔で迎え入れていくれる。

 

「キリト、お疲れ」

 

「コウガはなにか収穫あったか?」

 

「後で少し話がある」

 

キリトには先ほどのアイテムのことを伝えないといけないと思い伝える。

 

「さて、もう少し狩りを続けるか?」

 

「あたりめえよ!と言いてえところだが腹減っちまってよ」

 

「あれ?ログアウトボタンがないぞ?」

 

メニューウインドウを開いて確認してみる。メインメニューの一番下に行ってみるが、ログアウトの表記が消えている。

 

 

なぜだ?ログアウトできないということは運営として通常だとはあり得ない。

 

「そんなことより、変だと思わないか?」

 

キリトがそう言って口を開く。

 

「確かにな……」

 

そう思っていたら、いきなり街の方から鐘の音が響いた。イベントの合図かとも思ったが、ログアウトできないイベントなんてものがあるはずがない。

 

自分の中の警戒レベルを引き上げる。

ヤバい、嫌な予感がすると思った矢先、目の前の景色が一瞬にして変わる。始まりの街、大広場。

 

 

「なんだ……これ……」

 

気がつくと始まりの街の大広場へと幾人ものプレイヤーたちが戻ってきていた。

 

「強制……転送(テレポート)?」

 

キリトだけが目の前の現状を把握していた。クラインと二人、なぜ現状でこうなっているのか疑問を覚える。

 

「なんだ、あれ?」

 

頭上を見上げるとWARNINGの赤い文字が出ていた。

 

「WARNING……?」

 

瞬間、WARNINGから赤いドロドロした液体が出てきてフードを被った男が出てきた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

私の世界ということは茅場晶彦か。

 

茅場から説明が始まる。ようするに100層までの説明を受ける。

 

はじめこそ、何かのイベントかとも思ったがすでに死んだ二百名ほどのニュースを見た瞬間に、確信をした。これが、真実なんだと。

 

ゲームで死んだら現実からも永久退場してしまう。そう待ち受けているのは−−−−死そのもの。

 

「それでは最後に、諸君らのアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ」

 

茅場の言葉と同時にアイテムストレージを確認する。先ほどまでなかったアイテムが入っていた。

その中の一つ、手鏡を取り出して確認する。

 

あたり一面を光が覆った。やがて徐々に光が落ち着いていく。

 

「キリト、コウガ、大丈夫か?」

 

赤い髪の髭を生やした青年が声をかけてくる。

 

「ああ、俺は大丈夫だ。キリトとクラインは大丈夫か……って、お前誰?」

 

「お前たちこそ、誰だよ」

 

鏡をみると、そこには黒く長めの髪、つり上がった赤い瞳、額にできたバッテン標のの傷を持った少年――――リアルの自分がいた。和人――――いや、キリトも同様にリアルと同じ女の子のような顔立ちに戻っていた。

 

 

「ってことは、お前がクラインか」

 

恐らくナーヴギアは高密度の信号素子で顔を覆っている。そのため、顔をスキャニングしているのだろう。体の方は恐らくキャリブレーションの時測定したデータか。そのため、額のバッテン傷はあるのに本来なら右腕にあったはずの傷がなくなっている。

 

「ッチ…………」

 

舌打ちをして現在の武装の状態を確認する。両手剣であるバスターソードと片手剣である細身の長剣はどちらも初期装備のもの対して攻撃力も強くはない。

 

この状態で先へ先へと進むのは危険。現状のLvは1。まっさらな初期状態といえる。

 

正直、この状態で考えるとクリアするのに人数がいくら多いと言っても5年以上はかかるはずだ。100層まで行き、ボスを倒すとなるとそれくらいにはなるだろう。

 

持っているアイテムは回復アイテムが10個。投擲武器が30。防具は皮の鎧。食べ物が数種類ほどだ。あとは特殊アイテムとして『暗黒騎士のペンダント』を持っている。現状、次の街にいくとしても、心もとない装備だ。

 

資金はβテスト時の特典のお陰で50000コルほどあるが、周辺のNPCがやってる店で揃えられる装備では限界がある。

 

「コウガ、クライン、ちょっとこい!」

 

キリトの声が聞こえた瞬間、クライン共々キリトに引っ張られる。

 

「ちょ、ちょっと待てってキリト」

 

制止の声も無視して、商店街の裏路地まで連れていかれる。

 

キリトからの提案は、次の街を主軸にレベリングを行うことだった。

 

