デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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053 歪ませる物VS正す者

side選ばれし子供達

 

 ブラックウォーグレイモンとの戦いに敗れた翌日の昼、選ばれし子供達は再びアルケニモン達を探して町中を捜索していた。……守谷達よりも早く見つける為に。

 

 選ばれし子供達全員は昨日の話し合いで、現在は守谷がアルケニモン側に付いているという現実を認めた。

……どんな理由があるのか、どうしてそうしなければならなかったのか、選ばれし子供達には予想は出来ても答えを出す事は出来ない。

が、本心からアルケニモン達に付いているとはほぼ全員が思っていなかった。

だからこそ選ばれし子供達は、守谷達よりも早くアルケニモン達を見つけ出そうと必死だった。

……守谷が現れる前にアルケニモン達の行動を止める為に。あわよくばアルケニモン達を倒す為に。……これ以上守谷に罪を犯させない為に。

 

 そして捜索の結果、アルケニモン達が現在田町で人さらいをしているという情報を手にし、急いで向かった。

選ばれし子供達が付いた時には、既に必要分の人間を集め終ってこの場からトラックで去ろうとするアルケニモン達――――そして守谷とブラックウォーグレイモンの姿があった。

 

 

「……遅かったか」

 

「……もしかしたらアルケニモン達と連絡を取り合っているのかもしれませんね」

 

 

 守谷達の様子を伺いながら太一と光子郎はそんな会話を交わす。

 兎も角、守谷達が既にアルケニモン達と合流している以上、最初のプランは果たせそうになかった。

こうなった以上、真っ向からブラックウォーグレイモンを止めるしかないだろう。

 

 

 

「――――ここは僕達が」

 

 

 

 昨日と同様ヒビの入った仮面を付けた守谷はアルケニモン達にそう言いながら、選ばれし子供達とアルケニモン達の視線を挟むように立った。

 

 

「足止めは任せたぞ!」

 

「――ボスからの伝言だよ。明日――じゃなく明後日に光が丘に来れば面白いモノが見れるらしいよ」

 

「……明後日? ですか? ……予定では明日の筈でしたが?」

 

「そんな事ワタシが知るかい!

だけど人間を集めるのは予定通りこれで終わりらしいから、今回も頼んだよ!」

 

 

 マミーモンとアルケニモンはそんな言葉を残して足早にこの場から去って行った。

その様子を見て、選ばれし子供達は一瞬、アルケニモン達を追いかける事を考えたが、昨日同様直ぐに考えを改めた。

……ここで下手に背中を見せたら一瞬でやられてしまうと。

 

 

「――――とにかくアルケニモン達の目的は、明後日には果たせるみたいですね」

 

 

 悔しそうにアルケニモンの乗るトラックに視線を向ける選ばれし子供達に守谷はそんな風に話しかけてきた。

 

 

「とあっては、ここで邪魔される訳にはいきませんね。

どうしてもアルケニモン達を追いたいのなら僕達を退けてから向かって下さい。

後、一応言っておきますが、隙を見て追いかけようとは思わないでくださいね?

そんな事をされてしまったら僕達も貴方達を止める為に町に向かって技を使う羽目になってしまうので」

 

 

 長々とそう語る守谷の姿に選ばれし子供達は疑問を覚えた。

……昨日に比べ明らかに守谷の口数が増えていた。

それによく見てみると昨日背負っていたリュックとは違い、かなり丈夫そうなリュックを背負っていた。それに意味があるかは選ばれし子供達も分からないが、少なくとも目に入った。

 

 

 

「……守谷君。私達、本当に戦うしかないの?」

 

 

 ヒカリは悲しそうな表情を浮かべながらも、目には強い思いが籠っていた。

ヒカリ自身も分かっていた。守谷がどう返答するのかを。

だからこそヒカリはこれ以上守谷に負担を、罪を犯させない為に強い思いでここに立っていた。他の選ばれし子供達も同様だった。

 

 

「……言うまでもありません。

貴方達は、アルケニモン達の目的を果たさせない様行動しています。

対して僕達はその逆です。ならもう戦うしかないとは思いませんか?」

 

 

 守谷がそう言うと、守谷の隣に立っていたブラックウォーグレイモンが歩き始め、守谷の前に立った。

……話し合いはここまでという事だろう。

それを見たタケルは一歩前に出た。

 

 

「……ここから先は僕とヒカリちゃんに任せてください」

 

「……ああ。頼んだぞ!」

 

 

 昨日の時点からそうする事に決めていたのか、タケルの言葉に反論を返す者は誰一人おらず、悔しそうな太一の言葉だけが帰ってきた。

 

 

