ファイアーエムブレム~俺の系譜~   作:ユキユキさん

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ひっそり投稿。


閑話 ~ガンドルフの亡命

ーエシャルー

 

オーガヒル城を燃やし尽くし、ヴァン達と共にトラキアへと戻ってきた俺。ヴァン達は使用人達に任せ、すぐにトラバントの下へと向かう。トラバントはいつも通りの不敵な笑みで俺を迎え、俺もいつも通りにマディノの報告をする。既にカナッツ君、そしてディアドラから聞いていたが故にスムーズに報告は終了。俺の報告を聞き終えたトラバントは、

 

「ご苦労だったなエシャル、・・・エルトシャン王との再会に、自身の配下に加えた傭兵隊と海賊達。お前の顔を見る限り、内密の話がありそうだが・・・、それは後で聞こう。」

 

俺の顔を見るだけでそれに気付くとは、流石はトラバントである。話したいことが多いから、腰を落ち着かせて話したい。つーことで、後程トラバントの執務室に顔を出そう。・・・なんて考えていると、

 

「よぅエシャル、無事で何よりだ!」

 

トラバントの座る王座の後ろからガンドルフの兄貴が・・・!何故に・・・!?

 

「ククク・・・、その顔が見たかったのだエシャル。」

 

したり顔のトラバントにイラッときたのは内緒だ・・・。

 

まぁとりあえず、何で兄貴がいるのかを聞いてみたら、

 

「俺はヴェルダンから亡命してきたんだよ、・・・色々と頑張ってみたが駄目だな。止められねぇよ、ヴェルダンは・・・。」

 

いつも強気な兄貴の悲しそうな顔、・・・やはりヴェルダンはそうなっちまったか。俺の知る知識とは違う道を歩んできたが、動乱の足音は着実に近付いているわけだな・・・。

 

「エシャルが戻ってきたし、ヴェルダンの話でもするか?・・・影響が無いわけではないし、今後の方針を考えるのにもな。いいか?トラバント、エシャル・・・。」

 

俺とトラバントは、互いに顔を見合わせてから兄貴に向き直り頷く。

 

 

 

 

 

ーガンドルフー

 

俺はヴェルダン城にて、父であるヴェルダン王バトゥ、弟であるバルバロイ、キンボイスの三人と対峙していた。

 

「・・・親父、本気で言っているのか?本気でグランベルとの戦を、戦争を起こそうとしているのか・・・?」

 

だいぶ前から警戒していたが、親父達は俺に知られることなく、戦の準備を水面下で始めていたらしい。薄々は感付いてはいたが、面と向かって言われると少なからず動揺はする。まぁそれはいい、キナ臭いとは思っていたし。本当にそれはいいんだがよ・・・、

 

「トラキア王国との同盟を破棄し、マーファ城を接収及び駐屯しているトラキア兵、滞在中のトラキア国民を捕らえて交渉の道具とする。・・・親父、いやバトゥ王!そこの二人が言ったことは本当なのか!我がヴェルダン王国の発展に貢献し、友誼を交わしてきた相手を裏切る。・・・いつからそんな恩知らずな王になったんだ、ええっ!!」

 

バルバロイが言った同盟破棄、キンボイスが言ったマーファ城の接収。そして・・・トラキア国民を交渉の道具とし、更に物資等を入手しようとする最悪な考え。それを聞いた俺は激昂した、恩知らずで悪辣だと。そんな俺に対し、父であるバトゥ王は・・・、

 

「長年、苦汁を舐めさせられていたグランベルに一矢報いる時。その時が来るとサンディマは言った、グランベルに隙が出来ると。その隙を突けば、我がヴェルダン王国の勝利は確実だと・・・。分かるな、・・・ガンドルフ。」

 

・・・分かるかよ、分かってたまるかよ!グランベルに隙だぁ?ヴェルダンの勝利だぁ?聖戦士の血族を舐めすぎだ、勝てる筈がねぇんだよ俺達は!勝てる筈もねぇ相手に戦争を仕掛ける為、トラキアを裏切る。・・・・・・くそっ!!