キリトの提案に、クラインは自分の仲間と行動をすることを決めた。コウガ自身はどうするかと、思案する。

 

普通であればキリトに着いていくのがいつも通りであるが、気になったことが一つ頭の中に浮上する。

 

「コウガ、お前はどうする?」

 

すがるような、悲しい眼でキリトがこちらを見る。

恐らく、キリトも不安なのだろう。だからと言って、自分の考えを曲げたりはしないことくらい、長い付き合いだからいやというほどよく分かる。

 

「やりたいことがあるから、この街に残るよ。後からすぐ追う」

 

「そうか……」

 

「じゃあ、俺は行くところがあるから」

 

キリトとクラインを横目に全速力で広場の方へ向かう。

もし、予想が正しければまだ広場に目当ての人物がいるはずだ。

 

路地裏を抜け、商店街を抜けて広場にたどり着く。

 

「まだ、フレにはなっていないはずだが……」

 

辺りを見回す。実際、リアルの顔を知っているわけではない。いわゆるネカマやネナベの可能性があるわけでこの中から本人を見つけ出すのは困難を極める。

 

見つけ出す方法はからだの動きや口調、もしくは片っ端から声をかけて探すくらいしかないだろう。

 

「あれか……?」

 

一瞬視界に入ったフードを被った女性アバターの身のこなし。

 

――似てる。

 

思った瞬間には身を屈めて、助走をつける体制を整えていた。呼び動作から動き始めた速度は一瞬、そののち加速して女性を追う。

 

はたからみれば女性を追っているストーカーのように見えなくもないが――――構ってる暇はない。

 

女性が入っていった路地を抜けて、更に狭い路地へと入る。

自分の知る彼女の行動を予測し、行きそうな場所を突き進むと、目の前に背中が見えた。

 

そのまま速度を落とすことなく壁を蹴り、宙を舞って女性の前に着地する。

 

金色の髪に少し小さめの身長。βテスト時と同じように、ネズミのような髭のペイントをした姿。

確証はないが、本人だろうと直感が告げる。

 

「アルゴ……」

 

「だれ……?」

 

誰かわからなかったのか、アルゴは身を守るように後ずさる。予想以上に覇気がない力の抜けたような声だった。いつもの生意気な口調じゃなく、リアルの方のしゃべり方だろう。

 

恐いのだろう、このデスゲームが……。

 

簡単に人が死ぬ。先進国であれば、今や死ぬ確率はかなり低い、日本なら尚更だ。死の恐怖を味わうことなんてほとんどないこの国で起きた惨劇だ。怖くないはずがない。

 

「俺だよ、アルゴ。コウガだ」

 

「コウガっ!」

 

よほど不安だったのだろう、アルゴの目が見開かれ勢い余って胸の中に飛び込んでくる。

 

そもそも友達同士でログインしているコウガやキリトと違って、アルゴは恐らく一人でログインしていたのだろう。自分も14歳だが、アルゴとの年齢もそこまで変わらないように感じる。

 

「不安だったんだな」

 

アルゴを抱き締めたりなんかせずに、言葉だけを投げ掛ける。

βテストの時の知り合いは恐らく多くはないだろう。あのときのトレードマークの髭は今はなく、幼さを残した少女の顔で泣いている。

 

「知り合いがいてよかった……」

 

泣きじゃくるアルゴをなだめながら、コウガは空を見上げる。

 

一刻も早く、現実(リアル)に戻ってやると誓いを強く持つ。

 

泣き続けていたアルゴがようやくいつものように戻ったのは30分後だった。

 

「オイラの恥ずかしいところ、見られちまったナ」

 

目元を真っ赤に腫らして、それでも笑顔で笑うアルゴに笑顔で返す。

口調もβテスト時と同じものに戻っていることから、だいぶ落ち着いたのだろう。

 

「アルゴが泣き虫だってことを知れてよかったよ」

 

軽口を返したところで、アルゴが服の裾を掴んでくる。

 

「なあ、コウガ。オレっちとしばらくパーティー組んでくれないカ?」

 

先ほどのキリトと同じような目をしてアルゴがせがむように訴えっているのがわかる。

 

「わかった。アルゴ……よろしくな」

 

メニューウインドウを開き、アルゴをパーティーに誘う。アルゴもそれを承認し、パーティーを結成した。

 

「でも、生きていてよかったよアルゴ」

 

「コウガもナ。また会えて嬉しいヨ。でも、ナンデ連絡しなかっタ?」

 

