ファイアーエムブレム~俺の系譜~   作:ユキユキさん

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頭が多少でも回っている内に・・・ってヤツです。


閑話 ~それぞれの道《アイーダ》

ーアイーダー

 

アルヴィス様から言い渡された突然の暇、出仕を控えるようにと言われた私は空の下。そう…空の下なのだ、私は旅をしている。目的のある旅、…私にはどうしても会いたい方がいる。3年程前から名を響かせているトラキアの将軍エシャル、彼に会うのがこの旅の目的。旅と言っても、そう遠くはないシレジアへの旅。会いたいエシャル将軍は現在、シレジアにて活躍をしているという情報を信じて。

 

今までは、ヴェルトマー公爵領内での活動が多かった。故に、一人での旅は初めてのこと。情報として書類等でしか知らなかったものが、私自身の目と身体で見て体感することが出来ている。それは新鮮で楽しくもあったが、…出来る限り遭遇したくない者達とも鉢合わせる。言わずとも察してもらえると思うが、…賊の類である。女の一人旅というのは、良い獲物と捉えられるのだろう。

 

しかし、相手が悪かったとしか言いようがない。この私が、賊如きに遅れを取るなんてことはあり得ないからだ。襲い掛かってきた賊達は、私の炎で消炭にした。…私に触れていいのは、あの方だけだ。…もう少しで会える、…エシャル様。まだエシャル様だと決まってはいないけれど、…きっとそうであると、…私は思っている。

 

 

 

 

 

エシャル様への想いを募らせながらの旅路、私は遂に目的地へと辿り着いた。ヴェルトマー公爵領からシレジアまではそう遠くはない、…ないのだが色々とありすぎた。

 

先ほども述べたと思うが、賊に何度も襲われた。苦戦することもなく燃やし尽くしたが、襲撃が少しばかり多いのでは? と思った。外をあまり出歩かず、書類に目を通すだけの生活が多かった私には、思いの外…世が乱れていると思った。アズムール王とクルト王子の治世を否定するつもりはないが、由々しき事態である。折角の旅であるのだから見聞を広めるのも良いかと思い、シレジアへ向かう途中にある村々に足を運んだりした。

 

シレジアへと進むにつれ、景色が変わっていき銀世界へ。シレジア…、シレジア王国内へと進む。それは過酷な道であった、…私にとって地獄であったと言ってもいいだろう。見回せど見回せど一面…白の世界、方向感覚が狂いそうになる。雪を掻き分けて進む道は寒くて辛い、その途中で何度か吹雪に遭遇して死にかける。その度に運良く、洞穴を見付けてはそこで暖を取る。

 

そんな死と隣り合わせの道でも、弱音を吐かずに歩を進めることが出来た。それはきっと、エシャル様に会う為にと自身を奮い立たせていたからだろう。エシャル様への想いが止まらない、想いが募っていくばかり…。そして今、目的地のシレジア城へ。あぁ…エシャル様、貴方はこの城に居られるのですか?

 

 

 

 

 

……シレジア城を訪問した結果、エシャル様は既にシレジアを去っていた。…エシャル様に会えると思っていた私には、かなりの痛手だ。不覚ながらも呆然としてしまった、…そんな私に、

 

「エシャル様はトラキア王国からの任務で、アグストリア諸公連合のマディノに居られると思います、…あのエシャル様と思い至って会いに来られたのですか? …ヴェルトマーの魔女、アイーダ様。」

 

「……!!」

 

そう声を掛けられ、咄嗟にその場から飛び退く。そして声の主に視線を向けると、

 

「あらあら…、それでは肯定と取られてしまいますよ? どのような問いにも動じぬ心を持たなくては、この先…苦労しますよアイーダ様。」

 

にこやかな笑顔で私に苦言を言う女性、……シレジア王妃のラーナ様では!? 直接顔を合わせたことはないが、遠目で何度か拝見したことがある。だがしかし、何故この場に…、私に声を掛けてきたのだろうか?

