副隊長、やります!   作:はるたか㌠

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ちょっと難産でした。

そして、気がついたらどうしてこうなったという展開に。
だが後悔などない(断言



では、パンツァー・フォー!


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微修正しました。


第11話 姉妹です!

「失礼しました」

 

 書類を出し、職員室を連れ立って出たみほと梓。

 が、みほの様子がおかしかった。

 

「西住隊長……大丈夫ですか?」

「うん……。平気だよ?」

「そうは見えませんけど……」

 

 梓から見ても、目の前にいるみほは明らかにフラフラしている。

 顔色も悪いし、テンションも低い。

 

「練習、行かなくちゃ」

「で、でも……」

「あれ? 何だか、目が回るような」

「……失礼します」

 

 梓は手を伸ばし、みほの額に触れた。

 

「凄い熱じゃないですか! すぐ保健室に行きましょう」

「平気だよ。これくらい何とも……」

「駄目ですって、もう!」

 

 問答無用でみほを背負い、梓は保健室に向かった。

 

 

 

「過労ね。暫く休んでから今日は帰った方がいいわ」

「やっぱりですか……」

 

 養護教諭の診立てを聞きながら、梓は溜息をつく。

 みほが最近、オーバーワーク気味なのはわかっていた。

 戦車道隊長として新メンバーへの指導は勿論だが、無名校を一気に全国区に押し上げた彼女を大衆が放っておく訳がなく。

 みほやチームへの取材申し込みが殺到していた。

 桃や生徒会広報担当だけでは到底捌ききれず、中にはどう調べたのかみほの個人メルアドやSNSアカウントに直接問い合わせてくる会社や記者すらいた。

 みほは見た目も愛らしく、控え目故にアイドル的な偶像が出来上がってしまったらしい。

 無論本人非公認ながら、ファンクラブらしきものまで結成されたという噂まであった。

 基本的に押しに弱いみほはそれらをキッパリ断われる訳もなく、その対応だけで毎日無駄に時間を取られていた。

 本分は学生だから、当然日々の勉強も疎かには出来ない。

 それで手を抜く程器用でもないから、睡眠時間は削られる上にストレスも溜まる。

 その結果がこれである。

 梓だけでなく、周囲もそれは心配していた。

 

(結局、何も力になれてないな……私)

 

 寝息を立てているみほを見ながら、梓はまた溜息をついた。

 と、彼女は携帯が震えている事に気付いた。

 保健室を出て、端末を開く。

 そして、着信ボタンを押した。

 

「もしもし、あゆみ?」

「うん。練習始まる時間だけどどうしたの? 西住隊長も来てないし」

「え? もうそんな時間?……わかった、今行くから」

 

 梓は電話を切ると、保健室に戻り養護教諭にみほの事を頼んだ。

 練習が終わってから、寮まで連れて帰るしかないなと思いながら。

 みほがこの状態だからと言って、練習を休みには出来ない。

 となれば、梓が指揮を取るより他にない。

 但し、事情は説明する必要がある。

 

「兎に角、行くしかないか」

 

 梓は自分の頬をピシャリと叩くと、玄関へと向かった。

 

 

 

「それでは、練習はこれで終わります。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!」

 

 みほ不在でどうなるかと不安だらけで臨んだ梓だが、大きな混乱もなく終える事が出来た。

 あんこうチームがどうせⅣ号は動かせないのだからと、新人の指導に回ってくれた事も大きい。

 

「よーし、みんな。今日も万全に整備するよ!」

「はい!」

 

 倉庫に戻った車両を前に、ツチヤ以下自動車部が作業にかかり始めた。

 当たり前だが、戦車道で使われる車両は年代物が多くこまめなメンテナンスは不可欠。

 ちょっとした点検や補修なら乗員もやるが、練習や試合で酷使した後はそれだけでは足りない。

 特にまだ不慣れな乗員が動かしているヘッツアーやB1などは、どうしても念入りなチェックが必要となってしまう。

 ツチヤは部長として一年生部員の指導をしつつ、車長の役割もこなさなければならない。

 梓とはまた違った意味での苦労が絶えない事だろう。

 もっとも、本人はそんな素振りはまるで見せないのだが。

 

