本作の展開が正直、無限軌道杯から大きく逸脱していまして続けていいのかどうかまだ決めかねていまして……。
とりあえず、今日は澤ちゃんの誕生日という事でリハビリがてら番外編として投稿します。
他作品も含めて書くのが本当に久々なので、短めですが宜しければ。
なお、最終章第4話のネタバレ全開ですので未視聴の方はご注意下さい。
「大洗女子学園の勝利!」
亜美のアナウンスが、雪に覆われた会場に響き渡る。
「勝った……の……?」
「えっと……」
「そう……じゃないかな?」
撃破されたM3リーの傍らで固唾を呑んでいたウサギさんチーム一同。
梓にあゆみ、桂里奈はまだ現実味がないのか呆然とモニターを眺めている。
と、そんな梓の肩を誰かがトントンと叩いた。
「紗季……?」
振り向いた梓に、紗季はサムズアップをしてみせた。
「やったね、隊長~!」
「そうだよ、私達勝ったんだよ隊長!」
「そっか……。うん、そうだよね。勝ったんだね!」
その瞬間、梓はあっという間に五人に囲まれた。
歓喜の輪の中、じわじわと込み上げる喜びに浸りながら。
「準決勝第一試合は、大洗女子学園の勝利です! 一同、礼!」
「ありがとうございました!」
亜美の号令で、継続高校と大洗女子学園の代表が揃って一礼。
その中に、梓の姿もあった。
当人はあくまでも臨時という事で固辞しようとしたのだが、隊長の桃と副隊長のみほは揃ってそれを認めず。
寧ろ実質的な勝利の立役者こそその場にいるべき、と言われては梓も首肯するしかなかった。
そして、ミカが梓の前に立った。
「澤梓さん……だったかな。見事な指揮だったよ」
「あ、ありがとうございます」
「あんこうチームは最初に撃破した筈なのに、みほさんがまだ残っているんじゃないかと不思議に思ったよ」
「そんな……」
照れる梓。
「フラッグ車を囮にしてみたり、ダム穴を通って包囲網を脱してみたり。まるでうちの戦い方だったね」
「……私ではミカさんに経験で勝てる訳がありませんから。西住隊長ならどうするんだろうって、もうただ必死に考えた結果です」
「フフッ」
そんな梓を、ミカは可笑しそうに見た。
「慎ましいのかな。もっと誇っていい結果だと思うよ?」
「……いえ。西住隊長ならもっとより的確な判断が出来た筈ですから」
「やれやれ、それじゃ負けた私がより惨めじゃないか」
「あ、そ、そんなつもりは」
慌てる梓の手を、ミカは不意に掴んだ。
「え? あ、あの……」
「行こうか。もっと話したいから」
「……ミカさん。何の真似ですか?」
そう言いながら、梓の反対の手を取るみほ。
「風が言うのさ。この娘は継続高校にこそ相応しいってね」
「ダメです。澤ちゃんはもう次の隊長に決めたんですから」
「えっ? 西住隊長、本気ですか?」
「うん! 本当はこの大会が終わってから話すつもりだったんだけど、ミカさんには渡せないから」
「おや、人聞きの悪い。澤さんの本心は違うって声が聞こえるよ?」
「きっと幻覚ですよ、げ・ん・か・く!」
「ふ、二人共落ち着いて下さい!」
綱引きされながらも、梓は叫んだ。
……と。
「ちょっとミカ! 遊んでないで撤収の準備するよ!」
「アキ。今は次の隊長と」
「い・い・か・ら! さっさと来る!」
鬼の形相でミカを引きずっていくアキ。
ミカがそれに抵抗出来る筈もなく、ズルズルとその姿は遠ざかっていく。
伊達に装填手をやっている訳ではないようだ。
「全く……。澤ちゃん、まさか継続高校に行きたいなんて言わないよね?」
「あはは……。お気持ちはありがたいんですけど、私は西住隊長と一緒に戦車道やりたいですから」
「そっか。うん、そうだよね!」
雑誌のインタビューでも、尊敬する人がみほと即答する梓だ。
ミカがいきなり誘っても、まず靡くことはありえない。
……とは言え、ミカの事だから油断は出来そうにもないが。
ともあれ、胸を撫で下ろすみほだった。
数日後。
学園艦に戻り、戦車の修理と各自の準備が進められる中。
梓の姿が、艦底部にあった。
「今日はあたしの奢りだ! 好きなだけやりな!」
「このノンアルコールラム、美味いんだぞ。なあカトラス?」
「新しいサーモンの燻製もお勧め。あと、ベーコンもいい感じ」
「なら、あたしは十曲ぶっ通しで歌っちゃうよ! なんならデュエットするかい?」
『どん底』で、サメさんチームの面々に囲まれながら。
「そんな、お気遣いなく」
「これはあたしの気持ちさ! そうだろう、野郎共!」