正式サービスが始まっても、連絡とらなかたことを怒っているのだろう。

ジト目で睨まれている。普段のおおらかな雰囲気とは違い怒っていることがよくわかる。

 

「すぐに連絡しなくてゴメン」

 

「しかたねーナ。許してあげるヨ。で、どうしたんダ、コウガ?」

 

いつもの調子に戻ったアルゴに見せなくてはならない。

 

「このアイテムって知ってるか?」

 

『暗黒騎士のペンダント』をオブジェクト化して、アルゴの目の前に出す。三角形のペンダントだ。

 

「なんダこれ?見たことねーゾ」

 

「やっぱりアルゴでも見たことないか……」

 

情報通のアルゴならと思ったが、さすがのアルゴでも難しいようだ。

 

「で、コウガはそれどーするんダ?」

 

「使ってみようと思うよ。強力な武器なら使わないと損だしね」

 

このデスゲームを死なずに生き残るためには必要だろう。

 

「そうだナ。ところで、キー坊は一緒じゃないのカ?」

 

「ああ、キリトは先にいってるよ」

 

「そうカ、じゃあ途中まで二人きりダナ」

 

アルゴはちょっとだけ嬉しそうに顔を綻ばせる。となりを歩きながら路地裏から大通りへと戻る道アルゴと連れだって歩く。

 

「それにしても、酷いざわつきようだナ」

 

「ああ、仕方ないだろう。死んだら終わりのデスゲームに巻き込まれたんだから」

 

そう、誰しもが不満をもってしまうのは仕方がないのだ。

 

この世界はもはや今まで生きてきた世界とはなにもかもが違いすぎる。PKをすれば当たり前のように人が死ぬ。死んだとしてもエフェクトがかかるだけで血も出なければ殺したという実感も湧かないだろう。

 

「今のままだったらクリアは絶望的だろうからナ」

 

アルゴの言うとおり、βテスターもそうだがVRMMO自体がそもそも普及していないのだ。

 

なれるまでにおおよそ一ヶ月近くかかるだろう。そこからレベリングを考えて安全策を取るならば、二ヶ月目にワンフロア目のボスを倒せる算段がつくはず。

 

それはあくまでも誰も死なないように行動した場合の結果の予想だ。危険な攻略をすればその分、早く進めるが死人がでる可能性はある。

 

「それはそうと、コウガこれからどこへ行くんダ?」

 

「バトルフィールドだよ。謎のアイテムの効果を確かめにな」

 

「死ぬかもしれないんだゾ?」

 

「クリアしなければどのみち死ぬさ。それに、レベルを上げていけば死ぬ確率は低くなる」

 

「わかっタ。だけど、無理はするナヨ」

 

「わかってる」

 

なんだかんだ、二人で話している間にバトルフィールドにたどり着いた。

 

空はすでに暗くなっており、あたりにプレーヤーがほとんどいない。

 

そのまま、歩みを進める。

 

「ここなら、誰も来ないだろう」

 

イノシシ型のモンスターくらいしかいないが、マップフィールドの奥地にやって来た。

 

「アルゴ、下がっててくれるか?」

 

「わかっタ」

 

アルゴに下がってもらい、『暗黒騎士のペンダント』を装備する。

 

「やるか……」

 

――――変身。男なら誰しも憧れたことがある言葉だ。

 

ゲームの中とはいえ、できるのだろうかと思う。

 

ペンダントを握りしめると、頭の中にイメージが広がってきた。

 

黒い狼の騎士のイメージ。一番最初に見たイメージよりも弱いイメージだがはっきりと目の前に――暗黒騎士呀――が浮かぶ。

 

ペンダントに息を吹き掛けるとペンダントが発光しだした。この状態でなければ変身が出来ないのだろう。

 

そして、ペンダントを頭の上に掲げて一周円を描くように回す。

 

頭上に紫色の光で三重丸が描かれる。

 

両腕を開き、足も肩幅に開く。

 

――――瞬間だった。閃光が辺りを埋め尽くす。

 

鎧の各部位が頭上に浮かぶ三重丸から、降りてくる。

 

足、太もも、胴体、腕に鎧が装着され、最後に顔をバッテン傷が入った狼の顔が覆う。

 

暗黒騎士の名にふさわしい、闇色のマントを背中に付ける。

 

そして、右の手に剣が握られた。

 

