デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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006 二度目の絶望

 「君は一体……?」

 

 

 僕の姿を見たタケルは怪しいモノを見るかのような表情を向けた。

……彼がそう思うのも無理はない。

なんせ僕は特段変わりのない服装をしているのに、

顔に変な仮面を付けているという怪しさ満載の姿をしていた。

誰がどう見ても不審者と判断されるだろう。

 

 僕がこんな仮面を付けている理由は二つ。

一つは出来る限り、現実世界で選ばれし子供達と遭遇するのを避ける為。

顔がわれてしまっては、それが難しくなるので、

もしもデジタルワールドで選ばれし子供達の前に出る事になったら

これを仮面を付けようと決めていた。

 

 もう一つは……彼等と面と向かって話す勇気が無かったから。

僕にとって選ばれし子供達の存在は眩しすぎる。

彼等の姿を見ていると、僕は自分が嫌になる。多くの事を知りながらそれを伝えない自分に。

 

 

「……あたしがあの子にとって命よりも大事な存在ってどういう事?」

 

 

 タケルの言葉に返答せずにいると、ふと京が先程言った言葉の意味を尋ねてきた。

 

――――選ばれし子供達に後ろめたさを持つ僕が、

今この瞬間、彼女たちの前に姿を現したのには勿論理由はある。

それは、新たな選ばれし子供として選ばれた京と伊織に伝えるべきだと思ったからだ。

……何故だか分からないが、原作と違って二人はパートナーとそれ程仲良くなっていない。

こんな状態で、ホークモンとアルマジモンが、そしてタケル達が二人と話しても、

二人は、選ばれたから戦えと、言われていると思ってしまうかもしれない。

本人たちにそのつもりが無くても。

 

 だからこそ此処は、二人と初対面である僕が伝えるべきだろう。

 

 

「言葉通りの意味だが」

 

「それが分かんないって言ってるのよ!

どうしてさっき会ったばかりのあたしをアイツは命がけで守ろうとしてるの?

選ばれし子供だから? そもそも何であたしが選ばれたの?

別にあたしは他人と比べて優れてる訳でも変わってる訳でも無いのに……!

それに私は――――戦いたくなんてないのよ!

それも誰かが勝手にあたしを選んだから戦えなんて……そんなの身勝手じゃない」

 

「そうですよ。

……そんな理由で戦えと言われても納得が出来ません!」

 

 

京と伊織は、ここに来てから抱え込んだ悩みを僕にぶつけてきた。

……そう、二人はここに戦いに来たのではなく、ただ遊びに来ただけなのだ。

それなのに、自分しか抜けないデジメンタルが有ったり、

それを抜いたら自分のパートナーデジモンが現れたり、

そして自分と一緒に戦ってくれと言われたりと、

正直に言えば二人にとって理不尽な事だらけだった。

 

―――――だからこそ僕は二人に伝えなければならない

 

 

「そうか。

――――ならここから逃げて、元の世界に戻るといい。

今なら僕達とあの二体のデジモンを囮に安全に逃げる事が出来る」

 

「――――え?」

 

 

僕の言葉に京と伊織は驚愕の声を上げた。

その言葉を近くで聞いていたタケルは僕の言葉に異議を唱えようとしていたが、

光子郎に止められていた。

……光子郎もそうする事も間違いではないと思っているもかも知れない。

 

 

「君達の言う通りだ。君達は勝手に選ばれた選ばれし子供だ。

言うならば被害者だ。

そんな君達が無理して戦う理由はどこにも無い。そう何処にも無い。

だから君達は元の世界に帰れ。今日あった事をすべて忘れて」

 

「でも――――そんな事をしたらあのへんな生き物……ホークモンはどうなるの?」

 

「……そうです!

僕達が居なくなったらアルマジモンはどうなるんです?

アルマジモンは僕らの事をずっと待っていたと言っていましたよ!」

 

「気にする事は無い。

どちらにしても君達が選ばれし子供にならないなら関係ない話だろう?

