副隊長、やります!   作:はるたか㌠

3 / 24
今回も澤ちゃんはいいぞ。

という事で、パンツァー・フォー!


3/19・3/22
ご指摘いただいて確認したところ、確かにカモさんチームの学年設定が間違っていました。
手元のコンプリートブックでそうなっていたので気にしていなかったのですが……失礼しました。
該当箇所を修正してあります。


第3話 大切な仲間達です!

 生徒会室。

 一般の生徒はあまり立ち入る機会もない部屋だが、ここ大洗女子学園ではちょっと様相が異なる。

 少なくとも、戦車道履修者にとっては最早馴染みの場所とも言える。

 今日もまた、主だったメンバーが顔を揃えている。

 

「じゃ澤ちゃん、進行宜しく~」

「はい」

 

 今までであれば桃がこの役割だったが、他の仕事に追われていてそれどころではないようだ。

 同様に柚子も欠席である。

 杏は相変わらず会長の椅子に行儀悪く座っているが、それにいちいちツッコミを入れる者はいない。

 傍目にはサボっているようにしか見えないし、そもそも引退間近にしては余裕があり過ぎる。

 だが、杏の頭の良さと豪腕ぶりは学園全員が知るところ。

 それは生真面目な梓も例外ではなく、寧ろいつも通りな杏の姿を見て安堵感を覚える程だった。

 

「お集まりいただき、ありがとうございます。今日はチーム編成について話し合いの場を設けさせていただきました」

 

 テーブルを囲むように、みほと各車長が腰掛けている。

 全員を見渡してから、梓はホワイトボードに書き込んでいく。

 

「現在、我が大洗女子学園には八両の戦車があります。来年からはマークが厳しくなる事は確実ですから、戦車そのものも増やさないといけないでしょう」

「でも澤さん、記録上はもう残っている車両はないのよね?」

 

 そど子の言葉に、頷く梓。

 

「はい。念の為もう一度確認しましたが、やっぱり八両で全部みたいです」

「車体さえ使い物になれば、頑張ってレストアするんだけどなぁ」

「いくら自動車部でも、イチから作るのは流石に無理だろうしね。西住ちゃん、なんかいいアイディアない?」

「ふえっ? えっと、中古を根気よく探すとか……でしょうか」

「そう言えば、三式にも中古戦車売買業者のチラシが貼ってあったにゃあ」

「確かにそんなものがあったな。だが、そんな都合の良い出物などあるのか?」

 

 エルヴィンならずとも、そう簡単に戦力増強が出来る程甘いとは誰も思えなかった。

 大洗女子学園の大躍進が切欠で、日本中に戦車道ブームが巻き起こっていた。

 戦車道がない、或いは大洗女子学園のように止めていた学校でも戦車道を始めようという動きが出ていた。

 既に実施している学校でも、新たな車両への需要は高い。

 需要が多ければ、必然的に品薄になり価格も高騰してしまう。

 ましてや、戦車道の規定に合致する車両ともなればそもそも希少な存在でもある。

 

「流石に、数の劣勢は根性だけでは補えませんね」

「……まず、これはみなさんで心当たりを当たってみて下さい。それからまた考えましょう」

「せめて、あと二両は欲しいですね。そうすれば、二回戦までのレギュレーションに対応できます」

「じゃ、とりあえずそれで行こっか。予算もあるしね~」

 

 全員が頷いたのを見てから、梓は話を進めた。

 

「次はチーム編成です」

 

 マーカーで、各チームのメンバーを書いていく。

 そのうち、三年生は赤で囲った。

 

「あんこう、カバさん、アヒルさん、それから私達ウサギさんチームは欠員なしです。カメさんチームは全員が欠ける事になります」

「ウチのチームも残るのはツチヤだけ、アリクイさんもぴよたんさんが。カモさんもそど子さんが抜けちゃうんだね」

 

 このままでは車両を増やすどころか、そもそも作戦立案の時点から条件が厳しくなってしまう。

 人数だけは確保したものの、これでは試合どころではない。

 

「西住さん、どうするにゃ? ボクとしては、見ず知らずの仲間と一緒はちょっと不安だにゃ」

「そうですね。アリクイさんチームは、猫田さんに心当たりがあればそれでも構いません」

「了解だにゃ」

「カメさんはちょっと考えましょう。レオポンさんですけど、ツチヤさんが車長でどうでしょう?」

「それでいいよ、ツチヤもそのつもりみたいだから。ただ、ウチの子は手がかかるからできれば経験者が一人欲しいかな?」

「わかりました。梓ちゃん」

「はい。……西住隊長とも話し合ったのですが、残る経験者を何人か他のチームに振り分けようかと考えています」

 

 予想はしていたのだろう、その場の全員が驚きを見せなかった。

 

