比企谷八幡の消失。   作:にが次郎

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ごめんなさい。ミスりました。
全然関係ない奴投稿しちゃいました。

こっちが本物です。ごめんなさい。

更新は今日で止まりそうです。
間が開かぬように努力します。

納得してもらえるオチになっているか不安ではありますが、どーぞ。





彼は彼と対峙する。

 

 

 

 

自分と同じ顔をした人間が突然目の前に現れたら、人はどんな反応をするだろうか。驚愕、困惑、恐怖。

 

実際にそれを体現した俺はそんな陳腐な言葉では表現できないほどに衝撃を受けていた。

 

 

冷たい風が吹き荒ぶ屋上。

現在の俺は上着はワイシャツだけという軽装。雪ノ下にコートを返してもらうべきだったと今更になって思う。

本来なら身を捩って、思わず鼻水が出ちゃうんじゃないかと思うほど極寒という言葉がぴったりの環境に置かれているというのに何も感じない。肌は鳥肌を立てることすら忘れてしまっている。

 

 

まさか自分自身と対峙することになるとは思いもしなかった。

しかし、目の前にいる”俺”が本当にこの世界の比企谷八幡という可能性は100%じゃない。俺を貶めた奴がまた何か仕掛けようとしているのではないか?この状況下ならそう考えたほうが良い。

もしそうなら、”俺”が発した言葉にも何か意味があるのか?

 

 

そんな思考を巡らせているうちにいつの間にか身構えてしまっていた。

そんな俺を見て、”俺”は言う。

 

 

「そんなに固くなるなよ。別に俺は」

 

 

そこで言葉は切られる。

なんだ。その言い回しにはなんの意図がある。

俺は今最も問うべき言葉を喉の奥から引きずり出す。

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

吹き荒れる風音にかき消されないように強く問う。

問われた”俺”は俺の顔に似合わない柔らかい笑顔を浮かべて答える。

 

 

「俺は比企谷八幡。この世界のな」

 

 

確かにこの世界の比企谷八幡との情報や見た目と合致する。

なぜだかはわからない。だが、”俺”の浮かべている笑顔がどこか自分を小馬鹿にしているように感じて怒りが湧く。

ダメだ。冷静さを失うな。

なぜ”俺”がここに現れたのか。

それらを尋ねていく。

 

 

「本当か?」

 

「嘘じゃねえよ」

 

「今までどこにいた?」

 

「たぶんお前のいた世界だな」

 

 

あっけらかんと答えられ、苛立ちが募る。

”俺”が言っていることが本当なら目の前にいる”俺”と俺が世界線でも飛び越えて入れ替わったってことか?

こんなようなことは前に考察した。でもあちらに行った”俺”がこちらに戻ってきたということは俺の知らないところで事件は解決したということか?ならなぜ俺はもとの世界に戻らない?

 

 

なんだこの状況は。

まったく理解できない。

”俺”が最初に発したあの挨拶は俺の知っている由比ヶ浜に会わなければ知ることはできない。こいつがあちらの世界に行ったというのは本当なのか?

しかし、こいつは自分と同一人物である俺を見てもまったく動揺する様子もなく、もはや余裕な様子を伺わせる笑みまで浮かべている。

 

 

あの部室で聞こえた声の主はこいつなのか?

 

畜生めが。ここに来れば解決策が見つけ出せると思っていたのに。

もう1人の”俺”の存在を渇望したのはこの俺自身。しかし、いざ対峙してなんの活路も見出せず。

確かに三浦の希望は叶えることができた。

 

でも俺はどうしたらいい?

”俺”が戻ってきても、俺は戻れていない。

現状、この世界に俺が2人いることになる。

共存など不可能だ。それこそ頭がおかしくなる。

 

 

ここに来て、まだ自分のことばかり。

いや、無理もないか。こんな目に遭わされて他のことを考えれる方が異常か。

ここ数日で鍛えられた鉄のハートを持つ俺でも不可能だ。

 

 

もし帰ることができなかったら。

そんなことが頭を過る。

これからの自分の行く末を想像し、不安と焦燥に駆られる。

 

 

俺は恨み言を唱えるようにぼそりと呟く。

 

 

「どうしてここにいる?」

 

 

”俺”はまたしてもあっけらかんとした表情で答える。

 

 

 

「どうしてって、お前に呼ばれたからだよ」

 

 

「は?」

 

 

あまりに意味不明な言葉に思わず、声に出る。

何を言っている?俺が呼んだ?