「ツチヤ先輩。良ければ、何かお手伝いしたいのですが?」

「え? そりゃ助かるけど……いいの?」

「ええ。整備の事も知りたいので」

「……無理、してないよね?」

 

 ジッと、梓の顔を覗き込むツチヤ。

 

「してませんよ。一体どうしたんですか?」

「澤さん、殆ど毎日居残りで練習とか勉強してるって聞いたよ? 今日なんて西住隊長の代理までやってるんだ、疲れてない訳ないと思うな」

「だ、大丈夫ですって」

「そうかな? 人も機械もね、無理を続ければ壊れるんだ。今の澤さん、明らかにそうなりかけてるよ」

「…………」

「ベストでもないコンディションで、整備なんて止めた方が良いよ。整備するつもりが壊しかねないし、第一ケガしたらどうするのさ?」

 

 返す言葉もない梓。

 ツチヤはそこまで言うと、フッと息を吐いた。

 

「それにさ。澤さんにしか出来ない事があるんじゃないかな?」

「え?」

「私達は整備とレオポンの事なら誰にも負けない。でも、それだけだからさ」

「そんな事……っ?」

 

 反論しかけた梓を、ツチヤが遮った。

 

「あるさ。そうだろ、みんな?」

 

 作業を始めていた一年の自動車部員が手を止め、ツチヤに向かって一斉に頷いた。

 

「そうですね」

「整備も大変だけど、澤さんの代わりやれと言われても無理ですね」

「そうそう。同じ一年とは思えないです、凄くて」

「え? そ、そんな事は……私なんて、まだまだです」

「そうかな? ま、それはそれとして。繰り返すけど、今は澤さんにしか出来ない事をやるべきだよ」

「……はい」

 

 ツチヤは、ニカッと笑った。

 

「そんな顔しないで。整備はまたいつでも手伝って貰えるからさ、それより西住隊長の様子を見てきてあげなよ」

「はい! わかりました!」

 

 梓は頭を下げ、回れ右をして駆けていく。

 ツチヤは手を振りながら、呟いた。

 

「やれやれ。人様に説教なんて柄じゃないんだけどな」

 

 苦笑するツチヤに、自動車部員から声が飛ぶ。

 

「部長! このパーツ、そろそろ交換した方がいいんじゃないですか? ちょっと見て下さい」

「了解、今行くよ!」

 

 

 

 梓が保健室に行くと、みほは意識を取り戻していた。

 梓に気づき、微笑んだ。

 

「西住隊長、大丈夫ですか?」

「うん、休んだらだいぶ楽になったよ。ゴメンね、梓ちゃん」

「いえ、何もお役に立てなくてすみません」

「そんな事ないよ。梓ちゃんがいてくれたから、こうして寝ていられたんだし」

 

 まだ幾分顔色は悪かったが、気分が良くなったと言うのは嘘ではなさそうだ。

 

「帰りましょうか。立てますか?」

「うん……あれ?」

 

 ベッドから起き上がり、降りようとする。

 が、みほはまだ足元が覚束ないらしく危なっかしい。

 慌てて支える梓に抱き留められ、どうにか床にダイブせずに済んだ。

 

「もう少し寝ていた方がいいんじゃ……。私、許可貰ってきます」

「い、いいよ! ゆっくり歩けば大丈夫だから」

「でも……」

「なら、肩を貸してくれるかな? それなら平気だから」

「わかりました、そこまで仰るなら」

「ありがとう」

 

 梓は、肩にかかるみほの体重が予想以上に軽い事に驚いた。

 自分よりも七センチ程背が高いのだから、相応に重くてもおかしくない。

 

「西住隊長、ちゃんと食べてます?」

「…………」

「西住隊長?」

 

 返事がないので、心配してみほの顔を覗き込む梓。

 ……が、みほは指を唇に当てて思いを巡らせているようにも見えた。

 そして、梓を見た。

 

