副隊長、やります!   作:はるたか㌠

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週末大洗のいそやさんに初めて泊まる機会を得ました。
勿論、澤ちゃんのキャラクターパネルがあり通称「ウサギ小屋」のある旅館さんです。
暫く肉を見たくなくなるぐらいの肉責めに遭いましたが、楽しかったです。


という訳で澤ちゃん分を大量に補充して参りました。
パンツァー・フォー!


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誤字と言いますかタイプミスを数か所直しました。


第8話 新戦車、乗ります!

「西住隊長。チーム編成案です」

「うん、見せて」

 

 新体制が発足してから約二週間。

 きちんとした練習マニュアルなどある訳がない大洗女子学園だが、短期間とは言え厳しい実戦を潜り抜けた猛者揃いという事もあり。

 徐々にだが、新メンバー達も硬さやぎこちなさが取れ始めていた。

 梓もみほに色々と教えを受けながら、指揮官としてあるべき姿を日々模索中。

 車長として自車の全てに目を配りながら、チーム全体にも神経を巡らせる。

 口にすれば単純だが、その難しさは都度痛感させられてしまう。

 とは言え決して泣き言は口にしない。

 みほのように経験も豊富で才能に満ち溢れている訳ではないし、自分では努力でそれを補うより他にない……梓はそう自分に言い聞かせている。

 みほもそんな梓の姿勢を好ましく思っているし、だからこそ教え甲斐もある。

 チーム編成を任せてみる気になったのも、その現れとも言えた。

 

 梓の編成案はこうである。

 あんこう、アヒルさん、カバさんは現状のまま。

 レオポンさんはツチヤを車長に自動車部に新しく入る一年生三人を。

 アリクイさんはねこにゃーが連れてきた一年生二名が加わる。

 カモさんはゴモヨが車長に転じ、風紀委員の二年生二人が追加となる。

 カメさんは新メンバーから四人を選ぶ。

 ……そして、ウサギさん。

 編成表を見て、みほは梓を見た。

 

「梓ちゃん。本当にいいの?」

「はい」

 

 梓はみほの顔を真正面で見ながら、即答した。

 車長はあゆみ、砲手は別の一年生で補充する。

 梓自身は、もうすぐレストアが終わるT-28の車長を申し出た。

 梓以外の乗員は、残った新メンバーから選ぶ事になる。

 当然、梓の負担は大きくなる。

 

「ソ連製の戦車は、うちのチームにはいませんでした。西住隊長も乗られた事はないんですよね?」

「うん。黒森峰もそうだけど、西住流は基本ドイツ製ばかりだったから」

「それなら尚更です。ヘッツァーはまだ新人の方々に任せても何とかなると思いますが、T-28はそうは行かないかと」

「……確かに、そうかも」

 

 みほにも、T-28の扱いは悩みどころだった。

 短砲身とは言え76ミリ砲を持つ中戦車は、使いこなせれば貴重な戦力になる事はわかっている。

 問題は、誰がそれに乗るか。

 他のチームからメンバーを選抜する事も考えたが、それをやると今度は全体の戦力低下を招きかねない。

 

「西住隊長は、ご自分が乗ろうと考えてはいませんでしたか?」

「え? ど、どうしてそう思うの?」

「私は副隊長ですよ? 隊長が何を考えているか、それぐらい読めないようでは務まりませんから」

「梓ちゃん。……実はね、その通りなんだ」

「それは駄目です!」

「ふえっ?」

 

 梓に強く言われ、みほは驚いた。

 

「隊長はIV号以外に乗るべきじゃありません。大洗チームは、それで初めて形になりますから」

「…………」

「先日乗せていただいて実感しました。あんこうチームの全員とIV号、これは変えちゃいけない組み合わせなんだって」

「そう、なのかな」

「はい」

「……でも、それなら梓ちゃんとM3だってそうじゃない?」

「私だって、ウサギさんチームにもM3には勿論愛着があります。今のメンバーでこれからもやって行ければとも考えました」

「それなら、どうして?」

「悩みました、色々と。その上で結論を出したんです、大洗チームがどうすればいいかって」

「梓ちゃん……」

「勿論、私はまだまだ経験も実力も足りていません。でも、だからと言って現状に甘んじたままでは副隊長として駄目だって」

「山郷さんは、それでいいの? 他のみんなも?」

「……まだ話していません。でも、話し合えばわかってくれる筈です。みんな、大切な仲間で友達ですから」

「そっか。……じゃあ、話し合ってみて。その後でまた決める事にするから」

「はい!」

 

