デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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052 謎の勢力

 選ばれし子供達の前から去った僕達はそのまま家に帰ろうと歩いていたが、ブラックウォーグレイモンが片膝をついて倒れ込んだ。

突然の出来事に僕は当然驚き駆け寄って声を掛けたが、ブラックウォーグレイモンは口では問題ないと返しながらも一向に立ち上がろうとしなかった。

それを見て、状況を重く捉えた僕はブラックウォーグレイモンが再び立ち上がれるようになるまで待ち、立ち上がった後は人通りの少ない路地裏まで歩き、そこで休憩を挟むことにした。

 

 

「…………」

 

 

 路地裏に着くと同時に、壁にもたれたままその場に座り込んだブラックウォーグレイモン。

その姿には先程選ばれし子供達を圧倒した圧倒的な覇気の様なものは感じられなかった。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン、大丈夫?」

 

 

 人通りの少ない場所に来た事でリュックから飛び出してきたチビモンは出てくるやいなや、ブラックウォーグレイモンに駆け寄って行った。

そんなチビモンの言葉にブラックウォーグレイモンは下を向いたまま答えた。

 

 

「……どうやらオレの体はこの世界と相性が悪いらしい。傷の治りがあまりに遅い」

 

 

 そう言って胸の辺りに左手を当てるブラックウォーグレイモン。……よく見ると胸の辺りの装甲にはヒビが入っていた。

……傷の治りが悪いのは確かに、ブラックウォーグレイモンがこの世界と相性が良くないという事も関係しているかもしれないが、それ以上に戦った相手が選ばれし子供達だったというのが大きいだろう。

 

 僕は転生前から選ばれし子供達とそのパートナーが持っている聖なる力にはある力があるのでは無いかと考えていた。

その力とは――敵の回復力を阻害する力だ。

僕がそう考えている理由は、原作で登場した暗黒のデジモンのデビモンやエテモン達を選ばれし子供達以外が倒さなかった事が理由だった。……エテモンはともかく、成熟期のデビモンならデジタルワールド側の戦力でも倒せる可能性がありそうなのにデジタルワールド側はそんな事をしなかった。

……一か所に戦力を集めたくなかったという理由があったのかもしれないが、ともかく僕は選ばれし子供達には強敵に勝つ為、戦っている最中に回復されない様にそういった力があると考えている。

……ダークタワーという無機物から生まれた生きものでは無いブラックウォーグレイモンには特にその影響が強く出ているのかもしれない。

……いや、それだけじゃない。ブラックウォーグレイモンは何も言わなかったが、恐らく昨日の全国を飛び回った疲れも癒えきっていなかったのかもしれない。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン、明日までには戦えるようにな――」

 

 

 最後まで言い切る前にブラックウォーグレイモンに右腕のドラモンキラーを向けられ言葉を遮られた。

 

 

「余計な心配はするな。オマエは自分の目的の事だけ考えていたらいい」

 

「……そうかもしれませんが、それでも……「――――それに」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは強い思いの籠った瞳を僕に向けた。

 

 

「――出来る出来ないではなくオレ達は明日戦わなければならない。そこに勝機は関係ない。そうじゃないのか?モリヤアマキ」

 

 

 いつかブラックウォーグレイモンに言った言葉を返された僕は、それ以上ブラックウォーグレイモンに追及する事は出来なかった。

……そうだ。僕達は明日、何が在ろうがタケル達を止めなければならない。ヴァンデモンが完全復活する為にも、選ばれし子供達の未来の為にも。デジタルワールドの為にも。

 

 

「……そう、ですね。分かりました。これ以上野暮な事は言いません。

ですがそれならせめて今日だけでもデジタルワールドに戻って下さい。

少なくともこの世界に居るよりは傷の治りが早い筈です」

 

「……そうだな」

 

 

 体力の限界なのか、弱弱しい声でそう返しながら空中に浮かび上がったブラックウォーグレイモンは、自身の力を使って空間を歪ませ、デジタルワールドへと続くゲートを発生させた。

 

 

 

「――――――――」

 

「――!! …………」

 

 

 ブラックウォーグレイモンがデジタルワールドに戻る瞬間、呟いた言葉に僕は胸を強く締め付けられるような感覚を覚えた。

 

 

 

『――言われずとも最後の夜、有意義に過ごすさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックウォーグレイモンをデジタルワールドに送った後、僕達は当初の目的通り、自宅へ向かっていた。

……無暗に外を歩いて選ばれし子供達と遭遇したら色々厄介だからね。

色んな出来事があり、ある意味普段よりも疲れている僕は何時もよりも時間を掛けながらも自分の暮らしているマンションの敷地を潜った。その時だった。

 

 

「――ちょっといいかい?」

 

 

 突然、後ろから声を掛けられた。

……声を聞く限りは聞いたことが無い声だったが、もしかすると選ばれし子供達の関係者かも知れない。

僕は警戒しながらその声の方を振り向いてみると――そこには見た事のない大人の男性が立っていた。

 

 大人の男性――というより、少し年を取った容姿をしたその男性は僕が振り返るとゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。そしてポケットから何かを取り出して僕に見せつけてきた。

 

 

「私はこういう者だ」

 

 

