ー―――終わった。
9体の強化されたパートナーデジモンの必殺技をまともに受けたヴェノムヴァンデモンの最後の姿を見て誰かがそう呟いた。
誰が呟いたのかは分からない。選ばれし子供達の誰か1人かもしれないし、複数かも知れない。デジモン達が呟いたのかもしれないし、もしかすると僕自身が無意識にそう呟いたのかもしれない。
ただ、その言葉に疑問を返す者はおらず代わりに返されたのは皆の歓喜の雄叫びだった。
「やったわ!! やったわ!! 凄かったわよ皆!」
「ミヤコさん達の応援のお蔭ですよ。……まあワタシは殆ど活躍出来ませんでしたが」
「そんな事ない。ホルスモンの攻撃には何度も助けられたよ」
京の称賛に下を向いてそう返したホルスモンにウォーグレイモンは嘘偽りのない言葉でそれを否定する。ホルスモンはそんな言葉にいやいやと否定しながらも照れた顔を浮かべていた。
……京の言う通りだ。ホルスモン達成熟期組の攻撃は間違いなくアルケニモン達やヴァンデモンに効いていた。いや効きすぎていると思った程だ。
……伊織達が原作ではなかった超進化をしたように、彼女達も原作と違い何か変化が起きていたのかもしれないね。
――――とにかく長きに渡るデジモンアドベンチャー02の物語の最後のボスを遂に倒す事が出来た。
…………原作と違って多くの、本当に多くの犠牲を出してしまったけどね。
「守谷。どうしたそんな暗い顔をして……もしかしてまだ戦いは終わってないのか?」
僕が感傷に浸っていると突然太一にそう話を振られる。
……こんな状況で暗い顔を浮かべるなんて僕は本当に空気が読めてない。
僕の戦いはデジタルワールドを原作の最後のシーンの様な美しい世界にするまで終わらないが、選ばれし子供達の大きな戦いは一先ずはここで終わりだ。大役を終えた彼等に対して浮かべる顔が感謝の表情でなくてどうする。
「いえ――――太一先輩、皆さん。本当に……本当に有難う御座いました。
皆さんのおかげでヴァンデモンを倒す事が出来ました…!」
僕の心からの感謝のお辞儀に、近づいてきたヤマトが頭に手を置いた。
「俺達だけじゃない。お前だって頑張っただろ」
「そうでんな。モリヤはんの活躍あってこその勝利でっせ」
「そもそも一番活躍したのはお兄ちゃん達じゃなくて守谷くんじゃないかな?
完全体ダークタワーデジモンをずっと一人で倒してたし、この場所だって守谷君が導いてくれたんでしょ?」
「じゃあモリヤがヤマトの頭に手を置いた方がいいんじゃない?」
「おい!」
バードラモンの冗談にヤマトが強めに反応を返すと、全員が微笑んだ。
「……さて、一応確認しますが、彼等はどうしますか?」
一呼吸おいて光子郎はそう口にすると視線を未だ煙が立ち上がる場所から横に逸らしてとある場所――アルケニモン達が膝を突いている場所に向けた。
「ちぃ!」
視線を向けられたアルケニモンはふらつきながらも立ち上がったが、それ以上は動きはしなかった。
……どうやら立っているだけでやっとの様だ。
……正直に結論から言うと、選ばれし子供達はよっぽどの事が無い限りアルケニモン達を殺したりはしないだろう。
いや、敢えて悪い言い方で言うとしたら、殺せないが正しい。
僕自身、仮にアルケニモン達を殺す力を持ってたとしても殺す気はないしね。
そもそもアルケニモン達は……
「ま、待ってくれ!!」
僕達が無言でアルケニモン達を見つめていると、マミーモンは足をふらつかせながらも僕達とアルケニモンの間に立つと、足を付いて頭を地に付けた。
「頼む! オレはともかくアルケニモンだけでも助けてやってくれ!
確かにアルケニモンは色々と悪さしたが、全部及川さんの為だったんだ!
……だけどその及川さんはヴァンデモンに操られて死んじまった。
だからもう悪さはしない筈だ! だから頼む!!」
「やめなマミーモン! 情けない!
……確かにアタシは及川様の為に戦ってきた。だけど実際は及川様は操られただけで実際はヴァンデモン……様が本当のボスだった」
「そうだろ!? なら――」
「だけど、だからといって選ばれし子供達に鞍替え出来る程アタシは軽い女じゃない。
ヴァンデモン様がボスだというならアタシはヴァンデモン様の為に最後まで戦う!