 

 

 その日の事。

 練習が終わり、梓は仲間達と一緒に学園を出た。

 

「何だか久しぶりだね、六人揃って下校なんて」

「そうだっけ?」

 

 あゆみに指摘され、首を傾げる梓。

 

「そうだよぉ。ね、桂利奈ちゃん?」

「そーだよ!」

「紗希も頷いてるもんね」

「…………」

 

 一対五では、梓も白旗を上げざるを得ない。

 

「本当にごめんね。いろいろ忙しくって」

「仕方ないよ。梓、本当に頑張ってるもんね」

「…………」

 

 紗希が背伸びして、梓の頭を撫でる。

 よもや振り払う訳にもいかず、気恥ずかしさで赤くなる梓。

 

「で、梓。話があるんでしょう?」

「え? あや、どうしてそう思うの?」

「その忙しい筈の梓が、真っ直ぐ帰ろうだなんて言えば、ね?」

「私達で良ければ相談に乗るよぉ?」

「そーそー! 梓一人で悩まなくていいんだからね?」

「みんな……」

 

 涙が出そうになり、何とか堪える梓。

 いろいろ振り回されたりもしているが、気心の知れた友人と言うのはやはり大事だと改めて気づかされる。

 隠し事をする必要もない、思いをぶつけてみよう。

 梓はそう決意し、足を止めた。

 

「あゆみ」

「うん?」

「お願いしたい事があるんだけど」

「いいよ、梓のお願いなら。何をすればいい?」

「……M3の車長、お願い出来ないかな?」

 

 驚かれるかと思ったが、あゆみはやはりという顔だった。

 他の四人も同じで、梓の方が寧ろ驚いたぐらいだ。

 

「え、えっと……」

「わかるよ。梓、他の戦車で車長やるんでしょう?」

「……そう。T-28、私が乗るのがいいかなって。少しでも、西住隊長の力になりたいから」

「私で梓の代わりが出来るかどうかわからないけど、でもやってみるよ」

「あゆみ……本当にいいの?」

 

 あゆみはニッコリと笑って、頷いた。

 

「言ったじゃない、梓のお願いなら聞くよって。それに、梓の事だもの。考えた末の事なんでしょう?」

「うん……。勿論、西住隊長にも話してあるから」

「なら、それでいいよ。頑張ってみるから」

「あ、ありがとう」

 

 あゆみならば拒絶される事はないと思ってはいたが、それでも梓は不安だった。

 あゆみは砲手しか経験がなく、またM3にも不可欠な存在。

 そこを突かれては、梓も強くは言えなかっただろう。

 

「で、梓。私達はそのままなの?」

「そうなると思うけど」

 

 梓の答えに、あやが考え込む。

 桂利奈と優季も何やら頷き合っている。

 

「梓。一人で移る気なの~?」

「それって、大変だよね?」

「…………」

 

 紗希を含めた三人にジッと見られ、たじろぐ梓。

 

「な、何?」

「全員は無理だけどさ、何人かは梓と一緒に移ったらどうかな?」

「え? あや、それって……」

「T-28がどんな戦車かまだわからないけど、私達だってM3は動かせたんだし~」

「優季?」

「戦車走らせるの、やってみないとわかんないけど。梓が全部教えなくてもいいよね?」

「桂利奈ちゃん……」

「…………」

「紗希? 装填手もいきなりは無理じゃないかって?」

「私もそう思うな。みんな一緒がいいけど、でも梓一人で抱え込むよりは、ね?」

「あゆみ……いいの?」

 

 梓がこの中から誰かを連れて行けば、確かに楽にはなるだろう。

 だが、その分あゆみの負担が増えてしまう。

 不慣れな車長を任せる以上、梓としてはなるべくそれは避けたかった。

 

「いいって言ってるじゃない。ね、みんな?」

「さんせー!」

「勿論よ~」

「ほら、紗希だって賛成してるんだし」

「…………」

「あり……がとう……」

 

 とうとう、堪えていた涙が溢れ出した。

 そんな梓を、全員が囲む。

 

「梓、ほら泣かないの」

「そうだよ。別々になっても私達、友達だよ?」

「うんうん。だよねぇ」

「そーだそーだ! みんなで頑張ろー!」

「……みんな、一緒」

 