 男性が見せつけて来たものは――警察手帳だった。

僕は予想外の展開に思わず理解出来ないといった困惑の表情を浮かべた。

当然だ。僕自身は警察に話しかけられるような事をしたことは――――あった。

……そうだ。僕は昨日、ブラックウォーグレイモンの背中に乗り、顔を隠さずに世界中を飛び回っている。

その際に写真の一枚や二枚、撮られている可能性は非常に高いと言えるだろう。

 

 

 

「ほう、顔付が変わったな。何やら警察に話しかけられる心当たりでもあるのか?」

 

 

 僕が警察に話しかけられた理由に気が付き、無意識に表情を変えた所で男性がそんな風に追及して来た。

……どうやらこの警察官は、僕が昨日の事件の関係者だと確信しているらしい。

 

 

「いえ、心当たりは全くないです」

 

「とぼけても無駄だ。こっちはきみが昨日の怪獣騒ぎの時に、一体の怪獣の背中に乗っている証拠の写真を所持している。きみが怪獣騒動の関係者という事は明白だ……観念したらどうだ?」

 

 

 ……一応とぼけては見たが、どうやらこの警察官は予想通り昨日撮られたであろう写真を持っている様だ。

……ヴァンデモン騒動後ならともかく、こんな早いタイミングで特定させるとは予想外だった。

年齢的に逮捕される事は無いとは思うが、それでも明日の戦いに行けなくなる可能性がある以上ここで連行される訳にはいかない。

どうするべきか……僕はそこまで考え、そして二つの考えを思い付いた。

 

 

「……僕が映った証拠の写真があると言うのなら見せてください」

 

「……なんだと?」

 

「本当に僕が映っていたのなら、署でも何処でも付いて行きます。僕自身も自分が映っている理由を知りたいので。……ですが映っていなかったのなら僕は何処にも付いて行きません。当然ですよね?」

 

「…………」

 

「……見せて頂けますか?」

 

 

 僕の言葉に警察官は無言でポケットから写真を取り出し、僕に見せつけて来た。

僕は内心ビクビクしながらその写真を見てみると――そこには警察官の言う怪獣や、僕の姿なと一切ない只の夜景の光景が映っていた。

 

 

「……今朝、写真のデータを見てみたらこうなっていた」

 

「……つまり僕が映った写真は無いという事ですか?」

 

 

 僕の問いに警察官は悔しそうに肯定の言葉を返した。

……どうやら原作通り、ゲンナイ達ホメオスタシスが昨日の騒動を隠ぺいするために昨日の騒動が記録された世界中のデータを改ざんしたようだ。仕事の速さは流石だと言える。

でもお陰で、僕が警察のお世話になることは避けられそうだ。

これ以上話すことはないと思った僕は警察官に一礼を入れ、その場を去ろうとした。

……が、待てと、再び警察官に呼び止められた。

 

「……まだ何かあるんですか? 言っておきますが証拠がない以上、僕は署には同行しませんよ」

 

「……いや、仮にきみが映った写真が残って居たとしても私達警察はきみを連行するようなことはしなかったさ。……上層部からきみには手を出すなと圧力を掛けられているからな」

 

 

悔しそうにそう呟く警察官。対して僕はその言葉に大きく困惑した。

……僕を捕らえようとした警察官に圧力を掛けた者が居るだと? ……考えても全く心当たりはなかった。

 

 

「……すいませんが、その圧力を掛けたという人? 組織の名前を教えて貰えたりはしませんか?」

 

「独立行政法人国立情報処理局という組織だ。君と関わりがあるんだろ?」

 

「??? ……すいません。もう一度言って貰ってもかまいませんか?」

 

「独立行政法人国立情報処理局だ」

 

「独立行政法人国立…………ですか」

 

 

正直に言って全く心当たりがなかった。

二回名前を聞いてもピンとこない事から、恐らく少なくとも原作でも登場して居ない組織の名前なのだろうが……とにかく全く心当たりはなかった。

……もしかしたらデジタルワールド側の勢力が密かに経営して居る組織なのか?

そんな風に考え込んで居ると警察官が話しかけてきた。

 

 

「……まさか本当に聞き覚えがないのか?」

 

「……すいませんが全く聞き覚えがないです」

 

「……なら望月教授と言う名に聞き覚えは?」

 

「……ない、ですね。もしかして有名な方なんですか? 僕はそういうのには疎くて」

 

「いや、私自身も研究者という事しか知らないから恐らく世間的にはそこまで有名じゃないだろう」

 

 

警察官の言葉に僕はそうですかと返して再び望月教授と言う名に心当たりがないか考えた。

が、先ほどの組織名と同じく全く心当たりはなかった。

 

 

「すいませんが、どうして貴方は先程の組織のことを知らないと言った後、なら望月教授は、と聞いたんですか?」

 

「望月教授は君に話した組織に強く関わりを持つ人で、尚且つ私達警察に組織の名前を使って圧力を掛けたと噂されている人だから、望月教授の名前は知っていると思ったんだが……そうではないようだな」

 

 

警察官はそう呟くと僕に背を向けた。

 

 

「……ともかくそう言った事情がある以上、明確な証拠がない君を私達警察は捕らえる事は出来ない。

が、これだけは忘れないでくれ。君が騒動に巻き込まれる側の立場ならいつでも私達警察を頼ってくれ」

 

 

警察官はそう言い残すと、足早に去っていった。

……何度考えても独立行政…………という名の組織も、望月教授という名にも心当たりはなかった。


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