「ねえ、梓ちゃん」

「はい」

「今、二人っきりなんだし。またお姉ちゃんって呼んで」

「ええっ? な、何言ってるんですか!」

「……じゃあ、返事してあげない」

 

 わかりやすいぐらいにむくれるみほ。

 梓はこめかみに手を当てた。

 

「ハァ……。あれは学園艦の外だったからですよ?」

「…………」

「もう、わかりました! でも、学園内はダメです。外に出てからにして下さい」

「うん!」

 

 梓は言いたい事はあったが、それを口にはしなかった。

 みほが少しでも元気を取り戻すのであれば、と。

 みほの腋に手を回し、ゆっくりと保健室を出た。

 

 

 

 まだ辛そうなみほの様子に、梓は途中の公園で休む事にした。

 自販機で缶コーヒーを二本買い、みほにも手渡した。

 

「ありがとう」

「いいえ」

「……何これ、とっても甘いよ?」

 

 プルタブを開け、一口飲んだみほが驚きながら缶を見つめた。

 黄色地に、缶コーヒーにしては珍しい二百五十ミリ入りの缶。

 世界的大手の清涼飲料水メーカーの製品だが、みほは初めて口にしたようだ。

 

「地域限定販売の缶コーヒーなんですよ。疲れてる時は甘い物がいいですから」

「確かに甘いけど……強烈だね、これ」

「ふふ。みほお姉ちゃんでも、知らない事はまだまだあるんですね?」

「もう、梓ちゃんったら。私は戦車道しか取り柄がないんだよ?」

「それは言い過ぎですって」

 

 みほは謙遜するが、戦車道以外の成績は決して悪くはない。

 宿題も忘れずこなし、遅刻も登校途中で麻子を見かけて連れて来た時以外にはなし。

 持ち前の鈍さから体育は今ひとつだが、完璧超人過ぎるよりは欠点がある方がいいと生徒間での評判は良い。

 ちなみにその人望から次期生徒会長に、という声もあったがそれは本人が強く辞退。

 杏もそれに同意した為、その話は立ち消えになったのだが。

 

「それなら梓ちゃんの方が凄いよ。私なんかよりもいろんな事が出来るんだし」

「まだまだです。今日だって、力不足を痛感しましたから」

「ううん。隊長の資格なんて誰が決める訳じゃないから。梓ちゃんなら大丈夫」

「もう……みほお姉ちゃん、褒めても何も出ませんよ?」

 

 二人は顔を見合わせ、笑った。

 ……と。

 キューと小さな音が鳴った。

 みほが、俯いて頬を染める。

 

「みほお姉ちゃん。お腹空きました?」

「う、うん……」

「まずは帰りましょう。過労はゆっくり休むのが一番ですから。立てますか?」

「何とか……あっ」

「厳しそうですね。……どうぞ」

 

 ふらつくみほを見て、梓は背を向けて膝をつく。

 

「へ、平気だから」

「ちっともそうは見えませんから。冷えて来ましたし、遠慮しないで下さい」

「……わかった。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 みほは頷いて、その背に乗る。

 そのまま立ち上がり、梓は歩き出した。

 

「重くない?」

「軽いですよ。みほお姉ちゃん、さっきも聞きましたけどちゃんと食べてますか?」

「最近はあんまり……。食欲もなくって」

「それじゃ倒れて当たり前ですよ! ただでさえ忙しいんですから、食事と睡眠はしっかり取らないと」

「う……ごめんなさい」

「みんな、心配していましたよ?……大変なのはわかりますけど、もっと自分を大事にして下さい」

「あはは……。なんかこれじゃ、あべこべだね」

「え?」

「だって、梓ちゃんにお姉ちゃんって呼んで貰ってるのに。これじゃ梓ちゃんの方がお姉ちゃんかお母さんみたいで」

「……っ! も、もう何言ってるんですか!」

 

 真っ赤になり、そのまま駆け出す梓。

 みほは振り落とされないよう慌ててしがみつくより他なかった。

 

「ちょ、ちょっと梓ちゃん!」

「みほお姉ちゃんなんて、知りませんっ!」

 