 普段喋らない紗希まで、言葉を口にした。

 梓の涙は、止まらない。

 

「みんな……グスッ。本当に……あり……がとう」

「もう。私達だって……我慢して……」

 

 後は、言葉にならない。

 紗希を除く五人は、辺りを憚らずに泣いた。

 元々感受性が豊かな少女ばかりなのだから、感極まってなら当然だろう。

 それに、それを咎める者もいる筈もない。

 

 

 

 翌日。

 梓は桂利奈と紗希を伴い、整備用の倉庫にやって来た。

 

「これがT-28……」

「砲身短いね、これ」

「…………」

「お、来たね」

 

 スパナを手に、ツチヤが車体の下から姿を見せた。

 

「もうバッチリ整備したから、いつでも出せるよ?」

「ありがとうございます、ツチヤ先輩。早かったですね」

「意外と程度が良かったからね。それに、あっちの子がなかなか手強いみたいでね」

 

 その奥では、T26E1相手にナカジマらが奮闘中だった。

 梓には見覚えのない部員が三人、ナカジマの指示を受けながら混じって作業をしていた。

 まだ面識はないが、恐らく自動車部に加わった一年生なのだろう。

 梓には整備の知識は殆どないが、素人目にも動きが良いのがわかる。

 まだP虎(ポルシェティーガー)には乗った事はないらしいが、それも遠くない日に実現するだろう。

 ナカジマもツチヤもまだみほや梓に紹介しないという事は、まずは自動車部員として慣れる方を優先させているのかも知れない。

 梓はそう思い、T-28に視線を戻した。

 

「ではツチヤ先輩。早速、乗ってみます」

「うん。気になるところがあったら言って?」

「わかりました」

 

 三人はハッチを開き、車内へ。

 

「何だか狭いね」

「M3も最初は狭いと思ったけど……確かに狭いかも」

「…………」

 

 桂利奈は操縦席、紗希は砲手席についた。

 とりあえず動かすだけなら、装填手と通信手は不要。

 マニュアルも何とか手に入ったが、桂利奈は読むよりも実践するタイプだ。

 スイッチやレバーを触ったりして、感触を確かめている。

 一方の紗希は、照準器を覗いたまま微動だにしない。

 

「桂利奈ちゃん、行けそう?」

「やってみるよ!」

「じゃあ、発進!」

「よっしゃー!」

 

 イグニッションを入れると、車体が震え始めた。

 大きなエンジン音が、倉庫に響き渡る。

 桂利奈がレバーを操作し、T-28はゆっくりと前進して行く。

 梓は砲塔のハッチを開け、上半身を出した。

 実戦では危険のない時に限ってその状態になるものだったらしいが、戦車道では比較的お馴染みの光景だったりする。

 みほに至っては、砲塔の上に立つ事すらやった。

 それがいつしか『軍神立ち』と命名されてしまい、それを知ったみほが赤面して頭を抱えるというオチまでついた。

 流石にそれまで真似る気は梓にはないが、砲塔から顔を出すという事はいつしかそれが当たり前になっているようだ。

 

 ともあれ、桂利奈の操縦は梓から見ても十分に合格点と言えた。

 麻子のようにマニュアル通りにやればすぐに覚えられる、というのはあくまでも例外。

 桂利奈だけでなく、忍やおりょう達も練習を重ねて身体に覚え込ませるしかなかった。

 M3ならば当然桂利奈の操縦は安心して任せられたが、今は不慣れな車両を操っている。

 戸惑いもあるだろうし、まともに扱えなくても仕方がない。

 が、桂利奈は一切泣き言は言わずに懸命に操縦している。

 度胸があり過ぎて時々信じられないような突進をする事はあるが、結果として慎重な梓では予想もしなかった好結果を生む事も少なくない。

それに、真っ直ぐな気性でいつも明るい桂利奈は誰からも好かれている。

今にして思えば、地味な自分とはまるで違うのにこうして親友でいられるのは不思議ではあった。

 

「梓、何処に向かうの?」

「とりあえず、グラウンドを何周かしてみて。問題ないようなら射撃場に行こう?」

「あいー!」

 