 

 

 

「あーね、そういうこと。だからか」

 

 

”俺”は面倒くさそうに言いながら頭をガシガシと掻く。

 

 

「俺ってのはつくづく面倒クセェな」

 

「ど、どういう意味だ?」

 

 

頭から手を離し、やれやれとした顔で俺を見据えてくる。

 

 

「いきなり訳わからん世界に飛ばされたと思ったら、今度は突然呼び戻されて解説役を押し付けられるとかマジ面倒くさすぎて今すぐ投げ出して帰っちゃうまである。どうせ飛ばされんなら異世界がよかったぜ」

 

 

如何にも俺が言いそうな言葉たちを吐きながら、半顔で俺を睨む。

 

 

「ああ、そんな顔すんな。大丈夫だ、本当に帰ったりしねえっての。まぁ心配すんな。なんだかよくわかんねえけど全部わかった」

 

「な、何がわかった?」

 

「全部だよ。お前の知りたいこと、全部。たぶんこれもお前の願いだろ?お前が願ったから全部わかった」

 

 

願い?

 

 

「そうだ。お前の知りたいことはこんなことをやらかした犯人。それともとの世界に戻れるかどうかだろ?」

 

 

俺は頷くこともできず、そのまま言葉の続きを待つ。

 

 

「大丈夫。お前はもとの世界に戻れる。なんなら今すぐにだ。だが、それはあとだ。それよりも犯人についてだ。だからお前の願いを叶えて、教えてやる」

 

 

心臓の音がよく聞こえる。

もともと早かった鼓動はさらに早く、そして大きく。

 

激しく吹いていた風は、今から告げられるであろう名を聞き逃さぬようにと、荒れ狂うのやめた。

 

放課後の喧騒、近くを走る車の音。

本来聞こえるはずの音たちは何1つ俺には届いていない。

 

聞こえるのは自分の心が乱れていくのを示す心臓の音だけ。

 

ドクン、ドクンと跳ねる心臓。

それは壊れた時計のように、少し遅れて間違った時間を指し示す時計のように正しい時間に追いつくべく、慌ただしく時計の針を動かすように。

 

 

俺を追い詰めた。

 

 

「こんなことをやらかしたのは……」

 

 

永遠の時をも感じさせた前置きをあと、その名は告げられる。

 

 

 

 

 

「比企谷八幡。お前だよ」

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

告げられたのは紛れもなく、俺の名。

 

 

思考が混濁していく。

身体に火をつけられたのではないかと思うほどに体温が上昇していく。

 

そんな馬鹿な話があるか。

そんなことがあってたまるか。

俺じゃない。俺がこんなことするわけ。

 

 

奈落の底に突き落とされた気分だった。だが、突き落とした張本人は奈落の底で項垂れることを許してはくれない。

 

 

「何驚いた顔してんだよ。心当たりあんだろ?」

 

「心当たり……?」

 

 

勝手に復唱するように出た弱々しい言葉。心の中でもう一度復唱する。

 

 

”心当たり”。

 

 

確かに、確かにある。

でも俺にはそれを実現できるような力はない。

心当たりという言葉を発した後、まったく動かなくなった俺に”俺”はいささか苛立ちを感じているようだった。

 

 

「うやむやなのはよくねえから、ちゃんと言葉してやるよ。その心当たりってのは、お前があの日にした妄想だ」

 

 

そんなことは言われなくてもわかっている。わかっているんだ。

 

 

「じゃあしょうがねえから一から全部教えてやるよ。お前の知りたいこと全部な」

 

 

”俺”はゆっくりと話し始める。

 

 

「この世界はお前が”創った世界”だ」

 

「そんなわけ……」

 

「あるんだよ。俺は認めねえけどな。それは後だ。お前はあの人から掠め取ったいや、正確には移動してしまった”力”を使って創り上げたもんだ」

 

「移動……?」

 

「それはあの人に聞いてくれ」

 

 

聞かなくてもわかる。あの人とはたぶんあの人のことだ。

 

 

「この世界はお前がした妄想を基に創り上げられた世界。お前の願いを叶えた世界。そうだったろ?」

 

 

何も答えることができない。

この世界は俺が望んだ世界?