「ヒカリちゃん――やろう!」

 

「――うん」

 

 

 ヒカリの返答と同時にテイルモンの尻尾のホーリーリングが光を放った。

そして光は昨日同様パタモンとテイルモンを包み込み――完全体へと進化させた。

 

 睨み合う世界を歪ませる存在と、世界を正す存在。

――この二組にこれ以上の言葉は必要なかった。

 

 

「ウォォォォオオオ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは雄叫びを上げながらホーリーエンジェモンに向かってドラモンキラーを突き出しながら飛翔する。

風を切る様な速さのそれにホーリーエンジェモンは内心驚きながらも、右手に聖剣エクスキャリバーを作り出して、ブラックウォーグレイモンの攻撃を受け止めた。

 

 

「……クッ」

 

 

……が、その一撃は想像以上に重く、ホーリーエンジェモンは受け止めたはいいが、それ以上の行動は起こせなかった。ブラックウォーグレイモンはその隙を見逃さずにもう片方のドラモンキラーで突き刺そうとした。

 

 

『ホーリーアロー!!』

 

 

 が、そうはさせないと言わんばかりにエンジェウーモンはブラックウォーグレイモンに光の矢を放ち、ブラックウォーグレイモンはそれを回避すべくホーリーエンジェモンから距離を取った。

 

 ……戦いは始まったばかりだ。まだ互いに決定打になる様なダメージは無い。

だというのにホーリーエンジェモンは僅かに動揺していた。

 

 

「……気を付けろエンジェウーモン。ブラックウォーグレイモンは昨日よりも強いぞ」

 

「――なんですって」

 

 

 ホーリーエンジェモンの予想外の言葉にエンジェウーモンは驚愕の声を上げた。

エンジェウーモンが驚くのも無理はないだろう。

なんせブラックウォーグレイモンは昨日全員で掛かっても勝てなかった強敵だ。それだというのにその時よりも強くなっているというのだ。……たった一日で。

 

 

二体が困惑する中、ブラックウォーグレイモンはそんな事は関係ないと言わんばかりに再び二体にドラモンキラーを突き立てながら何度も接近する。

ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンは、迫り来るそれらの攻撃をなんとか躱そうと動き回るが、全ては避けきれなかった。

 

 

「そ、そう言えば前にモリヤが言ってた。

ブラックウォーグレイモンは放って置けばどんどん強くなるって!」

 

 

 そんな二体を視界に入れながら、以前守谷が言っていた事を思い出したゴマモンが全員に聞こえるように大声でそれを伝えた。

それを聞いた選ばれし子供達はその事実に驚愕しながら祈るようにホーリーエンジェモンとエンジェウーモンを応援した。

今彼等に出来る事はそれ位しかなかった。

 

 同じようにゴマモンの言葉を耳にしていたホーリーエンジェモンとエンジェウーモンもその事実に驚きながらも再度戦いに意識を向ける。

しばらくそんな状況が続き、エンジェウーモンがダメージを受け過ぎて地面に膝をついたのを目にしたホーリーエンジェモンは、このまま防戦一方の戦いを続けていては勝ち目はないと悟り、覚悟を決め、戦い方を変える事にした。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。キミに恨みは無いが――ここで倒させて貰う」

 

「面白い。ならそれが口先だけの言葉じゃないと証明してみろ!」

 

 

 その言葉と同時にブラックウォーグレイモンはホーリーエンジェモンに飛びかかる。

数秒もかからない内に自分のすぐ目の前まで迫ったブラックウォーグレイモンにホーリーエンジェモンは何度目か分からない驚愕を覚えながらも、臆せず右腕のエクスキャリバーを振るう。

それに対してブラックウォーグレイモンは左手のドラモンキラーの先端部で難なくそれを受け止めたが、次の瞬間ジュワっと焦げる様な音が耳に入った。

その音の意味を一瞬で悟ったブラックウォーグレイモンは左手をホーリーエンジェモンのエクスキャリバーごと振り払い、そのまま無防備になったホーリーエンジェモンの腹に全力の蹴りを叩きこんだ。

 

 苦悶の声を上げながら吹き飛んで行くホーリーエンジェモンを尻目にブラックウォーグレイモンは左手のドラモンキラーに視線を向けた。

そこには先端の爪の部分が欠けて……いや溶けているドラモンキラーの姿があった。

 

 

(……どうやら昨日のようにはいかないようだな)

 

 

 ブラックウォーグレイモンは内心そんな事を考えながら、空中で受け身を取ったのか、予想よりも早くエクスキャリバーを掲げて向かって来たホーリーエンジェモンに視線を向ける。

 

 