 その間にも、紗希は砲身を操作したり弾丸の位置を確認したりしている。

 普段は無口で表情の変化も乏しいと思われがちな彼女だが、観察力や洞察力は鋭い。

 マイペースでボーッとしている時間も多いのは確かだが、やるべき時に何もしていない訳ではない。

 そうでもなければ、いくら仲良しチームとはいえ装填手として乗り続けていられる訳がない。

 今回は砲手として乗っている以上、当然の事をしているに過ぎない。

 彼女は装填手以外の経験は皆無だが、梓から見ても役割を果たそうとする気持ちが伝わって来ていた。

 あやの隣で、自分なりに砲手の動き方を観察していたのだろう。

 それを確かめると、梓はマイクに手を伸ばす。

 

「桂利奈ちゃん。そろそろ次に行こうか?」

「あいあいあいー!」

 

 どうやら、桂利奈も調子が出てきたらしい。

 梓は、自然に笑みが溢れた。

 

 

 

「紗希、準備はいい?」

「…………」

「桂利奈ちゃん、合図で止めて」

「あい!」

 

 紗希が軽く頷いたのを確かめて、梓は指示を出す。

 双眼鏡を覗きながら、頃合いを図る。

 

「停止!」

「あいっ!」

「撃て!」

 

 ズドンと車体が揺れ、梓の目の前から砲煙が立ち上る。

 弾着音がしたが、やや時間がかかった。

 どうやら、砲弾は的を飛び越えたらしい。

 煙が晴れてから、梓は弾着地点を確かめる。

 

「紗希、遠弾だよ。五メートル手前に修正!」

「…………」

 

 装填もやらなければならないから、発射間隔はどうしても長くなってしまう。

 とは言え今は練習中、しかも何もかもが初めての事ばかり。

 急かすつもりもなく、梓は準備が整うのを待つ。

 それでも、日頃の紗希からは想像もつかない手際の良さで装填を終えた。

 

「一度静止のまま撃ってみよう。紗希、いい?」

「…………」

「……行きます。撃てっ!」

 

 再び、梓の視界を煙が覆い隠す。

 少し待ってから、梓は双眼鏡を覗いた。

 惜しくも的は逸れていたが、先程よりは遥かに至近弾となっていた。

 

「じゃあもう一度。桂利奈ちゃん、最初と同じように宜しくね」

「あい!」

 

 

 

 その後何度か砲撃訓練を行い、梓は倉庫前に戻った。

 

「紗希、桂利奈ちゃん。本当にお疲れ様」

「…………」

「うんうん、やっぱり疲れたよね」

「ごめんね、無理させちゃって……え?」

 

 頭を下げようとした梓を、二人が押しとどめた。

 

「梓の指示は良かったよ。ね、紗希?」

「…………」

「確かに大変だったけど、楽しかったから。紗希もそう言ってるし」

「そ、そう? それならいいんだけど」

「私もそう思うよ」

 

 三人の背後から、みほが近づいて来た。

 

「やっぱり西住隊長もそう思いますよね!」

「うん。お陰で、私もどんな戦車なのか少し掴めた気がするから。……梓ちゃん」

「はい!」

「ひとまず、T-28は梓ちゃんに任せるけど……いいかな?」

 

 梓は桂利奈と紗希を見た。

 二人が頷いたのを確かめてから、みほに向かって大きく頷いた。

 

「じゃあチームの編成は任せるね。あと、チーム名も」

「え? それは西住隊長が決めて下さい」

「ううん、いいの。あ、パーソナルマークもお願いしたいな」

「は、はあ……」

「それじゃ、宜しくね」

 

 それだけを言うと、みほはIV号の方へと歩いて行った。

 

「梓、今日も一緒に帰ろ?」

「え?」

「チーム名とか考えるの、楽しそうだし。ほら、みんなも待ってるよ」

 

 桂利奈が指差す先に、あゆみ達がいるのが見えた。

 

「ほらほら、行くよ!」

「か、桂利奈ちゃんてば! え、紗希まで?」

 

 二人に引っ張られる格好の梓。

 それを見ていたあゆみ達三人から、笑い声が上がる。

 梓は日々成長しているが、仲間達に振り回されるのだけは変わりそうにもない。

 梓自身、それが続く事を内心で望んでいる以上は。




ウサギさんチームを分ける展開になりました。
これでいいのかちょっと悩みましたが、このまま続ける事にします。
次話あたり、そろそろオリキャラが出てくるかと思います。

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