こちらが進まないので、休載していた他の作品を再開したりしているうちに結構間が空いてしまいました。
新体制の元、訓練に励む日々の大洗女子学園戦車道チーム。
不慣れなメンバーも多く、全国大会を制した強豪校として相応しいレベルに達しているとはまだまだ言い難い。
だからと言って、甘えが許される世界でもない。
去年のようにノーマークで済む筈もなく、どの学校も優勝旗を目指し努力を重ねている。
増してや、大洗女子学園に愛里寿が加わった事もまたより他校の警戒心を高める事となった。
まほが引退した今、戦車道家元が選手として所属するのは大洗女子学園だけ。
それも、実力と才能は折り紙付きの二人である。
廃校騒ぎが収まったとはいえ、気を抜く余裕すらないのが現状だった。
そんな中、一本の電話がかかってきた。
「練習試合……ですか?」
「
戦車のガレージで、みほは携帯にかかってきた電話を受けていた。
生徒会メンバーが戦車道履修者から外れた事もあり、以前のように気軽に生徒会室を使う訳にもいかなかった。
大洗女子学園の大恩人であり功労者でもあるみほが申し入れれば無下にはできないのかも知れないが、彼女はそれをしなかった。
電話の取次だけを依頼し、予め渡してあるリストの相手からの場合のみ転送して貰っていた。
そして、電話の相手はその中の一人。
プラウダ高校戦車道新隊長、クラーラだった。
指揮官としての実力は未知数だが、あのカチューシャから隊長を任された人物が無能である筈もない。
少なくとも、車長としては優秀である事は大学選抜チーム戦を見た者であれば誰もが認める事実であろう。
プラウダ高校も先の大会では勝利こそ出来た相手だが、決して格下に見てはいけないチームである事に変わりはない。
「ちょっと、待っていただけますか?」
みほは一旦電話を保留にすると、その場にいた梓と愛里寿に電話の内容を話した。
「二人共、どう思うかな?」
「……私は、正直現状で他校との試合に臨めるとは思いません。あんこうチーム以外の戦力化がまだまだですから」
「私も梓さんに賛成。対外試合は必要だけど、まだその時じゃない」
「梓ちゃんも愛里寿ちゃんも反対なんだね。……私は、いい機会かなって思うけど」
意外な反応に、梓は目を丸くする。
愛里寿は、無表情のままみほを見つめる。
「練習は本当ならいくらでもやりたいけど、でもそれだけじゃダメだと思うから。それは、うちだけじゃないと思うの」
「……西住隊長は、お受けするつもりなんですね?」
「うん。どうしても梓ちゃん達が乗り気じゃないのならしょうがないけど」
「いえ。何かお考えがあるようですから、それであれば構いません」
「……隊長と副隊長がそう決めたのなら、私からは何も言う事はない」
みほは、二人の返事に頷く。
「それでね、梓ちゃん。お願いがあるんだけど」
「え? 何でしょう?」
週末。
プラウダ高校の学園艦が、大洗港に到着。
それを、大洗女子学園戦車道チームの面々が眺めている。
「ふえ~、でっかいねぇ」
「安祐美さん。エキシビションの時に一度大洗に来ているじゃありませんこと?」
「ああ、あの時は場所取り行ってたしなぁ」
どこか呑気に見える安祐美とえりのやり取り。
それを横目に、桂里奈とあゆみは顔を見合わせる。
「梓、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だよ、梓は強いから。……私達は、出来る事をやろうよ」
一方、その梓は。
接岸したプラウダ高校学園艦から降ろされたタラップの前で、みほと並んで立っていた。
……と。
「あ。今日は、よろしくおねがいしますだ」
「よろしくです」
まだ暑い季節にも関わらず、ロシア帽を被った少女が二人の前に姿を見せた。
その後ろには、ショートボブの少女。
「副隊長のニーナです」
「アリーナです」
「梓ちゃん」
「……はい」
みほに肩を叩かれた梓が、一歩前に出た。
「今日の練習試合。……隊長として指揮を執らせていただく、澤梓です。よろしくお願いします」
頭を下げ、二人と握手を交わす梓。
