色々とモチベーションが下がる事があり、ここまで投稿が遅れてしまいました。
……それに加え、ブラキモンの戦闘描写が個人的にとても難しかったのも理由の一つですね。
まさかこういう事で躓く事になるとは考えが足りなかったみたいです……
――――火田伊織の紋章無しでの超進化。これを目にした守谷天城は身に付けた仮面の裏側で驚愕を通り越し、絶望の表情を浮かべた。
その絶望は、戦況が悪化したことに対するものでは無い。守谷にとってこの戦い自体の勝敗は意味のないものだ。
なら伊織が原作にない成長をしたことに対するものかといわれるとそうでもない。
今の守谷は昔の様に原作至上主義では無く、伊織が超進化した事自体に対してはマイナスの感情など一切覚えていなかった。
――――なら守谷天城は何に対して絶望したか。
それは今更言葉にするまでも無い自分自身の行動に対してだった。
(…………やっぱり。やっぱり僕は間違っていたのか)
かつて守谷はタケル達に、完全体に進化出来るよう修行するように誘導した。
が、それはタケル達が完全体に進化出来るようにする事が本当の目的では無かった。
タケル達が完全体同士の戦いに巻き込まれない様に……関わらない様にする為だった。
……そう。守谷はこの時から口には出さなかったがタケル達が最終決戦までに超進化出来るようになるとは思っていなかった。
――――それなのにどうだ。
今守谷の目の前にはパートナーデジモンがタグと紋章無しで完全体に進化した姿があった。しかも進化させたのは守谷の中でも最も超進化の可能性が低いと考えていた伊織だ。
守谷は選ばれし子供として戦うと決めたその時から迷いながらも今できる最善の事を選んできた
だが時折こんな事を考えてしまう事もあった。
――――もしかしたら今自分のやって居る行動は全て間違っているのではないかと。
今までならそれは流石に考えすぎだと疑問を払えていた。
だが今僕はこの目で見てしまった。自分が捨てた、捨ててしまった可能性を。
――――もしも自分がもっと上手く動けていたら、現状がここまで悪くならなかったのではないかと。
そして――――もしも自分が出しゃばらなければ選ばれし子供達はパートナーを完全体、下手をすれば究極体に進化出来ていたのではないかと。
「――だぎゃ!」
完全体となったアルマジモン――ブラキモンは、進化して更に巨体となった身体ですら身に余る長い首をブラックウォーグレイモン目がけて振るう。
対してブラックウォーグレイモンは、突然の完全体の出現に驚愕を隠せないままその攻撃を回避しようと飛び上がろうとしたが、その巨体からでは考えられない速さで振るわれたその攻撃を回避する事は叶わなかった。
「……っ!」
予想外の速さとダメージに苦痛の声を上げながらも吹き飛ばされたブラックウォーグレイモンは空中で受け身を取り、そしてブラキモンを睨むように観察した。
睨まれたブラキモンもその視線に対抗するように睨み返す。
数秒そのやり取りが続いたが、ブラックウォーグレイモンが視線を外した事でそれは終わりを迎える。
視線を外したブラックウォーグレイモンは、ゆっくりと守谷の隣に着陸した。
「……どうでしたか?」
隣に降りたブラックウォーグレイモンにのみギリギリ聞こえる声量で守谷はブラックウォーグレイモンにそう尋ねる。そしてそんな問いに返された答えは、想定を覆すものでは無かった。
「詳しくはまだ分からないが――少なくともパワーだけならウイングドラモンを超えてるぞ、ヤツは」
「…………そうですか」
「どうするんだ? この状況はオマエの想定していたものとは大きく違っている様だが」
「…………やる事は変わりませんよ。僕達はここで選ばれし子供達を食い止める。ただそれだけです」
「――そうか」
守谷の言葉に口元を僅かにニヤ付かせながら守谷の元を飛び立ち、ブラキモンの元へと向かったブラックウォーグレイモン。
そしてブラキモンの10メートル程前に降りたブラックウォーグレイモンは、まだ形の残っている右手のドラモンキラーを突き出すような構えを取った。
