ファイアーエムブレム~俺の系譜~   作:ユキユキさん

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間が空くとか言ってましたが、投稿します。

次は、間が空きます。たぶん・・・。


『なろう』の方を考えるんで。


閑話 ~それぞれの道《レクスヴァ》

ーレクスヴァー

 

「…今日中にマディノへと着くか。」

 

我が主命でフリージを旅立ってから幾日、目的を果たせる時が近付いた。この地での目的は、トラキアのエシャル将軍を見極めること。可能であれば接触したいと考えているが、それは極めて慎重にしなくてはならないこと。主であるレプトール様も言っておられた、強引なことはするな…と。

 

故に俺はまず…、エシャル将軍を遠目で一度見ることにしたいと考える。彼の現状を確認して、どう接触するかを考える為にだ。確認後は臨機応変に動かねばならない、…今から色々と考えなければならないのがやや億劫ではある。だが俺は見極めなければならない、エシャル将軍のことを。見極めることこそが主命であり、姫様達の幸せに繋がる可能性が極めて高いのだから。

 

…それに、あの事件のことが少しでも分かれば。…俺の勘が当たっているのなら、ロプト教団が関わっている。自らの神を盲信する狂者達が、あの事件に関わっている筈なのだ。もし…あの事件に奴等が関わっていたのなら、既に賽が投げられている可能性が高い。そうだとしたら、もう止めることが出来ないと見るべきだ。止められぬのであれば、最小限の被害に抑えるように動くまで。フリージだけでも、魔の手から守らねばならない。

 

エシャル将軍を見極めつつ、事件のことを調査する。この二つを出来る限り穏便に、問題が起きることもなく成し遂げたい。それが我が主君の願いであり、姫様達を救うことに繋がるのだから。……主命を果たせる時が近付いているからか、あの事件後のフリージを思い出す。

 

────────────────────

 

「ねぇレクス、エシャル兄様はいつ来るのかな?」

 

「…ティルテュ様、エシャル様は少なくとも後3日は来ませんよ。遣いの者がヴェルトマーへ向かったのが昨日、今日か明日には着くとしても此方へ来るには準備が必要ですので。最短で3日、最長で5日と見るべきでしょう。」

 

「…ぶぅ~! レクスは難しい言い回しなの!ティルテュ分かんない…!」

 

遣いの者がヴェルトマーへ向かってから、頻繁にこういうやり取りをティルテュ様としている。ティルテュ様はエシャル様に会える日を、今か今かと待ち焦がれている。それほどエシャル様のことがお好きなのだ、そして勿論、

 

「お兄様はエスニャとおままごとをするの。お兄様は旦那様でエスニャが若奥様なの。お姉様は使用人なのよ?」

 

エスニャ様もエシャル様のことがお好きだ、今もおままごとの配役を考えながらそわそわしている。…お二人を見ていると、心が洗われるような気がする。基本裏方の俺が姫様達の護衛も兼任している、レプトール様には感謝だな。そんなほのぼのとした光景は、この2日後…終わりを告げる。

 

 

 

 

 

…いつもの日常が突如、終わりを告げた。レプトール様の執務室に重い空気が流れる、レプトール様が沈痛な表情で遣いの者に問い掛ける。

 

「…今の話は本当なのだな? …エシャルが賊徒の襲撃で亡くなったというのは。」

 

「…間違いないかと思います。ヴェルトマーでは、エシャル様のご遺体をアルヴィス様がご確認。エシャル様であるとご確認した後、アルヴィス様がお倒れになったとのことです。後程…公式の文書にて、エシャル様の訃報が発表されることになるそうです。」

 

俺はいつもの無表情にて話を聞いているのだが、内心で動揺している。1ヶ月程前に、我がフリージにおられたエシャル様が亡くなられただと…。日々健やかに、姫様達と過ごしていたあのエシャル様が…。姫様…、ティルテュ様とエスニャ様が心配だ。大好きなお兄様が、エシャル様が亡くなられたと知ったら…。

 

驚くべき訃報をもたらした遣いの者を休ませ、執務室にはレプトール様と俺だけになった。レプトール様は、目を閉じながら天井を仰ぐ。

 

