ーエシャルー
ヴェルダンからワープ、来た場所といえば山!ここは何処だアグストリアかな? なんていったってヴェルダンからのワープだからね! 近場っしょ! わはははは!
………山以外何にもねぇ、マジで何処ですかね? 山っつっても、緑の少ない山ばっか。岩山っつーのかな? 人里あるんすかね?
とりあえず、山歩きを実行する俺。ワープは最終手段、そもそもここが何処か分からない。分からないから、ワープが出来ません。ヴェルダンの時にやったランダムワープ、知らぬ土地でそんなんやったら危険やで!
…やんなきゃよかったランダムワープ、見知らぬ土地に辿り着くとは思わなかった。このままだと遭難するぜ、ヘルプミーってなわけよ! …やっぱワープしちゃおうかな? 鮮明に思い浮かべることの出来る場所、ヴェルトマーの僻地、マーファ城、ヴェルダンの村、綺麗な湖。…少な! ワープ候補地が少ない件について、…なんでやねん!
ヴェルダンで鍛えたこの足腰、この程度でへたれません。それに山歩きも楽しいもんだ、景色もいいし。欲を言うなら人里カモン! 人っ子一人いやしねぇ、マジで何処だよ。ヴェルダンから旅立って2日、もう既にホームシックな俺。一人は寂しい、食料がヤバイ、俺様カッコいい。…ぐすっ、
「助けてくださぁぁぁぁぁい!!」
山の中で助けを叫ぶ俺、せめてここが何処かだけでも教えてください!
人里求めて4日、流石にもうヤバイです。食料尽きて、一人が寂しすぎて死にそうです。風呂、もしくは水浴びがしたいです。マジでヴェルダンに帰ろうかなぁ…、でもカッコ悪いよなぁ…。今日中に人里を見付けよう、見付けることが出来なかった場合はヴェルダンに帰ろう。死ぬよりマシだよね! …ラストスパートじゃボケェェェェェ!
全てを懸けてハイになっている俺を、誰も止めることは出来ない。…何処だぁ、人里! 俺の面前に姿を見せやがれ! 高山病もなんのその、山々を駆け巡る俺はもはや山神。人知を超えた存在となっている、…気持ち的にね。そんな俺のゴキブリパワーが尽きかけている、流石に限界か!? と思いかけた時に見えたモノ。あれは…、
「やったぜ村だ集落だ! これで勝つる!!」
テンションアゲアゲで駆け出したのだった。
ーパピヨンー
「おらぁ! 剣を捨てな、隊長さんよぉ! ガキがどうなってもいいのか!」
賊が子供に斧を突き付け、こちらに剣を捨てろと要求してくる。
「パピヨン隊長、どうすれば…。」
部下の一人が私に問いかける。これが他国の子供であれば、気にも留めずに賊ごと斬るのだが…。人質は紛れもなく我らが国の民、見殺しにすることなど出来る筈もない。
「…分かった、こちらの武器は捨てよう。その代わり、子供に危害を加えるのはやめろ!」
そう言って、私は剣を捨てる。部下も私に習い、各々の武器を手放した。賊はニヤニヤ笑い、
「それでいいんだ隊長さんよぉ、俺も子供を殺すなんてこたぁしたくねぇからな。」
クソが! どの口がそんなことを言う! 既に6人もの民を殺した癖に…! 私は悔しくなり、賊を睨む。そんな私の目が気に入らないのだろう、苛立った様子で、
「…んだぁ! その目はよぉ! 立場が分かってんのか、あぁ!!」
賊の斧が、子供に強く押し付けられる。少し刃が肌を裂いたのだろう、子供の服に赤い染みが浮かび上がる。子供は声を上げず痛みに堪えている、…強い子だ。その我慢強さに敬意を評し、絶対に助け出したい。しかし現状は、救出するのは難しいと言わざるを得ない。…くっ、どうすれば。
そんな逼迫した状況に、乱入してくる男がいた。少々汚れてはいるが、身なりが良い。鷹のように鋭い眼差しは、只者ではないと私の勘が囁く。そんなことより、突然の乱入。賊を刺激してしまったのでは…!
「なんだテメェ! 軍の関係者かなんかかぁ!? …ガキがどうなってもいいみたいだなぁ!」
やはり刺激してしまったか!? クソ…! 一か八か、賭けに出るしかないか!
「……どんな状況? …子供が人質で皆さんがピンチ?…んん?」
状況が飲み込めていないのか、コイツは! …コイツのせいで、事態は一刻を争うことになったというのに!