「ようそろー!」
お銀は梓の隣で上機嫌にグラスを掲げた。
「一時は桃さんまで撃破されてどうなるかと思ったけど、本当に見事だったな」
「いえ、私の方こそ。サメさんチームが最後まで頑張ってくれたからこそ、勝てたんだと思います」
「どんなフネでも乗りこなしてこその海賊さ。乗ったことのあるフネ、あまりないけどね」
「ウホッ」
お約束のやり取りに、梓はクスリと笑う。
「……本当に、ありがとうございました」
「ん?」
「西住隊長ですら、直接指示を出せなかったサメさんチームの皆さんなのに。私なんかの指揮に従っていただいて」
「…………」
クイ、とグラスを傾けるお銀。
「それは違うな」
「え?」
「隊長はあくまでも桃さん。それは変わらない」
頷く梓。
「でも、あの時はそうも行かなかった。桃さんが撃破されたんだ、もう指示は貰えない」
「……ええ」
「普通なら、桃さんと西住がやられた時点で諦める。フネだって船長がいなきゃお仕舞いだ。けど」
「けど?」
「他の連中は違った。隊長も副隊長もいなくなったってのに、誰一人諦めやしなかった。どうしてだと思う?」
「それは……。角谷先輩の一言があったからです」
「かもな。けど、いくら前の生徒会長だろうが急に言われてはいそうですかと従えるか? あたしなら無理だ」
「……そうでしょうね」
「でもな、全員がアンタを隊長にって推した。何の迷いもなくね」
フッとお銀は笑った。
「あたしも、アンタが今までどう戦ってきたかは見ていたさ。そして、全員が同じ想いだって事にも頷くしかなかった」
「そうだったんですか?」
「ああ。船乗りは命を賭ける相手を一度定めたら、後は只管従うまで。そして、それが間違いじゃなかった事は証明されたって訳だな」
「……本当は、不安でした。サメさんチームだけじゃなく、私は皆さんの中でも一番年下ですから」
「そうかもな。けど、隊長の向き不向きは歳とか学年なんて関係ない。それに」
「それに?」
「アンタは隊長以前に、あのガキ共を上手く纏めてるじゃないか。なあ、お前たち?」
お銀の言葉に、他の面々がウンウンと頷く。
「船長だけでも大変なのに、提督までこなしちまうんだ。皆が従うのも当然、あたしだけが変な意地を通す余地もなかった」
「そんな……褒めすぎですよ」
「それだそれ!」
と、不意に大声を出すお銀。
「結果を出してみせたんだ! もっとドーンと胸を張りなよ!」
「え?」
「そうと決まれば、大宴会だ。野郎共、いいな?」
「応!」
「あ、あの……ちょっと待って下さい」
否応なしに、もみくちゃにされる梓だった。
「ふう……」
暫くして解放された梓は、部屋に戻ると机に向かった。
そして、ノートを広げる。
そこには、綺麗な字でびっしりと書き込みがされていた。
普段の勉強で使うものではなく、戦車道用のノート。
今までと違い、そこには隊長代理としての記述が加わっていた。
「隊長って、本当に大変なんだなぁ……」
梓は思う。
みほが優秀な隊長であり、尊敬する存在である事には変わらない。
そして、不断の努力をしている事も知っている。
今の大洗女子学園戦車道チームはある意味、奇跡とも言えるメンバーが集っている。
純粋な戦車道経験者はみほ一人だというのに、全国大会優勝に加えて大学選抜チームにも勝った。
そして、無限軌道杯もこうして勝ち進み、いよいよ残すは決勝戦のみ。
今や大洗女子学園は、戦車道関係者の注目の的でありいつしか目標とされる側になっている。
その中心にいるみほから認められたという事実は嬉しい反面、とてつもない重圧でもあった。
決勝戦の相手は、大洗女子学園にとっては因縁の相手である聖グロリアーナ女学院。
ただでさえ隊長のダージリンには二度も苦杯を喫しているのに、よりによってあの島田流の天才少女まで加わっているのだ。
もう、一車長としてみほの指揮に身を委ねるだけでは許されないだろう。
自分に求められる役割に思いを馳せ、梓はパンと頬を叩いた。
「……よし。頑張ろう」
そう呟くと、梓はシャープペンシルを手に取った。
部屋の明かりは、深夜まで煌々としていた。
第4話をご覧になった方ならお気付きの通り、展開若干本編と変えてあります。
ウサギさんチーム内での絡みを書きたかったのでこうなりました。
間違いではありませんので。
なお勝手ながらリハビリ中につき、個別のコメントや感想には返信を控えさせていただきます。
勿論目は通しますので、何かしらいただけましたら幸いです。