 

説得を試みたが、聞く耳持たずに同盟破棄と城の接収、トラキア国民の捕縛。それだけを言って親父は、いつの間にかいたサンディマを伴いこの場を去る。どうにもならねぇか・・・と、肩を落とす俺。そんな俺を見て、愚かな弟達は、

 

「はん!ざまぁねぇな兄貴!同盟同盟ってよ、トラキアに尻尾振ってよ!たかがトラキア、竜騎士なんざ矢で撃ち落とすだけじゃねぇか!」

 

・・・本来なら、それで終わりなんだがなバルバロイ。エシャルには効かねぇし、マゴーネ達輸送師団にも効かねぇよ。まだ数は少ねぇがマゴーネはドラゴンジェネラル、大型のドラゴンを鎧で重装備させた空飛ぶ要塞だ。弓の名手なら何とかなるが、撃てるだけの弓兵如きに落とせる奴等じゃねぇぜ。

 

「弱腰の兄貴は早々に城へ戻って、引っ越しの準備でもしていなよ!マーファ城の全てを、トラキアの奴等も、俺達が有効活用してやるからよ!ガハハハハハ!グランベルも終わりだなぁっ!!」

 

・・・弱腰で何が悪いんだキンボイス、俺は現実を見ているんだよ。たかがヴェルダン兵という凡兵が、聖戦士の血族が率いるグランベル兵に勝てるわけがない。・・・俺の率いるマーファ軍は奴等に勝てる自信がある、エシャルやマゴーネ達と演習しその強さを磨いてきたからな。でも、聖戦士の血族で力を継承した奴が出てくれば、成す術もなく蹂躙されるだろう。エシャルとトラバントを間近で見てきたから分かる、聖戦士と凡人・・・埋められない差があると。それを知らない・・・いや、知ろうとしない親父と弟達は絶望することになるだろう。・・・それにしてもサンディマの野郎、奴は一体何なんだ?

 

愚かな弟達を一瞥し、俺はヴェルダン城を後にする。最後にもう一度、ヴェルダン城を見る。・・・・・・もう俺はここにはいられねぇ、狂った国の為に死ぬなんざ真っ平だ。俺には俺を慕う部下や民達がいる、受け入れてくれたトラキア王国、トラバントにエシャル達・・・、彼らには恩がある。俺はくだらねぇことで死ぬわけにはいかねぇんだ、ヴェルダンは一度・・・滅んだ方がいいんだ。・・・そんな風に考えても、悲しいもんは悲しい。目から涙が零れたが、俺は乱暴にそれを拭って決意する。俺は国を捨てるがいずれ、この国を元に戻してみせると。俺では無理でも、いつかは出来るであろう俺の子供が、弟のジャムカだっているからな!希望は捨てずに俺はいくぜ、今はあれだけど祖国なわけだしな!

 

 

 

 

 

マーファ城へと戻ってきたわけだが、さて・・・どんなもんになっているかな?

 

「・・・王子!首尾はどうでし・・・、その顔はやっぱり駄目ってわけですかい・・・?」

 

俺を出迎えたデマジオは、俺の顔を見て結果が最悪・・・ということを読み取ったようだ。・・・コイツ、エシャルやマゴーネ達とつるむようになったら、出来る男って感じになりやがったな。

 

「おう、デマジオ!この国はもう駄目だ、計画通りいくぜ!・・・つっても、後は俺達だけなんだがな!」

 

数ヵ月前から少しずつ、我がマーファの民と物資等はトラキアへ。そして今日が決断の日だった、残るは俺達だけでマーファ城及び周辺の村々はすっからかんさ。・・・そう、数ヵ月前からキナ臭くなり動いていたんだ。俺は、俺達は数ヵ月前にはもう、ヴェルダンを、自分の国を見限っていた。それでも、最後の希望を信じて俺達は残っていたんだがな、・・・やっぱり駄目だったってわけだ。

 

「そうっすか、まぁ・・・仕方がねぇですかね?・・・悲しいっすけど、俺達なりに頑張ったわけですし。共倒れよりも未来を見やしょうや!エシャルの兄貴もそう言ってやしたし!」

 

俺達もただ狂うのを見ていたわけじゃねぇ、何とか戻そうとしたんだぜ?それでも止まらなかったんだ、・・・諦めるしかねぇだろ。それでも、唯一の救いってヤツがある。弟の一人、ジャムカだけはまともだった。それだけは嬉しかったぜ、うん。

 

マーファ城にて、最後の準備をしている時、

 

「兄貴!!」

 