そんなわけが、あるわけが。

 

 

「そうなんだよ。お前がそう思わなくてもな。この世界はお前の心の奥底で願った世界だ。今までのものをすべて捨てて新たな自分を創り上げ、そこに自分を投じた」

 

「やめろ。そんなことあるわけ……」

 

「いい加減認めろ。お前がどんなに否定しようと俺が言うんだから間違いない」

 

 

俺の中に渦巻いていた感情たちは、何の根拠も示さずに言う”俺”へ苛立ちに変わっていた。

 

 

「意味わかんねんだよ。だいたい何の根拠があって……」

 

 

俺の言葉は”俺”の突き刺さる視線で遮られる。

 

 

「いいか?よく聞けよ?この世界に置いてお前は神様だ。GODだ。この世界はお前の思ったように、思いのままに変えられるんだ。お前はこの世界の”俺”の存在を願ったろ?だから俺は戻ってきた。それだけじゃない。この世界でここまでお前歩んできた道はお前の都合のいいようになっていたはずだ」

 

 

いや、そんなことはない。

頭に激痛が走ったり、記憶が飛んだり、それだけじゃない。

俺はこの世界に来た日からあった出来事を思い出していく。

思い通りに行かないことなんていくらでもあった。

 

 

「いい加減わかれっての。たっく、じゃあ噛み砕いて説明してやる。お前はこの世界を何のために創った?」

 

「何のためにって……」

 

「忘れたのかアホ。現実逃避のためだろ?でもこの世界に来てからのお前はどうだった?もとの世界に帰るために必死だったろ?でもいつの間にかこの世界はお前にとって居心地の良いものになっていなかったか?」

 

 

まさに核心を突かれた。

 

 

「わかったか?心と行動が反してきたんだよ。戻りたいという気持ち。このままこの世界に身を委ねてしまいたいという気持ち。その2つがお前に周りにいろんな影響を及ぼした。頭が金髪になったのはお前が俺になり変わろうとした結果だ」

 

 

否定することができない。

俺は戻りたかった。でも三浦が由比ヶ浜が皆が俺へ向けてくれている感情を理解するたび、俺の心は揺れ動いていた。

見つけ出せるかもしれないと思ったからだ。”本物”を。

 

 

それがあればもとの世界に戻った時、間違いのない正確な答えを導き出せると思ったから。

 

 

「ようやくわかったか。この世界はお前が妄想を現実に変えた世界。無意識のうちにな」

 

「俺が……やった…のか…?」

 

「そう、全部お前の仕業だ。よく考えてみろ、何が楽しいくてお前みたいなボッチをリア充になんかするかっての。お前はずっと独り相撲してたってことだ」

 

「じゃああの声は……?」

 

 

俺は思い出したように呟く。

そうだ。俺をここへ導いたあの声はいったい何だったというのだ。

俺の問いに”俺”はいとも簡単に答える。

 

 

「さぁな。誰かのせいにしたいというお前の願いが生み出した幻聴だろうよ」

 

「誰かのせいだと?」

 

「そうだよ。それがお前の内側の叫びだ。何が起きても誰のせいにもしてこなかったお前の心の叫びだ」

 

 

俺の心の叫び?

 

 

「そうだ。何があっても己の感情に無視を決め込んで、その化け物じみた理性で抑制してきたお前の感情だ」

 

 

そう言いながら”俺”はゆっくりと近づいてくる。

 

 

「もうやめろ。わかったろ?自分の弱さが。お前はお前が思ってるほどそんなに強くない」

 

 

そんなことは重々承知だ。

お前なんかに言われなくても……。

 

 

「無理しすぎなんだよ。お前は弱い。現実逃避してこんな世界に逃げ込んじまうほどお前は弱い。こんな世界を創った。それこそがお前の弱さだ。認めろ。弱さを認めることが前に進むことなんだ」

 

弱さを認める。

その言葉はやけに俺の中に響いた。

 