大洗女子学園はディフェンディング・チャンピオンであり、隊長のみほの実績は十分に知れ渡っている。
最早無名校とは誰も思わないであろう。
……が、それもみほが指揮すればの話。
梓はみほが副隊長に指名した以上、他校も当然マークはしていると考えるべきであろう。
とはいえ車長としてはまだしも、隊長としての実力は未知数なのもまた事実である。
そして、プラウダ高校側もまた隊長のクラーラはこの場にはいない。
胸を借りつつニーナとアリーナ経験を積む良い機会と思い申し込んだつもりが、肩透かしを食らったようなものだろう。
一方の梓にしても、緊張で顔が強張ったまま。
みほから今回の事を告げられた時は流石に驚いたが、それから数日経ち落ち着きは取り戻しつつあった。
その代わり、今度は初の隊長としてのプレッシャーが襲いかかっていた。
梓は決して重圧に弱いタイプではないが、いきなりみほの代わりを務めるよう言われて平然としていられる訳もなかった。
みほからは勝敗とか結果に拘らず、思うように指揮を執れ……そう言われてはいた。
だが、大洗女子学園は二度の廃校騒ぎもあり注目の的である事に変わりはない。
練習試合と言えども、気楽に構えるなど梓には到底無理な相談であった。
……立場や事情の違いはあれど、両校の隊長は共に胃痛に悩まされかねない状態での試合となってしまっていた。
挨拶を終えた梓は、勢揃いした戦車道チームのところへ向かった。
ツチヤ、カエサル、愛里寿、ゴモヨ。
梓が指名したチームのリーダー達。
みほは、梓と相談の上今回はメンバーから外れる事となった。
戦力的にはあんこうチームがいるといないとでは天と地との差がある、それは梓も重々承知している。
だが、今回はみほが梓に指揮を執らせ自分は何もしないと宣言していた。
必然的に、残り八チームから選ぶ事となった。
ペコの手腕も未知数ではあるが、味方の各チームも戦力を分散させた都合上計算通りには行かないかも知れない。
梓は悩んだ末に、選んだ編成だった。
「皆さん。西住隊長みたいには行きませんが、精一杯頑張ります。どうぞ宜しくお願いします!」
「そう硬くなるな。私達は、澤副隊長の指示に従うまでだ」
カエサルの言葉に、他の三人も頷く。
「愛里寿ちゃん、至らない事ばかりかも知れないけど……宜しくね?」
「梓さん、それは違う」
「え?」
「私はただの車長だから。遠慮も要らないし気にせず指示して欲しい」
「……うん」
「例え指揮にミスがあったとしても、それに部隊が従わないようでは勝てる試合も勝てなくなる。私からはそれだけ」
「わかったよ。ツチヤ先輩、後藤先輩も宜しくお願いします」
「りょーかい!新生自動車部の腕の見せ所だね!」
「風紀委員も頑張るよ」
「……はいっ!」
梓は、笑顔を見せた。
そして、試合開始。
聖グロはチャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶにクルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲ、クロムウェル巡航戦車Mk.Ⅳが各一輛。
マチルダ歩兵戦車Mk.Ⅳが二輛。
対する大洗女子学園はT-28、
車輌の統一感がないのは相変わらずだが、最初の練習試合に出たのは三突のみ。
メンバーも大幅に入れ替わっているが、あれからまだ一年も経っていない。
梓はハッチから身を乗り出しながら、ふとそんな事を思った。
「梓」
「え?」
車内からの声に下を向くと、あゆみが見ていた。
「感慨にふけるのもいいけど、試合が終わってから。今日の梓は隊長なんだからね?」
「あ……うん、そうだね。……ありがとう、あゆみ」
「うん! 頑張ろうね!」
「……あの、あゆみさん?」
通信手のえりが、ヘッドホンを直しながら話しかけた。
「何かな?」
「いえ。梓さんの様子、どうしてわかったんでしょうか?」
「わかるよ。梓だもん」
「……いや、それ説明になってないって」
「そうかな?」
安祐美のツッコミに、首を傾げるあゆみ。
リアルに考えたらツッコミどころがあるかと思いますが、ガルパン世界なのでそこは勘案していただけますと幸いです。