 

「うふふ…、驚いていますね? 結構なことです。…理由は簡単ですよ? 貴女がヴェルトマー公爵家の者で、エシャル様の関係者であると予想したからです。エシャル様関係でなければ、彼の公爵家に連なる者がこのシレジア王国に来る筈がありませんものね? …そうでしょう、…アイーダ様?」

 

上品に笑うラーナ様を前に、私は久方ぶりに恐怖した。全てを見透かすような目、今更…正体を偽るというのは愚策に等しい。

 

「…ご慧眼、恐れ入ります。ご察しの通り、ヴェルトマーのアイーダです。唐突の訪問に対し、ラーナ様にお目通りになるとは思いもよりませんでした。」

 

「こう見えて、私は身軽ですからね。…そう、色々と身軽なんですよ?」

 

……色々と身軽。対シレジア王国への外交には、注意せねばならない。…と言っても、再びその立場へ戻れるかは分からないが。

 

 

 

 

 

会いたいと想う気持ちが強かったが為、どちらかというと軽い感じでシレジアまで来たのだが…、まさかこのようなことになるなんて。ラーナ様と謁見、…対面しての会話をすることになるとは思わなかった。そして…、

 

「…エシャル様は、過去のことを忘れています。思い出そうともせずに、今のお立場での生活を大切にしていますよ。…ですが、アイーダ様としては思い出してもらいたいのですね?」

 

ラーナ様との会話にて、現在のエシャル様のことを知ることが出来た。書類での情報ではない生の情報、私は内心で歓喜した。歓喜と共に絶望も少ししたが…、エシャル様に憧れ慕う女性が多いとのことで。特に天馬騎士の隊長格であるパメラ殿、マーニャ殿とはなかなかに深い仲だとか…。

 

そのことに動揺し、今しがたのラーナ様の言葉にも改めて、考えてしまう。それと同時に、やはりエシャル様である可能性が高いと思った。ラーナ様の言葉から、記憶がないということから、別人であるとは考えにくいと私自身が思う故に…。

 

私の知るエシャル様だと思うと共に、内心ではかなり動揺してしまう。…予想通りではあるが、過去を忘れているエシャル様。それはいい、あの日のことは私もあまり思い出したくはない。当事者であるエシャル様はなおのこと、無意識の内に思い出したくないと思うのは当たり前だ。

 

…でも、思い出そうとしていない。そのことが、私の心に突き刺さる。エシャル様は私のことを忘れていて、思い出そうとしてくれていない。…何故? …私はこんなにもエシャル様を想っているのに。エシャル様の心が分からないけれど、思い出そうとしてくれていないことに心が痛んだ。

 

「…アイーダ様は思い出してもらいたいのよね? …当たり前ね、…忘れられるのは辛いもの。共に過ごした時間が長ければ、なおのこと辛いわよね?」

 

ラーナ様の言うように辛い、エシャル様の記憶に私がいないことが辛い…。

 

「エシャル様も、思い出したくないわけではないのですよ? …彼自身にとっても大切なんですからね。苦渋の決断、…だったみたいなのですから。」

 

…苦渋の決断? …思い出さないことに決断が、…思い出に決断が必要なのだろうか?

 

 

 

 

 

疑問に思った私だが、ラーナ様の言葉にハッとした。

 

「先ほども言いましたが、エシャル様は今の生活を大切にしています。過去を思い出すということは、あの事件のことも少なからず思い出すということ。それがどのような結果を及ぼすのか、エシャル様はそのことを恐れています。今の生活に影響を及ぼすということを、彼は本当に恐れているのです。…アイーダ様、今のエシャル様はトラキアの将軍、…トラキアの重鎮なのです。…お分かりですね?」

 

…忘れていた、エシャル様は以前のエシャル様ではない。トラキアの将軍、『トラキアの黒刃』エシャル将軍なのだ。分かっていた筈なのに、知っていた筈なのに、私という女は…自分のことばかり。今のエシャル様には… 、エシャル様の生活がある。思い出すことにより、それが壊れたら…。

 

「私に、それを壊す覚悟があるのだろうか…?」

 

私は考えなければならない、私の往く道を…。

 

 

 

 

 

あの後…私はラーナ様のご厚意で、シレジア城の客間に泊めてもらえることになった。その客間にて私は、エシャル様のことを考えている。アルヴィス様とアゼル様、エシャル様とで笑いあっていたあの頃。傍で見ていた私に、フリージ公爵家のティルテュ様にエスニャ様。楽しかったあの日々は…、楽しかったあの日々をエシャル様は忘れている。あの事件が起きて…、あの事件のことも忘れている。それは悲しいことではあるけれど、仕方のないことだと分かっている。

 

…そして今のエシャル様は、トラキアの重鎮。コノート・マンスター連合軍を壊滅に追いやり、ミーズを…トラキア王国を守った英雄。そしてトラキア王国の改革に力を注ぎ、ヴェルダン王国・トラキア王国の同盟にも尽力した。シレジア王国では、特に軍務についてその能力を発揮。自身も天馬騎士となり、シレジア軍の軍事力を上げていった。

 

ヴェルダン王国・トラキア王国・シレジア王国での交友関係も広く、傭兵とも好誼を交わす。妹のように可愛がる娘もいるらしく、今の生活がとても充実していると、話を聞くことにより分かった。…エシャル様は過去を知らずとも、前へと進み今を輝いて生きている。そんなエシャル様を、私は過去に引き戻してもいいのだろうか?