弟のジャムカが息を乱して入ってきた、俺はその姿を見てニヤリと笑い、

 

「よく来たな、ジャムカ!このヴェルダンで、穏やかに会うのは今日で最後だけどよ!亡命する前に会えて嬉しいぜ、本当によ!」

 

ジャムカの来訪を喜んだ。

 

デマジオ達に指示を与え、俺自身はジャムカと話す。ヴェルダン王国という国が存在している今だけ、国が終わる前に兄弟で話をする。

 

「・・・この国は近い内に滅んじまうが、ジャムカ。・・・本当に残るのか?言葉は通じないぜ?」

 

弟が国と共に終わるなんて未来、俺は全力で回避したい。あの二人は勝手にしてくれってヤツだが、ジャムカだけは死んでほしくない。そんな気持ちを含めて言ったんだが、

 

「・・・俺は残るよ兄貴、母が愛したこの国を最後まで見ていたい。それに・・・、親父を見捨てることが出来ないよ。・・・隙あらば、サンディマを殺りたいとも思っている。」

 

ジャムカは考えを変えない、意外と頑固だからな・・・ジャムカはよ。

 

「・・・言ってみただけだよジャムカ、こうと決めたら動かねぇもんな。・・・後、すまねぇな。国を捨てるふがいない兄貴でよ・・・、俺は国を捨ててでも・・・、万が一を考えて血を残したいと思っているからよ。本当にすまねぇ、ジャムカ・・・!」

 

俺は頭を下げる、残る弟を尻目に逃げるようなもんだからな。頭を下げる俺に対し、ジャムカは慌てる。

 

「兄貴、頭を上げてくれ!俺は兄貴の考えていることが分かる、分かるから謝らないでくれ!このままグランベルに戦争を仕掛けたら国は滅ぶ、そしてこの国はグランベルのモノになる、それくらいは分かるぜ兄貴。」

 

ジャムカが賢しい弟で良かった、・・・これもエシャルのお陰だろうな、ジャムカもエシャルを慕っているし・・・。

 

「・・・今は無理でも、次世代に賭けようっていう兄貴の英断を俺は尊敬する。この国は滅んでも、魂は消えないぜ兄貴。それに俺は死ぬつもりなんかない、俺は俺なりに頑張るつもりだ。・・・兄貴、俺達は若木だ。まだまだ弱いけど、時が経てば木となり林となり森になる。俺達の誇りである精霊の森のように、いつかは大きな森になって復活させようぜ!後に来るであろう屈辱を堪えて。・・・兄貴の場合、若木よりも苗木か?トラキアで育って、またこの国に苗木を送るって感じでよ。・・・・・・何かもうわけが分からねぇや、ハハハ!」

 

俺は何となくだが分かるぜ、ジャムカ。生きることは何処でも出来る、大切なのは死なねぇってこと。生きてさえいれば、再びこの地に腰を据えて国を興すことが出来る。生きてこそってヤツだ・・・、苦労はするだろうけどな!

 

 

 

 

 

もっとジャムカと話していたかったが、もう時間だ。サンディマに唆された連中が、このマーファ城を接収する為に向かってきていると連絡が来たからな。ジャムカも早々に立ち去らないと、あらぬことで立場が悪くなりかねない。ジャムカもそれが分かっているから、素早くこの場から立ち去ろうとしている。そんなジャムカに俺はスキルリングを渡した、死んだ兄貴の形見であるスキルリングを。

 

「これは兄貴が大切にしているスキルリングじゃないか!受け取れねぇよ、そんな大事なもん!」

 

受け取りを拒否するが、無理矢理渡す。

 

「いや、受け取れジャムカ。このスキルリングは死んだ兄貴の形見、覚えていないだろうがお前の本当の親父の物だ。本来の持ち主へと戻るだけ、きっとお前を守ってくれるさ。」

 

「・・・俺の本当の親父?・・・その形見?」

 

困惑しているが今はいい、いずれ知ることになるのだから。今は事実だけを知っとけ、ジャムカ・・・。

 

「とりあえず持っとけ、後・・・コイツも受け取れ。エシャルからお前にってな、キラーボウって言っていたぞ。」

 

「・・・キ、キラーボウってあの馬鹿高いヤツじゃねぇか!そんな高級品、受け取れるわけ・・・「受け取れ!」・・・おう。」

 

ビビるジャムカに、預かっていたキラーボウを渡す。渡さねぇと俺が文句を言われるからな、便乗してトラバントにも小言を言われるだろう。そんなのは、断固拒否だ!

