ーカナッツー
港が炎で赤く染まり、海賊達の悲鳴が響き渡る。我らの策により、海賊達は海上で炎に焼かれている。そこに逃げ場は無い、船も足場も全てが燃えているのだから。海が燃えている、それは物語で聞く地獄のような光景だった。
「数で勝る敵には火計が有効、エシャル将軍…恐ろしい策を考えるものだ。」
全てはエシャル将軍の手の上、海賊達は将軍の思惑通りに動いたのだ。そしてこの戦い以前に、こうなることを予測していたのだ。
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エシャル将軍が、単身で正面大門へと向かう前に、
「将軍、海賊達は思惑通りに動くでしょうか? 配置は完了していますが、もし…動かなかったら…。」
私は心配になり、エシャル将軍に声を掛けた。海賊達の動きを予測しエシャル将軍が配置したのだが、もし思惑通りに動かなかったら…。我らは勿論、民達も危険な目に…。そんな私の問いにエシャル将軍は、
「動くさ、奴等は飢えた獣だからな。この為に奴等を各個撃破し、ヴォルツ達をオーガヒルへと進軍させた。飢えに飢えた獣は欲望を満たす為に団結し、自分達を抑える首領すらも殺す。」
「自分達の首領を殺す…?」
「そう仕向けたのさ、奴等の首領は賢しい。これ以上の闘争は被害を大きくする、そうなる前に子分達を止める。…が、獲物に飢えた子分達は反発する、仲間も多く殺られているしな。撃破した海賊達は残る海賊達と友好関係にあった奴等、その仇討ちも兼ねた襲撃を止める首領。…邪魔だよな? 首領が。そして今回のオーガヒル討伐、…馬鹿な獣は飛び付いてくる、そうだろ?」
我々を呼ぶ前の戦いが全て、これから起きる戦いの布石? 仲間割れを引き起こし、一網打尽にする渾身の策。しかしそう上手くいくのか? エシャル将軍はどこからその自信が…?
「…俺一人が助っ人ではない、…ヴェルダンの仲間達を海賊に紛らせていてね。此方の有利になるよう誘導させたのさ、勿論…仲間達は救出済みよ? 故に、何の問題もなく殲滅させることが出来る。」
エシャル将軍が助っ人に呼ばれた時から、既にこの作戦が始動していたということか。…欺くなら味方から、…流石はエシャル将軍。トラバント様が信を預けられる筈だ…。
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…つくづく、エシャル将軍が味方で良かった。それはいいとして…、
「全兵士に告ぐ! 炎が消えるまでは警戒を怠るな! しぶとく生きている奴も…!」
ザパァァァァァン!!
「うがぁぁぁぁぁっ…! せめて隊長格の一人でも、み…道連れにぃぃぃぃぃっ…!!」
海から焼け爛れた海賊が一人、飛び出してきた。言おうとしていたことが現実に! …くっ! 無傷で捌くのは無理そう…『ヒュン!』だ…。
ザクッ!
「…あ…がぁ…っ!?」
突如海より襲い掛かってきた海賊の額には、私の背後より飛んできた手斧によって倒された。無防備を晒すが振り向いてみると、そこには心配顔のディアドラ様が…、
「良かった…、ご無事のようで…。もしお怪我があるようでしたら、魔法で…。」
「…大…丈夫です。」
良い腕をお持ちのようで…。可憐なディアドラ様の会心の一撃にひきつりつつ、私は先程のことも踏まえて警戒を厳重にさせた。
ーエシャルー
マディノの正面大門へ、そう…俺に向けて迫りくる海賊達。…もう達じゃないわな、軍だわ…と思ったりしている余裕の俺に対し、
「たった一騎で門の守りかよ、笑わせるぜ! 天馬ってこたぁ~女か! …って男かよ! 男だったら容赦しねぇ!このまま捻り潰せ!!」
と雄叫びと共に迫ってくるが、
「俺を捻り潰す…だと? ククク…笑わせてくれるな、…ゴミ共。ならば俺は、襲い来るお前達を燃やし尽くしてくれよう!」
一人と数百はいるであろう海賊の、後者が圧倒していると思いがちだが、
「正面大門を守るは圧倒的強者、数の有利を覆す個の力。…学ぶといい、駄賃はお前達の命! 強者の蹂躙、その目に焼き付けよ!」
スコルの嘶きを合図に、正面大門が地獄と化す戦いが始まる。
勢いのある海賊の方から先制、俺へと斧を降り下ろすが当たる筈もない。巧みな手綱捌きによってスコルを操り、難なく避け、時には剣で捌き、
「ファイアー!」
たかがファイアーと侮るなかれ、この俺のファイアーだからね! 俺のファイアーは現在、
「「「「うぎゃあぁぁぁぁっ!!」」」」
エルファイアー並みの火力でござんす、…知ってた? ゲーム画面と現実は違う、改めて実感したよ。因みに、なるだけ前世の言葉を使うことにしとります。勿論、知識も多少は思い出すようにもね。使ったり思い出したりしなくなったら、なんか恐いじゃん。咄嗟に使ったり思い出したりしたら、自分自身にビビるってマジ。
そんなわけで、前世を含めつつ、無理なく生きていきますよー! って違う! 戦闘中に何をやっとるか俺! 油断はいかんと言っておろーが! …っと何だっけ? …そうそう、俺の魔法は凄いんさ! ファイアー1つで4、5人は消せる。つーこって、空から爆撃が如くのファイアーをいってみようか!