(昨日の戦いでも、さっきまでの打ち合いでもこうはならなかった。どうやらアイツらの思いの強さによって剣に纏う光の出力が変わるようだ。

……全身が完全に闇の物質のオレにはとことん相性が悪い)

 

 

 内心そんな評価を下しながら、再び自身に迫り来るエクスキャリバーにブラックウォーグレイモンはどう対処すべきが一瞬考えた。が、すぐに考えることをやめた。

 

 迫り来るホーリーエンジェモンのエクスキャリバーを、ブラックウォーグレイモンは当然の様に右手のドラモンキラーで受け止め、ホーリーエンジェモンの動きが止まった瞬間、先端の無くなった左手のドラモンキラーを全力で叩きこんだ。

 

 ……ブラックウォーグレイモンにとって、もはや先の事は考える必要がないものだった。

故にブラックウォーグレイモンは敵のやっかいな武器の事など一切考慮せず、自分が最も好んでいる真っ向からの勝負でホーリーエンジェモンと戦う事にした。

――すくなくともあの技を使われるまでは。

 

 そう決めるとブラックウォーグレイモンの行動は早く、ホーリーエンジェモンを徹底的に追いかけ、何度も何度も両手のドラモンキラーを振るった。

対してホーリーエンジェモンは速さではブラックウォーグレイモンに劣るながらも、左手のシールドと8枚の羽根を上手く使った変則的な飛翔でそれに対抗した。

 

 戦況を傍から見れば有利に見えるのは圧倒的にブラックウォーグレイモンだった。

ホーリーエンジェモンは捌ききれなかったブラックウォーグレイモンの攻撃を何発もくらっていたが、それに対してブラックウォーグレイモンは殆どの攻撃をドラモンキラーで受け止め、直接攻撃を喰らった回数などそれこそ片手で数えれる程だった。

だが実際、有利に戦いを運んでいたのはホーリーエンジェモンだった。

数回しかまともに命中していないが、それ程にホーリーエンジェモンの一撃が重かったのだ。

 

 

「…………」

 

 

 そしてホーリーエンジェモンが有利な理由は他にもあった。

それは今この場で起きている戦いが、ホーリーエンジェモンとブラックウォーグレイモンとの一騎打ちでは無く、もう一体エンジェウーモンという戦力が居る事だった。

そんなエンジェウーモンは、少し離れた所で痛む体を無理やり動かして必殺の矢を構えていた。ブラックウォーグレイモンが隙を見せた瞬間に意識外から攻撃を放つ為に。

 戦いが始まってしばらくしてホーリーエンジェモンは、接近戦が得意ではないエンジェウーモンと二体で正面からの戦いを仕掛けるのは得策では無いと考えた。

だからこそ、ホーリーエンジェモンは、深いダメージを受けたエンジェウーモンを見て、自分よりも相手の方が接近戦が得意だと理解しながらもブラックウォーグレイモンを挑発するような言葉を放って、ブラックウォーグレイモンの意識が自分に向くように仕向けた。

隙を見せたブラックウォーグレイモンにエンジェウーモンが必殺の一撃を当てられるように。

 

 ――そして遂にその時が訪れた。

ホーリーエンジェモンのエクスキャリバーをブラックウォーグレイモンは、既にドラモンキラーが消滅した左手で何とか軌道を逸らしたが、それはブラフと言わんばかりに反対側から振るわれたビームシールドを顔面に叩きこまれ、顔を抑え、よろめきながら数歩分後ろに下がった。

 

 

「――!!『ホーリーアロー!!』」

 

 

 それを離れた位置で目にしたエンジェウーモンは、渾身の思いと声を必殺の弓に注ぎ、ブラックウォーグレイモンの背中に向けて放った。

光の弓は真っ直ぐブラックウォーグレイモンに向かって行き、それにブラックウォーグレイモンも気が付かない。

――勝負あった。その光景を見ていた誰もがそう確信した時、選ばれし子供達にとって想定外の事が起きた。

 

 

 

「――ブラックウォーグレイモン!! 上へ!!」

 

 

 今まで無言で戦いを見つめていた守谷が突然そんな大声を上げた。そしてそれを聞いたブラックウォーグレイモンは小さく舌打ちしながらも無言で従い、上に飛び上がった。

――結果、エンジェウーモンの全力の一撃は空を切る事となった。

 

 

「……皆さん、もしかして忘れていたんですか? 敵はブラックウォーグレイモンだけじゃないということを」

 

 