 

”俺”は俺の前に立ち、ゆっくりと尋ねてくる。

 

 

「このことについちゃ誰もお前を責めちゃいない。事故みたいなもんだ。なぁ、俺。お前はこの世界で何を見た?何を得た?」

 

 

この世界で俺が見たもの。

それはもう……。

 

 

「あったろ?本物がよ?」

 

 

その言葉に胸を打たれる。

ああ、あったさ。どんなに手を伸ばしても届かなくて、諦めていたものが確かにあった。

 

 

”俺”はニヤリと笑う。

 

 

「でもな、それは俺のもんだ。俺が必死こいて手に入れたもんだ。お前にはやらねえ。帰って自分で手に入れろ。ここで見たもの、得たものがありゃなんとかなるだろ?」

 

「そんなに簡単に……」

 

「ああ、簡単じゃねえよ。はっきり言って無理ゲーだ。でも俺はできたぞ?」

 

 

”俺”は腕を組み得意げに言った。

 

 

「お前にできたからって……」

 

「できる。俺はお前だ。俺にできたんだだからできる。俺からすりゃマジでお前何やってんの?あんなに綺麗で可愛い子が2人もいてくれてるってのにお前何してんの?って感じ。何弱気になってんだよ。屋上に来た時の決意はどうした?」

 

 

”俺”はチャラけたように言う。

しかしその表情をすぐに引っ込めて真剣に問いてくる。

 

 

「じゃあなにか?俺のお下がりでいいなら俺の立場をくれてやるよ。お前が願ってくれれば俺はまたあっちに行ける。俺があの2人と、お前の大事な”雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣”とよろしくやったっていいだぜ?」

 

「それは駄目だ!」

 

 

いつの間にかそう強く言葉にしていた。

 

 

「ならさっさと帰れよ。そんで上手くやれ。もう捻くれんのはやめろよ?」

 

 

畜生。なんだってんだ、こんなオチありかよ。

なんで自分に説教された挙句に励まされなきゃいけねんだよ。これも全部俺の願いってやつなのか。

不意に笑いがこみ上げてきた。たぶんバカらしくなったのだ。自分が。

 

 

そんな俺を見た”俺”は大きくため息をつく。

 

 

「ようやくやる気になったか。あーまじでしんどかった。朝起きたら、なんかロリな小町に”お前はお兄ちゃんじゃない!”とか言われるし、優美子には”はぁ!?マジでキモイんですけど!”でマジ顔で言われるし、いけ好かない葉山とかいうイケメンがいるし、雪ノ下と由比ヶ浜は心配そうに頻りに大丈夫かとか言ってくるし。俺からすりゃ誰だよお前らって感じなのによ。さすがに疲れたわ。戻って来れたと思ったら全く成長してない自分に会うわ、解説させられるわ、説教させられるわで、マジ疲れた。今すぐバタンキューしちゃうまである」

 

「わ、悪い」

 

「別に礼も謝罪も要らねよ。そんなに罪悪感を感じることもねえ。妄想なんて男子高校生の特権みたいなもんだ。いや、男の特権みたいなもんだ。それに俺もなんだかんだ楽しかったしな」

 

「楽しかったのかよ」

 

 

そんな会話をしながら俺たちは笑った。まったく同じ顔をした男2人が笑いあっているのだ。まぁ変な絵だな。

 

 

少しだけ笑った後、俺は尋ねる。

 

 

「どうやったら帰れる?」

 

「ん?そりゃ帰りたいって願えば帰れんだろ?」

 

 

そう聞いて目を閉じようとしたが、ある1つの疑問が浮かんだ。

”俺”はこの世界を創ったのは俺だと言った。ならば俺がいなくなったこの世界はどうなるのだろうか。

 

 

そう思い、再び尋ねようとすると、”俺”は尋ねてくることを知っていたかのように言う。

 

 

「この世界のことは心配すんな。お前がいなくなろうとどうにもならん。それにな」

 

「それに?」

 

 

「この世界はお前が創ったもんだって言ったが、俺は認めない。俺にはちゃんと17年間の記憶がある。優美子や折本、いろはや戸部。俺の大切な人たちが全部お前の妄想で創られたものだなんて俺は信じない。俺は、俺たちはお前があんな妄想をする前からちゃんといた。この世界は存在していた。絶対にだ」

