デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 遅くなってしまい本当に申し訳ございませんでした。
……個人的に非常に難しい回でしたが、何とか形にする事が出来ました


057 許されない過ち

「――――そうですか。此方だけでは無く、デジタルワールドから光が丘へのゲートも閉じられていましたか……」

 

「うん、完全に封印されてた……すぐ隣にブラックウォーグレイモンのシルエットが刻まれて」

 

 

 光子郎の質問にコロモンは何とも言えない表情を浮かべながら先程自分が確認した事実を伝えた。

 

 ――――選ばれし子供達は戦いの後、何者か――ブラックウォーグレイモンによって、光が丘のデジタルゲートが閉じられた事を知り、現状を把握する為一度光子郎の家に集まっていた。

パートナーデジモンは最近こちらに長く居すぎているという事もあり、一度デジタルワールドに帰って貰い、そのついでに念の為デジタルワールド側からの光が丘のゲートの様子を確認して貰い、結果どちらからも完全に封印されている事が確認できた。

……が、そもそも選ばれし子供達は何故、ブラックウォーグレイモンがこのような行動を取ったのかが理解出来ずに頭を抱えていた。

 

 

「……どうして、どうしてブラックウォーグレイモンは、最後にこんな行動を取ったのでしょうか?」

 

 

 伊織が小さく呟いた言葉に誰も答える事は出来ない。

 

 

「確かにブラックウォーグレイモンはもう助からない程の重傷を負っていました。

ですが、だからと言って最期に僕達の為にこのような行動を取るなんて……僕には理解出来ません」

 

 

 続けて漏らした言葉にも誰もが言葉を返す事が出来なかった。

 そんな沈黙が数秒続くと、光子郎が意味深げに太一の名を呼んだ。

 

 

「……太一さん」

 

「――ああ、そうだな。

――なぁ、コロモン。お前はブラックウォーグレイモンがこんな行動を取った理由に心当たりがあるんじゃないか?」

 

 

 突然の太一の言葉に光子郎を除く選ばれし子供達全員は驚愕の表情を浮かべるが、その言葉を言い放った本人はそれらに反応を見せずにただコロモンを真っ直ぐ見つめていた。

そんな視線を向けられたコロモンは、言いづらそうに太一の目から視線を外しながら肯定するように頷いた。

 

 

「ブラックウォーグレイモンは最初にモリヤと出会った時から約束してたんだ。最期の時、自分の命を封印の為に使うと」

 

「……だったら最後の守谷の行動は……」

 

「……ボク達に悪い奴と思わせるための行動だったと思うよ」

 

 

 コロモンの言葉に選ばれし子供達は俯く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選ばれし子供達との戦いから翌日の朝、目が覚めた僕は隣でぐっすり眠っているチビモンを起こさない様にゆっくりと布団から出ようとしたが、じわじわと昨日自分が行った行動を思い出し、再び横になった。

……どうせ今日僕が取るべき行動は2つあるうちの1つだけだ。それが決まるまではここから動かなくても問題ないだろう。

テレビで情報を集めるという選択肢もあるが……今テレビを付けても流れているのは行方不明になって居る人達に関するニュースばかりだろう。

 

 

(……今はそんなニュースを見ている暇はない。それよりも今考えるべきは今日の行動についてだ)

 

 

 誰に対してかも分からない言い訳をしながら僕は思考を巡らせた。

 

 

(明日までに今僕が出来る行動は2つ。このまま誰にも会わずに家で大人しくしているか、選ばれし子供達に会って、明日の闘いに関して話し合う、もしくはチンロンモンのデジコアを渡すかどうかだ。

……本当ならヴァンデモン達の元に選ばれし子供達が辿り着かない様に見張っておくべきだが、ブラックウォーグレイモンが居なくなった以上、僕が居ても何の意味も無い。

昨日のアルケニモン達の、もう行動はしないという言葉を信じて、僕はアルケニモン達に近づかない方がいいだろう。僕のせいでアルケニモン達の居場所がばれたら意味が無いしね。

 

……とにかく先程思い浮かんだ二択だが、明日の闘いに関して考えるなら後者を選ぶべきだが、後者には大きな問題がある。

それは昨日の僕の行動で僕の信用は地に落ちたということだ)

 

 

「……ブラックウォーグレイモンの脱落は、ヴァンデモンとの戦いの場所をあの想いが強さになる世界にする為には必要不可欠だった。

だけど……だとしてもあの時の僕の行動は……酷いな」

 

 

僕は昨日自分がブラックウォーグレイモンにした仕打ちを思い出し、

胸を痛めながらもその痛みこそが本来自分が常に持つべきものだろうと再認識した。

 

 

(……とにかくあんな行動を取った以上、僕は今後、選ばれし子供達と好意的に接触は出来ないだろう。

だったら明日、敵として対面した際に、油断して居る振りをしてデジコアを奪わせればいいか。

ヴァンデモンの性格を考えれば、究極体に進化した時点で、僕が多少おかしな行動を……いや、堂々と裏切ったとしても怒り任せに攻撃するようなデジモンでは無いか)

 

 

 そう結論をだした僕は、チビモンが起きるまで、と再び目を閉じて眠りについた。

――どうしてヴァンデモンの計画が一日ずれたのかうっすら考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 次に僕を目を覚ましたのはチビモンの声では無く、家に響き渡る固定電話の音だった。