「…なんとも情けない、私も衰えたものだ。平和な時が続いていたが故に、このような事態に…。」

 

そして、苦悶の声を上げた。常に警戒し、暗闘をしてきたレプトール様。エシャル様がフリージにて生活をしていた日々が、その暗闘からレプトール様を遠ざけていた。その結果がエシャル様の死、レプトール様は己を責めている。裏方である俺も、レプトール様と同じ気持ちである。…それと同時に、フリージと姫様達だけは守ると心に決めた。

 

無言の中でレプトール様と俺は、互いの感情を発露させた。そして…、

 

「…レクスヴァ、頼めるか?」

 

レプトール様が、俺に事件の調査を命じられた。

 

「了解致しました。…しかし、この件に関しては数年越しの調査になるかと。」

 

火の無い所から突然、煙が上がったのだ。この件は、一筋縄ではいかないだろう。下手をしたら、このフリージにも飛び火しかねない程のものだ。

 

「…うむ。今回ばかりは仕方あるまい、数年越しでも構わん。それと同時に…な。」

 

調査と共に、エシャル様の安否を、行方を捜す。アルヴィス様がご確認されたとのことだが、レプトール様はエシャル様の死を信じていない。先程の無言の中で、そう結論付けたのだろう。そのような命が下されたのなら、私はそれに従うのみ。

 

そして最後に、

 

「…ティルテュとエスニャにどう伝えれば良いか、…ありのままを話すのが一番だろうか。」

 

眉間に皺を寄せ、思い悩むレプトール様。公式で亡くなられたとのことで、生きている可能性を伝えるわけにはいかない。そもそもそれは、レプトール様の勘であり願望でもあるのだから。故に、亡くなられたことを伝えるのが一番良い。……姫様達は堪えられるだろうか?

 

 

 

 

 

結果として、姫様達は泣き喚いてしまった。エシャル様の死が、受け入れられずに…。俺を含めた使用人達は、ただただ慰めるだけ。それ以外、出来る筈もない。悲しみの中で壊れてしまわないように、俺達には見守ることしか出来ない。

 

エシャル様の死が公式で発表され幾日、姫様達はやっと落ち着かれた。悲しみは癒えていないようだが、一先ずは安心だろう。後は手助け等をしながら、見守り続ければ良いだろう。少しずつ…エシャル様の死を受け入れてもらい、日常生活へと戻ってもらいたい。

 

…姫様達のことは、他の者達に任せても良い頃合いだな。俺はレプトール様の主命に従い、事件の調査とエシャル様の行方を捜す。数年越しの任務故に、俺の暇も無くなるだろう。だが、たまには姫様達の様子を見守るということを許して欲しい。…元になったとはいえ、俺は姫様達の護衛だったのだから。

 

 

 

 

 

事件の調査とエシャル様の行方を捜して数年、この間に色々と進展した。事件については謎が多すぎるわけなのだが、分かったことがある。

 

事件の数日前に、アグストリア諸公連合・アグスティ王イムカ様の一行がグランベルを訪れていた。グランベル国王アズムール様との会談の為に数日間、バーハラに滞在していたのだ。このことはレプトール様も知っておられることなのだが、一つだけ気になることがあった。

 

イムカ様の長子であるシャガール王子も同行していたのだが、彼の一団はあてがられた館から帰国まで、一度も外へと出てこなかったとのこと。エシャル様の死に対してイムカ様は、大いに嘆き悲しみながら帰国したのだが、シャガール王子はなんの反応もなく帰国した。そして彼の帰国後、彼の滞在していた館に勤めていた使用人達が相次いで変死、その館も取り壊された。

 

…変死した使用人達の全てが、肌が異様に白く、苦悶の表情の中で硬直し、死んでいたという。そのことを聞いた時、思い浮かんだのが闇魔法。…この事件の裏に、ロプト教団が絡んでいる可能性を見出だした。そして、シャガール王子も関わっている。明確な証拠がない故に、断言出来ないのが悔しいが…。

 

このことはまだ、レプトール様に伝えるわけにはいかない。ロプト教団が絡んでいた場合、その毒牙がフリージへと向けられる可能性がある故に。…それほど危険な集団なのだ、ロプト教団というのは。…因みに俺は大丈夫だ、下らないヘマはしないし、…ロプト教団のことはよく知っているからな。