 呆れていると言わんばかりの声でそう話す守谷。その言葉に選ばれし子供達は悔しそうに俯いた。

……選ばれし子供達は今まで強敵と戦う際、その戦いは基本的に一対複数、または一対一だった。

だからこそ、戦っている相手以外から自分達の行動を妨害されるという事にあまりに慣れていなかった。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン、遊びは終わりです。ここからは僕も口出しします。まずはエンジェウーモンから倒してください」

 

 

 悔しそうに俯く選ばれし子供達を守谷は無視してブラックウォーグレイモンにそんな命令を放った。

ブラックウォーグレイモンはそんな言葉に忌ま忌ましそうな態度を見せながらも、未だ攻撃を避けられて唖然とするエンジェウーモンの元へ向かった。

 

 

「――! させるか!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの動きを見て、いち早く我に返ったホーリーエンジェモンは、8枚の羽根を器用に動かして加速しながらブラックウォーグレイモンを追いかけた。

そんな必死に追いかけるホーリーエンジェモンに守谷はホーリーエンジェモンに聞こえるぐらいのギリギリの声で呟いた。

 

 

「……ホーリーエンジェモン。確かにブラックウォーグレイモンは暗黒の存在です。ですが彼は悪とは言い難い心を持っています。それでも彼は滅びないといけないんでしょうか?」

 

「…………」

 

 

 ホーリーエンジェモンは守谷の言葉に答えずただブラックウォーグレイモンの後を追った。

本来なら追いつけない程のスピードの差がある二体だが、ブラックウォーグレイモンが大きなダメージを受けている事もあり、エンジェウーモンの元に着く前に追いつく事が叶った。

 

 

「チィ!」

 

 

 背後から今日何度目か分からないエクスキャリバーを構えて接近するホーリーエンジェモンの姿を見てブラックウォーグレイモンはそんな舌打ちをしながら、再びドラモンキラーの無くなった左手でそれを受け流そうと構える。……ブラックウォーグレイモンの右手のドラモンキラーはまだ形を保っているが、無くなった際の攻撃力の低下を考えた場合、ここで使う訳にはいかなかった。

だがそんなブラックウォーグレイモンに守谷は再び指示を出した。

 

 

「ブラックウォーグレイモン。右手のドラモンキラーで受け止めてください」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはその言葉を疑うような事をせず、ただ言われた通り、右手のドラモンキラーでホーリーエンジェモンのエクスキャリバーを受け止めた。

先程までならそれだけでブラックウォーグレイモンのドラモンキラーは消滅してしまっていたが、今回はそんな現象は起きなかった。

その事にブラックウォーグレイモン自身も僅かに驚きながら、自分よりも遥かに驚いて隙だらけになって居るホーリーエンジェモンに先程のお返しと言わんばかりに左での一撃を顔面に叩きこんだ。

 

 

「がぁっ!」

 

 

 攻撃を受けて後ろに吹き飛ぶホーリーエンジェモン。

その光景をブラックウォーグレイモンは見届けると、再びエンジェウーモンの元へと向かった。

向かった先で、此方に向かって矢を何発も放つエンジェウーモンの攻撃をブラックウォーグレイモンは楽々躱しながら、懐まで接近すると、全力の蹴りをエンジェウーモンの腹に叩きこんだ。

それをまともに喰らったエンジェウーモンは、既に限界だったのか、地面に倒れ込むよりも早く幼年期のニャロモンへと退化した。

 

 

「ニャロモン!」

 

 

 その光景を目にしたヒカリは、ニャロモンの元へ駆け寄った。

守谷はそんなヒカリとニャロモンに一瞬視線を向けると、再びタケル達に視線を戻した。

 

 

「……エンジェウーモンが戦えなくなった以上、ホーリーエンジェモンだけじゃブラックウォーグレイモンの相手は務まりませんよね? なら勝負ありです」

 

「……まだだ! まだワタシは戦える!」

 

 

 守谷の言葉に反論するようにホーリーエンジェモンは声を上げ、再びブラックウォーグレイモンに向かって行く。ブラックウォーグレイモンは右手のドラモンキラーでその攻撃を受け止め、つまらなそうな表情を見せながら応戦した。

 

 ……戦況は先程までとは違い、完全にブラックウォーグレイモンに向いていた。このまま戦いが続けば、そう時間がかからない内にホーリーエンジェモンは敗北するだろうという事は誰もが理解していた。

だからこそタケルは、その未来を避けるためにも守谷に戦いを止めさせるよう説得することにした。

 

 

「守谷君、止めようこんな戦い! 選ばれし子供達同士で戦うなんて悲しいだけだよ……!」

 

「……それなら今すぐホーリーエンジェモンを連れて家に帰って下さい。そうしたら戦いは終わりますよ」

 

「攫われた人達を放っておく事なんて出来る筈がないじゃない!!」

 