 

もし万が一、私と顔を合わせることで今を壊してしまったら…。思い出と共に過去がエシャル様を苦しめたら…、私自身が拒絶されたら…。同じことを考え続けてしまう、…苦しい。エシャル様との再会を望みここまで来たけれど、こんなにも辛く苦しいものだったなんて。浅はかな私自身を軽蔑する…。

 

 

 

 

 

それから暫く、シレジア城にて世話になった。エシャル様のことで悩む私に、ラーナ様が気に掛けてくれたのだ。その生活の中で、エシャル様と深い仲であると言われているパメラ殿と知り合った。話をしてみると良い方で、まだ…そのような仲には発展していないようだ。

 

まだということは、いずれはそういう仲になりたいと思っている筈。そこについては警戒せねばならない、そちらの方はパメラ殿の方が有利であろう。私としても、エシャル様とは深い仲であると言いたいことではあるのだが、それは私の中でだけのことであって、エシャル様は忘れているのだから。またチクリと、心が痛んだ。

 

パメラ殿と知り合ってから、日に日にエシャル様への想いが高まっていく。パメラ殿から、他の方々から、エシャル様の話を聞く度に苦しくなる。私にだって、貴女達の知らないエシャル様を知っている! …と。

 

そんな日々を過ごしていく中で、私は遂に決意する。やはりエシャル様に会って、ヴェルトマーのエシャル様であると、この目で確かめたい。そう…思ったのだ。それで何が起きるのか分からない、分からないが私は会う。どのような結果になろうとも、私は前に進む。進んだ上で、苦しんだ方がマシだ。自分勝手なことだと自覚はしているけど、私自身を否定したくはないから…。エシャル様…、貴方の幸せを壊してしまうかもしれません。愚かな女である私をお許しください…。

 

 

 

 

 

導いた決意が揺るがぬ内に、ラーナ様へとその想いを伝える。ラーナ様は、

 

「その結果が、エシャル様を苦しめることになっても会うつもりですか? その幸せを壊してしまうかもしれない、それでも会うというのですか? アイーダ様…。」

 

真剣な眼差しが私に突き刺さるが、

 

「…はい! …それでも私は、エシャル様に会いたい、思い出してもらいたい。どのようなことになっても、エシャル様と私には必要なことだと思います。不意に何かのきっかけで思い出すよりは、私という存在で思い出してもらった方が良いかと思います。…私はそう考えます。」

 

私はそう返した。暫くの間、沈黙が続き…、

 

「…アイーダ様はそう思い至ったわけですね? …分かりました、ならば私からは何も言いません。これはヴェルトマー公爵家とエシャル様の問題ですからね、そう決めたのなら止めはしません。エシャル様の所属しているトラキア王国、…トラバント王もいずれはこのようなことになると、予測はしているでしょう。事が済み次第、トラバント王へご挨拶をしに行かなくてはいけませんよ、アイーダ様。…それとパメラ。」

 

「はっ!」

 

「アイーダ様をエシャル様の下へと送って差し上げなさい、分かりましたね?」

 

「了解致しました!」

 

ラーナ様は私の決意を聞き、助力としてパメラ殿を遣わせてくれた。

 

「…ラーナ様、ご配慮…ありがとうございます。」

 

私は、そう返すのがやっとだった…。

 

 

 

 

 

そして私はパメラ殿と共に空を舞う、空に舞いながらラーナ様の言葉を思い出す。

 

『エシャル様はシレジアとも縁の深いお方…、もし万が一にでも彼に何かがあれば…、分かりますね? アイーダ様。きっとトラキア王国のトラバント王も、ヴェルダン王国のガンドルフ王子も、同じ気持ちになる筈です。エシャル様はそれほど大切なお方なのです、…故に相応の覚悟をお持ちなさい。』

 

…改めて言われると、その覚悟が重くのし掛かる。でも私は…、進むと決めた。それに名前は挙がっていないけれど、ノディオン王国のエルトシャン王のこともある。各々の名を反芻する度に悪寒を感じるが、それでも私は……。

 

色々なことを考えながら、私はパメラ殿と共にマディノへと向かった。




次回も閑話ですね。

たぶん、次の投稿まで間が空くでしょう。

今回はたまたま、早く投稿が出来ただけです。

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