そんな事より早く逃げろ。

――――もうあの二体も持たないぞ?」

 

 

 その言葉に、二人はホークモン達の方を振り返ると、

そこにはボロボロで、今にも倒れそうなホークモン達の姿があった。

 

 ホークモンとアルマジモンは、京と伊織が自分達の方を見ていると気が付くと、

ぜぇぜぇと、息を切らしながら二人が聞こえるギリギリの声で話しかけてきた。

 

 

「……その者の言う通りです。今の内に逃げてください京さん。

……私は、京さんと会えた喜びにうつつを抜かし、

結果、京さんの思いを何も考えていませんでした。これではパートナーデジモン失格です。

――――だからここは任せてください。京さんが逃げるまで決してコイツを通したりしません」

 

「イオリぃ……すまんかったな。

オレ……伊織は、オレに会うためにここに来たんだと思ってた。

でもそれはオレの勘違いだった。

――――迷惑かけた償いは果たすぜぇ」

 

 

 二体の覚悟を決めた言葉に京達は俯いた。

……自分がどうするべきか考えているんだろう。

 

 

「……君達は選ばれし子供に無理してなる必要は無い。

ここで変に気を使って選ばれし子供になっても正直に言って足手まといだ。

――――だが、今、目の前のデジモンを見て助けたいと、共に戦いたいと思うなら

そのD3を掲げろ」

 

 

 僕の言葉に二人はゆっくりと顔を上げた。

 

 

「選ばれし子供になるとか、ならないとか、ならなければならないとか関係ない。

そんな事あとで考えればいい。時間は十分な程にある。

それよりだ、君達は()どうしたいんだ?」

 

「――――あたしは…………」

「――――僕は…………」

 

「「ホークモン〈アルマジモン〉を助けたい!!」」

 

「――――そうか。

ならD3を掲げてデジメンタルアップと叫べ!」

 

 

 僕の言葉に二人は視線を合わせると、大きく頷き、

空高くD3を掲げて叫んだ。『デジメンタルアップ』と。

その瞬間二人のD3は光を放ちそれぞれのパートナーデジモンの方に飛んで行き、

光で包み込んだ。

そしてその光が消えるとそこには二体の新たなデジモンの姿があった。

――――アーマー進化体、ホルスモンとディグモンだ。

 

 

「嘘!? ピヨモン達は進化出来なかったのにどうして?」

「……これが新たな選ばれし子供として選ばれた、京君と伊織君の力かもしれませんね」

 

 

 ホルスモンとディグモンは先程まで、

その場からピクリとも動かせなかったモジャモンを

意とも容易く吹き飛ばすと、それぞれのパートナーの隣に来た。

 

 

「京さん……どうして?」

 

「待って! ……あたしはまだ選ばれし子供って奴になったつもりはないわ。

あたしはただ、目の前で傷付いている貴方を放っておけなかっただけ」

 

「僕もそうです。

選ばれし子供として戦う事にまだ答えは出せていません。

僕は、選ばれし子供としてではなく、ただ一人の人間として君を救いたかっただけです」

 

「イオリぃ……」

 

「――――いい雰囲気になっている所悪いが、

モジャモンがこっちに来ているぞ」

 

 

 僕の言葉にハッとなった二人と二体がモジャモンの方を見てみると、

そこには凄い形相でこっちに向かって来るモジャモンの姿があった。

 

 その光景にディグモンとホルスモンはいち早く反応し、再びモジャモンに向かって行き、

そして再び吹き飛ばした。

 

 

「リングよ! 黒いリングを狙って!! そうすれば洗脳が解ける筈!」

 

 

 モジャモンが転倒し、チャンスが訪れたと思ったテイルモンは大声で二体に伝えた。

その言葉に成る程と、理解した二人は渾身の必殺技をイービルリングに向かって放った。

二体の必殺技は見事にイービルリングに命中し、破壊する事が出来た。

洗脳が解けたモジャモンは、先程までの事を謝るかのように頭を下げると、

ひそひそと森の中へ消えていった。

 

 

「……あのデジモン、操られてただけだったのね」

 

「……そうみたいですね」

 

 

 先程まで暴れていたデジモンとは思えない豹変ぶりに唖然とした表情になる京と伊織。

 

 

「そうなの。本当は大人しくて優しいデジモンなのよ」

 

 

 二人の言葉にヒカリはそう付け足すヒカリの表情は悲しさで溢れていた。

 

 密かにスナイモンとの戦闘を終えた僕とフレイドラモンは、

京達の方へと歩いて行った。

 

 

「何者かがこの黒いリングを量産し、デジモンを操っているようだ。

……誰が何の為にやっているかは不明だが」

 

 

 ……正直に言えは、その正体も目的も心当たりがあるが、ここでは言う訳にはいかない。

僕が内心でそう思っていると、京が突然、地団駄を踏み出した。

 

 

「何よそいつ!! あんな大人しそうなデジモンを操ってこんな事をさせるなんて許せない!