「なら決着が付くまで戦いが終わる事はないですね。残念ながら」

 

 

 京の言葉に守谷はそう返すと、視線をブラックウォーグレイモン達の方に向けた。

もう話す事は無いと言わんばかりに。

 

 

「…………」

 

 

 タケルは今一度考えた。どうして守谷がアルケニモン達側に付いたのか。

……が、結局今考えても答えが出る事は無かった。

――だけどタケルには……いや、タケル達には今回の戦いで分かった事が一つだけあった。

それは守谷が心から自分達の敵になったわけでは無いという事を。

 

 今回の戦いで、ブラックウォーグレイモンは必殺技をただの一度も放たなかった。

使えばもっと戦いを有利に運べたはずなのにブラックウォーグレイモンは直接攻撃以外の攻撃をする事は無かった。間違ってもホーリーエンジェモン達を消滅させるつもりはないと言わんばかりに。

その気遣いを、その優しさを少なくともタケルは感じていた。

――だからこそタケルは覚悟を決めた。

 

 

「――ホーリーエンジェモン、『ヘブンズゲート』だ!」

 

 

 『ヘブンズゲート』……それはホーリーエンジェモン自身の技の中で最強の必殺技。

暗黒の存在を二度と戻ることはできない亜空間へ葬り去る扉を出現させる必殺技だ。

ブラックウォーグレイモンがダークタワーで作られた暗黒のデジモンである以上、この技の効き目が誰よりもある事は明白だった。

だが、タケルもホーリーエンジェモンも今回の戦いでこれを使うつもりは無かった。

……それはタケル達自身、ブラックウォーグレイモンがそこまで悪いデジモンじゃないという事を理解していたからだ。

だがタケルはそれを理解しながらもヘブンズゲートを使う事にした。

……これ以上自分と同じ選ばれし子供が、仲間が……友達が誤った道を歩かない為に。罪を背負わせない為に。

 

 

「――分かった。……ブラックウォーグレイモン。キミには悪いが、これ以上ワタシ達の友に誤った道を進ませる訳にはいかない。……恨むなら好きなだけ恨んでくれ」

 

 

 タケルと同様に覚悟を決めたホーリーエンジェモンは、上空に飛び上がり、右手のエクスキャリバーで空に円を描いた。その瞬間、その円は形となり、扉となって出現し、ゆっくりと開いた。

――――その瞬間、扉から闇を吸い込むとてつもない力が発生した。

 

 

「――ッッ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは、自分を吸い込む力に対抗すべく全身に力を入れて、その場に踏みとどまろうとしたが、それでも少しずつ門の方に吸い寄せられていた。

 

 

「……これは暗黒の存在を亜空間へ吸い込む技だ。暗黒の存在であるキミはこれに抗う事など出来ない」

 

 

 間違ったモノを吸い寄せないように、ゲートの下でエクスキャリバーを掲げ、門を維持しながら、悲しそうな表情でブラックウォーグレイモンを見つめるホーリーエンジェモン。

そんなホーリーエンジェモンにブラックウォーグレイモンは意味深に呟いた。

 

 

「……確かに聞いていた通りの技だ。万全のオレでも抗うのは難しいだろうな」

 

「? どういうこ―――――

 

 

 ホーリーエンジェモンがそう返そうとしたが、視線の先で起きた驚愕の出来事に言葉が出なかった。

……ヘブンズゲートは暗黒の存在のみを吸い寄せる対闇の存在の技だ。故に間違って味方を巻き込む可能性など0の筈だった。

それなのにホーリーエンジェモンの視線の先には――――扉に向かってまっすく吸い寄せられる守谷天城の姿があった。

 

 

「―――ホーリーエンジェモンッ!!!!!」

 

「――はっ ッ! 間に合えぇぇ!!」

 

 

 タケルの叫びで我に返ったホーリーエンジェモンは、急いで門を閉じるべくエクスキャリバーに力を込めた。

……このままでは守谷が亜空間に葬られてしまう。選ばれし子供達が悲鳴を上げる中、ホーリーエンジェモンは残った全ての力を使ってゲートの開閉スピードを上げ、何とかギリギリの所でゲートを閉じる事に成功した。

その光景を目にした誰もが安堵の息を付いた。

ホーリーエンジェモン自身も誰よりも深い安堵の息を付き、そして吸い寄せられる力が無くなったことで地面に落下し始めた守谷を受け止めるべく慌てて守谷に近づいた。

 

――――そして守谷を受け止める直前、完全に油断していたホーリーエンジェモンの背中をブラックウォーグレイモンはドラモンキラーで切りつけた。


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