「――――感謝するぞ。最後にオレに全力を出させてくれるオマエ達に!!」
咆哮の様な叫びと共にブラックウォーグレイモンは伊織とブラキモンに対し、今日最大の殺気を放つ。
他の選ばれし子供達がその殺気に一歩後ずさる中、そんな殺気に対しても伊織とブラキモンは臆さずに一歩前に出る。
そんな二人を目にしたブラックウォーグレイモンは口元を更に歪ませ――――そして一直線にブラキモンに向かって飛翔した。
――ブラックウォーグレイモンVSブラキモン
守谷天城と選ばれし子供達の最後の戦いの幕開けとなった。
風を切る速さで接近するブラックウォーグレイモン。
それに対してブラキモンは先程と同様に長い首を振るう事で対抗する。
先程と同様その巨体からでは考えられない速さでそれは振るわれたが、流石に二度も同じ攻撃は通用しないのか、ブラックウォーグレイモンはその攻撃を最小限の動きで回避してブラキモンの元まで辿り着くと、渾身の力で右手のドラモンキラーで切り付ける。
……が、
(……ち、硬い)
ドラモンキラーによる切り付け攻撃は、まるで硬い石を攻撃したかのように弾かれた。
「――フン!!」
攻撃を弾かれ一瞬ではあるがブラックウォーグレイモンが動きを止めたのを目にしたブラキモンは、今度は右足を振り上げ、ブラックウォーグレイモンに対して振り下ろす。隙を付かれたブラックウォーグレイモンであったがその攻撃も前に飛んで回避に成功する。
「パワーは一級品だが、避けられない速さでは無いな!」
そう叫びながら今度は左手を全力でブラキモンに叩き込んだが、ブラキモンは堪えた様子も無くすぐさま次の攻撃を繰り出した。
が、その後の攻撃もブラキモンには効かなかった。
(アイツの身体が硬すぎるのか? ……それともオレのパワーが落ちているのか?
どちらにしてもこのままではジリ貧だな。――――だったら!)
何度目か分からないブラキモンの踏みつけ攻撃を後方に大きく飛んで躱したブラックウォーグレイモンは、そのままゆっくりと上空へと飛び上がった。
「もう攻撃は終わりだぎゃ?」
「――いや、ここからだ」
ブラックウォーグレイモンはブラキモンの挑発に笑みを浮かべながら返すと両手を空に掲げて、合わせた。
「さあ、オマエにこの攻撃を攻略出来るか――『ブラックトルネード!!』」
身体を高速回転させながら先程よりもずっと早い速さで突撃するブラックウォーグレイモン。
それに対してブラキモンはカウンターを返そうと身構えたが――反応出来なかった。
「ぅ!」
高速回転しながら突撃するブラックウォーグレイモンは、回転の勢いのまますれ違いざまにブラキモンを切りつける。ブラキモンの固い皮膚はまたもやそれを弾き返し、表面上は傷は見えなかったがブラックウォーグレイモンの攻撃はまだ終わりでは無い。
「まだだ! 『ブラックトルネード!!』」
ブラックウォーグレイモンは、回転を維持したまま何度も何度もブラキモンに接近し、その身体を切り付ける。
――――何度も、何度も何度も。
その度ブラキモンの固い皮膚はその攻撃を弾いたが、下腹に潜り込んで攻撃した際、ブラキモンが今まで見せなかったダメージによる、よろめきを見せた。
ブラキモンの弱点が発覚した瞬間だった。
「――そこが弱点か!」
弱点を見つけたブラックウォーグレイモンは、その場所を執拗に狙い続ける。
――――何度も、何度も何度も。
その度ブラキモンは、下腹を守ったり、攻撃を振るったりして対抗したが、加速したブラックウォーグレイモンの速さに付いて行く事は出来なかった。
ブラキモンの気持ちに反比例するようにどんどん積み重なるダメージ。
状況を打破するためにブラキモンは必死に策を考えるが何も思い浮かばなかった。
(このままじゃブラキモンが負ける……)
ブラキモンとブラックウォーグレイモンの戦いを最も間近で見ている伊織も何とか状況を打破しようと考えを巡らせるが何の考えも思い浮かばなかった。
(……何か、何か手がある筈だ。ブラックウォーグレイモンを倒す何らかの方法が!)