 

 

 そして。

 

「すみません、すみません!」

「あはは……。私も悪かったから、気にしないで」

 

 調子の悪いみほを背負ったまま激走した梓。

 結果、みほは部屋につくと完全にグロッキー状態。

 ベッドに寝かせたみほを前に、梓は平謝りだった。

 

「と、とりあえず横になっていて下さい。お詫びに、何か作りますから」

「え? 梓ちゃん、料理得意なの?」

「……流石に沙織先輩のようにはいきませんけど、簡単なものでしたら」

 

 制服の上からエプロンをつけ、台所に立つ梓。

 

「お鍋とか冷蔵庫の食材とか、お借りしてもいいですか?」

「あ、うん」

「ありがとうございます。じゃ、ちょっと待ってて下さいね」

 

 その姿を見ながら、みほは微笑む。

 そして、呟いた。

 

「梓ちゃん、いいお嫁さんになれそうだね」

 

 勿論聞こえてはいないのだが……万が一聞こえていたら、更なる大惨事になっていたかも知れない。

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

 鍋つかみを使い、土鍋を手に梓がみほのところに戻った。

 

「あ、嬉しい。お粥かな?」

「ええ。やっぱり、消化に良い物の方がいいと思って」

 

 身体を起こそうとしたみほを、梓が押し止めた。

 

「梓ちゃん?」

「横になっていて下さい」

 

 テーブルに鍋敷きを置き、その上に土鍋を載せた。

 蓋を取ると、もわっと湯気が上る。

 

「卵粥にしてみました。塩で味付けしていますから、そのまま召し上がって下さい」

「美味しそう。じゃあ、早速……」

「ですから、横になっていて下さい」

「……い、いや。そこまで大袈裟じゃないから」

「今とんすいに盛りますから」

「あ、あのね。梓ちゃん?」

 

 梓はニコニコしながらお粥をよそう。

 そしてレンゲで掬うと、

 

「フー、フー」

 

 息を吹きかけて冷まし始めた。

 流石にみほも、梓が何を考えているか理解したようだ。

 

「梓ちゃん、いいって。自分で食べられるから」

「いいえ、みほお姉ちゃんは病人なんですから。看病するのが妹の務めでしょう?」

「梓ちゃん、もしかして……怒ってる?」

「え、まさか。そんな訳ないじゃないですか、みほお姉ちゃん」

 

 笑顔のまま、梓はレンゲをみほの前に差し出した。

 

「はい、あーん」

「い、いや本当にいいから!」

「あーん」

「梓ちゃん……だから」

「あーん」

「……もう、わかりました。お姉ちゃんの負けです」

 

 観念したみほは、口を開く。

 レンゲがそっと差し込まれ、みほの口に優しい塩味が広がった。

 

「あ、美味しい」

「そうですか? 良かった」

 

 そして再び、とんすいにレンゲを戻す梓。

 

「……梓ちゃん。一応、聞くけど」

「はい。全部召し上がって下さいね、同じように」

「……やっぱり怒ってるよ」

 

 涙目になりながら、みほはひたすらお粥を食べさせられる羽目になった。

 

 

 

「それじゃ、ゆっくり休んで下さいね」

 

 後片付けを終えた梓は、みほの布団を直すと腰を上げた。

 

「うん。梓ちゃん、今日はありがとうございます」

「どういたしまして、みほお姉ちゃん」

「……ねえ、梓ちゃん」

「はい」

「……ううん、何でもない。気をつけて帰ってね?」

「ありがとうございます。あ、明日からは元通りですからね?」

「わかってるよ、大丈夫」

「……ならいいです。お休みなさい」

「うん、お休み。また明日ね」

 

 玄関で、みほは梓を見送った。

 ドアが閉まり、鍵をかけてからみほはフッと息を吐く。

 

「お粥、美味しかったな。今度、作り方教わろうかな?」

 

 今日は、ぐっすり眠れそうだ。

 みほはいい気分でベッドに向かった。

 梓の意外な一面を見られたという思いを抱きながら。




澤ちゃんはいいぞ、という事で。

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