sideヒカリ
昨晩、私とお兄ちゃんの家で光子郎さん達と作戦会議を行っていた時、突然光子郎さんのパソコンにメールが届いた。差出人はゲンナイさんだった。
内容は簡単にまとめると、私とテイルモンで今すぐチンロンモンに会いに行って欲しいといった内容だった。
突然の要件に私達は当然戸惑ったが、光子郎さんが、
おそらくさっき守谷君がデジヴァイスを奪われたと連絡したので、それに対する対策を考えてくれたんでしょうと説明してくれたので、私達は戸惑いながらもチンロンモンに会いに行くことにした。
私とテイルモン……と、お兄ちゃんとアグモンとタケル君とパタモンと光子郎さんとテントモンとヤマトさんとガブモン……結局その場に居た全員でデジタルワールドに行ってチンロンモンの元に行ってみると、そこにはゲンナイさんの姿もあった。
「突然呼び出してしまってすまないな、光の紋章に選ばれし子供とその仲間達よ」
そう言って謝るチンロンモンに私達は全然大丈夫ですよと返した。
するとチンロンモンの少し前に立っていたゲンナイさんが話し出した。
「選ばれし子供達よ、よく来てくれた。光子郎君から話は聞かせて貰った。
……彼のデジヴァイスがアルケニモン達に奪われてしまったようだな」
「……はい」
「そうか。
……それでメールには書いてなかったのだが、チンロンモン様のデジコアはどうなったんだ?」
「……現在はどうなったか不明です。守谷君と最後に話した際はその事を聞き忘れてしまっていたので。今、守谷君本人に尋ねようにもディーターミナルも一緒に奪われてしまっているので連絡を取る事すら出来ません。
……確認を取るには守谷君本人が接触して来るのを待つしかないのが現状です」
「……チンロンモン様のデジコアがワタシ達にとっての最後の希望である事は彼も理解して居る筈だ。そんな力を選ばれし子供としての力を無くした彼自身が隠し持つ可能性は流石に低いだろう」
「……間違ったタイミングで使われたくないので自分で隠し持っている可能性もありますが、現状はデジヴァイスと一緒に奪われたと考える方がいいかと。
……ありもしないモノに頼り切った作戦を立てるのだけは避けたいので」
光子郎さんとゲンナイさんがそうやって話し終わると、後ろで話を聞いていたチンロンモンが会話に加わった。
「――ゲンナイ。やはり彼等にはそれが必要だろう」
「……そうですね。分かりました」
ゲンナイさんはそう返すと私達――テイルモンの前まで歩いて来て、しゃがみ込んだ。そしてポケットから何かを取り出すと、その手をテイルモンに差し出した。
その手の中には……!!
「こ、これは――――ホーリーリング!?」
ゲンナイさんからホーリーリングを受け取った私達は、翌日、光子郎さんの読み通りいくつか張っていた場所の一つにトラックで現れたアルケニモン達と戦う事になり、早速ホーリーリングの力を使った。
――ホーリーリングの力。それは数回だけホーリーリングと相性のいいデジモンを進化させる力。
つまりホーリーリングの力を使えば、私とタケル君は数回だけテイルモンとパタモンを超進化させられるという事だ。
……本来ならもう私達に貸せる力なんて無いのにチンロンモンが無理して用意してくれた最後の力。
決して無駄にすることは出来ない!
完全体に進化した事に驚きの表情を見せるアルケニモンとマミーモン。
……どうやらテイルモン達が完全体に進化する事は予想外だったみたい。
「ヒカリちゃん! アルケニモン達を絶対にここで食い止めて、攫われた人達を助け出そう!」
「えぇ!」
「そして黒幕の居場所を聞き出して倒すんだ! 大丈夫、ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンならきっと出来るよ!」
タケル君の言葉に私も力強く頷いた。
……アルケニモン達を操っている黒幕はほぼ間違いなく暗黒のデジモン。
それなら例え究極体でも、暗黒のデジモンと相性のいいホーリーエンジェモンとエンジェウーモンの二体ならきっと勝てる!
……もう守谷君が無理しなくても私達だけで終わらせてみせる!
「エンジェウーモン!」
「分かった!」
私の言葉にエンジェウーモンは察したように頷くと、アルケニモン達の方へ向かって行った。それを見ていたホーリーエンジェモンも続き、完全体二体対完全体二体の戦いが始まった。
戦いは圧倒的に私達が有利だった。
アルケニモン達はやっぱりエンジェウーモン達と相性が悪いのか、終始押されっぱなしだった。
……必殺技を打とうとするたび、攫われた人達が乗ってるトラックの近くによるせいで中々勝負を決められなかったけど、そんな事をしなくてももう勝負が付く事は私達の目にも明白だった。
「あ、アルケニモン! このままじゃ不味いぜ」
「そんな事言われなくても分かってるよ! !? うわぁぁ!!」
「アルケニモン!?」
一瞬の隙をついてホーリーエンジェモンに蹴り飛ばされたアルケニモンに駆け寄るマミーモン。
二人とも遂にトラックから離れた。
……今がチャンスだね。
……暗黒のデジモンとはいえ、生きているデジモンが死ぬ瞬間を京さんと伊織君に見せる事に躊躇いながらも私が止めの合図を言おうとした時だった。
突如、誰も乗ってないと思ってたトラックの運転席の窓が開いた。
そしてそこから――大人の男の人が顔を出して周りを見回しながら突然叫び出した。
「――――おい! 近くに居るんだろ!! ……わかった、オマエの事を認めてやる。
オレが世界を支配したその暁にはオマエを右腕に置いてやるから手を貸せ!!