それがアタシ達が……アタシが作られた理由さ!」
アルケニモンはそう告げると、ふらついた足取りとは思えない渾身の薙ぎ払いをマミーモンにお見舞いした。予想だにしていない攻撃にマミーモンは反応出来ずまともに喰らい、横に大きく吹き飛んだ。
「……さあこれで邪魔者は居なくなった。とっととケリを付けるよ。言っとくけどアタシは戦いを止める気は無いよ。仮にここで見逃されたとしてもアタシはデジタルワールドを滅茶苦茶にする。今までに無い位にね」
アルケニモンは手を震わせながらも両手を僕達に向ける。この圧倒的状況で本気で僕達と戦うつもりらしい。
…………正直に言うとアルケニモンの気持ちは痛いほど分かる。
自分にとって一番大切だった及川を失う所か、実はそいつは操られてただけで本当のボスが現れ及川を殺し、そしてそいつも選ばれし子供達に殺された。
正直にいって気持ちの整理が全くついていないのだろう。
ただ僕が一つ言えるとしたら、アルケニモンはここで見逃しても本当にデジタルワールドを滅茶苦茶にする可能性があるという事だ。
――なら。
「……皆さん。アルケニモンはここで――――
『――――ほう。悪くない忠誠心だ』
「――――――――!」
突如僕の言葉を遮る声が辺りに響いた。そしてその言葉と同時に体にのしかかるこれまで感じた事のない威圧感。
これは一体? この声はまさか――――!!
僕達は一気に警戒心を限界まで高め、ある方――9体のパートナーデジモンの攻撃の余波で未だ煙が巻き上がる場所に視線を向ける。煙は最初ほどは濃くは無いが未だにハッキリとその場所が見えない程度には巻き上がっている。が、目を凝らすと煙の向こうに確かに何かのシルエットが存在していた。
「まさかあの怪我であの攻撃を喰らってまだ生きてるのか!?」
「――あの怪我で、だと? クックック……なら良く見てみるといい」
煙の向こうの何か……ヴェノムヴァンデモンがそう言葉を返すと、次の瞬間、自身の腕を振り払ったのか突如突風が僕達を襲った。
「くっ!」
吹き飛ぶ程では無い突風に耐え、再度ヴェノムヴァンデモンの方に視線を向けると、そこには煙が完全に消え去ったヴェノムヴァンデモンの姿が――――傷一つないヴェノムヴァンデモンの姿があった。
「な、む、無傷だと?」
「――なら今度は傷を治す時間を与えない位速攻で倒すだけだ!! 皆行くぞ!!」
ウォーグレイモンが声を上げながらヴェノムヴァンデモンの元へと飛翔する。
メタルガルルモン達8体のパートナーデジモンもその言葉に続くようにヴェノムヴァンデモンの元へと向かう。
……ヴェノムヴァンデモンがまだ生きていて体力を回復していたのには驚いたが、まだ此方が圧倒的に有利だ。ウォーグレイモン達だって先程までと違い息が整うほどには体力が回復している。
ウォーグレイモンの言う通り、今度こそ回復する暇が無い程に攻撃すれば――
「「「ウォォォォォ!!」」」
声を上げながらヴェノムヴァンデモンの元へと向かって行くウォーグレイモン達。
それに対してヴェノムヴァンデモンは、ただ腕を大きく薙ぎ払った。
――――たったそれだけで尋常じゃない風圧が巻き上がり、ウォーグレイモン達は吹き飛ばされ、遥か後方の壁まで叩きつけられた。
「な、何……だと……!?」
「クックック!! いい夢は見れたかい、坊や達?」
理解出来ないと言わんばかりの表情を浮かべる僕達にヴェノムヴァンデモンは心から嬉しそうに笑った。
意味が分からない意味が分からない。どうしてヴェノムヴァンデモンがこれ程の力を持っているんだ!? さっきまではあんなに圧倒してたじゃないか!?
理解出来ない光景に誰よりも困惑していただろう僕にヴェノムヴァンデモンが視線を向けた。
「モリヤ、オマエはこう言ってたな。『選ばれし子供とそのパートナーデジモンは、この世界では想いの強さが力となって現れる』とか」
「……それが何だと言うんですか?」
「クックック! それは大きな間違いさ。何故なら――――」
その言葉と同時に突如ヴェノムヴァンデモンの内側から圧倒的な『闇』が膨れ上がり、辺りを支配した。突如身に襲う寒気、圧迫感、圧力、そしてヴェノムヴァンデモンから無限に溢れ出るドスグロイ闇。
実際にその闇が広がっているのかは分からないが少なくとも僕達にはそう見え、そして……全員が立っていられずその場に座り込み両手を組んでガタガタと寒気に震えていた。
「――この場所に来た瞬間からこれ以上に無い位力が溢れるのさ。選ばれし子供達を殺せ。心の底から絶望させ、恐怖に怯え、心から無様な命乞いをさせながら残酷に殺せとな!」
――――『この世界ではパートナーデジモン自身は勿論の事、僕達選ばれし子供の想いが強ければ強い程、パートナーデジモンが強化されます。
――それこそ成熟期でも究極体と渡り合えるようになるほどに』
ああ、僕は馬鹿だ。何度失敗すれば気が済むんだ。
この世界はアニメやゲームの世界じゃない。
ならそんな僕達だけが強化される都合のいい世界があるわけないじゃないか。
間違って二話目から見てネタバレしないよう改行しています。後ほど削除します