もし直接会う事が出来たならあたしが一発ガツンと言ってやるわ!」

 

「そうですね。

こんな平和な世界を乱そうとしている奴を僕も許せません」

 

「――――という事は二人とも選ばれし子供になってくれるの?」

 

 

 ヒカリの言葉に京と伊織は少し照れくさそうにしながらも答えた。

 

 

「ん……あたしは勝手に選ばれし子供として選ばれたことに対しては、

まだ納得した訳は無いけど、

いいデジモンを操って、好き勝手やってる奴が居ると知ったからには放っておけないわ。

……それにホークモンを進化させた時、何ていうか心が繋がった感じがして……

その、悪くない気分だったの。

ぶっちゃけ、ホークモンと一緒に居たいから選ばれし子供になるって決めたの。

……こんな気持ちじゃダメかな?」

 

「僕も京さんと一緒です。

他人を巻き込んで悪行を働く存在を僕も許せません。

……それに、もう少しアルマジモンの事を知りたいですし」

 

「二人ともご協力感謝します。

……現時点では僕達のデジモンは進化させる事が出来ないので、

二人の参入は本当にありがたいです。

――――それで貴方は僕達の味方、という認識でよろしいでしょうか?」

 

 今ならこっそりこの場を抜け出せるかなとか考えていたら、

それを妨害するかのように光子郎が話しかけてきた。

……恐らく、眼を放したら昨日の様に逃げ出されるとマークされていたのだろう。

 

 

「……そう思ってくれて構わない。僕は君達と敵対するつもりは無いよ」

 

「ならどうしてそんな仮面を付けてるの?

君も僕達と同じ選ばし子供なんだろ? 顔を隠す必要なんて無いじゃないか」

 

「……あまり顔を知られたくないからだよ。僕にも色々事情があるんだ」

 

「それは……私達が手伝えない事?」

 

「……気持ちだけ受け取っておくよ。

でもこれは、僕がやらなければいけない問題だ。

君達を巻き込むつもりは無い」

 

 ……原作通りに話が進むように誘導するなんてタケル達に言える筈が無かった。

だからこれは僕だけで解決しなければならない問題だ。

 僕はタケルとヒカリの質問にそう答えると、

彼等から距離を取って、背を向けた。

 

 

「……僕には僕でやる事がある。

昨日や今日のように毎回助けに来るとは思わないでほしい。

……この世界は君達が守るんだ」

 

「……貴方も選ばれし子供なら、私達と一緒にデジタルワールドを守ろうと思わないの?」

 

 

 ヒカリのその問いに僕は答えないまま、フレイドラモンを連れ、その場を去った。

ありがたい事に、僕の後をつけてくる者は誰も居なかった。

 

 タケル達から離れて、十分程歩いた森の中、

僕とブイモンは座り込んでいた。

 

 ちなみにフレイドラモンは、タケル達から見えない場所に来た瞬間、アーマー進化が解けた。

……進化を維持するのにかなり力を使ったようだ、その場にへたり込んでしまった。

どうやらブイモンは、昨日同様、ブイモンの姿を見られない方が良いと思ったらしく、

進化を解かずに頑張っていたようだ。

僕はそんなブイモンにお礼を言い、ブイモンをおんぶしてこの場所まで運んだ。

 

 

 「……そう言えば、昨日ブイモンが集めた情報をまだ聞けてなかったね」

 

 

 先程は予想以上にタケル達が早く来てしまったために聞けずじまいだった。

 

 

「そう言えばそうだった」

 

「何か情報は掴めた?」

 

「おう! とっておきの情報を手に入れたよ!

手に入れた情報は、なんと黒いリングをばらまいている犯人の情報だよ!」

 

「……その犯人の正体は?」

 

「それがね、なんと――――人間の大人が犯人みたいだよ! 性別は女って聞いてる」

 

 

 その言葉は、僕を絶望の底に叩きつけるのに十分な情報だった。

 


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