伊織は諦める様なことをせず何度も何度も考えを巡らせる。
諦める気など欠片も無かった。……いや、諦める訳にはいかなかった。
伊織はなんとなく察していた。この戦いが守谷に自分の覚悟を、想いを伝える最後の機会だと。
だったら、負けが確定していないのに諦める訳にはいかない。
自分は、自分達は守谷と一緒に戦える仲間なのだと本気で伝える為にも諦める訳にはいかないのだと。
そして、諦めずに考え続けた結果、伊織はある方法を思い付いた。
――否、ある事を思い出した。
「――ブラキモン、『剣道』です!!」
「ケンドウ? ――――――――そういうことだぎゃか!!」
伊織の言葉の意味を理解したブラキモンは防御を解き、後方に大きく飛んだ。
突然のブラキモンの行動にブラックウォーグレイモンは一度必殺技を止め、上空からその様子を伺う。
そして先程伊織が叫んだ言葉に改めて疑問を浮かべた。
「ケンドウ、だと? それがお前の必殺技か?」
「いいや、ケンドウはイオリ達にんげんの武道のひとつだぎゃ。剣を振って自分を鍛えるんだぎゃ」
「ふん、なら剣を持てないオマエには関係のないモノだな。『ブラックトルネード!!』」
ブラキモンの言葉に幻滅するようにそう返し、ブラックウォーグレイモンは、再び高速回転しながらブラキモンに迫る。
その攻撃をブラキモンは――大きく飛び上がる事で回避した。
……が、それは周りから見ても決して正しい行動では無かった。
「――バカめ! 自分の唯一の弱点を露わにするとは早まったな!!」
今までは自分の巨体の割に短い、前後の足のお蔭で殆ど隠されていた弱点の下腹だったが、ブラキモンが飛び上がった事でそれが完全に公になってしまった。
ブラックウォーグレイモンがその隙を見逃す訳も無く、ブラックウォーグレイモンは、高速回転したままブラキモンの下腹に突撃した。
「――っかはぁ……!!」
弱点にまともに攻撃を受けたブラキモンは、苦悶の声を上げる。
そんなブラキモンにブラックウォーグレイモンは、つまらなそうな表情を浮かべた。
「……どうやらオマエはパワーだけの雑魚だったようだな」
失望とも取れる視線を浮かべながらブラックウォーグレイモンは、ブラキモンの腹に突き刺した両手を抜こうとしたが、その瞬間、ブラキモンが下腹に全力で力を加えたせいか両手を抜く事が出来なかった。
それに加え、ブラキモンは前後の4本の足でブラックウォーグレイモンの体を抑え込んだ。
「――なんだと?」
「――確かにオレはケンは持てないだぎゃ……。だけどケンドウにはそんな事より大事な事があるだぎゃ」
地上でブラキモン達を見上げる伊織はその言葉に同意するように頷く。
「そうです。剣道の本質は心を鍛える事です!」
「そして剣道には強敵を倒すためのこんな極意があるだぎゃ」
ブラックウォーグレイモンを掴んだままブラキモンは、その巨体通り物凄い速さで地面に向かって落ちていく。
そこでようやくブラックウォーグレイモンは、ブラキモン達の目的を悟った。
「「肉を切らせて骨を断つ――それが剣道の極意です(だぎゃ)!!」」
「――――は、なるほど……やはりオマエ達はオレの最後の相手に相応しい相手だったようだ」
……自分よりも強い相手には当たり前ともいえる戦法だが、それでもそれを実行する事は難しい。
だからこそそれを躊躇いなく実行したブラキモンにブラックウォーグレイモンは小さな称賛を送ると、そのまま抵抗なく地面へと叩きつけられた。