「ただし、アヒルさんチームはそのまま。アリクイさんとレオポンさんは振り分けの対象には考えていません」

「はい! 八九式はバレー部の一員、その方が私達も本領発揮出来ます」

「ボクもその方が助かるにゃあ」

「だね。ツチヤまでいなくなったらちょっとポルシェティーガーも厳しいし」

 

 典子らの反応を見て、みほと事前に打ち合わせておいて正解だったと思う梓だった。

 同時に、ちょっと不安も感じていた。

 編成に手を加えないチームがあるという事は、逆に残りのチームは誰かしら他に移る事となる。

 それは、自身が車長を務めるウサギさんチームも例外ではない。

 六人でずっと乗り続けてきたM3リー。

 それがバラバラになる事で、果たしてどうなってしまうのか。

 顔には出せないが、その思いは此処最近ずっと心の片隅にあり続けていた。

 

「それで、今日の練習から試してみたい事があります。みなさん、ご協力いただけますか?」

「説明は私から行いますので、どうぞ宜しくお願いします」

 

 梓とみほは、並んで頭を下げる。

 

「私は、西住隊長と澤副隊長にお任せします」

jawohl(ヤヴォール)!」

 

 典子とエルヴィンが口火を切り、他のメンバーも口々に同意を唱えた。

 

 

 

「……という訳です。臨時車長のみなさん、宜しくお願いします」

「了解であります!」

「やってみるさ」

「う、うん。頑張ってみるね」

 

 放課後。

 優花里がルノーB1、カエサルがヘッツアー、そしてあゆみがM3の車長を任される事となった。

 梓が断ったように臨時ではあるが、全員車長は未経験。

 練習だから思うようにやってみて欲しいというみほの訓示もあり、気負いなく臨もうとしているようだ。

 

「梓は乗らないの?」

「うん。外から各車の動きを見る事も大事かな、って」

「そうなんだぁ」

 

 いつもと変わらない優季の口調に、梓の顔も綻ぶ。

 他の車両も、何人かのメンバーを出している。

 ただ、Ⅳ号だけは新メンバーらが尻込みをしてしまい、装填手が不在となってしまった。

 

「やっぱり、敷居が高いんでしょうね」

「そ、そうみたいね。あはは……」

 

 Ⅳ号は、大洗女子学園戦車道チームの象徴である事は異論を挟む余地はない。

 とは言え、スペック的には普通の中戦車に過ぎない。

 自動車部の魔改造でH型相当になってはいるが、装甲の薄さは変わらない。

 他校の主力戦車に比べても特段優れている訳でもなく、鬼神と讃えられる活躍も五人の神がかり的なチームワークがあればこそである。

 優花里がおらず、みほも梓と並んで訓練を見る事にした事もあってⅣ号の出番はなくなった。

 華はポルシェティーガーの砲手、麻子はヘッツアーの操縦手に回る事となった。

 

「みぽりーん。でも、どうして私まで操縦手なのよ」

 

 不服そうな沙織は、ルノーB1の操縦手を頼まれていた。

 

「ゴメンね。他の車両、専任の通信手ってポジションがなくって」

「頑張って下さい、沙織先輩。免許があるんですから、大丈夫ですよ」

「ハァ。ルノーのステアリングは重いってゴモヨちゃんがよくボヤいてたんだよねぇ……」

「それなら、レオポンの装填手でもやるか? 88ミリ砲弾は装填し甲斐があるぞ」

「酷いよ麻子! いいから、ちょっと操縦教えて!」

 

 思っていたよりも皆が不満もなく動こうとしているのを見て、梓はホッと胸を撫で下ろす。

 それはみほも同じようで、梓を見て微笑んだ。

 そして、無線機のマイクを手に取った。

 

「準備が出来た車両から、行動開始して下さい。訓練内容は、各車長の判断にお任せします」

 

 みほの号令で、各車が順に動き始めた。

 

 

 

「それでは本日の練習は此処までです。一同、礼!」

「お疲れ様でした!」

 

 日が地平線に沈む直前、それが練習終了の刻限。

 生徒達はそれぞれ帰路につく。

 本格的な整備が必要な場合は自動車部が残って作業をする日もあるが、それも週に一度ぐらいの頻度だ。

 

「西住隊長、お疲れ様でした」

「うん、お疲れ様」

 

 みほも帰り支度を始めた。

 梓は挨拶をしてから、仲間達のところへ向かう。

 

「あゆみ、お疲れ様。どうだった?」

「梓ってやっぱり凄いな、って思っちゃった」

 

 日頃から活発なあゆみには珍しく、疲労が顔に出ていた。

 肉体的なものではなく、精神的なもののようであったが。

 