 

「エシャルもお前が心配なんだよ、少しでも生き長らえてほしいからコイツをお前に贈るんだ。・・・分かるな?」

 

「・・・おう、・・・エシャルの兄貴に礼を頼むぜ?・・・兄貴。」

 

難しい顔をしつつも、キラーボウをしまい込むジャムカ。俺のやったスキルリングもしているな、・・・いいことだ。こんな状況で渡すことになったのは不本意だが、兄貴のを渡せたことに安堵する。この国に残るってことはかなり危険だが、この二つがありゃあそう簡単には・・・ってヤツだ。

 

「・・・それじゃあ兄貴、俺は行くぜ?壮健でな!」

 

「おう・・・お前もな、ジャムカ!エシャル曰く、近い内に会うことになるらしいが・・・、それまでは死ぬんじゃねぇぞ!」

 

そんなわけで俺とジャムカは別れた、・・・凄まじく心配ではあるが、・・・大丈夫だよな?愚かなキンボイスとバルバロイに殺られるような奴ではないが、サンディマの野郎は不気味だ。隙あらば・・・とジャムカは言っていたが、無謀な行動はするんじゃねぇぞ、俺はそう願うしかなかった・・・。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

兄貴の話を聞き、キラーボウが無事ジャムカの手に渡った、そのことに俺は安堵した。安堵と同時に流れは変わらない、それどころか悪化しているヴェルダンの現状に少なからずショックを受ける。マーファ以外の民達もサンディマに従い、グランベルに攻め入ることを是としている。俺の知るヴェルダンの戦い、それ以上のモノになる可能性が高い。全てを守ることが出来ないってことは分かっている、それでも悲しいわな。・・・ガンドルフの兄貴は少なからずふっ切っているようだが、心中は・・・悲しみで一杯だろう。せめてもの救いは、マーファ周辺の民が無事にこのトラキアへ渡れたことか。マゴーネさんには後で、きちんと礼を言わねばならないな。もち、トラバントにもね。

 

兄貴の話を聞いたトラバントも、うーむ・・・と考えているっぽい。そんなトラバントに兄貴は、

 

「いや本当に、トラバントには感謝しかねぇ。俺達を受け入れてくれてありがとうな、俺を含めて受け入れてくれた民達はトラキアの為に頑張るぜ。その為に、今回のマーファ大移動を計画したんだ。マーファ城とその周辺はスッカラカン、全てトラキアへと持ってきた。俺達を受け入れたことに対して、トラキアに損はさせねぇぜ!」

 

そう言って頭を下げ、顔を上げた時には悪どい顔。兄貴もやるもんだね、・・・今頃ヴェルダンの奴等は悔しがっているだろうね。・・・何も無い城を接収したんだからさ、宛が外れてざまぁ・・・ってヤツだな。

 

「フッ・・・、ガンドルフのことは信頼している。無理に頑張らずとも・・・と言いたいが、その顔を見る限り何かをするつもりだな?・・・好きにやるといい、ガンドルフ達を迎えた地に限りという条件があるがな。当然、結果次第では何とやら・・・ってヤツだが。」

 

「それで構わない、それどころか十分だぜ!見とけよトラバント、エシャル!何年掛かるか分からねぇが、トラキアの地を緑に変えてみせるぜ、トラキア緑化計画だ!・・・まぁ、場所は限定されると思うがな!」

 

・・・トラキア緑化計画か、・・・長丁場だが面白そうじゃないの。上手くいけば、他国に頼らずとも一定の食料が入手可能になるかもしれないってことだな!・・・ああ、だからここ最近の兄貴は色々飛び回っていたのか!山岳地帯にて育つ何とかとか、水が少なくても大丈夫・・・ってヤツとか、ふむ・・・なるほどね。トラバントの目も妖しく光っていたし、どうなることやら・・・。

 

何はともあれ、兄貴がいるってだけで精神的に余裕は出来るわな。ディアドラも俺の他に信頼している兄貴がいるって知れば、身体全体を使って喜びを表現するな!う~ん、トラキアが熱くなるぜ!




次はフリージ組の登場かな?

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