 

 出るのも面倒だと十数秒ほど無視してはみたが、それでも電話は鳴り止まなかったので仕方なく出る事にした。

……漠然とこの行動が大きな分かれ道になる予感を覚えながら。

 

 

「……もしもし、守谷ですが……」

 

「あ、アマキちゃん!? 私だよ私、あまきちゃんのお爺ちゃんの友達の……!」

 

「あ、おばちゃんですか。どうもご無沙汰です」

 

 

 電話の相手は長らく会っていないお爺ちゃんの友達のご老人だった。

……長く相手にするのも面倒なので早々に電話を切ろうと頭を巡らせていると、そこでおばちゃんが必死な声で電話越しに叫んだ。

 

 

「――――あなたのお爺ちゃんが倒れて病院に運ばれたのよ!今も意識不明で眠っているわ!」

 

「――――え?」

 

 

 おばちゃんの突然の言葉に僕は一瞬頭が真っ白になったが、直ぐに冷静になった。

 

 

「そうですか……それは命に関わるんですか?」

 

「……正直かなり危険な状態みたいなの……だから今すぐ来てちょうだい!!

お医者さんが家族の声を聞けば意識が戻るかも知れないって言ってたのよ!」

 

 

 おばちゃんが電話越しで病院の住所を伝える中、僕は覚めた頭でどうするべきか考えていた。

 ……普通に考えるなら行く必要は無いだろう。

 明日の戦いがどうなるか分からないが、もしかすればヴァンデモンから僕のD3を取り返し、チビモンをウイングドラモンに進化させる事が出来るかも知れない。

そうなった場合の事も考え、体力的にも精神的にもチビモンに余計な心配を掛けたくはない。

僕が寝る前に明日は一日中ゆっくり出来ると言ったからか、チビモンはまだ眠っているし、起こすべきでは無いだろう。

……お爺ちゃんは嫌いではないが、最近は僕の事が鬱陶しくなったのか露骨に会いに来なくなった事だし、逆に会いに行かない方がお爺ちゃんの為かも知れない。

 そう結論をだした僕はおばちゃんに一言行けないと伝えて電話を切ろうとしたが、そこでおばちゃんが突然泣き出した。

 

 

「ほ……本当は、貴方のお爺ちゃんに自分に何かあってもアマキちゃんには何も伝えないでくれって頼まれてたの。もしも自分が唐突に死んでも、遺産がすべてアマキちゃんに残るようになってるってことも言ってたわ」

 

「お爺ちゃんが?」

 

「そうなの。それにあの人、4月頃から貴方に会いに行かなくなったでしょ? それも自分が居ない方が良い気がしたかららしいわ。

私はそんな事ないって言ったんだけど、あの人はワシには分かるっていって聞かなくて……」

 

「……そう、だったんですか……」

 

「……でも元々身体がそんなに良くなかったのと、最近の行方不明事件に貴方が巻き込まれていないか、ずっと心配してたわ……言葉には決して出さなかったけど」

 

 

 そう言って電話の向こうで泣き崩れるおばちゃん。

そんなおばちゃんをよそに、僕は転生してから初めてデジモン関連以外の記憶を遡った。

 

――思い浮かぶのは、どんな時でも優しく微笑んでくれ、僕の行動を遮る様な事をしなかったお爺ちゃん。

……当時の僕は、それらを両親が居ない罪悪感からくる行動と冷めた考えを持っていたが、そうでは無かったのだと初めて気が付いた。

きっとお爺ちゃんにとってはそんな罪悪感は二の次だったのだろう。

それよりもお爺ちゃんにとって僕は―――――

 

 

「……おばちゃん、病院の場所、もう一度教えてください」

 

 

 それは僕にとって……守谷天城にとっては正しい行動だったのかもしれない。

だけど、決して、転生者としては……ほんの少し未来の僕からしたら何一つ正しくない行動だった。

 

 

 

 

 

 電話の後、チビモンと共に急いで病院に向かった僕は、ギリギリの所で状況が悪化して手術室に運ばれるお爺ちゃんに声を掛け、その後手術室の前でおばちゃんと共に数時間程待った。

外では夕日が沈むくらいの時間になった頃、手術中の点灯が消え、中から出て来た医者に話を聞くと、なんとか手術が成功したという言葉を聞く事が出来た。

 

 その言葉に自分でも驚くぐらいの喜びの声を上げた僕だったが、一緒に居たおばちゃんにそれが聞かれたという事に少し恥ずかしくなり、その場から抜け出し、行く宛も無かったので、ロビーの自動販売機へと向かった。

 

 ……結局、今日は何も出来なかったがそれなりに良い行動はしたかもしれない、と内心評価していた僕だったが、ロビーにあるテレビを見てそんな浅はかな考えは吹き飛んだ。

 

 

『――昨日より新たに行方不明になっております……くん、……くん、一乗寺賢くん、……ちゃん―――――――――――以上、……名は、恐らく田町で何者かに連れ去られたと予想され―――――――』

 

 

「あぁ――――――あぁ――!!」

 

 

 僕は声にならない奇声を上げながら病院を飛び出した。


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