「どうして?」

「だって、いろんな状況に対して一瞬で判断をする訳でしょう?」

「う、うん」

「車長があんなに忙しいなんて、びっくりした。それが一つでも間違っていたら撃破されちゃったりするなんて」

「それはそうだけど。でも、私が特別だとは思わないよ。西住隊長にはまだまだ及ばないし、車長としても磯辺先輩とか凄いし」

「そんな事ないよ。梓、冷静だしねー」

「うんうん。梓の言う通りに動かしていたら大丈夫だし」

「も、もう。優季も桂利奈ちゃんも止めてよ。おだてても何も出ないよ?」

 

 慌てる梓だが、仲間達は止まらない。

 

「本当の事だもん。ほら、紗希もそう言ってるし」

「…………」

「あや、適当に言わないの!」

「でも、私は本心を言ったつもりだよ? 梓が的確に指示を出してくれるから、私達はあんなに戦えたんだって」

「あゆみ……」

「もし、梓と別のチームになっても私は梓の命令に従うよ? ね、みんな?」

「もちろんよー」

「出来れば一緒がいいけど、でも私も賛成かな。眼鏡割れちゃうのは嫌だけど」

「やったるぜー!」

「…………」

「みんな……。うん!」

 

 梓は嬉しかった。

 このメンバーと友達になれた事。

 同じチームで戦車道をやれた事。

 それがなければ、今の自分はなかった……心の底からそう思えた。

 

「じゃ、もうひとっ走り行く?」

「え?」

 

 五人は、M3に乗り込み始めた。

 

「ちょ、ちょっと! 今日はもう練習終わりだよ?」

「知ってまーす!」

 

 紗希以外の四人が見事にハモった。

 そして、そのまま車体に上った。

 

「でも、自主トレなら構わないんでしょ?」

「そうそう。これは自主トレだからー」

「だよね。自主トレしちゃいけない、なんて校則に書いてないし」

「梓、何処へだって行っちゃうよ?」

「…………」

「だから、みんな疲れてるんだから止めなさいって。無理して怪我したらどうする……の……?」

 

 そこまで言って、梓は仲間達の視線に気圧されてしまう。

 代表するように、あゆみがポツリと呟く。

 

「無理してるのは梓の方じゃない」

「……え?」

「先輩やみんなの期待に応えようとして頑張ってるのはわかるよ。本当に、梓は真面目だし努力家だと思う」

「だって、私はまだまだだから……。西住隊長の役に立てるようになりたいし」

「だからって。毎日早朝から遅くまでなんて頑張り過ぎ!」

「な、なんで知ってるの……?」

「私だけじゃないよ。優季もあやも桂利奈も、勿論紗希だって知ってるよ」

 

 絶句する梓。

 あゆみの言う通り、梓は密かに自主トレを続けていた。

 体力的なトレーニングは勿論、戦車の知識を深めたり過去の戦車道大会の研究をしたり。

 学生の本分として、戦車道以外の授業でも成績を落とさないように努力は欠かさない。

 その事で仲間達に心配をかけてしまわないよう、梓なりに気づかれないようにしていたつもりだった。

 ……が、結果として意味がなかったようだ。

 

「頑張る梓は凄いけど、もっと肩の力を抜いた方がいいよー?」

「そうだよ。頑張り過ぎたら息切れしちゃうって!」

「じゃ、いっくよー!」

「え? あ、あの、ちょっと?」

 

 そのまま、梓は車長席に押し込まれてしまう。

 他のメンバーも、それぞれの定位置へ。

 

「じゃ、車長。命令よろしく」

「……あゆみ。だから、もう練習は終わりって言ったじゃない」

「…………」

「ほら、紗希が梓の指揮で走らないと眠れないって言ってるし」

 

 梓は車内を見渡し、全員の顔を見てがっくりと肩を落とした。

 揃って、期待に満ちた目をしていたから。

 

「もう……。ちょっとだけだからね」

 

 溜息をつくと、梓はキューポラから顔を出す。

 

「ウサギさんチーム、行きます。パンツァー・フォー!」

「おっしゃー!」

 

 待ってましたとばかり、桂利奈が猛烈なスピードで走り出す。

 聖グロリアーナ女学園の某生徒も驚きそうな勢いで。

 

「ちょ、ちょっと桂利奈ちゃん! 飛ばし過ぎ!」

「桂利奈、もっと飛ばして~」

「速~い!」

「あいあいあーい!」

「優季もあゆみも煽らないで!」

 

 いつの間にか、グラウンドのナイター照明が点灯されていた。

 それを見下ろすように、生徒会室に人影が二つ。

 

「澤ちゃん、ちょっと心配だったけど。あれなら大丈夫そうだねぇ」

「はい。本当に、いいチームだと思います」

 

 杏とみほは顔を見合わせ、頷いた。




ストックを作らずに書いているので不定期投稿になってしまいます。

ボコじゃないですが、いただいた声が本当に励みになっています。
引き続き頑張ります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。