「…なるほど、その小汚ねぇ賊が悪党か。理解した、…ならば!」
今更理解など…! と思った矢先、男の体が光った瞬間。子供が賊の下から消え、男の下に。
「「「「はぁ!?」」」」
私達と賊の声が重なった。一体何が起きたのだ!?
「隊長さん? でいいのかね? 人質は救出したわけで、…後は分かるだろ?」
男の言葉で我に返る。私は努めて冷静に、
「賊を捕らえるのだ!」
と声を上げた。
ーエシャルー
なんかよく分からんけど、子供を救出。賊は、兵士の皆さんに捕まったみたい。まぁとりあえず、良かったのかな?
「…うぅ~……!」
何やら子供が呻き声を。よく見ると、怪我してんじゃん! 人質にされた時に傷付いたんか! んなことより治療だな! …ライブ!
………よし! 子供の傷は治ったな、一件落着ってわけだ! 良かった良かった! と自己満足している中で、ポンッと肩に手を置かれ、
「協力に感謝する、…で少し話を聞かせてもらえないだろうか?」
…ですよねぇ~。隊長さん? は、話を聞きたいようだ。まぁ話すことはいい、だがその前に…。
「…その前に、飯を食いたいんだけど。…良いですかね?」
ぐぅ~…と腹が鳴り、隊長さん? が苦笑いをしていた。…恥ずかしいわ!
……まぐまぐ。貰ったパンは一つだが、ものっそ旨い! 空腹はスパイスだ! このパンは、助けた子供の親から頂いた。お礼がこれしかないって、終始申し訳ないオーラを出していた。逆に俺の方が、申し訳ない気持ちで一杯だよ! たまたま遭遇した為に助けただけで、お礼を貰う為に助けたわけじゃない。
なんとなく雰囲気で感じたけど、この村? 貧しいんじゃないですかね? そんなんで、お礼としてパンを一つ。本当に申し訳ない、だがしかし…! せっかくくれるってんなら貰うだろ! お礼を拒否するのは人にあらず、好意は受け取らないと駄目でやんす。
満腹とはいかないけど、満足したぜ。ちゅーわけで、パンを食い終わるのを待っていた隊長さん。
「お待たせしてすみませんね。…んで、話って俺についてでいいんですかね?」
「ああ、立場上…聞かぬわけにはいかないからな。」
まぁそりゃそうだわな、…軽く話しますかね。
自己紹介を互いにしてから、ヴェルトマー家から逃げているのは伏せつつ、これまでのことを話した。つっても、ヴェルダンからのことですが。ワケありの放浪魔法剣士? とでも思ってくださいな。俺の事情を話したところ、隊長さん…パピヨンさんはやや呆れている。
「ワケありなのは多少引っ掛かるが、ヴェルダン王国に関わりがあるのか。しかも王族…、身なりを見れば分からんでもない。…いやそれ以上に、ワープとレスキューか。エシャル殿は、なかなかの…いや、かなりの腕を持っているようですな。」
「いやぁ~…、それほどでも。」
照れてみた。照れる俺を気にせず、パピヨンさんは、
「賊のこともあるし、ワケありとはいえ助力してもらったこともある。…一応、トラバント様に報告せねばなるまい。エシャル殿には悪いが、一緒に来てはくれないだろうか?」
「…上司に報告? ならば仕方がないよね、…付き合いましょう。」
ここで断れば、最悪犯罪者になってしまうだろう。ヴェルトマーの他に、追われる奴等が増えるのは勘弁。ついていくしかないっしょ。俺の言葉を聞いて、安心したパピヨンさん。彼は、
「申し訳ない、では…足を呼ぶので。…おい! 私の飛竜を連れてきてくれ!」
…おぉ、飛竜ですってよ奥さん。……んん? 飛竜?
立派な飛竜が現れて、パピヨンさんがそれに乗る。
「エシャル殿、貴殿も我が飛竜に乗ってくれ。…安全な空の旅を約束しよう。」
俺はパピヨンさんの手を掴み、飛竜の背に乗る。…彼ってドラゴンナイトっすかね? 聞いとこ。
「パピヨンさんパピヨンさん、貴方はドラゴンナイト? 因みにここって、トラキア王国ですかね?」
「…? いかにも私は竜騎士で、ここはトラキア王国だが。互いに紹介をする時に言ったのだが…。」
何言ってるのコイツって顔してるね、サーセン! …それにしてもトラキアねぇ~、遠くに来たもんだわ。とりあえず、トラバント様とやらに会わないとね。考えるのはその後だ、…ってトラバント? トラキアの王様ですやん! なんてことを考えながら、俺はパピヨンさんの飛竜で空へと舞った。
トラキア~。
まだ先だけど、次はレンスターになるんだろうね。