 

 

 

 

 

エシャル様の安否と行方についてだが、これについては朗報がある。ヴェルダンからトラキア、そしてシレジア。各国でエシャルという名が広がっており、その存在が確認されている。トラキアにて将軍を拝命しており、『トラキアの黒刃』として英雄視されている。同姓同名の可能性もあるが故、俺の情報網で調査してみた。

 

その結果、『トラキアの黒刃』エシャル将軍はヴェルトマーのエシャル様である可能性が極めて高いと見る。理由としては黒刃の異名通り、常に黒き剣を帯剣している。その容姿は、獅子王と呼ばれているノディオン王エルトシャン様によく似ている。あまり知られていないというか、箝口令が敷かれているのだが、類いまれなる魔法の才を持っている。大切にしているのであろう、ペンダントを所持している。…等が挙げられる。

 

黒き剣とは、エシャル様の愛剣であるキルソード。エルトシャン様に似ているのは、エシャル様が彼の甥でヘズルの血を受け継いでいる為。魔法の才とはワープの遣い手であり、特に炎魔法に関しては他の追随を許さぬ程。ペンダントというのは、お母様の形見であり、常に肌身離さず所持していた物。

 

……情報だけでいうと、間違いなくエシャル様と言えるだろう。だがあくまで情報、ご本人であるとは言い難いのが現状である。何度か、件のエシャル将軍と会う機会はあった。…が、俺が勝手に会うのは許されるものではない故に、音も無くその場を去っていた。…会う会わないは、この情報をレプトール様のお耳に入れ、その判断を仰ぐのが最良だろう。

 

 

 

 

 

調査と行方については先に述べたことが全てだが、それ以上に気になり深刻なのが姫様達なのだ。エシャル様の死以降、姫様達は変わられた。

 

ティルテュ様は、だいぶ落ち着いた。エシャル様が亡くなられてから、今までのお転婆で悪戯好きな所はなりを潜め、勉学に魔法に、そして剣術に精を出すようになった。抜けている所がたまに出るが、今では才女として知られている。張り付いた笑顔で周囲に愛想を振り撒き、見えぬ所で努力を続けている。

 

まるでエシャル様のように、…そうエシャル様のように振る舞っているのだ。自分自身がエシャル様になろうと、なることによってエシャル様と共にいるように。俺とレプトール様は危機感を抱いている、ティルテュ様がティルテュ様でなくなる、壊れてしまわないかと。

 

エスニャ様は、元々内向的であったが…、更に磨きがかかり引きこもりになってしまった。内向的ではあったものの、以前は自分の我を通す強さがあったのだが、それがなくなってしまった。常に怯え、身近な者がいなくなることを極端に恐れる。引きこもる際も、一緒に使用人を引き込む具合だ。そして夜な夜な、エシャル様のことを、エシャル様と会話し、部屋で共に過ごしているような、そのような会話がこぼれ聞こえるという。

 

…そう、病んでしまったのだ。共にいる使用人がどうにかすれば良いのだろうが、その使用人もエスニャ様に引きずられて病んでいる。そう…彼女は、エシャル様の世話係だったのだ。…そんなエスニャ様は、病弱で部屋から出られないと噂になった。

 

何が一先ずは安心だ…だ、姫様達は止まっている。エシャル様の死から、姫様達の心は止まっているのだ。このままでは壊れてしまう、姫様達を救わねばならない。その為には、エシャル将軍がエシャル様であること。エシャル様がご健在であると、姫様達に伝えなくてはならない。この件も含めて、レプトール様の判断を…。

 

────────────────────

 

…そして今、レプトール様の主命でこの地に来た。エシャル様であると見極め、姫様達の時を進める。それがフリージにとって最善であると、俺は信じている。主命でもあるが、俺の勘もまた…そう告げている。事件のことも、この地で何かが分かる筈。出来る限り穏便に進める予定だが、何かが起きる予感がする。それは良いことなのか、悪いことなのかは分からない。分からないが、心構えはしておこう。

 

色々な想いを胸に秘め、俺はマディノの地を踏んだ。




次回も閑話。エルトシャンとイーヴになるかと。

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