――――黒炎剣。ただ強いことだけを正義として戦ってきた暗黒騎士と共に歩んできた剣だ。

 

暗黒騎士……呀。

 

暗黒のボディーに金色の装飾、暗黒騎士の名に恥じない威圧感だった。

 

 

「おお、強そうだナ。コウガ」

 

「ああ、そうだな」

 

鎧を纏っている状態で、黒炎剣を振り回してみる。重い。ずっしりとした重さを感じる。

 

一通り動きを確認してから、イノシシ型のモンスターへと向かい、一歩一歩とゆっくりとあるく。

 

そして、ソードスキルを発動させようとためを作った。

 

が――――。

 

「ソードスキルが、発動しない……?」

 

「コウガっ!」

 

ソードスキルが発動しないことで、唖然としていたコウガにイノシシ型のモンスターが襲いかかる。

 

――――こうなったら……

 

ソードスキルが発動しないのならば、ソードスキルを使わなければいい。

 

思った瞬間に動いていた。

 

ゆっくりした動作で黒炎剣を真横に凪ぐ。

 

それを見たアルゴがは目を見開いた。

 

ソードスキルがない状況でありながら、まるでソードスキルのようにモンスターを真っ二つに切り裂いた。

 

アルゴが知っている範囲ではあり得ないことだ。

あり得ないとも思った。ソードスキルの閃光などが走ったわけではないが、黒い軌跡が通りすぎた後にはモンスターが二つに別れていた。

 

やがて、死亡エフェクトによりモンスターが消える。

 

そして、アルゴは更に驚くこととなった。このエリアであればパッシブ型のモンスターでこちらから攻撃しなければ近くにいても攻撃してこないはずのモンスターが、コウガ目掛けて多くが突進を始めていた。

 

通常であれば、ヤバい状況ではあるが何故かアルゴは安心して見ていることができた。

 

しかし、当の本人であるコウガはそう言うわけにもいかなかった。

 

突進してくるイノシシのモンスターを立て続けに切り裂く。十を超えて五十までは数を数えていたが、もはやポップするたびにモンスターに襲われるため逃げるに逃げられない状況になっていた。

 

それに加えて自分のステータスバーを見る。呀に変身してからステータスバーには自分、アルゴの他に自分のステータスバーの上に呀の文字が刻まれHPが刻まれている。

 

しかし、問題はそこではない。モンスターを倒すことで、自分とアルゴのレベルは上がるのに、呀のレベルは1から一向に上がることはい。それどころか、経験値すら割り振られていないのだ。

 

自分と同じレベルを共有してるにしても、呀のレベルが1のままというのは、おかしな話だ。

 

とりあえず、モンスターの無限地獄は終わりを告げようとしていた。確認したところ、一定距離を離せば襲ってくることは無さそうだ。

 

襲ってくるモンスターを切りながら、ポップする場所より距離を取る。

 

「もう、終わりにするのカ?」

 

「ああ」

 

アルゴに返事を返して、変身を解除する。

 

鎧が解けて、自分に戻った。

 

「なるほどナ」

 

「何がなるほどなんだ?」

 

腕組みをしながら明後日の方向を向いていたアルゴがなにかを納得したように声に出した。

 

「恐らく……なんだガ。呀に変身すると、ヘイト値が極端に上がるようだナ。それも、極度に上がるみたいで、オレっちが投擲して攻撃を当てても見向きもしないでコウガばっかり狙っていタ」

 

「確かに言われてみれば……」

 

「それにナ、コウガ。呀になった場合、ヘイト値が上がることによってパッシブ型のモンスターだとしても、アクティブに変わっちまうようダ」

 

「それは……」

 

――――非常に不味い……。今、確認した感じでは恐らく呀自体の能力は非常に高いが、一度変身すれば辺りのモンスターを狩り尽くすか、ポップ場所から距離を取らなければ戦闘が終わらない。

 

そして何よりヘイト管理ができないので、パーティー戦闘には一切向かないだろう。パーティーを組むのは良いが、呀の力は恐らく使えない。

 

「とりあえず、今後のことも含めて一旦宿屋に向かうカ?」

 

そうして歩き出したアルゴの隣を歩きながら、宿屋に向かうことにした。

 




最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

白鷺燕です。

作者自身、打たれ弱い豆腐メンタルですが、厳しい感想や暖かいお待ちしております!!

鈍足更新になるとは思いますが、これからもよろしくお願いいたします!


次回『儀式』

一週間以内に更新予定です。

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