うははははは! 海賊がゴミのようだ! …というか、ゴミか! ゴミだからかよく燃える。俺を狙って矢を撃ってくるけど見切ってますから、避けるか燃やすかで俺には届きませんぜ? 空を舞い、一方的に攻撃を仕掛ける俺を無視し、正面大門を目指す奴も少なくないが、
「エルファイアー!」
俺のエルファイアーは、所謂炎の壁。行く手を阻む炎の柱が、やがて集い…灼熱の壁になるんさ。当分は消えないぜ? 燃える者を薪としてくべたんだからな! この炎の死地から逃げたくば、俺を倒すしか道は無いぜ? ゴミクズ共よぉぉぉぉぉっ!!
ー海賊ー
「なんなんだよ…、俺達の方が圧倒的に有利だったじゃねぇか…。あの天馬騎士はなんなんだよぉぉぉぉぉうばぁっ…!?」
俺と共に、マディノへと攻め込んだ別集団の頭が焼失した。頭だけじゃねぇ、次々と炎に焼かれて脱落していく仲間達。こんな…、こんなことがあっていいのかよ! 格が違いすぎる! 数の問題じゃねぇ…、個の力が違いすぎる。…こんな筈じゃあなかった筈だ、一気に街を蹂躙する筈だった…。
たった一騎の天馬騎士が門を守っている、情報通りだと思った。傭兵の主力がオーガヒルへ、街の守りはおざなり。そう確信したっていうのに、この状況はなんなんだ? 勢いのままにぶった斬ろうと数人が一斉に飛び掛かったが、天馬を自分の手足が如く操ってそれを避け、その反撃に魔法を放ち、…一度に数人を消し炭にしやがった。
此方は果敢に、そして獰猛に襲い掛かるも歯が立たずに殺られていく。ある者は剣にて両断、ある者は魔法にて燃やされ、切り刻まれ、雷を浴びる。それでも突撃し、少なくない傷を負わせるも、奴は空へと舞い上がり、傷を癒していく。
空へ舞い上がり、傷を癒した奴は空から炎を撒き散らす。数の多い俺達はいい的だ、降り注ぐ炎に焼かれて倒れていく。此方も負けじと手斧に矢にと反撃をするが、その悉くを奴は軽くあしらう。ならばと奴を無視して子分を門へと行かせりゃ、今まで以上の炎を撒き散らして灼熱の地獄へと変えやがった。どうすればと考えている内に、次々と殺られていく仲間達。たった今、別集団の頭が焼失した…。
数の有利はどうなった? 戦いってーのは数じゃねぇのか? 何をやっても為す術も無く、逆に俺達がたった一騎に蹂躙される。こりゃあ…悪夢か? 俺達の野望はこれで終わるのか? ここで俺達は皆殺しにされるのか?
じょ…冗談じゃねぇ! 殺られてたまるかよ! ここは逃げるしかねぇ! 逃げて逃げて逃げて、力を蓄えてまた再起すりゃあいいんだ! ここで終わる俺じゃねぇ! 今更犠牲が増えたって構うもんかよ! …死んだ奴等の仇はいつか討つ! だから…、だから許してくれよぉ!
「お前等! これ以上はやベェ…! 逃げ…!!」
ドドドドドッ…!!
俺の叫びはこの戦いの喧騒にそして、遠くより近付いてくる地鳴りの音にかき消される。何が来るってんだ…!
背後より聞こえる地鳴りの音に振り向くと、そこには絶望があった。
「…なんてこった。…アグストリアの、…マディノの正規軍…だと!?」
…逃げ道が無くなっちまった、…なんてこった。
ーエシャルー
俺が地上に向けて、炎を撒き散らしていると遠くより砂煙が…。あれは…。
「マディノ軍が介入? ……民を安心させる手かね、…邪魔にならなきゃ介入も別に構いや…!!」
マディノ軍の介入もやむなしと思っていたが、先頭で指揮をしている人物を見て…震えた。共鳴しているのだから、あの人で間違いない。しかもただの共鳴ではない、魂が震えるような共鳴だ。同じヘズルの血、黒騎士ヘズル同士の共鳴。それと同時に、この恐怖心はなんだ? …悪寒がする、未だかつて味わったことの無い恐怖。…いや、俺はこの恐怖を過去に!
……………!!
「長居は出来ない…! 早急に終わらせるべきだ…、消えろゴミ共! エル…ファイアー!!」
ここにいたくない、しかしゴミが多くいる。ならば火力を上げて、一気に殲滅させなければ…!
ーエルトシャンー
俺は傭兵達の、エシャルの戦場へと駆け付けたのだが…。そこにはたった一騎の天馬騎士によって、賊の悲鳴が響き渡る地獄と化していた。
「…圧倒的ではないか、…この火力はアルヴィスが如く。………!? 共鳴? 魂に響くようなこの感覚。…あの天馬騎士がエシャルなのか!」