このままじゃオレは、中途半端な状態で力を開放する羽目になるぞぉ!!!」
突然の理解出来ない言葉に私達は思わず動けなくなった。
……あの人は何なの? どうしてアルケニモン達のトラックの運転席に座って居るの?
アルケニモン達の仲間なの? それとも操られてるだけなの?
それにさっきの言葉は一体誰に――――
「ヒカリちゃん!」
タケル君の呼び声に私ははっと我に返った。
「あの人の事は気になるけど、今は取りあえずアルケニモン達を倒そう。
またトラックを盾にされたら厄介だ」
「そ、そうね。分かったわ。エンジェウーモン!」
「ホーリーエンジェモン! 止めだ!」
私とタケル君の言葉にエンジェウーモンとホーリーエンジェモンは力強く頷いた。
「分かった! 『ホーリーアロー!!』」
「『エクスキャリバー!!』」
エンジェウーモンは光の弓と矢を出現させてアルケニモン達に向かって放ち、ホーリーエンジェモンは、右手に光の剣を作り出してアルケニモン達に向かって飛び出した。
……エンジェウーモンの攻撃を受けたら、今のアルケニモン達なら一撃で倒せる。
もしもなんとか躱せても、その隙をホーリーエンジェモンが切りかかって倒せる筈!
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
「……せめてアルケニモンだけでも!」
エンジェウーモンの放ったホーリーアローと、ホーリーエンジェモンのエクスキャリバーがアルケニモン達に命中――する直前、突如、横から入り込んだ何かに二体の攻撃は防がれた。
「な――――」
「え――――」
その光景を目撃した私達は思わずそんな声を上げた。
……信じられなかった。目の前で起こった光景が。
「……何故だ」
誰もが驚愕で声を出せない状態で初めに言葉を出したのはホーリーエンジェモンだった。
「何故ワタシ達の邪魔をする――――ブラックウォーグレイモン!!」
私達全員が、驚愕の表情でブラックウォーグレイモンを見つめる中、ブラックウォーグレイモンは特に表情を変えずに一言返した。
「同志からの命令でな。悪いがオマエ達の敵に回る事になった」
「同志、だと? 一体誰のこ……っく!」
ホーリーエンジェモンは続けて尋ねようとしたけど、それを遮るようにブラックウォーグレイモンはホーリーエンジェモンを遠くに蹴り飛ばした。
ホーリーエンジェモンのパートナーのタケル君はその光景を見て、ホーリーエンジェモンを心配する声を上げたけど、私……私達は反応する事が出来なかった。
理由は、ブラックウォーグレイモンの言った同志が誰の事を指すかを考えていたから。
……だけど、本当は考える必要は無かった。
皆本当は一瞬で分かっていた。ブラックウォーグレイモンが言う同志が誰の事を指すのかを。
だけど皆……私はそれを認めたくなかった。いいえ、違う。きっと何かの間違い。
だって彼が私達の敵に回る筈が……
コッ、コッ、コッ。
背後から突然、そんなワザと音を出している様な足跡が聞こえて来た。
不意にそっちを振り向いてみると――そこには下を向いて歩いて来る守谷君の姿があった。
「……守谷君?」
私の言葉に守谷君は反応を見せずに俯いたまま私の所まで来て、通り過ぎた。
そしてトラックの扉の近くまで行くと、私達の方に背中を向けながら顔を上げてトラックの窓の方を見上げた。
「……予定ではいつ目的が果たせるんですか?」
守谷君の質問に答える為に、さっきの大人の人がまた窓から顔を出した。
「明日も同じ人数が集まれば明後日には果たせる予定だ」
「……分かりました。なら絶対に明後日に実行してくださいね。
――――今日と明日の足止めは任せてください」
「――――ふ! はっはっは!! 任せたぞ!! おいお前等! さっさとトラックに戻れ!」
大人の人の言葉を聞いてアルケニモン達はトラックの上に飛び乗った。
そしてトラックは多分さっきの大人の人の運転で走り出した。
「――!! 待て、逃がさないわ!」
それを見たエンジェウーモンは、咄嗟に飛び出してトラックを止めようとしたが、ブラックウォーグレイモンに遮られ、それは叶わなかった。
そしてトラックは私達の見えない場所まで走り去ってしまった。
「――――どういうつもりだ、守谷?」
いつの間にか私とタケル君の位置まで来ていたお兄ちゃんが守谷君にそう尋ねた。
それに対して守谷君は、言葉を返さずに、背負っていたリュックから何かを取り出した。そして後ろからではよく分からない何かをすると、ゆっくりとこっちを振り向いた。
「――見ての通りです。僕は彼等の方に着く事にしました」
そう言い切る守谷君の顔には、初めて会った時に付けていた切れ目の入った仮面が付けられていた。