 

 

”俺”は真っ直ぐな瞳でそう言った。

俺にはそれが眩しく見えた。俺にはまだできないから。

 

 

「はぁ、だいぶ引っ掻き回してくれたみたいだな」

 

「ああ、そこそこな」

 

「まぁそれは俺も一緒か」

 

 

なんかいただけない発言が聞こえたように思えたが、”俺”は誤魔化すように笑いながら拳を突き出し、ドンと俺の胸を叩いた。

 

 

「まぁ後のことは気にすんな。こっちのことは俺がなんとかする。だから」

 

「わかった」

 

 

すべて言い切られる前にそう告げる。

言われなくたってもうわかってるんだ。

 

この世界でいろんなものを手に入れた。与えてもらった。

それでちゃんとわかったつもりだ。

今まで見落としていた自分のことも。

 

 

最後に俺がやらかしたことで迷惑をかけた皆に謝れないことが少し心残りだが、それはもう”俺”に任せよう。

 

あの場所に戻るべきなのは”俺”だ。

 

 

「そうか。じゃあまぁもう会うことねえと思うけど」

 

「ああ」

 

 

 

 

そう告げて、俺は目を閉じようとすると、”俺”が思い出したようにポケットを弄り、何かを取り出す。

 

 

「これ、忘れもんだ。返しとく」

 

 

”俺”が差し出してきたのは俺の携帯電話。

手を伸ばし、それを受け取る。今更だが、これを持っていたということは本当にあちらの世界に行っていたんだな。そんなことを思っていると、”俺”が取り繕うように言う。

 

 

「別に中身見たりしてねえぞ」

 

「そんなことかよ。俺ならわかんだろ?別に見られて困るものねえよ」

 

「そ、そうか」

 

 

ここまで余裕な感じを見せていたのだが、なぜか焦った様子でそう言う。

なんだろうか。携帯に見られてまずいものでもできたのか?ああ、メールか?三浦とかとのメールか。

そんなに恥ずかしいものなのだろうか。俺の目の前にいるあ”俺”はまったく俺と同じということではないということか。まぁこれまでの対話がそれを証明しているな。

 

”俺”がどんな恥ずかしいメールのやり取りをしているのかと想像してプッと笑いが出る。

それを見た”俺”はすこぶる不機嫌そうだった。

 

 

「何笑ってんだよ」

 

「なんでもねえよ」

 

 

すぐに笑いを引っ込めて、再度別れを告げる。

 

 

「んじゃな」

 

「おう」

 

 

俺は目を閉じた。

 

 

 

×××

 

 

 

目を閉じて、俺は考えた。

 

 

由比ヶ浜が大人しい文芸少女になっていたのは、文学少女との純愛を妄想したから。

 

雪ノ下が別の高校にいたのは、他校の女子生徒と明るく楽しい恋愛を想い描いたから。

 

三浦や折本、一色。戸部とかその辺が仲良くしてくれていたのはリア充になった自分を想像したからだ。

 

小町が姉貴肌になっていたのは不明だ。いや、マジで。

 

 

材木座がまったくの他人になっていたのはたぶん普段から煙たがっていたからだな。ごめんね、材木座。

 

 

まぁ戸塚はあれだ、あれ。

みんなの夢だ。そういうことにしてくれ。

 

 

ともあれ、オチにしてはどうなのかと思うところだが、まぁ許してくれ。

俺が一番驚いているんだ。

普段から現実逃避ばかりしている俺だか、まさかここまで末期になっているとは思っても見たかった。

 

 

俺のもといた世界から本当に消失していたのは俺だったってわけか。マジで笑えねえ。

俺の代わりをやってた”俺”が何をやらかしているのか少々不安だが、俺も人のことは言えない。

 

 

でもやはり罪悪感は消えない。

こんなことをやらかしてしまった罪悪感は。

でもこれでいいのだ。俺はあの世界でたくさんのものをもらった。だからこの罪悪感も一緒に抱えていくべきだ。

忘れないために。

 

 

 

さぁ帰ろう。

 

 

 

 


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